私は、語彙力が無いんです。比喩力もありません。しかし、表現したいものが脳内にあるのです。なので、三月まで無疾走かつ不定期で、脳内の中にある曖昧な世界を具体的に表現していく予定です。
感想等の乱入は有りです。
呪
1: イチタ と イノチ
くそ。
計測開始から664回目。
僕が死神に殺された数。
うち、
口を引き裂かれたのは41回
手足等を切断されたのは120回
体を真っ二つにされたのは22回
頭を斬られたのは500回近く
その他被虐200回近く
考えるだけで嫌になる。
くそが。
なんで。どうしてこうなった。
僕は、死神に殺されては目覚め、目覚めては殺される。終わりのない苦痛。そして恐怖が心臓を鷲掴む感覚に、常に脅かされている。
終わらない。どうやったら終わる?
< 死神 ―/⌒
「 ゆるして、
ゆるしてください…」
懇願した。
真っ暗闇の部屋の隅で、三角座りを強めた。
暗くて 寒くて 怖い。
だから懇願した。
でも、巨大な鎌を持った死神は闇に息を潜めて、一歩、また一歩と、死の足音を立てて近づいてくるのだ。
「 ……はぁはぁっ 」
ガチャリ…
隙間から差し込む明かりは大きく開かれる。
そして、黒い人影。
「 イチタ、くん?」
だれの名前?
落ち着きを孕んだ高い声がこちらの部屋に投じられた。
今、僕が耳にして目にしているもの。それは死神じゃない。眩しい明かりを背後にして立つ見知らぬ少女だ。
ただ、真っ暗闇に照らされるその子の顔は、どんな表情をしているか分からない。
「 おーい、イチタくん 」
カチ。目が痛い。
明かりがつけられたみたいだ。
「 イチタくーーん 」
必然的に明らかになるこの空間の全容。
闇で覆い隠されていたものすべてが見える。
白い机。
の上にあるおまじないの表紙の本。
本棚に敷き詰められたたくさんの本。
のうち、本の大半には呪の文字の浮かぶ。
白いベット。
の上に散乱するしなびたゴム風船みたいなもの?
再度、正面を向くと、パッと開いた二つの大きな目が、僕のどこかを見つめていた。
そして、さっきから「イチタくん」とだけ口に出す小さく薄い唇は少し動いた気がする。やっと少女のその表情を確認できた。
無表情なのに微笑。断定不能の表情。
時に現在、少女のツンとした鼻先が今にもこちらの鼻に触れるに至る距離に迫ってきた。否応なくドキドキ動揺させられる。
思考が回らぬ中、僕にできるのは、せいぜい目線を下にずらすこと。
「 あ…あぁ! 」
それも裏目に出た。
少女の顔から下。裸だった。くそ。
風呂上がりなのか、その身には水滴が。
少女は首をカクリとかしげ、その両目でこちらを覗きこもうとする。ゆえに黒髪は左肩まで垂れ、右肩からは、くっきりした鎖骨が強調される態勢で。そして――くそくそ、見すぎだ。てか、なぜ恥じない。
「 …あーー、えと、
僕、分からないんです。
あなたのことも、この部屋のことも。
自分のことも 」
「 記憶喪失?」
「 多分それだと思います 」
「 イチタくん、さっきから様子が
おかしかったから納得。
ふふ、記憶喪失か」
観測史上初めての少女の笑み。そして少女は立ち上がり、同時に、僕は床に視線を落とす。
しかし音と影で分かってしまう。少女が下着に脚を通し始めたのが。くそ。
「じゃあ、イチタくんにはちゃんと
教えてあげないといけないね」
「 何をですか?」
「 え?イチタくんが何者なのかについて。
ちょっと立って?」
「 は、はぁ 」
「床じゃなくて、こっち見て?」
おれは素直に従う。
しかし―――今から知ることになるのは
舌。舌。
熱いそれが口の中でもぞもぞと這い回る感覚。脳が溶かされる。熱。息できない。溺れる。自然と僕の足は後ろへと一歩、二歩、壁、と後ずさる。
呪
2: イチタとイノチ
「ちょっ」
しかし、逃すまいと少女は、その大人しげな見た目に反し、僕の口を食べるくらいの勢いで、小さな唇を目一杯開いて被せてくる。
なんなんだ。理解できない。この少女は、明らかにおかしい。記憶喪失に対し動揺のかけらもない。むしろ笑った。不気味だ。なんだ、これは。
「ぷはぁっ」
「っ、 はぁはぁ、………お、おい !!
…なんなんですか ッ! 」
動揺と沈黙。
さなか、
「 ぷっ
あははははは!」
「 はぁ? 」
「 ふふ、
『 なんなんですかっ! 』って、あははは!
真剣な顔でそんなこと言われたから笑っちゃったよ。今の行為はね。深いキスだよ 」
「 それは分かります。
僕が聞きたいのは、今の、その行為にいっ」
「キスね」
「 そのキ、キスに
一体なんの意味があるんですか 」
「 わたしとイチタくんは、
平気で裸を見せ合い、
キスをたくさんするくらいの仲だったんだ」
「 あ。それって、
僕はあなたの」
「 「 彼氏 」」
気づけば、死神に怯えていて、
気づけば、不気味な彼女らしき女がいて、
気づけば、何も思い出せない自分がいる。
なに?今どうなってるんだ。
現実味も実感もない。
「 …あぁ、と
あなたの名前は?」
「 わたしの名前はイノチだよ
きみの名前はもう分かってると思うけど
イチタという」
「 イノチさん」
「 うん? 」
「 僕、これから
どうしていけばいいと思いますか 」
「 うーん。
ふつうに学校行って、
ふつうにご飯食べて
ふつうに勉強して
ふつうにお風呂入って、
ふつうに寝る 」
「 ふつう… 」
「 うん。ふつうでいいんだよ。
特別なのは精神科医に通うことぐらい。
……イチタくん、一緒にがんばろ?
わたしはイチタくんの彼女だからさ、
たくさん頼って? 」
「 …ありがとうございます……」
少女イノチ、こと僕の彼女は、不思議な点も否めないが、とてつもなくいい子だった。だからこそ胸の奥が痛む。
僕は彼女を性的な目で見ていたからだ。
厳密には今の僕にとって、彼女はカノジョではない。言うなれば他人。だからこそ僕は最低だ。
死神は見ていた。
かんせつてきにサンシャイン様ぉぁがめてる?
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