属州カルタゴ領の寂れた街の一角にある酒場 最近は傭兵の出入りが増え、ただでさえむさ苦しい酒場は一層男臭くなっていた。
そんなところに“彼”はいた
カウンター側の席に座った彼は長い脚をもて余すように組、テーブルに頬杖をついていた。
周りから多くの視線を注がれる彼は心底退屈げだった。口角は下がり、切れ長の瞼から覗く白金の睫毛に縁取られた鮮血のような瞳はぼんやりと、自身が持つグラスを眺めている。
黒革の手袋に包まれた細く長い指は先ほどからまったく減っていないグラスを転がし、琥珀色の液体を揺らしていた。
そんな彼はまるで完成された一枚の絵画のような美しさだった。そんな彼の退屈げな表情はため息をつく度に薄く開かれる唇によって一層、蠱惑的(こわくてき)に写った。
酒場の酔っぱらい
「うぃ〜、ヒック。
……あ〜?なんだ?お前、見ない顔だな、もしかしてこの街は始めてかぁ?」
黒髪に焼けた黒い肌を持って質素な服装をした男おぼつかない足取りでフラフラとギルベルトの傍の席に座って、手にしたビールが注がれた小さな樽のような木製のカップを口にして酒を流し込みながら彼に問いかける
エジプトを制圧し、属州とした事でアフリカ北部では安く、アルコール度数も高いビールを量産することが出来るようになったようで、まだ日も登っているにも関わらず泥酔している
この酔っぱらっている彼のように、属州の小さな町で生きる者にとって、酒を飲んで、余所者と話すのが唯一の娯楽である事が町の規模の割に酒場に集まる人間の多さからもわかる