妖怪変劇
時は明治。源 芹生 (ミナモト セリフ)といふ、とある演劇少女が、演技の臺詞創りをきつかけに、創作活動に魅せられた。
ちょうど少女には敬愛する物書きがいた。一つ年上の幼馴染Aである。Aは顏も頭も惡く、ぶっきらばうで、友も戀人もおらず、醜い人閧ニして嘲け避けられた。
しかし、救いやうがないわけではない。Aには、ただひとつ創作の才だけはあつた。Aは世閧ェ需要する物語を數多く産み出し、おかげで人竝みより幸bノ生きていた。
不思議なことに、演劇少女は、Aと對照に、顏はよく、學もあり、友もおり、戀人もいるといふのにも関わらず、Aの作品に嫉妬していた。この少女には、ただ一つ、創作における文才だけが、無かつたのである。演劇少女は、自分のステイタスなんかよりも、創作だけがしたかつた。
そんな演劇少女は、ある日、Aが最高傑作だと言う作品を見せてもらうことになった。作品を拜見すると、少女は瞳を煌びやかせて、嘆息する。
「はあ… Aくん、超すごい……」
その作品は、極めて創造性に富み、多くの創作者が目指すであらう頂きに、見事辿り着いていたのだ。誰もが書きたいものをAは軽々、書いているように見えた。
「なんでうちには、才能無いんやろか…」
しかし、それ故に、少女は嘆いた。かようなものが一たび野に放たれたのならば、己を含む多くの創作者が居場所を失つてしまうと。創作大恐慌が起こつてしまうと。
その日、演劇少女はAの傑作を盜み出でて、十日閧ルど讀んだ後、焚書した。
Aは、最高傑作の紛失に即座に気づいた。しかし、いつも自室を掃除させている母のせいだと憎んだ。まさか幼馴染の可憐な少女が、しかも毎晩お世話になつている、あの少女が傑作を盜んだとは、Aの童貞拐~が思はせなかつたからである。
しかし、一月經っても傑作を再現できないAは、我武沙羅に筆を振るふ。憎い母には拳を振るふ。かく日々を過ごし、一年が經つ。結局Aは傑作を書けず、生氣を失つていた。
そんなAの心情と對照的に、世閧ナは一つの小説が大流行していた。Aは半ば無關心で、試み程度に小説を拜見すると、見覺えある文體、見覺えあるシナリヲ、見覚えあるセリフ。恐る恐る著書名を確認する。
_____源 芹生
そういうことか。そういうことだつたのか。つひにつひに、あの演劇少女が傑作を盜作したのだと最悪の理解に及ぶ。
理解の次にやつてきたのは少女への憎惡。
世閧ェAを忘れるうちに、Aにはその憎しみが殺意とゐふ名前である事を自覺し始める。
Aは一本の斧で殺意を実行することにした。ある日の夜が更ける頃、まずは、少女の家族を慘殺。Aは、次に、部屋の隅で怯える演劇少女を犯した。さて殺そう。Aが手に取つた斧。演劇少女は、流石本職が演劇なだけあつて、Aに渾身の涙に、渾身の台詞で持つて、渾身の懇願をして、許しを乞う。しかし、Aは許さない。
かくして、殺意を完遂させたA。立ち上がると鏡に映つたのは、醜惡を極めた化物、俗に言ふ立派な妖怪だつた。
うーんおもろい 天才やね