鉛色。
この街の空は、いつもそんな色をしていた。
「梅、授業終わったよ」
「……んぁ?」
聞き慣れた友人の声で、梅は目を覚ました。
「大丈夫?」
「平気平気。妹が昨日夜泣きしちゃったんだ。」
「でも仕方ないんだ。お母さん、お乳が全然出ないから。私だって、きっとあんなに小さくてお腹が空いてたら泣きたくなる」
「そうだね……ね、ちゃんと大きくなれるといいね」
「……そうだね」
でも、と梅が言い掛けたその時。
けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
「梅ちゃん、かよちゃん、こっち、こっち!」
近くに住む家の女性が飛び出して来て、二人を家の横にある壕の中へ引き入れる。
しばらくそうしているうちに、頭の上をバラバラと飛行機が飛んでいく音がして。
「……お腹いっぱい食べて大きくなれても、さ」
この先この国で、あの子は幸せに生きていけるのかなあ。
1944年。
梅の日常は、いつも戦争と隣り合わせだった。