憂え、新時代の日の出を

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1:水色◆Qc:2021/04/04(日) 20:48

海賊の国、ボルザー。……と言っても無法者の闊歩する国という意味ではなく、海賊と称する義賊のような集団が王オルフェロスの政治を助けていたことからその肩書きがついたのだ。
海賊船は、有能で最強とも呼ばれた一人の若い女提督に率いられて、日々外交や賊の討伐、測量に明け暮れていた。………………9年前までは。


オルフェロス王が崩御し、その息子であるマクラヤミィが即位すると、海賊に熾烈な弾圧が加えられ始めた。
提督は行方不明となり、一味も分裂してしまう。……やがて跡継ぎを名乗る海賊団がいくつも現れた。しかし、彼らは横暴で、残虐で、非道だった。

……やがてボルザーは荒れ果て、悪逆非道な海賊が支配する国へと変貌する。
ついにはボルザー国を滅ぼそうと他国から攻撃が仕掛けられるようになった。……この危機に、英雄はどこにもいない。




[百合小説書いてる奴の女主人公小説]
[チート?かもしれない]
[人によっては地雷を感じるかもしれない]
[見切り発車]
[よろしくお願いします。]

29:水色◆Ec/.87s:2022/09/05(月) 07:05

【ボルザー王国 宮殿】

「······」
どこか煤けた印象を受ける宮殿の奥、やや鈍い輝きを放つ王座にその男は座っていた。
この国で、その椅子に座れる男は一人しかない。······ボルザー王国、国王────マクラヤミィである。
その姿からは、もはや座っているだけという印象を受ける。まあ実際、王座に彼が座るのは、大抵臣下からの報告を受ける時である。人によっては違和感を感じる事もあるだろう。
それはともかく、数分後の彼は臣下からの報告を受けていた。

「ホワイト王国の軍が我が領土に攻め込んできた、との情報が入りました。······迎撃に兵をお貸しください」
「ホワイト王国······?って、あのホワイト王国か?」
「はい、"あの"ホワイト王国です。······驚いたことに」
どうやらボルザー王国に侵攻してきた国があるらしい。それだけならまだいいが、王はその国の名前を口にすると不思議な表情を浮かべた。
「今まで我が国が一方的に攻め込んでいたのに······これはどういう事だ?」
「簡単です。それだけあの男が能力を持っている······ということです。いい加減にお認めになりませんか」
「······まあいい。それより······あの方向には要塞があったな?」
「はい。······ディラルド要塞です。僭越ながら······ここを前線拠点とした方が宜しいかと」
「······面倒だな······エスシー!細かいところは任せる!」
最終的に全てエスシーというらしい臣下に投げた王であった。
「御意。······将軍は如何なさいますか?」
「また『海賊』がぶり返してきているとの噂も耳にする。タイガースだけは置いていけ。それ以外はどう使っても構わん」
「はあ。······また『海賊』ですか?そこまで悩むなら······いっそ弾圧など止しておけば良かったのですよ」
「······あれは······あの時は止めなかっただろ」
「あなた様の人柄が分かりかねたので、」
と、エスシーは平気な顔で言う。
「下手に諌言して処刑されても何もならぬ、と思ったのですよ」
「······お前程の能力の者は居ない。誰がそんな事をするか」
「しそうだから言っているのです。······ともかく、『海賊』の方は既に手は打っておきました。少々悪辣ですがね······」
「······ふむ。その辺も任せた。というか動員した兵の数は後で紙にでも書いて報告しておけ。どうせ無駄死にはさせないんだろ」
「承知致しました······ゲホッ」
割と洒落にならない咳を残してエスシーは退出する。それを見送ったマクラヤミィの目には、差し迫った脅威よりも······いつか来るであろう脅威への焦燥があった。

30:水色◆Ec/.87s:2023/03/10(金) 00:22

>>28

「······1000人ねぇ」
報告を聞いた提督は一瞬呆然としたようであった。
「どうします?流石に2度も同じ手は通じないでしょう」
「まあね。じゃああの手でいくよ」
不敵な笑みを浮かべるエルザの言葉を聞いて、再び水夫や幹部やらに指示を出していく提督。
しかし、
「君はここに留まってて」
一礼して戻っていこうとする水夫に対しては、この場に留まるように言うのであった。




「救助活動は一旦中止!目がいい人は見張り台へ!近付いてる方から順次片付けてくから!」
「流石に剥ぎ取った服を着るのはちょっと抵抗あるけど。そうも言ってられませんよね」
「服着るだけじゃダメだよぉ〜。汚れてたり傷ついてたりする雰囲気も出さないとね」
提督の声が響く中、エルザとプラスチックはとある小屋の中で何やら着替えを始めていた。後者は第1陣を追い返してから1杯呑んだようで、手つきが若干怪しくなっていたが、ともかく。
その着替える服が、バルサス・シンジケートの構成員から鹵獲したという────いわゆる偽装用の服だったのである。
「これを着て数人の水夫と一緒に敵陣に入り込む。それで機を伺って引っ掻き回す作戦だね〜。ちょっと手駒足りないけど」
「あと10人いたら、って軍師さんが嘆きそうだけど」
「それは禁句なんじゃないかな······?」
軽口のような何かを叩き合いながら着替えを済ませる女2人。エルザはともかく、プラスチックも参加するあたり、彼女も戦闘にはかなりの自信があるようである。
「ま、居ない人の事を話しても始まらない······私たちは暴れるだけです。行きますよぉ!」


アジトの一角から、バルサス・シンジケートの服を着た水夫が7、8人程飛び出していく。さも必死そうな様相をして。
「向こうは看守に回す人手すらないのか······」
「集めてても30人くらいだろ。手が足りるとも思えん」
「流石にさっきの3倍ほど居れば大丈夫だろ······と、時間だな」
海賊のアジトを望む、1000人程の軍勢。その中心には、護衛に護られた数名の男が集まっていた。何やらフラグらしい会話が聞こえるが、どうやら今すぐ仕掛けはしないらしい。時間だ、との声を受けても、軍勢には動く気配がない。
────まるで、何かを待っているかのような────
「遅いな」
と、苛立った声が響く。




その、直後。
掘っ建て小屋の一角から、炎が吹き出たのである。


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