思い付き小説もどき。

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1:多々良:2020/08/30(日) 22:00

主にオリキャラを使ったssを、思い立ったとき書きます。多分、不定期。

2:多々良:2020/08/30(日) 22:17

先の見えない真っ暗な空間。肌を弄ぶ冷たい空気。そんな所で、彼女は眠っていた。

カルセナ「....うぅん.....ここは....?」

急に目を覚まし暫くして、横になっていた体を起き上がらせた。少し乱れた長い金髪の髪を手で整える。
カルセナ「私、何してたんだっけな.....えーと....」
頭を押さえて何をしていたか考えても、何も浮かんでこない。まるで頭の中の記憶する部分だけが抜かれたかのような感覚だった。

???「....お目覚めですか」

カルセナ「.....えっ、誰....?」
暗闇から急に女性の声が聞こえたかと思えば、その主はすぐに姿を表した。
紫色の短髪には太陽と月をイメージさせるアクセサリーを着けていて、白いローブを纏っている。おまけに妙に長いステッキのようなものを手にしている。その先に付いた水晶玉が何とも言えない輝きを放っていた。
???「私はここの.....管理人、とでも言いましょうか。そうです。そう呼んで下さい」
カルセナ「は、はぁ.....あの、管理人さん....ここは?」
管理人「ここは虚無の間....まぁ、詳しい話は向こうで致しましょう。着いてきて下さい」
そう言うと、何もない暗闇に向かって歩き出した。カルセナは慌てて、管理人と名乗る不気味な人物に着いて行く事にした。

3:多々良:2020/08/30(日) 22:33


しばらく歩くと、校長室の机と椅子を思わせるようなものが現れた。その手前には小さな椅子も置いてある。
管理人「さ、そこへ腰掛けて下さい」
カルセナはそれに従って、おもむろに腰掛けた。ここの空気のせいか、座面がひんやりとしていた。
管理人は机の向こうにある椅子へ腰掛け、机に置いてあった分厚い資料集のようなものをペラペラと捲り始めた。
管理人「えー.....お名前は....」
カルセナ「あ、えっと」
管理人「あぁ、言わなくて結構ですよ。カルセナ=シルカバゼイション....カルセナさんですね」
カルセナ「えぁ....何で分かるんですか....?」
表情に疑問を浮かべながら問い掛けると、クスリと笑った。問い掛けに対する回答はそれっきりだった。
管理人「性別は女、歳は17....なるほど、姉妹が他に7人も居たんですか。楽しそうですね」
カルセナ「あ、はい.....」
個人情報がバレすぎていて、驚きのあまり上手く言葉を発せなかった。
管理人「さて、死因は.....マンションの屋上から転落....即死だったようですね。...御愁傷様です」
カルセナ「......え?」
今、確かにそう言った。聞き逃してなんかいなかった。しかし、あまりに重いその言葉を受け止める事の出来ない自分がいた。
カルセナ「ちょ、ちょっと待って....!?『死因』って......わ、私.....死んでるの....!!?」
管理人「....先程言った通り、ここは虚無の間。ここへ来られる者は限られています。...一つは『偶然迷い込んで来た生者』。そしてもう一つは、『死者』です」
カルセナ「.....うそ...」

4:多々良:2020/08/30(日) 22:53

ガックリと肩を落とす。死者と言われた途端に、それを自覚し始めている。もう亡き者なんだ....そう思うと、じわじわと心が抉られているかのような感覚を覚えた。
管理人「....亡くなられたのは非常に残念ですが、そう気を落とさないで下さい」
カルセナ「......だって....もう何も出来ないじゃないですか....死んでしまったら」
管理人「その何も出来ない状態をどうにかする為に、『我々』が居るんです」
落ち込んでいるカルセナとは対照的な笑みを浮かべると、指をパチン、と鳴らした。
その乾いた音に反応して顔を上げると、目の前に小さな机があった。更に管理人が居る机の上には、契約書のような一枚の紙をくわえた黒猫が座っていたのが見えた。
カルセナ「(猫....?いつの間に......)」
黒猫は目線を合わせるなりカルセナの目の前にある机の足元まで歩いてきて、机の上に飛び乗った。
くわえていた紙を置くと、黒猫が一瞬眩い光を放った。眩しくて閉じた目を開けると、そこには一本の黒ペンが転がっていた。
そんな光景に呆気に取られているカルセナに、管理人が説明を始めた。
管理人「我々は虚無の間に来た人たちのお手伝いをさせて頂いています。その紙は、今後の生活に関する事をご記入して頂く契約書になります」
はっと我に帰り契約書を見ると、色々な項目の質問が書いてあった。
管理人「カルセナさんの場合、成仏するか転生するか、はたまた幽霊となって暮らすのか....それを始め、様々な要望をご記入して頂ければ結構です。貴女に合う、出来る限りの願いを叶えさせて頂きますので....」
カルセナ「...分かりました.....」
ずっしりと重い黒ペンを手にする。まずはこれを書かなければ進展はない.....そういう事だと悟った。

5:多々良:2020/08/30(日) 23:14



カルセナ「...書けた.....」
黒ペンを置くと、それが今度は光を放たずに黒猫へと戻った。黒猫はカルセナが書き終えた契約書をくわえ、管理人の元へ戻った。
管理人「ありがとうございます。では、拝見させて頂きますね」
黒猫から受け取った契約書をまじまじと見つめる。一仕事終えた黒猫は、呑気に毛繕いを始めた。

机の上の黒猫を見ている内に、管理人が契約書の内容全てに目を通し終わったようだった。
管理人「....はい、これならお望み通りに出来ますよ」
カルセナ「.....!!よかった....」
管理人「承認されたならばこちらで、契約させて頂きますね」
そう言うと、先程まで毛繕いをしていた黒猫が伸びをして、契約書の判子を押すであろう場所に前足を押し付けた。前足を離したところには小さな肉球の形をした黒いインクが付いていた。
管理人「さぁ、晴れて契約完了です。ありがとうございました」
カルセナ「いや、こちらこそ....ありがとうございました」
立ち上がって軽くお辞儀をする。管理人はずっと笑みを浮かべていた。
管理人「....ではこれから、貴女を新しい世界へとお送り致します。不自由のない暮らしになるよう、願っています....」
手を前で暫く組んだ後、持っていたステッキをカルセナに向ける。徐々に水晶玉が光を放ち始めている事に気が付いた。
カルセナ「あ、待って...!!.....貴女は、何者なんですか....?」
契約書を書いている間もずっと気になっていた事を急いで問い掛ける。

管理人「.....貴女が次に目覚めるとき、この記憶は消え失せます。....次の世界で探してみて下さい。私を...私の正体を.....ね」

辺りが真っ白に輝き、意識を失った。

6:多々良:2020/08/31(月) 21:58


カルセナ「.......うん...」
重い瞼をゆっくりと上げ、目の前を確認する。始めに見えたものは、窓からの日光を受けている真っ白な天井だった。
両手を突き、体を起こす。ギシッ、と軋む音がした。そのお陰で、ここはベッドの上である事が分かった。
ぼーっと窓の外を見る。窓から少し離れた所には木々が生い茂っており、その中から小鳥の囀りが聞こえた。
カルセナ「...ほんとに叶ったんだ....私の願望が....」
契約書に書いた様々な要望。今確認出来ているものは『生前に住んでいた家と同じ物件に住むこと』だった。その他の、ある項目を思い出してすぐにベッドから降り、立ち上がる。
これまで感じてきていた重力というものを、まるで感じていないかのような体の軽さに違和感を覚える。まるでこのまま飛べるのではないか....そんな雰囲気を醸し出していた。そのとき、とある可能性を感じて壁に手を押し当てる。すると、驚くことに手は壁に垂直に突くことなく、スルッとすり抜けていった。
そんな体の変化に驚いていて気付かなかったが、カルセナの周りには半透明の霊魂のようなものが漂っていた。
カルセナ「す...すごい.....まさか、ほんとに実現するなんて......」
自身に驚愕した後、もっとたくさんの事を調べようとまずは外に出ることにした。

新しい自分になる事。『浮幽霊として暮らすこと』と言う契約を背負いながら。

7:多々良:2020/08/31(月) 22:17

カルセナ「うわ〜....圧倒的大自然って感じ....」
玄関のドアを開けて外に出ると、すぐ隣には大きな山が聳えていた。あまりにも大きすぎて、山頂が見えない程だ。
カルセナ「取り敢えずここ....登ってみようかな。上まで行けば、広いところ見渡せるかもしれないし」
自分の家以外には民間は見えず、人に情報を聞くことも許されていないかのようだった。だから、自分で情報を掴む事がとても重要な事だったのだ。
カルセナは早速、山を登り始めた。辛うじて少し開けた道がある。
カルセナ「これ、いつ登りきれるのかな......いや、考えないでおこう」
とにかく目の前にある道を進むしかない。今の自分には、そんな使命があるように思えた。


カルセナ「......疲れたぁ〜......」
元々前の世界であまり運動をしなかったカルセナは、それが祟って既にバテてしまっていた。
カルセナ「体感では4kmくらい登って来てるんだけど......どうなんだろう....」
まだまだ山頂にはたどり着きそうにない。それどころか、進むにつれてどんどんと自然が深くなって行き、順調に登るのも難しくなっていた。ちょっと休憩を挟もうか....呑気にそんな事を考えていた。
すると突如、右から何かがカルセナに向かって飛び出した。
カルセナ「「 ん...?うわぁっっ!!? 」」
間一髪避ける事が出来た。体制を立て直し、慌てて自分を襲ってきた何かを見る。
それは人間の女の子らしい体つきをしていた。が、背中に蝙蝠を思わせるような羽が生えている。さらによく見ると頭に蝙蝠のような耳が生え、いくつか金に輝くイヤリングが通っていた。その人物の目は野生の獣みたいに血走りながらカルセナを睨んでいた。

8:多々良:2020/08/31(月) 22:28

カルセナ「な、なになに...!?て言うか、誰?何者...!?」
今の事態と、相手の姿を確認したカルセナは戸惑ってしまい、上手い具合に言葉を発せなかった。
???「見掛けない顔だな....侵入者か...?」
カルセナ「し、侵入者!?何のこと...??」
???「ここは私たちの縄張りだ。不法に侵入するものは全て排除するぞ!」
そう言うと、今にも襲いかかって来そうな体制に構えた。
カルセナ「えっ、ちょっと待ってよ!!私はただ、この辺の事を知りたくて....」
???「....そう言う事か」
自分の意志が伝わったのか、ホッと胸を撫で下ろす。
???「...しかし、私は見たとおり蝙蝠の獣人。そして今、生憎腹がとても減っている。....これがどういう事か分かるか?」
カルセナ「.....えっ?」
???「お前はどのみち、私の餌になるって事だ!」
そう言って、再びこちらに向かってきた。もう先程のような偶然は起きない。こんなに早く、この生活が終わってしまうのか....それを覚悟して、ギュッと目を瞑った。

9:多々良:2020/08/31(月) 22:45

その瞬間、パキパキッ....と氷が張るかのような音が目の前で聞こえた。恐る恐る目を開ける。向かってきた蝙蝠の獣人は、分厚い氷の壁に行く手を阻まれ襲ってこなかった。
カルセナ「....な....なに....?これ....」
心の中で思った言葉を無意識の内に口に出す。すると、山道の奥から誰かの声が聞こえた。
???「請(こう)っ!!急に人間を襲ってはいけないって、何度言ったら分かるの?!」
カルセナが目線を向けたその人物は、右手をこちらに向けて立っている。恐らくこの氷の壁は、彼女が出したものなのだろうと察した。全て機械で構成されている4枚の羽が背中に生え、威圧感を演出している。
請「うっ.....別に良いじゃないか....腹減ってるし....」
???「私に言ってくれれば、ご飯なんか用意出来るわよ....全く」
請「...そうは言っても、普通の飯じゃ満足なんて出来ないんだよ....なぁ、寒令(かんれい)!分かってくれないか??」
些細な口論をしながら、その人物はカルセナの方へ歩み寄って来た。
寒令「少しは我慢しなさい。.....ごめんなさいね。うちの幹部が、悪い事をしたわ」
カルセナ「あ.....えっと......」
寒令「....あぁ、自己紹介が遅れたわ。私は雪雨 寒令(せつう かんれい)。そしてこっちが....」
請「.....宵夜 請(よいや こう)だ」
不服そうな表情を浮かべ、寒令の後ろに下がる。
寒令「貴女はここへ何をしに来たのかしら?目的がない訳では無さそうだけど....」

10:多々良:2020/09/02(水) 22:47

カルセナ「あのー....私、ここの事を全然知らなくて....取り敢えずこの山を登ってみよっかなって.....」
寒令「そう言う事ね。...なら、一度私たちの基地へいらっしゃい。詳しい話はそこでする事にしましょう」
請「えっ、良いのか勝手に....」
寒令「良いのよ。事情を話せば分かってくれるお方なのだから。...さ、着いてきて」
カルセナ「あっ、ありがとう...」
そうして、カルセナは寒令たちの『基地』とやらに案内される事になった。
寒令「.....そう言えば、まだ貴女の名前を聞いていなかったわね」
カルセナ「カルセナ=シルカバゼイション....カルセナって呼んでくれれば」
寒令「カルセナ、ね....種族は人間....とは少し違うようだけど」
頭から爪先まで、まじまじとカルセナを見つめる。
カルセナ「一応、浮幽霊...な筈」
寒令「筈....?自分の種族をはっきり分かってない人なんて初めて会ったわ。まぁ、悪い奴じゃなければいいのよ」

ちまちまと雑談を続けながら、10分程度歩いた。
カルセナ「何か....ここら辺、冷えてる....?」
請「今更か...?3分前くらいから、温度は下がり続けてるぞ」
寒令「基地を見れば、きっと理由が分かるわよ。....ほら、あれが私たちの『氷河基地』よ」
細い道を抜けた先には、全てが分厚い氷で出来ているかのような大きな建物が聳えていた。近くにいるだけで、鳥肌が立つ程の冷気を感じた。
カルセナ「こ、氷....?」
寒令「ここの主が、寒いのが大好きでね。....言い換えれば、暑さに弱いのだけれど」

11:多々良:2020/09/02(水) 23:03

と、そのとき、背後から急に声が聞こえた。
???「おいおい、別に言い換える必要はないやろ....寒令」
寒令「..愛儀奈(めぎな)様っ!?し、失礼しました」
その声に反応し、バッと後ろを向いて謝罪の言葉を述べた。その先には、小学校6年生くらいの見掛けをした少女が立っていた。頭には狼のような白い耳が生えていて、霊魂を纏った尻尾が体の周りをふよふよと漂っていた。
愛儀奈「それは置いといて....そいつは誰なんや?見ない顔やけど」
寒令「請が手を出しかけた浮幽霊です。ここら一帯の事をあまり存じていないとの事で...私が招き入れました」
請「(それ言わなくていいだろ......)」
愛儀奈「ふ〜ん...そうか、私と同じ幽霊なんやな?」
カルセナの元へ寄り、顔を覗き込む。
カルセナ「あ....カルセナです、よろしく..お願いします....」
愛儀奈「敬語なんか使わんくてええ。私は魔佐稀 愛儀奈(まさき めぎな)。よろしゅう」
カルセナ「(なんか...訛ってる....)」
愛儀奈が手を差し出して来たので、それに応えた。
愛儀奈「んじゃ、ここは暑いし取り敢えず中入れ」
氷河基地を指差して、笑みを浮かべた。

12:多々良:2020/09/07(月) 18:59

勧められるがまま内部へと入る。足を踏み入れた瞬間、とてつもない冷気が体を冷やし始めた。
カルセナ「さ....寒〜〜いッ!!!」
愛儀奈「そうか?意外と適温だと思うけどな」
寒令「愛儀奈様、普通の生き物は寒さに弱いんですよ。カルセナに向かって生き物とは言いにくいですが」
愛儀奈「あれ、そうなんか?じゃあ仕方ないな....請、上の階からなんか着るもん持ってきてや」
請「了解です」
指示を受けると、再び外に出て羽を広げ、三階辺りまでバサバサと飛んでいった。
愛儀奈「もうちょい我慢してな」
カルセナ「あ....うん.....」

少しして、請がコートを持って降りてきた。
請「これで良いか?」
カルセナ「ありがと.....」
請から厚いコートを受け取ると、すぐに羽織って寒さを凌いだ。
カルセナ「.....うん、いくらかマシにはなったかな....」
愛儀奈「そりゃ良かった。...あ、そうや。ついでだし、この中案内したるよ」
カルセナ「やったー、ありがと〜」

13:多々良:2020/09/16(水) 23:15

【一時中断】

14:多々良:2020/09/16(水) 23:43

違次元の、とある都市。そこは人間たちが賑わう、栄えた街。


人間が行き交う人込みの中、大通りの肉屋の店主が嘆いていた。
店主「くっそ、見失ったか……」
町人「どうしたんですか?…あ、もしかしてまた例の…?」
店主「あぁ…まーた肉盗まれちまったよ。ったく、いい加減にして欲しいな」
町人「最近は特に多いですよね。犯人のはっきりとした特徴が分かれば捕まえられそうなのに……」
店主「黒いフードのガキって情報しか飛び交ってないからな…あ、でも最近、赤髪っていう噂が立ってるらしいぞ」
町人「えっ、そうなんですか?…このまま早く捕まるといいですね」


一方、緑が生い茂る森の奥深くー

???「…ハァ、ハァ……もう追ってきてねぇか」
木漏れ日が差す森の中を、一人の女の子らしき子供と犬のような動物が走っていた。
???(もう匂いはないけど…いつここがバレるか分からないぞ?そろそろ場所を変えたほうが良いんじゃ…ねぇ、アグレ……)
アグレ「うるせーよ。ここは俺のお気に入りなんだ。そんな簡単に変えてたまるか!」
俺口調で会話を進める子供は、赤い髪に黒い耳が生え、それと同じくらい黒いフードを提げている妖怪だった。
アグレ「大体、人間がこんなとこまで来れる訳ねーだろ?この森には凶暴な動物がうじゃうじゃいんだから。あ、因みにお前もその一種だからな?あんことか言う可愛い名前してるけどよ」
アグレの隣を走る動物の毛は真っ白で、頭からは二本の小さな角が生え、背中には小さくとも黒く輝いている翼が生えている。背丈は、まだ子供であるアグレの膝ほどの大きさに見えた。
あんこ(この名前はアグレが付けたんじゃないか……まぁ、どうでも良いけど)
少し不服そうな表情を浮かべるが、すぐにもとの表情に戻す。
あんこ(ほら、着いたぞ)
木々を掻き分けた先には小さな広場のような空間があり、中央に驚くほど大きな樹が植わっているのが特徴的だった。
アグレ「言われなくても分かるよ。…さ、飯にしよ」

15:多々良:2020/09/18(金) 22:42

真ん中にそびえ立つ大きな樹の幹の麓で、昼食をとることにした。
アグレ「今回は結構良い収穫だったな。何せ、パンやら果物に加えて肉が沢山手に入ったんだから」
ずっと持っていた、古びた大きな布の袋を開いてニコニコと笑みを浮かべる。
あんこ(そうだねぇ、久し振りの肉だ)
アグレ「えーと....はい、お前の分」
袋から取り出したのは、大きな生肉のブロックだった。
あんこ(あぁ、ありがとう)
アグレ「俺も肉先食おっと」
続けて、ベーコンのブロックを取り出した。
アグレ「んじゃ、いただきまーす」
勢い良くベーコンに噛み付く。あんこもそれに続いて生肉のブロックに嬉しそうにかぶり付く。
アグレ「うん...やっぱうまいな肉は!」
あんこ(もうちょっと質が良ければよかったんだけどな)
アグレ「文句言うなよ。盗ったのは俺なんだから」

16:多々良:2020/09/18(金) 22:59



???「......だぁれ?」

アグレ「!!?」
急に聞こえた声に驚き、その方向を警戒する。どうやら声の主は反対側の樹の幹の麓にいるようだった。
???「....人間...さん?」
アグレ「....テメェこそ誰だ...姿を見せろ!」
それに従ったのか、声の主はゆっくりとアグレとあんこに姿を見せた。
その姿はアグレと同じくらいの背丈の女の子だった。クルクルと巻かれているような水色ロングの癖毛で、真っ白な耳、そして獅子のような真っ白な尻尾が生えていた。緑に輝く瞳には、穏やかな光が宿っている。
???「!...あなたはもしかして.....『ズオテール』....?」
ズオテール、という言葉が出てきて少し動揺した。
アグレ「い、いや.......違う...」
???「.....嘘」
アグレ「!!....お、お前こそ何なんだよ!」
強めの口調でそう言うと、相手を少しビックリさせてしまったようだった。しかし、その質問に相手はしっかりと答えた。
???「ごめんなさい...私は、クオレ=ルナ=クレスタ。...お願い、ほんとの事を教えて。ズオテールじゃないのなら、あなたは誰....?」
首を傾げてアグレの目をじっと見つめた。

17:多々良:2020/09/18(金) 23:18

アグレ「....ただの妖怪だよ」
クオレが合わせて来た視線に恥じらい、目を逸らす。
クオレ「......それも嘘...」
自分の言う事を嘘だ、と言われるので少し苛立ちを覚えてしまった。
アグレ「何で嘘か嘘じゃないかなんて分かるんだよ!そんなに俺をズオテールだと決めつけたいのか!?」
クオレ「ち、違うよっ.......でも、嘘は分かるの...私」
たじろいであんこに視線を移す。あんこはクオレをじーっと観察しているようだった。そんな中、アグレは深く溜め息を吐いた。
アグレ「はぁ..........俺はズオテールだよ...30年前に人間に敗北した種族さ」
軽く落ち込んだかのような表情を見せ、ベーコンをかじる。
クオレ「....うん、知ってる」
アグレ「...それで満足したならどっか行けよ。お前も見たところ、人間じゃなさそうだし」
立ち去れ、と言う言葉を今度は受け入れず、自分を拒むアグレの隣に座った。
クオレ「うん...人間じゃないよ。...人間と対立したズオテール。....その仲裁に立った種族、知ってる?」
アグレ「仲裁.....?」
クオレ「そう。『メグノテール』って種族。そのときに起きた戦争で、殆どが巻き込まれちゃったんだけどね....」
アグレ「ふぅん.....で、それがどうしたってんだよ」
そんな問いに、クオレは微笑みを浮かべる。
クオレ「.....私、そのメグノテールの生き残りなの」
アグレ「....え?」

18:多々良:2020/09/18(金) 23:45

落としていた視線を上げ、クオレの顔へ持っていく。
アグレ「生き残り....?お前が?」
クオレ「....うん。お母さんやお父さん....大人たちは戦争を止めようと必死だった。色々作戦を立ててたのに...全部失敗。最後は戦場に出向いてまで戦争を止めようとして....結局、みんな人間に...」
アグレ「...お前、友達とか居ねーのかよ。同じ種族内に一人くらいいてもいいだろ」
クオレ「大人たちはいなくなっちゃったけど....友達はたくさんいるよ」
アグレ「....?じゃあ、何で一人で行動してんだよ。独りが好きなのか?」
そう言うと、少し間を開けてから話を再開した。
クオレ「.....連れてかれちゃたの。みんな」
アグレ「......!!」
返ってきた答えに戦慄する。
クオレ「戦争でやられちゃった大人も、逃げ惑ってた友達も....仲良くしてた筈の人間に連れてかれた...残ったのは多分、私だけ」
先程見せていた笑みとはうって変わって、しゅんと落ち込んでしまっていた。
アグレ「.........これやる」
クオレ「....?」
袋から取り出したのは、みずみずしくて甘い果物だった。
アグレ「...俺もお前と似てるかもしれねぇ。....仲間が居なくなったのは残念だけど....まだお前が...俺らがいるじゃねぇか」
クオレ「.....私たちが...?」
アグレ「..あぁ。連れてかれた奴らの分も、まずは俺たちが元気に生きねぇとなんだ。だから、元気出せ。分かったか」
再びあんこに目線を合わせる。あんこは鼻をフンフン鳴らし、まるでクオレを励ましているかのようだった。
クオレ「......うんっ、ありがとう.....」

19:多々良:2020/09/19(土) 22:44



アグレ「.....そうやって知り合ったんだっけか。なんか懐かしいな」
目を閉じ、思い出に浸りながら古びたソファーに腰掛ける。その隣では、大人二人分程の大きさにもなるあんこが寝息を立てていた。
クオレ「そうだね、あのときのアグレ、とっても心強かったよ」
アグレ「おいおい、今そんなじゃない...みたいに言うなよ...」
クオレ「違う違う...更に心強くなったね、って意味」
昔と変わらぬ柔らかな笑みでアグレを見つめる。
アグレ「....クオレは良く本人の前でそんな事言えるな....小っ恥ずかしくないのかよ...」
昔の様に、クオレの視線から目を逸らす。....かと思いきや、今はそのまま見つめ返すようになった。
クオレ「恥ずかしいなんてないよ。だって...仲間なんだから」
アグレ「........そうか」
ひび割れた窓から、きめ細かい星が散らばった夜空を見る。夜空から感じられる気持ちが、今と昔で大きく変わった。一人では寒かった夜も、二人になって温かくなった。運命、という言葉をこんなにも噛み締める事が出来たのは初めてだった。
アグレ「.......クオレ」
クオレ「....何?」
アグレ「...あのさ、これからも....」

20:多々良:2020/09/19(土) 23:00

言葉を続けようとしたそのとき、橙色の髪をなびかせた人物がいきなり部屋に入ってきた。
???「団長、クオレさーん!!宴会の準備出来ましたよー!!」
アグレ「げっ、クレイス....!!ノックしろって言ってんだろーが!」
その人物は、アグレの率いる『リベルタ盗賊団』の副団長、クレイス=フィーリアだった。
クレイス「ん?あぁ、すいませーん。まぁまぁ、そんな思春期の中学生みたいな事言ってないで、早く行きましょ!皆待ってますよ!」
これから始まる宴会が楽しみなのか、かなり上機嫌なようだった。
アグレ「あのなぁ、お前.....」
立ち上がって顔を強張らせるアグレの背中を、温かく柔らかい手が押した。クオレの手だ。
アグレ「..クオレ.....」
クオレ「せっかく準備出来たんだから、早く行こ?ほら、あんこも早く行きたがってるみたいだし」
ソファーの隣で寝ていたあんこがクレイスの声で目を覚まし、大きく背伸びをして扉の前に移動していた。
アグレ「......そうだな」
その光景とクオレの声で笑顔を取り戻し、電気を消した後出入口から出て扉を閉めた。その小さな風圧で、近くに置いてあった写真が僅かに動いた。それには、黒い耳を生やした赤髪の子と、白い耳を生やした水色の髪の子二人に加えて子犬のような真っ白な動物が楽しげな様子で写っていた。暗い部屋に差す一筋の月明かりが写真を色鮮やかに照らし出した。

21:多々良:2020/09/24(木) 23:52

【再開】
愛儀奈に着いて行くと、少し大きな部屋が目の前に現れた。そこには大きなテーブルがあり、奥には小さな丸いテーブルと、二脚の椅子がセットになったものが幾つか見える。
カルセナ「ここは....宴会場的な?」
愛儀奈「んー、それもあるけど基本的にはここは食事とかのときに使ってるところや」
目の前の大きなテーブルに触ってみる。
カルセナ「...うわっ、冷たい....もしかして、テーブルとか椅子とか全部...氷?」
愛儀奈「せや、寒令の能力で全部作られてる。確か....どうやって作ってるんやっけ?」
寒令「私の氷と青符の掘り起こす地下水を融合し、加工しやすくした後に形成します。それにコーティングを施し溶けにくくしてあるのです」
カルセナ「へぇー....何か凄いな....ん?青符...って誰?」
突如出てきた人物名に首を傾げる。
愛儀奈「...あぁ、そう言えば会ってないか。丁度そこの窓から働いてるようすが見えるんちゃうか?」
指定された窓を覗き込むと、何やら湖のようなものが見えた。
愛儀奈「そこはうちが誇る小さい湖や。...あ、そこに見えるのがさっきの奴」
青い長髪の少女が、ダムから顔を覗かせている鯨のような帽子を被っている人魚と話をしていた。
寒令「はぁ、また仕事サボって.....ちょっと注意して来ます」
溜め息を吐きそう言って外に出ていった。
愛儀奈「あの青いのが水河青符(みなかわせいふ)、んであの人魚が川追シグレ(かわついしぐれ)って言うんや。以後、お見知りおきをって感じやな」

22:多々良:2020/10/15(木) 21:50

【新しいネタ思い付いてしまった...一時中断】

23:多々良 ちょい長編の予感:2020/10/15(木) 22:20

地上から遠く離れ、神々が暮らす穢れの欠片もない美しい天界。更にその上に位置する、天大神(あめのおおかみ)が支配を置いている『天(あま)』の織物屋の縁側にて一人溜め息を吐く、それはそれは見る者の目を引いて離さない程の美しい天女がいた。その名を通称、『織姫』と言った。
織姫「はぁ.....早く、彦星さんに会いたい.....」
その声は、近日長続きしている生温い雨と鵲の歌声に掻き消されそうな程に、小さな声だった。
???「何をさぼっているんだい、雨なんか見てないで早く機織りを再開しな」
織姫が機織りを放棄し長雨をぼんやりと見つめていると、毎日飽きるほど聞いている馴染んだ声が聞こえた。
織姫「あ、大婆(おおばば)様....」
声の主は長年織物屋を経営している店主、大婆のものだった。長生きしている為か、皆から「様」などとつけられている。
織姫「そうは言われても....勝手に手が止まってしまうのです...あの人の事を想うと、胸が締め付けられるように痛くて....」
顔を俯かせ、胸に手を置く。心なしかその手は気付かないくらいに小さく震えていた。
大婆「全く....今日が七夕だからと言って、彦星に必ず会える訳では無いんだよ?第一、この調子じゃあ夜まで雨が止むことはないだろうに。...分かったらさっさと織り始めたらどうだい?あんたの織った布で作る衣は飛ぶように売れるのだから」
そう言い残すと、背を向けて襖の奥へと消えていった。
織姫「......あら、鵲ちゃん...」
ふと気が付くと、縁側に鵲が二羽程降り立っていた。雨が降っていてもなお元気に鳴くその様子は、まるで気が沈んでいる織姫を元気付けているかのようだった。
織姫「....私も落ち込んでばっかじゃ駄目ね。彦星さんに堂々と会えるように、しっかり機織りしないと」
自分を奮い立たせると、静止していた機織り機を再び稼働させ始めた。地面や建物に打ち付ける雨は織姫の努力を嘲るかのように、はたまた鵲に習い織姫を応援しているかのように、更に強く降り始めていた。

24:多々良:2020/10/17(土) 07:20


ーそして遂に、七月七日の夜更けが訪れた。
織姫「........」
障子の隙間から見る空の景色は満天の星空....ではなく、冷たい雨が弱くなることもなく降り続けていた。天に天気があるなんて不思議に思えるが、でないと織姫と彦星が会えない理由など存在しないだろう。東の天と西の天に境界を引く『天の川』が氾濫しない限り二人は毎年会えるのだから。
大婆「...やはり、止まないものは止まないもんだよ、織姫」
側で衣を繕っていた大婆が言葉を漏らす。
織姫「五十二年間も待ち続けて、今年こそは会えると思ったのに....どうして、天はこんなにも無情なのですか....?」
空から視線を外し闇に広がる庭園を眺めていると、不意に織姫の頬を熱い涙が伝った。
大婆「それは大神様に聞いてみるもんだね。...ま、ろくな答えが返ってこないだろうけど」
やがて繕いが終わったのか、衣を畳み織姫の居る部屋を後にした。
織姫「.....あぁ神様...あわよくば私を此処から連れ出し、彦星さんの元へお運び下さい......」
震える手をギュッと握り、真っ暗な空へ乞う。闇の奥には返事をする者も居らずただ雨が地面に当たる鋭い音が聞こえるだけだった。
無理なものは無理....受け入れ難いものだが仕方なく自覚し、部屋の電気を消そうと近くの灯籠に腕を伸ばしたとき、障子のすぐ近くから鳥の羽音のようなものが聞こえた。

25:多々良:2020/10/17(土) 07:52

織姫「ッ?!...何かしら.....」
急に聞こえた怪しい音に恐縮しながらも外を確かめようと障子をそっと開ける。
???「こんばんは」
織姫「「 きゃあぁっ!? 」」
障子を開けたすぐ目の前に居たものなので吃驚してしまい、思わず後ろに後ずさった。しかし、その姿を不審とは思わなかった。その正体は五十二年前に彦星と会ったとき、天の川に橋を掛けてくれた張本人だったのだから。
???「これはこれは、驚かせてしまい申し訳ない。私、鵲橋の番人である「星鷺 満畄(ほしさぎ みつる)」と申します。以後、お見知り置きを....」
背中に生える立派な黒い翼を畳んで左手を胸の前に回し、織姫に礼をする。
織姫「こちらこそ、騒いでしまってごめんなさい....貴女とは会った記憶があります。その...五十二年前に....」
相手が覚えているはずなどない。そう思ったが、満畄はにこやかな笑顔でそれを喜んだ。
織姫「...あっ、そんな所にいたら風邪を引いてしまいます。どうぞ中へ....」
雨に濡れる満畄を気にするも、室内を濡らす訳にはいかないのか部屋に入る事をやんわりと拒んだ。
満畄「いえいえ、お構い無く。覚えていただけていたとは...何とも光栄です。話題を変えますが....織姫様、先程何を願掛けられていました?」
織姫「あ...言ったら笑われるかもなんですが.....久しぶりに、彦星さんに会いたいと思って....神頼みなんかを....」
視線を逸らし、言いにくそうに伝える。
満畄「成る程....そりゃあそうですよね。こんな狭苦しい織物屋に閉じ込められて永遠と機を織る....普通ならば気が狂ってもおかしくありません」

26:多々良:2020/10/17(土) 08:16

織姫「そんな....これが私の生涯の使命なので.....」
首を横に振り、定められた自分の人生を改めて受け入れる。
織姫「.....でも、一度で良いから...我儘を言ってみたいとは何度も思っています」
哀しみが入り交じった小さな溜め息を吐く。
満畄「そうですよね....ならばその我儘、今一度仰有ってみては如何でしょう」
悲しみに暮れた顔色を伺うかのように首を傾げる。
織姫「...出来る事なら、彦星さんに会って...地上....地上に降りてみたい.....穢らわしいと言われている地上がどんな所なのかを見てみたいのです。彦星さんもそう仰有っていました....」
満畄「そうですか......人生で一度の大きな我儘...私が叶えて差し上げましょう」
織姫「......え?」
満畄「雨の中を進むのは少し不快な点があると思われますが....今からなら.....」
織姫「ま、待って下さい、そんな事出来ません!」
慌てて満畄の言葉を遮る。
織姫「地上に降り立ったなんて事を知られたら、どんな罰に値することか分かりませんし....第一、ここから抜け出すことすら禁じられているのですから.....」
申し訳なさそうに俯き、心配事を語る。しかし満畄は織姫を連れ出す事を諦めようとはしていなかった。
満畄「それに関しましてはご安心を。織姫様に対する責任は一切私が請け負いますので。...大丈夫。私を信じ、外界へ飛び出てみませんか?」
織姫「......」

27:多々良:2020/10/18(日) 22:06

織姫「.....行きます。行ってみたいです、彦星さんと...地上へ!」
考えをまとめ決心した事を満畄に伝えると、口角を上げてそれを讃えた。
満畄「....承知致しました」
そう言って、外から障子を全開にした。相変わらず雨は降り続いていて、僅かながら温い風が部屋に循環しているのを感じられた。

織姫「本当にこれで良いのですか....?!」
満畄「ええご心配なく、羽を動かすので多少居心地が悪いかもしれませんが」
勝手な外出を決めた織姫は色白な細い腕でがっしりと満畄の肩にしがみついていた。満畄はその体をしっかりと支え、羽が生えた背中から落とすものかと背負っていた。
満畄「では行きますよ。心残りは何も無いですね?」
織姫「.....はいっ!!」
返事をした途端、背中の羽が大きく羽ばたき二人の体は宙へ舞い上がった。夜間だった事が幸いしたのかそれを見てるものは誰一人と居ず、織姫の脱出劇の第一段階は見事に成功した。勢い良く羽を羽ばたかせたときに抜けた数本の黒い羽が、何かの希望を映し出すかのように水滴を光らせていた。


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