海賊の国、ボルザー。……と言っても無法者の闊歩する国という意味ではなく、海賊と称する義賊のような集団が王オルフェロスの政治を助けていたことからその肩書きがついたのだ。
海賊船は、有能で最強とも呼ばれた一人の若い女提督に率いられて、日々外交や賊の討伐、測量に明け暮れていた。………………9年前までは。
オルフェロス王が崩御し、その息子であるマクラヤミィが即位すると、海賊に熾烈な弾圧が加えられ始めた。
提督は行方不明となり、一味も分裂してしまう。……やがて跡継ぎを名乗る海賊団がいくつも現れた。しかし、彼らは横暴で、残虐で、非道だった。
……やがてボルザーは荒れ果て、悪逆非道な海賊が支配する国へと変貌する。
ついにはボルザー国を滅ぼそうと他国から攻撃が仕掛けられるようになった。……この危機に、英雄はどこにもいない。
[百合小説書いてる奴の女主人公小説]
[チート?かもしれない]
[人によっては地雷を感じるかもしれない]
[見切り発車]
[よろしくお願いします。]
海が見える酒場。……そう言えばロマンチックだが、その酒場から見えるのは海……そこに浮かぶ残骸や瓦礫等だった。海賊達の夢の痕……そう言えば聞こえはいいが、実際猛烈に邪魔である。
酒場から見える遠くの海に、攻撃を仕掛けに来た一隻の異国船が見えるが、それも瓦礫に邪魔されてなかなか上陸できないといった様子である。
……それを見ても、ボルザー本土に反応はない。
酒場はだいぶ古びていたが、そこそこの活気があった。……半ばヤケクソ染みた活気が。
「……おい店主、もう一杯くれ!」
「こっちもだ!」
酒。……飲まずにはやっていられないといった様相だった。
そんな喧騒の中で、よれよれのシャツを着た一人の女性だけが静かにブドウジュースを飲んでいた。美形な細身で、歳は30にいくかいかないかに見える。金髪の髪はよく整えられていた。
「……おい、そこの姉ちゃんよ」
程なくして彼女に声がかかる。
ゆっくりと顔を上げると、先程騒いでいたマッチョでスキンヘッドの男がそこにいた。
「少し頼みがあるんだがなぁ」彼は薄く笑いながら声を出す。
……女性が周囲を見渡した時、いつの間にか酒場の全員の視線がこちらに集中していることに気付く。
「……なんでしょうか?」警戒を少しだけ声の調子に含ませ、反問する。
「有り金も身ぐるみも、全部ここに置いてけよ」
笑いの調子は変わらない。……ただただ普通のことのように。
「……はぁ。で?」
しかし女性はあろうことか首を傾げてみせた。……それだけで沸点が低い男は声を張り上げる。
「で?じゃねえんだよ!!いいか?俺らは泣く子も黙る海賊だ。……逆らったらどうなるか……分かってるよなぁ?」
周囲の屈強な男どもが一斉に得物を構える。ダガー、木刀、長剣、槍……室内で振り回すには危なすぎる代物である。
しかしそれを見ても彼女は冷静である。
「……短気すぎないかな」
苦笑いを浮かべる。
「外見た?今ここで争ってる場合じゃないよ」
そして静かに諭す。……しかし、短気な荒くれ者である男どもは聞く耳をもたなかった。
武器が一斉に振り下ろされる――――直後、何かが起こった。
何かが起こった────というか、酒場の壁が······異国船からの大砲射撃で吹っ飛んだ。
風圧や飛び散る破片、そして何より砲弾で、屈強な男共は次々となぎ倒されていく。······また、吹っ飛んだのは、大きめの破片を食らった女性も同じだった。
破片やその他諸々を食らわずに済んだ男共は顔を見合わせる。······風穴から見えるは、こちらに砲門を向ける異国船。
血の気が引く音が響いた。
「······いてて······」
その直後のことである。······たった今出来たばかりの瓦礫の山から、さっきの女性が呻きながら出てくる。······その体には割れた木材がいくつか刺さっていて、···血が相当流れていた。
それを見た男共は、再び血の気が引くような思いを味わった。······即死してもおかしくないダメージは負った筈なのに────という思いと、単純に絵面が悪かった。
他に巻き込まれた物の死体が、臓物が周囲に転がっていた。
······それでも、彼女は立ち上がる。
体に刺さった木を引き抜くたび、血が噴き出す。その血を浴びながら、穴の向こうの異国船を見据えて、
────「あの船を沈めます」。
空気が凍りついた。
声すらも出ず。
······そこでもう一発、砲弾が放たれる音が響く。
「······っ!!」
丁度風穴にそのまま入る軌道。
······女性は、近くにあった樽を無造作に抱えると、全力で······向かってくる砲弾へと、投げた。
炸裂する。
樽の中身はアルコール。それも純度がかなり高かったようで、砲弾に激突した瞬間炎上した。
距離がかなりあったので、幸いにも火は酒場には燃え移らなかったが────
「······今度は火薬入り砲弾······?徹底的に破壊するつもりかな」
炎上しながら落ちていく樽を見て、女性は一人呟く。そして、くるっと振り返り、
「誰か、私と行ってもいいという人は?」
静まり返る場に、問いを投げかける。
……その時、男どもより早く、今までずっと無言を貫いてきた店主が手を挙げた。
「……乗った。ここまでされて黙ってる訳にはいかないからな」
俯いていた顔を上げる。視線は壁に空けられた風穴に、……そして次に女性に。
不敵な笑みは期待ゆえにであった。
「ありがとうございます。……他には?できれば操舵ができる人だと助かる」
女性がそう言った時、再び砲弾が飛んできた。……が、今度は最初に飛んできた火薬入りでない砲弾を掴んで投げ、炸裂させた。もはや人間ではなく、別の生物と言われても男達は信じるだろう。
……そしてようやく手が上がる。
「……俺より操舵が上手い人はみんなさっきので死にました。……一応、下手ですが出来ないことはない」
そう言って、破片の直撃から間一髪で逃れたらしい男が歩み出てくる。彼も彼で傷を負っていたが、歩けない程ではない。
「……うん、他には?」
女性は頷いて歓迎する。……そして再び問いを投げるが、返答はもう無かった。
酒場の調理室兼倉庫内。中を一通り眺め、女性が尋ねる。
「武器とかはありますか?」
「……ん?いや、あんたなら素手でいいだろ……と言いたいところだが、ほれ」
そう言って店主は彼女に、よく手入れされているカトラスを渡す。そして彼はというと、壁に飾られていた銃を外してその手に握る。
操舵を任された男は、「この中から選べ」と渡された箱の中身を見て驚愕した。……数、種類、質……どれにおいても一級の装備がぎっしりと詰まっていた。
「……………」
そのまま固まっていると、店主がそれを覗き込んできた。
女性はいつの間にかドアを開けて酒場の中に戻ったらしい。
「さっさと選べ、もう一発来るかもしれんぞ」
「……これで」
彼が選んだのは軽い長刀だった。
……それにしても、これほどの物がある、ということは、ここの店主は昔海賊の一員だったのだろうか。
男はそのことを質問してみる。
「……ああ。結構前になるが、俺はとある海賊団の一員だった。……それが今ではこのザマさ」この銃はその時からの相棒なんだ、と付け加える。
男が黙っていると、再び轟音が轟いた。……どうやら女性がまた砲弾を迎撃したらしい。彼女が入って来る。……出血は未だ止まっておらず、よれよれのシャツを濡らしていた。
「準備できた?」
僅かに顔色が悪くなっている。
「ああ。早速行くか。あんたならどうかできそうだ」店主は気軽な調子で言う。
「……その前に、包帯くらいは巻きませんか」
瓦礫に隠されていたのは超小型帆船。
ここに、今……反撃の時間が始まる。