『飛び降りなさい』
頭の中で「声」が言った。
男のようであって女のようでもあり、少女のようでもあって老人のようでもある声だ。
声の主が何者であるのかはまったく分からなかったが、透き通った心地の良い響きに思わず耳を傾けたくなる。
しかし、この声にもすっかり聞き慣れたもので、少年は別段驚きもしなかった。
「声」とは、彼が物心つく頃からの付き合いである。
ちょうど15年。
それが生まれてから今日まで、少年が懸命に生きてきた年月だった。
____なんて短い生涯なのだろう。
彼の口から小さな笑い声が溢れる。
自嘲にも似たその笑みは、遥か下の地面にいる仲間たちからは見えなかったに違いない。
ゆっくりと足下を見下ろす。
「ギジャアアアアア!!!」
途端、地から突き上げられた凄まじい鳴き声が少年の身体を貫いた。
あまりの風圧に一瞬目を閉じてしまう。
この世のものとは思えない、おぞましい声。
鋭い牙を無数に生やした巨大な口が、勢いよくこちらに迫っていた。
その途方もない大きさもことながら、尖った牙の一つ一つに何かてらてらした真っ赤な液体を光らせている様は、まるで神話の中に出てくる地獄の槍の山そのものだ。