日狛へのお題は『幸せになんて、なってやらない』です。
shindanmake☆.com/39☆860
#iおi題iひiねiりi出iしiてiみiた
ピアノの軽やかなリズムが響く。テンポも音程も、何もかもが滅茶苦茶なその音楽を背景に、狛枝はその場に立ちつくしていた。
「 …全部、知ったのか。 」
爪が食い込むほど拳を握りしめ、彼に一歩近づきそう問うと、彼は唖然とした顔を隠そうともせずに頷いた。普段からポーカーフェイスな彼には考えられないようなその表情に貴重だな、と何処か呑気なことを考えながら、彼の長い睫毛が濡れていくのを見た。
「 …日向クン、キミは…そんな…なんで? 」
もごもごと口を動かし、曖昧な質問を投げかける。震える声は恐れを隠しきれていないのに、俺の目を真っ直ぐに見ようとし、それでも少し目線を逸らしてしまう彼を愛おしく思いながら頬に手を伸ばす。彼の肩が大袈裟に跳ねた。
「 …狛枝、俺たち…友達なんだよな。…友達には幸せになってもらいたいだろ…? 」
こうして俺が希望ヶ峰を目指すようになってから、狛枝は唯一心の底から友達だと言える存在だった。彼にとって自分が唯一であるように、自分にとっても彼が唯一だった。憎たらしい気持ちも護りたい気持ちも全てを包み込み、それら全てを覆い込めてしまうほどの感情だった。
狛枝は俯く。
「 ……自己満足だよ… 」
吐き捨てるように言われた言葉は、実に彼らしい言葉だった。震える体を片手で抱きながら気丈にこちらを睨みつける。
「 …そうだな。自己満足だ…でも、いいんだ。俺はお前と一緒にいられる、それなら… 」
「 だから永遠にここで過ごせって!?」
狛枝が噛み付くように前のめりになり、俺の腕を振り払う。怒鳴った反動で獣のように息を切らしながら目を見開く狛枝が落ち着くように頭を撫でてやると、彼は舌打ちをして距離をとった。
「 ああ。確かにここは何も無いかもしれないけど…平和だ。 」
狛枝が小さく息を吸った。
「 俺も初めてなんだ、友達って。…はは、友達同士が何をするのかはわからないけど、試行錯誤していこうじゃないか。幸せだな、狛枝…永遠にどれも傷つかない世界なんだよ、狛枝…狛枝? 」
小さくなった震えがまた大きくなる。握りしめたままの拳を見つめ、彼は大きく深呼吸をしてから俺をしっかりと見た。ふ、と笑ったかと思うと、拳を開き、その手の中にあったものを見せびらかすように持つ。
「 …それは…! 」
「 日向クンならわかるよね。 」
その手の中に握られていたものは、七海のヘアピンだった。狛枝は言葉を簡潔に連ねる。バグに紛れ込んで何とか削除されないよう潜伏していた七海にこれを貰ったことを。いざとなった時の使い方を。
「 …ボクはね、幸せなんて…望んでないよ… 」
瞼を震わせながら再度握りしめる。止めようとするが足が動かず、その場に取り残されてしまった。ピンが変型し、数字のエフェクトと共に銃へと切り替わる。
「 ボクは幸運なんだよ、日向クン。幸福じゃないんだ、幸運なんだ。…いわく付きのね。 」
彼が力無く笑った。何歩か俺から離れ、顔を顰めた。
「 “幸せ”に、なんてなれるわけないんだ。 」
「 …ここだと…なれる…ッ!」
体を動かそうともがきながら、彼に向かって叫んだ。その声を聞いてか、彼は少し目を丸くし、吹き出して、また笑った。目を閉じて、少し眉を寄せて歯を見せる。それは初めて見た彼の満面の笑みだった。
「 幸せになんて、なってやらない。 」
鮮血。
狛枝が目覚めずに何年も経ち、アイランドモードの中だけでしか存在できなくなった狛枝と、いろいろあって狛枝に愛情を感じている日向の話
全員を止められているのを振り切ってアイランドに入って狛枝と二人で過ごしていたら何ヶ月か経って七海千秋に記憶を戻された狛枝とそれに気づいた日向の一悶着