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2:カス兎◆rg:2021/12/21(火) 02:45 ぼくのログハウスがあった地点から、だいぶ離れた頃、雪でフカフカだった足元の様子は大きく変わる。
雪の積もり具合は浅く、氷の地面は靴底で、かつかつ鳴る。
前を見ると、雪原の景色が、険しい氷の急斜面が遥か下に続く景色に一変していて、
凍てつく氷の急斜面からは、巨大な氷柱が生えて、恐竜の下アゴみたいな地形をしている。
「まぁ…? 獣人のぼくならいけるしー…」
大自然に対する若干の不安を、ぼくはぼく自身に強がることで、掻き消そうとしたのかもしれない。
「自然は獣人の友達!雪山さん、よろしくね!」
そうしてぼくは一歩を踏み出した。
移動には、雪原地帯の時みたいに、ただただ歩いて進むわけにはいかない。もし急斜面上を堂々と歩けば、すぐに足を滑らせて、ジ・エンドだ。
なるべく安全に進むには、氷柱という突起物の生えた地形を利用する。
「ぐぬぬぬーー…」
手を猿みたいに、め一杯、氷の突起物へ伸ばして、掴めたら、足も次の氷の足場へ運ぶ。
ここを下るには、その地道作業を繰り返すしかない。
ひゅうひゅう、と冷たい風が落下の勧誘をし始めたら、壁に身を寄せ、風が収まるのを待つ。
それ以外の時は、手を伸ばして、氷柱を掴み、足を移して、手を伸ばして、氷柱を掴み、足を移して、手を・・・ とにかく繰り返す。
そのうち、ぼくは気づいたのだが、現在全身で扱っているこの大自然に感じていたはずの不安が薄れてくる。
「めんどくさぁー…」
それどころか、脳内では、”ヘリコプター„とか、”ゴンドラ„とか、”車„とか、そういう人間の移動手段が浮かんでくる。
ーー あぁ、ヘリコプターなら、いちいちこんな苦労せずに済むのに。 ーー
「ハ ッッ !」
しかしぼくは、すぐに自覚する。
「今!ぼくは、何を考えていたんだ…?」
「 やはり…!やはりやはり! ぼくは人間の文明に毒されているぅぅ… えぇーーん」
「………ぼくは、獣人だ。人間を殺して、全ての獣人を救う使命があるんだ…!」
ぼくは、移動の速度を早める。氷柱を飛び移るように駆けたのだ。
人間よりもうん十倍もの身体能力を誇る獣人だけができる芸当。
この場に居もしない人間に見せつけるような動きで、次々と氷柱を渡る。
「どうだ!こうやって自然と触れ合える。これが…これが!獣人だけが… っ あ !」
妙な浮遊感覚に、全身の毛が逆立つ焦燥に、頭が真っ白になった。
恐る恐るより前に視線を下にズラすと、足掛かりにした氷柱が割れた皿みたいに裂け始めていた。
「あ、あ、あ!ちょっ…と待ッ」
「てぇぇぇぇぇぁぁぁ!!!」