期待の新人マフィア×根暗男子高生のBL注意な小説です。
*あらすじ
父が巨大ヤクザの元締めを務める深海珊瑚は、反社会的勢力に関わりがあるとして通算15のバイト応募に落ちていた。
そこで珊瑚は、父の血で汚れたスーツを洗濯していた経験を生かし、クリーニング屋を開くことに。
"持ち込まれたスーツがどんなに血塗れだろうと、決して理由は尋ねない"。
そんな珊瑚のクリーニング屋はヤクザ・マフィアの御用達となっていき…
二年前、この時代持っていて損は無いということで浅山紅葉が一応ネットバンキングを開設したものの、8万を入金したきり使われていない口座がある。
マネーロンダリングの経由に使えるかもしれないと踏んで作ったはいいが、いちいちパスワードや番号や秘密の質問を入力することが多すぎて面倒との理由で放置されていた。
スマートフォンの画面に向かって『しゃらくせェこのボゲェッ!』と怒鳴り散らす紅葉の姿を、珊瑚は鮮明に覚えている。
「ちょっと早いお年玉もらっとくよ、クソババア」
どうせ何をしたって命を狙われる羽目になるので、何も怖くなくなった珊瑚は8万を自分の口座へと振り込む。
全財産8万ではまだ少し心もとないが、一文無しの素寒貧よりは大分楽になった。
住所不定を回避できれば職も探しやすくなる。
「可愛い顔して意外と悪い男だな……腐ってもヤクザの息子か」
「うわぁぁぁゴッフォ!!!」
突如背後から覗き込むようにして現れたチェスコに驚き、珊瑚は咥えていた食パンを喉奥に詰まらせて激しく咳き込んだ。
「に、二度寝したんじゃ……!?」
「お前のせいで目が覚めた」
チェスコは顔にかかった綺麗なブロンドの髪を、ふーっと気だるげにひと吹きした。
ふわりと一筋の金髪が揺れる。
ベットから降り、水が半分入ったペットボトルを引っ掴んだ。
「お前、スクールは? 学生じゃねーの?」
「あぁ……なら今日は高校は休みです」
「ふーん」
チェスコはペットボトルのキャップを片手で開け、唇へと押し当てる。
(ジャポーネの高校って確か16歳からだよな……ってことはコイツは少なくとも──)
「ブ──ッ! おま、まさか16歳!?」
「そうですけど?」
口に含んでいたミネラルウォーターを勢いよく吹き出し、今度はチェスコが激しくむせる番だった。
「んなっ、その顔で酒飲める年齢だったのかよ! 13、4歳くらいのガキかと思ったぜ……」
「ガキ!? 酷い! あと日本はお酒20歳からです!」
「なるほど……日本人の寿命が長いのは老化が遅いからなのか! だから酒を飲んでも良い体になるまで20年もかかる……」
「チェスコが欧米人だから見慣れないアジア人の年齢が分からないだけですよ……」
そんな他愛無い話をしていると、ピンポーンと音割れ気味の呼び鈴が鳴った。
ドアが3回ノックされ、男性の流暢なイタリア語が流れる。
「あぁ、アルタさん……」
チェスコは床に脱ぎ捨てられていたシャツとスラックスをひっ掴み、素早く着用した。
ドアスコープを確認して知り合いの姿を認めると、チェーンを開けて中年男性を迎え入れる。
「Ciao Chesco. Hmm? Chi è questo ragazzo?(やぁチェスコ。ん? 彼は誰だ?)」
「ひっ」
珊瑚は男性の姿に、思わず悲鳴のような声を漏らした。
薄手のワイシャツには赤い斑模様が付着しており、カーキ色のスラックスにもベットリと赤黒い血が染みている。
錆びた鉄のような匂いが、ムスク系の香水の匂いと混じって珊瑚の鼻を刺す。
「Raccolto.Figlio del capo della Yakuza giapponese(拾った。"ジャポーネ"のヤクザの息子)」
珊瑚は辛うじて聞き取れたジャポーネとヤクザという単語から、自分の紹介をされていることを察した。