>>440(回想)
薫
「あはは、だよね?
直ぐに治してあげるから、今はしっかりお休み……?」
優しく抱き締めていた彼から離れ、身体中が痛いと思われる彼をベッドに再び寝かせると、ただ寝ているだけでは退屈だろうと思い、一つ自分の持ち芸を見せてあげようと考え付く。
薫
「そうだ、貴方に面白いものを見せてあげる。」
《パキンッ》
薫は傷口や発熱箇所を冷やすために置かれた氷の入った箱の中から5cm程の大きさの氷を一粒だけ取り出すと、それを両手で包み、開く。
すると、薫の手の上に小さな鳩の氷象が出来上がる。
回想の中にあるその鳩の氷象は氷華の作り上げるものに比べれば歪で、ずっと小さく、元から氷塊が無ければ作り出せないと言う完全な氷華の下位互換ではあるものの、氷華が作り出す拷問器具や氷塊とは比較にならないほど、人としての優しさや暖かさが感じられるものとなっている……
桜空(幼少期)「わああぁぁ・・・・・きれい・・・・・」
(歪でも、小さくても、桜空にとってはおとぎ話に出てくる宝物などよりも、綺麗に見えた・・・・・
さっきまで体中の痛みと恐怖に怯えていた表情が、嘘だったかのように輝き始める・・・・・
子供というのは実に単純な生き物だ、今の桜空のように、ちょっとした出来事がきっかけで恐怖がすぐに晴れてしまうこともある・・・・・
だが、それは純粋な証拠でもある・・・・・)
紀「わけのわからない人ですね・・・・・」
(やはり紀には、狼谷の言っていることがわからない・・・・・
自分の命に関わるならばまだしも、危険を冒してまで救い出す必要があるとはとても思えない、自分には持っていないものを持っているなら自分も手に入れればいい、できないことをしてくれるのならば自分もできるようになればいい・・・・・
単純ではあるが、紀はそういう考え方の持ち主だった・・・・・)
>>442