私用

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1:大豆 イチマツ×カラマツ:2019/10/08(火) 18:09 ID:J9s

個人で小説を打ち込む私用。

2:大豆:2019/10/08(火) 18:12 ID:J9s

なのですごい途中からだしお勧めしない。

3:大豆 イチカラ:2019/10/08(火) 18:54 ID:J9s


「そういうわけじゃない、けど……」

二本足で海の中に立つのは、なんだか違和感がすごい。だが、彼はそんな俺には気づかなかったらしく、「浮ける?」と聞いてくれた。本当に俺に一から教えてくれるようだ。俺の中で、早めに帰るという選択肢が消失する。
「さすがに浮くことくらいできるぞ」と、俺は水面にうつぶせになった。パチリと目を開いても目に海水が沁みたりはしないし、陸よりもはっきり見える。まぁ、人間はそんなことはないのだろうが。またひとつ人間との違いを見つけてしまった。悲しい気持ちになる。

「ん、浮くことは普通にできるのか。なら何がだめなんだろ」

俺の横に立ったままの彼が呟く。おもわずなんでだろうな、と返事しかけ、口の中に水が入ったことで顔は海に浸かったままであることを思い出した。いつもは口の中に水が入ろうとしゃべっていられるので、危うく声を出しそうになる。人は口の中に水が入りながらも話すことはできるのだろうか。なにもかもがわからない俺は、下手なことはすまいと顔を上げ、立ち上がった。足の裏にジャリ、と砂が触れる。

「足の動かし方かな。どうやって泳ぐかはわかる?」
「こう……上下にぐわーって」
「うん、普通はバタ足って言うんだけど」

失敗してしまっただろうかと俺の顔が青くなるが、暗闇に俺の顔色は隠れたらしい。バタ足やってみよう、と彼が提案する。俺はとりあえず頷き、もう一度体を海に浮かせた。

「はいそのまま足に力入れてー」

息を止めながら海の中を見る。エラ呼吸とか肺呼吸とか、難しいことは一切わからないのだが、人魚はそのどちらもすることができるらしい。便利だが、不思議な生き物だと我ながら思う。
だが人間は肺呼吸しかできないようだ。思わず息を吐き出したりしないよう、心に留めた。

言われた通りに足に力を入れると、なぜか男に吹き出された。いったいどこに笑う要素があったんだ、と一周回って疑問に思う。この男に対し腹を立てることはどこまでも不毛だと理解していたからだが。

「そんなに力まなくていいの。もうちょっとだけ力抜いて。ガチガチになってる」

笑い声とともに俺の頭上から降ってきたアドバイスは、なるほど、どうやら俺が力を入れすぎていたことに起因するようだった。でもちょっと抜くって言ったってどうやって、と俺は思う。そんなに人間の足に慣れているわけじゃないのに!
…………なんてことはもちろん言えるわけがないので、とりあえず言われたとおり力を抜いた。自分でも抜きすぎではないかと思うほどに足がぐにゃぐにゃになったが、さっきよりはよっぽどよかったらしい。男が俺の足を掴み、「今から動かすから。覚えてよ」と声をかけてきた。
俺はそれに頷きつつ、そろそろ息が続かなくなる頃だろうかと背筋を使い顔を水面から出し、二酸化炭素を吐き出し酸素を吸う。
その際、しなった背中を男がどのような感情で見ていたのかはわからなかった。

「こうやって動かすの。分かる?」

また顔を水面につけると、男が俺の足を上下に動かした。動かすたびに飛び散る雫が、俺の背中に雨のようにポツポツとあたった。そのまま何十秒かに一回のペースで酸素を取り込んでいれば、男が砂の上を歩き出す。正確には泳いでいるわけではないのだが、疑似体験をしているような感じだ。初めて人間の姿で泳いでいるようなその感覚に、俺の胸は簡単に高鳴った。

何分、いや、何十分そうしていたのだろう。俺の背筋と足がくたくたに疲れ果て、男も疲れきったところでようやく俺たちは海から出た。ともすれば震えてしまいそうなほどに酷使された足は、俺には幸福でしかない。
疲れてしまうほどになにかをしたことなど、人間の足ではできたことがなかったから。

4:大豆 イチカラ:2019/10/08(火) 18:56 ID:J9s

今日分

5:大豆 イチカラ:2019/10/09(水) 18:51 ID:J9s


「ふは、疲れたな」
「疲れたのに何笑ってんの」
「いや、初めて泳げたから」

大げさだねと彼は笑う。多少は嘘だけれど、初めて泳げたというのも嬉しさの中にあるから、いいじゃないかと思う。
砂の上に寝転んで体を癒していると、水平線の向こうからジワリジワリと光が漏れてきた。そろそろ本格的にまずい。このままいれば、俺の体はきれいに干からびてしまうだろう。
でもここから立ち去ったら、もうこの男とは会えなくなってしまうのだろう。それが何故かひどく悲しいことのように思う。
そんなことを思っていると彼はパタパタと服をはたき始めた。どうやら付いていた砂を払っているらしい。

「帰るのか?」
「うん」

なぜ寂しく思ってしまうのだろうと首を傾げていると、彼が俺に「ここら辺に住んでんの?」と尋ねてきた。なぜ尋ねられたのかはわからないが、「この辺りに住んでるぞ」と正直に答えた。
ならさ、と男が続けた言葉は、俺がどこかで待ち望んでいたのだろう。

「明日もさ、練習しようよ」

少し落ち込んでいた気分が、一瞬で浮上した。顔が勝手に笑顔になり、出会ったときのように元気よく「うん!」と返事してしまう。
人間とあまり関わらないほうがいいと言われた事など、最早どうでもよくなっていた。

「じゃっじゃあな!俺からもお願いがあるんだ!!」

思わず裏返ってしまった声に、不思議そうに男は目を瞬かせ、「どうしたの」と尋ねてくれる。

「俺のこと、『カラ松』って名前で呼んでほしいし、君の名前も教えてほしい!」

じっと目を覗き込みながらそう言えば、彼はふい、と顔を逸らし、「それが名前なの」と言ってくる。もしかすると馴れ馴れしかったかもしれない。少し不安に思いながらも、「そうだぞ」と返事すれば、「オレは一松だから」と返事してくれた。
少しポカンとして、それが名前を教えてほしいという質問に対する答えであることに気がついた。もう一度笑顔になって、「ばいばい一松!!」と手を振る。
一松もくすりと笑って、「ばいばい」と手を振った。そしてそのまま街の方へと歩いて去っていく。俺はその後ろ姿が見えなくなるまで見送って、日の光に照らされ乾き始めた足を海に浸す。目を瞑り、二本足からヒレに戻るように想像する。そのまま、トプリと頭まで水に浸かった。
二本足よりよっぽど泳ぎやすい体で、俺の住む家へと戻る。それでも彼と―――一松と練習したほうが楽しかったのは何故か。

6:大豆:2019/10/09(水) 18:51 ID:J9s

今日分

7:大豆 カラカラ:2019/10/09(水) 18:59 ID:J9s

誰もついてきていないことを確認しながら、俺は目的地までの道を歩く。
そこにはすぐついた。まぁ、元々近いところに住んでいるので当たり前だが。

「おじゃましまーす」

そう声をかけながらドアを開け、中に入る。数秒待った後に、パン一のおじさん……もといデカパン博士が奥から出てきた。

「ホエホエ、カラ松くんダスね。また来たダスか?」
「め、迷惑だっただろうか……」
「そういうわけではないダス!ただ少し気になることがあっただけダス!」
「そうか?」

いったい何が気になるのだろうと首を傾けて考えてみても、何もわからなかったので諦めた。深く考えることは苦手なのだ。
いつもの部屋に入り、いつもの薬を渡されて、それを水とともに飲みこむ。急激に襲い来る眠気に抗うことなく横になり、目を閉じた。

パチリと目が覚める。通いつめたせいで見慣れた天井が目に飛び込んできた。

「おはよう、カラ松」

待ち望んだその声に、俺は顔をほころばせる。そのまま左を向けば、俺と同じ顔が目に入った。

8:大豆 カラカラ:2019/10/09(水) 20:59 ID:J9s

いや、違う。俺と同じ顔の、別人!!
俺は体を起こし、ベッドの横に立っていた黒に抱きつく。

「黒だ!」
「ん、黒だぞ。昨日カーラに聞かなかったのか?」
「ちゃんと聞いたけど、一昨日会ったばかりだから無理かなと思ってた」
「本当にカラ松は俺が好きだな」

チュ、とおでこにキスされた。イタリア人だったらしい黒は、そんな気障な行動を容易くしてくる。それが抜群に似合うのだから悔しい。照れ隠しのように、俺は全員好きだ!と黒に返事した。
そう言った途端顔を不服そうに歪めるのだから、かわいいものだ。

「みんな、じゃなくて唯一にしてほしいものだな」
「黒にはヒラさんがいるだろ。ヤキモチか?かわいいな」
「おいこら」

ピンッ、とおでこにデコピンされる。思わず額を押さえた俺を見て、黒は「俺に妬かせるなんて百年早いな」とにっこり微笑んだ。その笑顔すらもひどくかっこよくて、結局ドキドキさせられてしまった。ついでに、「ヒラさんとカラ松は別物だからな」と言われる。何が違うのだろうか。謎である。少なくとも顔と声は一緒なのに。

「今日は何の話をしようか」

俺が乗っているベッドに黒は腰かけ、俺のすぐ横に座った。一揆に縮まった距離に肩を跳ねさせれば、「かわいいな」と頭を撫でられる。その手つきが心地よくて、頬が緩む。黒の手からは何か出ているのかもしれない。

「えっとな、俺、からあげがつくれるようになったんだ」
「からあげをか?すごいじゃないか。それは美味しく?」
「ひどいぞ!俺が美味しくないからあげをつくると思うのか?」
「からかっただけだ。そう気を悪くするなよMia principessa」

9:大豆 カラカラ:2019/10/09(水) 20:59 ID:J9s

今日分

10:大豆 カラカラ:2019/10/11(金) 18:47 ID:J9s

ワンライ用

「庭師〜今日の朝ごはんもデリシャスだぜぇ〜!」
「主にそう言ってもらえるから作りがいがあるんですよ!主のおかげです」
「庭師の作る料理にはどんな三ツ星レストランのフルコースも適わないな」
「はいはい、お世辞でも嬉しいですよ」

トーストに齧り付けば、小気味好い音ともに口の中にバターの風味が広がる。美味しいトーストを焼くためにと一手間かけられた食パンは、外側はこんがりと焼かれており、中は白くふわふわだ。こういうところにこいつの優しさが表れるよな、と俺はトーストを咀嚼する。早朝、いきなり朝ごはんを作ってくれと突撃してきた俺にも丁寧に作ってくれるのだ。それだけ親しくなれたのかもな、と思うと自然に頬が緩む。
これまた庭師がいれてくれたコーヒーを飲み干しつつ、隙あらば俺のトーストを盗もうとするバスローブを軽くかわしながら、胸ポケットの銃がしっかり入っていることを感じた。
この、のほほんとした雰囲気の中には全くそぐわない重さと空気。これが入っていなければそれはそれで問題なのだが、これがあるからこそ俺はマフィアをどこにいても捨てられないとも言えるのだ。

ここを守るために俺はいるわけだが、俺がいることでここに更なる危険を招いているのではないだろうか。

俺がいないほうが、庭師は幸せなのかもしれない。




「…………と俺は思うんだが、俺がいない間にここに誰か来たりはしてないよな?
バスローブ」

俺の向かいに机を挟んで座る白色にそう問えば、顔を思い切り歪められた。なんでだ、と正直思う。庭師を取り合う恋敵として嫌われているのは十も承知だが、だからこそ今の話はバスローブにとって都合のいいものではないのか。柄にもなくセンチメンタルな気分になってしまったというのに、それを聞いていたバスローブの顔がこの上なくしかめられているのだからシリアスになりきらない。
だがバスローブは顔を元に戻すことなく、

11:大豆 カラカラ:2019/10/11(金) 18:47 ID:J9s

今日分

12:大豆 カラカラ:2019/10/12(土) 08:31 ID:J9s

挙句の果てにため息までつく始末だ。いまいち意味のわからないやつである。

「なんか……思ってたより馬鹿なんだな君は」
「えっ」

ジトリと俺を睨んだバスローブはいきなりそんな暴言を吐いたかと思うと机のうえに突っ伏した。確実にコイツには言われたくない言葉だが、そう言われてしまうようなことだっただろうか。

「俺は馬鹿じゃないだろうが」
「馬鹿だな。特大級の馬鹿だ」
「おい」

俺が何も言わないのをいいことに、コイツは散々罵ってきた。わざわざ街への買い物を庭師に頼み、相談したのに。使えないな、と、自分で相談しておきながら理不尽なまでの考えが浮かぶ。
というか、庭師は俺とコイツを二人きりにしてよかったのだろうか。まさかそこまで信頼されているとは思わなかったな、とうれしい気分になるのも仕方のないことだ。それとも俺の好意がようやく庭師に伝わったのかもしれない。それは愛ゆえに為せたことなのだろうと適当に胸を張っておこう。

しかしそんな俺に気がついたのか、バスローブは「庭師なら今頃気づいて慌てて買い物終えてるところだと思うぞ」とぼやいた。

「この前言ってたから。『マフィアさんのせいで自分が何のために別の人間と距離をとっていたのか分からなくなりそうです』って。俺の庭師が落ち込んでいるんだが?」
「ほう、そうか。なら俺の嫁となる庭師に俺が守るから安心していろとつたえなければならないな」
「お前なんかに庭師は嫁にはやらないぞ!!いや、お前じゃなくてもやらないけども!!」
「そのセリフだけだと庭師の父親みたいじゃないか?」
「庭師は俺の恋人だ!!!」

そこで嫁といわないあたり、本当にこいつらの関係は何なのだろうと不思議に思う。まあ、それは部外者がとやかく言うことではないのだろうが。
はぁ、とらしくもなくため息をついた。慌てて買い物を終えていると言うのなら庭師はそろそろ帰ってくるだろう。

13:大豆 カラカラ:2019/10/12(土) 16:01 ID:J9s

これ以上は期待するだけ無駄だろうか。それに仲良く話していたと知れたら何を話していたのか全て喋らなくてはならなさそうだ、と立ち上がる。そんなことで悩んでいると知られたらあまりにかっこ悪い。
だが、俺が立ったところで、バスローブが「ところでな」と話しかけてきた。まだ何か文句があるのかと思ったが、そうではないらしい。

「そんな考えを持っているようなら、俺の庭師と話すんじゃない。というか、来るな」
「……は?」

前言撤回。ただの純粋な悪意だったようだ。思わず固まり、バスローブを睨みつけてしまう。先ほどまでの温暖な空気はどこへやらだ。いや、決して温暖なものではなかったのだが。

「なんだいきなり」
「別にいきなりじゃないぞ?……俺はいつでもそう思ってるぜ!」
「今まで言ってこなかったじゃないか」

庭師に手を出すな、とは言わ続けたが、ここまで明確に来るなと言われたことはなかった。一応俺はこの館を守っているのではなかったか。別に頼まれてはいないけれど。
バスローブの思惑がうまく読めず、その何も考えていないような顔を真正面から見る。関係はないのだが、こいつはつくづく庭師に似ているなと思う。だが庭師にもバスローブと似ていると言われたことがあるので、もしかすると俺と庭師も似ていたりするのだろうか。あまり自分では分からないが。
自分の思考が明後日の方向に行ってしまうのを何とか元に戻して、席に座りなおした。バスローブも机に押し付けていた顔を上げ、俺の眼を真っ直ぐ見て言う。

「だって、お前は庭師を幸せにできないと思っているんだろう?」
「……そういうわけではない」
「でも俺がやるよりも幸せに出来るとは思ってないんじゃないか」
「それは……そうだが……」

何を問われているのだろうと、思う。バスローブの真意が読めない。そこからなぜ、会うなという話になるのか。
だが、庭師のことをより考えているのはやはりこいつなのだろうなと思う。自分から庭師が離れない限り、縛りつけたりはしない。ただその自分から離れていったときの行動が過激なだけで。
……何気にこいつも頭おかしいよな、とマフィアである自分のことを棚にあげて思う。この館にはまともな頭の人間はこないようにでもなっているのだろうか。
そんなことを考える俺に当然バスローブが気づくことなどなく、話は続けられる。

「俺は、自分のほうが庭師を幸せに出来ると思っていないやつには、庭師に近づいてほしくない」

それは、紛れもないバスローブの……館主の本心だった。
今まで庭師と離しているときにすら見たことがない真剣な表情。それが俺に向けられたことに若干の驚きを与える。だが、それに続く館主の言葉を聞き逃したりするわけにはいかない。
誰よりも庭師と共にあろうとするこいつにしか、言えない言葉なのだろうから。

「そんなちっぽけな気持ちなら最初から近づいてほしくもなかったな。俺はただいたずら庭師との時間を奪われただけじゃないか」

14:大豆 唐唐:2019/10/13(日) 20:57 ID:J9s

「そういう、わけじゃ」
「でも、実際そうなんだろ?」

笑顔など一切浮かべず、こいつは俺に語りかける。俺がどれほど愚かであり、覚悟がどれだけなかったのかを突きつけるために。そんなやつは、庭師にふさわしくないと切り捨てるために。

「さて、そんなやつにはこの館に近づくことすらやめてほしいんだが、マフィアくんはどうするんだ?」

決断を下すように、館主は微笑んだ。その妖艶なまでに美しく、慈愛に満ちた微笑みは、しかし間違った返答を一度でもすれば即座に切り捨てるという恐ろしいまでの執念に満ちている。
全ては、自分のモノである庭師に間違った物を近づけないために。

「俺は……庭師に、幸せになってほしい」
「ふぅん?」

スゥ、とその目が細められた。なぜ俺はマフィアであるはずなのに、こいつに適わないと思ってしまうのだろうとよく思っていたが、分かった気がする。きっとこいつには、俺が何をしても、庭師のことを考えるという点において、一生適うことなどないのだろう。
自分が付け入る隙すらないほどに完璧な主従関係だなと自嘲気味なまでの考えが浮かんだ。それだけに飽き足らず、お互いに束縛しあい、愛し合い、助け合い、依存しあっているのだから。
しかし、そこに割り込み、庭師が望む一番の幸せの形を打ち壊してでも尚。そこまでしてようやく、ここにいることを許されるのだ。

「だが、それは俺がいて完成するものではないらしいからな。俺がいてこそ完成するものに、捻じ曲げてやる」
「それが、庭師が望んでいない形だったとしても?」

愚問だな、と俺は笑った。その言葉を待っていたように館主も笑顔を浮かべる。

「それを望ませるまでのことじゃないか」
「合格だな!」

15:大豆 唐唐:2019/10/13(日) 21:17 ID:J9s

にぱ、と満点とも言えるような笑顔で館主は答えた。それは、何度も見たことのある作り笑いであると知っている。俺がこの館に初めてきたときに散々向けられたものだ。二日目から、こいつは敵対心を隠そうともしなかったけど。

「庭師に送るのなら、妥協した愛なんかに意味はないからな。庭師は俺からの好意を一番喜んでくれるし!」
「その内俺からの好意にしかときめかないようになるぞ」
「俺の庭師に変なこと教えようとするんじゃない!!!」

今度こそ俺が立ち上がり、バスローブから距離をとれば先ほどまでの話はなかったかのように元に戻る。バスローブは俺に突っかかり、俺はそんなバスローブを適当にかわす。先ほどまでのバスローブも、今きゃんきゃん吠えるバスローブも、どちらも本性なのだろうと思いながら。

「お前なんかに絶対に庭師は靡かないな!!断言してもいい!!」
「俺は庭師がいつかお前から離れるほうに賭けてもいい」
「そのときは手足切り落とすから大丈夫だ」
「なんでマフィアより発想が惨いんだ」

庭師が帰ってくるまで、恋敵との会話を楽しむこととなった。


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