荒らし、誹謗中傷はやめてください。
遂に、二次創作板にまで上陸した。
最近、なんだか創作意欲が起こらず、メモ板に書き続けるのも場違いだな、と思ったのでつい。
水滸伝はまだまだ詳しいとは言えませんが、もっと原作(流石に中国語では無理;)を読み込み、向上に努めます。
北方版「水滸伝」も含みます。
いや、原作への冒涜にあたることだけは避けているつもりですが、万が一そのような描写を見かけたらどうかご指摘をお願いします。
そして今日はなぜか日常の色々なことに対してやる気がなくなってしまったので、一日中暇にします。
よし、書くぞ!
感想、御指摘など大歓迎です。
それでは、よろしくお願いします。
1 天雄星
風が吹き抜けた。
きっと、気のせいであろう。ここは地下牢なのだから。真っ暗で、四方を壁に囲まれている牢獄である。耳を澄ませど何も聞こえず、ただ自分の鼓動が身体の内側から響くのみであった。
林冲は目を開いた。どのくらいの間、その目を閉じていたのだろう。あの地獄のような出来事から、幾月幾日の時がたったのだろう。自問したが答えは出ない。
林冲は、じっと耐えていた。
何も見たくない。これ程腐りきった、世の中のものなど。
いっそのこと、何もかも話してしまえば楽になるのかもしれない。だが、拷問に屈してはならない。自分が一言も口をきかず押し黙っているだけで、少しの時間は稼げる。
それはあの方のために、あの方の志のために。それだけが、今自分がこうして生きながらえている意味なのだ。
林冲は何度も自分に言い聞かせていたことを、改めて心で呟き、再びその目を閉じた。
『あなた』
頭の中に響く声。
『必ず、戻ってきてくださいね。...私は待っておりますから』
刑吏らに取り押さえられた自分に向かって、彼女は涙を流しながらも、どうにか笑顔を保ってそう言った。
約束する。戻る。必ず。
林冲はその時彼女を見つめ、言ったのだ。
『お前の妻は』
別の声がする。この声は、自分を陥れ、このような目に合わせた張本人のものだ。そう、高俅である。
あの男は、今も時々拷問の最中などに現れる。満足そうな顔で笑っている。そして、先日林冲にこう言った。
『お前の妻は、昨日自刎したぞ』
あの時、林冲は高俅に飛びかかり、その喉元に噛み付いた。喰いちぎってやろうと思ったが、すぐに刑吏に引き剥がされ、棒でこれでもかというほど殴られた。高俅は林冲に何度も罵声を浴びせていた。その目の奥には恐怖があった。
『あなた』
また彼女の声。妻だ。妻は、自分を呼んでいたのだ。
すまない。
心で林冲は呟いた。
すまない。もう、忘れるのだ。お前の顔も、声も、すべて。私は、お前のことを忘れることにしたのだ。
許してくれ。
林冲は固く目を瞑る。
涙は、出なかった。涙さえも出なかった。
「豹子頭」林冲。後に、梁山泊の英雄となる男である。
2 天傷星
「気が済んだか」
背後で砂利を踏む音がする。武松は座り込み、胡座をかいたままだ。振り返らなかった。
「うるさい」
声の主を避けるように俯くと、嫌でも虎の死骸が視界に入ってくる。
「極限状態になると、人間でも虎と渡り合えるものなのだな」
背後の男が言った。武松はもう答えなかった。
この虎は、武松が倒した。だがその実感はない。虎が草むらから姿を現し、唸りながらこちらに飛びかかってきたところまでは覚えている。ところが、ふと気が付くと虎は動かなくなっていて、自分の両手は血まみれだった。
虎との戦闘の記憶は全くない。
その間は、心でひたすらあの名を叫んでいた。
名前...誰のだ。
いや、そんなものは決まっている。
「お前、潘金蓮を殺めたな。お前の兄は今朝首を括ったぞ」
男が呟くように言った。
「兄嫁、金蓮への想いを抑えきれなかったか。その気持ちが暴走し、遂にこのような大罪を犯してしまったのだな。虎まで殺せるほどに」
「兄も義姉さんも、殺めるつもりなどなかった。俺は、ただ」
金蓮を、愛したかった。
その言葉は声にはならず、代わりに涙が一筋武松の頬を流れた。
ふう、と男が息をつく。
「まあ、どう言い訳しようとお前の勝手だ。間違いなく、極刑だろうからな」
どうでも良かった。
「元々、死ぬつもりでこいつに立ち向かったのさ」
地に横たわる死体をちらりと見、武松は言った。
今こうして生きていることが不思議なくらいなのだ。こんな身一つがどうなろうと、もうどうでも良い。
「おい、よく見たらお前、武器一つ持っていないではないか。素手でこの虎を倒したのか?」
男が横に回り込んできた。黙って顔を背け、頷く。しばらく沈黙が続いた。
金蓮が、好きだった。
いつも自分の中にあるその気持ちから目を背けていた。許されないことだと。あってはならないことだと。
苦しかった。これまでずっと、耐えてきた。
それなのに。
『松ちゃん』
自分を呼ぶ彼女の声が、今も聞こえる気がする。
俺が、兄さんと金蓮を殺した。幸福の中にあった、なんの罪もない二人を。
心で呟く。
時々顔を出すと、兄夫婦はいつも温かい笑顔で武松を迎えてくれた。
もう、二度と彼らの笑顔を見ることは出来ない。
「あんた、俺を殺してくれないか」
武松は男に言った。
「自分で死にたいところなのだが、この通りあいにく獲物を持っていない。それに俺は殺されて当然の屑だ。屑は屑らしく役人共に捕まって処刑されるのもいいが、俺は一刻も早く兄や義姉さんに謝りたいんでね。許してもらえるなど、思ってもいないが」
他人にそう頼んでみると自然、自嘲気味な笑いが漏れる。男は何も言わない。