僕の彼女は、魔法使い。
「柿谷くん」
とててて、と僕の方へ駆け寄ってきた。アルマちゃんは今日も変だ。
彼女の大きな黒い瞳は、全てを見つめている様で何も映しておらず、そして何も語らず。
「毛虫がたくさん採れました」
「うわっ!」
その突拍子も無い行動も。
彼女が両手を開いた先に居た、目を塞ぎたくなるそれに思わず悲鳴を挙げた。背中がぞわりとする感覚に襲われた。
女の子って普通虫とか苦手じゃないのか。苦手じゃなくとも、それを両手いっぱいに大事そうに持っているのは如何なのだろうか。
「かわいいですよね、毛虫」
「かわいくないよ!」
「柿谷くんの意見は聞いてません」
「なら語りかける様に話さないでくれ!」
「ありがとうございます」
やっぱり、アルマちゃんは変だ。
「アルマちゃんの髪って、不思議だよね」
放課後、僕はアルマちゃんの庭掃除に付き合っていた。庭と言っても、学校の花壇の一角をアルマちゃんが勝手に使っているだけの物だ。
する事がない僕は、まだ芽も出ていない茶色の土を、ぼーっと観察をしているアルマちゃんの観察をする。太陽は真上にある。彼女の細く長く結われた三編みは、その光を全て反射してしまいそうだ。
「なにがですか」
触れたいなあ、なんて思ったその時、不意に彼女が振り向いた。僕は思わず出掛けていた手を慌てて引っ込める。
「だって、白いじゃん」
「おばあちゃんは皆白です」
「君はまだ16だろ」
僕がそういうと、彼女は決まって口を開くのだ。
「アルマは、魔法使いです」
やっぱり、アルマちゃんは変だ。
「柿谷くん柿谷くん」
珍しくアルマちゃんが焦った様に僕の机までとててて、とやってきた。普段殆んど感情を見せない彼女だから、何があったのかと僕も少し焦る。
すう、息を吸うとアルマは言った。
「うんこ味のカレーか、カレー味のうんこか!」
言ったのだ。アルマちゃんの瞳は真剣だ。対する僕は空気の抜けた風船だ。あまりのくだらなさにため息が出た。
あまり興味を示さなかった僕に、アルマちゃんはむ、とむくれる。
「これは究極の選択です、世界の真理と現実、善と悪の境目、古代ギリシャから考えられてきた万物の根源をも凌駕しますよ」
うんこにそんな可能性感じたくない、と僕が口を開く前に、アルマちゃんは話を続けた。ここまでよく喋る彼女は初めて見たし、初めての話題がなんて稚拙なのだろうと落胆もした。
「……つまり、うんこ味のうんこですね」
それは何か、大切な何かを失う何かが混濁しているのではないだろうか。
やっぱり、アルマちゃんは変だ。
(あと、稚拙だ……。)
>>4
>すう、息を吸うとアルマは言った。
アルマ"ちゃん"が抜 け て お る Σ