スレタイ通りの内容カラカラ文章リハビリ施設のスレです。
三日坊主の達人なので三日も続かないかもしれませんが、なんとか数文字だけでもつなげていきたい所存…
「おそい」
彼女はバス停のベンチに座っていた。彼女の背景である夕方と夜の合間の空は、赤から紫、そして青までのグラデーションが美しい。
空に注目していた私の視界に、彼女の長い三つ編みがふと映り込んだ。そうかと思えば、彼女の猫っ気のあるアーモンド形の瞳と目が合っていた。その瞳が、すうっと細くなる。
「あやまれっつってんの」
「ごめん」
「即答はヤバイ」
三つ編みメガネで優等生なのに、その口調もヤバイよ。私がそんなことを心のうちに留めて、ベンチから立ち上がろうとしない彼女の手を引いた。
「帰ろう」
「なに、おまえが遅れてきたくせに」
「ごめん」
「もうええわ!」
今度は急に芸人のネタの締めセリフみたいな口調になっている。彼女はやっと腰を上げた。
空の複雑な色合いに溶け込んでしまいそうなどこか頼りない後ろ姿を見とめる。私は思わずその手を掴んだ。
「どこにもいかないでね」
ぱち、ぱち。
長い睫毛が二度ほど瞬きによって震えて、それから彼女はいたずらっぽく破顔した。
「むり!今から家帰らなきゃだから!」
またね、と彼女は私に手を振った。
「またね」ということはとりあえず明日も会えるのだろうか。
夏の終わり、薄明の空。
心の奥にはどうしようもない焦燥感と落胆が残っている。
お題メーカー:隣との距離
「いや、近いって」
「そう?」
「なんで机に対して、おんなじ側に二人並んで座らんといけんのよ」
彼は声をなるべく押し殺して僕に言う。
ページをめくる乾いた音、机とペン先の擦れるコツコツ音、読み聞かせコーナーからほんのり聞こえる司書の声。
ここは図書館だ。当然静かにしなければならないだろう。
「うるさい」
神妙な面持ちで注意をくれてやった。
「お前が向こう側座ればいい話だろ!ほら隣座ってると腕当たって邪魔だし…!」
「声が大きい。周りの人、迷惑してる」
ここまでいえば彼はすっかり黙り込んでしまった。それから一つため息をついて、やっと課題の冊子に手を伸ばす。
…と、その手がぴたりと止まった。
「やっぱりやめだ!」
そう言いながら読み聞かせコーナーに駆けていく彼をうっすら見ていると、「読み聞かせてる本に登場した場所に今から行くぞ」とユーチューバーの企画みたいなことを言う。
わかったとひとつ頷いた。
そんなこんなで僕らは火山に行くことになった。
お題メーカー:
笑い方を忘れた受験生と薬処方中毒の精神科医の「はじめまして」から「さようなら」
「はじめまして」
白衣の胡散臭い男はそう言って微笑んだ。「あなたの主治医となりました。どうぞよろしく」と男は続ける。銀縁のメガネのレンズがギラリと反射した。
「精神疾患ですかね」
「…おそらく」
「笑うのはつらいですか」
僕は口元をつりあげて笑おうとした。しかし表情筋がうまく動かず、ぎこちない変顔と化した。
「無理です」
「今の顔は大分面白いですけどね」
医者はペンを手元で軽やかに回した後、「よし」と声を上げた。
「この薬を渡します。好きに飲みなさい」
「これは?」
「ワライダケの成分の入った薬です」
「ワライダケって毒じゃ無いんですか?」
「薬は毒にもなりうるんですよ」
話はまだ終わってないのにさっさと回転椅子から医者は立ち上がった。僕も一つため息をついて、診察室を後にした。