お久しぶりの方はお久しぶり、はじめましての方ははじめまして。
アポロです。大量の別の小説の更新溜まってますが全て書く気でいますので安心してください。
ルールと注意です。
・荒らし、なりすましはNG
・原作に沿ったり沿わなかったり
・ここは私個人の小説ですのでリレー小説ではありません
・ここはみんなで書こう! と言う所ではないので私以外の小説の書き込みはNGです
・コメントは大歓迎です
・パクりや晒しに来たのなら速やかにUターンしてお帰りください。迷惑です。
・長編、短編を書き溜めていきます。
・女主、男主は恐らくチートかヘタレ。
固定ネームは『小原いおり』です。
プロフィール(女版)
小原いおり(16)
誕生日 …4/12
血液型…A型
個性……『剣炎』
身長……170cm
体重……52kg
髪型……肩上のショートカットに毛先が外に跳ねている黒髪。時々カチューシャをつける。
顔………イケメン、眼鏡着用
口癖……『大丈夫やろ』『くそが』
一人称…「こっち」「俺様」
備考
性格はクール。楽しいことは好きなのだがそれがあまり顔に出ず冷めていると思われがちである。クールだがそんなことはない。
口数はまぁ少ない方である、全くしゃべらないわけではない。関西弁。
身長が高く、胸さえ見なければ整った容姿と相まってイケメンになる。(胸はG)
彼女の個性、剣炎は掌やから剣を取り出したり、空中にいきなり炎を出してそこから剣を取り出したり。炎単体では汗は炎に変換しないが爆豪に似ている。
耳郎響香と居ることが多く、恐らくクラスで一番仲が良い。そのせいか男子からよく「発育が正反対」と言われる度にソイツ炎を飛ばす(主に峰田、上鳴)。
耳郎と仲が良ければ必然的に上鳴電気ともよく喋る。
とりあえず出席番号は切島鋭児郎の次。
身体能力でさえ高いのだが個性も相まり半分チート。
自分の個性に合わせて剣を使うために居合をしたり剣道をしたり、炎を使うために空手(威力重視)をしたり少林寺拳法(形重視)をしたりハイスペック。
勉強は普通。
ではでは!
短編(いおり君男主、歳上、名字変換)
【八百万 百とお兄さん】
小さい頃、と言っても小学四年生頃から、八百万がよくなついていた青年が居た。歳は20、成人したてである。眼鏡を掛けて短髪で毛先が外に跳ねている黒髪は顔も整っているからか綺麗に見える。
電気の個性を使う青年はバリバリの戦闘系ヒーローでもあり、その場に限らず日本中に名を轟かせている青年だった。
「いおりお兄さん、こんにちはですわ!」
六年生になったばかりの小学校の帰り、ランドセルを背負ったままの八百万はいおりを見つけて駆け寄る。その声に反応し、振り向いたいおりと呼ばれる青年は笑顔を見せた。
『ははっ、百ちゃん! こんちは!』
「いおりお兄さんはなぜここにいたんですの?」
『任務の帰りだよ』
そう言って優しい笑顔で頭を撫でてくれる。もう小学六年だったので少し気恥ずかしかったが、その大きな手が八百万は好きだった。八百万は今日自分が本で読んだことをつらつらと学習したと言うのに対して『やっぱり百ちゃんは賢いな』と微笑む。その笑顔もまた、八百万は好きだった。
その一週間後、その青年はその地から、メディアからも忽然と姿を消してしまう。
今思えばそれが八百万の初恋だったのかもしれない。
**
「……と言う訳ですわ」
「へええ! 羨ましい!」
「その男の人かっこいいねぇ!」
1-A組教室内、八百万はそんな昔の事を話した。最初の話題は「クラスのかっこいい人物」から「初恋の人」の話へと転じ、白羽の矢が八百万に立ったのだ。
「また会えれば良いね!」
「会えれば良いのですけど、あちらは私の事を覚えているかどうか」
もう四年も前の話だ、こちらははっきりと覚えていてもあちらはもう覚えてはいないだろう、何せ現役のヒーローである。助ける人は万人を越える、そんな中の一人にしか過ぎなかった自分の事を覚えてくれている可能性は高くない。
「その人がここで先生としてやって来たり!」
「すごく偶然ですわね」
**
「上鳴くん、よく雄英の教師を引き受けてくれた!」
『相変わらず画風が違いますねオールマイト。もう俺のこんな左足じゃ日常に支障は出なくても、戦闘には出れませんから、これからのガキの手助けになれば良いと思っただけっすよ』
「そうか! いい心掛けだ!」
『かかっ、褒められても全然嬉しくねぇっすわ!』
オールマイトを前にしてけらけらと暴言を混じらせて会話をする男は黒と白のスーツを身に纏い、整った顔もあり、爽やかな印象を受ける。眼鏡もありインテリである。
「そうそう、君の弟の電気君は頑張っているよ」
『マジか電気!』
「電気君のクラスの副担任だが大丈夫かい?」
『かかっ! アホ電気のクラスの副担任すか! 電気にもここに配属になったことは言ってねぇっすから、アホ面拝んできますよ』
「そうかいそうかい!」
男は黒髪に黄色い生まれつきのメッシュを光に煌めかせた。
【続】
.
【八百万 百とお兄さん 2 】
翌日の朝のホームルーム。騒がしかった教室内は扉をがらりと開けた相澤消太の登場を機に静かになる。
相変わらず気だるげな風貌で教壇に立った相澤にみんなは何を言い出すのかと緊張した面持ちで構える。
しかし。
「今日からこのクラスの副担任が来る。もう扉の前に居るから」
唐突なその言葉にみんなが唖然とするなか、「入ってきていいよー」と間延びした声で告げる。
がらりと扉を開けて入ってきたその眼鏡の男にみんなが固まった。
短髪で毛先が外に跳ねた黒髪に右の前髪に生まれつきの黄色いメッシュがあり、整った顔を眼鏡がかけられている。
身長はゆうに180cmほどありそうな爽やか系イケメンが黒と白のスーツを着て微かに笑顔で立っていた。
そしてその姿を見て間髪入れずに席からガタンと立ち上がったのは「上鳴 電気」である。
「い、いい、いおり兄(にい)!?」
指を差して唖然とする上鳴に眼鏡の男は『指差すんじゃねえクソ電気!』と上鳴の体にばりばりと電気を飛ばした。ぷすぷすと煙をあげる上鳴にみんなが心配そうに視線を向けるなか、眼鏡の男は口を開く。
『アホ電気のいった通り、電気の兄、上鳴いおりだ。今日からこのクラスの副担任になったんだ。よろしく』
八百万は唖然と、呆然としていた。あまりにも似ていた、小学校高学年まで恋をしていたあの男に。あの雷の形をした黄色いメッシュは見間違える筈もない。
八百万が声をあげようとしたとき、緑谷が「あ、あのっ! すいません! ヒーロー名はっ!?」とやや固まり気味にいおりに聞く。
『ヒーロー名なー。俺もうヒーロー引退したからなぁ』
「え、そんな若えのにっすか?」
切島が意外そうにいおりを見つめるなか、いおりは緑谷の問いに答える様に自身のヒーロー名を告げた。
『俺のヒーロー名は“ライジングナイト”だよ』
その言葉にクラス一同がシンと静かになった。そしてしばらく間を置いて弟の電気以外「ええええ!?」と大声をあげる。
そして緑谷のヒーローオタクの本領が発揮される。
「ライジングナイト!? 四年前に姿を消した雄英高校を卒業して間もなく超一流になった人じゃないですか!」
「私も知ってるよ! ライジングナイトの個性は雷(いかずち)で具現化能力があってその具現化能力で剣を作って颯爽とヴィランを倒した有名ヒーロー!」
関西でもちょー有名だった! と緑谷に続き麗日も続く。いおりは「俺も有名になったもんだなー!」とからりと笑う。
「な、なんで現役引退したのはなんでないですか!?」
『それは日常に支障はでないけど戦えない足になっちゃったからー!』
ふぅっふー! とか言いながらハイテンションで拳を突き上げる兄に電気はなにかを知っているのか悲しげな顔をした。
『まあそんなことは置いといて、これからよろしく!』
笑顔でそういったいおりの笑顔は、八百万には悲しげに見えた。
**
「……いおりさん」
休み時間、意を決して私はいおりさんに声を掛けた。誰だ? と振り向いたいおりさんは私を見て目を見開く。
「……私のこと、覚えてますか」
その一言にみんながこちらを見つめるが、怯む気はない。いおりさんは困ったように笑って『もちろん、覚えてるよ』と頭を掻いた。
「いおりさん」
『なんだい百ちゃん』
___ずっと、好きでした。
.
御姉さんシリーズ再開(いおりくん身長175cm)
昼休みが過ぎ、午後の授業。いよいよヒーロー基礎学である。
私が来た! とか言いながら普通に入ってくるオールマイトにみんなで突っ込みながら話を聞く。どうやら戦闘訓練の様だ。
みんながみんなヒーローコスチュームに着替えて登場する。こっちのコスチュームは一見普通に見えるが、ちゃんと意味がある。
こっちの個性は赤色の物を身に着けていると威力が上がる。なので赤い縁だったりと全体的に赤色。実を言うとこっちはみんなに比べて脚力がない。筋肉はつけているが如何せん少し太いこっちはブーツでツボを刺激して脚力をあげたのだ。
戦闘訓練はペアをくじで決め、ヒーロー側とヴィラン側に別れて核(ハリボテ)を奪う守るというものである。一番最初はヒーロー側麗日、緑谷ペアバーサスヴィラン側飯田、爆豪。
最初は爆豪が緑谷めがけてとびかかる。そこから麗日は上の階を目指して離脱する。
爆豪と緑谷の戦いで、爆豪が攻めに攻めまくり大乱闘。建物を半壊させるまでの威力を出した。
とりあえずは緑谷ペアの勝ちとなったがあれは多少気が緩み過ぎており、良いものとは言えなかった。
そんなこんなで初の戦闘訓練は幕を閉じた。
**
翌日のホームルーム、相澤先生が教室に入ってきて、「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」と言葉を紡ぐ。爆豪と緑谷に注意をして、「急で悪いが今日は君らに……」と続けたことによりまた臨時テストか、と身構えた。
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たーーーー!」
大きな大きな杞憂であった。
.
口より手が先に出る口悪性格悪俺っ娘女主の長編。恐らく落ちは上鳴。
お姉さんシリーズもこれも両方書きます。クロスはありません。
**
とある日。
『くっそしつけぇ』
雄英高校ヒーロー科A組在籍、小原いおりは席についている轟を見下ろしながら愚痴を溢した。轟はまるで興味が無いように「そうか」と腕を組みながら流す。もう毎度毎度の事だ、しつこすぎて腹が立つ。
『なんなんだよアイツマジねぇわくっそしつけぇ。顔面吹っ飛ばしてぇ』
「犯罪はやめろ」
『そういうことじゃねぇだろ轟ぃ。てめぇアレやられてみろよ轢きてぇくれぇ引くぞ。なんなんだよアイツのしつこさ。
腐ったチーズにブルーチーズ溶かしたもんをぶっ掛けた時の臭いみてぇにしつけぇ』
「お前その罵倒ボキャブラリーはなんなんだ豊富過ぎんだろ。それを俺に言ってどうしてほしいんだ」
『とりあえず半冷半燃で凍らせろ。俺が後で爆破する、それか叩き斬る』
「相変わらず物騒だな」
『もうそれくれぇしねぇとやってらんねぇよくそが』
はぁと項垂れ溜め息を吐いた目の前の眼鏡を掛けたクールイケメン美人、小原いおりに轟は自分が溜め息を吐きたくなった。見た目は良く、イケメン、しかも爆乳なので男子女子が寄ってくる。だが喋り方を聞けばギャップにやられ余計に言い寄るか引いて去るかのどちらかだ。まぁこのクラスにそんなやつは居ない。
黙っていれば良いのにと思う轟だが一応それも予防線になっているので、今のところ轟が想いを寄せる、小原と言う想い人に言い寄る男女は少なく安心している。いや、一人だけ居るのだが。
「小原ー!」
『マジかよツイてねぇわ』
小原は扉の方を見、顔を歪める。先程の愚痴の中心人物が昼休み中盤のこの教室に入ってきた。ソイツは笑顔で小原に寄ってきて隣に当たり前の様に立つ。
黄色い髪に雷型の黒メッシュ、つり目でチャラ男と知られる上鳴電気である。
「小原、今日飯行こうぜ!」
『全力で遠慮だわ』
「良いじゃん! ぜんざい旨いとこ見つけたんだって!」
『ぜんざい持ち出すの反則じゃねぇかよくそが』
「気にすんなよ! 行こう!」
『だから遠慮するっつってんだろ相変わらずしつけぇなてめぇは!』
「どーも!」
『褒めてねぇ!』
目の前で拒否する小原、折れない上鳴のやり取りを見て轟は盛大に溜め息を吐き出した。
上鳴の小原への好意は目に見えている。だがそれに気が付かない小原も小原だ。鈍感過ぎてコチラも困る。幾度となく轟もアピールはしている。だがしかし、そのアピールに気が付かないほど鈍感な小原。上鳴の誘いは嫌がらせをしているとしか取っていないようだ。
だがめげない上鳴。轟はそのめげなさを僅かに尊敬していたりする。だって流石にここまで普通来ない。
「なーもーホント行こうぜー。俺が奢るからさー」
『だから行かねぇって!』
「八百万と前行ってただろ?」
『百は女子だろーが! つーかなんで知ってんだてめぇ怖いわ!』
(……確かに)
轟が同意としてこくりと頷けば上鳴が眉をしかめた。マジかよ的な。
「もー行こうぜ小原ぁ!」
『だっからしつけぇっての!』
結局このあと毎度のごとく小原が折れた。
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なんか色々書きたいのがめっちゃ溜まっとる……(汗
恐らく長編! 爽やかイケメン女主、個性は発火。発生源が必要なので強く擦れば摩擦で火花が起こる手袋を装着。手袋が使えなかったら歯をカチッと強く噛み合わせて火花を起こす。恐らく逆ハー。非チート。眼鏡は着用する。赤色のものを身に付けていると個性の威力が上がる。
【爽やかイケメン発火少女】
轟side
「いおりくん、おはよう!」
『ああ! おはよう麗日! 防寒完備だな!』
「おはようございます、いおりくん」
『八百万もおはよう! 最近はめっきり寒くなってきたからな、マフラーでもつけて来たらどうだ?』
「ええ、そうしますわ」
女子からの挨拶全てに律儀に爽やかな笑顔で言葉を返すのは、発火個性を持つ日番谷(ひつがや)いおりだ。爽やかなルックスとさっぱりした性格のお陰か女子からの人気は雄英随一。
そんな彼女も俺達も、もう高校三年の冬。あと少しで卒業だ。そんな彼女に最後のチャンスと這い寄る男女は少なくない。書く言う俺も、そうなのだが。
「おっはよーう小原!」
『おはよう上鳴! 今日もイケメンだな!』
「マジで!? じゃあ俺と付き合って!」
『お前はイケメンだがそれは無理な頼みだな。あたしに今好きな人物は居ないし、中途半端な気持ちでお付き合いは相手に失礼だろう』
「イケメン過ぎかよちくしょう!」
はっ、ざまあみろ上鳴。小原はそんな軽々と付き合いを始める女じゃない。席に座って緑谷にも言葉を交わし、爆豪のいきなりの怒鳴りを今日も元気だな! で終わらせた。
『おはよう轟』
「っ、あぁ」
『もう卒業だな、お前はエンデヴァーさんとこ行くんだろう?』
「まあな」
『あたしもちゃんと探さないとなあ』
「まだ決まってねぇのか」
『そうなんだよなぁ』
「じゃ「じゃあうちとおんなじ所にすれば?」
俺が同じところに誘おうとしたところへ偶然被さったのは、小原の親友とも言える耳郎で。俺達の会話を聞いていたのかぴょいと顔を覗かせた。
.
内心くそっ、とか思いながら「耳郎……驚かせるな」と睨んでみるが耳郎は気付きつつスルーしてくるからたちが悪い。
「うちのとこならいおりレベルの子歓迎すると思うよ」
『そうか……なら響香のところに』
「待て小原、多分親父がお前を勧誘しに来る」
『エンデヴァーさんがか? それは嬉しいな』
「でもうちと一緒の方がやり易いと思う」
「俺のとこは大手だから多分すぐサイドキックからヒーローに上がれる」
『どちらも魅力的なんだが……』
小原は申し訳なさそうに笑って「上鳴にも誘われててな、決めあぐねていた所なんだ」と視線をやりながら言う。上鳴め、手が速いな。
『まぁ、二人のとこも視野に入れてみるよ、知り合いは多い方が良いしな』
やめろ、爽やかに輝く笑顔を浮かべるんじゃねぇ。惚れ直すぞイケメンが。
轟のキャラ崩壊がだんだん酷くなる……ww
.
新しく長編開始! ×re!
【雲雀がヒロアカ世界に転生しました】
気が付いたら、僕は子供になっていた。目が覚めたら、っていうベタな展開。腕を見てみればトンファーはない。指輪もボックスもない。周りを見れば、並盛でもない。自分の細い腕も足も小さくて不便、思わず溜め息を吐いた。
「……なにここ、意味わかんない」
どうにかならないのかと指を結んでは開いて指輪を思い浮かべる。トンファーは最悪購入すればいいし、最優先は指輪やボックスだ。すれば驚いたことに指輪が人差し指にはまっており、片方の手にはボックスが握られていた。トンファーはイメージしても出なかった。
しばらくどういうことだとボーッとしていれば、この世界の僕の母親らしき人が指輪を見て「!? 個性なのね!」と言ってきた。個性ってなんだろうとか考えていたら、腕を引かれて病院に連れていかれた。
**
どうやらこの世界には『個性』と言う超常能力を人類の八割が持っているらしい。僕の個性は『雲の守護者』よくわかったな、とか考えてふぅんと鼻を鳴らした。
渋々親と言う存在に頼み、トンファーをもらって僕は高校に入るまで、やはり風紀委員として、最強として在っていた。
周りは草食動物より全然弱いし、まだ獄寺とか、山本の方がマシだった。つまらない。
そこで知った事。この世界にはその個性を使って犯罪を犯す敵(ヴィラン)と、そいつらから一般市民を守るヒーローが居るらしい。そのヒーローを育成するそれに特化した『雄英高校』。そこになら少しは強いやつも居るのかな。今まで喧嘩した奴は個性に頼りきりで相手にならなかったから。
ここ数年使っていない個性、ボンゴレリングを左手で撫でて、ふっと笑う。
今まで育ててくれたなんて恩着せがましい親に雄英に行くとだけ伝えて願書を提出した。自分の通う学校はすでに支配下に置いているので従順だ。僕は学ランを羽織って左腕に風紀の証を付けて、試験に挑んだ。
.
最強としてあり続けた僕は今、雄英のヒーロー科の受験会場にやって来ていた。模試は終わったけどヒーロー科には実技があるらしく、強いのかどうかだけが気になる。
すぐ目の前の会場に向かって学ランをはためかせていれば、後ろから「どけデク!!」と怒鳴り声が聞こえてきた。
「かっちゃん!」
「俺の前に立つな殺すぞ」
「おっ、お早う。頑張ろうねお互い」
薄いクリーム色の爆発髪の目付きの悪い男は緑の縮れ毛のデクと呼んだ男に悪態を付きながら、喧嘩するでもなく何もせず去っていく。デクとやらはビビりながらも挨拶を返した。まるで沢田綱吉だ。そういう二人、見てて……
『……咬み殺す』
やってしまいたいなあ。
**
実技試験の概要は、模擬市街地演習と言う所で10分間の実技。武器の持ち込みはオーケー、演習場には仮想敵を三種多数配置してありそれぞれの攻略難易度に応じてポイントを設ける。各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが目的、他人への攻撃は厳禁らしい。なんだ、つまんない。でも、プリントには四種書いてある。その四種目の敵はゼロポイント、所謂お邪魔虫と言うものだ。まあ僕には関係無いけど。
会場に移動して、開始の合図を待てばいきなり「ハイスタートー」と気の抜けた合図が聞こえてきた。他の人はポカンとしていたけど、僕は戦うのが楽しみで仕方なかったからそのとたん市街地に飛び出した。服の袖からトンファーを取り出してぐるぐる回転させながら索敵する。他の人はなにもしていなかったのか「賽は投げられてんぞ!」と聞こえてきたが無視。
早速出てきた仮想敵はなんと機械だった。ゴーラ・モスカに似ているけど、性能は多分モスカの方が全然うえだろう。つまんないなとか思っちゃうけど、戦えることに喜びを感じて、ぺろりと唇を舐めてトンファーで倒しに掛かった。
**
大きな地響きに顔をしかめて音の方を見れば他のものと比べものにならないサイズの仮想敵、多分0ポイントのものだ。なんだ、こんなに面白そうなものが、あったんだ。
僕はいっそう笑みを深め、トンファーを構え直して飛び上がった。トンファーを思いきり振り被ればがきぃんと鈍い金属音が響き、素早く今持っているトンファーを投げ捨て、からんからんと落下した場所を覚えてからリングに炎を灯し、ボックスにはめ込む。飛び出たハリネズミを見て再び別のボックスにリングをはめこめば紫の炎を纏ったトンファーが出てきて手に取る。飛び出てきた僕のハリネズミはこちらを一瞥し、きゅう、と一鳴きしてすりよってくる。
『久しぶりだね、ハリネズミ』
きゅうと返事を聞き取り、行ってと指示すればものすごいスピードでゼロポイントに衝突し、グラリと重心が傾いたゼロポイント仮想敵を足場に再び飛び上がってトンファーで止めをさした。
粉々に砕けたゼロポイント仮想敵を見てなかなかに楽しかったよと監視カメラがあるであろう方向に呟き、トンファーをボックスに戻して投げ捨てたトンファーを拾った。ハリネズミは僕の肩に飛び乗って周りを見渡す。
『……ふあーあ、』
とあくびをして今日は帰った。
.
結果は合格。ずいぶんとあっさりした試験だったなと嘆息し、オールマイト何て言う変な名前の男がなんかわやわや叫んだりしてるけど興味無い。今、この人が最強らしいが、いずれ僕が追い抜く。オールマイトと言う大柄な男はハハハと元気よく笑うが、群れる雰囲気が映像越しに伝わってきて鳥肌が立った。……多分、次に名前を聞くときは忘れてるんじゃない?
僕、雲雀恭弥は雄英高校に向かうため、慣れないブレザーを肩に羽織って登校した。
行き道で、ヒバードによく似た鳥を見つけた。どうやら言葉を覚えるらしく、とても似ている。そっくりだ。そのヒバードに手を伸ばせば「みーどーりーたなーびくーなーみーもーりーのー」と歌い出すものだから流石に驚いた。そっくりなんかじゃない、ヒバードそのものだった。ヒバードは僕を認識したのか頭の上に収まって大人しくしている。
僕はそのまま雄英へと足を進めた。
**
教室に入るとまだ誰も居なくて安心した。やって来た瞬間に群れてるところなんて見てしまえば僕は退学を所望しそう。
席は爆豪、緑谷と言う奴の間。本当はこんなとこ居たくないけど、それが原因で戦えないなんてことになったら大変だし。なんのためにここに来たのか分からない。
前世とやらの僕がこの光景を見たら丸くなったなんて言うだろうか。そんなの言われる筋合いはない。だって、群れてる奴等は咬み殺すだけ。
そうして目を瞑って僕は眠りについた。頭の上でヒバードが寝ているなんて、関係無い。
**
少しざわざわとうるさくなってきた教室内、これくらいは許してやるかなんて考えていれば突如として怒鳴り声で完全に目が覚めた。ぱちりと目を見開けば目の前の席で言い合いしている男二人、片方は試験会場に入る前のクリーム色の爆発頭だった、どうやらコイツが爆豪らしい。僕はキッと二人を睨みながら『ねえ、うるさいんだけど』と告げる。それすら無視して片方の眼鏡が扉の所でおどおどしている緑の縮れ毛のあの爆発頭に絡まれていた男に挨拶しにいった。苛立ちから舌打ちすれば爆豪が振り返って怒鳴り付けてくる。うるさいな。
「んだてめえ、何舌打ちしてんだ」
『君たちがうるさいからでしょ、群れてるのも苛つくから、咬み殺してあげる』
「やれるもんならやってみな」
『いいよ』
そう言い躊躇いなくトンファーを彼の顔めがけて振るった。だが、ヒバードが頭を小突いたので顔に当たるすれすれで止める。
「っ……やらねぇのか? ああ!!?」
『うるさいな。ほら、前向きなよ、命拾いしたね。今度は、咬み殺す』
小汚ない男が来たことによりヒバードが小突いたのだと理解する。確かに、見られるのは良くないな。どうやらその男は僕らの担任らしく、相澤消太と名乗った。僕はあくびをしながらヒバードを肩にのせ、ソイツを見つめる。雰囲気からして、強い人だ。
「早速だが、体操服(これ)来てグラウンドに出ろ」
.
「個性把握テストぉ!? 入学式は!? ガイダンスは!?」
そう叫んだのは頬がふっくらしたボブカットの小柄な少女だった。今隣だからうるさくて仕方無い。相澤はヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよと冷静に返す。
こんなときまでヒーローヒーロー、なんなのヒーローって。テレビで見た限り、お互い競っているように見えてピンチになったら力を合わすとか鳥肌ものの事を平気でやってのける、群れ成す草食動物。その点、相澤は常に合理を追い求める男、他人との仲良しごっこなんてない、仕事に支障をきたすからとメディア露出もしない。草食動物でもない、関わり合いたいとは思わないけど、ボンゴレほどでも無いけど居心地は良さそうだ。
この学校は自由な校風が売り文句、それは教師もしかり。面白そうなところにこれた気がするなあ。
最初に爆豪がデモンストレーションとしてソフトボール投げをした。タヒねぇと言う言葉と共にボールをぶん投げた。恐らく球威に爆風を乗せたんだろう、僕の口角が上がるのが分かる。ぺろりと唇を一舐めし、ガキリと手元のトンファーが音を鳴らした。
おまけに成績最下位は除籍処分、良いね、分かりやすくて。
一種目は50m走、僕はくあ、とあくびをしながらヒバードに「邪魔だからあっちいってて」と指示を出し、ぱたぱたと飛んでいくヒバード。それを見てクラスメイトが「邪魔……?」「あの鳥かわいい」と言っているのが聞こえた。他のヒバードたちはこの世界には来てないのだろうか。そんなこと興味ないや、とstartの言葉と共に駆け出した。
記録は5秒ジャスト。あんま代わんない。握力、いつもトンファーを握っているからか72kg、僕ってこんなに力が強かったのか。立ち幅跳びはリングの炎で沢田綱吉がしていたように。反復横跳びは自力で。ボール投げはハリネズミの増殖を使って。
僕のあとは緑谷とか言う雑魚だったから適当にヒバードで時間を潰していた。
**
そして結果発表、別にトップを取るつもりでやったわけでもないので中間辺り。ちなみに除籍は嘘。合理的虚偽だと、どうだか知らないけどね。
.
翌日、授業はごくごく普通だった。四時間目の英語の授業、僕は耳を塞ぎながら英語科教師のプレゼントマイクを歯ぎしりしながら睨んだ。
「んじゃ次の英文のウチ間違っているのは? おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれー!」
きっと他は「普通だ」とか思っているんだろう。でもうるさい、耳が痛い。あ、ヒバード失神した。
『ねえ、うるさいからもう少し声の音量下げてくれない? ヒバード失神したんだけど』
(((うるさいって言ったあああああ!)))
「なぁにぃいいいい!? そりゃ不味いぜ雲雀いいいい!」
『うるさいって言ってるんだけど』
(((また言ったああああああああ!!!!!)))
昼は大食堂で一流の料理を安価で食べられるらしい。今日一日だけでも食べにいってみた。
僕が席で冷や蕎麦をすすっていれば、前の席にガタンと誰かが座る、なんなの。わざわざ人があまり居ないところを選んでいたのに。
顔をしかめて前を向けば赤と白のめでたいツートンカラーの髪の顔の左に火傷がある男……見たことあるな。でも興味ないし、放置してずるずる蕎麦を食べた。
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
「……」
『……なに』
無視しようとしてたのに、ずっと見てくるから思わず聞いた。だって見られてると食べにくいし、鳥肌が立つ。
「……いや」
『ならこっち向かないでくれない? 鬱陶しいから』
そう吐き捨ててずるずると再び蕎麦をすすっていれば目の前の彼が「なあ」と声を掛けてきた。それに視線で返すと男は話出す。
「……お前、把握テストの時に個性使ってたよな」
『だからなに』
「……お前も、複合性個性なのか?」
……なに言い出してんのコイツ。
『違うね。僕の個性は【雲の守護者】、あるマフィアの幹部の使用していた能力と同じらしいよ』
「……なら、お前は個性はひとつだけなのか」
『僕に二つも力は必要ない』
「……は、」
『僕はもうこれで充分強い、二つも要らない必要ない。群れてる草食動物はたくさん咬み殺してきたから、これからは強いやつを咬み殺す。……僕の言うことを聞かない人間も咬み殺す、風紀委員は絶対なんだよ』
知ってた? とギラギラした目で彼を見つめれば、不思議とぽかんとしている。すると、くすくす笑い出すのだ。「なに笑ってんの」と聞けば「クラスメイトにそんなやつがいるとは」と返ってきた。
『悪いね。僕、群れてる奴等は大嫌いなんだ。それこそ友達だの力を合わそうだの……お守りは彼等だけで間に合ってる』
コイツ。クラス一緒だったから見たことあったんだ……。
.
突発的短編『×とうらぶ』
【みんなのお父さん】
「おはよーおとーさーん!」
『おはようお茶子ちゃん……って僕そんなに歳取ってないよ……?』
「良いじゃない光忠ちゃん、慕われてる証拠よ」
『梅雨ちゃん……! 嬉しいけどちょっと複雑かなあ』
「良いじゃん光忠パパ、ウチかなり頼りにしてるし」
『んんん! 僕は頼られる事が好きだしねえ耳郎ちゃん』
「お世話焼きな性格ですから、お父さんと呼ばれてもおかしくありませんわ光忠さん!」
『百ちゃんにそう言って貰えるのは光栄だね。うーん、世話焼きなのは認めるよ』
「手作りのお弁当の卵焼きすごい美味しかったよ!」
『ありがとう透ちゃん、良ければまた作ってくるよ』
「戦闘じゃ先陣きってくれるしね!」
『僕の前世は刀だからねえ、まあありがとう三奈ちゃん』
「あ、燭台切ー! 数学教えてくれよ!」
「俺もー」
『あ、上鳴くん切島くん! 今行くよ! じゃあ僕あっちいってくるね』
「いってらっしゃいおとーさん!」
「いってらっしゃいですわー!」
「ここの数字がなんでこうなんのかわかんねぇんだよなー」
「俺はここだな」
『上鳴君、これはここに6を代入すれば良いんだよ。切島君は多分ここのプラスマイナスを間違えてるんじゃないかな?』
「あっ、ホントだ出来た! サンキュー父さん!」
「あ、マジだわ。やっぱ頭いーなお父さんは」
『ねえ二人にまでお父さん呼び浸透してるの!?』
「そうだよー! おとーさんはおとーさんだし!」
『わあっ! どんなとこから出てきてるのお茶子ちゃん!』
わらわらとクラスの女子が集まる
「……なんだあの燭台切ハーレムはあああ!」
「峰田お前な……お父さんだから良いんだよ!」
「いや良くねぇぞ上鳴!?」
「……(俺も燭台切をお父さんって呼びてぇ)」
「どうしたの轟くん?」
「なんでもねえよ緑谷」
.
×とうらぶ 会話文
『ねえ爆豪君!? お昼それなの!? 野菜は!?』
「るせえよ眼帯ヤロー! 野菜なんざいらねんだよ!」
『駄目だよ! 好き嫌いしちゃ! 体の栄養バランス考え無いと体調崩して学校来れなくなるよ!?』
「うるせーよ! てめーは俺のなんなんだよ!」
『仲の良い友達だよ! だからこそ体の心配をしてこうして言ってるんじゃないか!』
「いちいち怒んなよめんどくせえ! 食堂行ってくりゃいんだろ!?」
『駄目だよ! せっかくお弁当があるのに!』
「てめえは何がしてえんだよ!!?」
『僕が爆豪君のを食べるから爆豪君は僕のお弁当を食べれば良いよ!』
「急にイキイキしやがってキメェよ!」
『きもっ……僕は常にかっこよくキめてるよ!』
「そー言う話じゃねーよ!」
「お前らうっせーよもー」
『あ、ごめんね瀬呂君。爆豪君、とりあえずご飯食べようね』
「チッ」
「あーん、爆豪君ズルいー!」
「光忠さんのお弁当をいただきになるなんてなんて羨ましい……」
「百ちゃんちょっと怖いわよ」
「燭台切くんの卵焼き美味しいもんねー」
「ほんとにねー」
「あ、あのかっちゃんがおとなしく席に座ってご飯を……!」
「緑谷くん、君の爆豪くんの評価はどうなっているんだい……?」
.
×とうらぶ
「光忠さんが頼りになりすぎて困ります……」
「……わからなくもねぇが、いきなりどうしたんだ八百万」
「ああ、轟さん。いえ、光忠さんを見て、ふと以前……」
「……なにかあったのか?」
「以前、私たちでお菓子を作ろうと言うことになりまして……」
「おう」
「私の家でやったのですが、なぜか何回やっても爆発してしまいまして、そのあとも焦がしたり炭になったり……です」
「……散々か」
「はい。それで、麗日さんの提案で燭台切さんを呼ぶことになったのです。あの方はお弁当をご自身でお作りになったりしているようですからお菓子もお作りになれるだろうと思いまして」
「旨いしな」
「ええ。それで内容を話したら快く引き受けてくださいまして。家に御呼びしたら『僕もこのあと用事があるから、さくっと作っちゃうね! クッキーでいいかな』と言葉通り、皆さんにご指導して、手本を作っていただきました。無理矢理時間を開けてくださったようで、申し訳なかったのですが失敗せずに出来たので感謝しているのです」
「そのクッキーどうした」
「光忠さんのは全て私が頂きました」
「……おう(俺も食いたかった)」
「男子の皆さんには私たちが作ったクッキーを配っていますから、よかったらどうぞ」
「……おう」
「……なあ」
「どうなさいました?」
「……いや、なんでもねえ(燭台切の用事のことは気になんねぇのか)」
.
轟side
『はあ』
溜め息を吐く燭台切に笑顔はなく、近くにいた俺は声を掛けようとしたのだが、燭台切はそのまま鞄からスマホを取り出すと、そのまま素早く教室を出ていった。
その妙な動きに教室にいた奴がざわめく。それもそのはず、燭台切はいつも笑顔で落ち着きのあるやつだ。それがあんなに慌てて外に出ていったんだ。みんな気になるだろう。
「ハァッ、わ、わたしが様子を見てきますわ! ハァっ、ハァ」
「いやお前はやめとけ!」
鼻息を荒くする八百万に慌ててストップを入れる切島。確かに、何かヤバい気配はある。
爆豪は「俺が行って爆破すらぁ!」とか怒鳴るのっているが、またもや切島、それと瀬呂、上鳴も加わった。クラスは女子を中心に「お父さん」と阿鼻叫喚だ。俺は溜め息をつき、右往左往していた緑谷に「様子を見てくる」と告げて後を居った。
**
昼休みと言うことで、走り回りながら探して裏庭にやって来た俺。そこにはスマホを握り締めてベンチに座る燭台切の姿があった。
声をかけようとも思ったのだがどうやら様子がおかしい。しばらく様子を見ようと物陰に隠れていれば、燭台切はスマホに掛かってきた着信に出る。と同時に声が上がった。
『貞ちゃん貞ちゃん貞ちゃああああああん! 連絡無いから心配してたんだよ!? 何してるの貞ちゃん! ご飯食べてる!? ちゃんと寝てる!? イジメとか受けてない!? 友達出来てる!? 勉強サボってない!? あと伽羅ちゃんは!? 伽羅ちゃんは一人じゃない!? あの子「馴れ合うつもりはない」だの「俺は一人で死ぬ」だの言うから! どこで死ぬの!? とか言われてない!?』
「「「おとーさーーん!/光忠さぁん!/燭台切ー!/光忠ー!/眼帯ヤロー!!/燭台切くん!」」」
ドドド、とやって来たクラスの奴等に俺は頭を抱えながら溜め息を吐いた。クラスの奴等は燭台切の言動にぴしりと固まり、燭台切はびっくりした顔で「え?」と呟きクラスの奴等を見てた。通話の相手が「どうした?みっちゃん」とすこしばかり幼い声だけが聞こえてくる。しばらくの沈黙のあと、電話の向こうから、あの幼い声とは違う物静かな声が響いた。
「……光忠、現状を説明しろ」
.
燭台切が「え、伽羅ちゃん居たの?」「とっとと話せ光忠」と言うやり取りののち、慌てて声の低いやつに説明すればけらけらと笑う幼い声が響く。
すると恐る恐ると言った八百万が口を開く。
「み、光忠さん……? 電話の邪魔でしたか?」
『いやいや、びっくりしたけど邪魔じゃないよ!』
<女の声……なんだみっちゃん! やっと彼女出来たのか!?>
『違うよ貞ちゃん! 相手に失礼だよ! 君みたいにとっかえひっかえしてる訳じゃないんだし!』
<俺だってとっかえひっかえしてねーよ! それは大倶利伽羅だろ!>
<違う……! 俺は一人でいい……!>
『伽羅ちゃんに限って……それは…ねえ』
<ああそうだな!>
<……腑に落ちん!>
「てめえ燭台切ぃ! 説明しろやカス!」
『爆豪くん! 物言い気を付けよう!?』
「うるさーい! 相手は誰か聞いとるんやー!」
『わー!?』
とびかかった麗日を切っ掛けに女子が燭台切にとびかかる。男子でそれを引き留めて、燭台切が通話をテレビモードにした。
『彼等が僕の電話の相手だよ』
「待たせたなぁ! 皆の衆! へへっ、なんちゃって! 言ってみたかったんだよなぁ! 俺が噂の貞ちゃんだ!」
『ごめん貞ちゃんフルネーム名乗って』
「あっ、わりー! 俺は太鼓鐘貞宗だ! よろしくな! ほら、大倶罹伽羅も!」
「……馴れ合うつもりはない」
『彼は人見知りなんだ、大倶罹伽羅って言うんだよ。二人とも幼馴染みなんだ、今は士傑高校にいるよ』
「光忠今度ぶち殺す」
その二人の自己紹介のあと、クラスの奴等も自己紹介して、一件落着した。
この一件で燭台切は太鼓鐘貞宗にはすごく過保護だと言うことが判明した。
.
ちょこちょこ単発!【×とうらぶ!】
ヒーロー殺しを捕まえて細路地から出てきた直後。燭台切エンデヴァー事務所設定。
『!? ちょっと待って君達! エンデヴァーさんに言われて来たは良いけどなんでそんなにぼろぼろなの飯田くんと緑谷くんと轟くん! って言うか轟くん君ね! 僕も言ってくれたら助太刀したのになんでほっといて行っちゃうの! 僕がいたらそんなことにはならなかったと思うのに! 三人ともこんなに怪我してもー! 親御さん心配するでしょ!』
「あ、ごめんなさいお父さん」
『ふざけてる場合じゃない!』
「……燭台切が、キレてる……」
『そりゃあ僕もキレるさ! 年齢こそみんなと一緒だけど僕は伊達政宗公の刀だったんだからみんなより数百倍お爺ちゃんだよ!? 心配しないわけないだろう!? 僕からしたら君達は子供なの! まったく……こういう勝手な行動は他人に迷惑が掛かるからやめようね!? 今回はやらなきゃ死んでたからしょうがないけど!』
「そこが燭台切君をお父さんとしたしめる由縁か……」
『知らないし要らないよそんな格好悪いルーツ! って飯田くん君って奴は腕がグチャグチャじゃないかもおおお! 復讐は構わないけど怪我はダメだよ!』
「……はて。ボ、俺は燭台切君に復讐のことを言ったか?」
『刀剣男士の時に「あなたも僕に復讐を望むの……?」って言う見た目小学生の短刀くんが居たからね。復讐云々に囚われてる人は目を見ればわかるよ……ってそうじゃないよ! 早く病院行こう!? 薬研君がいたらササッとかっこよく治療出来るのになああああ違うそうじゃない! とりあえず君達大怪我してるんだから大人しく病院に行こうね!』
「「「はーい」」」
一方プロヒーロー達。
「私達の言いたいこと、あの燕尾服の眼帯君に全部言われちゃったわね……」
「伊達政宗の刀って……彼の精神年齢は今一体いくつなんだ……?」
「……まるで父親ね」
プロヒーローたちからの燭台切への評価は鰻登りだったらしい。(グラントリノ後日談)
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突発的お話。原作沿い。成り代わり性別逆転。
小さい頃から、なまじ何でもできた。勉強しても運動しても絵を書いても料理しても。前世の私がそうだったように、今世の私もそうなった。なるべくしてなった、聞こえは良いが少し違う。ここは彼の居場所だった、世界。
生まれてきて、名前付けられて個性発現してああやっぱり彼なのか、彼の場所を奪ったのかとぶわりと涙が止まらない。
『爆豪勝己』。今世の私の名前だ。原作じゃ彼は男だった筈なのに、今は私が居るから女で。本当に幼い頃に一度自殺をしようかとも思ったがしたら原作が大幅に変わってしまうだけ。変わってしまうだけなんて言っても爆豪が女の時点でもうここは平行世界だ。パラレルワールドだ。
……だからこそ。私は俺になって原作を紡いでいこうじゃないか。やってやるよ理不尽な世界。見てろよ駄神、びっくりするぐらい、変えてなんてやらねえ。
**
俺が生まれてきて、はや7年、小学生になった俺、爆豪勝己は女である。
「勝己くん! あっち行こ!」
「かっちゃん向こういこうぜ」
だがしかし、俺は元々女の子の様な姿をするのが苦手で、髪も普通に短いから男と間違われている状態だ。
『遊んでやってもかまわねんだぜ!』
「「「うおおおお!」」」
はっ、と鼻で笑ってそう告げれば沸き立つ教室、うんざりな自分。精神年齢こそもう三十路手前な俺は子供のノリにはあまりついていけそうにありません。
「爆豪くんまたテスト満点だ! すっごいね!」
「馬鹿! 爆豪女だったんだって! まあだからなに? って感じだけどな!」
「なら爆豪ちゃん? 勝己ちゃん?」
『おいそこちゃん付けやめろよばあああか、いつもで良いだろ!』
「あはははっ!」
「爆豪またバスケでダンクシュート決めたらしいぜ」
「アイツマジ女かよ、ダンクシュートて俺たちも出来ねえのによ」
「まあ爆豪だしな」
『ああ? 俺がどうしたって?』
「いや、さすが爆豪だなっつってな!」
「爆豪出来ないことなんてねえんじゃねえ?」
『はっ、ったりまえだろーが!』
「さっすがー!」
「爆豪さんって初めて身長高いしかっこいいね!」
「あっ、あんた転校生だっけ? そうそう! うちのクラスの男子全然だめだめなのにさあ。その点爆豪さん女の子だけどイケメンで女子には優しいし尊敬できるよね! 勉強も運動も出来るし!」
「個性は派手でヒーロー向きだしね! 高校は雄英いくんだろーなあ」
「爆豪さん行くなら私中学卒業したら雄英の普通科受けよっかな……」
「いいね! そうしよ」
「ね!」
「爆豪アイツ、今度は隣のクラスの可愛い女子に告られてたぜ」
「もうマジ羨ましいよな……」
「男子の面子丸潰れっつーかさ」
「まあアイツ一人を除いて誰にでも分け隔てねえから楽だよな」
「まあなー」
「一人を除いて?」
「緑谷だよ、緑谷」
「幼馴染みだっけ? 緑谷には当たりがすげえキツいよな」
「まあ無個性だし仕方なくね? 幼馴染みが無個性とか可哀想すぎんだろ」
「前また爆豪が緑谷ブン殴ったっつー噂だぜ」
「アイツホントスカッとすることやってくれるよな」
「なー」
うるせえ。
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雲雀長編。
午後からはヒーロー基礎学。戦闘訓練をするらしい。訓練って何。実戦なんでしょ、要するに。
前から戦闘服の入ったケースを貰って、更衣室へ向かって、早速着替える。背後で女子のコスチュームはどんなものなのだろうと騒ぐ男子の群れに舌打ちをしそうになって、堪える。今僕はこの町に独り暮らしだ、本家へ戻ったら誰でもいいから咬み殺そう。それまで蕁麻疹との戦いか……。
ばさっと学ランを肩に羽織って、左腕に風紀の腕章がついているか確認する。よし、付いてる。ここまでそっくりに再現してくれるとは思わなかった。所謂前世の時の、僕のいつも着てた服。強いやつがいたらVGを使うつもりでいるから、戦闘時は意味を成さないけど。頭の上にトリ(ヒバード)がぽすんと居座ったのを確認して、更衣室を出ようとした。そう、した。
「おい雲雀ー! もう着替えたのか、はえーな!」
ぐっと気分が不機嫌になっていく。誰、僕を呼び止めたのは。顔を若干しかめて振り向く、そこには重力に逆らって立つトゲトゲそうな赤髪の男。上半身はほぼ半裸に近い。
風紀が乱れていることに眉を寄せ、「なに」と言い放つ。
「一緒に行こうぜ! お前いっつも一人だろ!」
『僕は群れる草食動物が嫌いなの。一緒に、なんて鳥肌が立つ。余計なお世話だから構わないで結構だよ』
彼にそう告げて颯爽更衣室を出た。あぁ苛々する。頭の上のトリが「余計なお世話、余計なお世話」と反復する。これからの戦闘訓練、楽しみだな。群れる気は無いけど、久々に咬み殺せそうだ。
**
今回の戦闘訓練、屋内対人戦らしい。へえ、僕のテリトリーじゃないか。
「2対2の屋内戦を行ってもらう!」
2対2らしい。え、どうしよう。まあなんとかなるよね。
.
今回、状況設定が有るらしい。どうでもいい。「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている。「ヒーロー」は制限時間内に「敵」を捕まえるか「核兵器」を回収すること。「敵」は制限時間まで「核兵器」を守るか「ヒーロー」を捕まえること。
どうしてもアメリカンに思える。僕はアメリカンよりジャパンの方が好き。
コンビ及び対戦相手はくじのようだ。オールマイトとやらが講師のようで、「だが。」と言葉を止める。
「19人と一人余っちゃうんだよね! だから余った人は私と一対一の対戦だ!」
途端に「えええええ!?」と声を揃えて叫ぶものと、「っしゃ」とぎらぎら目を輝かせるものが出てくる。まあ、ぎらぎら目を輝かせてるのは、僕だけだけどね。
『ねえ』
「なんだい雲雀少年!」
『その一対一、僕にやらせて』
にや、と笑えば周りが「えええええ!?」「頭大丈夫か雲雀!」「戦闘狂か!?」とわちゃわちゃくっちゃべるのを『うるさいよ』とトンファーを出して黙らせる。なんなの、そんなイカれた奴を見るような目をしてさ。
オール……なんだっけ、オールなんちゃらが不思議そうに僕を見て聞いてきた。
「ど、どうして私とやりたいと思ったんだい?」
『ん? 単純に強い人と戦いたかったからさ、あなたは強いんでしょ? 園児の時から僕に口答えする大人とか不良をトンファーで潰してきたけど、誰も彼もが弱かった。個性に頼りきりなんだよ。その点あなたはきっと強い、あなたの名前は覚えてないけど』
「私の名前を知らないのかい!?」
『興味なかったからね。もうひとつはまぁ……その金髪といい体躯と言いそのお節介そうな性格と言い、似てるのさ。唯一中学生の僕に師匠面したイタリアンマフィアのボスに、あなたが』
まだ咬み殺せてないんだ。と告げると「良いだろう」と彼が頷いた。周囲が「イタリアンマフィアのボスと知り合い!?」「何者なんだよ雲雀……」と騒ぐ。もちろん今世のことじゃ、無いけど。
「ただし、手加減はさせてもらうよ雲雀少年!」
『僕相手にそんなことが出来るならね、あなたは絶対咬み殺す』
周りの群れが「オールマイト対雲雀くんだ!」「命知らずだな雲雀は」「雲雀くん! 君は目上の人に対する態度か!」とか騒ぐけど一睨みで黙らせた。
最初の方はもう本当に興味がなくて、モニタールームで壁に持たれて爆睡してたよ。何か文句ある?
全ての組み合わせが終わって、とうとうその時がやって来た。重傷が一命いた? 居たっけ、重傷。まあどっちみち見てないし関係無いんだけどね。
結局オールマイトの勝手な決定で僕がヒーロー、オールマイトが敵ということになった。
とあるビルにつれていかれ、オールマイトは先に室内へ、僕は外で待機。今回は核兵器とか関係無く本当にガチンコバトル。
『……楽しみだね』
頭の上のトリが「緑ーたなびくー並盛のー」と歌い出した。
.
時間になって、様子見と言うことで手錠を指にかけてくるくる回しながらビルの中に入る。一階、いない。二階、いない。三階、いない。となると最上階か。自然と浮かんでくる笑みを隠そうともせずに駆け出して一気に階段を駆け上がる。
案の定、居た。
「やぁ雲雀くん。待ってうわあ!」
『無駄話しに来た訳じゃないよ。15分しかないんでしょ、僕は貴方を捕まえれば良い訳だ』
これはトンファーが要るな。雰囲気でそう感じ取り、チャッ、と仕込みトンファーを構える。彼は驚いたように「仕込みトンファーかい?」と聞いてきた。答えるつもりもないので「うるさいよ」と呟き、ギャギャギャギャギャとトンファーを彼めがけて振るう。
「わっわっわっ」
『嘘臭い演技をやめなよ、本気で来ないと、本当に咬み殺しちゃうよ』
「君こそっ、本気を出したらどうだ。いっ?」
トンファーで攻撃しながら彼と会話をする。彼がトンファーを腕で受け止めて、押し返したのでそれを利用してひらりと下がる。
『まあ確かに、本気はまだ出してないね』
「そうか、それなら来たまえ雲雀少年! 本気で!」
『あなたがそれに値するならね』
雲ハリネズミのロールをブレスレットから呼び出し、小さな球針態をひとつ出させて雲の炎で増殖させる。ぼぼぼっと宙に浮きながら増えるそれを会話の隙に間髪入れずにトンファーで打ち込んだ。
「くっ」
『僕の個性とやらはとても戦闘向きなんだよ。負けないでね、まだまだ序の口なんだから』
「へえっ、序の口、ねっ!」
まばたきの瞬間に彼は目の前に迫っていた。しまった、油断した。彼は思いきり僕の腹を殴って吹き飛ばす。背後の壁にぶつかってがらがらと崩れる。痛い。久しぶりだ、いたいと思えるのは。
「やれやれ、もう終わりかい?」
『まだに決まってんでしょ』
のそりと起き上がって、ロールに告げる。
『ロール、カンビオ・フォルマ』
「!?(カンビオ・フォルマ……イタリア語で形態変化! あのハリネズミがなにか起こすのか!?)」
さあ咬み殺してあげる。
.
やっと固まった連載です。ヒバリさんのはまた気が向いたら。
フェアリーテイル(グレイ)→ヒロアカ転生。(本当に)若干だけグレジュビなので嫌な人はUターン。
久々にチームで仕事に出た。いつものチーム+ジュビアで。
内容はルーシィの家賃の為もあり高額だが人数が多くてすぐ終わった。そして、唐突だったのだ。俺がまばたきをした瞬間、周りの仲間は居なくて、その代わり、周囲にはやけに発展した世界。
いきなり脳内に殴りかかるようにやって来る全ての情報。頭を押さえて膝をつけば周囲の、この世界の俺の友人が慌てて駆け寄ってくる。体を見れば幼くて、年齢で言えば4歳、情報では俺たちは4歳のようで、幼稚園なるものに通っているらしい。
顔も幼い頃の面影がある。俺はどうやら異世界へと飛んでしまったようだ。この世界の俺には悪いがこの世界を満喫させてもらおう。
頭痛が収まって友人に笑いかければ「心配かけさせるなってー!」と様々に声が掛かった。
俺の名前は『氷造 グレイ』、したの名前がやけに馴染みがないが知ったこっちゃない。
入ってきた情報によれば、ことの始まりは中国軽慶市、発光する赤子が生まれたと言うニュースだった。待て待てなんだよ発光する赤子って。あれか? トノみてぇな光魔法か?
以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。いつしか超常は日常となって、「架空(ゆめ)」は「現実」に。世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在、混乱渦巻く世の中でかつて誰もが空想し憧れたひとつの職業が脚光を浴びている。
超常に伴い爆発的に増加した犯罪件数、法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。超常への警備、悪意からの防衛、たちまち市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務に定められる。国から収入を、人々から名声を。……ってやつだな。
ヒーローにも資格が要るらしい。そのヒーローを育てる機関は高校から。一番有名なのは数々の有名ヒーローを輩出してきた「雄英高校」らしい。人気ナンバーワン、敵(ヴィラン)に対する抑止力と謳われるオールマイトと言うヒーローもそこ出身だからか周囲は「高校は雄英行きてぇ」と言うやつは多い。
もちろん単純な俺もヒーローに憧れ……と言うか人を守ることがギルドのように思えて、雄英を出てヒーローになりたいと思った。最後にもとの世界で見たのは、ジュビアの笑顔だったこともあるのだろうか。
ぶんぶんと頭を振り、この世界でも魔法は使えるのだろうかと試しにギルドマークをイメージすれば、パキキ、と手のひらで氷がギルドマークとして出てきた。ふふん、やっぱり出来るな。
「まあ!!! グレイくん! 個性が出たのね!!」
『えっ』
この世界では、個性と言うことになるらしい。
幼稚園の先生に言われ、親に迎えに来てもらい、病院に行けば「個性はどうやら『氷造形』のようですね」と告げられた。……恐らく滅悪魔法も使えるだろうけど、今はやめとくか。
.
それから数年。俺は中学三年生になった。
この世界の勉強は……まぁ中の下みたいな。
造形魔法はもう前の俺と同じぐらい扱えるようになっている。やっぱり馴染みが有るからか? あと、脱ぎ癖は治らなかった。……別に気にしてねぇけど。
学校帰り、帰路に着くため商店街に差し掛かった時、いきなり前方で大爆発が起こり、俺の体は吹き飛ばされた。ごろごろごろと受け身をとる間もなく転がって壁に激突してようやくストップする。
『なっ、なんだぁ!?』
慌てて人だかりの中に駆け込めばそこには俺と同年代ぐらいの学ラン着た野郎がヘドロみてぇなやつに捕まって悶えていた。なんか叫んでる。……若干ナツに似てない気もしねぇでもねえ。
「ヴィランはベトベトで掴めねぇし良い個性の人質(こども)が抵抗してもがいてる。お陰で地雷源だ、三重で手が出し辛ぇ状況!!」
そう怒鳴った図体のでかいヒーローに駆け寄り、『あのヘドロ、どうにかすりゃ良いのか?』と指差して問う。
「おう、ヘドロを……なんだよガキかよ! あぶねぇから下がってろ……って服!!」
『おわあ!! 俺いつ脱いだ!?』
俺の正面のヒーローが制服のまま上半身裸の俺に呆れているも、『任せてくれよヒーロー』と声をかけてばっと手を振るった。ばきばきばきとみるみる凍っていくヘドロに俺がにやっと笑うと「勝手に個性を使うな!」とヒーローから怒鳴られた。
えー、と文句を垂れる俺にそのヒーローがガミガミ叱るなか、そのヘドロと少年に飛び出すように近付く緑髪の少年が見えた。
そのあとオールマイトが到着してその凍ったヘドロを腕一薙ぎで吹き飛ばし、その風圧で上昇気流を巻き起こし、雨がぽつぽつ降りだした。すげー。
ヘドロは無事ヒーローに捕まり、緑髪の少年はヒーローに叱られ、あの爆豪と言うヘドロに捕まっていた少年は教われながらも意識を保っていたタフネスを褒められ、俺は「個性は勝手に使ったのはいただけないが、協力感謝する」とお礼状を頂いた。いらねぇ。あと脱ぎ癖を注意された。しゃーねーだろ癖なんだから。
.
それから10ヶ月経って、雄英高校入試。この寒い季節はすごく過ごしやすい。
会場に入ればボイスヒーロープレゼント・マイクはうるせぇし後ろの席のあのときの緑髪はぶつぶつうるせぇし眼鏡はエルザより頭固くてめんどくせーしと踏んだり蹴ったりだったのだが、実技試験の説明内容に入ったとたん、俺の周囲の空気の温度は下がったように感じられた。
要するに、現れる機械の空想敵を戦闘不能にすりゃ良いって事だろ。……俺の会場じゃ点数を取れるのは俺一人になりそうだな。
**
«ハイスタートー»。そんな間延びした声で聞こえてくるプレゼント・マイクに開始の合図だと理解して飛び出したのは俺一人だった。
何呆然としてんだ、スタートって言われたらスタートなんだよ。こんなむちゃぶり、エルザとミラちゃんので慣れたわ。
遅れてくる生徒に視線をやって再び前を向き、にやっと笑って右手に握り拳を作り、左の手のひらに乗せて呟く。
『アイスメイク……銀世界(シルバー)!!』
人以外が全て凍る。この街みてぇなグラウンド全体を氷が覆って、全てを停止させた。そう全てのロボットを“停止させた”のだ。所謂戦闘不能。ロボット点は全て俺のものだ。
だが、例外が一体居た。お邪魔ギミック、0ポイントである。
『おわっ!! くそでけぇ! ニルヴァーナみてえだなクソッ!』
崩れ落ちてくる瓦礫を殴り飛ばしながら逃げるように駆け出そうとするが、これはヒーローの試験。撃破ポイントだけと学校側は言ってない。なるほど、そう言うことかよ。
まだ敵が残っていないかと望みを駆けて出ていっていた奴がいたはずだ。
慌ててUターンすればそこにはやっぱり0Pに怯えて固まっている女子が一人。その上から大きめの瓦礫が降ってきていて、ふっと息を吐き出しながら右手を振り上げた。
途端その女子を覆うように現れた氷。慌ててその場に駆け寄ってその名もない女子を俵担ぎにしてその場から離脱した。
……まあ壊すってもの、悪くねぇ。
『おい! コイツ頼む!』
「はぁ!!?」
『任せたぜ!』
「ちょ、おい!」
すぐそこにいた男子に気を失っている女子を任せてから再び0Pに向かって走り出す。そして地面に手をついて階段を造りだし、駆け上った。
そのまま0Pの前に飛び出し、大きく息を吸う。この世界に来てまだ使用したことのなかった、これ。
『氷魔の……激昂!!』
俺の滅悪魔法は0Pを粉々に砕いて小さな破片として周囲にぶわりと撒き散る。俺はというと階段も消してしまったので地面から引っ張り出すように腕を引き、滑り台のようなものを造り出して滑ろうとしたのだが、足が止まらなかった。
『うぇ!? う、おおおおおおおおお!!』
鬼気迫る表情で転けないようにそれを駆け降りて、台から降りるときに足を滑らせ、ずてんと地面に顔面から挨拶をする。
『おわっ!!』
「「お前の服はどーなってんだ!?」」
そんな叫びを聞いて自身を見ればパンツ一丁、ばさっと目の前にズボンやら上着やらが舞い落ちた。
いつものことなのでそのまま服を脇に抱えて『あとちょっとで終わるから向こう行ってよーぜ、俺が全部ポイント貰ったから』とゲートへ向かう。
背後から怒鳴り声とか聞こえたけど知らねぇ。だって自分が悪い。
.
一週間後、通知が来た。もちろん合格か不合格かの通知だ。
入っていたのは簡易モニターみてぇなやつで、起動したら目の前にオールマイトが現れた。それをドキドキしたように見守る両親と、頬杖ついて興味無さそうに眺める俺。結果は合格。
«氷造くん! 辺り一面を氷で銀世界に、女子を氷で助けたり、0Pのお邪魔ギミックを粉々に破壊したり、いや、ほんと……凄まじい戦闘センスだね! 素晴らしいよ! 110点、入試一位通過だ!! おめでとう! 合格だよ!»
「ぐれええええい!」
「俺たちは、俺たちはぁっ! えぐっ」
『おわ!! 泣くなよ親父!! お袋もうっせえ!』
「グレイ服!」
『いつの間に!』
「お前はいつからそんなに脱ぎ癖が……」
『っんな目で見んじゃねーよ!?』
春。
「グレイ! Yシャツ着てる!?」
『着てるよ!?』
「ジャケット着てる!?」
『着てるって!』
服関係でうるさい母親にうんざりしつつも笑って靴を履いて、玄関の取っ手に手を掛ける。
『じゃ、行ってくるな!!』
「服!」
『嘘だろ!』
.
バリアフリーなのか偶然そういう作りなのか、俺三人分ぐらいの大きさの1-Aと書かれた扉を開けばそこにはほとんど揃っているクラスメイトがいた。あのときの眼鏡と爆豪は机がどうのぶっ殺すがどうの。物騒だなおい。俺もナツもエルザも言えた口じゃねぇけどさ。
その二人の横を素通りしていけば、大きな事実が発覚した。俺、この爆豪の後ろの席じゃねぇか。
若干ハハ、と乾いた笑いをこぼせば周囲から同情の視線をもらった。やめろ俺をそんな目で見るな。
そしたら妙に小薄汚い男が入ってきた。担任の相澤というらしい。……ん? 担任!?
そしていきなり始まった個性把握テスト。入学式もガイダンスも無いが、俺には楽で良かった。
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間無いよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m、持久走、握力、反復横跳び上体起こし、長座体前屈……中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。国はいまだ画一的な記録をとって平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」
そして爆豪が中学の時の記録を聞かれ、67mと答えた。はん、俺80mー。
まあ爆豪が「しねぇ!」と怒鳴りながら個性使って投げたら705.2mだった。やっぱり個性はすげぇな。
まあ自由に個性を使えるって聞いてみんなが楽しそうだのと騒ぎ出したのが相澤の勘に障ったのか、最下位は除籍処分になった。マジかよおい自由な校風ここで出ちゃったよエルザ並みの強引さだって。
「生徒の如何は俺たち先生の自由、ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」
あれか? Plus Ultraって奴か? 面白そうじゃねぇか、そういう制限あった方が本気出せるぜ、相澤先生。
**
50m走、ナツと競ったことが有るからか個性使わなくても5.01と速かった。眼鏡_飯田は3.04秒と早く、驚いた。個性はエンジンらしい。水を得た魚じゃねーかよ。
握力……80kg。なんか540kg出してる触手の焼いたら美味そうなやついたな。障子だっけか。
立ち幅跳びは氷で体を持ち上げてひたすら前進。
反復横跳びはうおおお、と叫びながら結果はいまいち。
ボール投げは……あれを使うか……。
『行くぜ!』
「「「脱ぐな!!!」」」
バサッと上半身の服を脱ぎ捨てればクラスメイトから勢いよく突っ込みを貰った。んなもん知らね。グッとボールを握って、右手を氷で覆っていく。
『アイスメイク……魔王の前腕甲(ヴァンブレイズ)!!!』
振りかぶれば氷で作った大きなガントレットのような形をした氷の肘の部分のピンがガチンと音を鳴らしてボールを押し出す。投げる力と押し出す力、ボールはギュンと目にも止まらぬ速さで奥へ飛んでいき、木々を薙ぎ倒しながら進んでいく。
「……氷造、6km」
『お』
「キロ出たああああ!」
「なんださっきのガントレット! くそかっけぇ! くそ!」
「ちょ、下品……」
「服さえ脱がなければね……」
『……(言いたい放題言ってくれやがって)』
そのあと麗日ってのが∞を繰り出したので一気に霞む俺。なんなんだよもう。
.
なんか個性使って大ケガしたやついたけど、結果的に除籍は嘘だった。何でも合理的虚偽のようだ。おいおい相澤先生、やめろって心臓に悪い。
**
翌日、午前は必修科目、英語などの普通の授業。昼は大食堂で一流の料理が安価で食えるらしい。
仲良くなった上鳴や切島と食堂にいけばごったがえすそこ。偶然空いてる席を見つけたので早速そこで座って飯を食い始めた。
『やべえうめえ!』
「それな!」
「旨いけどよ……! 氷造……服脱ぐのやめろって! 半裸じゃねーか!」
『がふッ! いつの間に!』
「無意識かよ! さっき脱いでたろ!」
『いや知らねえうめえ!』
「うるせえ!」
がばば、と流すように口に含んでそしゃくして飲み込んで五皿ほど繰り返して満腹になったので『いや食った食った』と椅子に持たれかかる。
「……おま、その量はねぇわ」
「すげえな……ウェイ」
『え、お前ら食わねぇ?』
「あんな量は食えねぇよ!」
そして午後の授業はヒーロー基礎学。わーたーしーがー!! 普通にドアから来た! と叫びながら入ってきたオールマイトから戦闘訓練をするぞと伝えられた。それに伴って渡されたのが戦闘服(コスチューム)。俺のはアルバレスの時の服だ(KC36巻表紙の服)。まあどうせ脱ぐし意味は成さない。
「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!! 自覚するのだ!!!! 今日から自分は……ヒーローなんだと!」
俺たちはコスチュームを着て、グラウンドへと出たのだった。
.
「始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!」
『(うるせえ)』
オールマイトの怒鳴り声から開始した戦闘訓練。場所は屋内、対人戦闘のようだ。
『対人……? 得意分野じゃねーかよ』
「え、氷造、得意分野って……?」
『お前……耳郎だっけか? 要するにだな、敵をメタメタにぶん殴って気絶させて捕まえりゃ言い訳だ、負けるわけねぇ』
「氷造少年ってばクレイジー!!!」
横槍を投げてくるオールマイトを鼻で笑ってルールを再度聞く。状況設定は「敵」がアジトに核兵器を隠していて「ヒーロー」はそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収すること、敵は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえること。コンビ及び対戦相手はくじ。ただし、クラスは21人。一人あまりが出るので一チームだけ三人だ。俺は見事に三人ペア、Iチーム。
最初のAチームVSDチームが対戦して、グラウンドのひとつの建物が大破する結果になった。勝ったのはAチームだが、勝負に負けた感じだ。だってAチームの緑谷ってやつ、ボロボロなのにDチーム無傷だし。
そして第二戦、俺のIチームVSBチームだ。
「がんばろーね二人とも!」
『轟は俺に任せとけ!』
「うん」
「尾白くん氷造くん。私、ちょっと本気出すわ、手袋とブーツも脱ぐわ!」
「うん……(葉隠さん、透明人間としては正しい選択だけど女の子としてはヤバいぞ倫理敵に)」
『おう! 頑張れよ葉隠!』
「(なにいってんだよ氷造!?) 」
ビル内でのそんな会話のあと。四階の北側の広間に俺と尾白、同じ階のどこかに葉隠、そういう配置についてすぐ、ビル内を冷気が覆った。咄嗟に俺は飛び上がって回避したが尾白は反応できなかったらしく、ビルが凍ったのと同時に尾白の足も凍り付く。
次の瞬間には轟は扉の所にやって来ていた。
「……驚いたな、反応したやつが居たのか」
『馬鹿言え、おんなじ氷だろーが。所でお前……息が白いぜ、どした』
「普通は白くなるもんだろーが」
『俺はならねえ。個性(魔法)のために、半裸のまま雪山で人生の半分過ごしたからな』
「……ヘェ、そりゃすげーな。とりあえず上着ろよ」
『うおっ! いつの間に!』
<無意識!!!?>
轟にそう言われ、自身を見れば上着のコートを着ていなかった。まあ気にするほどのことでもねえ。
『ほら、やるぞ。負けるつもりねーから。わり、尾白。もうちっと我慢してくれ』
「……俺とやる気か」
『お前は俺の足元にも及ばねぇよ』
「なんだと」
『行くぜ!』
バサッとノースリーブの様な上の服を脱ぎ捨てて『アイスメイク、ランス!』と氷の槍を浴びせる。それを大きく回避した轟はバキキッとアイスゲイザーの様な氷を地面から俺に向けてきた。
ドゴン! と大きな音がして煙が舞う。
「氷造!!」
「……ふん、終わりだろ」
いまだ煙の晴れないなか、轟が核兵器に近付いていく。そして右腕を伸ばしたとき、それは煙から伸びてきた手に掴まれた。
「なっ!?」
『おいおい、誰が終わりなんだ?』
「てめえ、っ」
轟の右腕を掴んでいた左腕が瞬時にパキンと凍り付く。轟はバッと距離を取って俺を睨み付けた。
「……なんで」
『なんでって……俺に氷は効かねぇよ』
轟を見て、凍り付いた左腕に目をやる。怪訝に顔をしかめる轟に俺はニヤリと笑って左腕の氷を口に持っていった。
『なんてったって、氷は俺の大好物なんだぜ』
「は!?」
そのままばきばきと腕の氷を食いつくしてフゥと息を吐く。はくはくと口を開けては閉じてを繰り返すなか、俺は『ショットガン!』と地面の氷を操り轟に向けた。
「くそ……!」
『残念、捕まえたぜ』
「っ!」
そのまま俺は轟に確保証明のテープを巻き付け、外で待機しているだろう障子のところにいくべく、窓に手を着いて階段を作ってかけ降りて奇襲を仕掛けてから意識を奪って確保。勝利、俺のチーム!!
.
ポケスペゴールド転生。記憶なし。個性は『ポケモントレーナー(孵す者)』。基本的に孵す者の能力を受け継いでいるのはトゲたろうとピチュぐらい。原作でゴールドが持っていないポケモンもいたり。
**
俺の個性はポケモントレーナーと言う聞いたこともないものだった。周囲は翼が生えたり触手が生えたりとかっこいいものばかりなのに、なんで俺だけそんなヘッポコな名前なんだ、とむくれた時期もあったっちゃあった。でも、個性で出現した図鑑らしき赤い機械。手持ちと書かれた液晶パネルをタッチして出てきた六つの紅白のボールの中から現れたその『ポケモン』と言うのに一気に心を惹かれた。
バクフーンの『バクたろう』
ニョロトノの『ニョたろう』
エテボーズの『エーたろう』
ウソッキーの『ウーたろう』
トゲキッスの『トゲたろう』
ピチューの『ピチュ』
姿形も違う種類も別なコイツらとは前世からの知り合いのようにすぐに仲良くなれたし、コイツらと居るときは酷く楽しい。攻撃技等を単身で持っているから危険っちゃ危険だが俺が指示しなければ人に向けたりはしない。咄嗟に出したりするときもあるけど。
ポケモンは『進化』するらしい。バクフーンのバクたろうも最初はバクフーンではなく『ヒノアラシ』と言うひねずみポケモンでちっちゃかった。トゲキッスのトゲたろうも最終進化形態だ、一番最初はトゲたろうはタマゴのままボールから出てきてバクたろうやその時はまだエイパムだったエーたろうと温めてやっと孵ったトゲピーと言うポケモンだった。ニョたろうだってそうだ。
いずれはピチュも進化するんだろうかと中学後半、年甲斐もなくわくわくとしている。
中三のとある平日の朝、俺は昨日の夜更かしが祟って母さんに起こされるまでぐうすかと寝ていた。この10年そこらですっかり馴染んだバクたろうたちに母さんが俺を起こせと頼めばみんながみんな俺を起こしに来る。毎回俺はピチュの電気ショックで叩き起こされみんなが俺の髪を鋤いたり着替えを持ってきたりと騒がしい。
俺は毎回そのタイミングで寝起きから抜け出し自分で着替えて部屋を出るのだ。他のポケモンを引き連れ、まだ幼くて小さいふかふかなピチュを腕に抱えて階段を降りる。足にまとわりつくようにみんな一緒に階段を降りているから少しばかり怖い。なんかこう、転げ落ちそうで。
『グッモーニン母さん』
「おはようゴールド。前髪爆発してるわよ」
『俺はこれがいいんだよ!』
リビングに入ってピチュをフローリングに置けば颯爽と駆けていくソイツに呆れた笑いをこぼした。それについていく他のポケモンも。薄情なやつめ。がたりと席につきながら母さんにそう返し、俺はトーストをかじりながらテレビをかじりつくように眺めるピチュたち。あいつら意外にもテレビっ子なのだ。
実は俺の図鑑……『ポケモン図鑑』にはまだまだいろんな種類のポケモンがおり、十数匹は家に放してる。流石に2m3mの奴は出してやれないので庭先で可愛がっているのだ。愛嬌があって本当にポケモン最高。
「ヨギ、ヨーギラ!」
「ん? ヨギたろうどした? 遊べって?」
俺がそう聞けば嬉しそうにうなずくヨーギラスのヨギたろう。俺は『なら今日の連れ歩きはヨギたろうで決定だな』と告げればはしゃぐヨギたろう。周りからは不満の声が上がるも、勘弁してやってくれ。そこで母さんが俺に声をかけた。
「そう言えばゴールド、高校どうするの?」
『なに当たり前のこと聞いてんだよ、母さん』
「え?」
『雄英に決まってんだろ、俺はコイツらとヒーローになる。前も言ったろー?』
「バカね、聞いてないわよ!」
『えっ、マジで? ……まあ、よくあるこった! 気にすんな!』
「まったくもう……」
この話は俺、名前がゴールドで定着してきてっけど本名『小金 ヒビキ(こがね ひびき)』が最高のヒーローたちと最高のポケモンヒーローになる物語だ。
小柄なポケモン達を引き連れ散歩から帰宅。そしてテレビをつけたピチュと他のポケモンに囲まれてテレビを見ていれば気になるニュースを発見した。
今日の学校が終わった放課後、一人の俺と同い年のバクゴーとか言うやつがヴィランに捕まる『ヘドロ事件』なるものが発生したらしい。その彼と幼馴染みの緑の縮れ毛の少年も助けに入ったみたいだがヴィランには相手にされなかったようだ。その後、オールマイトの活躍で事件は終演を迎え、バクゴーはあのヘドロの攻撃を耐えたそのタフネスを評価されていた。俺はどっちかってェと緑の縮れ毛を評価したい。幼馴染みだからってそう簡単にヴィランに突っ込めねーだろ普通。
『やっぱオールマイトすげーな、バクたろう』
「! バクッ、バクフッ!」
『なんだなんだ、オールマイトにも負けねえっつってんのかバクたろう。うれしーなこんにゃろー!!! お前等なら出来るぜ!』
近くにいたピチュやトゲたろう達を巻き込んで抱き混めばピチュから電気ショックをもらった。酷くね? まあテレビっ子なピチュの邪魔した俺が悪いんだけど。
……アイツも雄英、来んのかな。え、アイツって? バクゴーに決まってんだろ。
『……アイツ来たら同じクラスにゃなりたかねーなァ』
「ちゅぴ?」
『わかんなくていいんだぜピチュ。よくあるこった、気にすんな。いでっ』
「エテ! エテテ!」
『いだっ、いだだだ!! さっきから髪引っ張んな! いてえんだよエーたろう! 遊べってか!?』
「エテボー!」
『さっき散歩行ったろ!? もうすぐ晩飯だっつの! ウーたろう! 遊んでやれよ!』
「ウソキー」
『おい!』
.
それから10ヵ月、とうとう雄英の入学試験である。今までの10ヵ月、血反吐を吐くぐらい勉強したんだ。中二では通知表オール1評価のこの俺が。この努力実らなかったら俺はもう引きこもる。泣く。駄目だ、引きこもるにしても遊ぶのが好きなエーたろうやポケモンたちに引きずり出されちまうし、泣いてるとキマたろうが俺を物理的に明るくしようと『にほんばれ』で眩しくなる。なんだこれ絶望的じゃんよ俺。これが八方塞がりってやつ? いや、多分違うと思うんだけど。
俺の緊張が伝わったのか緊張で大人しい小型二匹……ピチュとヨギたろうを腕に抱えて試験会場へと歩を進める。珍しそうに俺と俺の腕の中の二つの生命体を見る周囲や珍しそうに周囲を見回す二匹にもう俺はどうすればいいのかわからないぜ。とりあえず二匹は本当にかわいい。トゲたろうも目付きが俺似じゃなくてしかも進化前ならチェキプリーとかわいい声をあげて笑っていただろうに。トゲキッスでけーんだよ。トゲたろう小さくなってお願い。
試験会場内にて、指定された受験番号の席につき、プレゼントマイクの最早やかましいぐらいのハイテンションな説明をただひたすら大人しく聞く。眠そうな、と言うか寝たヨギたろうを俺の頭の上に、動き回ろうとするピチュを押さえるようにキツく腕に。ただひたすらに大人しく。俺は話を聞いた。スケボー乗りてえビリヤードしてえ。脳内は別に大人しくなかったわ俺。
どうやら俺たちはこのあと、服を着替えて十分間の模擬市街地演習なるものを行うらしい。演習会場は受験用紙に書いてあった。
演習場には仮想ヴィランを三種多数配置していて、それぞれの攻略難易度に応じてポイントが設けられるみたいだ。各々なりの仮想ヴィランを行動不能にし、ポイントを稼ぐのが俺たちの目的。他人への攻撃は御法度。シンプルでいいなこういうの。
あれ、でもプリントには仮想ヴィランは四種って書いてあるんだけど。疑問に思ったその時、眼鏡の男がちょうどその質問をした。ついでに彼の後ろの方の緑の縮れ毛のかの少年に注意していたけど俺知らね。
四種目は0ポイント、要するにお邪魔虫のようだ。なかなか粋なことするじゃねーの雄英。さあレッツPlus Ultra!
結論から言おう、演習場めっちゃでけえ。やっぱし市街地言うだけあんなぁ、これ。
プレゼントマイクの気の抜けたスタートーと言う合図と共にバクたろうの背に跨がり一番に演習場へと飛び込んだ俺はそんなことを考えていた。
現れた有点ヴィランをバクたろうの時に火炎放射で破壊し、時に電光石火でたいあたりし破壊し、ブラストバーンで数体溶かし尽くす。最早破壊者な俺はバクたろうの背中でヨギたろうを頭に乗せていろいろとポケモンに指示を出していた。
時々実力が足りなくて負けそうになっている人をピチュのボルテッカー、またはエーたろうのスピードスター、そのまたはキマたろうのタネマシンガンで助け、時々建物から足を滑らせ落ちてくる受験生をウーたろうに受け止めてもらったりとてんやわんやだ。忙しい。
途中、0ポイントヴィランが超巨大だったことが判明したり、降ってくる瓦礫に押し潰されそうになっていた奴をギリギリでバクたろうからトゲたろうに乗り換え間一髪助けたり。
まあ、充分に有意義な試験だったんじゃね? とは思う。
後日届いた雄英からの合格通知に叫んだ俺は悪くない。嬉しかったぜ!
.
やって来た朝。今日も今日とて俺の図鑑ではなくボールに入れている手持ちたちに叩き起こされ、髪を整えられ、トーストを口に突っ込まれた。意識が半分覚醒してきた俺は真新しい制服の袖に腕を通す。俺よりも母さんになついたポケモン達を母さんの頼みで家に起き、俺はボールに入りたがらないピチュを腕に靴を履いた。
『……いってきまーす』
「はーい、いってらっしゃーい」
母さんの返事を聞き届け、俺はピチュを頭の上にのせて眠気の抜けきらない頭で駆け出した。目指すは雄英、1年A組。俺の新しい学年とクラスである。
**
やって来たぜ雄英。自分のクラスの扉の前に立つと、個性で大変な思いをしている人に対するバリアフリーなのかドデカイ扉がでかでかとあった。でけーなおい。
頭から肩へと移動してきたピチュの毛並みに首筋がくすぐったくなるもガラ、と扉を開けた。
一番に目に飛び込んできたのはあの爆豪とやらと試験会場で質問していた眼鏡が机に足を乗せるな別にいいだろ云々言い争っていた。ウルセーのツートップかよ。うちの子に影響が悪そうだからやめて。
そんでまぁ、うちのピチュってまだ幼い訳よ。他に比べたら。な? 分かるだろ? いきなり怒鳴り合う場面を見せられたら……な? 察するだろ?
「チュピッ!? ちゅぅぅう!!」
『いだああああっ!』
案の定驚いたピチュから電気ショックをいただいた訳だが。10まんボルトじゃなかっただけ良かった、成長したなピチュ。
同じクラスの奴等はいきなりの放電と俺の叫び声にギョッとしたように俺を見つめた。だがしかしそんなもん気にする暇はない。
『こらピチュてめっ、電気ショックはねーだろーが!? いてーよ静電気のがマシだわ!!! なんだぁ!? 昨日テレビのチャンネル勝手に変えた俺への嫌がらせか!?』
「ぴちゅっ! ピチュピッ!」
『やっぱりかテメー! いだっ、つねるなつね……いたいいたい!!! ごめんごめん俺が悪かった……なんて言うわけねーだろこの電気ネズミ!!!』
「!? ピチュ!!!」
お互いに頬を引っ張りあって『うふわのひぃへぇほけほんはなへめーふぁ!(器のちぃせぇポケモンだなてめーは!)』「ひぃふぅ! ひぃふひぃふ!」と何やら変顔大会になったところで眼鏡に「何をしているんだ君は!」と爽やかに声を掛けられた。
『あー、にらめっこかな? ってか、お前さん誰よ』
「ぼ、俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ! よろしく!」
『おーよろしくなー、俺 小金 響。気軽にゴールドって呼んでくれな』
「ゴールド?」
『俺のあだ名な。ガキん時からずっとそう呼ばれてっからよ。むしろその呼び方じゃねーとしっくり来ねえっつーか。まぁクラス一緒だし頼むわ』
飯田は淀んで居たものの「……そうだな、呼ばれなれた方が反応しやすい。うん、わかったぞゴールドくん」とちゃんと返してくれた。いい人だコイツ。な? とピチュを見れば机を伝って再び俺の肩へと戻ってきた。くそー、かわいいなコイツ。あざといな。
.
飯田と言い合っていた爆豪がこれでもかというぐらい睨んで来たがそれを目線を合わせないようにスルーし、砂藤とかかれた席の後ろの席に腰を下ろした。俺だけぽつねんときれいに揃った席から飛び出ていて少しさみしい。学校側が仕組んだアレ的な何かか。アレってなんだ。
周囲からちらちらと俺に視線が飛ばされているのに気づくと同時にあぁ、とピチュに視線を落とす。アレだけ大きく言い争い? のようなものをしたんだ。気になるだろう。ピチュも居心地悪そうにしているので腰のベルトからボールを取り外して向けてみると珍しく自分からボタンを押して赤い光に包まれ入ってきてくれた。かわいいやつめ、とか思いながらベルトに戻す。
席に座って先生を待っていれば緑の縮れ毛もやって来て、飯田が挨拶に行った。緑の縮れは緑谷出久というらしい。まんまか。そして赤らんだ頬が特徴的な少女、麗日お茶子も登場。三人はその場で話し込んでいたが後ろからやって来た小汚い男に注意された。なんと彼、相澤消太が俺たちの担任らしい。マジかよ。
そして早速だが、と言われて渡された体操服。やって来た運動場。どうしよう訳わかんねえ。
**
どうやら運動場では個性把握テストを行うようだ。麗日が「入学式は!? ガイダンスは!?」と先生を問い詰めるも、先生は素知らぬ顔してヒーローになるにはそんな悠長なものに出ている暇はないだのなんだのかんだの。
そしてちょっとしたデモンストレーションのあと相澤先生から言い渡された『最下位は除籍処分』。なんだこれ絶望。
とまあごちゃごちゃあったものの、最下位除籍処分は合理的虚偽、わいわいと騒ぐクラス。そこそこに仲が良いやつもできた。意外と爆豪は取っつきやすい。人を近寄らせない雰囲気をかもし出しちゃ居るし口も悪いけど、まあ悪いやつじゃなかった。上鳴ってのと切島、瀬呂とかとも仲良くなれたし結果オーライ。そんなこんなで日々は過ぎていき、ヒーローコスチュームも手渡されオールマイトのヒーロー基礎学も無事終了。展開がはええって? よくあるこった、きにすんな。
女子? 女子とはあんま喋れてねーよこんちくしょー。
.
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
と相澤先生に切り出され、何をするのかと思いきや、災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だった。おおお、と気分が上がるなか、ピチュが自力でボールから飛び出して肩に乗った。ふっさふさの毛並みが首に当たってくすぐってぇな。
俺のヒーローコスチュームはフード付きの赤い上の服。腹辺りにポケットが有るものだ。下は黒と薄い黄色の七分丈のズボン。キャップ帽の鍔が後ろになるように被り、その上からゴーグルを装着すれば準備万端。(スペゴールドの完成)
先日のオールマイトの授業でコスチュームがぼろぼろになってしまった緑谷は体操服だ。
バスにて。俺は向き合うタイプの席で切島と梅雨ちゃんの間に座って会話に混じっていた。
「私、思ったことをなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん」
「あ!? はい!? 蛙吹さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性オールマイトに似てる」
「!?」
梅雨ちゃんの言葉にひどく動揺した緑谷だが、切島が「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」と隣で補足する。『確かになー』と同意していれば、膝の上のピチュもうんうんとうなずいた。
「しかし増強型のシンプルな個性はいいな! 派手で出来ることが多い! 俺の硬化は対人じゃつえーけど如何せん地味なんだよな」
「僕はすごくかっこいいと思うよ! プロにも充分通用する個性だよ!」
『それな! 俺は体に影響が出る訳でもねーからよ、ほとんどポケモンに頼りっぱだぜ』
緑谷にピシッと指を指せばだよね! とにこにこしている。向かいに座っている芦戸が「かわいいよねー、その個性!」とピチュを見つめながら言った。
『だろー? コイツは生まれてからまだ数ヵ月だから体もちいせぇんだよなー。強いけど』
「生まれてからまだ数ヵ月? 小金くんの個性ってその子じゃないの?」
『緑谷、ゴールドって呼んでくれよ。慣れてねぇんだよな……。
えっと、まぁそうだけどちょっとちげーよ。コイツはタマゴから生まれたんだ、別になにする訳でもなくずっと抱えてたら生まれてきた。
俺の個性は『ポケモントレーナー』、この図鑑から六体を出してこのボールに入れとけばすぐ出せるんだ』
「へえ、じゃあ他にもたくさんいるのね」
梅雨ちゃんがそういったので頷けば、上鳴に「ポケモンってなんだ?」ともっともな疑問をぶつけられた。どうやらこの話にはみんなが興味があるらしく、視線が集まる。
『ポケモンってのはなー……ポケットモンスターの略称で、まだまだ謎が多い生き物なんだよ。ある条件が揃ったり強くなれば進化ってのをして姿形を変える。そもそもタマゴすらどうやって産むのかまだはっきりしてねえ。俺の図鑑に表示されてるポケモンは約700種類。タイプは確か……16ぐらいあったかな。技の種類も豊富で中には全ての産みの親とか言われるやつもいるんだ。不思議な生物なんだよなー。俺もよくわかってねーし』
なーピチュと頭を撫でれば噛み付かれた。いってえ!
「そのピチュはなんの種類なの?」
緑谷にそう聞かれて、『コイツは電気タイプのネズミポケモン、“ピチュー”って種族なんだ』と返す。
『進化形は“ピカチュウ”って奴で、最終進化形は“ライチュウ”らしいんだ』
図鑑を見ながらそう言えば、撫でてみたーいと芦戸に言われ、ピチュを手渡す。
「なぁゴールド! 今手持ちにいるやつ他に何が居るんだ!?」
「あっ、俺も見てえ!」
「俺もー」
「私もー!」
上鳴や切島、瀬呂、麗日、葉隠にねだられ先生に聞けばそこまで大きくないやつなら一体だけいいと許可が降りた。なら俺の相棒だな。
『俺の相棒、バクたろうだ!』
ボールから出したのはバクフーンのバクたろう。コイツは今最終進化形で最初はヒノアラシだった、と図鑑を見せながら説明する。
「思ったんだけど、どうしてニックネームがバクたろうなの?」
梅雨ちゃんの疑問に『コイツな、背中が爆発してるみてぇに火ぃ吹くんだ。俺もよく前髪爆発してるねっていわれてっから』と頭を撫でていればネーミングセンス……とちょっと遠い目をして言われた。なんだよ、かっけーだろ? なになにたろうって。
.
短編
【魔法先生ネギま!のネギ先生が雄英でプロヒーローとして英語教師していたら】
今日からこのA組に副担任として誰かがやって来るらしい。もちろんプロヒーローなのだろうが、雄英に来るとなるとそれなりにビッグネームな筈。
相澤先生に副担任を教えられたA組総員は誰だろうと扉の方を凝視した。
現れたのは赤毛のイギリス人の、小柄な少年。10歳は言っているだろうと思われるが判断しかねる。小さな丸眼鏡に襟足の髪を後ろで小さく束ねる少年なのだが、その場にいる全員が彼を知っていた。数々の大事件や強敵ヴィランを瞬殺、おまけに女性の心をも瞬殺する名の知れたプロヒーロー『ネギ・スプリングフィールド』。ヒーローネームは本名のようだ。愛らしい外見のネギは教鞭に立ち、ガチガチに緊張している様子で口を開いた。
「えっ、と……知っている人もいるようですが……は、はじめまして、ネギ・スプリングフィールドです! これから副担任としてA組に付き添う形になりました! よ、よろしくお願いします!」
勢いよく御辞儀をした彼は思いきり額を教卓へぶつけ、「あぅぅ……」と額を押さえて涙目で唸る。それにしばし唖然としていたA組だが、大きく歓声をあげ、先生へと質問を次々へと投げ掛けた。
「ね、ネギ先生って呼んでいいですか!?」
「あ、はい、構いませんよ」
「先生ちっさいですね!」
「あー、えと、まだ10歳なもので……」
『10歳!?』
「あれっ、公表してなかったかな……?」
あせあせとノートを捲るネギにさらにヒートアップするA組。
「先生の個性ってあんまはっきりしてないですよね!? 何の個性っすか!?」
「あ、はい。『魔法』ですね。僕は同じこの魔法の個性を持つ師匠に戦い方を学びました。僕がよく使う魔法は『雷』や『風』『光』と言ったものが多くて、もちろん敵に向けるものも多いですが、強制武装解除魔法や、自分自身に魔法を乗せてと言ったものが多いですね。
皆さんが一番よく知っていると思われるのは『雷天大壮』か『雷天双壮』です」
「あー! あの何か握り潰してる奴!」
「はい、それですね。魔法の発動呪文を唱えたあと、それを敵に発射するのではなく自身の手のひらの上に固定し握り潰して体内に取り込んでいます。これは『闇の魔法(マギア・エレベア)』と言う師匠の編み出した技で、長い間師匠と地獄の修業をし、ようやく資格を認められて一ヶ月不眠不休で命のやり取りをしてやっと取得できました。雷天大壮、双壮はこれを僕がアレンジしたものです」
「地獄の修業?どんな?」
「……」
芦戸が聞くとネギ先生は笑顔のまま硬直しだんだんと顔を青くさせ激しく震えだした。それを見て周囲が「そんだけ怖かったってことか!?」「ごめん先生!」「もういい! もういいよ!」とフォローを入れる。そこで相澤先生は問うた。
「そんなに簡単に強さの秘密、暴露していいんですか?」
「あっ、はい、全然構いません! 絶対出来ないので!」
「……出来ない?」
「以前にも同じ個性を持つ方が数人僕のあとに師匠のものに来たのですが、まず、師匠の修行が厳しすぎて凍死寸前の方や圧死、脱水死、焼死寸前などが多発しまして……。
二つ目は師匠と手合わせがあるのですが、下手すると命を落とします。僕も何回か師匠に掌抵を喰らってそのたびに内蔵がぐちゃぐちゃになりました」
「!?」
「三つ目、マギア・エレベアの取得には上記の手合わせを無事生き延び、認められたものが巻物を渡されます。ひとたびそれを開けば最後、思念体の師匠に精神世界へと引きずり込まれ、取得するか死ぬかしか脱出方法はありません。ここまで行けたのは僕が初めてだったみたいで……」
「あれ?」とネギ先生が声をあげた静かになった教室でその話を聞いてA組は静まっていたのだった。
.
×絶チルでバレットくんがヒロアカ世界で生まれていたらなパラレル。
個性は『鉛』。鉛を自由に操作することができる。主に銃を使用(超高威力)。備え付けの遠隔範囲を把握出来る眼は半径1kmまでならどこでも見れる。
原作通り二次元オタクかつ軍事オタクかつ実況民。ヒーローにあまり興味なし。なりたいとは思う。
容姿や口調もそのまま。黒髪に白いバンダナ。目上には陸軍で使用されるような「〜であります」等の敬語。呼び方は相澤の場合『相澤教育指揮官殿』と呼ぶ。敬礼はオプションですがなにか? 同級生にはわりと普通。原作と違い額のバーコードは消されてない。
※マメツキは洗脳とかよく知らんのでリハビリとかスッ飛ばしてる。(ごめんなさい)
**
相澤side
俺は今、逃走中のとあるヴィランを追いかけていた。大量爆発テロを起こし、銃での暗殺を以前から行っていた組織をある司祭で捉えたのだ。ほとんどをプロヒーローたちで捕縛し、残るはこいつのみ。だが、追い掛ける背中には銃は握られておらず、こいつの個性は火薬。爆発テロは分かるが、暗殺はよくわからん。そう怪訝に思っていた時だった、男が叫んだのだ。
「バレット! もう構わん! 殺れ!」
男がそう怒鳴った瞬間、俺はその場を飛び上がる。ドゴッと音がして、俺は壁の突起に合金布を巻き付けぶら下がり、そこを見れば今まで居た場所にあるのはひしゃげた地面と煙を出してそこへ埋まる鉛玉。狙撃されたのだ。しかも的確に。飛んで避けなければ脳天を貫いていたはずだ。
まだ残っていたのかと舌打ちをかまして飛んできた方を見ればその方面は避難所で銃を構えているやつなど居ない。そして視界の端できらりと何かが光り、俺は再びその場を飛び退く。それはどごんと例に漏れず正確にもと居た場所へと撃ち込まれた。背後からだった。先程とは間逆の場所からの狙撃に二人も腕のいいのが居たのかと眉を寄せれば、叫んだ先程の男は笑い声をあげた。
「……なにがおかしい」
「はっ、ははは! いや、なに、ね? すごいだろう、その狙撃」
「……はあ?」
そう会話しつつも飛んでくる弾を避け、あいつの口からペラペラ吐かれる言葉を整理する。
「俺たちの組織は昔弧児のちっせえガキを一人拾ってな! そのガキの個性が中々に良いもんだったから洗脳して一から育て上げて狙撃の名手にしたんだ! すごいだろう? 16歳のくせに恐らく狙撃の世界じゃ右に出るものはなしだ! 洗脳の個性持ってるやついてよかった!」
「……だとしても、もう終わりだけどな」
狙撃は止んだ。大方オールマイトがとらえにいったのだろう。焦り出すそいつに捕縛布を巻き付け、任務完了。
他のプロヒーローが集まる場所へと向かえば、オールマイトが気を失っている様子のバンダナを巻いた黒髪の少年を抱いていた。
.
オールマイトに事情を聞けば、俺のクラスの生徒と同じ年のこの少年が狙撃を行っていたらしい。手慣れた様子だったらしいので今までの暗殺は彼が実行してきたのだろう。
「中々の強さを持つ子だったよ。拳銃を握り潰したと思ったら背中からライフル取り出すし、それを潰してもベルトポーチに弾があるらしくてね。指で銃の形を作って撃ってきた。彼の個性は弾、もしくは鉛の操作だろうね。突然糸が切れたように倒れたから驚いたよ」
俺が思うに洗脳の溶けたショックだろうと予想し、『コイツはあの組織に幼い頃から洗脳を受けてたようです』と進言すれば周囲はざわめいた。この場合は強いレベルの洗脳だろうから、ほとんど彼らの操り人形になっていたのだろう。可哀想にとは思うが罪は罪。処罰の対象だろう。
やって来た校長が告げた。
「どっちにしろ、起きるまでは絶対安静だから、雄英で厳重に警戒して寝かせようか」
どうしようもなく胃が痛くなった瞬間だった。
**
この子供が気を失っている間に着々と事は進められ、俺たち雄英教師は昼は交代で監視、夜も監視だが身体検査等もおこなった。
それでわかったのは、彼のバンダナに隠れた額にはバーコードがあったようだ。そして個性。オールマイトの予想通り、『鉛』を操るものだったよう。
目が覚めた瞬間、襲ってくるかもしれない。そんななんとも言えない不安の中、体育祭が終わった。一年の優勝は爆豪勝己。俺のクラスの問題児の一人だ。
そうして雄英がバタバタしているうちに、眠っていた彼がようやく目覚めたのだ。
この場にいるのは俺とオールマイト、そして校長の三名。どうして俺かと言うと、一度戦ったからだそうだ。胃がいたい。
一応しっかりと意識があるらしい彼は言った。とても不思議そうな顔をして告げたのだ。
「ここは、どこだ」
記憶は霞が掛かったように思い出せないらしい。ひどく不安がる彼はくしゃりとベッドの上で前髪を握る。思い出せない、なぜだと自分に問い掛けながら、俺たちの問いにひどく申し訳なさそうに「すみませんが、思い出せないのであります」と何回も返すのだ。
ただ、自分の事はわかるらしい。名前は『バレット・シルバー』、個性は『鉛』。出自はわからない。彼自身、自分をあまり知らなかった。ただ、二次元だどうのと言っていたのでオタクだろう。緑谷とは恐らく別の種類だが。そして銃の使い方、個性の扱い方は体が覚えていた。そして驚くべきはそのからだ。長い間眠っていたはずなのに、リハビリもせず普通にたち歩きが出来る。
『あの……俺は、自分は、何をしでかしてしまったのですか』
この状況を察したらしいバレットが俺たちに聞く。あらましを全て話せば再び頭を抱えるのは目に見えているので、あの場にいたプロヒーローで決めた、記憶がなかった場合の対処を校長が言い渡す。
「……それはだんだんと知っていけばいいのさ、バレット・シルバーくん。まあ、そうだね。唐突に記憶が戻って暴れられても困るからさ、雄英の生徒として学校に通ってもらって、監視することになったのさ」
『……っそれは』
「もちろん衣食住は完璧に取り揃える。君も高校生だ、その様子じゃ学校に行ったことなんてないだろう? いい機会だからさ」
『そういうことではないのです上官殿! 俺みたいな奴を学校に入れるなんて、この部屋の監視だけで充分であります。衣食住も、最低一ヶ月は食べなくても生きられます』
「それじゃ困るから言ってんだ」
俺の言葉に体の向きごと変えて目線を合わせてくるこいつに軍人かよとも言いたくなるが、俺の発言の理由は、ゆっくりと思い出してこの学校に馴染めば暴れる気も起きない、そして穏やかに情報を得られると言うことを言いたいからだ。それを伝えると、バレットは渋々頷く。
恐らくバレットは明日から1-Aの生徒だろうか。胃がいたい。
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うちの子転生トリップ。環境はちょいちょいアレンジ加えつつも生き写し。記憶は無し。技は体が覚えてる的な。トリップするのは志賀 暁くん。個性は『絶対領域(テリトリー)』。自分が把握している空間内なら物を入れ換えたり酸素を無くしたり無重力にしたり重力をかけたり空気を固めて射出したり応用でかまいたちや空気を熱して爆発させたりできる、わりと良い個性。自分を浮かすことも可能。欠点らしい欠点は無いが半径500m圏内までしか発動出来ない。
**
俺の家は大手製菓会社で、兄が一人いる。出来の良い兄貴はいつも褒め称えられ、ただ平均値なのに何故かさげすまれる俺。兄貴の個性は『記憶操作』、俺は『絶対領域(テリトリー)』、このどちらが会社に貢献するかなど目に見えていた。もちろん兄貴の記憶操作である。交渉ごとで自分たちが良い方に傾く交渉が兄貴がいれば100%できる。両親や召し使いがどちらを贔屓にするかなど、目に見えていた。
俺も兄貴も容姿に優れていた、とは思う。ただ、外面だけは良い天才肌の兄貴と、普通な能力で無愛想な俺。人気がどちらに傾くかなど火を見るより明らか。クソみてぇな性格した女遊びの激しい兄貴でも、記憶操作なんて個性が有るから無敵で、でも記憶操作は俺だけには絶対効かなかった。から、夜な夜な隣の部屋から聞こえる媚声にうんざりしていた中学校生活。
いつも比べられてきたひとつ上の兄貴が嫌いだった。
「……雄英、落ちた」
俺が中二の冬。オールマイトに憧れて雄英を志望した兄貴が、入試に落ちた。他のヒーロー科も全滅。何でも出来た天才肌の兄貴が、落ちた。
こんな俺でも人が死ぬのは辛いし、何より親や周囲を見返すために来年は雄英を受けるつもりだった。両親に「大丈夫だ!」「就職でも構わない、お前は社長になるのだから」と慰められている兄貴を横目に、俺は鼻を鳴らしてソファから立ち上がった。暴力の被害は受けたくない。まあ、遅かったのだが。
「何鼻鳴らしてんだよただの出来損ないごときが! 落ちた俺を笑ってんじゃねぇよ役立たずの癖によ! 志賀家の汚点が! 恥さらしが!」
「っ……!」
どかっばきっと鈍い音が響くリビングで、親とも呼べない俺を産んだ奴等が、喧嘩とも呼べないただ一方的に殴られる俺を冷めた目で、しかし怒りを込めて睨んでいた。いつの間にか抜かしていた俺より身長の低い兄貴が、俺をひたすらに殴る。顔、腹、肩、腕、足。
兄貴が俺に当たるのは良くて、俺は兄貴に当たるのはダメなのかヨ。
もう、死にたい。それなのに死ぬことを許さない世界がただひたすらに憎たらしい。
そんな中。
俺は再び出会う。
「……あ?」
「ん……?」
彼女に、出会う。
ライトグリーンの髪の、今度は一卵性異性双生児ではない、天才の弟の姉でもなんでもないただの鉄の個性を持った『鉄我 星奈』に、出会う。
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以前の鉄我 星奈との中学校のテラスでの偶然の出会いから数ヵ月。雄英入試ももう目前に迫っているこの寒い季節。猫好きや甘味好きと言う共通の『好き』を持った俺たちが打ち解けるのは速かった。星奈チャンはどこか懐かしい感じがすると彼女にぽつりと言ったのは昼休み、テラスで持ち寄ったスイーツなどの食べ比べをおこなって居たときだった。
「……何て言うか、私も分かる。暁は、すごく懐かしいんだよね」
『俺も俺も。なんでだろーネ』
「さぁ。あ、あっ、あっ! 暁おまっ、ショートケーキ食べた!? 食べたな!? 私のとっておき!」
「俺の好物はショートケーキだからァ。目の前に置いとくのが悪い」
「おまっ、暁、っんバカ!」
「うわっ! 俺のマカロン!」
急速に減っていく机に大量に乗ってたホールケーキやクッキー、飲み物などの甘いもの。しばらくそんな感じで、不意に星奈チャンが手を止めたので、俺もピタリとゼリーに伸ばしかけていた手を止めた。
「そう言えば、暁は高校どこいくの?」
「雄英ィ。兄貴落ちたし、見返したいし、それ以前に自分を省みずに助けるヒーローってかっけェジャン?」
「へー、暁は雄英なんだ。一緒だね。体作りは一年生からやってるよ」
「え、マジで? 俺も全部一緒」
「やば、シンパシーやば」
ニッ、と笑って見せる星奈チャンに「一緒かァ」と笑うと「受かったらだけどね」と意地悪く笑われた。まあ、その前に。
「多分俺、雄英受けるっちゃ受けるけどォ、受かったら多分家勘当されると思うんだよネェ」
「え、なんで?」
「ほら、兄貴が落ちたジャン? 俺が受かると兄貴のやつ絶対癇癪起こして親に勘当しろ! とか言うからァ。親も多分勘当したがってるからすると思うんだよネェ」
もし受かったあとどーしよっかなァとゼリーをパクつきながら思案していると、「ウチ来れば?」と星奈があっけらかんと言い放つ。ゼリーが変なとこ入って蒸せたのは多分当たり前だ。
「ウチ来れば? って、簡単に言ってくれちゃってこの絶壁女……。家だけシェアハウスってことォ?」
「……いや、違うけど。ホントは今殴りたいけど、この話終わってからね。私めっちゃ我慢してるから」
「星奈チャンの魅力は胸じゃなくて足じゃナァイ?」
「ホントにぶん殴りたいけどあとでね」
ここまで煽って殴りに来ないのは、わりと大事な話らしい。手に持っていたゼリーカップとスプーンをテーブルに置き、真面目な雰囲気を作る。
「あのさァ、シェアハウスじゃないってどういうことォ?」
「……あっ、シェアハウスっちゃシェアハウスなんだけど、そうじゃなくて、えーとね」
必死に言葉を捻りだそうとする星奈チャンに、俺の頭にぽんと全く別の、俺の願望と言うかなんと言うかな案がひとつ浮かび上がるも、これは夢を見すぎかと思いつつ、ふざけるように口角を釣って言ってみた。
「なァに? もしかして婿に来いとかァ? それなら俺も途方にくれずに済むケド」
「あ、そうそれ」
「は?」
本気で唖然として、頬杖をついていた顔をぱっとあげる。あんぐりと開けた口をした俺はさぞや滑稽だろう。さらりとなにいってンのこの子。
星奈チャンはハッとしてから意味を理解しぷいっと顔を背けて腕をあげて「見ないで見るな」と呟いてるけど、赤い耳が覗いてるから、本気だろう。そこに思い至って、体温が急激に上昇したのが分かる。
「あのさァ、不意打ちとか……不意打ちとかやめてくんない……?」
「なんで二回言うのよ、バカツキ殺す。で、どうなの」
「……ここまで来て言えとか言うかヨ、フツー。……マジでわかんねェの? 星奈チャン」
「……分かるけど、聞きたい」
「乙女かヨ……しゃーねェな」
.
「うちの中学からじゃ、あのヘドロ事件の爆豪? って奴と緑谷ってのが雄英行くみてェ」
「どっから仕入れたのその情報」
「先生に聞いたんだヨ」
「教えてくれるんだ……」
以前のプロポーズ紛いから数日。いつもの場所に集まるくせにギクシャクしていた時期からようやく抜け出し、うちの中学から雄英行く奴を先生に聞いてきた。爆豪、個性が『爆破』の過激な人物だ、最近は落ち着いてきているらしい。幼馴染みで無個性の緑谷と両とも酷く仲が悪いらしい。
爆豪とは去年同じクラスだったらしい。先生に聞いた。ほとんど授業サボりまくりだったからなぁ……。
**
そしてやって来た雄英一般入試当日。俺と星奈チャンは二人並んで校門を潜った。
「でっか雄英流石!」
「せっちゃんホント語彙力無いよネ」
「うるさい」
俺はというと。入試を受けるまでが大変だった。親兄弟から猛反対を受けたのだ。出来損ないなんかに、お前に掛ける金が無駄だ。そんなことを言われても、彼らの目の奥に「こいつがもし受かったら……」と言う恐怖が映っていた。そこに俺が「勘当したけりゃしたらァ?」と挑発すればそのあとは売り言葉に買い言葉。入試結果を待つまでもなく勘当された。そういうわけなので、早いかとも思ったが星奈チャン家に挨拶に行くと泣くほど大歓迎された。実際泣かれた。ご両親の薙斗さんと聖さんからダダ泣きされながら娘をよろしくされ、なんか新築の家まで用意してくれるそうだ。金のことを相談すると全部受け持ってもらえるらしい。星奈チャンのご両親人気ヒーローでびっくりした。そりゃ金あるわ。俺も個人資産あるけど。
「それでは志賀さん、勘当された今のお気持ちをどうぞ」
「とても清々(せいせい)した清々(すがすが)しい気持ちです」
「クソ良い笑顔!」
「褒めんなヨ」
「褒めてないから」
半目になって呆れ、スタスタ歩き去る星奈チャンの後ろ姿を眺める。彼女のハーフアップの髪を括っているリボンは俺の髪と同じ紺色。俺のピアス空けまくりの左耳で一番シンプルなピアスの色は、星奈チャンの髪の色。左の薬指の指輪をあまり見せないように学ランのズボンのポケットに左手を突っ込んで俺もそのあとを追った。後ろで「どけデク!」とか聞こえたが誰の声だろうな。
**
プレゼント・マイクの説明会も終わり、実技がもう始まっている。俺の座る席が爆豪の隣だったことに驚いたが、それ以上に驚いたのは爆豪が俺を覚えていたことだ、多分だが。あのとき「……は?」と口をあんぐり開けていたのを見た、記憶力良いんだろうな。多分俺たちが受けることを知らなかった様だ。案の定人見知りを発動した俺は「ん」と頭を下げただけに終わる。隣の星奈チャンに無愛想だとくつくつ笑われたが初対面にどう接すれば良いか全然分からん。とりあえずげんこつ落とした。
とりあえず、入試に集中しようと俺は背後に迫った3P敵を重力で押し潰した。65p目だ。敵pが65、この入試はヒーローの素質を見るためのものだろう。なら、敵を倒すだけでなく救助も必要な筈。下の人に当たりそうだったビルの落下物を消し飛ばしたり、別個で人を抱き抱えて避けたりと大忙しだ。そこで現れたお邪魔虫の0p敵。クソでかい。
「うわあああっ!?」
「なんだあれ!? でかすぎだろ!」
「逃げろ逃げろ!」
逃げ行く人の波に逆らって、転けてる奴に手を貸したりしつつ0p敵のところに辿り着く。トントンと靴の足先を地面に叩き付けたり肩を回したりしていると、後ろから叫び声が聞こえた。
「おい! アンタなにしてんだよ! 逃げろよ!」
「……あ? ああ、俺? ダイジョーブ大丈夫ゥ、すぐ」
終わるからァ。そう呟いて0p敵を睨むと、ぐしゃごしゃとえげつない音を立てながら、ぺしゃんこに潰れた0p敵。少しふらつきもするが、全然動ける。さて、そろそろ終わりか。
そこで終了の合図。あとは結果を待つのみだ。
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一週間後、鉄我邸にて。新築は四月に入ってかららしい。星奈チャンや俺、薙斗さん聖さん四人とも各々そわそわしながらリビングにいた。
俺と星奈チャンの筆記はギリギリ合格点。お互いA判定もらってたからここは心配してない。あとは実技。俺は確実通ってると思うが、星奈チャンは分からない。教えてくれないから。
「私ちょっとポスト見てくるわね!」
意気揚々と唐突に出ていった聖さんに返事も出来ずに見送ると数秒後来たのゲシュタルト崩壊起こしながら二通の手紙を持って入ってきた。
「雄英から! 手紙!」
「うわあああああっ、緊張する!」
「俺まず自分の部屋で見ます、もし落ちてたら落ちてるとか薙斗さんと聖さんに見せたくねェんで」
「二人とも自分の部屋で! 部屋で見てきて! 心臓持たない! どうしよう薙斗!」
「お、おおおお落ち着け聖! 深呼吸だ! そら、ひっひっふー、ひっひっふー」
「「それじゃない」」
「落ち着くのはもしかして俺か!?」
どたばた騒がしくも暖かい風景を横目に、俺は与えられた広い自室で封を切る。雄英卒の薙斗さん聖さんもこうだったのだろうか。中には小型プロジェクター。ここで合否が、決まる。
「……頼むヨ」
『私が投影された!』
しょっぱなオールマイトとかビビった。どうやらオールマイトが今年から雄英教師になったらしい。うわ、うわーテンション上がる。
『素晴らしい成績だったよ志賀少年! 敵ポイント68p、そして聡明な君なら気付いていただろう! 我々が完全審査性のレスキューポイントが50! 総合118pと雄英高校トップの成績で、合格だ!』
「っしゃあああああああ!」
大声で叫んだあと、ダダダダと荒々しく階段を駆け降りてリビングのドアを開けて雪崩れ込むと、薙斗さんが腕を広げて構えていて、そのまま俺より数センチ身長の低い彼に突っ込んだ。薙斗さんはグッと俺を抱き締めて叫ぶ。
「合格おめでとう暁!! お前の叫び声は下まで聞こえたぞ!」
「うわああああっ、うわ、うわー! ヤベェ超嬉しい受かったァ! 嫁も出来たし合格出来たしナァニ!? 俺もう死ぬのォ!? クソ嬉しいあざっす薙斗さん!」
うわー言い続けて薙斗さんから離れると、星奈チャンが飛んでくる。「受かった、受かったぁ……!」と泣きそうになって笑ってるので俺も笑った。
「晩飯食べにいくぞー! 合格記念だ! 焼肉だー!」
「マジかあざっす!」
「焼肉ー!」
「薙斗が食べたいだけなんじゃ……」
血縁関係のある家族とこうまで賑やかに騒いだことはなかった。血が繋がっている訳でもない俺を暖かく迎え入れてくれた薙斗さんと聖さんがとても好きだ。愛されたことのなかった俺が、報われた気がする。
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志賀くんです
俺は雄英のA組で既に席についていた。一人だけ出席番号も関係無く一番後ろの一人席。これは辛い。
緑谷や丸顔と教室に集まるなか現れた薄汚い男、相澤先生。担任らしく、みんながみんな担任!? と目を剥いていた。そして渡される体操服とグラウンドに来いとの指示。
早速グラウンドに出ると、個性把握テストを行うと告げられた。丸顔が「入学式は!? ガイダンスは!?」と聞くと、彼曰くそんな悠長なことしてられないよと告げられた。マジか。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」
なるほど。それで個性を把握するのか。爆豪がデモンストレーションで叫びながらボールを投げると700m超えが出て、みんなが面白そうだのさすがヒーロー科だのと騒ぐ。ただ、そのどれかの言葉が相澤先生の地雷を踏んだようで、最下位は除籍処分になるらしい。どうやら雄英はこんな風に困難をぶつけてくるらしい。いい性格してるわ。
それから。
把握テストも無事に終わり、最下位除籍は合理的虚偽だと告げられ、ショックを受けているクラスを見た俺。今はというと、新築一戸建ての家のソファででろんとだらけていた。
「……あー、疲れたァ」
「お疲れー。A組入学式出てなかったねー、何かあったの?」
「B組出たのォ? 俺んとこそんな悠長なことしてられねェっつって個性把握テストやってたわ」
「うわー」
ドン引きした星奈チャンが持ってきたケーキに飛び付くと、私のとこの先生はすごく親身だったよ、と星奈チャンに言われたので羨ましいと返しておいた。
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翌日からの通常授業。とても普通に必修科目と英語の授業。昼は大食堂で飯。とりあえずランチラッシュが最終的に白米に落ち着くよねとか言ってる隣でケーキ盛り合わせ頼んだらすんごい残念そうに見られた。また白米食いに来よう。
そして午後の授業はおまちかねのヒーロー基礎学。今日の講師はオールマイトで、戦闘訓練をするらしい。コスチュームを渡され、グラウンドベータに集合だと言われた。
俺のコスチュームはとても個性に寄せてある。目に見える範囲にしか発動出来ない個性、だからスコープと言うかゴーグルを身に付け、黒い手袋を装着し、コートにワイシャツ、あとベルトポーチ。とてもシンプルだ。
さて、始まるのか。ヒーロー基礎学。
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一クラス21人、奇数なので一人余る。今回、初の戦闘訓練は屋内対人戦闘だった。ツーマンセルでヒーロー、敵に別れてビルでの演習。核(ハリボテ)を敵がビルのどこかに隠し、ヒーローが探す。戦闘になってテープを巻けば巻かれた方の負け。
ここで冒頭でも言った奇数人。一人余る。オールマイトはそれを見越していたようで、俺にB組に入ってくれと言った。拒否る理由もなかったのでこくりと頷く。
第一戦、ヒーローチーム緑谷、麗日VS敵チーム爆豪、飯田。
「っはー、あの相性最凶最悪の幼馴染み同士が対戦相手とかやべェこえェ。オールマイトせんせェ、これやべェことンなるんじゃナァイ?」
「ん? 志賀少年、君も二人を知ってるのかい?」
ぎゅるんと方向をモニターから俺に変更したオールマイト先生が首をかしげる。……君も、ってことはなにかしら、どちらか二人と繋がりがあるってことか。あーあー通じるとかバレたらヤバイんじゃねェ? とか眉を潜めるも、「まーネ。中学一緒だったし」と手をひらひらさせる。正直あまり関わりはなかったからよく知らねェけど。
隣の赤髪が「中学での爆豪と緑谷ってどうだったんだ?」と俺に質問し、視線が俺に集まった。興味津々かヨ。
「んー、つっても、俺そんなに詳しく無ェんだよなァ。緑谷とは同じクラスになったことねェし、爆豪とは二年の時に一緒みてェだったらしいけど俺授業サボりまくりで面識なかったし、成績が学年トップしか取ってなかったのとプライドエベレストってくらァい。でもまあ、噂になるぐらいには知ってたヨ、有名だったしネ。関係最悪最低ド底辺、仲の悪すぎる幼馴染み」
「ド底辺……。はー、やっぱり爆豪の奴色々やべーんだ。入試一位は伊達じゃねーな!」
「はーん、爆豪一位だったんだァ。初めて知ったワ」
とまあこんな感じで会話も赤髪、切島とした。爆豪たちの訓練も終わり、次は俺たち。葉隠、尾白VS俺、轟、障子。障子の六本腕かっけェ。戦闘用のビルに行くと、敵チームの二人は既に隠れているようなので、意気揚々とビルに入ろうとしたら轟に止められた。
「なァに? ツートンカラーの火傷チャン」
「……外出てろ、危ねぇから(火傷チャン……)」
「なんかあんのォ?」
「……おう」
「じゃあ任せた」
あっさり身を引くと、ちょっと二人とも目を見開いて驚いていた。……ひどくナァイ? 争ってめんどくさくなるのは嫌なんだヨ俺。
俺がビルを出るのと入れ違いで轟がビルに入り、その瞬間ビルがぱきんと凍る。障子の隣で「涼しい」と呟くと障子に変な目で見られた。
結局俺達の完全勝利で終了。味気なかったな……。
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翌日、学校への登校中、門の前で人だかりが出来ていた。聞こえてくる内容を聞く限りオールマイトの授業の様子を聞きに来たんだろうな。
「うわー、やだなー。記者わんさといるじゃん」
「オールマイトいる世代に雄英入った宿命じゃネ? ……俺もわりと困るケド」
「ああ、あんたの元実家大手製菓会社取締り代表だからね。知ってる人は暁のことも知ってるんじゃない?」
「こーいうこともあんのォ? あーもーどうしよォ辛い死にたい」
「生きてよ私が困る」
「うん俺生きる」
そのまま二人で、俺は顔を見られないようにその場を駆け抜け、校舎に入る。雄英バリアーなるものが門に設置されているので入ってこれない筈。
「あー冷や冷やしたァ」
「アンタは本当にね」
「ん」
うんざりしたように頷き、下駄箱手前で俺たちはまた放課後に、と別れたのだった。
教室に入って席につくと、相澤先生が入ってきたのでシーンと静まり返る教室。今朝のホームルーム、先生が言うに学級委員を決めてもらうらしい。普通科なら雑務って感じで誰もやりたがらないが、ヒーロー科での学級委員長は集団を導くって言うトップヒーローとしての素地を学べるからなっておいて損はない。現にA組の面々も諸手をあげて主張している。
俺は別にやりたい訳でもないし、導くって言う素地はまた今度機会があるだろう。やりたい訳でもないが。
飯田が挙手ではなく投票で決める方が良いと自分自身腕を聳え立たせながら告げる。やりたいならやめときゃ良いのに。蛙吹、もとい梅雨ちゃんが短い期間で投票もクソもないわ、みんな自分に入れると飯田に言うも、飯田はそれで複数票とった方がよりふさわしいと言い張るので投票となった。とりあえず面白いから飯田に入れよ。
**
厳正な投票審査の結果、緑谷、八百万が委員長になった。
そして昼。俺は食堂にて以前「白米!」と言い張るランチラッシュの目の前でケーキを頼んでしまったのでとりあえずハンバーグ定食大盛りを頼んだ。リベンジというかなんというか、相手も俺を覚えていたようで、「味わってね!」と言われる。とりあえずサムズアップしたあとケーキ盛り合わせ頼んだら気前よくケーキ一切れサービスしてくれた。ランチラッシュいい人!
片手のトレーに大盛りハンバーグ定食、もう片手にケーキ盛り合わせのトレーを抱えながら席を探していると、切島と爆豪を発見した。見た感じ、爆豪が一人で食べてたところに切島が来たってところか。
「切島チャン、ここあいてんの?」
「お、志賀か! 空いてる空いてる!」
「邪魔すんネ」
とりあえずハンバーグ定食を机に起き、席についてからケーキ盛り合わせを置く。切島の真ん前で俺の斜め前に座る爆豪はすごい顔して俺のこと睨んで来たけど、気にせずに早速ケーキに手をつけた。
「一番に手ぇつけんのがケーキかよ! 定食だろ普通!」
「俺も思った、自然と手がケーキの方行ってわりと俺今びっくりしてる」
「男子高校生にケーキ!」
「男子高校生だってケーキ食うケドォ!? ってかもう日本人の主食は甘味で良いと思うんだよネ、スイーツ万歳」
「甘党!」
「糖尿病が心配」
隣でげらげら笑う切島を気にせずハンバーグ定食ほったらかしでケーキパクついて、不意に爆豪のどんぶり見たらラーメン真っ赤でビビった。思わず「うーわ赤い、赤い赤い赤すぎる」と呟くとあぁ!? と凄まれた。こわ。
「それ辛くナァイ? 普通に食ってるケドぜってェ辛いやつだロ」
「うるせークソ甘党」
「とても正論」
「切島チャンが裏切った、ダト……?」
「ぶはっ! はははっははははは!」
笑いすぎじゃね? とかジト目で切島を見つつ、食べ終わった盛り合わせの皿を端に寄せ、ハンバーグ定食に取りかかる。大盛りでもちょっと足りないかも知れない。そこで食べ終わった爆豪がガタッと席を立ち、颯爽とどっか行った。
「アイツマジ無愛想だわー」
「それナー」
げらげら笑いながら食べ進めると、皿がいつの間にか空になっていたので立ち上がると切島にまた教室でなーと見送られた。これが友人……!
このあと教室で一人でホールケーキ食べてるとどっか行ってたらしい爆豪からすごい目で見られ、切島に爆笑されて「一切れくれよ!」と笑いながら言われたのであげた。もちろんホールケーキは完食した。満足満足。
.
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星奈チャンです
今日の昼になにやら放送があったらしいがケーキに夢中だった俺は全く知らず、どうしてか緑谷が非常口うんたらかんたらの飯田を委員長に推薦した。いいんじゃね?
翌日の昼。今日のヒーロー基礎学だが、相澤先生とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになっにらしい。何をするのかと言うと、災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練。
訓練場に着くと、スペースヒーローの13号に増えるお小言をいただき、個性は人を助けるためにあるのだと言われ、少し感動する。13号……かっけえ。
以上! ご清聴ありがとうございました! と紳士的に礼をすると、ステキーぶらーぼーと声が上がる。かっこよかった。
しかし、相澤先生が広場の方を見て、叫ぶ。
「一かたまりになって動くな!」
「え?」
「13号! 生徒を守れ!」
命を救える訓練時間に俺らの前に現れた。
「なんだありゃ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「ちげェ、切島、あれは……」
「動くな! あれは敵だ!」
プロが何と戦ってんのか。何と向き合ってんのか。それは、途方もない悪意。
黒い霧から現れた大勢の敵。侵入者用センサーはあるものの動かない。それは敵にそういうことができるやつがいると言うこと。バカだがアホじゃない。用意周到に画策された奇襲。轟曰く。
そして先生が飛び出した。あの人強いみたいだから。俺がぼうっとしてると腕を引っ張られて避難だ、なんだと言っていたが、次の瞬間には俺は黒い霧に体を包まれ、その場から姿を消した。
みんなが騒然とするなか腕を引っ張った本人、切島が黒いもや霧に怒鳴る。
「なっ、てめ、志賀をどうした!?」
「彼は第一にこの場から離脱していただきました。以前拝借した書類で見ましたが、この場では彼の戦闘能力はどうやら群を抜いているようなので、一番の驚異と判断させていただきました」
「はぁ!? 訳わかんねえ!」
**
俺が飛ばされた場所は倒壊ゾーンだった。うじゃうじゃいる敵に溜め息を吐きながらなんで俺こんな戦いにくいとこで一人なのとか呆れながら拳を握ると、後ろでドサドサっと誰かが来る音がした。切島と爆豪である。
「あれェ、爆豪チャンに切島チャン? もしかして飛ばされちまった?」
「……俺たちだけじゃねえ、他もだ」
「とりあえず、この敵どうにかしねぇとな!」
そうして始まる対人戦闘。訓練ではない。本物の戦闘を俺たちは開始した。
.
粗方敵を倒した所で、爆豪と切島が先生のところに駆け付けるようなので着いていくことにした。
三人で瓦礫を駆けながら目的地へと向かう。とりあえず、俺の個性、テリトリーの応用であるテレポートをこの時すっかり失念していた。俺のばか野郎。
その時気付かずに呑気に二人の横を走っていた俺は、不意に切島に問い掛けられる。
「なあ、志賀の個性って結局なんなんだ?」
「ん?」
「おいおい睨むなよ不良みてぇ」
「目付き悪いから勘違いされるケド睨んでねーヨ。それに元ヤンにンなこと言っちゃいけません」
「え、お前中学時代元ヤン!?」
「中三の始めまでナ。昔の話だから掘り返すのやめろヨ。ブン殴るぞ」
「滲み出る元ヤン」
「やめろっつってんだロ、っの馬鹿がヨ」
切実な顔で返すと切島に引き気味に頷かれた。引くなよ泣くぞ。とりあえず、個性はなんなんだってことだよなぁ。
「あー、俺の個性だっけ?」
「おーそうそう! 動かずに空間爆発させたりねじ伏せたりしてるからさー検討つかねんだよな!」
「まァ使い道幅広いしナ、俺の個性は。俺の個性ね、『絶対領域(テリトリー)』っての」
「テリトリー……縄張り的な?」
「ちょっと違う。俺のは、俺が視認してる、もしくは理解している場所で自由自在に無双出来ンだヨ。例えばちょっといじくって空間を爆発させたりとか酸素奪ったりとか重力重くしてプレスしたりとか。重力無くして体軽くしたりとか空間ねじ曲げてものともの入れ替えたりネ」
「無敵かよ!」
「いや、視界塞がれたら終わりだからァ。遠くで操るには遠くまで見えてないとダメだしィ……あ」
ようやくここでテレポートを思い出した俺は切島の腕を掴んで先を行く爆豪の首根っこを捕まえそのまま広場に飛ぶと爆豪から叱咤の嵐。一言いえ! だの最初からそうしろ! だのとめっちゃ罵られた。とりあえず黙らせるために拳骨した俺は悪くない。めっちゃ怒鳴られた。やかましい。
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走る途中、横から俺たちに向かってくる塊を視界に止め、咄嗟に爆発させて軌道を逸らす。
見えた姿は、女。とりあえずその女には見覚えがあった。爆豪もそうらしく、「お前、」と目付きを鋭くさせた。
「……クソ女」
チッと舌打ちして、不思議そうな顔をする切島とぐずる爆豪を先に行かせる。標的は恐らく俺だ。目にハイライトの無い、黒髪のアホ毛の飛んだショートカット、世間一般で可愛いの部類に入る顔。中学が一緒で、星奈チャンと出会ってからからっきし絡んで来なくなった、欠片も興味の無い女。時雨 都。多分分類するなら嫌いな部類だろう。
彼女はギッと俺を睨む。その瞳に蕩けるような舌が痛くなるような甘い熱があるように思えて仕方ない。思わず身震いしたのはご愛嬌だ。
「……久しぶりね、志賀」
「もう一生見ねぇ顔だと思ってたんだが、吐き気がするわァ。てめェ、敵に堕ちたかヨ」
「そうなるのかしら? まぁ当然よね、二回も同じこと繰り返してるんだもの。せっかく、今回は『無双』の鉄我 星奈が居ないからチャンスだと思ったのに、この世界に存在するなんて」
「なに言ってんだ」
はー、と溜め息を吐いた時雨は熱の籠った視線を俺にちらりと向けて、「また盗られた」と爪先の石を蹴る。そして再び俺を見てきょとんとして告げた。
「……あれ、前世の記憶思い出して無い……? じゃあ、二人がまた出会ったのは、運命だって言うの……!?」
「てめェ何言ってんだ……」
本格的に気持ち悪くなって身動ぎすると、時雨が「動かないで、暁!」とその瞳に俺を写す。名前を呼ばれて逆立ってよだつ身の毛に、あとずさると時雨がどさりと何かを放った。
「……は、」
「暁のだぁい好きな、鉄我さんだよ」
大声で星奈チャンの名前を叫びながら、彼女を抱えて距離を取る。意識は無い。呼吸はある。制服のまま。昼休みにでも拉致ったかこいつ。
「はあぁ、欲しい、欲しいの。暁が、欲しい」
「俺はお前みてェなブスいらねェヨ!」
星奈チャンを腕に横抱きにして抱えながら空気を固めて銃弾を撃つ。彼女の肌にかするそれに舌打ちして、蹴りを食らわすと、時雨は星奈チャンを避けて俺の鳩尾をその手に握る剱で貫通させた。ずるりと引き抜いた血のつくその剱を舐める女はもう狂気に染まっていた。
「がっ、」
「ふふ、熱いなあ、美味しい……」
「時雨、てめ、」
ふと、星奈チャンが目覚めた。俺の存在に驚いたようだが、時雨の剱を見て目の色を変えた。俺から飛び退いた星奈チャンは鉄のガントレットを作り出し、殴り掛かった。
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星奈チャンも時雨に見覚えがあったのか、腕を振り下ろすと同時に怪訝な顔で声を張り上げた。
「何で、私ここに居るわけ!? って言うか、時雨さんあんた敵にっ……!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい! この鉄女が! 高校に入ってから急に胸が大きくなったからって良い気になって……!」
「ねぇそれ今全然関係無くない!? 関係ないよね!?」
時雨の振るう剱を飛び上がりながら避けた星奈チャンはバッと腕で胸部を隠す。顔が真っ赤だ超かわいい。流石俺の嫁。
脳内わりとフルスロットルしてるが、俺は今腹を押さえて悶絶中だ、風穴空いてんだぞコルァ。とりあえず個性で傷の進行を止めてはいるが、腹を貫通してるからヤバイ状態。痛くて死にそう。正直泣きたい。
「はあぁ、鉄我さんと無駄なことしてたから、もうおしまいにしなきゃ……」
「はぁ!?」
そう眉をしかめた星奈チャンに時雨が入り口の方を指差せば集まったプロヒーローたち。誰かが読んでくれたのだろう。よかったよかった。
そう気が緩んだのも束の間、時雨が再びターゲットを俺に絞った。
「最後にもう一回!」
「……!」
「っだめ!」
俺に向けられた手のひらに危険を察知した星奈チャンが俊敏に俺に飛び付いて、なんの個性かは知らないが時雨に吹き飛ばされる。
ぽーんと吹っ飛ぶ俺たちの最後に見た時雨は歪な笑みを浮かべていた。さて、勢い任せに飛ばされて入り口まで宙を浮きながら空中散歩してるわけだが、これ高さかなりあるから落ちたら大事故だぞ。やべーやべーと考えるうちに、俺の視界に入る錆びた赤。あ、腹……。
宙を舞う血を目撃した俺は、そのまま意識が飛んでしまった。
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