prologue(プロローグ)
斎藤葵(高2)は元モデルの母親譲りの容姿が原因で中学でいじめに遭った
トラウマを抱える葵は1人地元を離れメイクで変装して容姿を隠し地味な女の子として高校生活を送る
そんな生活が2年目に突入した時双子の弟の優が葵の高校に転入してきた
優をきっかけに葵の「偽り」の高校生活は一変するのだ
第1話「壊れかけの日常」
ある男子生徒がクラスで女子高生について語っているのを耳にした
「プリクラに騙されんな、あれは詐欺だ、そもそも今時の女子高生って完璧にメイクして本当の自分を隠してるだろ?美人だ〜って思っても付き合って素顔を見たらまじブス!こんな事日常茶飯事だしさ、要するに化けてるんだよ、あいつらは……」
まるで自らの実体験を語るように声を大にして言う
周りの女子からの嫌悪の視線には気づいていないのだろうか
ファンデーション、付けまつげ、マスカラ、パーマ、ブランド物、ピアス、指輪を身につける女子達
それらを簡単に一言で表すのなら「きらきら」している女子がクラスに居た
実際の所見た目は綺麗、しかし女子だからこそ知っている
それらの大部分は彼女たちが身につける装飾品、化粧により相乗効果をもたらされた結果なのだ
女は自分を偽っている
最も、私も例外では無い
けれど強いて言うならば彼の見解とは180度違うのだが
あ、別に自分に自信を持っている訳では無いけどね
私は女子と全く話さない
当然男子とも話さない、話せない
いや別に話そうとも思わないけど
そもそも私のような不細工な女子に男子は興味を持たないのだ
私の存在は誰にも気にされない、まさに空気、空気がむしろ良いのだ
1年生の頃の私はちゃんと空気でいられたのだ
「ねぇねぇ、さっきF組のバスケでさ、斎藤君がシュート決めてギリギリで勝ったんだって!」
「うっわぁー、まじ?斎藤くんってスポーツ万能!しかもイケメンって、はぁーかっこいいなぁー」
「でもこの間彼女できたんでしょ?斎藤君多分推しに負けたんだと思う、杏ちゃん、そりゃアタック半端なかったもん」
斎藤優
F組にこの春から来た転入生
スポーツ万能の上に爽やかクールのイケメン
そりゃ女子にもてますよ
私が所属するB組にも彼の支持者は多い
だから彼の話は女子の話題にしょっちゅう上がる
女子はイケメンに弱いのだ、彼以外にも沢山のイケメンたちの名前が上がる
その中でもフレッシュマンの斎藤優は一線を画している
そして彼の話の行き着く先はいつも同じ
「……けどさ、やっぱ不思議だよね、血が繋がってて弟がイケメンなのにね……」
「……双子なのにねぇ、神様って残酷だわ、斎藤さんも少し分けてもらえたら良かったのにねぇー」
「……聞こえてんじゃ無い?可哀想だよ」
はいはい、聞こえてますよ
けどまぁとにかくそうなんです
斎藤優は私、斎藤葵の双子の弟なのです
そう、自慢の弟
けれど私は……
髪は多くて表情は暗い
似合ってないフレームが大きめの黒縁メガネ
頬にシミが多数ある
肌は不健康に見えるほどの白さ
胸もほぼ平
スカートは一番長くしている
趣味は読書、教室で自由に読むのは実に心地良くやめられない
周りの雑音を気にせず自分のやりたい事に集中出来る、それが読書だ
最も周りに人が集まりだすと雑音は嫌でも耳に入ってしまう
耐えきれない場合はトイレに逃げ込み個室に入って息をつく
やっぱ私は無理だな……ああいう空間にいるのって
終了のチャイムが鳴り響く
今日も特に何も無い素晴らしい1日だった
この日常の繰り返し、そして帰宅
今日の献立はどうしよ、無難にチャーハンで良いかな
弟の優は今頃サッカー部の練習
小さい頃からサッカーを習っているし彼の十八番スポーツでもある
一度帰り際に部活中の彼を見た事があった
ただでさえかっこいいと評判のサッカー部
グラウンドの端には大勢のギャラリーがいた
彼の追っかけの存在を知ったのはその時が初めて
人気者なのね、優
道中、駅前のスーパーで材料の買い物をする
少し遠回りになるが最近はまっているポイント集めの為仕方がない、目指せ、5000円分商品券!
家に帰ったらすぐにチャーハンを作り彼の帰りを待とう
あ、優の為に牛乳も買っておかなければならなかった
育ち盛りの男の子って色々消費が早いから大変
私が家に戻った時、優はもう既に帰って居てシャワーを浴び終わった直後のようだった
「おかえり」
タオルで髪を拭く彼に話しかけた
「……ただいま、てか早く化粧落としなよ、今日は結構腹減ってるし早く食べたい」
「はいはい」
優は溜息をついてすぐにリビングに行ってしまう
彼も1ヶ月で慣れたはずなのだがこの顔の時はちょっとそっけない
私は洗面台に立つ
一々面倒なのはメイクを落とすのにも結構手間が掛かる事、だけど平穏を手にするために仕方のない事だから我慢する
ウィッグを外し、メガネも家用に変え、描いたシミも洗い落とす
制服を脱ぎさらしを取る
1年経った今では慣れたものの変身道具の中でさらしが一番嫌だ、常に圧迫されている気がする
これを外す時はかなり開放的な気持ちになる
ブラをつけ部屋着に着替え顔を洗う
朝に長時間掛けて作ったメイクもあっさり落とされる
夕食は優と2人一緒
いつも私達双子を住まわせてくれている母仕事で帰宅は遅め
けれど寂しくは無い
優との話は毎日楽しいのだ
「今日の体育のバスケ凄かったんだってね!」
優は普段からとてもクール
私には時折笑顔を見せてくれる
そして彼の話を聞くのが私の日課
「葵さ、高1の間本当にずっとあのグロメイクで学校行ってたの?」
グロメイクと言うのは優が付けた私の変身メイクの事
私にとってはそんなに嫌いな顔では無いのだが優には中々受け入れがたいらしい
「そうだよ」
「平穏な生活を望むのは分かるけどさ、葵美人なんだから普通にしてれば良いのに」
それじゃダメだからだよ……
私は自分が学校で目立たないようにする為、朝5時に起きて念入りにメイクしている
優の言葉を借りればグロメイクだ、別にグロくは無いと思うのだけど
私はこの顔で学校に通う
いわば偽りの顔
母もメイクの事実は知っている
黙ってくれているのはかつてのストーカー事件を考えての事だろう
私の容姿はモデルと少しだけ女優をして居た母親譲りだった
優も同様だ
母がモデルをしていた事から私も一時期雑誌モデルをやっていた時があった
だが悪質なストーカーが出始め1年でやめた
本当に恐ろしかった
それ以来男性に対して恐怖を感じる
私が空手教室に通わされたのもきっとストーカーの存在が影響していたのだろう
あんな思いするのはもう二度とごめんだ
優の提案には本心から答えた
「無理、学校で素顔なんて見せられない」
「わざわざそんな顔にしなくても、葵は素のままが一番良いから」
「優にしか見せないよ、後雪菜もか……」
中村雪菜は私の唯一の友達であり親友である
私たちの関係は岐阜に住んでいた頃小学生の時から始まる
雪菜と私は色々な事で正反対
雪菜はスポーツが好きで明るく活発な少女
だけど1番心許せる女の子だ、誰よりも信頼できる
雪菜の家は近所で優も含めた3人でよく遊んだ
私がモデルのお仕事を始めても私の元を去らなかった唯一の親友だ
空手も共に習い、互いに磨きあっていた
まさか地元から遠く離れた同じ高校に進学してくれるとは思わなかった
雪菜の祖父母の喫茶店が千葉に合ったというのは偶然
けれど高校では全く話さない、それは私が彼女にお願いしたからだ
男女問わずにフレンドリーな彼女と話すと彼女の周りの女子達も集まってくる
それに伴って男子も……
彼女は私の過去を知って居たし渋々了承してくれた
けれどその条件として休みの日は大抵雪菜と過ごす事になっている
雪菜と一緒にいる時はもちろんグロメイクなどせず、素顔、もしくは軽いメイクをする
ただそういう時は周りから好奇の視線を集めてしまう
優と楽しく話をして家で共に過ごす、それで満足だった
高2になりたての頃まさか岐阜から優が転入して来るとは思って居なかった
理由はなんだったのだろう、おばあちゃん達と喧嘩したって言って居たけど詳しい話は教えてもらって居ない、もちろん親にも
私達は小さい時から仲のいい双子の姉弟で2人で遊びに行くことも多々あった
最も当時は私が優を無理やり引っ張って居た気もするけど……
普段あまり感情が顔に出ない優が当時の状況をどう思って居たのかは分からない
あれから10年程経った今は特に気にもしていない様子だ
なら私も気にせず優と日々を過ごす
昔は気にしなくて良い、今が楽しければ良い、そう思っていた
でも……
そんな日常が一週間前から崩れた
優に彼女ができたのだ
第2話「弟と親友」
以前からガードが固いと周りから評判だった優なのにどういう風の吹きまわしか
同じクラスの川崎杏と付き合い始めたのだ
優がいつもと同じ表情で食事の時急に「彼女が出来た」と言ってきた時は思わず箸を落とした
川崎さんの事はよく知らないが普通にかわいい女子だったと思う
けれど優が惹かれる特別な何かがあるとは思えなかった、というよりもそもそも優が恋愛に興味があったとは……
展開が早くて楽しい!がんばって!
17:匿名:2020/07/03(金) 17:04続き待ってます!
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