>>92
彼は、ふと思い出したのだ。喧しいじゃじゃ馬娘が楽しそうに話してきた記憶を……
「私のみなしごの『フランチスカ』という娘がいるのですが……どうも彼女曰く『兵隊さんがシーリンのことを気に入っている』と……『シーリン』というのは、これも私のみなしごなのですが……」
一息つく、これを果たして言うべきか……と、一瞬迷ったからだ。
「ある障害の関係で、皮肉にも『器量』がよく、容姿も確かに美しいのですがね……」
なんとも不思議な感覚に襲われていた。義理の娘の恋路を手助けしたいと感じるとは……
「彼女も気に入っているそうなのですよ、その兵士のことを。勇者と友達になったり……最近、心の成長を見せてくれて嬉しく思ったのでね……」
それを言って、魔王は総督に向き直る。
「この嬉しさを誰かに言いたかったのだ。よろしかったら、その兵士殿にも伝えてほしく願うものです……」
了解しました。伝えておきます。