アポロ→ぜんざい→マメツキとなったマメツキです。
わりとやりたい放題やってますが、今回はよくやる混合をメインにやっていこうと思います。
混合と言っても私の小説のキャラが他作品にトリップや転生、または他作品のキャラが他作品にトリップ、転生するなど、他にクロスオーバーもやるかもしれないそれです。こちらではあまり夢はないかと。
ルール。荒らしや成り済ましはご勘弁。
晒しやパクリはもっとご勘弁。
ケンカもやめましょう。
基本的に私一人が自由にする場ですので感想のみ書き込んで下されば嬉しいです。
補足として現在ここにある私が書いているスレから小説引っ張って来る可能性がかなり高いですが引っ張っている場合「!」をつけますので、これがあるとあぁ引っ張って来たんだなぁと思っていただければ幸いです。
では!(゚▽゚)/
『あ……桜通り……か、風強いですねー……ちょっと急ごうかなー。怖くないー……怖くないですー、怖くないかもー……』
『わ、私なんかが……パートナーでいいんでしょうか?』
『よーし……あ……あの、ネギ先生! よ、よろしければ今日の自由行動、私たちと一緒に回りませんかー……!』
『私、出会った日からネギ先生がずっと好きでした! 私、私……ネギ先生のことが大好きです!』
『い、いえー……あの事はいいんですー! 聞いてもらえただけでー!』
『あ、あのー、小太郎クン、ごめんねー』
『わああ……絵本の出来事みたいですー』
『プラクテ・ピギ・ナルー、火よ灯れー……!』
『が……学園祭……一緒に回りませんかー……?』
『私、ホントにトロくてドジで引っ込み思案なんですけど、先生が来てからいろんなことを頑張れるようになりました。ネギ先生のおかげだと思います』
『先生は負けずに頑張ってて、私いつも勇気をもらって……私……そんなネギ先生が大好きです』
『バカァ!』
『ネギ先生に好きな人が居ないんだったら、一緒にがんばろー、夕映』
『いえっ、別に許すとかそんなっ』
『あのっ、そのっ、私は今回お役にたてないですのでッ、そのっ、頑張ってくだ』
『それは多分……嫉妬です。嫉妬……なんて……一番大切な友達なのに……一緒にがんばろー、って言ったのに……』
『それが怖くて、私は自分の心を覗くことも出来ません』
『そそそそそそうなんでしょうか、やっぱりー……!』
ああ、私が白々しい。
.
ある日の夏休み某日。私たちはネギ先生の従者として、生徒として英雄としてコズモ・エンテレケイア残党から世界を救った。その中でも壮大なお話があるのだが、ちょこちょこかいつまんで説明したい。魔法世界に行ったらトラブルに巻き込まれた。これが一番妥当な結論だろう。
その前のエヴァの指導は私自ら、魔法の使い方と体の使い方の鞭撻を頼んだ。怪訝な顔をされたが人生の先輩であり、ネギ先生より精密な技量と技術を持つエヴァを師と扇ぎたいと告げる。と気をよくしたエヴァに気合いを入れて教えてくれた。瞬動術に虚空瞬動に浮遊法に感卦法に魔法の指導。旅行前に全て教授してくれたのが救いだろう。
私は原作の宮崎のどかと違い、魔法の才能まで備えられていた。どうやら私は炎熱系を得意としているようだ。エヴァは少し不満そうだったが。
残党により先生たちと引き離された私は原作通り遺跡で目覚め、トレジャーハンターたるクレイグたち一行に同行させてほしいと頼み込んで部活で鍛えた持ち前の罠探知を使い、真名を見破る魔法具と読み上げ耳と言う魔法具をゲット。いどのえにっきはカード状態でも読み上げ耳をつければ自動で読み取ってくれるからわざわざ出してバレる心配もない。舞踏会ではクレイグたちが消されたことに動揺こそしたものの、瞬動といどのえにっきを使い、デュナミスからグレートグランドマスターキーの使用方法を根こそぎ聞き出し、朝倉を連れてその場を離脱した。
身に付けたスキルは最終決戦でこそ役に立った。まず、風のアーウェルンクスと対戦することでみんなの逃げる時間を極限まで伸ばしたつもりだ。エヴァから教わった魔法がわりと役に立ってくれたものの、さすがは創造主の使徒と言うか、しばらくしてから長瀬よりひどくやられた。彼らは私を長瀬より危険視したらしい。そしてなんやかんやで3-A全員集合。エヴァたちの救済もあり時間稼ぎも十分。アスナを呼び覚まし、ネギを助け、世界は救われた。
麻帆良に帰り、ネギに好きな人が居るとバレる波乱の体育祭の幕開けだ。長谷川千雨辺りだと目星をつけて二人になったときに聞いたら案の定だった。
『大丈夫です、ネギ先生ー』
「え?」
お前のことなんか
『気にしてませんからー』
笑顔で言ってやった。そこから私はそれからのクラスの激しいネギ先生取り合い合戦には参加しなかった。元々ネギなんてどうでもよかったし、原作ももうすぐ終わる。そしたら、私はもう自由なんだ。そして『私がネギが好きであると言う真っ赤な嘘』を、私はとうとう見抜かせなかった。夕映にネギを諦めると笑顔でいってのけ、私は麻帆良学園中等部を卒業した。
我ながら打算的なことをしてきたと思う。好きでもない相手に吐きそうになりながらファーストキスをあげた。二度目は学園祭で吐きそうになりながら、吐き気を押さえてセカンドキスをやった。そのあとは流石に先生と別れたあとトイレに駆け込んで胃液を吐いたが。後々にあれは本当に必要だったのかと悩み、結論は必要に掛けた。
卒業後、私はクラスが離れた3-Aと距離を取ることにした。なるべく3-Aだった人に出会わないように、図書館島探検部も図書委員とかもやめた。以来図書館島には近寄ってない。近いうち、ネギとの仮契約を破棄して学園長に記憶消去を頼むつもりだ。だって、多分あの人は私がネギを好きじゃないのを知っている。時々私を見る目が、まるでネギの成長の為にすまない、と言っているようなものだったから。流石覗き見をする趣味の悪い狸じじいだ。ぬらりひょんみてぇな頭しやがって。
高校になってからは寮制でなくなったので一人暮らしを始めた。正解だったらしい。今日の今日まで3-Aに誰一人出会ってない。クラスも違うのは学園長の配慮だろうか。なぜかエヴァは相当私になついていたらしく、記憶消去までエヴァだけに伝えてしまっていた私は本当にやってしまうのか、戻ってこれないぞ、頼むからやめろと何度も何度も引き留められた。時おり泣きそうになりながらすがりついてくるものだから困る。
『…早く、捨てたいなぁ』
暗い部屋のなか、ポツリとそれだけ呟いた。
最近、ネギを見かける事が多くなった。何かを探しているらしい。目が、微睡み、蕩けるような甘い熱に浮かされているので大方長谷川でも探しているのだろう。まあ私にはもう関係の無いことだ。
嫌な予感を感じた私は、素早くその場を瞬動で離脱した。
『……早く、通達が来ないかなー……』
電気もつけていない一人暮らしの家で、椅子の上で膝を抱えながらそう呟いた。クローゼットを開けて目に入った中学の時の制服に、激しい嫌悪感を感じる。
こんな中学に入ったから私は私を偽って『宮崎のどか』を演じねばならなくなったのだ。あのくそがきが来るまで私は、恐らく平和な日々を送っていたと言うのに。麻帆良学園中等部だったことを表すこの制服が嫌いだ。憎悪すら感じて、指を鳴らして燃やした。消しズミになったごみを箒で掃いて乱雑に保管されているカードを睨み付けた。
『……これがあるから、私は……』
宮崎のどかとネギ・スプリングフィールドから離れられないのだ。カードの中で控えめに笑う偽りの宮崎のどかをにらむ。
最早魔法を使うのも億劫だった。カードを手に取り最新のコンロに火をつけて、鍋も敷かずに腕を振り上げる。そう、まさに青く輝く炎の中にパクティオーカードを叩き付けようとした。
その時。ピンポンと軽快な音が響く。誰だよ、とのどかになりきり扉を開けると、そこには多忙で学園にあまりいないはずのネギ先生がいた。目を見開く。何で、先生がこんなとこに、居るんだ。
「何で僕がここにいるんだ、って顔してますね」
『……』
「……のどかさんのように、いどのえにっきが無くても、のどかさんのことなら、僕、なんでも分かっちゃうんですよ……」
少し身長の伸びたらしい昏い目をした先生の手が私の頬を滑る。その顔は喜色に富んでいた。なんで、どうして。
トサリと座り込んだ私にネギ先生は微笑んで、私を抱き締める。
「ねえのどかさん。離れてから分かる大事なことって、本当に有るんですね」
『……な、にを……』
「ねえのどかさん。あなたは今でも僕が好きですか」
ぐ、と心臓を掴まれた気になった。ひゅ、と息を呑んで怯えを孕ませた目で、私を力強く抱き締めるネギの背後を見る。何もない。見慣れた家の回りが見えるだけだ。人っ子一人、居ないけど。
『ネギ……せん、せ』
「僕はもうあなたの担任の教師ではないです。ねえのどかさん、あなたは僕が好きですか」
『……ネ、ギく』
「はいなんですかのどかさん」
ぎゅ、と強くなる抱き締める力に本当に恐怖を感じた。この先生は、一体どうしたんだ。原作内、七年後じゃあ、もっと。
普通の『ネギ・スプリングフィールド』だったじゃないか。
「のどかさん、やっぱりあなたはもう僕が好きではないのですね」
『……ネギく、ん』
「もしかしたら最初からですか? そうなんですか? あなたは最初から僕のことなんて好きじゃなかったんですか? 力を得るため? それにしてもまったく気付かないほどの高度な演技をずっと貫き通すなんて素晴らしいです流石です『僕の』のどかさん」
『わ、たしは……』
「あぁのどかさん。泣かないで」
.
私のいつの間にか溢れた涙を拭おうと体を離したネギは、にんまりと笑ってがたたん、と私を押し倒した。
怖い、怖い。すごく怖い。この昏い目をした私の知らない『ネギ先生』が怖い。
私が離れたから? だから先生はこんなになってしまったのか? だとしたら何て面倒な。
ネギ先生はうふふと可愛らしくわらった。
「ああ、僕ののどかさん。きれいでかわいいのどかさん。僕よりマスターに教えを請うた愚かなのどかさん。好きです愛しいのどかさん。ねぇ可愛らしいのどかさん、あの魔法世界の戦いからもう三年。あなたは今高校三年生で、まったく3-Aメンバーと関わってないですよねどうしてですかのどかさん。夕映さんが泣いていましたよ、ハルナさんが心配していましたよ、いいんちょさんが一番のライバルが減ってとても悲しいと言っていましたよ。他にもたくさんあなたを求めている『ナカマ』が居ます。もちろん僕も。僕はあなたが欲しくて堪らない。かわいい僕ののどかさん?」
『っ……!』
顔を背ければネギに組み敷かれたこの状態では、片手で顎を持たれると抵抗なんてあったもんじゃない。
ネギは例をあげる。たいそう貴女を気に入っていたマスターが寂しそうにしていましたよ、刹那さんが気にやんでいましたよ、と。
キスにぐちゅりと舌をさしこまれて余計に涙が滲んでいく。もういいだろ、やめてくれ。
「泣かないでのどかさん、僕は貴女が、好きなんです。愛してます。あなたが欲しくて欲しくて僕はどうにかなりそうです。
あなたの全てを僕にください、のどかさん」
『ッ!』
ドゴッ、と鋭い音が響く。ネギは気を失って私に覆い被さってきた。滲む視界に映ったのは、
**
目が覚めると、図書館島の地下のあのクウネル・サンダース何て言うふざけた名前の本名アルビレオ・イマの屋敷だった。
見回すと、そこには紅茶を飲むエヴァとクウネル。ネギの姿は無いようだ。ショックで気を失ったらしい。私に気が付いたらしいエヴァが真っ先に駆け寄ってきて、私の腰辺りに飛び付く。
無言の彼女の頭を撫でて、クウネルに問い掛けた。
『……ネギ先生は』
「先程の記憶を消して地上に居ます。あの常軌を逸脱した行動は恐らく今後とらないだろうと思います」
『……ありがとうございます』
まっすぐに見つめてくるクウネルから目を逸らした。この人は苦手だ。
どうやら二人は私を助けに来ただけらしいので、すぐに私は解放された。二人が言うには、私にはずっと麻帆良にいてほしいらしい。いないといけないらしい。
……なんだそれ。
.
次に目を覚ましたときには、私はお世辞にも質の良いとは言えない布団に寝かされていた。
むくりと身を起こすと、紫の髪の少年が私を見てパッと顔を輝かせる。
「起きたか! よかった……!」
『……ありがとう?』
待て待て。まったく現状が理解できない。目の前の菫色の髪の少年は私が海岸で意識がない状態で倒れていたから連れてきたと説明してくれた。
名前は『シンドバッド』と言うらしい。私も名乗り返して、何か持ってるものは無かったかと聞けば、アーティファクトカードを手渡された。まさか、ここまでか。
シンドバッドはどうやら病気の母と二人で暮らしているらしく、貧しい生活らしいが充実しているようだ。母、エスラにはひたすら助けてもらって、という類いの礼をする。
顔を洗いにいかせてもらったとき、私は気が付いた。幼い。
『……14くらいかな』
あぁ神さま。今度は退行トリップか。罪でも罰でもこの際どうだっていいから、こんな嫌がらせはもうやめてくれ。中等部の制服とか嫌がらせだろうがふざけんな。
シンドバッドも14らしい。母の薬代の為に仕事をしているんだとか。偉いぞシンドバッド……。なら、すぐに出ていく方が良いだろう。
『……ごめんね、シンドバッドくん。大変なのに、お邪魔しました……』
「? 何言ってるんだ? 行く宛がないんだろ? しばらくはここに住めばいい」
お前こそ何言ってるんだ?
パッと焦ってエスラをみればしたり顔で手を振っていた。構わないよ、ってことかこのやろう。久々に触れた人の心の暖かさにやられた私はもうここに置いてもらうことに決めた。
**
あるとき、シンドバッドがユナンと言う男を拾ってきた。私は洗濯物を抱えてぱたぱたと奔走していたが、ユナンを紹介されたときは驚いた。雰囲気が、常人とは違うものだったからだ。どちらかと言えば、クウネルに似ている。
「やあ、僕はユナン、旅人さ。シンドバッドに助けられて、数日ここにいるつもりだよ」
『あっ、こ、こんにちは……ユナンさん、ん?』
洗濯物を抱えていたはずが、シンドバッドが綺麗な笑顔で任せろ、と素早く干していく。しばらくもしないうちに干し終えたらしい、光速で帰ってきたシンドバッドは私の横を陣取って手を握り、ユナンを家に案内し出した。
シンドバッド微笑ましいなあなんて思ってユナンを二人で案内する。逆にユナンから微笑ましい目で見られていたなど知るよしもない。
.
ユナンが来て数日。私に密かにシンドバッドを頼んだように彼にも旅人としてシンドバッドをお願いしたらしい。エスラさん怖いものなしかよかっこいい。
そして現在。シンドバッドはドラグルと言う軍の小隊長に痛めつけられつけていた。どうやら、再三にわたる軍くらの召集命令を無視していたらしい。こんなところまでごそくろうだ。
シンドバッドは国民を労働力としてしか見ていない軍には入隊しないと言い切った。
明かされる兵役として強制的につれていかれた父はとうとう帰ってこず、遺品があるのは知っていたが、まさかそう言うことだとは。ナギさんのようで、少し違うなと重ねる辺りあちらにも少々の思い入れはあったようだ。
しかし要求は認められなかった。父も最後は出兵したのだろうと。
**
「……簡単に説明すると……このパルテビアは、隣国のレームとずっと戦争をしていて、働ける男は皆、兵士として召集されちまってるんだ……」
ユナンと私にそう説明したシンドバッドは深刻そうな顔で、「でも最近は、『迷宮』のために人を集めているらしい」と続ける。
補足として、『迷宮』__ダンジョンはパルテビアとレームの国境線上に出現した謎の建造物のようだ。私にとっては、聞き馴染みのある言葉だ。一応はトレジャーハンターだから。
その迷宮は一万人以上の兵士を送り込んだが誰一人として帰ってこなかった『死の穴』と呼ばれているようで、今集められた兵士はそこに行かされることになっているらしい。
「俺はまだ、死ぬわけにはいかないんだ……母さんのため、村のためにも……」
シンドバッドはお国に対して相当な不信感を抱いているらしかった。私はそれから目をそらして、自分の不信感を重ねて、駄目だ。シンドバッドは違うんだ。
ユナンは言った。君はこのままでも良いの、と。
シンドバッドは答えた。言い訳あるか、と。
ユナンは言った。君なら出来る、でも力が足りないと。
「そう、世界を変える王の力が……!」
「王の力……!?」
ぐっと、しかし折れないようにアーティファクトカードを握った。
.
シンドバッドはそんな力あるものか、とユナンを笑うも、そんな力があるなら構わず使ってやると言い切った。どくりと心臓が跳ねる。
シンドバッドはその力が迷宮にあると知り、未知なるものへの高揚感に思いを馳せていた。
ユナンを見た。彼は私を見て、微かに微笑み、ゆっくりと告げるのだ。
「君は、どうかな?」
私の視線は瞬時に険を含んだはずだ。
『……なんの、ことですか』
「力のことさ。君は、王の力に近しい技術をたくさん持っているんだろう? 手に持つそのカードだって、迷宮(ダンジョン)の単語に目を輝かせたトレジャーハンターの性もそうだ。君は一体、何に怯えているのかな?」
なんだ、この男は。なんなんだ、この男は。いけしゃあしゃあと「君ならあの軍の人を返り討ちにできる術を持っているのに、何に怯えているんだ」と述べる。から、ムカつく。何も知らないクセに。
目を逸らしてキツく目を閉じる。もうそれ以上はやめてくれ。シンドバッドも不思議そうな顔をしているじゃないか。
『……万が一そうだったとして、あなたはなんで、そんなことを』
「ルフさ。ルフがね、僕に教えてくれるんだ」
『……ふざけるのも大概にしてください、』
「……ふざけてないよ。君は、ネギと言う少年の、」
『っやめてください!』
目に涙が滲んで、そんな情けない顔を見られたくなんてなくて、その場からバッと駆け出した。しまった、こんなの肯定しているのと変わりないじゃないか。
それでも足を止めることなんて出来なくて、海辺の岩の辺りに腰を下ろす。
もういやだ、なんなの。過去にした原作の為の行為が今になって私の首を絞めていく。消せるわけないのに、消したい過去は息苦しい。未だに手にしていたカードをしばらく見つめて、呟く。
「……あとで、ユナンさんに謝らなきゃ」
カードを持つ手を振り上げ、「っ、」と海へ放り投げようとしたとき、後ろからぱし、と手首を取られた。はっとなって振り返ると、そこにはなんと表せばいいものか、訳のわからない笑みを浮かべたシンドバッドがいた。
夕暮れのことだ。
手頃な岩の上に二人で腰を掛けて、海を眺める。シンドバッドは私が喋るのを待っているらしい、14ながら出来た男だ。
『……ねえ、シンドバッドくん』
「ん? なんだ?」
『……好きでもない人とキスは出来る? もししたとしてどんな気持ちになる?』
「……おう!? いきなり何を言ってるんだ!?」
隣であわてふためくシンドバッドに微笑み掛けて、『私はしたくなかった』と意思は告げた。過去形なのはご愛敬だ。シンドバッドは私の言葉にシンと静まり、次の言葉を待っている。
『……私ね、上の人に『彼のためだから、すまないが』って言われて、断れなくて。だって、断ると命の危険もあったから。私が彼を好きだって言わないと彼が成長出来ないからって。どんな気持ちになるって言うのは、吐きたくなる気分になるよ』
「……その彼が、ネギって少年なのか?」
『うん』
カードを見せて『これはキスした証だよ。陣の上ですると出てくるんだ』と告げて、シンドバッドに再び目をやる。
「……証だから、さっき海に捨てようとしたのか」
『戻ってくるから意味なんて無いんだけどね』
「……」
他のこともちゃんと話そうか、と自分に嘲笑して彼にぶつける。失望されたか、嫌われたか。嫌われるのは嫌だなあ。
そんなことを考えていると、不意にグッと手を握られ、彼に腕を引かれた。抱き締められる形なのは気のせいか。最後と言うことなのか。邪推してれば彼は腕に力を込めた。
「……言わなくていい。言いたい時に言えばいい。言いたくないなら言わなくていい。俺が傍に居てやるから。好きなときに言えばいい。今までの辛かったことも嫌なこともしんどかったことも。俺が全部受け止めてやるから」
シンドバッドは、ネギとは違うんだ。どこか重ねて見ていたらしい。彼の肩口に額を押し付けて、背中に手を回して、あちらで一度たりとも流したことのなかった涙は止まらなかった。
.
ユナンも言い過ぎたと理解していたらしい、私が失礼な言動に対して平謝りになっていると彼も言い方が悪かったと謝ってくれた。彼は、私にもう怯える必要は無いのだと言いたかったらしい。あ、この人いい人かもしれないと思ったのは余談だ。
シンドバッドはシンドバッドで、母から自由に生きていいと言われて父の形見の剣をもらったらしい。
シンドバッドはその際も私の手を離さなかった。エスラさんに微笑ましいものを見る目で見られたので気恥ずかしかったが、もう気にすることもない。私はシンドバッドに着いていくことを決めたのだ。
そうして私たちはティソン村を飛び出した。
**
そうして現在第一迷宮バアルの中だ。どうやらソロモン72柱がモデルらしい。なんてこった。
迷宮前で軍に宣戦布告をして、ユナンにまた会おうと約束して二人で手を繋いで入ったのだが。
『シンドバッドくんが、いない!』
どこ行ったんだアイツ! 多分、別々の場所に転送されたんだろうな。くそ、迷宮め。とたんに忌々しいものになったわ。
むかむかした気持ちを押さえながら私はそこから続く道を歩く。出たの先には、見たことのない地形に、不思議な生物、湿った生暖かい空気。地形等はオスティアに似ているが、浮遊しているものでもない。摩訶不思議、この一言につきる。
『……すごい』
とりあえず、ダンジョンや遺跡に入ったときは何が起こるかわからないから感卦法をしておく。右手に気、左手に魔力、か。これ習得するのかなり大変だったんだからな。
さくさく、と草の上を歩いていると人の叫び声も響いてくる。どうやら入るときの順番に関わらずタイムラグが発生するようだ。覚えておこう。
眼下に広がるのは子竜が軍の人をさらったり殺したりと言う場面だった。
『……うわー、……』
なんとむごたらしいものか。そして私に気付いた一匹がギャアギャアと声をあげて襲いかかって来た。
まあ。
『……準備運動かなー……』
いどのえにっきをアデアットし、向かってきた子竜に名前を見破る指輪をした指を向けて名前を呟いて思考を読む。なるほど、ここらの子竜の名前はみんな一緒か。やり易い。
振り下ろされる鉤爪を瞬動で避け、その子竜の顎に膝を叩き込む。感卦法で強化されているから鉄製のハンマーで殴られたぐらいには効くはずだから骨は砕いたはずだ。
そのまま回し蹴りを食らわせて頭の上の部分を消し飛ばす。魔法の射手を三つほど乗せた蹴りだ、消し飛ぶくらいはしてくれなければ意味がない。
こと切れた子竜を一瞥することなく周囲を見れば、シンドバッドがドラグルを助けて「こっちだ! 早くしろ!」と怒鳴っている後ろ姿を見つけた。
そのシンドバッドの後ろには子竜が迫っている。やるしかない。
瞬動を駆使し、拳に魔法の射手を乗せて子竜に叩き込み、ドパァンと破裂するように肉片を巻き散らかして死んだ子竜を蹴り転がし、唖然とするシンドバッドとドラグルを抱えて瞬動で安全そうな穴に隠れた。
「……ふぅ、この穴なら大丈夫そうだな」
『そうだね……』
シンドバッドからなんであんなことが出来たのかと聞かれたから曖昧に笑えば察してくれたらしい。潔く引き下がってくれた。
問題はこれだ。
「貴様らは先刻のガキども……なぜ私を助けた!?」
「……は?」
『シーッ!』
「私は軍人、貴様は国に仇なす『非国民』! 女の方は国民ですらない! 貴様が私を助ける同義は……ない!」
頭の堅い子供かコイツは。刹那か。
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ドラグルの言葉にシンドバッドはその場に座り込みながら文句を垂れる。
「だいたいな、そんな真っ青な顔で震えながらとかお前の方がよっぽどガキじゃないか」
ガキと言われたことに屈辱を受けたらしいドラグルは自分の高貴な名前を覚えてろと長々しく語ったものだから割愛。シンドバッドはドラコーンな、と言ってのけた。
わななと身を震わせたドラコーンは由緒正しい名前を!とシンドバッドにつかみかかる。彼は彼でそんなのいちいち言ってられるかとのこと。最後に俺なんかシンドバッドで六文字だぞ見習えと訳のわからないことを言っていたが。
私から見ればどちらもガキにしか見えないわけだが。
その直後、ドン、と地響きが聞こえて二人は一旦争うのはやめたようだ。物陰の奥には仰々しい雰囲気を纏った一頭の竜種がいた。樹竜や黒竜とは全くの別物で少し目が歓喜に溢れる。久々の冒険の気配だ。
そのドラゴンが弱りつつも媚を売る子竜を踏み潰し食らったのなんて見ていない。ドラゴンはこの部屋にだったひとつしかない扉を守っているようだ。
「ここは誰もが生死をかける場所…この迷宮の中で俺たちは試されているんだろうな」
シンドバッドが言ったのは生き残れるかと言うものだ。ドラコーンはそれを勘違いし、誰かを切り捨てる覚悟があるかと解釈したようだ。実際、私とシンドバッドに自分の盾になれと言われた。とりあえず私が守ったのはシンドバッドであり、お前じゃないけど。ただ、シンドバッドが仲間と認めたなら助ける義理も出来るだろう。現時点では望めないが。
「非国民ってくだらねぇ!いい加減にしろよ。お前みたいな軍国馬鹿のせいで今まで何千何万の人が死んだと思ってるんだよ!俺はそんなやつの為に働くなんてごめんだね!」
シンと静まるその場で、ドラコーンはなら私一人でやる、とドラゴンの方へと歩み始める。駆け出した後ろ姿を見送ったシンドバッドはぽつりと呟いた。
「非国民なんて言葉、久しぶりに聞いたぞ」
腹立つ奴だ、とぶすくれるシンドバッドを一瞥した時、ドラゴンの足音とは違う地響きが響く。シンドバッドと顔を見合わせ、怪訝に眉を寄せた。
『なに、この音』
「この音の間隔は、波…いや違う、水だ」
シンドバッドはこれを利用する手段を見つけたらしい。立ち上がったシンドバッドに手を伸ばされ、苦笑してから『手伝うよ』とその手を取って立ち上がった。
地鳴りの正体は間欠泉だった。どこから吹き出してくるかわからないし、勢いは強く運悪く間欠泉が有るところに足を踏み入れれば地雷のように何かしら吹き飛ぶだろう。シンドバッドは一人で突っ込んで行って扉の前で死にたくないと思ってしまったから殺せ、殺してくれと懇願するドラコーンを一喝した。
「死にたくないと思うことの何が恥ずかしいんだ。人間なんだ、当然だろ!」
シンドバッドは告げた。そうやって死んで皇帝が、軍が、国民を救ってくれたことはあったか。この国は救ってくれなかったと。国は民がいるから存在する、民を見捨てる国なんて必要ないと。
『まあ確かに生きるより死ぬ方が楽なのは分かるけど』
「っ!のどか!?」
『…死んだらそこでおしまいだからね。でもそれは逃げたことになる。責任から、この世のすべてのしがらみから。君は、大切な何かの為に行動しているように見えるのに志し半ばで終わっていいと思えるのかな?』
「…私は」
『思えるわけない。そう、思えるわけが無いのなら、たとえ不老不死になってでもやり遂げるべきじゃないの』
そう、私は思うけど。そういうとドラコーンは私達二人を何か見つけたかのように呆然と見つめてくる。その間にドラゴンが近付いてきた。シンドバッドは静かに告げる。
「力ある者が周りを犠牲にして来た、その報いを受ける音だ!」
シンドバッドが振り返ってドラゴンを睨めつける。タイミングよく吹き出した間欠泉はドラゴンの顎を直撃した。倒れたそれに近付くシンドバッドに着いていき、周辺を調査すると階段を発見した。なるほど、扉はフェイクか。ドラコーンに貴様は一体何者なのかと聞かれたシンドバッドはハテナを浮かべて答えた。
「俺は俺さ。船乗りシンドバッドだ!」
マギの『練紅明』に当たるネギま世界の『練紅明』女主の話。
つまり。ネギまの世界に存在する練紅明がマギの世界に行っちゃう話。短編のシリーズ。
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私は麻帆良学園中等部所属3年A組32番、練紅明です。中等部入学一年生からクラスが変わらないので三年間クラスメイトと共に過ごしてきたのですが、中一の春、私は何が何やら訳のわからぬままクラスメイト、エヴァンジェリンに吸血されてしまい、以来眷属にはなっていませんが、ずぶずぶと彼女に戦闘の指導を頼んでもいないのにされてしまい、魔法の世界に引きずり込まれてしまった次第です。
ネギくんが来てからは波乱の2年の三学期と最高学年でした。彼からのラッキースケベ率が私だけ異様に高かったことをよく覚えています。
なんやかんやで訳のわからぬまま停電の日にエヴァンジェリンに呼び出されネギくんと戦わされたり。
修学旅行で長瀬さんたちになし崩し的に鬼と戦わされたり。
学園祭でぽかをやらかし最終日の超鈴音の侵略イベントで一位になってしまってクラスメイトに襲われたり。超の別れで私がなぜか強制召喚されたり。
早乙女さんにハメられてネギくんと仮契約をしたり。
ネギま(仮)部もとい白き翼に無理矢理入らされ夏休みに合宿として海に連れていかされて、魔法世界に行ってトンデモ体験して世界を救ったり。
体育祭にてネギくんのサポートを必死で行ったり、果てはエヴァンジェリンに脱がされたり。
アスナさんの100年の冬眠計画で自分では珍しく涙するもすぐ帰ってきてちょっと怒ったり。
そう、もう残るイベントは卒業式だけだったのです。だけだった、のですけど……。
私、卒業式前日に異世界に飛んでました。しかし、原因は明らかですよ。エヴァンジェリンに暇潰しだと言われて未使用の液体飲まされたんです。我ながらひどいクラスメイトだと思いますよ、ええ思いますとも。
転移したと思ったら自分そっくりな、しかしながらそっくりはそっくりでも男性の上に落ちて唖然としましたよ、私はね。相手は驚きで気絶しましたから。
そこからなんやかんやでほとんど私の異世界の話に興味を持たれたようで、今、煌帝国に客人として住まわせていただいています。
ちなみに、私が落っこちた男性はこの世界の私でした。名前まで一緒とは恐れ入る。彼の兄の紅炎殿に異世界の歴史を話す代わりに客人となっているわけです。言っときますが私今、制服です。
『……紅明殿、おはようございます』
「はい……おはようございます……」
『……なぜ私を叩き起こすのでしょうか紅炎殿』
「おはよう」
『はい、おはようこざいま……違いますよ、なぜ文字通り叩き起こすのですか』
現在与えられた自室にて。昨夜、嫌ってほどこの世界の文字を勉強していたから猛烈に眠いと言うのに……この第一皇子は容赦がない。
うつらうつらしつつじんじんと痛みを主張する額を押さえて紅炎殿を見上げると「……食客として紹介するから、今のそのみっともない格好からあの制服とやらに着替えろ」と告げられた。
『えぇ……あー、あぁ』
今一度自分の服装を省みる。寝巻きだけは煌のものを借りたのだ。ただの着物だった。
今現在、着物は形を大きく崩し、本来首もとにあらねばならぬ服の端が二の腕の辺りまで擦れ下がり、辛うじて胸の先端を隠している程度だ。無駄に大きくなったクラス一のそれを見てこんなに大きくならなくてよかったのに……とさっさと仕舞う。
はたと気が付いた。
『……? どうなさいましたか、御二人とも』
「「いや、別に」」
.
出席番号が32から33番に。正味スレ三つのうちどれかで書いたネギま世界のシン女主が名前だけ。その女主はトリップしてない設定。
『…誰に食客として紹介するんですか?』
ここへ来てもうすでに半年が経過している。向こうじゃとっくに卒業式も終わってるでしょう。食客としての皇族の皆さんへの紹介はもう済んでいますし、今更誰に。既に制服に着替えて部屋を出た私達は緩慢な動きで廊下を歩いていく。そこで問題なのは紅炎殿の口から飛び出してきたその言葉だ。
「七海の覇王と呼ばれし、シンドリア王国国王のシンドバッドだ」
『ンッ』
「紅明さん!?」
バシッと紅明殿の裾を握り込んでしまった。自分からは到底有り得ない声が出てしまったが、仕方のないことだろう。うちにも居るのだ、シンドバッドが。
『うちにもいますよ…シンドバッドに当たる女性が…』
「えっ」
「…本当か?」
『本当ですよ…友人です。彼女も七海の覇王と呼ばれていました。亡国の姫で、女性のくせに男性のように凛々しく美丈夫で、やたら女好きで、果ては七海の女たらしとまで言われた、魔装と言う自分専用の固有魔法を作り上げた奇跡が不老不死の化け物にまでなりましたよ』
「…七海の覇王と魔装と七海の女たらし、同じだな」
ちょっとエライものを見るような目になられた紅炎殿から逃げるように紅明殿の背に隠れる。
シンドバッド殿はバルバッドと言う国の自治と七海連合が後ろ楯となると煌帝国に謁見と言うか会談にいらっしゃっているそう。今日が彼が居られる最後の日らしく、今日の晩餐で私をそこで食客として挨拶させるらしい。
『それ…皇帝陛下の御前で行うのですよね』
「あぁ」
『私…その、皇帝陛下の御前は…なんと言うか、居心地が悪くて。全身舐め回すように見られていると言うか、悪寒が…」
「…」
「…」
『…やっぱり自意識過剰でしょうかね』
二人が何も言わないのであればきっと気のせいなのでしょう。その後、一応シンドバッド殿にご挨拶を行うと、速攻で手を握られてニコニコされた。ああ、そっくりですね。
「別の世界の第二皇子だと伺いました、聞いたときは驚きましたよ」
『え、あ、はぁ…そうですか…』
「しかし、似てるとはいえこんなに美しい御方だとは」
『それは嬉しい言葉ですが…この発言たぶんこの世界の私も褒めちゃってますよ』
「確かに…そうなるのでしょうが、私は今、貴方を褒めちゃっていますから」
(わあ、そっくり)
ノリが彼女のまんまである。もうこれは彼女を相手にしていると思った方が速いのでは。
『私の世界にも恐らく貴方と同一人物の女性が居ますよ』
「えっ、女性!?」
『はい、七海の覇王と呼ばれし私の友人です。彼女もまた貴方に似て美しい菫色の髪に凛々しい眉毛、とても整った秀麗な顔付きでした』
「えっ」
『女性好きで女遊びをし出すところもありますが』
「ええっ!?」
『自分の大事なものを手段を選ばず大切にする、とても素敵な方でした』
「エッ」
かちん、とその態勢のまま硬直したシンドバッド殿に微笑みを投げ掛け、するりと手を離してから『では』と退室する。ああいう口説いてくる系の人間には何か言われる前に褒めて固まらせるといい。実際、嘘と言う訳でもないし。私は彼女を『友人』としてとても好ましく思っていました。ただ、自分だってネギくんが好きなくせに達観して見守るだけって言うのはいただけないと思いますが。何度彼女のその手の弱音を聞いてきたか。そのたびに彼女からのセクハラをぐずぐずと許してきてしまったか。あれ、これは友人として好ましいと言えるのか。うん、そうおもってよう。
紅明♂side
彼女の皇帝…父上からの視線に悪寒が走ると言う言葉に私たちはあまりのショックに無言になった。
予想はしていた。あれは別の世界の私だろうと美しければ、見目が良ければ、すぐそういう目で見る。
別の世界の私と言えども、確かに彼女は美しい。顔は私と同じようにそばかすが有るものの、女性特有の緩い曲線で描かれた輪郭はかくばっておらず柔らかい。目付きも私のようにあまりキツくは無い。性別の違いか、彼女の髪も私同様もさもさしてるが少しすっきりとしている気がする。あくまで気がする程度だが。
問題は彼女のその肢体である。制服と言う衣服に窮屈そうに押し込められたその胸は明らかに激しい自己主張をしており、そのくせ胴回りは細い。足も制服の衣服から伸びるにしても、スカートと言うのが彼女のものは短いのか、白い柔らかそうな太ももが大分晒されている。靴下が太ももの半分ほどあるので締め付けられて見るものが見ればかなり扇情的だ。
朝なんてもう目も当てられないほど。ほとんどがはだけてしまっているし、寝起きだからか特有の色気が漂っていていけない。本人は全く気付いていないから悩ましい。
今も私の衣服の裾をそっと握ってちょこちょことあとをついてくるから別世界の自分だと言うのに妹のように感じてしまう。
兄王様から厳しい目で見られたのは多分気のせいじゃないでしょう。
**
シンドバッドside
宴会途中、元より別世界から来た練紅明と言う話は聞いていたが、まさか女性だったとは。本当は魔法か何かで変装した皇子なんじゃないかと疑っていたが、隣に立たれれば本当なのだと思わざるを得ない。いやしかし。
『……あれはなぁ』
少々反則ではないだろうか。彼女の世界の俺の話は本当だとして。その直前『この世界の自分も褒めている』と言う類いの言葉を俺に掛けた。そしてそのあと、微かな微笑みを携えて己の世界のシンドバッドに当たる人物を褒め出したのだ。
通して自分をベタ褒めされたことに変わりはない。それに最後の微笑みで全て持ってかれた。要はキュンと来た。胸にとすりと何かが突き刺さった。彼女にとっては口説かれる前に逃げ出す為の算段だとしても、意図せず彼女は俺を余すことなく全て見事にかっさらっていったのだ。
『いやしかし』
皇子の方の練紅明の視線が厳しかったなあ。
そして翌日、彼女の年が15だと聞いて、俺は二倍の年の差かよと飛び上がったのだった。
.
先日の話になりますが。
仲良くなった紅玉さんとの御茶会中、ふいにもじもじし出した彼女に少し首をかしげた。愛らしい彼女はこの帝国の第七皇女であり、私のひとつ年上の女の子です。食客として知り合った翌日お友だちに。
彼女は少し言いにくそうに、そして我がクラスでコイバナが始まるときのような雰囲気で口を開きました。
「……紅明ちゃんは、もう殿方と、その……キスとか、したことがあるのかしらぁ?」
純粋な疑問だったのだろう。着物の裾できゃ、と顔を覆った彼女は約半年前、バルバッド王国に嫁ぎに言ったのだが、調印式の日に国が共和国制になり王が居なくなって結婚出来なくなったそうな。17の彼女がもう結婚だなんて、と当初は思っていたものの、この世界ではこれが主流らしい。ちなみにこの国は一夫多妻制だと言う。もううちのクラスは煌帝国に来いよ。
若干現実逃避に走るも私はその問いに答えるべく口を開いた。
『はい、一度だけ』
「え、ええっ!」
茶室の外で何かががたたっと動いた気がするが気にしない。私は武術や気は扱いますが気配を悟るのが苦手なんです。
『あれほど特定の行動を嫌がったのは多分私の人生後にも先にもそれだけですよきっと』
「あら……」
『実は……ああ、ちょっと私の世界の話にもなりますが……私の世界にも魔法等が存在することは知っていますよね?』
私の問い掛けに紅茶をすすりながらこくりと頷いた紅玉さんに『私たちの世界では一般人には魔法が有ることは伏せられています』と告げると驚愕で目を見開きになられた。
「な、なぜ!?」
『さあ、詳しいことは私も知りません。私も元は一般人ですし……大方魔女狩りなど最悪の場合を防ぐためでしょうね』
「な、なるほどぉ、一般人にとって魔法は驚異だものね……」
そこから麻帆良のことやマギステル・マギについてのことを教えて、ようやく本題のミニステル・マギに入っていく。
『ミニステル・マギ、言わば生涯のパートナーとなるわけですが、契約がこれには必要で、基本は仮契約から始まります。種類は様々ですが、主流はやはり仮契約(パクティオー)ですね。仮契約をすると、アーティファクトカードと言って、強力なものから雑魚まで様々ですが主と共に戦うものやサポート系の武器が手に入ります』
「ふむふむ、で、その方法はなんなのぉ?」
『仮契約の仕方はとても簡単です。仮契約用の魔法陣の中でキスすれば終わりです』
「キ、キス!? じゃあ紅明ちゃんは仮契約で!?」
『はい、とても乗り気ではなかったです。なんならその時の様子を見ますか? 友人がその光景を納めていたので』
震えながらコクリと頷いた紅玉さんにちょっと疲れた笑みを向け、部屋の外にいた紅炎、紅明、紅覇殿たちを交えて鑑賞することになった。もちろんこちらに来たときに持っていた鞄の中になぜか入っていた朝倉さんのアーティファクトの一機を取りだし、立体映像として映し出した。
いきなり部屋が別の場所になったのに驚いた彼らだが、幻影ですと告げて私たちはそちらに集中し始めた。
.
夏休み序盤。私は寮の室内でクーラーをガンガンにしながらワイシャツにプリーツスカートでベッドでゆったり読書に勤しんでいた訳ですが。
同室のやかましい彼女が帰ってきました。
「ただいま! 相変わらず目に毒な格好だな紅明! いい胸だありがとうございます!」
『うっわ』
「ドン引きいくないぞ!!」
ちらりと彼女に視線を向けてから再び本に集中する。途端に静かになったのでほっと息を吐くと目の前にセクハラしそうな顔をした彼女_七海シンがパッと私の本を取り上げ体に乗り上がってきた。彼女の片手は私の顎へ、もう片方の手は私の片足を太ももを触りながら持ち上げて。
「本当に紅明は私を焦らすのが上手いよな」
『いいかげんにしなさい』
バキッとわりと渾身の一撃を食らわせると面白いほど飛ぶ彼女を尻目に乱れた服を直し、地面に転がる本に手を伸ばしたとき、後ろから殺気が放たれたので、私はくるりと体を回転させ右に避けてから肘を宙に置いた。
途端に「あっ!」と言う声と顔を掠めるハリセンと、「ぎゃああっ」と叫ぶ彼女の頭にクリーンヒットした私の肘。
ちりんちりんと鳴る鈴の髪飾りをした神楽坂さんである。
「今回こそはいけると思ったのにー!」
『エヴァンジェリンに血反吐を吐くような訓練させられた私に勝てたら免許改伝の域ですよ最早。一度生死の狭間をさ迷ってみてください、きっと何か見えますよ』
「静かに本を読ませろって言ってんのかしら……?」
『どうとでも』
次の瞬間、私は後ろから殴り飛ばした筈の彼女に脇の間に腕を通され、身動きができなくなってしまった。ん?
そう呆けたのも一瞬、「行くわよシンさん!」『任せろアスナちゃん!』と抵抗するまもなく神楽坂さんに担がれすたこらと二人に拉致られた訳である。この二人グルだったかー……。
二人に連れ去られてやって来たのはエヴァンジェリン所有のダイオラマ球内の別荘。城に連れ込まれた私は城内の広場にペッと放り出された。腹いせですか神楽坂さん。
「来たわね紅明ちゃん!」
『すみません帰ります』
「ここは24時間経たないとゲート開かないわよ」
『そうでしたっ……!』
仁王立ちしてにやにやと笑う早乙女さんを前に帰ろうとしたら出来ないことを論破され、両脇を殴りにくい近衛さんと馬鹿力のアスナさんで固められて動くことが出来なくなった。
『……なにするんですか』
「もち、ネギくんとパクティオーよ!」
『すみません帰ります』
「帰れるかしら」
『袋の中のネズミでしたねっ……!』
にへらにへらと笑う早乙女さんと朝倉さんに『必要ないです!』『10歳とそんなことする気ありません!』『いいんちょさんじゃあるまいし!』と抗議を続けると、綾瀬さんに「諦めてください」と諭された。
「ここにいるほとんどがネギ先生としてます、してる人、手を挙げてください」
神楽坂さん、近衛さん、桜咲さん、宮崎さん、綾瀬さんに早乙女さん、長谷川さん、果ては七海さんまで……。
『っていやいや私はしませんってば! 絶対しませんから! もう十分な実力有りますから!』
「バカね紅明ちゃん! これからネギくんのお父様の探しに魔法世界に行くのよ!? パクティオーは必須よ!」
『私ほど無関係な人いませんよね!?』
「ネギま部入部済みやで」
『はめられた!』
.
『そもそも! 不本意ですが私の師匠のエヴァンジェリンに許可とってからにしてくださいよ!』
「甘いぞ紅明、私はもうとっくの昔に了承済みだ」
『このロリババア』
上から氷柱が降ってきたのでさっと口を閉じる。
『っ、そうだ宮崎さん! あなたこれ許していいんですか!?』
「私は別にー……」
「私とハルナにこれを進めたのはのどかなのですよ」
『それでいいんですか宮崎さん……』
もういいですわかりましたよやればいいんでしょうやれば。そう観念したように呟くとなぜか周りがキター! イヤアアア! と騒ぎ出した。どうやら私が折れる折れないで賭け事をしていたようだ。ロクでもない人たちですね、もー。
さっと連れてこられた訳がわからなさそうなネギ先生と私の身長差はゆうに20か30は違う。こんないたいけな少年に……。事情を説明されたネギ先生も驚いて拒否っていた。いいぞもっと拒否れ。え、折れるなよ。早乙女さんと朝倉さんなに言ったんですか。
身長差からか強制的に座らされた椅子にて待機。ちらりと七海を見るとちょっと心苦しそうだった。なら勧めるなよ。
「で、では……いきます!」
『いつでもどうぞ。私はもうどうにでもなれ精神ですよ』
目は死んでいただろう。キスのとたんに輝き出す周囲に目を細めて、パッと離れるそれにいつもと変わらない顔で周囲に告げた。
『終わりましたよ』
「なにその反応! 反応が薄すぎよ紅明ちゃん!」
「練ってばつまんないなー」
『強要しといてなに言ってんですか早乙女さん朝倉さん』
重苦しく溜め息を吐いてジトリと睨むとへらへら笑うだけとは恐れ入る。
「次は私とだな紅明!」
背後から両手でむにゅりと胸を掴まれ、声からして七海かと予測をつけてから、周囲を見る。回りの面々はまたか、というような顔つきだ。止めろよ。それにしても屋上か、ちょうどいい。
『アンタは一辺生死をさ迷え!』
「え、ぅあんっ!」
ぶんと塀の外に向かって彼女を背負い投げた。
.
『ってな感じの顛末です』
何か質問はありませんか、と問い掛けて恐らく目は死んでるだろう。早乙女さんの下世話のせいでとんでもない目にあった記憶だ。そんなもん思い出したくない。
紅玉さんは「初めてなのになんであんなに真顔なのぉ!?」と驚いていたので別に好きでも何でもなかったので、と返し、紅覇は「女ばっかじゃん」とぶうたれている。男はちゃんといましたよ、二人。紅明殿は「あれ、貴女とキスしても出ますか」と問われたので出ません、専用の魔法陣が必要ですが、私は書けませんと返した。紅炎殿は「お前のアーティファクトとやらは何が出た」と問い掛けてきた。
『私のは……【武器庫書】ですね。全568ページ。一ページに一つずつ武器が封印されてます。そのページに武器の説明もついてます。術者以外は武器を貸すことは出来ませんが、術者が既に出したものを使用することは出来ます。一気に出せる数は三つまでです』
「使えそうな奴じゃないか」
「……ていうか、明姉は明兄と違って……もしかしなくても戦闘タイプ? さっきの記憶でもわりと人投げてたじゃん」
『そうですね。……戦いがあれば真っ先に特攻を指示されるぐらいには戦闘タイプですよ、私。よく周りに頭のいい脳筋と言われます。っていうか紅覇殿、貴方の方が年上なので姉はやめてください』
得意な戦闘スタイルは最後方から戦術を指示するか、最前線で素手の拳を振るうことですよ。ぐっと拳を握りながらそういうとみんなが「うわあマジかあ」みたいな顔されるんですけど失礼じゃないですかね。
どうやらこの世界の私、紅明殿は専ら室内で軍議ばかりらしい。とりあえず。
『部屋に籠って本が読めるのは羨ましいです』
「そちらは?」
『外に引きずり出されます。ダイオラマ球に放り込まれたら地獄の修行……最早地獄の始まりですよ、ふふふ』
地獄の修行ってなにしたの? と紅覇殿に問われ、思い出そうとすると、記憶を引っ張り出すたびに体が震えてきて、顔から血の気がさああと引いていく。
がくがくと全身が震えて真っ青で涙目になりながら『……あ、あのですね、手始めに……』と言葉を紡ぐと紅覇殿に「もういいよ! ごめんなんか思い出させたっぽい! ホントごめん!」と肩を掴まれた。
そんな出来事が会ったわけだが、シンドバッド王が帰られた今日、紅玉さんはびゃーびゃー泣いていた。なんでもシンドバッド王に手籠めにされたとか。マジですか。紅玉さん可哀想。
.
紅玉さんはシンドリアに留学するらしい白龍? さんに着いていくらしい。凄まじい執着。
一方の私は一人のんびりと廊下を散歩していた。悲しきかな、エヴァンジェリンのせいで体を動かしとかないと色々危機が迫ったときどうしようと言う思考に陥っている。私も大概脳筋である。
ふと訓練場に差し掛かると、訓練を見学していたらしい武官達数人がこちらへ下劣な視線を寄越してきた。彼方でなかったものだから最初はずいぶん驚いたものである。多分認識阻害魔法の掛かった麻帆良はそう言うのも阻害されていたのだろう。
いつもは無視するのだが、彼らは私に聞こえる程度の声で会話をし始めた。
「あの紅明様の女の方、やっぱり紅明様に似て戦いには不向きなんだろうな!」
「バカ言ってんじゃねぇ、金属器を持ってねぇ分紅明様より弱いに決まってんだろ!」
「まぁな……女だし、戦えるわけねえよな!」
あ、地雷踏み抜きましたね最後の御人。それより前の発言も聞き捨てなりませんが、女性差別ですね、流石の私もぷちっと来ましたよ。
『女だからと戦えない訳ではありませんがね』
離れたところから蔑笑を浮かべて喧嘩を売ると見事に反応してくれた彼らは「なんだその目は!」「敵うとでも思っているのか紛い物が!」と激昂する。私はそれら全てを鼻で笑って宣戦布告した。
『敵うと思ってるからですよ。そうですね……一対一ずつ手合わせして、私が負けたら夜の相手でもして差し上げましょうか?』
途端に彼らの目の色が変色する。わりと良い餌を目の前にぶら下げてやった甲斐があります。
確かアーティファクトのストックに確か麻帆良の体操服があった筈。アデアットと唱えて衣服を変えると彼らの目付きはその下劣さを色濃く増した。
確かに、ウルスラのブルマよりはマシかも知れませんが、わりと丈が短いですからね、ズボン。太股がむき出しになる程度には。黒のニーソ履いててよかったです。
「なにをしている」
背後からいきなり掛かった声に私は肩をびくつかせ、そのまま振り向くとそこには不思議そうな顔をした紅炎殿と紅明殿が立っていた。武官は慌てて頭を垂れる。もう一度紅炎殿になにをしているのかを問われ、『彼らと手合わせするところでした』と答えた。
「……そうか、手合わせか。そう言えば俺たちはまだお前の実力を知らんな」
「ああ、そうでしたね」
『今から証明いたしましょうか?』
ちらりと彼らをみやってから紅炎殿を見てそう告げると頼む、と頷かれた。紅炎殿は時期にバルバッドへ向かわれる。紅明殿がバルバッドの自治権ぶんどって来たらしい。流石です。
恐らく実力を見せれる滅多にないチャンス。武官の方も張り切っている。私としてはとっとと終わらせたい。
立ち位置に着いて相対するのが彼らの中で一番強い者らしい。
「いくぞっ!」
そんな掛け声と共に槍を手に突っ込んで来た彼には悪いが、これもすぐに終わらせるため。
私の間合いに入ってきた彼の顎めがけて足を振り上げた。
.
目にも止まらぬ速さで繰り出された私の蹴りは、コンッ、と顎から軽い音を発して無事に狙ったところに命中していた。
「はっ……!? がっ、く……」
『脳を揺らしましたからね、まともに立ってなどいられないでしょう?』
がくがくと震える足と、訳が分からなそうに気分の悪さに耐える武官へトンと踏み込み、素早く腕を引いてからひゅご、と風を切らせながら思いきり拳を鳩尾へと振り抜く。ドパッ、と武官の背中の衣服が破け飛ぶ音を耳にしながらみしみしと鎧の上からでも分かる程の威力に少し手加減し過ぎたか、と吹き飛んだ武官が壁に衝突するのを見て手のひらを握っては開く。
『終わりましたよ、次に吹き飛びたいのはどこのどいつですか』
肩を回してごきごき鳴らしながら武官を見やるともういいもういいと首を振るばかり。根性なし。
どうですか、とばかりに紅炎殿たちを振り返るとお二人とも唖然としていらした。
「……殺したのか」
『……え? あぁいえ、寸止めですから多分死んでませんよ。』
「……寸、止め……?」
あれで? と壊れた壁の瓦礫に横たわる武官を指差して脂汗をたらりと垂らす紅明殿にあれでです、とこくりと頷くと「あれで……」と哀愁を漂わせ始める。
「お前は一体何者なんだ……」
ちょっと呆れた様な紅炎殿に問われ、少し考えてから返答する。
「一応、体術だけなら世界最強を誇っていますが……それ以外はただの魔法使いです」
「せっ、世界最強!?」
「魔法使いだと……!?」
おや?
.
一通り私が不本意ながら不老不死の吸血鬼な悪の大魔法使いの弟子であり無理矢理血を飲まされ眷属のせいで不老不死だと言うところまで伝えると不老不死!? と大きなリアクションを返された。それからアーティファクトを解き、場所を変えて日の当たるテラスにてあーだこーだと不老不死の有効性の議論に発展した私達三人は語らいながらも私が実際に体験した夏の大冒険を語っていく。大前提として前回にもこうして話す機会があったのでネギくんのことやクラスメイトのこと、私がエヴァンジェリンに襲われたところから学園祭まではの話はしてある。
『学校には総じて夏休みと言う夏の長期休暇があるのですが、私が居た地球とは別の世界の真相を知ったのはその時の命懸けの冒険でした』
「ほう。口振りからするに行き来は可能か?」
『はい。しかしかなり大掛かりな手続きを踏まなければなりませんし、特定の地域からしかそちらに行けません。それに、魔法世界_所謂新世界の住人がこちらの世界_旧世界へやって来るのは私たちが向こうに行くより難しいです。しかし旧世界人があちらに旅行に行って帰ってくるのは簡単ですよ、帰らねばなりませんから』
「なるほど」
『私達が新世界に行く切っ掛けとなったのが、学園祭の時の話に出てきたアルビレオ・イマの話になります。以前から彼はネギくんの父である英雄、ナギとは旧知の盟友であり、彼のことを深く知っていました。10年前に死んだとされるナギにネギくんは6年前命を助けられていますから、生きていることは確証済み。アーティファクトカードも死んでいませんでした』
「…カードで安否が分かるのか」
『はい。これが主が生きているカード。主が死んでいると背景が消えます。
かくしてナギの生存が保証されたところで、アルビレオもナギの居場所は知りませんでしたが、新世界の方にいけば証拠なりなんなり少なからず掴めると言いました。
話を戻しますけど、まあ、うちの先生は興味を持ってようやく人生の大半を掛けて探し続けた憧れに会えると興奮して魔法を暴発させましたよ。今回は武装解除ではなくただの突風だったので被害はなかったのですが。なんせ彼は今すぐ行ってきますと抜かしましたからね、うちの師匠に足引っ掛けられて叱られてましたが』
「確かまだ10の子供でしたね、仕方ないと言えば仕方ないのでしょうか」
「知らん」
『そうこうしているうちに、ネギくんは夏休み後半に魔法世界に赴くことになり、ネギくんの父を探すクラブ、仮名ネギま部をアスナさんが発足させ、何が何やら戦力としてうちのかしましい女連中に勝手にその部に入れられていた私ですけど』
「勝手にか」
「なかなか気の強い女の子たちで」
『はい。ネギま部の名誉顧問にうちの師匠が着任し、夏祭りでは部員の証であるバッチを狙ってうちのクラスの一般人連中が襲ってきてその理由が私たちもイギリス旅行に連れていけだの合宿だなんだと無理矢理海に連れていかれそこで話を盗み聞きしていたうちのクラスの一般人連中が合流してなかなか帰省しないネギくんを迎えに彼の幼馴染みの女の子が乱入してきて宿は36人も個室は用意出来ないと大部屋で雑魚寝。しかもネギくんは寝ていると抱きつきグセがあるようで、それを狙って枕投げ。
一旦は決着がつき、ネギくんは一番害がないとされる方々の間へ。見張りのアスナさんがもう大丈夫かと寝た瞬間ネギくんを狙うクラス連中が寝相の悪さを装い接近、のちになぜか静かに大乱闘となりネギくんは右へ左へ頭を蹴られリボンで引っ張られ、その微妙な騒がしさに目を覚まして上体を起こした私にちょうどネギくんが勢いよく風を切って飛んできてまして、その際頭をぶつけました。そのあとのことは気を失っていたので覚えていませんが、朝起きてみると争っていた方々がもみくちゃになっていたのでまあ、ざまあみろとは思いましたね』
今でも思い出すと痛い…と額を押さえると二人からめちゃくちゃ可哀想なものを見る顔をされた。
『そこから実際国際指名手配される程度には賞金首な師匠にアスナさんが七日間着の身着のまま雪山に放り出されて修行をしたりなぜか私は私の体重の三倍の重さの重石を足に連れられ海に放置されました。多分本題の冒険よりその修行の方が生命の危機を感じましたけど、ようやく海外に渡来、そして偶然旅行に来ていたクラス連中に物凄い確率の中発見されてしまい、ネギくんの4歳からの故郷であるウェールズに計29人で押し掛ける形になります』
「なぜネギの故郷であるウェールズに行ったんだ?」
『そこに新世界と旧世界を繋ぐゲートがあるんですよ。そしてとうとうそのゲートが開いた当日、一般人連中には危険だから絶対に来るなと言っておいたのですが、一部が面白がって着いてきてしまい…向こうに着いてからその壮大さに圧倒されているときに一部彼女たちがついてきてしまったことにより不法入国、わりと問題になりかけましたが、ここでその日一番のアクシデントが発生しました』
「…アクシデント」
『なんとも間が悪いことに修学旅行の時の私の半身を石化しやがったフェイトも渡来していたのです。その殺気に気付いたネギくんは素早く警備兵にありったけの戦力を呼んでくださいと指示しますが、警備兵が動くよりも早く、彼らは電撃にて気絶。次の瞬間簡易杖を構えていたネギくんの右胸は石の槍に貫かれていました』
「心臓でなくてよかったですね…」
「気付いた時点で結界を張るなりすればいいものを」
『簡易杖では難しいんですよ。私たちのカードやネギくんの杖はロック魔法が何重にも掛けられた厳重な扱いの箱の中。
異変に気付いた仲間もやって来ましたが、敵も最強クラスの仲間が集まり、神鳴流剣士の桜咲さん、忍者の長瀬さん、半狼の犬上くん達が個々で戦闘を開始しました。ちなみに、ネギくん倒れてます。で、アスナさんの魔法無効化能力パンチで箱が開き、私たちの武器が解放されました。私達はアスナさんに助けられましたよ、どうやらもう少し遅ければ地面と同化していたらしいです。次に、このかさんのアーティファクトの能力にある一日一回完全治癒呪文を発動、ネギくんは一命をとりとめました。もうじき三分たちかけていましたから実を言うとかなり危なかったです』
「確か、三分経つと完全治癒は出来ないんでしたね」
「逆を返せば三分以内ならどんな傷も治せると言うことか」
『頭が潰れてたり既に亡くなっていると意味がないらしいですよ。
そこから反撃に移ろうとしますが、彼らがやってくれやがりました。ゲートの楔をぶっ壊したのです。この時点で私達はもとの世界に帰る手段がなくなりました』
「「!?」」
『楔は世界に散らばっていますが、最後が運悪くここだったらしくて。
そして彼らの転送魔法により私達はバラバラに新世界中に飛ばされました。或いはジャングル、或いは雪山、首都、どれもこれもここからシンドリア以上の距離でバラバラにされました。私達がナギの情報を見つけて家に帰るには、広大な大地に飛ばされた18人を全て発見して全員揃わなくてはならなくなったのです』
「とんでもないことになったんですね」
「お前はどこに飛ばされたんだ?」
『運良く「オスティア」と言う浮遊島を国土とする国へ。ふらふら散策して傭兵などの仕事を受け持ちながら食いつないでいたらそこで奴隷にされた仲間を三人見つけました。三人は一緒に飛ばされたらしく、そこから砂漠をあるいていたところで一人が風土病にかかり、運良く通りがかった商人さんが気前良く薬をくれたそうですが、その風土病を治す薬が100万ドラクマ……こちらで言う100万ファン。その借金を返すために闘技場付き飲食店で働く奴隷をやらされたそうです。そしてのちのち合流したネギくんや犬上くんたちがそれに憤慨し、そこの闘技場でやる予定のトーナメントの優勝賞金が丁度100万ドラクマ、彼らは年齢詐称薬を飲み、大人に変装して出場しました』
「…なぜ変装をしたんだ?」
『アーウェルンクス一味のせいで、私達が世界の楔を壊したことにされたからです。濡れ衣着せられて指名手配なので、もとの姿で出るわけにはいかなかったんですよ』
『そこから、優勝するべく千の刃の英雄ことジャック・ラカンに指導してもらい、ネギくんは師匠が開発した独自の魔法を習得した訳です。この時点で世界の鍵となるアスナさんがさらわれ、替え玉が置かれました。そしてその大会でも問題が起こり、筋肉ダルマことラカンさんが乱入したことで、決勝にて引き分け。賞金は半分となりましたがあのオッサンは俺よく考えればこんな金はした金だわと残りの50万を寄越してきました。なんのために二人とも内蔵すらぐちゃぐちゃになったかわかりゃしません。そのあと、そこの総督に一杯食わされ、アスナさんとネギくんは重傷、宮殿の舞踏会に招待されます。賞金首を恩赦でなくして警護に艦隊をつける、もし来なければこれらが敵に回るとも』
「…なるほど、断れないようにしたと言うことか」
『はい。かくして総督の目的は分かりませんでしたが私たちはそれに出席、総督に呼ばれて話を聞きました。
6年前のネギくんの村の真相を。あの悪魔を送り込んだのは彼らだと言ったのです。うちには優秀な読心術士がいたので嘘はついていませんでした。それにより憎しみでネギくんは暴走、原型を止めぬ化け物になりましたが、一旦は周りの制止で落ち着きます。ですが、密かに来ていたフェイトたちにより、ラカンさんが完全なる世界、コズモエンテレケイアへと消されました。
旧世界人をそちらへ送ることと殺しを彼らはよしとしませんでしたよ。私たちの世界はまだちゃんと存在しますから。かくして彼らの襲撃にあい、その場の人間の大半が向こうに消され、その世界でできた友人もその犠牲にあいますが、なんとか脱出。最終決戦へ舞台は移ります。
私たちの目的は黄昏の姫巫子のアスナさんの奪還と魔法世界人を消し去ることが出来るグレートグランドマスターキーの奪取。これさえ出来れば世界は滅びません。作戦は途中まで順調に進みますが、ネギくんが一時仮死状態になります。復活は彼女たちに任せてその間に出来ることを進め、極限まで存在感を薄めて目の前にいても気付けない世に280年でなかったとされるレアアーティファクトを出した方がいたのでそれを使って祭壇へ。私は七海さんと共に別動隊として奇襲を仕掛ける手はずでしたが、アーウェルンクスシリーズの4、5、6、7体目が目覚め、苦戦を強いられます。私が相対したのは7の方、手強かったですよ。なんせ腕が飛びましたし。無事倒しきれましたし、ネギくんが復活もはや人間ではなくなった彼ですがフェイトを圧倒、世界を救う手だてをその天才頭脳で導き出してその間は手を組むと言う話しになったのですが、再びもろもろの敵が復活しました。まぁこれも師匠たちが来てボロクソに勝ちました。敵の親玉の創造主の正体がナギだったことが判明、一応は倒しきり、アスナさんも回復、彼女の力で世界は元通りになりました』
「…都合のいい話だな」
『客観的に見ればハッピーエンドですが、ネギくんにとってはこの先灰色の人生ですよ。…10歳の彼の存在はもう己だけのものではなくなったのです。これがことの顛末です』
「…そうか」
その数日後、紅玉さんが帰還、その数日後、紅炎殿と紅覇殿はマグノシュタットへ侵攻していった。私はというと紅明殿と二人で禁城で会話をしたりなにやらしていたのですが、彼の仕事の手伝いをしていたとき、紅炎殿の声がその場に怒鳴り声が響く。
【紅明二人!白龍、白瑛、紅玉!今すぐ俺の元へ来い!】
「…はいはい、聞こえてますよ」
紅明殿によると遠隔透視魔法で声を繋いでいるのだとか。私もですよね、と問い掛けるともちろんと返された。
『紅明殿は魔装ですか?』
「はい…あなたは?」
『私は…まあ、魔法使いですので、…うーん、とりあえず箒で紅明殿に着いていきます』
「わかりました…」
箒での移動中、紅明殿に煌帝国が目指す世界統一の話を聞かされた。各国の歴史すら嘘で塗り固め、煌帝国の皇族のみが偉い、と言う世界に作り替える気らしい。
「世界を救って平等に、がネギ少年の理論らしいですからね。その仲間である貴方は恐らくこの話には否定的だと思います」
少し寂しそうに微笑む紅明殿に首を振ると少し驚いたような顔をされた。確かに私はネギくんのお仲間で、生死や世界を救うことまで共にした旧知の仲と言えるものの、私は可もなく不可もなく、ネギくんを好いている訳ではないし、かといって嫌っているわけでもないが、ネギくんのやり方だって結局は平等な訳じゃない。だって己が身を世界に捧げた『英雄』、彼らの言う『偉い人』に当てはめられる。
『そうでもないですよ、結局はネギくんの扱いは平等ではないのですから。彼は一生すごい人として歴史に残りますし、ほぼほぼ同じ、あなたたちの理想をネギくんは齢10歳で既に実現させてしまっている。一部が全世界を指揮る、私的にはすごく良いと思いますがね』
「……そうですか」
『……! 紅明殿! 見えました!』
天から伸びる黒いソレと、黒球、そして黒い魔人たち、それらを見つけて私たちはさらに飛行スピードを加速させる。
私はぶつかる風の中、箒の上で立ち上がり、呪文詠唱を開始した。
『“ウェリアス・クロノス・クロッカス。契約に従い我に従え炎の覇王! 来れ浄火の炎、燃え盛る大剣、ほとばしれよソドムを焼きし炎と硫黄、罪ありし者を死の塵に! 【燃える天空】!”
っ、皆さん避けてください!』
ちらりと見つけた紅炎殿や紅覇殿、紅玉さん、白瑛さん、オレンジの髪の少年、青い髪の子供にそう声を張り上げた瞬間、とんでもない爆発音と共に上空が黒煙をあげて熱風をそこらに撒き散らす。黒い魔人は燃える天空に飲み込まれ、灰とも塵ともとれるものへと変貌し消えていく。
煌で出会った彼らと並び立ち、各々が青い髪の子供とオレンジの髪の少年と再会を果たしたようだ。青い髪はアラジン、オレンジの方はアリババと言うらしい。アラビアンナイトですかね?
首をかしげるうちに紅炎殿にさっきのはなんだと問われ、あぁと返答する。
『私の世界の炎系最大威力の魔法ですよ』
「……極大魔法にも匹敵しそうだが」
『エッ、私多分まだ撃てますよ』
「……」
「そちらの世界はずいぶん魔力消費が少ないようですね……」
「うわっ!? そこの二人は双子ですか!? そっくりだ!」
「バルバッドの小僧、うるさい」
「『アリババさん、ちょっと黙ってください』」
.
アリババ殿とアラジンに私の説明を終えたあと、戦いは本格的に始まった。
依り代が下ろそうとしているイル・イラーはその手のひらで触れた生命を根こそぎ持っていってしまうとのことで流石にそれは不味いと必死に戦い、依り代から黒い魔人は出てくるわなんなんだと生理的拒否反応をきたしているものの、私が今直面している最大級のトラブルが彼だ。
「や、会いたかったよ紅明さん。よくもあの時俺の体を引き裂いてくれたね」
『……7(セプテム)』
厄介な時に何でまたあなたみたいな面倒なのが、と周りからの疑念の視線を頂きながら溜め息を吐くと「とりあえず、暴れたいから相手してね」とにやりと笑ってきやがった。
途端、空から降り注ぐ無数の黒刃を器用に箒で捌いて回避する。
『紅炎殿! 紅明殿! コイツがあの7です!』
「なんだと!?」
「……なぜこちらへ?」
『知りませんが、私が相手をするので紅炎殿たちは依り代に集中して下さい!』
そう怒鳴ると紅炎殿達に関わらず皆さんがこくりと頷くので、目の前のセプテムへと意識を向ける。不敵に笑う彼はその両脇に常人ならぼろくずのようになるであろう数の黒刃を用意していた。息を飲む私を嘲笑うかのように降り注ぎ始めたそれは風を切って私だけに狙いを定めている。
私はそれら一本一本高速で見極め、肘や拳、爪先や膝で砕いていく。次の瞬間にはその速さのせいで爆発を起こした。
「紅明さん!」
『無事です!』
少しスカートの裾がほつれているものの、問題視するようなものではない。開けた視界には既にセプテムが虚空瞬動で私の懐に入り込み、拳を引いた。
ドボッと衝撃波を周囲に撒き散らしながら綺麗に私の鳩尾にクリーンヒット。私は間髪挟まず腹にある腕をひっ掴み、そのしたから膝を勢いよく振り上げた。
「っ〜!」
『げほ、折れましたね』
えずきながらぱぁんと回し蹴りを食らわせたあと、お互いの力強い拳が頬や腹や頭に激突し合い、周囲から見れば恐らく速すぎて攻撃しあっていることしか見えないだろう。一、二度海上の方で光が瞬いたが気にしてはいられない。
彼の脳天に足場にしていた箒を手に刺突を食らわせ、追撃の炎の魔法の射手1001矢を放つと極大魔法並みの威力をもって彼へと向かっていった。
「……ああくそっ、またか! またなのか練紅明!」
『……さようなら、フェイトくんの劣化版コピーの、可哀想な7(セプテム)』
「くそおおおおおおお!」
掻き消されていく彼を見て、依り代の方を見ると既に移動したのかそこに姿はなく、海上の方を見ると、何やら歓声が上がっていた。
最速スピードで箒を飛ばし、紅炎殿達を見つけたのでスピードを緩めてタンと地面に下り立つと、紅炎殿や練家の方々の視線を集めた。
「……勝ってきたか」
『はあ、まあ、負けてたらここにいませんよね。最悪石像になってます』
「ぼろぼろじゃないですか……」
『……口の中血の味でいっぱいです』
「さ、さぞ強敵と戦ってきたのでしょう……疲労は?」
『倒れそうです』
「明姉! 相手強かった!?」
『腕が吹き飛ばなかったのが奇跡です』
「わ、私たちのことちゃんとわかるのぉ?」
『正直目が霞んでヤバイです』
みんなが慌てて紅炎殿を見たので何かあるだろうとは思っていたがまさか治癒まで出来るとは。まあ、流石に体力がヤバイです。
チラッと隣の紅明殿を見ると困ったように微笑まれた。それからスッと目をそらし、彼へと寄り掛かるように倒れると肩を支えてもらえたので一応は意識を保った。
.
どうやら現在、共通の敵が居なくなったことでシンドバッド殿率いる七海連合VS煌帝国VSレーム帝国になっているようだ。レーム帝国はマグノシュタットとの戦争直前に七海連合と同盟を組んだらしく、実質二対一だ。
七海連合、もといシンドバッド殿は八人将の一人、ヤムライハと言う方の養父であったモガメットの治めていた半壊した国を見捨てては行けないらしく、復興に手を尽くすつもりだと言う。実質煌帝国が手に入れたいマグノシュタットをぶんどりに来たのだ。
「紅炎殿……まさかあの男、ここまで計算して機を窺っていたのでは?」
白瑛殿がシンドバッド殿をギリギリと睨み付けながら紅炎殿に問い掛ける。全く表情を崩さない紅炎殿、気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべるシンドバッド殿、どうなるのか気迫を交えて見守るアリババ殿とアラジン殿。
そして、次の瞬間。
「では俺は……この“マギ”をいただく」
呆然とする周囲は一拍を置いてから「えっ!!?」と声をあげた。なんと言う壮大なわがまま。流石のシンドバッド殿の顔にも変化が訪れる。
っていうかマギってなんですか……。ほぼ支えてもらっているような形の紅明殿にぼそぼそと問い掛けると「周囲から魔力を貰える魔道士のことですよ、世界に本当は三人しか存在しませんが、彼は例外の四人目です」と説明され、なるほどネギくんが作った相手の魔法を吸収するオリジナルスペルの周囲特化版かと頷いた。それにしても。
「約束したもんなっ」
「う、うん」
あの不気味な笑みはどうにかならないものか。ニコッ、でなんであんな般若みたいな笑顔になるんですか。小脇に抱えられたアラジン殿ビビってますよ。紅覇殿は「ウチに来るの? アラジン」と問いかけている。ここはエデンか。
「あの者が領土や権力を望むだけの男ならばここで息の根を止めてやるのもいい。だが、そうではないはずだ」
「えっ?」
白瑛殿の先程の問いに答えるように口を開いた紅炎殿の視線の先にはアラジンが連れていかれると焦るヤムライハ殿と、「存外、扱いづらい男だ」と笑みを深めたシンドバッド殿。
一旦この場は一件落着。ホッと詰めていた息を吐き出し、紅明殿に『すみません、ありがとうございました』と声をかけて自力で立ち上がる。若干のふらつきは有るものの、まぁどうにかなる。
『……あ、箒』
「どうぞ」
『あ、ありがとうございま……』
紅明殿から箒を受け取ろうと腕を伸ばすと、下から手が伸びてきて私のその腕をガシッと掴む。黒光りする爪は間違いなく彼女のもので。
ずるりと影から姿を表したのは。
「この世界は満喫出来たかな? 我が弟子よ」
エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。
.
流石にずるりと影から這い出てきた金髪の美少女にみんな驚きを隠せないらしい。
地に足つけたエヴァンジェリンはにやにやと私と紅明殿を交互に見渡し下世話な視線を向けてくる。あ、ムカつく。
『……どうやってここに来たんですか、エヴァンジェリン』
「いやなに、面白そうなことになっている気がしてな。アルの奴に頼んで見に来ると案の定さ、いやぁ面白いな!」
『……うわ』
「……静かに引くのはよせ!」
だいたい私が、とかなんとかきゃんきゃん喚くエヴァンジェリンを適当に相手しながら、近寄ってきた紅炎殿の言葉を聞く。
「……このガキが、お前の師匠のエヴァンジェリンか?」
『はい、このガキでぐふっ』
「誰がガキか私より何年も年下のクセに! 蛇毛のデカイのも私から見ればまだまだ子供だ! まったく、私を誰だと思っている!」
『誰ですか?』
「お前からかってるのか……? ……仕方がない、ここは私を知らないのが多すぎる、自己紹介をしよう。
魔王、禍音の使徒、悪しき訪れ、闇の福音、……この私が、約600年を生きる最強クラスの悪の大魔法使い、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マグダウェルさ」
コォ、とパキパキ凍り始める地面にああこれからかいすぎたなとお怒りを買ったことを理解しつつ、周囲を眺めると眼球の色の白目黒目が反転したことに驚きを隠せないらしい。それと、彼女の威圧感によりほぼほぼの人間が固まっている。
そんな中私は踏み出し、彼女に問い掛けた。
『……で、本当はなにをしにいらっしゃったんですか、エヴァンジェリン』
「……ああ、それは」
お前を一旦連れ戻す為さ。その一言と同時に、腹に鋭い拳がドスンと入れられる。いきなりのことで受け身がとれなかったことと、あまりの威力に私は脱力し、意識を失った。
**
意識を失った別世界の練紅明を担ぎ上げる小柄な金髪の美少女に、その場のほとんどが畏怖の視線を向けていた。女の方の紅明は体術なら世界最強を張れると言っていたし、魔法戦の実力も高かった。そんな彼女を一撃で伸す少女は一体何者なのか。否、600年を生きる吸血鬼らしい。
「……ソイツをどうするつもりだ」
その中で一人ポツリと声をかけた紅炎にエヴァンジェリンはきょとりとしてから「なかなか見所のあるガキじゃないか」と笑みを浮かべる。
どうやら自分を恐れない紅炎にエヴァンジェリンは気をよくしたようだ。
「なに、一旦あっちに連れて帰って7年ぼーやたちと世界を救ってもらってから五年経ったあとあいつらに別れの挨拶をさせてこちらにまた連れて来るつもりだ。安心しろ若造。この馬鹿弟子、お前のところの煌帝国の戦力にくれてやる」
「……12年だと」
「……まあ見ていろ」
言うが早いか、エヴァンジェリンは再びとぷんと影へ飛び込み、姿を消す。と思えばその影の上にゲートが現れそこから二つの影が落ちてきた。
ひとつは肩辺りまでの紅髪をハーフアップでちょこんと括っている紅明と、服装の変わったエヴァンジェリン。
あまりの早さにみんな唖然だ。
「12年経ったから連れてきてやったぞ、練紅炎」
「……もう経ったのか」
「時間軸をここに合わせた。この練紅明はもう27だ」
『……さっきからなんなんですか』
白いワイシャツに黒いネクタイ、スーツ用のスカートに上からコートを羽織った彼女は、既に12年経った彼女らしい。先程の彼女より身長が少し伸び、胸の辺りは以前よりも大きさを増しているが、確かに彼女は練紅明だった。
.
『説明なさってください、エヴァンジェリン』
12年前、突如元の世界に連れ戻された私が彼女に最初にやられたことと言えば、眷属化の解除、即ち不老不死からの解放だった。
安堵も束の間、これからのことに力を貸せと彼女に言われあれよあれよと6年、ヨルダ・バオトとその惑星vsアラアルバ’sとなり、私も一応尽力した。紅明殿や紅炎殿たちが恋しくなかった訳ではないが、それを感じる間もなく過ぎた六年、最早思い出とかしていたのだが。
戦いの功績としてなぜか私は魔法世界のMM元老院軍師としてかりだされ、また、ネギくんの補助として名も売れてしまっていた。元老院が見ていたのは私の戦略知識とその利用効率の高さ。彼らには私の一切の実力を見せてはいないのできっと戦えないやつだとか思われていた筈である。
そしてそれから3年、とある事件により私が出なければならない事態になるもまたそれは後のお話として。二年後にネギくんの結婚式に出席、なぜか司会をやらされた。
そして仕事で軍や元老院、元3-Aクラスメイトに別れを告げたとたんエヴァンジェリンに引っ張り出されイマココみたいな感じだ。よく見ると私が連れ出されたそのあとかもしれない。この差、どうしてくれるエヴァンジェリン。
いやまあ、しかし……もう一度紅明殿を拝謁できただけでももうけもんだとしよう。思い出となった今でも、私は彼のことを忘れたことはなかった。
「ははは! なに、お前はこちらの世界の方が生きやすそうだと思ってな! まぁ先人の思いやりだよ」
『……思いやり? ……これの、どこが、思いやりですか! あぁ!? ざっけんなアンタなにしでかしたかわかってんですかこのクソロリババァ!』
「なんだと紅明引きこもりだったクセにずいぶんと偉くなったもんだ! えぇ!? 誰がロリババアなんだ誰が!?」
ガッと胸ぐらを掴んできたエヴァンジェリンにビッ、とスケジュール帳を見せ付けながら読み上げてやる。
ことの重大性を理解していないんだこのガキは。
『いいですかエヴァンジェリン!? 私はこのあと『世界を救った英雄ネギ』の相棒として世界一の軍事国家の皇帝に挨拶に行く予定だったんですよ!? 商談ですよ同盟ですよ!? 同盟組みに行くんですよ!? これで世界戦力約三分の一が手に入るんです! これどういうことか分かりますか!? もう戦争しても負けないってことですよ!? 私のアーティファクトでも雪広さんのアーティファクトでも難しかった謁見なのに! それなのに! くそっ、貴方やってくれましたね!? 流石にこんな大事な場をすっぽかしてしまえば、世界の半分が敵に回るようなもんですが!? 貴方でも苦戦する、もしかすると負けてしまうかもしれない強さの戦力ですよ!? これ一応私たちの命かかってんですけど!
ネギくんの名誉に関わることですよ!?』
「……え。ぼっ、ぼーやの!?」
『そうです貴方の世界一大好きで大好きで仕方ないナギさんの息子の、貴方の愛すべき愛弟子である愛しくて愛しくて仕方ないネギくんの!』
「余計なことは言わんでいい!」
『とりあえずとっととあっちに戻せ!』
「すまん無理だ。なんか知らんがお前の魔力がこちらに結び付いたからもう世界観の移動は出来ん」
もう視界がチカチカしてきた。
『……そうですか。じゃあ代わりに貴方が行ってくださいね、……責任取れるよなエヴァンジェリン』
「……ん」
『ならよし』
パッと振り向いて、久々の紅炎殿たちに45°腰を曲げて礼をする。ちょっとキョトンとした彼らが少し可笑しくて、くつりと喉を鳴らす。
『……とりあえず、帰ってきました』
そう呟いた途端エヴァンジェリンが紅明殿の首筋にかぶりついたものだから、七海連合も煌もレームもとりあえず固まった。
.
『なにしてるんですかアンタ……』
エヴァンジェリンを紅明殿から引き剥がし、紅覇殿に「なにその女! 明兄にかぶりつくなんて何考えてるの!?」とお叱りを受けたあと、ちょっとげんなりしながら彼女に問うとこう返ってきた。
「なんだ、血は違うんだな」
『……は?』
「いや、確かめただけだ。確かにお前たち二人は練紅明で間違いないが、流れている血液は別物だ」
『……ん? エヴァンジェリン? ……貴方は何が言いたいんですか?』
「お前ら血は繋がっちゃいないからお前ら一緒になれるぞ」
エヴァンジェリンの発言に離れた紅明殿と同時に吹き出した。『なりませんよ……』と疲労困憊になりながら返して、彼女がそそくさと帰っていくのを見送ると、他の国も帰路につき始める。
それを見計らい、私は煌の方へと移動した。
『勝手ながら帰って参りました……』
「お前の師匠から話は聞いているか」
『はい。そもそも、つれ戻される前はこうするつもりでした』
紅炎殿にそう問われ、両手を組んで彼の前にかしずく。覚悟はとうにできているのだ。
『……この身とこの知識、一種の戦力として、煌帝国の許す限り、尽力させていただきたく』
返答はもちろん、yesである。
**
私たちはそのまま煌に戻るのではなく、紅炎殿の指揮るバルバッドへやって来た。
総督府にて私の地位は一応国賓とされ、のびのびと暮らさせて貰っている。仕事と称賛と期待の重圧から逃げおおせることが出来た私にもう怖いものは何もない。
ここに来て数日、連日の徹夜と疲労困憊により眠りこけた私が目覚めたのは既に夜が深くなった頃。流石に籠りきりはいけないなと湯浴みをし着替えたあと外に出る。
かつんかつんと靴音が響くなか、背後の気配に立ち止まり、ぱっと振り返った。
「おや、紅明さん」
『紅明殿でしたか』
数日前よりちょっとやつれた紅明殿に寄っていき、肩を貸す。どうしたのかと問えば先程まで軍議を行っていたらしい。今日は一日潰れただけだからまだ短い方なのだとか。お疲れ様です。
『とりあえず、部屋まで運びます』
「……すみません、ありがとうございます……」
.
多重転生トリップ的な話を書きたくなった。ので紅明さんと紅明♀さんの話は保留。気が向けばまた書くぜみたいな。凍結作品ばっかでまともに書いてねーじゃねーかと思った方々、正論です。
一応今回のヒロインは眼鏡の関西弁ショートカット。まずはポケスペに転生。名前イオリ固定。
**
ある日目が覚めて起きたら赤ん坊に転生していたのはびっくりした。そして今世の母らしき女性の隣にラッキー居るもんだから驚いて泣いた。その泣き声を聞いて元気な女の子ですねとか言ってるのに違うわボケナスと言いたくなったのは仕方ない。
そこからめちゃくちゃすくすく育った私、ただいま五歳。アサギ育ちです。
現在母の手持ちのデンリュウと庭で仲良くひなたぼっこしていたら珍しく昼間に家に帰ってきた父に手招きされた。
正直父さんわりと適当なんだよね。父さんの手持ちのアリゲイツもわりと私の扱いが雑。体に乗せてやると喜ぶとか思ってんだもん。喜ぶけど。高いし。
アリゲイツやっぱ五歳から見たらでけーななんて思っていたら父からの言葉に耳を疑った。
「オーキド博士からタマゴを頂いたんやけどな、父さんも母さんも手持ちがもう六匹で限界やし、イオリももう五歳やからそろそろパートナー見つけんとなってことになってな」
そんなことをさらりと言われてタマゴを渡されてわりとカルチャーショック的なあれを受けているんですが。タマゴとか父さんも母さんも手持ち六匹いたのとか色々疑問はあるけれど、とりあえず突っ込んでいいかな。
『父さんオーキド博士と知り合いやったん!?』
「研究所のお手伝いしとるんやで」
どや、すごいやろ、とか言ってるけど父さんどうやってそこまで行っとるん。アサギからマサラまでかなり距離あるで……と言うと、ボールからカイリューを出して「ひとっとびやで!」と言われた。おお、カイリューや。
『人にはかいこうせん向けんといてな……』
「そんなんせぇへんよ!!?」
.
あれから一ヶ月後、タマゴから生まれました。
『……ヨーギラスや』
「よぎ」
『かわええ……』
「よぎ」
よぎしか言わんが超絶かわええ。前世のポケモンで全世代に渡りパーティに必ず居た相棒である。バンギラスとかになってくると本当に便りになってくるようちの子は。
ラースと名付けたこのヨーギラス、遺伝技のげきりん覚えた。まさに憤怒(ラース)。撫でるたびにニコ、と笑ってくれるのが超かわいい。もうかわいくて仕方がない。重たい。
うわー、やべー。とかなんとか言ってるうちにヨーギラスの検査の為、ウツギ研究所に父と共にやって来た訳だが。ヨーギラス、なんと♀でした。女の子です。
「カイさんカントーのマサラに引っ越すんでしたよね?」
「おお、せやで」
「あ、じゃあこのヒノアラシ、娘さんのポケモンとして連れてってあげてください。以前二人新人トレーナーが来ましてね、一匹だけ残るのも可哀想なので」
「おっ、ありがとー」
なんか今聞き捨てならんことを聞いた気がすんぞおい。カイとは父の名である。いや、そんなことはどうでもいい。
ヒノアラシ貰うとかなんかもう贅沢仕様な気がしなくもないがカントーに引っ越すだと? ならもしかして赤様やボンジュールなグリーンにも会えるのでは!? いやいや待て待て違う。違うよ。
カントーに引っ越すってどういうこと?
『……一言も聞いてへんねんけど!!』
「言うてへんし!」
「そんな大事なことちゃんとはように言えや!」
「ごめんお母さん!」
帰宅した我が家で母に胸ぐら掴みあげられている父にこの家の権力の強さを見た。次からは母を頼ろう。
腕に抱えるヒノアラシ、イブくん。♂でした。もふもふしててとても可愛らしいです。天使が増えた。
.
カントーに引っ越して数年、11歳になりました。引っ越し理由が父のオーキド博士の手伝いのためってどういうこと。カイリューどうした。カイリューどしたの。
……さて、そろそろ旅に出なくてはならない時期がやって来たわけだが、驚くべき事実が発見されていた。いやまあここに引っ越したときにわかったことなんだけども。
ここ。赤様がシロガネ山に引き込もって無双するポケモンの世界じゃねーや。pkmnじゃなかった。pkspだった。幼馴染みポケモンに髪の毛お山なレッド(赤目)さんが近所の原っぱで元気に駆け回っていた。オーキド博士の研究所の棚の写真立てにめちゃくちゃ目付きの悪いグリーン(緑目)がいた。
同期に明るいレッド(赤目)とクールなグリーン(緑目)、ズル賢いブルー(青目)に私(紫目)とか……正直洒落にならない。絶対巻き込まれるぞ。だって父さん研究所勤めでこっちがレッドやグリーンと同い年って知ってるもん。一回挨拶行ったもん。父がどれだけ優秀か語ってるみたいやもん。とマグマラシとサナギラスを撫でた。気持ち良さそうに目を細めるから可愛い可愛すぎる。現実逃避もそろそろやめよう。
私は向き合わなければならない。先言っとくわ。向き合えねー。
『図鑑とかほんっま無理マジ無理』
机にどどーんと置かれている図鑑、そう、選ばれしアレの『ポケモン図鑑』である。選ばれし図鑑所有者になってしまった。なんか、プロトタイプらしい。まあね、そうだね、最初の三台とは色が違うもんね。疎外感ぱねーぞこれ。ごっつんと机に伏せて頭をぶつけた私に最早姉妹とも言えるラースに無表情ながら心配され、大丈夫やないけど君らの為に大丈夫やでとかなんとか言っちゃったりしてイブくんがすりよってきたのでそりゃもう撫でる撫でる。可愛いうちの子超可愛い可愛すぎる。
なんか、オーキド博士が父の話を聞いてこの子なら任せてもいいと思ったらしい。直接手渡された。正直父のオーキド博士からの信用と信頼が厚かったから、渡そうみたいなことになったに違いない。絶対そうだ。そうに決まってる。
その数日後、密かに荷物をまとめていたらしい母に鞄を渡され、服を整えられ家から放り出された。
いわく、図鑑貰ったんだから旅しろとのこと。横暴だ!
.
さて。というわけで旅に出た私ですが、今シルフカンパニーでの騒動が終わりました。何、展開が速いって? そりゃそうだろうよ巻きだもん。
まずは旅に出て数日後、レッド、グリーンがトキワの森でのガルーラ騒動に遭遇した私は『まぁまぁ落ち着けや』と何かとアドレナリン出まくりな赤色と緑色をいさめて自己紹介後にまた会おうぜな感じで別れた訳よ。そしたら数日後、次、レッドがブルーに詐欺だなんだと怒り狂ってるところへ遭遇し『まぁ落ち着けレッド、話し合いや』といさめて、色々ポケモンゲットして、ここ分布とかまるでカンケーねぇのなとかちょっとオリジナル仕様かとか思って月日が立ちたまたま立ち寄ったヤマブキシティから出られなくなって『落ち着け落ち着けもちつけ』とか呟いてなんやかんや赤青緑に巻き込まれてシルフカンパニーで戦い抜きました。なんか落ち着けしかいってない気がする。どんだけ私冷静なのよ。あのファイヤーサンダーフリーザー三位一体みたいになってたあれはもしや幻のNo,152レイなのではとか思ったり思わなかったり。
なんだかんだで一応仲間も増えた。飛行要因でゲットしたズバットのグライくん、現在クロバットやで。なんか私たちをストーキングしていたところをゲットさせられたゴースのアマテ、現在ゲンガーです。ブルーに協力してもらい交換進化しました。
バンギラスへと進化した相棒ラース、バクフーンへ進化したイブたちとともに私は今実家へ帰ります。
「え、帰るの!?」
『え、帰ったらあかんの?』
「わ、私てっきりイオリも出るんだと思ってたわよ……」
『そうか……でも帰るわ』
頑なね! と怒鳴るブルー。ただいまポケモンリーグ申込み的な受け付け的なあれ。的的うるせーな。
もちろん参加する気などない。私そもそもマサラの人間じゃないし、結果は見えてるのさ。戦う者なレッドが優勝だろ。
っていうか戦う者(レッド)育てる者(グリーン)化える者(ブルー)なら私何? もしかして私だけそういうのないとか? そういうけい? 陰湿!
『とりあえず、ブルーまたな』
「えっ、うん! またね!」
ブルーに手を振ってクロバットに飛び乗ってその場をあとにした。駆けてくるレッドとグリーンを視界の端にとどめるも、まあ止まらないよね!
たった二つの投稿でここまで来ちゃうって、どうよ?(((メタェ
.
ずいぶんと時間がたった気がするが、現在2章と3章、5、6章が終わっている。実質私たちの出番はポケスペじゃあ終了。展開が早すぎてお話にならないねうん。
2章。レッド消息不明からのピカがイエローと共に出現からのグリーンがイエローを育成からのブルーやマサキ、かつてのロケット団ジムリーダーと共闘しレッド復活ワタルをイエローが撃破し終息! みたいな。私はグリーンに『図鑑所有者ならお前もこい』とイエロー育成にかりだされた。そのあとのvs四天王とかも強引にブルーに戦力として引っ張り出された。
3章。ブルーに呼び出され何かと思えば伝説の三鳥の一匹、フリーザーを預けられあれこれやっぱり私も介入なのとか巻き込まれながら思ってレッドとグリーン来たからとりあえずレッド拾って戦って。しばらくしてセレビィ来てゴールドがマスクオブアイスの正体であるヤナギ老人倒して時の狭間から三犬と共に無事帰還した。ヒヤッとしたよゴールド。それにしてもゴークリ最高ですね。シルバーシスコンかよ可愛いとか思っていたけど結局ゴールドのブルーに対するセクハラは止められなかった。ごめんブルーゴールドのその度胸に拍手したわ。「なんだこっちのエロい眼鏡ギャル!」とか言われたがどこがエロいんやこら。後でこっそり聞いた図鑑所有者の能力だが私は「冷静なる者」だったらしい。意味はあるのか。
5章。訳もわからずイブにブラストバーン覚えさせてレッドに引きずられてミュウツーと一緒にデオキシス助けにいったわ。そのあと理不尽にも石化された。なんだこれ。
6章。石化されても意識があった私は目の前で起こる出来事に原作通りというかなんというかひとつ例外だったとすれば見知らぬ女の子が我が物顔で「負けられないの、私は……『冷静なる者』だから!」とか言って周囲がぽかんとしていたことか。ゴールドが「冷静なる者はイオリセンパイだぞ何言ってんだおめー」と言っていたのが印象的だ、内心笑った。よく見るトリップものらしい。見事に居場所を奪おうとして失敗しみんなの記憶から消されていたが。こう考えるとなんで私覚えてんの?
そう言えば、仲間もこの長い間に増えている。いや、いま増えそう。いや、まあ、その五匹目なんですが、現在私の目の前に居ます。
『……嘘やん』
6章から3年、現在19歳の私は家にいると旅に出ろだのなんだの言われるので図鑑片手にジョウトのジムを巡っていたんだ。カントーは制覇した。
現在、アサギにて。実質の私の故郷であるここのジムリーダーミカンちゃんに勝ったばかりで。人の全く居ない海辺でのんびりとイブと散歩していたら海の神様出てきた。ルギア出てきた。
現在ルギアは私が神様に誘導されるがまま取り出したモンスターボールに入れてくれと視線で訴えている。勘違いかもしれないって? それはない。ボール直そうとすると怒るし。
まあ、戦力が増えるのは悪いことじゃないよなあ。
『よろしくな、ルギア』
ボールを前に差し出すと嬉々として入っていくものだから。彼? にどんな心境の変化があったのだろう。
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唐突に終わりを迎えるポケスペ。
男主。nrtのカカシの同期でミナト班だった六代目火影相談役及び側近が七代目火影就任数年後に死んで転生してヒロアカの世界で精神的年下を精神的に見守り物理的に守っていく話。
『最原 ザクロ』
亭年61歳。身長187cm。
跳ねた黒髪で目はザクロ色。右頬の傷跡が目立つ。クールな雰囲気のイケメンだが中身はクールの欠片もないただの友人想いな男前。
医療忍術も駆使する前線攻撃力超特化型スピード忍者。使用武器は手裏剣や苦無より風のチャクラを纏わせた日本刀。
ミナトから避雷神の術を受け継ぎ、ナルトよりも早く螺旋丸に性質変化を加えた影の立役者。相手の次の行動を見透す『千里眼』という血継限界を持つ一族の出。本当に血が薄れていて、ザクロの世代から片目しか受け継がれなくなった。しかしその分強力で、うちはの写輪眼の幻術を跳ね退け、光速の速さでさえ見切る。
カカシの親友であり、少年期の彼を影で支えていた聡い子。実はザクロもリンとオビト、ミナトの死は辛かったが、オビトに頼まれたリンを殺してしまったカカシのダメージを考えると『コイツやべー俺まで死んだら多分壊れる』と気力で乗りきり、腕が飛んだり内臓が複数無くなったりしたが今の今まで意地で生き残ってやった生命力の強い男。冷血化したカカシにも対応を変えなかった勇者。友人想いだと当のカカシも充分理解しており、カカシが自分で親友だというぐらいには仲が良い。
医療忍術は綱手様直伝。サクラのように百豪の術は使えなかったが、若さを保つ術は完璧以上に受け継いでおり、61でも尚25辺りに見える容姿を保っていた。
剣の腕前に圧倒的自信をを持っており、第四次忍界大戦にて死より復活した霧隠れの忍刀七人衆の百地以外の六人を一人で相手取り見事完封。刀の速度は光速と同程度。
相手に何もさせずに瞬殺していくスタイル。えぐいことを余裕の表情でこなします。ここら辺は冷血カカシに引っ張られた。
本来ナルトたち第七班の担当上忍に推薦されていたが、これカカシのが適任じゃね? と本人はカカシを推した。ナルトたち三人を如何なる出来事があっても優しい目で見てきた。たとえサスケが里抜けしようとナルトとサスケが片腕ずつ失おうと見守るだけにとどまっている。そのせいかおかげか七班になつかれた。
『千里眼の剣帝』『木ノ葉の剣聖』等という勇名を頂いている。
多分戦闘バカに部類される男。
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捏造。
リンは「どうしよぉ、決められないよお」とカカシとザクロの両方に惚れてた感じ。オビトェ……。
死んだ筈の俺が転生して早2年。
確か61の時に病で死んだんだっけか。不治とかなんとかかんとか。なのに直ぐに新しい生を受けて記憶まで持っている。どういうことか。俺の記憶消えてねぇですよ神様。
……なるほどそう言うことか。これにより俺が起こすべき行動はただひとつ。
『若ェ奴等を精神的にも物理的にも出来るだけ守ってこーぜ』
一人でなにいってんだ。
この世にそれにぴったりなヒーローと言う職業があると言うことに気付いたのはその二日後だった。
**
俺の個性は『千里忍術』。前世の千里眼と忍術がごちゃ混ぜになった名前の個性だった。ラッキーだと思ったね、うん。
千里眼は前世同様片目しかなく、これは母の個性を遺伝子的に継いだらしい。性能が一緒だった。父? 父は個性『蓄電』ですが何か? 俺の忍術ルーツどっから来た。
そんな俺、現在12歳。この冬休みが終われば中学生です。
まず、ヒーローを目指すとなると高校が最初だ。どこの高校が良いかと検索すると『東の雄英、西の士傑』と出てくる。……ん? 英雄? ああ、雄英か。士傑は知らん。
「ザクロー、おはよー」
『おー、はよー』
生まれてから我が親友が居ないのはわりと心細くてショックだったが、アイツはまだ七代目相談役としての六代目の役割があるからな。こっちにいちゃ不味い。……おや? なら、カカシじゃなくて、リンやオビトたちがこちらにいる可能性が高いのか? アスマも? もう一度アイツらに会えるとなると、かなり楽しみだ。おおお。アスマ将棋しよーぜ。リンは、まぁ……とっととオビトをどうにかしてくれ。
さあ、ひねくれずにいこう。あれ、油断だったかな? 油断せずに行こう。
目指すは雄英。
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はてさて。
もしかしたら知り合いに会えるかも、とか期待しながら向かった入試会場。説明会では四角い眼鏡と緑の縮れ毛が目立っていたがそれ以上に多分やかましいだろうオビトとかリンとか前世の仲間は見当たらなかった。流石に時と場合は読めるよなアイツ、この世に生まれていない可能性も捨てきれないが。……まさか遅刻とか言うんじゃねーだろうな、この世に生まれ落ちているのなら可能性は高い。リンが見当たらない時点でアウトか? この世界に居ないのか?
筆記は滞りなく終えて実技。基本チャクラ刀で切り捨てを初手とし、壁をチャクラで駆け上って機械敵を見つけたら瞬身で飛ぶを繰り返した。途中人命救助とかしてな。得点は高かった筈だ。
そして一週間後の今日、念願の合否通知が届いた。両親にバレないように自室に籠り、封筒を開ける。中には録画ディスプレイがひとつ。これで教えてくれる感じか。やっぱり近代化が木ノ葉の比じゃねぇなこの世界は。すげーわ。
現れた黄色いスーツのでけえオッサンが騒いでたが要約すると合格だよ、ってことだろやかましい。両親に見せると「オールマイトオオオオオ!」と叫んでた。オールマイトさんどなた。
昔っから両親に心配されるほど病的な迄に修行に明け暮れていた俺だ、テレビなんて朝の天気予報くらいしか見てねーよ。今まで幼稚園とか義務教育期間でも聞いた気がするけど基本どのヒーローが好きとか憧れてるとかの話は参加しなかったからな。見た目子供でも中身がおじさんの俺は子供のノリについてけねーよ。前世も25、6くらいの若さ保ってたけど基本精神的じじいで弟子のナルトやサスケ、サクラ世代にもつけてけなかったしな俺。ボルトとかもっての外だ。それにしても「ザクロのおっちゃん」か……。まあカカシと同い年だから正確に言うとそれで合ってるけど、見た目が木ノ葉丸と同い年くらいだったから周囲の視線がいたたまれなかったんだけどなボルトェ……。成長して好青年になったよな木ノ葉丸。女子生徒にキャーキャー言われてさ、満更でも無さそうだったぞロリコンめ!
その憧れのヒーローになるんじゃねーのかよとか本音が出そうになったが多分俺が憧れてたサクモさんとかみんな大好き火影様とかそんな感じだろうかと想像して口は挟まなかった。
ボルトがサスケが居ないときに教えろ教えろって来たのは可愛かったよなあ。って何考えてんだ俺しっかりしろ頑張れ。完璧に孫を見るじーさんみたいな感慨してたぞ、その枠はヒアシさんだぞ。変わったよなあの人。
……じーさんとか言ったが俺独身だったし孫いなかったからわかんねーわやっぱ。ヒマワリ可愛かったなあ。
とかそんなクソくだらないことを無表情で脳内フィーバーしつつ考えながら、バカデカイ1-Aと書かれたバリアフリーな扉を開く。
前に。問題に直結した。
目の前で照れてるあのときの緑の縮れ毛の少年と茶髪ボブの女の子が話しているので入室出来ないんだが。
『……(コイツら邪魔……)』
呆れて溜め息が漏れたのは仕方がない。
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そして突如として俺の足元に寝転がる物体に少しビクついて様子を見てみるとどうやら担任のようだ。……こんな小汚ねぇオッサンが? マジで?
この世の中色々あるんだなあ、ザクロと心の俳句を詠んだところで体操服を渡され、着替えたのちグラウンドに赴いた訳だが。
「個性把握……テストぉ!?」
つまりそう言うことらしい。分かりやすく一言にしてくれてありがとう茶髪ボブ子。入学式とガイダンスに関しては担任、相澤消太曰く合理的じゃない、ヒーローになるならそんなの時間の無駄らしい。まあ確かに。忍の世界でも時間は有限、呑気に任務にかかれない。が、ここまで合理性を突き詰めた男は初めて見たぞ。合理性突き詰めるとこんなに小汚なくなんのかよ。やべぇ。
とにかく。個性把握テストは中学でやった個性禁止の体力テストを個性ありでやるらしい。まあ確かに個性あんのに無しでやるとか意味なくね? クソ無駄じゃねーかとか思ったよ俺も。まさかの文部科学省の怠慢だったらしい。マジか政府。頑張って働けよ。
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
アイツ爆豪って言うのか。目付きめっちゃ悪いな。俺も人のこと言えねーけどさ。それにしても67mか、大したもんだ。
「じゃあ個性使ってやってみろ、円から出なきゃ何してもいい。早よ」
思いっきりな。と付け足した先生に爆豪は軽くストレッチしてから「しねえ!」と言う口汚い言葉を叫んでぶん投げた。爆発してたから多分球威に爆風乗せたんだろうな。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローを素地を形成する合理的手段」
おお。記録は700m越え。爆豪やべー。
確かに、忍でもまずは最大限と言うか自分が出来るとこまでやって倒れての繰り返しだったからな。一理ある。
ふむふむと頷いていると。
「なんだこれ!! すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えんだ! 流石ヒーロー科!」
ちょっと聞き捨てならんことが聞こえたが気のせいか? 面白そう? え? 何? ふざけてんの? なめてんの?
ヒーローってあれじゃないの? 敵と命のやり取りすんだよね? ……え? ちょっと危険をわかってねえなこいつら。自分の命がこれから死と隣り合わせになることを理解していない。
思わず聞こえたとんでもない馬鹿な発言に腕を組んだまま目を見開いて硬直しながらこれからクラスメイトになる奴等を険しい顔でと見ていると、相澤先生がちろりと俺を一瞥してから口を開く。
「……面白そう、か。ヒーローになるための三年間。そんな腹づもりで過ごすつもりか?
よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「はああああああ!?」
せんせー、まだまだ甘いと思いまーす。最下位どころじゃなく、一位でも見込み無しなら除籍処分にするのが賢明だと思いまーす。なんか馬鹿にされてる気分でそこはかとなくムカつきました。
.
個性把握テスト。結果的にみんなが各々の自覚せねばならぬことを理解し、先生に『見込みあり』と思わせる何かも発生し除籍処分は無に帰った。
校舎の影から覗いていた金髪の画風の違うでかいおっさんは腹にどでかい穴の手術痕が見受けられ、生体エネルギーを感じる限り中の臓物も足りないところが多々ある。
一応医療忍者でもある俺はそれを気掛かりにしているものの、見てる限り大丈夫そうなので処置は追々することにした。
そんなこんなで翌日。午前中は普通の科目、昼はクックヒーロー、ランチラッシュの上手い料理が安価で食える食堂で済ませ、やって来た午後の授業。
ヒーロー基礎学なるものだ。まんまか。
「わーたーしーがー!」
食後の微睡みに浸るところで、教室の外からそんな大きい声が聞こえてきた。ふるふると頭を振って扉を見ると、昨日の金髪の画風の違う男が「普通にドアから来た!」と声を張り上げながらやって来た。
誰だ。そう疑問に思うのも束の間。周囲はオールマイトだ、画風が違う、と囁いていたのであぁ彼がオールマイトかと初めて認識した。
No,1ヒーロー、平和の象徴オールマイト。話だけなら聞いたことがあるが、こんなに存在感のある男だとは。これはなかなか。
ふむ、と嘆息してから話に耳を傾ける。どうやら初めてのヒーロー基礎学は戦闘訓練らしい。なにそれ俺の独壇場。
「そしてそいつに伴って、此方! 入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!」
コスチュームの言葉をオウム返しすてテンションの上がっている生徒を見て青春だねえと微笑ましくなる。青春といえば全身緑タイツのゴン太ゲジ眉したまつげのインパクトある同期かつ友人の姿がちらつく。ばちこんとウインクしてくる。それを頭の中で全力回避して顔をしかめた。う、俺アイツ暑苦しくて苦手なんだよなあ……イイヤツだけどさ……。
渡されたスーツケースに懐かしのあれがはいってんだよなあと笑みを漏らして、ここで木ノ葉との繋がりを強く感じた。
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コスチュームを着てグラウンドβに出てきた訳だが、なんかみんなコスチュームが個性豊か過ぎる。爆豪の籠手とか邪魔臭そう。
女子は女子で体にぴったりとくっついてラインを強調するものが多くて視線のやり場に困る男子も多かろう。俺はまぁ精神年齢合計すると70越えるから。な。
俺のコスチュームはと言うと、暗い紺色の上着に鶯色の中忍から着用できるベスト。下はだぼっとした黒いカーゴパンツで右の太ももに忍具ケースが当たり前のように存在しているものだ。手には黒い指抜きグローブ。紺色の上着の下にはノースリーブタイプののタートルネックを着込んで、首もとには額当てが結んでいる。腰もとに一本の太刀を帯刀してあるのだ。
まんま前世のスタイルである。一応暗部のものにするか迷ったが、カカシと同じタイプの上着で、肩の露出があったためやめた。この暗部の姿は体が完全である前世の肉体に変化するときにするつもりだ。別バージョン的な。
はー落ち着く、と一人和んでいると、オールマイトの説明が終わったらしい。やべえ聞いてなかった。
「ほら、最原少年、引きたまえ!」
『ぅいっす』
やる気無さげに箱に手を突っ込んだ俺が最後だったらしく、引いたのは何も書かれていないものだった。
**
初戦の緑谷、麗日対爆豪、飯田の戦いを見てとりあえずは把握する。というか、色々と幼稚過ぎて見ていられなかった。だって実際なら絶対死んでるぞ。助かるのは飯田ぐらいなもんだ。まあまだ若いしあまちゃんの訓練だと言うことでそこは見逃すとして。敵とヒーローのペアチームに別れて戦うやつだ。核に見せかけたハリボテを時間制限まで守り抜くかヒーローに確保テープ巻いて行動不能にするかのどちらで敵チームの勝ち、その逆がヒーローチーム。
……俺だけペア居ないんだがこれははぶられているのだろうか。だとしたらさすがの俺も怒るぞ。
全てのペアチームの対戦を見届けた。途中轟とか言うのがビルを凍らせて効率よくクリアしていた。ああいう子、嫌いじゃない。
そして俺だけがまだ実践を行っていない事実が残った。じろ、とオールマイトを見つめると、「今年は奇数年だからね! 最原くん敵チームバーサス疲労の少ない轟、障子チームでやっちゃうよ!」と元気に言われた。
……まじでか。轟は所謂氷遁特化みたいなもんだ。障子は音隠れか。
……お、案外楽勝かも。一対二だけど。まあオールマイトもそこを理解しているから俺を負担の少ない敵チームにしたんだろうな。
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些か上機嫌であてがわれたビルへ入り、ふんふんと鼻唄を歌いながらもはやおもちゃと言っていいハリボテを移動させる。三階の応接間みたいなとこだ。そこに一体ぼふんと多重影分身の術で分身を出して守備を任せる。
他にもあと三人ほど分身して、その三体に翻弄と主力、そして千里眼での敵感知を担ってもらう。本体の俺は……まあ、ここは忍らしく静かに忍ぶとしようか。
『準備は万端だな』
守備の俺の分身の散の一言でばっと守備俺以外がその場から姿を消す。丁度五分経ったし、障子が入ってくるだろう。轟の氷も警戒せねばならないがあの規模をそうぽんぽん出せる筈もない。もし出来るなら火遁で迎え撃つのみだ。ミナト先生から教わった飛雷神の術と螺旋丸、カカシの雷切とかもある。不安はない。
二回部分で今まで気配や足音を消していた翻弄俺と主力俺がたたんとわざと足音を鳴らす。少なからず察知していた守備俺の気配にもうふたつ加わって混乱しているだろう。だって俺一人だしな。ふっふっふ。
隣の感知俺が片目を閉じて右目の千里眼を発動させているのを感じるに、警戒しながらゆっくりと進んでいるらしい。ハリボテのある三階を目指して。そこへ高速で飛び込む翻弄俺。主力俺も一緒だ。
感知俺の役目は終わった。自分自身にお疲れと労いの言葉をかけて消し去る。さて、下は乱戦になっているだろう。轟がビル全体を凍らさないのを見るに俺の読みは当たってたようだ。ラッキー。あ、翻弄俺がやられた。
**
轟side
『ま、【翻弄俺】ってことで残念分身でしたー。惜しいな、主力はそっちだ』
に、とムカつく笑みをたたえた最原がぼふんと消える。主力ってこたぁこっちが本体か。
桁違いの近接戦闘の上手さに舌を巻くものの、一応刃物を扱っているから手加減はされているようだ。ムカつく。障子は防戦一方なようで、俺の氷でフォローしながらもカンキンと苦無を両手で逆手に握って閃光を散らす。攻撃スピードが速くて見切れない。
「っ、なめんな」
悔し紛れに呟いた言葉と共に氷で攻撃を仕掛けると、苦無が一本運良く手から弾かれ、真上に飛んだ。
.
「障子!」
「っまかせろ!」
俺の声に反応して確保テープを手に突っ込む障子だったが、最原が避けるように飛び上がり、前転のように宙で素早く回転して先程飛ばした苦無を障子めがけて足の裏で蹴った。なんて先の読めない攻撃をしてくれやがる。
当たれば無事ではすまないだろうトップスピードの苦無を間一髪避けて頬の薄皮一枚を犠牲にした障子は距離を取った最原に、障子も距離を取って俺のもとに戻ってくる。
ぜえはあと素早い攻防のせいで息を切らす俺たちに、油断なく、それでいてどこか余裕そうに左手の苦無を右手に持ち換え、右太もものケースへ戻すと、腰に下がっていた刀に手を掛けた。鞘から少し現れた刃がきらりと光った瞬間、ゾッとする程の緊張感がその場を包む。
すると。
『捕まえた』
背後で声がした。ぱっと振り向くと俺と障子の腕に確保テープを巻いて、その端を握って笑う最原が、そこにいた。正確には、左目を閉じて、右目に螺旋状の模様を浮き上がらせ、緑に変色した姿で。
「は……?」
「え」
ぱっと倒した最原が言っていた主力の方を見ると「わりーな俺。案外強くて時間喰った」とぼふんと消えた。…俺たちが戦っていたのは、分身……?
<ヴ、敵、WIN!>
『ま、こんなもんだな。妥当妥当』
詰まったような声で俺たちヒーローチームの敗北を告げるアナウンスにそう満足げに呟いた最原は地面に突き刺さる苦無の輪に指を引っ掻け、くるくると回転させてからストンと太もものケースに片付ける。
講評だ、と言うオールマイトに従い、俺たちは釈然としないままモニタールームへと向かった。
**
満足げに戻ってきた俺にクラスメイトの視線が投げられるも、気にしないことにした。気にしたら敗けだ。
「はいっ。じゃあ今回の講評理解できた人!」
しーんと言う効果音がつきそうな静寂の中、オールマイトが「じゃあ最原少年に教えてもらおう!」と言い放つ。一気に突き刺さる視線に気まずくなりつつ『へーい』と気の抜けた返事をした。
『簡単に分かりやすく言うとなあ……。
まず、適当な場所にハリボテを置いて、影分身の術でその場を守る守備俺を作ります。そして他にも翻弄俺、主力俺、感知俺を分身します。本体の俺は捕まえるために待機します。
翻弄俺と主力俺がヒーローに向かったのを感知俺に教えてもらってそのまま翻弄と主力に好きにさせます。俺的にはここで翻弄俺がやられる予定じゃなかったから素直に相手二人を称賛な。
運良く苦無を手放せる機会が出来たからそのまま攻撃として不自然じゃない程度に地面に刺します。戦いつつ苦無が二人の背後にくるように移動します。
最後に、避雷神の術で苦無のところに気配もなく飛んできた俺が気付かれない早業でテープ巻いて終わり』
「そこはかとなく小さな子にたいしての読み聞かせをされてる気分になったよ! なんと言うか、個性あり気だな! 素晴らしい!」
『忍ですから』と額当てを親指でつつくと、あいつの個性ってなんだと言う話題になってきた。まぁそれはまたの機会に。
.
現代→テニプリ→ヒロアカ。仁王成り代わりがヒロアカに転生する。
【仁王雅臣】
ひょんなことからストーカーに殺され転生して仁王雅治に成り代わった気だるげ成人男性。前世の名前は【詩都築 雅臣】。テニプリを愛読書としていた元大手株式会社営業部部長。亭年2gげふんげふん。クールな優しい人でした。
仁王に成り代わったら『雅治』ではなく『雅臣』。仁王はわりと好きなキャラクターだったのでまぁ成ったもんは仕方ねえ(目ぇキラキラ)頑張るぜよひゃふーとわりと乗り気だったノリのいい精神年齢おっさん。雰囲気と見た目がとてもえろいと評判だった。
またもやストーカーに殺され転生する。名前は仁王雅臣から変わらず。相変わらずえろい。仁王語が取れない、むしろ標準語が喋れなくなった。容姿はまんま仁王。
個性『詐欺師(ペテンシ)』…相手に変身出来て個性も使える。個性のみも使用化。なりきりや変声は個性ではなく自前じゃないと出来ない。物間残念。
**
よく聞け諸君。
20うん年生きたあと、そのあとも20うん年生きて、そしてまた何やら新しい生が始まってしまったようだ。どういうことだ。わけわかめ。
どうも、仁王雅臣じゃよー。まーくんじゃよー。脳内でくらい普通に喋らせてくれ俺。仁王語の意味はいまだよくわかってねーよそれがどうしたなに言ってんだ俺はもちつけ落ち着け。最近またストーカーに殺されたかと思ったら再び転生してたんだよね、あれか、あれかな、ペット死んじゃった悲しい新しい子飼おうみたいな。ねえ誰か俺の言ってることを翻訳してくれる人はいないか、俺ですらなに言ってんだろうと思ったぜ。
そんなわけで既に四年。過ごして分かったことはこの世は超常で溢れかえってしまったと言うことだけだっ!(拳ダァンッ)
……あれ、よくよく考えれば超常は前世からあったような。五感奪ったり雷速だったりデータだったり飛んだり跳ねたりスケスケだったりネット燃えたり。あれ?
まぁ、そんなことぁどうでもいいんだよ(ムーミン谷の彗星の時に出てきた学者風に)。
ヒーローって、なに? いや知ってるよ? 知っとるわそれくらいバカにすんなコルァ。あれだろ、人助けて金もらって女とワンナイトラブ!(厨病激発ボーイ的に)だろ? あれ? 違う? じゃあ正義の味方的な。なら敵の味方はヒーローなの? え、それもヒーロー? その前にヒーローってなに? あれ? そして冒頭に戻る。誰か俺に会話軌道修正力を貸してしてくれる人はいないか。いないな。
まあ、冗談はさておき。個性とか言う馬鹿げた超能力的それを使って犯罪犯す馬鹿どもを止めるためにヒーローと言う職業が現実になった。人気出過ぎて半ば世論に押されるように公務員の一種にされたヒーローは人々から地位と名声をもらえるようになった。らしい。給料も税金か。楽な商売だなあ。
幼稚園にて絵本を読みながら「オレオールマイト役なー!」と元気にヒーローごっこする四歳児は先日個性を発現させた子だ。それを微笑ましく眺めながら、子供と遊ばない俺を困ったように見つめる(なぜかとても熱視線)若い保育士にへらっと笑みを向けた。俺はまだ四歳だぞ。履き違えるなよ先生、と言うか犯罪だけはホント勘弁な? ショタコンってレベルじゃねーからな? な? やめよ? こっちこんといて。
まぁとりあえず、ヒロアカに転生したってことだけはよく分かったぜ!ドヤァ
え、マジか。
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たけのこの山ときのこの里、お前らどっち派? まーくんはたけのこ派です。あれ、たけのこの里ときのこの山だっけ。まぁどちらでも良いか。
どうも、仁王雅臣だ。
先日ついに個性が発現し、『詐欺師』が個性だと診断された。人に変身して変身した人の個性使えるとか変装できてチートじゃんとか思ってたけど変声機能はついてませんでした。別に良いし! 俺変声得意だし良いし!
いらん強がりを見せつつも、俺が一応主人公世代だと言うことは判明した。判明、してしまったのだ……!
はい。同じクラスに八百万がいました。めっちゃ可愛い。ポニテボリューミーだな、ぼよんぼよんしそう。うわやべ俺のロリコン! 消えろ! 変態! とか思ったけど俺今園児だし合法合法うへへへやべえな俺。まぁ多分同年代の女の子になんてこの先一生食指など動かんだろうがな。精神的になんか悪いことしてる気分になるのよ、俺が。うん、俺がね……こんなでも中身軽く50歳行ってるからさ……察してよ。
そして俺、モテ始めました。いやね、今まで遠巻きに女の子が「雅臣くんかっこいいよねえ」「うんかっこいい」と話してるのは聞こえていた。まぁ当然だろう、あのテニプリの、ただでさえ顔面偏差値の高い奴等が蔓延る立海で幸村と互角だった仁王だぞ(一応自分の大人っぽい態度にも理由はあるが気付かない)。イケメンに決まってんだろ、うちの雅治なめんな。
まぁ大変じゃよ!
「雅臣くん! あーそーぼー!」
『俺今本読んどる』
「やだ! 雅臣くんは私たちとおままごとするの!」
「なあ、俺今本」
「私たちもおままごとなの! 旦那さん役してもらうの!」
「ずるい!」
「なによ!」
『……』
これは本当に四歳女児の行う喧嘩か。背景に虎と龍が見えるわ。こわっ。気付かない二人に『プリッ』とだけ一言残し、そそくさと八百万のところへと避難した。
「雅臣くん、どうなちゃったの?」
『(どうなちゃったのとか可愛いなおい)……本ナリ、あっちはうるさくて読めん』
「じゃあ一緒にどうぞ!」
『八百万……!』
なんだこの子いい子すぎる。ダメだこの子にロリコンを近づけてはいけない。……ハッ、と言うことは俺も…いやいやないない俺ロリコンチガウヨー。
.
とか思ってた時期もありました。ええありましたとも。現在小学校高学年の俺、めっちゃ女子に告られてます。
「好きです仁王くん!」
『すまんの』
「仁王くん! 付き合ってください!」
『そういうん今俺興味無いんじゃ』
「好きなの付き合ってお願い雅臣!」
「お引き取りください頼むから」
以上、今日の朝休み、昼休み、放課後の出来事である。おかしくね? 今世の小学生ませすぎじゃね? 一週間に九回から十二回とかふざけてね? テニプリ界でも小学生では全くなかったよ!? なあ! 確かに中学に入ってからは多々あったけど本当に勇気のある子ばっかだったしね。こんな軽率なやつじゃねーよ!
『俺多分高校入っても女子と付き合わんナリ……女子軽率過ぎるじゃろ、怖い』
「大変ですわね……」
帰り道。なんか幼馴染み的位置にいた八百万に『女子怖い八百万以外信じられん』とランドセルを背負い直す。ランドセルだぞ。ランドセルしょってんだぞ。小学生がこんなに悟ってんだぞいい加減にしろ。
うむむと真剣に悩んでくれてる八百万が可愛すぎて辛い。もう俺八百万と結婚したい。アウトだ。誰か俺を取り押さえろ。俺はMじゃねーよ!!! どうした俺。錯乱している。落ち着け、ひっひっふー違うこれは違う。今せにゃならんのは深呼吸だ。もちつけ俺。
「もう雅臣さんが片っ端から振るしかないのでは?」
『精神的ダメージが発生するぜよ』
あれ言われて振る方も疲れんだぞ。いい加減にしろ。何回目これ。
「ところで雅臣さん」
『なんじゃ』
八百万の急な話題転換に目をぱちくりさせて彼女を見下ろせば、「高校はどうなさいますの」と五年ほど先のことを問いかけてきおった。この子なかなかやりおる。浪速のスピードスター並みじゃ。あっぱれ。
『プリッ』
「誤魔化さないでくださいっ!」
『ピヨッ』
「雅臣さん!」
『プッピーナ』
「もう!」
『プピナッチョ』
実際仁王語は本人である俺でも理解できてないんだよなあ。雅治や、お前はどうしてこんな言葉を作ったの。俺がこれ以外喋れなくなったんだが。
正直変人扱いされてて困ってんだよなあ
.
はてさて時は凄まじいほど素早く過ぎて。現在中学三年の受験シーズン、俺、雄英受けま……せん、て言おうとしたら既に八百万が俺の両親と共謀して第一志望雄英ヒーロー科で出してくれてやがった。頼んでねーよ!
『なんてことしてくれたんじゃ八百万おまんは』
「えっ、雅臣さんが仰ったのでは?」
『プリッ。今の一言で理解したナリ。犯人は母さんぜよ』
あのババア純粋な八百万を言いくるめやがったな。
中学校から帰宅してリビングに殴り込みに行くと既に母は対策済みだったよう。姉貴にアッパーを食らった。弟におもきし回し蹴りを食らわされた。なんだこれ。姉と弟の板挟みとかなんだこれ悲しっ。姉貴はともかく弟は可愛がってやった記憶しかないのに。手のひらから蛙の玩具わさっとかお茶とめんつゆ入れ換えたりとか。よく考えたら嫌われるようなことばっかしてたわ。すまん弟よ。
姉貴に関してはこんな美形をパシリに使いやがる。くそっ、これが姉を持つ弟の宿命かそうなのか嫌だわー。
**
そして終わる実技試験。描写がない? たりめーだろ。書く必要性が見当たらん。俺受かるに決まってんだろ一般入試だぞ勉強元刑事で中学校三回も通ってりゃ暗記できるわ。実技試験に関しては爆発太郎(笑)くんが同じ会場だったから個性だけ詐欺らせていただいた。姿まで同じにしたらドッペルゲンガーとか言われそう。俺は俺だ!
八百万に関してはアイツ推薦で受かったからな。アイツマジ天才。なんだこの劣等感。幸村とか手塚に抱いたのと似てるわ。嫉妬だわごめん女子相手に嫉妬だわみっともねー!
.
色化戦会の赤団所属な騎士くんが今でもずっと片想いしてる亡くなった幼馴染みが実は転生トリップしてずっと騎士くんに片想いする話。in nrt。
『紅風 栞』
「ほら、栞、こっち来や」
はにかみながら私の名前を呼んでくれる彼の声が大好きだった。ちゃんと名前を呼んでくれるのは私だけの特権だった。普段黙ってると怖がられる気さくな彼の笑顔が大好きだった。彼がはにかむのは私だけだった。彼は閉鎖的だった。それでも良かった。私だけは受け入れてくれていた。そんな彼を愛していた。
彼の誕生日、家に押し入った殺人犯から彼は私を庇って左目を失った。そこまでは覚えてる。そこから激痛しかないけれど。私はきっと死んでしまったのだろう。彼が庇ってくれたのに死んでしまった私は一体どうしたらいいの。
転生して早五年。なんか忍者とか里とか、訳がわからなかったけど興味がなかった。あの人が居ない。生まれたときから天涯孤独だった私は何やら血継限界なんてものを持ってるみたいだったけど、どうでも良かった。
はたけカカシさんに引き取られた。興味が沸かない。凄腕の忍者だとしてもどうでもいい。
騎士 錺が居ない。
ざっくんが居ない。今世は両親も居ない。私はあの人との思い出にすがりつくしかないのだ。
ざっくんが居ない。私は世界に絶望した。
「あ、おはよう栞」
『はたけさん、おはようございます!』
今起きてきた彼に笑みを向けてご飯出来てますよと席につく。
いつしか私は社交的で内向的になった。ざっくんは私のいない世界じゃ、きっと私と同じように絶望しているだろう。彼が生きてると仮定して親まで死んだのだ。それでも、強くてかっこいい彼は前を見て進んでいくはず。親友とか作って、私のことは忘れずに、死ぬまで愛してくれて、そして明るい道へ進んでいくのだろう。
私はそんな風にはなれない。ざっくんが私の世界の全てだった。私の全部だったのだ。
悲しそうなはたけさんは見ないふりして、私は前の世界で頑張って生きているだろう彼のために生きていく。
あぁ、今日はアカデミーの卒業試験だったっけ。
『卒業試験、行ってきますね!』
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早五年と思っていたものの、ずいぶんと時間が経っていたようだ。興味がない。
現在下忍試験での自己紹介のタイミング。卒業試験なんて楽勝で合格した。ざっくんはもっと楽に行けたはず。私はうずまき、うちは、春野と同じ第七班に配属され、担当上忍ははたけさんだった。
自己紹介でラーメンの話しかしなかったり復讐だのなんだの喚いてたり幼稚な色恋に現を抜かしたり。この子たちは忍なめてる。10年ばかり精神年齢が上だからか、この子たちがとても子供に見えてしまう。
「はいじゃあ最後」
『はーい! 紅風栞です! 好きなものはざっくんの存在全てとざっくんの好きなもの。嫌いなものはざっくんの嫌いなもの、ざっくんの左目を奪った人、ざっくんを不幸にする人です!』
私が元気よくそういうとざっくんって誰? と言う雰囲気が出る。はたけさんはまたか、と言うように眉間にシワを寄せた。知らないでしょう? 妄言だと思うのでしょう? 親がいない私が作り出した妄想だと思うのでしょう? 勝手に思ってて。ざっくんは私の全てなんだから誰にも教える気なんてない。ただ、侮辱するのは許さない。ざっくんって誰? と春野に聞かれて、『ざっくんはざっくんだよ』と笑顔で返す。仕方ない、ざっくんは私の全てであり生きる理由なのだから、ざっくんはざっくんなのだ。
嘲るような顔をして口を開こうとしたうちはを喋らさないように、私は続ける。
『最後に一言! ざっくんを侮辱する人は許しません! よって馬鹿にしないこと! 一秒でも侮辱しないこと!
喉笛を掻き切ります首を飛ばします手足をもいで達磨にします心臓を一突きします爪を剥がします関節に釘を打ち込みます目玉をくり貫きます死より苦しい想いをさせます泣いても許しません許しを請うても許しません後悔しても許しません死んだって許しません誉めたって今更許しません金を積まれても許しません末代先まで許しません謝ったって許しません。絶対絶対絶対絶対絶対絶対一生許しません』
笑顔で言い切ってハイライトのない目でうちはを見ると目を逸らされた。後ろのはたけさんは目を遠くしてるけどきっと気のせい。
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GAN☆KONの能登 桜成り代わりがMHAに転生する話。個性『代行者【守】』。前々世、前世の記憶持ち。願術捏造とか。紙風船とかあったような、目玉風船だったっけ。能登くんは案山子のインパクトが強すぎる。あとバンダナの似合うイケメン。一度で良いからカラーで写って欲しかった。
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農家な実家を半ば放り出されるように出て、現在都会で一人暮らしを始めた俺、能登桜。
訳あって現代で死んだあと転生してサンデーで連載していた全5巻な高校に入学して三ヶ月で女子20人にフラれたという伝説を作ったらしい彼女どころか嫁が欲しいと神社宣った恋多きアホ(主人公・多賀守新太(黙ってるとわりとイケメン))とその「嫁が欲しい」と言う願いを「おめぇが欲しい」とアホな聞き間違いして願いを叶えるべく自ら彼に嫁ぎに行ったアホ神(縁結びの神・イサナ)のギャグラブコメディになんか稲荷組の六幹部の『土地神・クエビコ』の代行者『能登 桜(のと さくら)』と言う主人公の一つ年上の畑作業で鍛えたらしい異常な身体能力を持つ高校中退して実家の農家手伝ってた田舎好青年に成り代わっていた俺はどうやらまた転生したようだ。今回死んだ覚えねーけどな。どういうこと。
それにしても、今世も俺は能登くんなのか。相変わらず卓越した身体能力と運動神経だなと感心する。……能登くんかあ。いやまあ尋常じゃないぐらい爽やかイケメンだから文句ねぇけどさ。現代能登くんの「〜っす!」と言う常に相手を敬う態度は俺にはどうしても取れないのだよ。なのだよ。緑間じゃねーよ。
見ての通りの乱暴口調だ。許してくれ能登くん。今の俺も能登だった。めちゃクソややこしいな……。
「もうすぐ学校につくぞ、能登」
『ん』
そしてこの隣で移動式椅子に座ってるのが俺が今世も代行させてもらっている神様『クエビコ』だ。俺が自転車で疾走する横で椅子に座りながら追い付いてんの見るとなんかすげえムカつく。クエビコさんムカつく。
個性。なんかもうこの世界ではそんなあり得ない超常が日常になっているヤバイ。もうヒロアカじゃねーかよ! 俺の個性『代行者【守】』で首からだっさい代行証下げてるし。なんだ、他もいるとか言うつもりか。なんだ「守」って。そこに嫁入れたらあの年中発情主人公じゃねーかざけんな。
「能登は雄英の一年A組だったか」
『おう』
クエビコさんを伴ってバカみたいにでかい扉を開けると爆豪と飯田が机に足を乗せるな論争していた。原作ぴったりじゃねーの!
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前に正味のどこかで書いた気がするナルトのお話。
カカシ♀の娘のカカリちゃんが記憶無しでテニプリに転生してたら。名字は訳あって『畑』。相変わらずお相手は木の葉丸(記憶なし)くん。同年設定。
ほのぼのなので時系列バラバラ。
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私、畑カカリはこの度大阪に引っ越しまして、この春から四天宝寺中学に入学することになりました。
なんでも父が大阪のわりと大きな家の人らしく、祖父である当主に呼び戻されたみたい。でも、単身赴任なんてさみしいし許さない! な母が断固として着いていく姿勢を貫いたので東京からこちらにやって来た訳です。お母さんがお父さんのこと好きすぎて驚いたよ。私もお父さんと離れるなんて嫌だけどさ。
私としては幼馴染みの木の葉丸くんと離れてしまったからちょっと不服なのだけど。いいもん、次会うときはお母さんみたいに胸も大きくなってきれいになって木の葉丸くんに会うもん。まぁケータイあるから電話出来るけど。
クラス表を覗いて教室に足を運ぶ。周りは関西弁の子ばかりであまり馴染めそうにもないけど頑張る。
そう息巻いて席につけば早速隣の席の女の子が話しかけてくれて『あれこれ苦労しないでも大丈夫かも』と思った私であった。
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仲良くなって友達になれた女の子や男の子たちをよくよく見れば男女の壁なんてないかのようにわいわい賑やかなので大阪はこれが普通なのかと安心して早一ヶ月。正直言ってとても楽しい。
席替えをした最近は前の席の忍足くんと仲良くなったからか、隣のクラスの白石くんが話しかけに来てくれる。なんでも二人ともテニス部なんだとか。そう言えば四天宝寺はテニス部が強いんやでーってみほちゃんも言ってたなあ。
今日も今日とてやって来た白石くんが忍足くんを押し退けて私に「お、おお、おはよう畑さん!」と声をかけてくれる。優しいなあ。
『うん、おはよう』
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白石side
今日も今日とて眠そうな目でへにゃ、と笑う彼女は清涼剤のようだ。超可愛い。
たまたま謙也と話しているところを見掛けたのが切っ掛けだ。正直言って一目惚れだった訳で。
『へえ、忍足くんの従兄弟くんも東京にいるんだねぇ! 私の幼馴染みも東京にいるんだよー』
「そうなんやな、もしかしたらそっちはそっちで知り合いかもしれんな!」
『そうだね!』
ふわふわした雰囲気の彼女は最早天使とみまごうても不思議ではないほど可愛い。
昼休み、畑さんがトイレに出ていった隙に謙也にそう語るとめっちゃ変な顔をされた。
「……確かにカカリはかわええけど……流石に白石の主観が入りすぎとちゃう?」
「いーや絶対天使や、女神が産み落とした天使なんや」
「ごめん白石引くわ」
「引くなや!」
「いででででで! 足! 足踏むな! ボケ! いででで!」
ドン引きしたような顔をする謙也の足をぎゅりぎゅりと踏みつけて睨み付ける。彼女は天使以外にあり得ないのである。
『ただいま……ってあれ、忍足くん泣いてるの?』
「聞いてくれカカリ! しらいふむぐっ」
「謙也が机に膝ぶつけたみたいでなー、だっさいやろ?」
『え、と……ダサくはないけど……大丈夫?』
「大丈夫やろ、謙也やし」
「俺やから大丈夫ってどういう意味や白石!」
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財前転生inWT
財前光が記憶を持たずにワートリに転生する話。年齢操作&捏造過多。
財前 光:18歳
B級ソロスナイパーでイーグレットのポイントは10985。
両耳に計5個の通常五輪ピアスをつけた目付きの鋭いイケメン。ボーダー内に一定数のファンが存在するがほぼ興味なし。
荒船らと同い年で影浦と同期。18歳組とはよく絡む。
大阪から大規模侵攻前に三門市に引っ越してきた関西人。毒舌が過ぎる。年上にも物怖じしない。
隊への勧誘はほぼ断っており協調性がないためと予測される。めんどくさがりであんまり真面目に訓練しない。誘われたらランク戦やる程度。初訓練からセンスのみで的の中央を撃ち抜いた天才型。