「………そりゃぁ、ただでさえ人間とはかけ離れた存在になったのに…これ以上好き好んで化け物になんかならないよ……」
少しうつむき、遠い昔を眺めるように呟く。瞳が腐り落ちた眼窩は何も映さないから彼以外にはわからないだろう…
(まぁ……人間だった時も、他人から見れば……“悪魔”…そのものだっただろうけど……)
一瞬、何かを考えこむように黙りこんだがすぐに腐った顔を上げて楽しげに言う
「…まぁ!そんなことより!……少し頼み事があるんだ」
ブチブチ バキバキと皮膚が裂け、骨が砕ける音が響く
「……“伯爵…シャルル・ジェイド・シュメッダーリング”からの…ね」
猫の死骸から血が徐々に抜けはじめ、空中で蝶を形ずくる。……血の抜けた猫はただ土に帰るのを待つだけの死骸に戻る
アラネア
「人間を超えながら人間の面影を遺すだなんてやはり変わったお方ダ。」
耳元まで裂けた口を更に歪めて言い知れぬ狂気と、異様な不気味さの二つを兼ね備えた笑みを浮かべ、彼もまた明確に人ならざる雰囲気を放つ。
古今東西に存在する、吸血鬼伝承。
その多くがヴラド公や吸血鬼ドラキュラと言う人間の形を維持したままの、端正な顔立ちをした者であるとのイメージが強いものの、そのイメージが定着する遥か昔、吸血鬼の原点に近付けば近付く程にその形状は歪にして異形となっており、その永い歴史の中を見てみると、人の形を維持している者はかなりの少数派と言えるだろう
アラネア
「ええ、構いませんヨ?」
相手が自身の爵位を強調した事で、これが単なる依頼ではなく、血の支配による命令であるとわかると、構わないと応える
だが、全ての命令は吸血鬼の支配者である夜王の意思によって決定されるため、あまりにも夜王の意に反した願いや頼みであればそれを聞き入れることは出来ないだろう