I don't know オレ無能. byとしみつ
東海オンエアの名言集 No.2
【Part15】
>>2 自己紹介・一言
>>3 前スレに来てくれた人の紹介
>>4 予備
【ルール】
荒らしなど迷惑行為はアク禁依頼を出します。
また、そのような行為はやめてください。
――その日、俺は奴隷になった。
監禁され、地獄の日々を過ごす――
日本奴隷監禁社の紹介です。
弊社は、借金を背負った人や罪を犯した人の味方でございます。
借金や賠償金を抱えた人なら、身近な人を差し出すことで貴方の払う金額が
タダになる・半額以下に減ることになります!
罪を犯した人なら、身近な人を差し出すことで、貴方の刑がなくなる・現金を数万円で払うことで済みます!
私達は警察や金融機関などと関係があるので、このような事が出来るのです。
今、お困りの方、私達に相談しませんか?
【登場人物】
岡崎 賢人(オカザキ ケント)
25歳男性。交際相手の父親に借金があり、借金の返済の時に人質として
日本奴隷監禁社に身柄を拘束されてしまう。必死に地下室から脱出しようとする。
必死に生きようとする。
大熊 力也(オオクマ リキヤ)
41歳男性。プロレスラーでガタイがいい。
友人が交通事故を起こし、その賠償金を払えず、人質として日本奴隷監禁社に
身柄を拘束されてしまう。
天水 みかん(アマミズ ミカン)
8歳女の子。親が自身の給食費を払えず、日本奴隷監禁社に彼女を差し出してしまう。実は特殊な能力を持っている。
松沢 春奈(マツザワ ハルナ)
22歳女性。動物園飼育員の母と、大工の父を持つ。
兄が殺人をし、日本奴隷監禁社に身柄を拘束されてしまう。
頭がよく、賢人の味方になるが脱出にはやや反対
天王寺 鬼広(テンノウジ オニヒロ)
54歳男性。日本奴隷監禁社の社長であり、ボス。
帝王のごとく君臨しており、人を監禁し、奴隷として扱うことが生きがい。
柴田 彩夏(シバタ アヤカ)
25歳女性。父親の借金を返済するために賢人を騙し、人質とする。
黒服(クロフク)
背が高く、SPのような人物。賢人を連れ去るが、手を貸す。
第一章 「監禁」
今日も仕事が終わった。やっと週末だー!
そう、今日は金曜日だ。仕俺は急いで家へ帰る。
「賢人〜、急いで帰ってるけど彼女が料理作って待ってくれてるんでしょ?」
「岡崎君はいいわね、私なんて岡崎君より年上だけど彼氏すらいないわ」
リョウスケと九条課長。なんで彼女が料理作って待ってることがわかるんだろう....? はっきり言って、この人達の相手をしている暇はないのだ。急げ急げ!と
俺は急いでキラキラと輝く繁華街を歩き、電車へ乗る。
ところで、電車に乗ると眠くなる。まだ寝てはいけないのだ、そう自分に言い聞かせる。ガタガタという電車の音と心臓の音がうまく合わさる。
「ただいまぁ〜」
少し興奮しながら、マンションのドアを開ける。
玄関の奥から美味しそうな匂い。きっとカレーだな!
「おかえり〜っ、今日はカレーだよ」
迎えてくれるのは、彼女の彩夏ちゃん。
彼女の作る料理はいつも美味しい。そしてかわいい。
一人暮らしはしていたが、生活能力の低いまま俺の代わりに家事はほとんど彼女がやっている。
本当は分担しなきゃいけないのだが。
だらしなく、生活能力の低い俺からすると、家事が出来てかわいい女の子なんてすぐに惚れてしまう。
なんと、俺の好きなカレーときたら今日は夕食が一秒でも早く食べたいと思う。
俺は黒いスーツをハンガーにかけ、カレーのいい匂いに釣られてキッチンへ行く。
「いただきまーす」
一秒でも早くほおばりたい。言う言葉が早口になる。
俺はカレーを口に入れる。特別な料理ではない、ごく普通のカレーライス。
でもこれがうまいんだ。カレーって大好き。
彼女がいるだけで、料理を食べるだけで、
上司から叱られた時やハラスメント、同僚から絡まれたときのイライラがすっと消えていく。
カレーを食いながらぼーっとしていると
「あひっ、あひっっ」
出来立てだったからジャガイモが熱い。
でも、出来立てっていいよな〜とニヤニヤしながら想う。
「もう賢人なにしてんの!」
少し怒られてしまった..... でもなんか嬉しいんだ。
ゆっくりと味わいながら、二人で話して咀嚼しながら笑っていた。
いつまでも、彼女の横で笑っていたかった――
寝る前にスマホを見た。すると気になる記事がある。
都市伝説で、この国には借金などを背負ったり、罪を犯しても
他人を担保として奴隷にすることで金を払わなくても、
刑を受けなくてもよいというシステムがあるということだ。
えっ、何それ怖い。他人なら誰でもいい、家族でも、友人でも、彼女でも.......
まっまさか、彩夏ちゃんに限ってないよな.....?
そもそもこんな話、デマなはず!
ブルーライトが身体を蝕むのではないかと思いつつ、恐ろしいと思いつつもスマホの画面をスクロールしていった。
数日後、このことが本当になるとは誰も知らなかった.....
日曜日。目をこすりながら朝食をとる。
彩夏ちゃんは朝食を食べたら家へ帰るようだ。
「それじゃあ、行ってくるね!」
半同棲中の俺ら。彩夏ちゃんは家へ帰るらしい。
急いで帰って友達と会うと聞いている。
「いってらっしゃーい」
俺は彩夏ちゃんを送って、顔を洗う。
ニコニコしていたが、いつもの彩夏ちゃんの笑顔ではないような気がした。
何か、奥に闇だったり黒いものが隠れているような.....
ちょっと不気味で作ったような笑顔。自然な感じがしない。
ピンポーン
インターホンが鳴ったが、泡だらけの顔じゃ出られない。
それにパジャマ姿だし。カーディガンでも羽織ろう。
俺は急いで顔にバシャバシャ水をかけた。
なんでこんなときに来るんだろう。
彩夏ちゃんが忘れ物でもしたのだろうか、でもドア越しに聞こえる声は男性だ...
「はーい、遅れてすみません〜っ」
ドアをガチャっと開けると、背が高くてスーツ姿の男が四人も。
勝手に1人だろうと思っていたが違う。
朝から何の様だろう、四人もスーツ姿の男が来ている。
まるで大統領や金持ちを守る、SPのようだ。
「岡崎賢人様でございますね?」
四人の中でも中央にいる、一番背の高い男が話す。
「あ、はい、どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。こういう者です」
名刺を見ると、日本奴隷監禁社..? なんだそれ?
その男が一枚の書類を差し出してくる。
――柴田弘之は期限までに借金二千万円を返済できない場合、
岡崎賢人を人質とし、日本奴隷監禁社に身柄を引き渡すこととする
と書いてあった。えっ、 人質!? 何それ。
人質ってハイジャックとかで聞いたことはあるけど.....
柴田弘之って..... 彩夏ちゃんの父親! なんだとあのオヤジ!!!
「____柴田弘之様は期限である昨日までに、借金を返済できなかったので
此方にあるように岡崎様の身柄を弊社へ引き渡すことになります」
破れそうな勢いで借用書らしき書類を黒服から奪って、見通す。
書類を見てみたがそんな契約した覚えがない! なぜ身柄を拘束されなきゃいけないのだ。
書面をよく見ると、上の方に柴田彩夏とサインが書いてある。
こんなの嘘だと思いたいが、彼女の特徴のある筆跡は本物だ。
――筆圧が濃く、丸い文字は彼女のもの。このタイミングでいない彩夏ちゃんを考えると.....
「あの、このような契約をした覚えがありませんが....」
「しかし、岡崎様の判子が押されていますが?」
「弊社と、柴田弘之様、柴田彩夏様で契約したので、岡崎様、身柄を弊社に引き渡しますね」
きっと、寝ている間にこっそり俺の判子を持ち出して判子を押したのだろう。
一緒に暮らしている限り、可能性はいくらでもある。
一瞬で、彩夏ちゃんへの愛情が冷めてしまった。
目玉焼きがスクランブルエッグになるように頭がぐちゃぐちゃと混乱する。
「いやだ! 俺はそんな契約してない!」
「でも、もうこの事は取り消せません」
俺が部屋の中へ逃げようとすると、今まで何も喋らなかった他の黒服たちに追いかけられ、ついに俺は捕まってしまった。
「静かにしろ!」 黒服たちが俺の事を無理矢理運ぶ。
そして、マンションの下へ連れられ、黒いハイエースのような自動車に乗せられた。
空を見ると天気予報では晴れだったのに、黒く気味の悪い雲で空は覆われていた。
――その日、俺は奴隷になった。
新スレおめです🍀
158:紅蓮◆jk:2019/09/09(月) 19:59 黒服の男達に体を捕まれ、もう抵抗は出来ない。
腕をしっかりと、ギュッと掴まれたからにはもう逃げられない。
ブーンっと車の動く音がする。俺は横にいる男らにたずねる。
「おい! どこへ連れていくんだ! 何をする気だ!」
俺の怒りは絶頂だ。まるで噴火するように怒ると左隣の黒服が答える。
「まあ、少しこきつかわれるようなものだ、楽しい所だから安心しろ」
楽しい所? 絶対嘘じゃん。待てよ、金曜日に見たネットの記事。
――他人を地下室に監禁させることで、金を払わなくても、刑も受けなくてもよいというシステムがある
はっ、そうなんだ。あの都市伝説が現実になりかけている。
そんなことされたら人生台無しだ! マトモに生きたい!
少しこきつかわれて働くというのも嘘だな。重労働だしマトモに食事もとらせてくれないのかもしれない。それで人生を終えるなんて絶対嫌。
「ああー! 俺はお前らに連れていかれないぞ!」
車は赤信号で止まっている。なんとか脱出できるかもしれない。
ガチャっとシートベルトを外し、車のロックも解除した。
この車はドアロックノブの車だ。
もう嫌だ! 脱出しようとした時だった。
「動くな、静かにしろ、脱出はできないと思え」
また、俺の腕をしっかりと、ギュッと掴まれた。
左隣の黒服が言う。この人達の前で脱出は不可能に近いのかもしれない。
俺はいつの間に意識を失っていたのか。知らない場所にいた。
重苦しい雰囲気。硬く冷たい床。音が響き、金属で出来たような天井。
「はっ、ここはどこなんだ!?」
俺の声がとても響く。
「やっと意識を取り戻したか、岡崎様、ここは地下室の入口だ」
....地下室か。やっぱり監禁されるのは100%本当に近いのだろう。
「さあ、階段を降りますよ」
カッカッと足音が響く。
一番背の高いあの黒服に連れられ階段を降りた。
「怖いよ〜、助けてよ〜」 「この野郎いい加減出せ!」
怯える声や汚い声。色々な声が聞こえる。しかし、楽しそうな声や嬉しそうな声は全く聞こえてこない。ふと前を見ると人々を閉じ込める牢屋みたいなものがずらーっと並んでいる。
まるで刑務所のようである。あまり衛生面ではよろしくない場所。
「岡崎様の部屋はこちらです」
四畳半くらいの汚い部屋。ネズミや虫が湧いてきそうだし、埃が舞っている。
とにかくここで一生を終えるなんて最悪だ。
もう逆らえない。脱出なんて無理だろう。
そう思ったから素直に中に入ろうとする。
「待ってください、これを首につけますので....」
黒服が持っているのは犬の首輪のようなもの。焼印じゃないだけまだマシなのかも。
一体何をつける気なのか。変なことじゃないだろうな。
腕時計を腕にするようにその首輪のようなものをつけられた。
「岡崎様、貴方の番号は25番となりました、以下岡崎様ではなく、25番と呼ばせていただきます」
「.....えっ」
25という俺の年齢を当てられたようで少したじろいだ。でも、そんなの偶然でしかない。
「囚人服は後程お渡しするので、一旦中へ入ってください」
囚人服って完全刑務所じゃないか。お洒落なデザインだといいな。って、囚人服にお洒落は求められない。
「出して、出してぇ!!」
もうおしまいだとは思うが、必死に鉄格子を使って叫ぶ。
でも、鍵が開くことも地下室から出られることもない。
ところで、身柄を拘束されてから気になることがある。
黒服の言葉遣いが丁寧な気がする。こういうのって乱暴な言葉遣いなような気がする。
勝手に思っていただけだろうか。一番背の高い黒服も、他の黒服たちも。
笑いも泣きも怒りもしない、常に無表情だ.....
俺は、今は何も思わない。怒り、悲しみを超えて「無」の状態にある。
この先地獄のような日々を送るかもしれないことに、納得してしまったのか
反抗する気がなくなってしまった。逃げられないってことを知ったというのも
原因の一つだとはおもう。
――リン!
鈴の音がする。まだ数分しか牢屋に入ってないのに、次々と黒服や看守と思われる人達が牢屋の鍵を開けていく。
一体なんだろう。楽しいイベント.... なわけないか。
部屋の鍵を開けられ外に出られた。俺はまだ生きたいのだ。
次々と牢屋から奴隷が出てくる。
老若男女問わず色んな人がいるんだ、と思った。
鉄格子を掴んで叫んでいた男も、泣いていた老婆も。
それに囚人服は真っ黒、よく見る白黒ではない。蚊が寄ってきそうだ。所々ほつれや血の染みた跡がついていて、清潔という言葉とは無縁の服。
するといきなり奴隷達が並び、正座をし頭を下げ始めた。
「25番! さっさと頭ぁさげろ!」
さっきの黒服とは違う、看守らしきおじさんが言う。
「はいっ、すみません!」
謝るのは営業マンの特技。九条課長や部長から教えられた。
一体なんだこれは。イベントなのか、拷問なのか。
「はぁ〜っ、天王寺様ぁぁ」
列の先端の女が天王寺というやつに言った。
天王寺っていう奴らしき男を見ると、年はアラフィフくらい、やや焦げた小麦色の肌、背はそれほど高くないが堂々とした雰囲気。よく言えば社長さんらしいというものだ。
その女以外の人々も天王寺に頭を下げ、神として扱うようだ。
また、黒服や看守もピシッと並び、少し驚きながらも「天王寺様!」と敬礼し頭を下げていく。
列の一番端の俺はよくわからず
「はっ、はぁ天王寺様っ」としか言えなかった。
すると天王寺とやらが俺に声をかけてきた。
「よぉ〜、新入りの25番。俺は天王寺鬼広。54歳男。1965年6月11日生まれ 血液型A型
日本奴隷監禁社の社長 好きなことは奴隷が苦しむとこを見ることだ」
なっ、なんだコイツ。奴隷が苦しむとこを見ることが好きだなんて....
頭おかしいんじゃないのか。きっとヤバイぞ。
そもそもこんな会社の社長なんだから、まともで優しさのある人間とは思えない。
「おい、25番の情報教えろ、黒服共!」
黒服がタブレットで俺の情報を天王寺のタブレットに送っているようだ。
天王寺に俺のことが伝えられる。他になにかされると思うと心臓がバクバクする。
ついにタブレットらしき機器の文字を読み上げて言われた。
「岡崎賢人 25歳男性 1993年10月30日生まれ 血液型O型、家電メーカーのSUNYの平社員
恋人に裏切られ、身柄を拘束される 好きなYouTuberは南海オンエア」
「ほぉー、なかなか面白そうな奴だな。立派な奴隷になれよ25番」
天王寺は気味の悪い笑い方をしながら読み上げた。
立派な奴隷になれよ.....? ふざけたこと言うな。天王寺ってやつはここの権力者なのか。
「あっ、言っておくけどその首輪はGPSが内蔵されてるから、脱走なんてしたら分かるからな、
このタブレットで丸わかり。首輪のロック番号がわかったら逃げられるけどな」
天王寺はさっき使っていたタブレットを俺に見せつけてくる。
ここは本当に奴隷を監禁するところだって改めて思ってしまった。
「___お前ら、餌やりの時間だ、食堂へ行け!」
天王寺の声を聞いた奴隷達は、すぐさま二列になり兵隊のように奥へ進む。
なんで二列に分かれているのだろうか。もしかして左の列と右の列で格差があるとか.....?
そもそも餌やりってなんだろう。養鶏場でもあるのか。でも食堂って言っているし....
「お前は左の列の後ろへ行け!」
「は。はいっ」
天王寺に怒鳴られてしまったのでおとなしく左の列についていった。
段々歩いて行くと暗くなっていく。餌やりっていうのは何を表しているのか
とりあえず左の列についていくと食堂についた。
部屋より薄暗くいかにも地下室らしい雰囲気。
人々をみると、痩せ細った者、やつれた者色んな人がいる。
囚人服をよく見ると、麻のようなもので出来ていて雑巾のような、貧しい服。
皆、俺と同じく首輪のようなものをつけられていた。
とある男達は、ご飯と味噌汁、梅干しらしきものを食べている。
ま、まさか人の食事を「餌やり」って言っているのか。
俺達をペットや家畜と思っているような態度。
飯を受け取り口でもらった。器のわりには少ないご飯、菜っ葉の汁物、梅干し
近くのテーブルに相席させてもらおうか。刑務所ではお互い親しくしてはいけないと聞くが、ここもそうなんだろうか。誰かと親しくなれたらここも怖くなくなるかもしれない。
ここへ連れてこられたことで心が真っ暗になってしまったからな。
「すいません、相席よろしいですか」
声をかけたのは俺より少し年下らしきの女性、40代くらいの大柄の男性、そして小学生と思われる女の子。
「...はい、いいですよ」
答えてくれたのは若い女性だった。また、小学生ぐらいの女の子もここに連れていくなんて
天王寺たちはおかしいんじゃないか。それに保護者は何とも思っていないんだろうか。
「君、新しくここへ来た人だね、岡崎賢人君だっけ?」
まだ囚人服に着ておらず、他の奴隷の前で自分のことをベラベラ紹介されたからな。
「はい、そうです。あなたの名前は?」
「俺はな大熊力也。41歳だ、よろしく」
....大熊力也。体と名前が合っていると思ってしまった。
プロレスラーのような体格なんだから、黒服なんてひねりつぶせそうだが。
「私も自己紹介するわ。私は松沢春奈、22歳、この子は天水みかんちゃん、8歳よ」
「うん! わたし天水みかん! お兄ちゃんよろしくね!」
松沢さん。ぱっと見てはすごいしっかり者だなあと思った。
なんとなく頭も良さそうだし、みかんちゃんの面倒を見るお姉さんって感じ。
みかんちゃんは元気な女の子って感じで小学生らしい。
俺の兄貴の子、姪に雰囲気が似ている。
大熊さんと松沢さんとみかんちゃん。親しくなればいいけど....
「ところで皆さんはいつからここに?」
自分から話題を振ってみる。
「そうだな、感覚的に俺は半年くらいかな、みかんちゃんも俺と同じくらいだな」
「私は二年くらいいるかも」
「わたしも半年くらいかなあ」
えっ、そんなに長くいるの!? よほどのことがない限り半永久的にここへ閉じ込められるんだろう。
だから数年いますって言ってもおかしくないんだろう。
「賢人君、左見てみろ」
大熊さんに言われてみると透明な壁で仕切られている。
「あれはね、良民と賤民を分けるものだ、奴隷の中でも上下関係があるんだ。
俺らは良民で飯は食わせてもらえるけど、向こうは扱いも酷いし飯は三日抜きは普通さ」
まだ良民でよかった....とホッとする。向こうは扱いも酷いし飯は三日抜き....。
さっき奴隷たちが二列になったのも良民と賤民を分けるためだったのだろう。
気になった俺は、壁の方へ耳を寄せて声を聞いてみる。
「4日ぶりの飯だー、やったぜ!」
「お前そんな食ってないのか? 俺もだけど」
「あたしは雑草の塩揉みとネズミの茹でたものは食べたよ」
どうやら賤民たちはまともに食べさせてもらえないらしい。
食えても、腹壊しそうなものしか食べてない。
雑草とかネズミとか。そういう食文化がある訳じゃないのに....
「まあ、まだ良民でよかったですね、岡崎さん」
松沢さんの言葉に同意しかない。
賤民たちの声は松沢さんたちにも聞こえてたみたいだ。
「春奈お姉ちゃん梅干しはどうするの?」
梅干しは食べるんじゃないのか。まだ良民なら食べさせてもらえるから、大丈夫なはず。
「あー、ポケットの中に入れておこうか」
松沢さん、みかんちゃんだけではなく、大熊さんも囚人服のポケットにそーっと梅干しを一つ、入れていった。
「岡崎さんも梅干しとか保存の効くものは取っていた方がいいですよ」
松沢さんはそう言って席を立った。
もしかしたら良民とはいえ、3日間飯抜きみたいなことや食べれてもあまり食わせてもらえないことがあるのかもしれない。
松沢さんはここに長くいるから、言うことを聞いた方がいいな。
まだ俺も囚人服に着替えてないが、パジャマのポケットにそーっと梅干しを一つ入れた。
松沢さん、みかんちゃん、大熊さんは返却口に食器を戻し、部屋の方へ戻っていった。
「お兄ちゃんバイバイ〜」
「賢人くん、またな」
「岡崎さんまた一緒に食べましょう」
俺は勢いよく味噌汁を飲み干した。変なところに連れてこられて知り合いもいないし、地上へ逃げられそうにもない。三人に話しかけてよかったなと心から思う。
段々が人が減っていく食堂の中で俺は一人、食べかけのご飯を食べた。
「ごちそうさまでした」
返却口に食器を戻しに行ったが、こういう食堂でいるおばちゃんがいない。
日帰り温泉やSAのレストランみたいな。
気になったがまた誰かが食堂に来るだろう、ごはんをもらった時に痩せた女がいたから。
黒服が食堂を見に来る。
「25番、早くに戻りなさい、部屋で一旦待機だ」
ついに食堂には俺一人だけ。部屋で一旦待機ってまた何かするんだろうか。
食器は片付けたので急いで食堂を出て、黒服に付き添われながら部屋に戻る。
「25番、囚人服です」
さっき渡されていなかった囚人服。柄があるわけでも、カラフルでもなく真っ黒で、この会社のマークを刺繍されただけの囚人服。
ガチャッと部屋の鍵をかけられ、また汚い部屋で過ごす。
トイレはあるが使いたくない という印象しかない。
埃が待って虫がわいていて不衛生極まりない部屋。
もはや自分が悪いことをしたのではないかとまで思う。因果応報というような。
ここで待つしかないと心に思い、座禅を組むように静かに目を閉じた。
ここで叫んでも横になっても何の意味もないし、汚い。
何もない、聞こえるのは黒服達の足音や隣の部屋の奴隷の小さな声だけ。
俺は眠りについてしまった
「起きろぉぉ!」
大声で誰かが叫ぶ。眉間にシワを寄せ大きな口を開けていたのはおじさん。
「うわっ、誰ですか!?」
天井にぶつかりそうなくらいな勢いで飛び上がる。
「あ? 俺は看守だ。労働の時間だぞ、ついてこい」
看守の男に腕を掴まれ、部屋を出る。食堂とは違う方へ連れられていく。
前に奴隷達が見えてくる。何人か泣き、何人か溜め息をつき、何人かは叫ぶ。
俺は働くということしか知らないため、看守に従うしかなかった。
階段が見える。地下室から脱出できるのか、という微かな希望を持つ。
しかし、前にいた奴隷達の足が動きたがっていないように見えた。
階段を上りきった。朝、ここへ連れてこられて目覚めた場所のように冷たく硬い床。
看守が重そうな硬い扉を開けると、そこには希望の日光。
「地上だ!」 地上の世界に戻った。ここから抜けられる、わけない。
コンクリートで作られた高い壁。学校の校舎並みはあるだろう。
「今日はトマトとナスの収穫だ!」
大きな農園に響く天王寺の声。なんとなく自分で思っていた奴隷の姿に近い。
農園に長時間働かされる姿。まさにこれだ。
俺はここへ連れられ農作業をするのは初めてなので看守に連れられ農園の中へ入る。
ハサミを持ち、チョキチョキと実を切っては籠に入れることの繰り返し。
夕方が近いが、日差しが背中に直撃する。澄んだ青空からくる日光は悪魔の日光になっていく。
これも天王寺の作戦なんだろうか。早朝や夕方ではなくあえて昼間に農作業をやらせること。
「47番! サボるんじゃねぇ!!」
今日はハサミで切るだけの収穫だからまだ楽な方だと思うが、種まきとか大変そう。
その47番は天王寺に思いっきり鞭で叩かれた。
――天王寺アタックだぁ.....
周りの奴隷達は口を揃えてこの言葉をいい、顔が固まっていく。
「天王寺アタックって言うんだ....,」
47番の後ろで立っていた俺が小言を言うと天王寺が近付いてきた。
「25番、もっとこれを知りたいなら打ってやるよ」
そんなの御免だ。ニヤリと不気味な笑みを見せる天王寺に恐怖を感じる。
また、トマトやナスを収穫するのを始めた。
しっかりと熟しているのを確認して、トマトならヘタが沿っていることを確認する。
面白味もなく、サボったり失敗すると鞭で打たれる仕事を続けていく。
その時だった。
――83番! もう逃げられないぞ!!
また、天王寺の声が天王寺の声が響く。
きっと、47番や天王寺に皆が目を向けている最中に脱走しようと思ったのだろう。
日がギラギラと輝く中、糊のようにくっついて登る老婆の姿。
高い壁だが、小さな出っぱりを掴んで必死にしがみついている。
彼女もここに連れてこられて人生をめちゃくちゃにされたに違いない。
人生の最期の力を振り絞って、ロッククライミングのように登り続ける。
「.....ぁああ .....もう..だ、めぇぇ.....」
ジェンガが一瞬で崩れるように彼女は力尽きて、黒服達に運ばれる。
間近で老婆を見たが、どこか悔いがあるようだが少し笑みを浮かべていた。
色々な事があったが、収穫作業は全て終わったようだ。
きちんとやってれば以外と緩かった。長袖だし悪魔の日光が降り注いだせいか、汗を沢山かいた。
勿論、タオルや冷たい水なんてあるわけない。服の先を使って汗を拭う。
また、あの扉が開いて階段を降りていく。やっと終わった、シャワーでも浴びてぇなと思う。
はあっと溜め息をつきながら部屋に着く。入りたくないと抵抗する男を横目に見ながら。
また、部屋に鍵をかけられ、雑巾の様で着心地の悪い服を着ながら汚い部屋で
夜を迎える。スマホもなく、楽しいことは米一粒もない。
退屈でしかないし、テレビもないから情報が掴めない。
シャワーでも浴びたいと思っていた俺に幸運が訪れる。
今日は風呂に入れる日だったのだ。風呂の日はあまりないからラッキーと言えるだろう。鍵を開けられ次第、風呂場へ急ぐ。
勿論、風呂場の綺麗さとかは期待していない。
ガラッと風呂の扉を開けると、想像通り黒カビだらけの床だった。カビ●ラーでも使えよとツッコミを入れたくなる。風呂場の右を見ると、明らかにシャワーの数が少ないことがわかる。
それに、虫や雑草を食っているって一目で分かる賤民もいる。ヒョロヒョロで骨が浮き上がっている。
風呂の入口の方に座っている天王寺がぼそっと呟いた。
「人は争い事となると本性を見せるのさ... クククッ」
「それってどういうこと?」
「知りたきゃ身で感じてみろ」
天王寺がシャワーの方を指す。さっきからガヤガヤ煩いと思っていたが
数少ないシャワーの取り合いが激しい。1週間ぶりの風呂となればシャワーを浴びたいのだろう。
1週間後、この争いに俺も参加することになる、
風呂に入れる時間は15分と決まっているため、シャワーを取ろうとしているだけじゃ服を脱いだだけになってしまう。今すぐシャワーを取れるほど俺は強くはない。
俺は、マナー違反のことをする。
銭湯では大抵ルールに書いてあろう、体を洗ってから浴槽に入るってことを。
なぜか心の中で銭湯の従業員のおばちゃんに謝りながら浴槽に脚を入れる。
罪悪感に押されながらも浴槽の中に入る。
その、白い湯の色はなんだろう、それに自棄に水温が冷たい。
「それはソフトクリーム風呂だ」
ふと左耳の方から力強い声が聞こえてくる。裸のうえ、水温が低いので少し凍え気味であった俺に
野太い声か聞こえてくる。
「道理で寒いんですね」
その声の正体は大熊さんだった。身体をブルブルさせながら答える。
「御名答、56番」
脱衣場の方から天王寺の声が聞こえてくる
ふっと笑いながら天王寺は続けて言った。
「まぁ〜、俺が簡単に湯槽に入らせるわけないだろ? 56番」
「それくらいわかっているさ、アンタがクズだって」
「クズで結構、俺はお前らが苦しむことさえ見られればいいんだ」
大熊さんはここに長くいるだけあって天王寺の事なんてお見通しなんだろう。
浴槽に入ってすぐ、ソフトクリーム風呂だってわかったのだから。
「そ、それにしても寒いなぁ.....」
天王寺や大熊さんが話していたから気付かなかったが、改めて寒いことに気付いた。
横の手摺から入ってきた男共も寒い寒いと言っている。
皆がそう言うと、天王寺はまたにやっとする。
コイツの前だったら強がっていた方がいいかもしれない。ずっと苦しんだり天王寺の考え通りのまま過ごしていると、なんだか天王寺に負けた気がして腹立つ。
――はい、時間だ風呂から上がれ!
椅子に脚を組みながら言う天王寺の声を聞いて、そそくさと脱衣場に向かう奴隷達。
俺もそそくさとタオルを絞って浴場に入る。
雑巾のようなタオルと竹籠を使って、皮膚やら毛やらを拭いていく。
シルクのような感触を求めている訳じゃないが、さわり心地が悪い。
仕方ないので、俺は黙々と皮膚を弾いた水分を拭き取っていった。
看守のおじさん? 帽子を深く被っていて素顔が見えないが雰囲気や声でおじさんなのは
理解した。その人にがちゃっと鍵を掛けられた。
少しずつ消えていく時間の感覚のせいで、今は何時か分からない。
おそらく、今は夜のゴールデン番組が放映中の事と思われる。
遊ぶものはないため、歯磨きをして、、、寝るしか.....
とはいえ、歯磨きをすることは出来ないため、部屋にあるトイレの水を、吸うようにして口に含ませる。
次に、ぐちゅぐちゅと咀嚼するように口腔に水をなじませる。
そして、べっと口に含ませた水をまた便器に戻す。
フッ素いりの歯みがき粉というものも、歯ブラシもないために口で水を濯ぐくらいしか出来ない。
トイレの水だから、汚いという気持ちはあった。
でも―― でも――
固くて綿も何もない汚い床で、俺は長いような、短いような1日を終えた。