プロローグ
家事で家や家族を失った優理は、本業だったモデルの仕事を通して寮を紹介してもらい、衣食住全て賄ってもらう代わりに、モデル業の頂点を目指す事に……。
だが、同じファッション誌の中で現No. 1の舞に目をつけられていて、自分にだけ性悪な一面を見せる舞に優理は立ち向かえるのか?
今、女子中学生や女子高校生に人気のファッション雑誌「nino」。
ここの寮で暮らすモデルは、何らかの事情で入ってきた人がほとんどで、たくさんの苦労を背負いながらモデルをしているが、その代わり、衣食住は確保され、ninoのモデルとして出世出来れば、他の仕事も任されるだけでなく、寮の部屋も並みのモデルとは全然違う豪華な部屋になる。
ninoの中でもトップに君臨する、又はNo.5の内に入るモデルは別格であり、美貌やこれまでの経験で、全てを身につけている特別な女性。
位の高いモデルは簡単に会う事すらできないので、皆競うように高いお金を払いそしてファッションショーなどモデルに会えるイベントに応募するのだ。
「はいはい、皆〜、また新人ちゃん入って来たから仲良くしてね、こっちにきて」
スタッフさんがそう言って新たなモデルを招き入れる。
そのモデルを見た先輩モデルたちは口々に
「いやぁ、こりゃまた不細工な子達が入ってきたね」
「ね〜」
それを見ていた現人気No.3のモデル、愛理が口を挟む。
「そういう事言うもんじゃ無いよ、私にはわかる、特にあの子はのし上がるね」
そう言って愛理が指を刺したのは1番可愛いとは言えない子だった。
「ええ?」
「すごく目付きとかにやる気を感じる、キラキラ輝いてる、本当にモデルをやりたかったみたいな、そういう子はね、強いんだよ」
「そ……そうなんだ……」
その日から3人の新人モデルが加わり、新人は撮影の前、休憩時間などに先輩達から言われた雑用をやる事が多い。
誰でも最初はそうだ。
「凛ちゃん、あれ運んでくれる?今人で足りてなくて」
「分かりました!愛理先輩の楽屋ですね!」
「凛ちゃんはよく働くねえ」
「はい!新人なので!」
そう言って凛は愛理の楽屋へ荷物を運んで行く。
凛が居なくなると同時に事務所の扉が開いた。
そこには、この雑誌内トップの麻里奈がいた。
「ま、麻里奈、新しい子入ってk……」
「うるさい、あんたに言われなくてもわかってるわよ」
相変わらずきついな。
その頃凛は愛理の楽屋に荷物を届けている最中だった。
愛理の楽屋から話し声が聞こえてきたので、凛は聞き入った。
「ねぇ聞いた?またこのninoのモデルが事務所の窓から落ちて死んじゃったんだって」
「聞いた聞いた、最近は人気だった花凛ちゃんがやめちゃってるし」
……死亡事故?
やめてる?
何で……
その時また別のモデルの楽屋から鳴き声が聞こえてきた。
そこには、麻里奈様と書かれた札が貼ってある楽屋だった。
麻里奈って、この雑誌のNo. 1のモデルじゃ……何であの部屋から、とりあえず行かなきゃ。
凛はそう判断して荷物を置いて麻里奈の楽屋へ行った。
部屋を見ると凛は驚く。
「ちょっ……ここめちゃくちゃなんだけどどうしたの?」
そう聞くと部屋にいた女の子は泣き出す。
凛が黙って見ていると後ろから気配を感じた。
「あんた人の楽屋で何やってんの?」
凛はあまりの圧に振り返ることができない。
今まで凛はこういう経験がなかった。
「ねぇ、耳が聞こえないわけ?」
「ま、麻里奈!その子は新しく入ってきた子なの!だから……」
私がそういうと麻里奈が睨みつけてきて私にこう言う。
「は?だったら何なわけ?優理」
「え、いや……」
私が困っていると凛が話し出す。
「勝手に楽屋に入ってごめんなさい!あの子が泣いてて入って、それで部屋がすごかったから……」
「ふぅん、てかよくよく顔見るとあんた不細工だね、よくこの雑誌に入れたもんだわ、やめた方がいいんじゃ無い?」
「……」
「まぁ楽屋はめちゃくちゃだねぇ、こういうのは見つけたやつが片付けとくもんなんだけど」
そう言って麻里奈は皆がいる前で泣いている女の子の髪の毛を引っ張る。
そして床に頭を叩きつけた。
「痛いっ……」
「痛いじゃ無いよ、早く部屋を片付けて」
「す、すぐやりますから離してください!」
凛は呆然と麻里奈を見ている。
当たり前だ、新人なんだから。
私が止めなきゃ、ここは。
そして私がガシッと腕を掴む。
すると麻里奈は今までに無いくらいの冷めた顔で睨みつけてきた。
「その子から手を離して」
私も睨みながら言う。
新人モデルが入る3日前、事務所の最上階、10階の部屋で話しているモデルたちがいた。
そこは、許可をもらえないと入れない。
麻里奈が許可をもらって話をしていた。
「ねぇ、良い加減にしてよ、麻里奈」
「何を?」
「この雑誌の中のモデルを怪我させたり、じさつする子を出すのをだよ、じさつした子は麻里奈がいじめころしたような物でしょ?」
「ひどいこと言うなぁ、唯ちゃん、どうして私を叱るの?私をイライラさせたり、癪に触るような事をする子達が悪いじゃん?」
「今までずっと麻里奈がNo. 1で逆らえない子が多かったし目を瞑ってきたことが多いけど麻里奈の場合は度を越してるし庇いきれない」
「ねぇ、唯、誰のおかげでこの雑誌がこれだけ大きくなって寮代だってどんだけ賄ってるとおもってんの?ていうかそういうのは言わない方が賢かったりするのよ?あんたは頭の回るやつだと判断してたけど違ったみたいね、残念だわ、唯」
そう言って麻里奈は窓から唯を突き落としたのだ。
そのことを麻里奈は思い出し、イライラしたのか私の頬を容赦無く引っ叩いた。
「気安く触んじゃねえよ優理」
「麻里奈……!お願いだから勘弁して!もうすぐ撮影の時間だから!」
「スタッフさん顔をあげてよ〜、私こそキツく当たってごめんね〜、手当てしてやってよ」
そんな感じでしばらくすると麻里奈に耳を引っ張られた子は次第に撮影に来なくなった。
そしてある日の撮影の時、私と麻里奈が被った。
「ちっ、お前かよ、最悪」
「麻里奈、後で話がある」
「何?」
そう言ったと同時に撮影に呼ばれた。
数時間後。
撮影が終わると私は即麻里奈に話しかけた。
「麻里奈」
「何?」
「私は麻里奈に言いたいことがあるの」
「早く言えよ」
「このあいだ髪を引っ張って怪我させた子に謝って、例え麻里奈の稼ぎでこの雑誌が回っていたとしてもあの子は麻里奈の所有物じゃないし何してもいいわけじゃない」
「は?下らねえ説教を垂れんな、あんたみたいな不細工が私にそんな事言って良い立場だとでも思ってんの?ていうかこの業界じゃ女は商品なんだよ?物と同じで売ったり買ったり壊されたり、トップが何をしても良いんだよ、私は不細工は飯を食う資格ないと思ってる」
「自分がされていやな事なんでするの?だめなんだよ、麻里奈だってやられたことあるのに何でそんな事……」
「人にされていやだった事、苦しかった事は人にやって取り立てるの、それが私の生き方だから!」