イベリア兄弟に飢えて支部を彷徨っていたとき丁度ジャンプ+にイベリア話が来て「うわあああああキタ――゚(゚´Д`゚)゚――!!」とガチ泣きしそうになったとき衝動で一日で書いた小説です。
他のサイトにうpしようとしたけどいい終わり方がなくてボツに……
せっかくなので葉っぱ天国で晒してみます
1937年4月29日。
ポルトガルは最小限の護衛と共に、スペインのとある建物――――反乱軍の拠点に訪れた。
ポルトガル達が入口の前に立ったとき、ピリピリした雰囲気が漂う厳しい兵たちに囲まれた。
「俺はポルトガルや。許可は貰っとうで」
「……こちらへ」
兵達に囲まれたまま屋内に案内される。
報道陣が政治家を囲むようにポルトガル達は兵の壁に動きを制限され、彼らに押し流されることしかできない。ポルトガル達に余計なことをされたくないらしい。
警戒しすぎだと思わないこともないが、自分と自分がこれから会おうとしている相手の立場を考えれば仕方がないだろう。
しばらく歩くと、とある扉の前で兵の動きが止まった。
(ここに『アイツ』がおるんやなぁ)
木製の簡素な扉の前には、不釣り合いな重武装をした警備が二人、並んで立っている。
「Sr.ポルトガル。ここで――――」
「武器を出せばええんやろ?あとここに入れんのは俺だけ、制限時間は30分やんな?」
己の主とは違い察しがよかった警備は、ポルトガルの「御託はいいからさっさと通せ」という言外の主張を察した。
ポルトガルはいつもの飄々とした笑みを貼り付けたままだが、滲み出る怒気が隠しきれていない。
警備はおずおずと扉を開けた。
「じゃあな」
警備に武器を預けたポルトガルは、部下にひらひら手を振りながら、扉の向こうの闇に姿を消してゆくのだった。
[表記がありませんが、↑の話は 「Act.1 面会」というタイトルでした]
部屋の中は簡素で、書類が積まれた机と観葉植物しかなかった。唯一の窓はシャッターが下ろされ、照明は消されている。部屋に差し込むのは、シャッターの隙間から漏れ出す微量の光だけだ。
漂うホコリが細い光の筋を反射して銀砂のようにキラキラと輝いている。
その僅かな輝きさえ嫌うように、『あいつ』は部屋の隅の真っ暗闇で毛布を被って震えていた。
「久しぶりやなぁ」
声をかけるが反応が無い。無視か?否、気づいていないのだろう。
毛布を抱えるように抱きしめて、もう一度「久しぶり」と声をかけると、毛布の塊が縮こまった。そして怯えるように震える。
ポルトガルは新たなアクションはせず、ただただ毛布を抱きしめたまま待った。
数秒後、もぞもぞと毛布が動き、中からポルトガルと瓜二つの男が現れた。
「ポ……ルトガル?」
「そうやで、ポルトガルやで〜。お兄ちゃんが可愛い可愛い弟(スペイン)のところに来たったで〜」
ポルトガルは猫撫で声で茶化して答える。
いつものスペインなら「子供扱いすんな!」とか「うるさい!」とか真っ赤になって喚くのだが、今日は違った。
ポルトガルの胸に頭を擦りつけて、彼をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
兄分の存在を確かめるように、縋り付くように。
よく見るまでもなく、スペインの目の下には酷いくまが出来ていることがわかった。
血の気も完全に失せている。彼は小刻みに震えたままだ。
「何で……来てくれたん?どうして来れたん?」
「ん、不満か?」
「違っ――――」
焦るスペインを無視して、ポルトガルは面白がるように続けた。
「せやねえ。お前がダメダメになっとうかなぁ思て、上司に無理言って来たったわ」
「…………」
「よしよし」
大昔、まだお互いが少年と形容できる容姿だったころのように柔らかく弟分の頭を撫でてやると、とうとうスペインの堰がきれた。
「兄ちゃ……う、うぁぁぁ、ううぅあぁ!」
いつも嫌というほど能天気な笑顔を浮かべる彼は、大粒の涙をこぼして子供のように号哭した。
床にうずくまって腕に顔を埋めてひとしきり叫んだあと、震える微かな声で己の抱える気持ちを吐露し始める。
「痛い、いたい、怖い、恐い、苦しい、気持ち悪い、熱い、暑い、冷たい、寒い、キツい、えらい、えらい、暗い、暗い、暗い、嫌や、いや、いやや――――」
ポルトガルは怯えるスペインを、複雑な気持ちで見下ろしていた。
今、スペインはまさに体を二つに引き裂かれるような感覚なのだろう。
彼は気が狂う直前まで追い詰められているのだ。
もともと最近スペインは内戦のせいで不調であったが、これまでにも何度かあったしもう慣れていたこともあって、まだ空元気を振りまく余裕はあったようだった。
しかし案外内戦は激しくなり、日に日に彼はやつれていって、『空元気』がただの『空』になり、そして、追い打ちをかけるように、4月26日。
スペインは世界のどの国も体感したことのない攻撃を受け、傷を負ったのだ。
2日前、つまり4月27日。
ポルトガルは、ロイター通信を読んだイギリスから「一応、お前は知るべきだと思って」と連絡を受けてそのことを知った。
弟は守るべき仲間がいるととにかく図太いが、孤独には弱い。
―――ただでさえ国の人間が割れていて、戦争中でキツいだろうに加えてこの爆撃。
この状況でスペインが狂ってしまったら……考えるだけで恐ろしい。
彼の戦闘力はバカにできないし、国民にどんな影響が出るかわからないし、何より同胞が狂ってしまったという事実に俺たち(国の奴ら)が耐えられるか。普段朗らかに笑い続けていた友人が狂ってしまったときのショックは大きいだろう。
スペインを落ちつかせられるのは、昔から馴染みがあってスペインと対等か上の立場の国だけだ。
これはポルトガルの自説だが、当たっていると思う。
スペインは面倒くさい性格で、自分より目下か年下の相手には親分らしく振舞おうと気張ってしまうのだ。
恐らくスペインが弱みを見せるのは、ローマ帝国支配時代から付き合いのあるフランスと……ポルトガルの二国。
「…………」
ポルトガルは先日受け取った文書の内容を思い出した。
『スペインを反乱軍が手にした』
この『スペイン』という言葉が示すのは、国土や国のことではなく『国の化身』のことである。
内戦開始時は共和国側にいたスペインを、拉致したか誘拐したか。
手口は記されていなかったが。
とにかくスペインは反乱軍側にいる。
そして、ポルトガルは反乱軍側についている。
フランスは、国としては内戦には介入していない。
(俺が行くべき、なんやな)
ポルトガルは上司に頼み込み、まる一日かかって両国のお偉いさんを説得して、スペインと話す権利をもぎ取ったのだ。
*
ポルトガルが回想に耽っているうちに、スペインは泣きつかれて眠ってしまっていた。
うずくまったままのスペインを、彼が被っていた毛布の上に寝かせたとき、ドアがノックされた。
「時間です」
思っとったより早いなあ。
まだここにいたいと考えながらも、ポルトガルは「わかった」と返事をした。
スペインにほとんど何もしてやれなかった。
せっかく来たのに、少し話しただけで終わってしまった。
でも、彼を泣き叫ぶほど……苦手な相手に縋り付かせるほど追い詰めていた恐怖を、苦しみを、少しでも分かちあえたのならば。
彼が抱え込んでいたものを、受け止めてあげられたのならば。
「これで良かったんかな」
眠るスペインの頭をぽんぽんたたいてやると、スペインは安心したように相好を崩した。
スペインはよく能天気に明るく笑うが、こういうふにゃりとした笑顔はレアかもしれない。
――――たまに甘やかしてやるのもええなぁ。
弟につられて、我知らずポルトガルも口元を緩めていた。
昔戦ったり大喧嘩したり複雑な事情があり、二人は決して仲がいいとも言えない関係だけれど、それでも兄弟だからか、いつも心のどこかではお互いのことを大切に思っている。
「頑張りぃや。くたばったら許さんで」
おやすみ、スペイン。また会おう。
いつも俺は隣におるから。
敵対せん限りは、お前のこと応援したんで。
ポルトガルは踵を返し、一切振り返らず、帝国時代を彷彿とさせる力強い歩みで外へ出ていった。
扉が閉められ、再び部屋は静寂に包まれる。
*
30日。
拠点の一室で男が書類を睨みつつ朝食をとっていると、部屋の外から「ちょっと、待ったってください!」とかなんとか騒がしい声が聞こえてきた。
その後10秒も経たず、扉が勢いよく開かれる。
「buenos días」
現れたのは、焦げ茶のくせ毛の青年だった。
彼は遠慮もせず、ずかずか部屋に入ってきて男と対峙した。
「お久しぶりですね、閣下」
恭しいのは口調だけのようだ。
堂々とした態度の青年に見下ろされ、男は眉を僅かに顰める。
ここで今まで遠慮していたもうひとりの青年が耐えかねたようで、「失礼します!」と素早く礼をして部屋に駆け込み、大慌てで青年を引っ張って男の正面からどかせた。
「申し訳ございません、総司令官。止めたのですが、きかなくて……すぐ戻らせますので」
「――――いや、いい。君は退室してくれ。彼と少し話がしたい」
男が微笑んで返すと彼は戸惑った様子だったが、すぐに命令に従った。
男とくせ毛の青年は二人きりになる。
双方が沈黙すること数十秒。静寂を破ったのは男だった。
「手荒な真似をしてすまなかった」
男は神妙に謝罪した。
本心だった。
士気を上げるために必要だったとはいえ、たった一人で丸腰だった(そうなるように男が計った)祖国を、男は大勢に襲わせた。人間の勝手な理由で祖国を拉致してしまったことに、男は少なからぬ罪悪感を抱いていた。
「別にええよ。慣れとるし」
青年の答えはどうでもいいといった体で、男は面食らった。
戸惑う男を置いて、青年は「それよりな」とさっさと話題をかえる。
敬語が外れ、まるで友人にでも語りかけるような軽さだった。
「覚悟ができた。それを伝えにきた」
「……!」
「うじうじしとってすまんかったな。でも、もう決まった」
青年が数回目を瞬くと彼の雰囲気は一変した。
軽さも明るさも消え、堂々としているが最初とはまた違う、上辺だけではない恭しい姿。
驚いて立ち上がっていた男の元に、青年は跪く。
「私、スペインの化身は貴方に従います。反乱軍(貴方の軍)の勝利のために、全てを尽くしましょう」
男は呆然とすることしかできなかった。
千年以上も生き抜いてきた、一時は世界の覇者であった男が、祖国が、自分に跪いている。
その事実と青年の風格に圧倒され、息が詰まる思いだった。
「……そうか」
やっとのことで押し出したのは、そんな短い言葉で、自分でも情けなかったが同時に仕様がないと諦めていた。長い時を生きて様々なものを見てきた青年にとって自分は、まだまだ赤子同然なのだと思い知ったから。
青年は男の答えをきいて満足したのか、ゆっくりと立ち上がり、一度礼をしてから踵を返した。
ドアノブに手をかけた青年が、ふと振り返って笑った。
「期待しとんで」
その笑みに込められた思いは、嘲りか慈しみか嫌味か、男は理解することができなかった。
青年が完全に扉の向こうへ姿をけしたとき、男はやっと椅子に座る。
そして深く溜息をついたあと、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
終わり
・ポルトさんと親分の仲が良すぎる
すみません、作者の妄想を無理やりつぎ込んだ結果です。
原作には兄弟設定なんてないのですが、好きなので盛り込んでしまいました。
なんか腐ってるように見えるかもしれませんが、一応ひねくれた兄弟愛ということで……
・爆撃って?
Act.3のタイトルにもなってる有名なアレです。
一応wikiを読んでから書いたのですが……いろいろ作者が都合のいい解釈をしてしまった可能性があります。不快に感じた方はすみませんでした。
・『男』について
ハイ、反乱軍とか総司令官とか出てる時点でお察しの通り例の独裁政治のあの方です。
一応彼のwikiも読んだのですが……性格とかなんとか恐らく全くの別人となっておりますので、
男=『ブランコ』将軍(!独裁のあの人とは名前と立場の良く似た全くの別人です!)
みたいなイメージでお願いします…………すみません。
ちゃんと話を始める前に、「イベリア仲良すぎ注意」「史実をベースにしたつもり」「実際の人物のパチモノが出てきます」などの注意書きを入れるべきだったのに、すっかりと忘れていました。
読んで不快に思った方、ほんとうに申し訳ありませんでした。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
衝動で書きなぐったものなので、自分でも読んでいてなかなか酷いと思ったのですが、
それでも愛と気合はいっぱい詰め込んでいます。
楽しんでくださった方がいれば、心のそこから嬉しいです。
閲覧ありがとうございました。