きみのための物語

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1:◆RI:2020/11/01(日) 20:49

自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください

正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ

2:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 21:44

『悪夢の始まり』


ダンッッ

100万ドルの夜景だとか、世界でも有数の絶景だとか、そんな場所を見向きもせず、ただただ祈りながら、男は次の場所へと飛び込んだ


事は数十分前、長期任務を終わらせ、本部に連絡を入れようとした時だった

俺が通知を入れようと、隠密任務ということもあり電源を落としていたインカムをつけた時、焦りを隠せない部下の声が聞こえた


『─むら─さ─!…─叢雲さん!奥様との連絡がっ…!』


嫌な予感はしていた
そしてインカムから聞こえたその言葉を聞いて、弾かれるように俺は駆け出し、己がいたビルの窓を蹴破って、街に溺れるようにその身を『転移』させた

3:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 21:44

「っ、!!」
『転移』した先の壁を蹴り、焦りにふらつきながら自分の家の前の地面に足をつけた

己の『右手』を伸ばし、玄関の扉に触れる

嫌な予感が強まっている、どうか、どうか、どうか、どうか


ガチャンッッ

「っゆき!ぶじっ!!……か…、…」



まず目にはいったのは、いつも出迎えてくれた愛しい妻ではなく、数人の、武装をした人間

『な、─なぜ─!!しに─み…─!』
『はや─る─!』

何か言っている、でも、そんなもの、次に目に入ったものを見ては、聞こえなくなった

4:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 21:45

床に滴る血
床に散らばる、剥ぎ取られた爪
服を脱がされ、あらゆる所にむち打ち跡が残された拘束された体
おかしな方向に曲がっている指
血が染み込んだ髪
いつも笑みを浮かべていた、彼女の面影を残さないほどに傷だらけにされた顔


今はもう動かない肉塊
それが愛しい妻だと気がついた時には、もう己の理性は途切れていた

5:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 21:45

気がついたら、武装した奴らはもう人間とは言えない程に切り刻まれて、床は血がないところを探すのが困難な程に流れていた


「……ゆき」

そんなものは気にせず、ちゃぷ…と血の海を鳴らしながら彼女『だった』ものにふらりと近寄る

いつだって、名前を呼べば振り向いてくれた

「……ゆき」

いつだって、名前を呼べば微笑んでくれた

「…ゆ、き」

彼女の頬に触れた

生ぬるい、べたりとした血がつく

「…ゆき」

「ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき」

ふりむいてくれない

ほほえんでくれない

なんどよんでも

なんどよんでも、めをあけてくれない

6:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 21:46

「……………………………………………」



温かさが奪われていく

「…ゆ、き」

答えない

「………ゆき…」

いくら抱きしめても、名前を呼んでも、広い部屋に響く声は、自分の耳にしか届かない


いつも暖かかった雪の腕は、いつまでたっても、俺を抱き返してはくれなかった

7:叢雲◆RI:2020/11/01(日) 22:01


あれから時間が経った

数時間前?数日?わからない

どうやらいつまでたっても連絡が入らない俺を探しに、GPSをつたって家を探しあてた同僚が、あの惨状をみて色々としてくれたらしい

雪を病院へ運ぼうとするけど、何を言っても反応しない俺を、ボスが気絶させたらしいから、詳しくはわからない



そして、医務室で目を覚ました俺にボスがつげた


どうやら、雪は妊娠していたらしい


名前も性別も分からないわが子、おれが長期任務の際に発覚したそうだ


最後まで、腹だけはと守っていたらしいが、その我が子は生まれる前に息絶えていた




雪を拷問した敵組織は、雪から俺の情報を引き出そうと、痛めつけたらしい

そのさいに、雪が放ったことばは次の言葉だけだったそうだ


『あなた、あしたはあめだそうですよ、かさをわすれないでくださいね』

そう笑って、彼女は息絶えたそうだ

8:叢雲◆RI:2020/11/02(月) 18:04

全て遠き理想郷

https://i.imgur.com/DYcbi2T.jpg

9:、:2020/11/02(月) 18:45

上手やんhttps://youtu.be/jyqKyyqhVE4

10:◆rDg:2020/11/04(水) 19:24

『 萩色へと染められる少年 』

「 “暇”や“退屈”なんて言うのは簡単で、実際には現実から逃げているだけ 」

何度も何度も読み直して 台詞だけでなく全文を覚えてしまい今や全ページボロボロの本を、今日も瓦礫の山の上で読み続ける。黒髪黒目の何処にでも居る感じ...服もボロボロに破れているけど。

壊れた街並み。そこに捨てられて..食べる物も生ゴミ。親と呼べる存在は生きているかも知らず。友達と呼べる存在も居らず、孤独。....熱中出来る物は本の中の嘘だと分かっている世界。


だからもし...最初に誰か友達が出来るなら、そういう有り得ない存在が良かったんだ。憧れを持っていたんだ。


『 .....よいしょっと..あ〜...“こんばんは”って言うので良いのか? ....よう、人間 』



【 彼 】は突如背後から、胡座を掻きながら手を振り、まるで最初からそこにいたかのように現れた。腰まで伸びた赤の髪(何故か束ねてる)。光を放っている赤眼。黒いマントに....サラシとパーカーとジーパンって、何だか凄く奇妙な姿。人間離れしたような姿に...興味を持っちゃったのが多分人生の転機って物だったんだと思う。


「 ......えっ...と...だ、誰......?....ぼ、僕.......に何か......? 」


『 .......あ〜〜〜〜....んーと、なんて説明すりゃ良いんだろうな?...色々言わなきゃいけないんだけど.,まぁまずは名前からだな 』





『 俺はザレッド。ザレッド・イニール。......魔王..じゃねえや、魔人だよ、手の魔人。さっき魔王って言うのは....まぁ受け継ぎ期間つーか、代理つーか..言葉の綾つーかぁ...』


いきなり目の前でそんな事を言われて簡単に信じられるだろうか?普通の人なら信じられなかったかもしれない。....ただ恐怖は無かった。何となく良い人だと感じ取った。

『 .......ちょっと此処には用事で来たんだが........なんて言うか、寂しそうなお前見てるとちょっとなって思って.........ん〜〜〜...... 』


何か考えているように見える.....その時の僕は何を考えていたのか分からないけど、今でもとても賢い選択だったと思う。
立ち上がって....腰を曲げてお願いしたんだから。


「 .......ぼ、僕と友達になって下さい!!!! 」

『 ...ん?別に良いぞ? 』

簡単に受け答え。ただそれが嬉しくて....自然に涙が出てきた。夢みたいで、孤独から解放されると知って涙が止まらなかった。


その後すぐに彼は立ち上がって此方に向かって来ては....片手にハンカチを持ちながらもう片手を差し伸べて、少し恥ずかしい様な台詞を堂々と言ってくれた。


『 ......泣くなよ人間.....お前は俺が守ってやる、だから....お前も友達として俺と接してくれよ? 』


その後の事は詳しくは覚えてない、ただたくさん泣いて、たくさん話して、たくさん呆れて、たくさん笑った。友達っていう物を始めてしっかりと感じたんだ。

11:◆rDg:2020/11/04(水) 19:25

その後....彼の血を分けて貰った。最初は彼も驚いていたけど強くなりたいって言ったら少し悩んだ後に受け入れてくれた。血を注射一杯取り込んでしまえば、髪色はピンクに近い赤に、目も黄緑色へと染まって....身体から力っていう物を感じた。


暫くの間稽古もつけてくれた。彼の特技である狙撃も少しだけ出来るようになった。
ゴミの中から素材を集めて頑丈な箱を作ってくれた。色々と変形をして面白くて、自分にくれた、
悪戯もされて、彼は人間らしいんだとも思った...悪質なイタズラな為何回かは怒ったが。
色々な本も読ませてもらって...その後今更何故此処まで尽くしてくれるのかと気になり聞いてみた。

『 .......ん〜.....なんつーか見過ごせないつーか、未来ある若い芽をこんな所で枯れさせたくねーんだよな...まぁ俺の霊術の師からの教えでもあるんだけど、助けられる命は助けたいって奴が....俺も出来る限りそうしようかなって思ってんの .....ていうか、お前名前は? 」

「 .... 」

『 .....え、ないのか?う〜ん....じゃあ、お前も赤に近いんだし.........【 フロッソ・チェーロ 】 って言うのは....あ〜、どうだ? 』


「 ......【フロッソ・チェーロ 】 かぁ.......わ、分かったよ、レッド....有難う 」


『 どーいたしまして.....さ、まだ色々やんぞ?俺の腕でお前は強くて賢い...そんな人間に出来る様にするからな 』


彼は何度でも来てくれたしロッソの方から来る時は城に来いよ?...なんて言ったり、本当に良い人と何度も思った。たまに彼の変な所とか駄目な所...頭を使う戦略とか色々教えたりした。......それから百数年も経てば、自分の体はその頃よりかは成長したけど 老いるって感じが全くしなかった。....多分あの血のせいと考えるも全く後悔はしていない。.....たくさん本が読めたし。ただ僕のこの性格はどうにも....アイツ以外と話さなかったから治ってないけど。....そしてあの頃より出来る事が増えて、一人でも寂しいと思ったりする事が無くなった。壊れた街並みも直って行って人も戻り始めた。....僕は隠居生活みたいに、誰も使ってない廃墟で生活してるけどね。


そんな過去とかがあって、僕は“僕”になれた。
親友でありながら師匠である.....とある魔人のお陰で。
僕は今日も本を読む “賢い人”になる為に。

12:雅◆RI:2020/11/05(木) 19:51

『愛しいという感情』


「あの…いきていらっしゃいますか?」
「……」

初めて彼女に出会った時は、自分を迎えに来た、天使だとおもった

「…聞いていらっしゃいますか?」
「…へいへい、きこえてますよ…というか、おじょーさん」
「はい、なんでしょうか」
「…………いや、なんでしょうかじゃなくて、あんた、こんな血塗れのどう見てもカタギじゃない人間に声かけるとかどうなの?見捨てときなさいよそこは…」

そう、天使に見えた、というのは自分の現状のせいでもあった
ボスから命じられた任務の帰り、突然数名の刺客に囲われた、返り討ちにはしてやったが、人数も人数、無傷という訳にも行かず、自分の血だか返り血だか分からないものを溢れさせながら、路地裏の壁にもたれかかって居たのだ

そんななか、急に声をかけられたら、天使の幻覚でも見たかと思ってしまうのはしかたがない、……と、思う

「いえ、私がここを通って声をかけなければ、明日の朝、ゴミ収集車に人形と間違えて回収されてしまっていましたよ」
「いやねーだろ」

冷静沈着な人間なのかと思えば、急に冗談だか分からないことを言い出す、なんなんだ

「可能性は0ではありません、ですが…カタギ、堅気ですか、なるほど、やはり血糊では無いのですね」

…あぁ、そういえば

「…血なんざ見んのはダメでしょ、ほら、さっさと帰んな」

あまりにも冷静なのでわすれていたが、彼女はどうやら一般人らしい、血糊でないとわかっては…

「はい、わかりました」
「お、結構物分り、っ!?」

グイッと腕を肩に回させられる、なに、何がしたいんだこの子は

「ちょっ、はァ!?なにやってんのお前さん!」
「?家に帰ります、安心してください、私は看護師ですので、医療には精通しています」
「そういう問題じゃねーでしょ!ほっとけっつってんの!!」
「いえ、先程も言いましたが、看護師ですので、ほうってはおけません、それにカタギでは無い、というふうに思いましたので、救急車もだめでしょう?」

この女、全く話を聞かねぇ!というか力強っ!?どうなってんの!?

「とにかく、早く手当をしましょう、さぁ、歩いてください」
「怪我人だってわかってます…?」

強引にも程がある、半ば無理やり引こずられながら、俺は彼女に連れていかれた

13:雅◆RI:2020/11/05(木) 19:52

自分を助けてくれた彼女は『天宮 雪(アマミヤ ユキ)』と言うらしい
どうみても一般人でない俺の世話を焼きながら、彼女はそう教えてくれた

「…んで、雪さん?いつになったら退院できんですかねぇ」
「あと3週間はいけません」
「………あの、俺言いましたよねぇ?マフィア、マフィアなの俺、No.2、偉い人」
「骨にヒビも入っていますし、ところどころの切り傷、銃創も深いものがあります、許しません」
「…………………………」

彼女はかなり肝が据わってる人間らしい
俺を匿えば俺を狙う刺客に狙われるかもしれない、俺があんたをころすかもしれない、と色々と脅してみても、怪我が治るまでは死んでも退院させないとの一点張り、ここは彼女の家なのに退院というのもなんだが…彼女はずっとそう言って、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた

数週間も時が流れれば、名前で呼ぶ程度には、お互いを話せるようになった

「雪さん」
「はい、叢雲さん」
「骨のヒビは完治」
「はい、お疲れ様でした」
「体の傷も完治」
「はい、お疲れ様でした」
「…退院は」
「いけません」

外傷が完治したとて、彼女は退院許可を出してはくれなかった、黙っているはずなのだが、もしかしたら内臓がすこしまだ痛むことがバレているのか…?
観察眼が凄い

許可など貰えずとも、出ようと思えば出られるものを、そんなことを考えることも無く、俺は彼女のそばに居た

14:雅◆RI:2020/11/05(木) 19:52

「……それにしても、雪さん」
「はい、なんでしょうか」

今日も今日とて退院を拒否されたあと、ずっと考えていた疑問を口に出した

「あんたさん、なぁんで俺をここに置いてられるわけ?看護師っても、自分の身の危険くらい察知できるでしょ」

俺が彼女の家に来てから、何度もこちらを狙われた、その度に返り討ちにはしていたが、今後どうなるかなど、聡明な彼女なら予想が着くだろう

「…俺が動けるようになったら、俺がいなくなったら、長期間俺を匿った雪さんは確実に狙われる、分かってるでしょ?雪さんなら」

それなのに何故、と問いかけた
心配…だったのだと思う、その時は気がついていなかったから
でも


「一目惚れをしましたので」

彼女の一言で、自分の中の考えは全て消えてしまっていた


「───は、ぃ?」
「あの日、あなたに一目惚れというものを致しましたので、私は私の初恋を守っただけです」

平然と、そう告げられた

一目惚れ?初恋?何を言っているんだ、想像もしていなかった言葉に、頭が回らない

「あなたを見殺しにして、私は私の初恋を殺したくありませんでした、……………初めての感情でしたから、私もそれが一目惚れだと言うことには、最近まで気が付きませんでしたが…」

ふいと、顔をそむけられ、そしてようやく気がついた

表情の変化が乏しい彼女の顔の代わりに、彼女のその耳は赤く紅く染まっていた


その時、己もようやく気がついた

彼女との時間の居心地の良さ、なるほどこれが…


「雪さん」
「………なんでしょうか、むらくもさ



声をかければゆっくりと振り向く彼女の唇にひとつ、リップ音を落す



「結婚しましょうか」

そう『愛しい』彼女に微笑めば、いつもの無表情はどこへやら、その可愛らしい耳と同じように、顔は赤く赤く染まっていき

彼女は、数秒たって、首を下に動かしてくれた

15:◆cE hoge:2020/11/22(日) 23:39




 神様なんて本当にこの世にいるだろうか。もしいるとしたら神様ってやつはとんでもなく捻くれているし、救いなんて与える気はさらさらないんだ。あの夜からずっとその考えは変わらない。




 優しい両親に、可愛い弟。人よりも少し裕福な家庭。でもその幸せは続かなかった。あの日もいつもと変わらない当たり障りのない毎日のはずだった。

 「 だから、ついてこないでってばぁ!! 」

 「周りの子も一人で街を歩いてるから大丈夫!近所を一周するだけだから」そう両親に訴え作って貰えた一人の時間。それを例え可愛い弟であろうと邪魔をされるのは嫌だった。それにあの子は賢い子だからきっと両親に聞いて私の後をつけてくるだろう。そう思い駄々を捏ねる弟を無視して家を出た。それまではいつもと変わらない毎日だった。街に出るといつもは人が少ない通りも賑わっていた。不思議に思い首を傾げつつもいつもと同じ道を歩いていた。あともう少しで家に着く。そう思い少し駆け足で家に近づくと先ほど路地で見かけた数人が家の中に入っていった。

 「 ……もしかしてどろぼう? 」

 もし、襲われても逃げるには得意だから大丈夫。ふぅと小さく息を吐き、怪しい男の人たちの後をそっと付ける。そっとバレないように慎重に…。


 そこで見たのは弟やお母さんが苦痛に表情を歪めながら私の名前を叫ぶ姿、血塗れになって動かないお父さんの姿。壁や床に散らばる無数の赤____

 目がいいことをここまで呪う日はもうないだろう。地獄絵図だった。どうして、どうして
……
 
 「 …っ!!…ぁ……っ!!! 」


 逃げ、なきゃ…、誰かに助けを呼べばきっと、まだみんな助かるはず……そう思ってただひたすら走った。ただ、ひたすらに。それでも、体力の限界が来てふっと後ろを振り返ると家がある場所から炎が立っていた。

「 ……はっ、あは、あははは、ぜんぶ私のせい……だねぇ 」

 あの時弟と一緒に来ていれば……。みんなと一緒にいれば。そんな後悔が頭の中をぐるぐる回る。ふっと乾いた笑いを零しながらふらふらと歩いていると大きな影とぶつかった。その人はさっき家族を殺した人と同じ服を着ていた。沸いてくるのは怒りでも悲しみでもなく、諦めだった。

「 おじさんが、私をころすの……? 」

 そう、問うとおじさんは数秒固まった後、おずおずと角張った手でそっと私の頭を撫で小声で尋ねる。


「 まだ、走れるか? 」

 小さく頷くと、おじさんはそれを確認し雑に脇に抱えていた大きい外套を被せ手をつないで走り出す。突然の事に少し足がもつれるが私はなんとかおじさんについていった。

 いつか、家族を殺した人達に復讐してやる。そんな想いを胸に秘めながら

16:◆XA:2020/12/11(金) 21:38

 『今でもあなたはアタシの光』


 それはアタシが14歳の冬の日のこと。
 その頃のアタシは光の無い暗闇を当てもなく彷徨うような惨憺たる日々を送っていた。
 サイコキネシスという特異な力を持つが故に親に捨てられ、孤児院でも学校でも嫌われ者、常に誰かがアタシをいじめている、何時しかそれが当たり前になっていた。

 そんなアタシの唯一の居場所、それは海沿いの道路脇に置かれた木のベンチ。この場所で沈む夕日を眺めている時間だけが唯一の癒し。
 当時のアタシは孤児院の門限ギリギリまでここで海を見て過ごしていた、帰りたくなかった――否、誰とも関わりたくなかったのだ。


 その日もクラスメイトのいじめから解放されると荷物をまとめ、いつものベンチに向かった。
 するとそこには見知らぬ女性が居た、その人はいつものベンチに座って海を眺めていた、とても綺麗で凛々しくて優しそうな人だった。

 「キミがルチアだね? 待ってたよ。私はセラフィーナ、マフィアの幹部をやっている者だ」

 セラフィーナと名乗った彼女はマフィアの幹部と言っているがとてもそうは見えなかった。

 「どうしてアタシを待っていたの?」
 
 「うん、君と話がしたくてね」

 まぁ座りたまえ、とでも言うかのようにセラフィーナがベンチの端を叩く、アタシは隣に座った、ほんのりと大人の女性の香りがした。

 「……髪、ずいぶん傷んでるね。せっかく綺麗なプラチナブロンドなのにもったいない」

 セラフィーナはアタシの髪を優しく撫でた、こんなことされたの何時ぶりだろう、確かなのは思い出せないほど昔ということだけ。

 「君の事はいろいろと調べさせてもらった、もちろん君が超能力者だってことも知ってる。それにこんなかわいい娘が超能力者なんて最高じゃないか」

 「あの、怖くないんですか、アタシのこと」
 「マフィアにその質問は愚問だよ、ルチアちゃん。君より怖い人はたくさん居るからね」

 セラフィーナは笑って答えた、沈む夕日より眩しい笑顔だった、アタシは初対面のセラフィーナにすっかり心を許していた。
 それからアタシはセラフィーナとたくさん話をした、両親に捨てられたこと、学校でも孤児院でもいじめられていること、アタシを苦しめている超能力のこと。
 その全てをセラフィーナは真剣に聞いてくれた、嬉しかった、涙が出るほど嬉しかった、この人と一緒にいたいと心から思えた、だから彼女の問いに対する答えは一つだけ。
 
 「ルチアちゃん、私の養子になってくれる?」

 「はいっ!」

 アタシは涙を拭って今の自分にできる精一杯の笑顔で答えた。

17:◆Qc:2020/12/18(金) 20:31

『全ての犠牲の先に』


--とある時代、日本--


「……死んだ、か」

夕方、男が一人。その目の前には、炎に炙られている少年少女、だったものが三名。
……まだ焼け死んでから十秒と経っていないらしく、人の形は保っていた。
これから数時間。骨へと変わっていく様子まで見届けるのが彼の最後の仕事だ。

彼は、日本の村に悪魔がいる、と聞いた『教会』――組織――の命を受けてやって来たチームの一員だった。
そして『それ』を見つけた。
二人の少女、一人の少年。体は痣だらけだった。
幸福に見えた村の中では異分子――陰気なオーラを纏っていた。

とはいえ、そこですんなり捕らえられた訳ではない。
一人目はいくら縛ってもなぜか脱出される少女だった。
更には潜伏も得意なようで、最終的には村民全員を隔離する羽目になった。
二人目は特に抵抗らしい抵抗も見せない少女だった。
楽だった、が一人目と一緒にすると逃げられるのが煩わしかった。
三人目は、『訳がわからないほど強い』少年だった。
一度捕らえるのに犠牲が数十人単位で出た。更には途中から運悪く土砂崩れで増援が来ることができず、最後は奥の手を使う羽目になった。

その奥の手というのが、『教会』が定める悪魔に、副作用を付与するという方法である。
一人目には武器を向けると卒倒するという副作用を。
二人目には平衡感覚をほぼ無くすという副作用を。
三人目には付与できなかったが、片目と片肺と男性を潰して倒れた所を捕らえた。
――――犠牲者は百人を優に越える。


そして、男は空を仰いだ。
想像を遥かに超えていた、という体で。

火が消える。いつの間にか雨が降りだしていた。
骨を拾い、ごつっ、ごつっと音を立てて砕く。
容赦などない。『教会』で授かった能力も使って粉にする。

いつしか雨は激しく、雷雨に変わっていた。
白い、薄汚れた粉が流されてゆく。
雷が直ぐ近くに落ちた。鼓膜から優に血が出る。
それでも、男は動かない。雨が止むまで。

そうして真夜中、雨が止み、雲が晴れてゆく。
男は村に戻り、馬屋で寝についた。




その村を、地獄のような業火が包んでゆく。


差別の対象が消えて一触即発の空気が流れる村民、
幸福感すら覚えて眠る男、
全ての終わりのはずの火刑場、

それら全てを呑み込んで、
歴史の表舞台から抹消してゆく。




遠くの山からそれを眺める三人がいた。
不安そうに薙刀を弄ぶ少女、ふらつきながらも何とか立つ少女、苦しい息をする隻眼の少年。

「……どうしようか」「……決まってるでしょう」「……だな。……逃げるぞ。――それにしても、悪魔、か……」


今、彼らが何処に居るのかを知る者は、どこにもいない。

18:アイディール◆RI:2020/12/29(火) 01:26

【私は『プロト・アイディール(にんぎょう)』】


人形に改造される前は、いつも笑っていた、貧しい暮らしではあったが、そんなの何も苦では無かった

ある日突然、周りのものが浮き始めた、『どうしてなのか』は分からない、怖くて、怖くて、怖くて、助けを求めた

お医者様が来た、お医者様は私を見て微笑んだ
ママとパパと何か話してる、…?なぁに、どうして、なんで私を連れていくの?…ちりょう…?ママとパパは来てくれないの?…にゅういん…?後で…?……うん、わかった


いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

どうして、なんで、いたいよ、こわいよ、まま、ぱぱ


ひざをこわされた、あしくびをこわされた、あしのつけねをこわされた、ひじをこわされた、てくびをこわされた、かたをこわされた

いたいいたいいたいいたい

どうしていつまでたってもむかえにきてくれないの
どうしていつまでたってもでられないの

こわいよ、いたいよ

こわされたばしょになにかをうめこまれる

いたい

あいでぃーる?しらない、ぷろとたいぷ?しらない

わたしはうえんでい



私は人形なんかじゃない





「………ゆめ」
(疲れていたのか、酷く頭痛がする)

「…それにしても、いったい」






「今のは、『誰の』夢だったのでしょうか」

19:◆.s:2020/12/29(火) 01:46

【 夜明けの流星 】


_____60年前 某国国家研究所 実験記録

1960『 人類革新種(エスパー)部門発足 』 

1962『 国内に存在する革新種を拿捕 』

1965『 "超能力"の移し変えに成功 』

________________

1999 世紀末

『 世界初の"人工異能"開発 』

2002 人権問題に関する摘発が行われ
研究に関する資料も焼き捨てられた


_________2015年 3月 29日

俺が "朝焼け" になった日だ

20:◆.s:2020/12/29(火) 02:04

>>19

見返した薄っぺらな資料を机に放り
ずっと世話になってる椅子へ今度は背を預ける

……傾く視線、見えるのは小さな金庫の錆びた扉__


___________

僕が物心付いた時から 親父は良い親父とは思えなかった

誰の生き方にも踏み込んで口出ししては煙たがれ

仕事帰りにはひとりで酒もよく飲んでいた

それに 夜な夜な死んだ母さんを泣きながら呼ぶのだから

僕は眠れない夜を何度も過ごした事もあった。

けど 良い親ではなくても酷い親でもなかった

飯は食わせてくれる 学費も払ってくれる 家事だって…

でも 僕の事に良いことも悪いことも口出しをしなかった

朝の挨拶だって欠けてもお互いに何も言えないほどだ

そんなだから 僕は親父を誰とも思えなかった

同じ家に住んでいても 血の繋がりを感じたことさえも…

21:◆.s:2020/12/29(火) 02:12

>>20

僕が高校に通って暫く経ったある日 親父は重い病気に掛かった。

医者は 末期のガンだと言う 親父は病院に通わなかった

親父は自分で立ち上がれなくなり 僕はバイトをする事にした

___________

高校を中退してから数ヶ月 もう 録に親父は起きていない

何故か 僕は恨んでいるかもしれない親父を憎めなかった

血の繋がっていて 悪いこともされていない

それだけで 親父を憎めるもんかと 僕は1人決め付ける

_____________

高校を卒業したみんなが 思い思いの道を進むなか…

親父は 死んだ。 ……朝の よく晴れた日の事だった

22:◆.s:2020/12/29(火) 02:19

>>21

親父の死を看取ったのは 勿論僕だった

誰とも思えなかった筈の親父が死んでしまったとき

何故か 何故か…涙が止まらなかった。…親父…


…そして 親父は…死ぬ前に こんなことを言った



『 お前の母さんは…"悪"に殺されたんだ 』


____________

親父が死んでから 俺は何とか学校に通い直した

皮肉なことに、金を使う奴が1人になってからは余裕もある

……今でも 親父の最後の言葉が胸の中で生きていた

働きづくめの辛い日々を産み出した"悪" が

親父との会話を奪って母さんの顔を見せなかった"悪"が

"悪が許せない"___その気持ちだけが俺の頼りになった

23:◆.s:2020/12/29(火) 02:26

>>22

高校を無事卒業し 大学に入った

この時点で 俺にはある、人から見れば幼稚な目標が出来た

大学を 卒業し、試験にも受かり …俺は"悪"と

"悪"と戦える職業…即ち、警察に就職した。

忙しさに満ちた日々、だが心の中は誇らしさで一杯だった

顔も知らない母さんに…何より親父に顔向けが出来た

……親父 俺はやったよ…

___________

2015年 警察内でも名が知れた私の元に
とある手紙が届いた。…それはあの時の私にとって
人生最大の"転期"だったが

実際は 今も後悔する悪魔の誘いに他ならなかった

24:◆.s:2020/12/29(火) 02:32

>>23

手紙の内容自体は同封してある資料以外
極めて簡素な物だった。…だが、記された
短い言葉は 私の心を充分に魅せる効力を秘めていた

『 悪 と戦える力を持ちませんか? 』

____________

心を魅せられつつも、当然私は悩んだ
何しろ全くの不明から届いた手紙に
こんな事が記されている、しかも同封された資料は……

結局、私は資料に記された場所へ赴くことに決めた
日々 強大になっている勢力…『グラン・ギニョール』。
…奴らが持つ不思議な力に 一般の警察では太刀打ちなど
到底出来なかった、"力"が必要だった、それも緊急に

25:◆.s:2020/12/29(火) 02:38

>>24

_________忌まわしき思い出 思い出すのを拒否する___

__________

………結果 私は…"異能"を得た。…他に比べれば
弱小な物ではあったが、それは当時の私が求めた
力の基準を大きく上回るものだった。

それでも 最初はその扱いに苦労した
数ある欠点に対処できるまで何度も医者の世話になった…

復帰した私は"異能"と"経験"により
如何なる"悪"とも戦えるようになった。
強大な敵を 悪魔のような敵を 苦難を経ても
必ず私は打ち倒し、それと共に名声と地位は上がる…



______ある時_____


私は ______


子供を 殺してしまった。

26:◆.s:2020/12/29(火) 02:49

>>25


………………

その日、私は『グラン・ギニョール』の構成員を追い詰め
遂に古いビルの一室で"悪"の1人の正体を暴いた……

フードの下から現れた顔は… 何と10代にも
ならないような子供だったのだ。…驚く間に
その子は"異能"を用いて私を殺そうとする

動揺から 私はその子を攻撃することが出来なかった
年端も無いような子供 まだ中学にも通わないような…
そうこう時間を食う内に 現場へ部下が到着した
異能を持たない一般の警察チームだ

子供は部下達にも激しい敵意を向け 異能により
殺傷を試みた! 砕けた椅子の破片が宙に浮かぶ…
動揺に震える手のまま 私は……


銃弾を 麻酔に変える事を忘れたまま

連帯していた銃の引き金を………







_____現場の収集に駆け回る警官達

呆然と立ち尽くす私の足元には…


『 助けて 』


そう言いながら…

間も無く息を引き取った 死体が転がっていた

27:◆.s:2020/12/29(火) 02:57

>>26

______責任問題は当時の私が立てた功績でうやむやにされた

___だが___命の問題は___

_____それで 済むものなどでは無いのだ___



______________


( 回想が、終わり…資料を金庫に納め 固く扉を閉じる )

……あれから 胸の中で息づいていた"言葉"は濁った
…正義 それを振りかざした結果に、疑念以外のものはない


「 ………………なぁ、親父… 」

( 虚空を見上げ おれは腐る程言った言葉を
投げ掛ける… 此れからも、止まらないその言葉を )


"平和"… 見つからないな___

28:◆RI:2020/12/29(火) 16:12

『知らない誰か』


生まれた頃から、すぐ近くにいた

兄妹というわけではなかった

幼なじみ

簡単に、可愛らしく言ってしまえば、自分たちの関係性はそう言われるもの

だけど、自分たちの家は、そんなに可愛らしいものではなかった

源ノ家、龍洞院家、どちらも昔から、名を栄えさせた一族


そこで生まれた自分達は、お互い、長男と長女で


両家のしきたりとして長子は許嫁として、契りを結ぶ


自分達は幼なじみであり、許嫁という、関係性を気づくことになった

29:◆RI:2020/12/29(火) 16:13

「しおちゃん」
「らいくん」

2人だけの会話だった、2人だけの呼び方だった、幼なじみだからというのもあるが、両家が許嫁同士の仲を深めさせようと、よく合わされていたから、いつもふたりであそんでいた


この頃は、ただただ、何も知らない子供だったから、楽しくて楽しくて仕方がなかった

30:◆RI:2020/12/29(火) 16:14

そして、頼が8つになった

7つまでは神の子、それまで子供は無垢なまま


もとより、頼には先祖返りの言があった

『源頼光』

とても有名な、源ノ家のご先祖様

それに加えて、その頼光の記憶を、頼は8つになった途端、全てを得ることとなった

「…らいくん?」
「………なぁに、しおちゃん」

頼が8つになってから、2人だけの会話に、何かが混じっていた


「…………」
(しらないひとが、らいくんのなかにいる)


幼い栞にも、それだけはわかった


そして、栞も8つになったとき、自分たちの生活は変わった

頼は『祓い』の修行を、栞は『巫』の修行を

時間が経つにつれ、頼には4人の弟達もでき、修行の時間に削られ、2人の会う機会は、少なくなっていた


息苦しい

31:◆RI:2020/12/29(火) 16:14

当主として相応しく、嫁ぐ身として相応しく

躾と、修行と、生活

どれをとっても息苦しかった

家にいることが苦しくてたまらなかった

誰も信用出来ない、全てが嘘で、世辞で、自分たちを使い潰そうとしている

それでも



頼には弟達がいた/栞には何も無かった

32:◆RI:2020/12/29(火) 16:14

時間が経った、ある日のこと

頼が、大怪我をして帰ってきた

治癒の力を持つ栞も、治療に呼ばれた

ほぼ、殺される寸前、一目でそうわかるほど、怪我は酷かった

祓いの仕事でも、こんなものは無かった


治療のために、つきっきりでそばにいた


そして、意識を失っていた頼が目を開いた

栞は喜んだ、久しぶりに感情を昂らせた

でも



「酒呑童子に会った、早く、殺さなければ」



頼が最初に言葉は、栞が何も知らない言葉だった

頼の顔で、姿で、声で


『中にいる誰か』が、そう言葉を吐いた


「……………」
(『誰が』、話してるんだろう)


額に乗せるための濡れたタオルが、ポチャンと、桶の水に水滴を落とした

33:◆RI:2020/12/29(火) 16:14

高校生になった

この時点で、二人の時間はほとんど無かった

2人は分厚い、皮を被った

「優しい」「頼りになる」「かっこいい」「かわいい」

外面だけを見た周りの声に、とっくにふたりは慣れていた

誰も、信用してはいなかったけれど




今の2人だけの時間は、登下校の徒歩の時間だけだった

34:◆RI:2020/12/29(火) 16:15

「らいくん、私、家出する」
「………………………………は?」
「だから、しばらくらいくんのお部屋に泊めて欲しいな」

ある日ふと、脈絡も無く、ニコリと笑いながら放たれた言葉に、驚愕を浮べる他はなかった


栞は言う、息が出来ないのだと、ただ窮屈で、息苦しくて何も無くて、そして

「信用出来ない」

そう、笑みを浮かべたまま、告げられた言葉に、頼は酷く違和感を覚えた

だって知っていたから



栞はもう、頼のことすらも信用していないと、しっていたから



「…………うん、誰も信用してない、けど、私が誰も信用してないって事知ってる人、らいくんしかしらないから」

だから、ちょっとだけ、息が吸えるの

そう、彼女は、少し悲しそうに、微笑んだ


そんな栞の表情を、頼は今まで、1度も見た事はなかった


「……………」
(だれだ、この人)



いつの間にか、僕らは



『知らない誰かになっていた』

35:◆cE hoge:2020/12/29(火) 17:18



 ナツ姉様…、ナツセンパイは不思議な人だった。いつも笑っているけど、人の輪に入るのが苦手。成績、運動どちらともにトップクラスだが、その手にはお嬢様らしからぬペンだこがあったし、誰もいない体育館で様々な競技の練習をしているのを見たことがあった。
不思議な人、理解できないと思った。

−−−−−−−−−

 ほたるちゃんは噂で聞いていた。孤児でありながらその優秀さでこの学院に主席入学。
苗字はないこと。授業は単位習得に必要な時間数しかでないがどのテストでも絶対1位のこと。ずっと一人な所。
真逆の人だったし、もうこの頃から彼女のその才能に嫉妬していたのかもしれません。

−−−−−−−−−

 「 今日も退屈だなァ…なーにか面白いことないかなァ 」

 恐らく関わることはないと考えていた相手との接触はとても簡単に出来た。ガサゴソという音がしてそっと草茂みを見るとこちらを見て驚いたように目を見開く夏空のようなの瞳…。確か、興味があったから覚えてる、努力の天才、いや秀才。

「 ……ねぇ、あなたここで白い子猫見なかった? 」
「 見てないゾ〜、それより夏葉センパイ…?であってたよナ?」
「 ……?えぇ、それがどうかしたの? 」

 どうかした、面白そうだから声をかけたと言っていいのか悶々と悩んでいると、くすりと目の前にいた彼女は吹き出し、そのまま目元に浮かんだ涙を拭う。

「 あなた、天才と呼ばれているみたいだけど…国語は苦手なのね、ほたるちゃん 」
「 ……別に、あんなの問題を作った意図を理解すれば簡単、だし 」
「 ふふっ、さぁどうかしら? 」

−−−−−−−−−

「 えっ、それだけでは姉妹になった分からない……そうですね、ああ、お互い本当に猫が好きだったんです、それで仲良くなってと言ったところでしょうか? 」

 「 ----------------? 」

「 卒業してから連絡ですか…いえとってません。…私は学院在籍中も卒業後もあの子の姉として何もしてあげられませんでした。……いえ、警察の方にはこの話は関係ありませんね、でも少なくともあの子は自分から死を選ぶような子ではありません。これだけは確かです 」

−−−−−−−−−

「 おっ、猫!……おっ、お前は人懐っこいのか、嫌いじゃないゾ〜 」

 そっと猫の頭を撫でながら先ほどまで考えてた事を思い出す。気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす猫をみてふっと微笑みながら告げる。

「 ……ねこ〜、わたしな昔から国語が苦手でなァ〜、感想文をかけっていう宿題が出た時センパイに手伝って貰ってたんだよ、ほとんど書いて貰ってたのほうが正しいか 」

 まぁ、時効だけどな!そうつぶやきつつ、ぼんやりと考える。どうしたら良かったんだろうな、まぁ今さらだけど。そのまま彼女の意識は手をすり抜けていった猫に向けられた。

「 あっ、待って!! 」

−−−−−−−−−

 机に置かれたチェーンの切れたペンダントの中身を見て、そっとため息をつく。どうしたら良かったのかなんて分からなかった。それはきっと今も同じ。そっとため息をつき窓を開けて空を見上げて。そう言えば蛍がこの時期見れるんだっけ。そんな事をぼんやりと思い出してペンダントを握り締める。

「 少し、気晴らしに散歩でもしようかしら…? 」
 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「 夏空と蛍 」

36:◆XA:2020/12/31(木) 13:16

『シャングリラ戦記 ~prequel of Lucia Bring~』

「シャングリラ、前々からいけすかない街だとは思っていたけど、まさかここまで酷いとはね」

 セラフィーナから渡された報告書に目を通し、ルチア・ブリングは甚だ呆れて呟いた。
 ルチアにとってシャングリラとは異能者差別の象徴、自身の昏い過去を思い出させるモノだ。
 しかし報告書の記述を真に受けるなら異能者の脅威が存在しない街、という謳い文句からして真っ赤な嘘、実態はその逆、異能者の跋扈する伏魔殿に他ならないと言うのだ。

「……理解できないわね、こんなことして一体誰にメリットがあるのよ」
 
 異能を持たざる一般人にとっては政府に裏切られたと言っていい状況、異能者にしてみれば筋金入りの異能嫌いの中に放り込まれたことになる訳で、居心地が良いとは言えないだろう。
 当然政府は信用を失い、最悪暴動だって起こる。これじゃあ誰にとっての楽園(シャングリラ)か分かったもんじゃない。 

「そして、流入しているのは異能者だけではないと」

 再び報告書を手に取りあるページを開く、見出しには『シャングリラ流入組織及び人物の一覧』の文字。
 そこに記されているのは裏世界に精通している者なら何かの冗談だろと疑うほど錚々たる顔触れ、それはつまり裏世界で五本の指に入るような剣呑な奴等が異能者と接触すると言うことに他ならない、もし彼等が何らかの手段で異能者をシャングリラから連れ出しでもしたら、あるいは彼等自身に異能が宿ったら?
 それはマフィアがルチア・ブリングという異能者を有するアドバンテージを失うと言うこと、セラフィーナはそれを最も危惧していた。
 そして政府が信用できない以上、いつ最悪の事態が訪れてもおかしくはない。

 ならばルチアがすべきことは一つだけ、覚悟は決まった、迷いはない、後悔もきっとない。

「セラ、これでやっと貴女に恩返しができる」

37:◆RI:2021/01/09(土) 21:26

──────────────────────
『シキ・アクアティーレという人物について』

[極秘資料](持ち出し禁止)

これは□□年前に起きた世界的事件【[削除済み]事件】と、その後に起きた【世界最大規模集団自殺事件】について、そしてこれら2つの事件の中心人物
『シキ・アクアティーレ』またの名を【救世主】についての情報を記したものである。

ここに記された情報が表沙汰になれば、世界中が再び混沌に晒される可能性が非常に高いため、どのような理由があろうとこの資料を外部に公開することを禁ずる。
コピーを取り政府内に配布する必要がある場合は、関係者以外に絶対に見られない場所にて配布し、配布された場で確認、確認終了後、即刻その場で用紙を燃やすこと。

以下、対象者の情報と判明している限りの事件の詳細、現在の対象者について



[対象者名]
シキ・アクアティーレ

[性別]
不明(見た目を変えている可能性が高いため断定不可)


[容姿]
事件当時の目撃情報:男性寄りの見た目、白色の瞳、左の目元に黒子、左耳に青の耳飾り、青みがかった黒髪の短髪、軍服らしき服に黒いブーツ、白衣を纏い、煙管を咥えていた

現在の目撃情報:女性寄りの見た目、白色の瞳、左の目元に黒子、両耳に青と銀の耳飾り、青系色のグラデーションがかかったインナーカラーをした黒髪の長髪、中華系等の服に白衣を纏い、左足にベルトを数本付け、ハイヒールを履いている


[異能]
痛覚遮断、超速再生、不老不死のいずれかだと思われる×

修正:天眼通(千里眼と呼ばれるものだが、彼/彼女は仏教の『六神通の一』の名でよんでいる)

修正前の予想していた不死性は、本人曰く『呪い』であるらしく異能とは別物との事(詳細は不明)


[詳細]
研究や医療に携わっていた経歴があるが、[削除済み]
異能に関する研究・実験の殆どにその名が記載されている(事件前に記されたものは[削除済み])

[削除済み]事件解決の立役者
全世界を救った【救世主】として讃えられた人物
とある場所ではあまりの情報の少なさから、彼/彼女を神の使い、もしくは神そのものだと崇める者も少なくはなく、世界中から彼/彼女を信仰しようと、数千人〜数万人規模の宗教が一時期存在していた。

世界最大規模集団自殺事件の犯人
自身を崇めていた宗教の信者達の全てに自殺を促し、実行させた。
どう言った方法を用いたかは不明だが、【救世主】が信者を死へと導いた、という事実を持って、世界を救える力を持つ者が巨大なコミュニティを破壊できると知らしめた。


『世界を救った』という偉業を成し遂げたとんでもない知名度をもつ人物がこんな非人道的な事件を起こしたと世間に広まれば、全世界が渾沌に苛まれることは間違いない。そこで、我々は『シキ・アクアティーレ』に関する全ての情報を回収し、【救世主】を知っている全当事者達に、カバーストーリー[新型ウイルスとそのワクチン]を配布し記憶処理剤を投与、【救世主】を我々政府以外の歴史から消失させた。



そして現在、『シキ・アクアティーレ』を名乗る人物が、我々の[シャングリラ]に自ら投獄されている。どうやら今は『グランギ二ョール』の幹部として動いているよう。
おそらく本人に間違いないが、上記の通り今の彼/彼女の姿は事件当時の姿とはまるで別の姿をしているため、もしこれが本当に別人でないとすれば、彼/彼女は以前とは自身の容姿を変えて生きていることとなり、シャングリラ内でまた姿を変える可能性があるため、特定には注意が必要。


彼/彼女に対しての現在の詳細は都市警察からの追加情報として別資料に記載することとする。(設定置き場での設定)





※シキ・アクアティーレには、最大限の警戒をするように務めよ、これは絶対命令である。

──────────────────────







さて、これが僕の極秘情報だそうだ
頑張って集めたものだねぇ、まぁ、いくつかはこちらが提供したものもあるけれど

多少の違いはあれど、一応、これが正史だとも
さて、君は僕が



『何に見えるかな』

38:ヤマダ◆o6 なんだこれ:2021/01/24(日) 11:36

『不死身の男』

昔、こんな小さくて辺鄙で田舎臭い村に爺さんがやってきたことがある。
そのジジイは巷で流行りの映画だかを作ってて、まだ5つか6つのガキだった自分にそれをタダで見せてくれた。
小さい俺にはてんで意味が分からなかったが、まるでサーカスのような暗いテントの中が好きで、何度も何度も見に行った。俺以外に見る人がいなかったからなのか、爺さんはいつも笑って歓迎しては俺の頭を撫でてくれた。
今や結末も何も覚えていない。夢のような日々が過ぎ、やがて映画爺さんは死んだ。
あの映画が遺作だったんだと気付いたのはそれから何年も経った後だった。

「こいつを差し出します! ですから村人の命だけは…」

窮屈な町の外に捨てられてたのを村長が拾って16年。
今まで散々コキ使われてきた俺は、突然やってきた謎の研究所とやらにいとも容易く売り飛ばされた。

「あはっ、かわいい男の子…あたしがもっと素敵にしてあげるね?」

まるで奴隷のような人生。
俺は死ぬまで幸福とやらを見つけちゃいけねえのか。
…いや、ちがう。俺ぁ『死んだ体』で見つかりもしない幸福を永遠に探し続けるんだ。
くそったれの研究所のせいでな。

なぁ、爺さん。俺ん頭を撫でてくれたのはアンタだけだったよ。
忘れちゃいねえ…忘れちゃいねえよ……


……

「ギャアッハハハ!! 来やがれゴミ共! オレがぶっ殺してやる!!」

こんなクソみてーな体になっても、何も考えられない頭になっても、
あのつまんねえ白黒映画と、その隣で笑うアンタの笑顔だけは忘れないでいる。
それだけでいい。それ以外いらない。俺ん『幸福』はたった一つだけだ。

泥ん中でもがいてるような人生。それでも幸せだったんだ、あの時だけは…
なぁ、返事してくれよ、爺さん……

…ザァ、降りしきる雨が俺の体を穿つ。
横たわった地面に赤い血が流れていた。

「…」

思い出したよ。血の温もりも映画の結末も。
最愛の恋人が死んじまう時、最期に…


「……幸せだった」

雨に混じって、涙が微かに流れた。

39:ヤマダ◆o6 なんだこれ:2021/01/24(日) 11:57

僕の名前はラック。小さな村の夢見る少年。
いつかお金を貯めて広い街で暮らす為に、毎朝新聞配達に勤しんでいます。
とはいっても、新聞配達で得られるお金が実にちっぽけなのは事実。
なので僕は村の「なんでも屋」として、朝から晩まで民家を駆け回り小遣いを稼ぎました。
そうして10年ほどが過ぎた時…ようやくお金が貯まったのです。

まあ、街に出て何をするかというと、僕の願いはただ一つ。
綺麗な女の子とイチャイチャしたい。あと金もそこそこ稼ぎたい。てかモテたい!
一つと言いながら三つになってしまいましたがどうでもいいです。
村の人達は旅立つ僕に「護身用だ」と一丁の拳銃を渡してくれました。
それを腰のベルトにしまい、準備は万端。
さあ行け、ラック! かわいい女の子が待ってるぞ!

…なんてのは束の間。僕は村を出てすぐに道に迷いました。
地図の見方が分からないせいで東西南北が分からず、右往左往。
終いには治安の悪い町にふらりと立ち寄ってしまい、そこで盗賊みたいなガラの悪い男に絡まれました。

「おいガキ、てめえ金目のもん全部出せや」
「へっ…金目のものって僕なにも…」
「しらばっくれてんじゃねえぞボケ! ちょん切られてえのかよ!!」
「ひああああああ!! それだけは! それだけはあああああ!!」
「やかましいんだよ! …ん? なんか持ってるじゃねーかお前」

盗賊は僕の腰を見つめて、いかにも悪そうな感じでにやりと笑いました。
そうです、拳銃です。村の人達から護身用だと称して貰った大切な拳銃。
それをここで奪われてはならない…僕は必死の思いで拳銃を取り出し、男に向けたのです。

「とっ、盗賊野郎! それ以上近付くなら…っう、撃つぞ!」
「はっ? おい、やめ…」

パンッ!その時、乾いた音が僕の耳朶を叩きました。
反射的につぶった目をゆっくりと開けると、銃口から仄かに漂う煙が目に入る。
はい、僕はテンパって暴発してしまいました。

「ぐあああ…いてえ…!!」
「へぁ、えっ、うあ、うああ! わっ、ごご、ごめんなさい!!」

男は負傷した腕を抑えて悶絶しました。
ああ、これはやってしまった…村の人達から貰った拳銃で他人を撃ってしまうなんて、完全ご法度案件。
これはお縄で人生オワオワリ。女の子じゃなくむさ苦しい男が煉瓦を挟んで隣に並ぶ日々が待っている。
それだけは! 嫌だ! 嫌だあああああ!!

「…では、そなたを騎士に命ずる」
「…はい?」

なんと、僕が拳銃で撃った男は国王暗殺を企てていた奴らの一味だったそうで、その男を倒した僕は一躍英雄となりました。
まあちょん切られるのが嫌でテンパって暴発したら暗殺者でした、とか言えるわけもないのでそのまま押し通し、僕は言われるがままに王城の騎士になりました。

「ぼっ、ぼく騎士じゃないんですぅぅ〜〜! うあああ!!」

けれど、現実はうまくいかないもの。
毎日敵の刃から逃げて逃げて逃げまくり、なんとか命を繋いでいます。
王城の最弱の騎士…いつか辞めるために僕は生きていく。

40:叢雲◆RI:2021/01/24(日) 19:35

『血に消えた愛しい記憶』

「………ゔゔぅ……………」
「そう唸るんじゃなぁい、褒めただろう、『良い目』だと」

めのまえのおとこは、けいかいをとかないおれにたいして、そうなだめるようにわらっていた



これが、俺と家族の、最初の記憶



「………あ、の…」
「よく似合っているじゃあないか!……ん、なんだ、やっぱりまだスーツは息苦しいか?……そうだな、それはお前がもう少し大きくなってからにしておこうか」

スラムにすんでいたときとはぜんぜんちがう、キレイなふく、すこしのどがくるしくて、でもいうわけにもいかなかった俺に『あの人』はあたまをなでながらきづいてくれた


「っ………!」
「踏み込みが甘いぞ!!殺.すつもりで来い!」

次にわたされたのは『みかげ』だった、この時から、文字の読み書きと、たたかい方、何もかもをつきっきりでおしえてくれた、きびしくて、辛かったけど…でも


「だでぃ」
「ん、あぁ、帰ったか、怪我は?……よし、偉いなムラクモ、でも一応先生には見せておくんだぞ」

この時にはもう、色んな仕事を任せてくれるようになった、帰ってきたら心配してくれて、いつも頭を撫でてくれた


「ボス!」
「はっはっは!!怖いぞムラクモ!後で仕事はするから!見逃せ!」

俺がNo.2になって、ボスは抜け出し癖がまた出てきた、多分、俺が追いかけられるようになったからだ
でも仕事はして欲しい、俺が大変だから



「初めまして」
「……えーと、こちらが、天宮雪さん…デス」
「………………………………………………え」

流石に、驚いたようだ、そりゃそうだ、女に興味がまったく無かった俺が、任務から連絡が取れないと思ったら、嫁さん作って帰ってきたんだから、……でも、ちゃんと喜んでくれた、……ありがとう、ダディ


「……………………………………………………」
「……ムラクモ」

しんだよ、まもれなかった、だいじなひとだったんだ、だでぃとおなじくらい、ああ、あああ、ああああ






「ぼーすー?????」
「ムラクモ!くそ見つかったか……分かった分かった、帰るよ、……一緒に帰ろう」

長く付き合わせてしまった、でも立ち直ったよ、多分、辛いけど、でも、俺はちゃんと頑張るよ
2人だけで一緒に帰るなんて、久しぶりだなぁ、……しあわせって、こうい















しあわせだったなぁ
なぁ、ぼす

ぼす……?
どうしておきないんだ……?
みんなころした、ころしたよ、だでぃ
おれのぶかをころしたやつも、おれのどうりょうをころしたやつも、おれのいばしょをこわしたやつも、みんなころしたよ




あなたをころしたやつもころしたんだ、だからほめてよ、あたまをなでてよ、とうさん

41:◆cE hoge:2021/01/24(日) 21:39


「 るりちゃん、やくそくをきめませんか? 」
「 ……?なににたいしての? 」
「 るりちゃんがかいぶつに……ううん、おれといっしょにいれるためのやくそく 」
「 ういくんとボクが…?…ううんいいよ 」
「 ぜったいにひとをころさないこと!…いい? 」
「 うん、わかった!! 」

 

「 …さん、ちょっとお嬢さんってば!!こんなとこで寝てたら風邪引きますよぉ 」
「 うぁ……るさい、そんなやわな体じゃ、ない 」

 その声にはっと目が覚め、呆れたいつもの顔を見てそのまま視線を時計に移し小さくため息をつく。部屋が汚いだのなんだのいう小言を無視しながらさっきまで見ていた夢を思い出す。あれはいつだっただろうか、小さい頃何も考えてなかった頃の懐かしい、夢。そういえばあの約束の期限はいつまでなんだろう。


初、ういくんとボクが一緒にいるための約束……、


  ならいつかういくんが辞めてしまったら? ボクは目的のためなら人を殺してしまうのだろうか?そんな事を考えながらそばに落ちていた書類をながめそっとため息をつく。

「 初は、小さい頃の約束覚えてる? 」
「 ……あぁ!!あの約束ですか?、もちろん覚えてますよぉ……それがどうかしたんです? 」
「 期限…、あの約束の期限はいつまでなの? 」

 いつの間にか目の前にいたういくんは呆れ顔を浮かべながら思いっきりデコピンをしてくる。

「 相変わらず感じなとこで馬鹿ですよねぇ、るりちゃんって 」
「 なーに言ってるんです、お嬢さんと俺どちらかが死ぬまでに決まってるじゃないですか?、まぁ?今更あの約束なしとか言っても聞きませんけどねぇ 」

 得意げな笑顔を浮かべこちらを見下ろす彼の脛を蹴り痛がるういくんを見ながらそっと笑顔を浮かべる。きっと

「 欲しかったのはその言葉 」

42:名を捨てし者:2021/01/24(日) 22:01

[ 赤の魔物達 ]

昔、魔人から送られた昔話 ....其れは本当に本物なのだろうか?

_______これは正しく綴るべき“赤の魔物達”の歴史だ。



ある所に“種族不明 年齢不明 性別不明” ...そんな謎の一人の魔王が居ました。その王は悪のカリスマ、悪の正義、悪の救世主と魔族に讃えられて憧れでした。しかし..... その魔王 赤子を殺したりする事など出来ない 精神はまだ魔王の器と呼ばれる者では有りませんでした。

それでもその優しさは“本物” 困り事があれば助けて 決して無益な殺生はせず その優しさは ....所謂“強者の余裕”と誤解を招き それが魔族に伝わり 推薦されて ...結果今の立場になりました。

        クリムゾン
その王渾名は【 深紅の者 】

本名は「アリス・テレス」という者でありました。


そんな魔王は困っていました。人手が足りません。部下達はとても優秀なのですが 仲間割れを起こしたり 正義の者達の襲撃により数を減らすばかり ....それでも部下の力だけで彼等を蹴散らす事が出来ていて、魔王自体が手を出す事は無く その実力が露呈する事は有りませんでしたが....。

しかしこのままではいけないと悩んでいた矢先 とある噂が舞い込みました それは....巷で問題を起こしている魔物達です。

ある魔物は盗みや悪戯 機械の解体を起こす 【 赤手 】
ある魔物は人々を無理矢理笑わせたり泣かせたり 何人かは植物人間にする 【 赤面 】
ある魔物は子供達に手術という名の治癒をしたり、夜中に霊を引き連れて子供を追いかけ回す 【 赤霊 】
ある魔物は森や家を燃やし 囚われている動物を解放した 【 赤猫 】
ある魔物は街を氷で覆い尽くし 解除させる代わりに莫大な量の酒を貰った 【 赤鬼 】

そんな魔物達に困っていた所 魔王は彼らを ....仲間にしました。部下ではなく、対等な存在として迎え入れました。

欲しい物があるならば挙げて、不満が溜まっているのならば解消させて、決闘を望むなら此方から手出しはしない代わりに相手をしてあげ ....楽しませ、満足させる事が出来ました。

魔王は気付きました。彼等は一つを除き五感が弱いと。だから彼は ....しっかり生活出来る様に戻しました。

_____それが彼の立場を更に苦しめるなんて その時は全く思わず、ただの善意で。

43:カミサマくん◆jw:2021/01/25(月) 01:05

禍々ール ( マガマガール )
これは傷の代理者の住まう世界の中で起こった小さな物語である。


いち




窓の外は今日も白く、濁っている。
うっすらガラスに映る、自分の顔。

「目、コスりすぎちゃった」

ところで、今冬なのかな? 寒くなってきた。ちょうど目の前のノートをテキトーにめくり、ナメクジのイラストが描かれたページが目に入る。

「 はわぁあぁあ!!もーーかわいいっ! 」

思わず口に出してしまった。
自分は、ナメクジが好きだ。
どうしてナメクジが好きなのかは知らない。プルンとした形がいいから? 生きるために必死で地面を這うから? どうしてだろう? そんなことを考えているうちに、わたしにとっての大好きな時間がやってきた。

「 マイちゃん…!! 」


ヌメヌメ …………蛞蝓’


「 ゴハンよ〜〜!マイちゃん」

「 いま行く〜〜!」

目に入ったのは、机いっぱいに広がるシチューとトマトサラダとたくさんのフランスパン。それと、席につくお父さん、お兄ちゃん、お母さん。

「 すご!お母さん、今日なんか豪華だね 」

「 マイちゃん、この間、シチュー食べたいって言ってたから。いっぱい食べてね。
シチューにはマイちゃんの好きなものいっぱい入れたから、きっと美味しいはずよ」

「 おぉぉ!」

「 マイ、気にせず沢山食べるんだぞ。
俺が働くのは、おまえがうまいモン食って欲しいからなんだ」

あたたかい。シチューの香り。パチパチと鳴る暖炉。お母さんとお父さん。お兄ちゃんはいつも冷たいけど。まあいいや。

「 えぇぇ、お父さん、マイ泣きそうだよ。
シリアス苦手〜〜!とりまいただきまーす」

1 8 さいのわたしは十分幸せな日々を送っている。今のところ、生きてて楽しい。でも、そんな日々もいつか終わるに違いないだろう。今は、その終焉に怯える日々でもある。だから常に、わたしの中にいるわたしの背後はうごめいていた。

44:カミサマくん◆jw:2021/01/25(月) 01:10

禍々ール ( マガマガール )


にぃー




夜。23時36分。寝る時間。
カチッ カチッ と時計の刻みが響く部屋。わたしは、隣のお母さんに告げられる。

「 マイちゃん?起きてる?」

「…んぇ? …なーに、お母さん 」

ベット横のランプをつけるお母さん。光に当てられたお母さんの顔は少し変だった。眉を八の字に顰めている。どこか気まずそうにして、目線はぜんぜん合わせてくれない。

「 今から話すことはとても大切なこと。
もう、アナタと暮らして5年経った 」

「 …ううん、5年と2日だよ、お母さん」

「う、うん。5年と2日。
それでね…」

イヤな予感。手汗がひどい。

「 アナタは来週で、当初の予定通り、ここを出なくてはならないの」

「 えっ………と、当初?なにそれ。
…えっえっ…と、でも、わたし家族だよ?
家族ならお互いがイヤじゃない限り、一緒にいてもおかしくないよね?お母さんは一緒にいるのがイヤなの?」

「…そういうわけでじゃなくてね、」

わたしは思わず、お母さんの手を握った。
心臓がバクバク鳴って、思考が回らない。

「ええ!やだよ…やだよっ!」

お母さんは何も言わない。
お母さんは手の力を抜いたまま。
お母さんは申し訳なさそうに目を閉じた。
ひどい。今までがんばってきたのに。わたしも、わたしの中のわたしの背後も。

「………今日はもう、寝なさい」

「ふええっ、なんで!
わたしお母さんともっといたい…… 」

親愛こそがわたしにとっての答えだと思ったのに!お母さんの手が私の手から、スルリと抜けた瞬間、わたしの中にいるわたしの背後は大きくうごめいた。

「 大丈夫。アナタは強いから。
それにみんなアナタと同じように、外の世界に出なくてはいけないの 」

お母さんが部屋から出て行ったあと。
わたしの目からは、一粒の涙が一本の筋を描いた。以降、涙がいっぱい溢れてできた。
「ぷぇえぇえぇえぇえぇえぇえん」
涙が止まらないので、素直にギャン泣きして目をコスりにコスった。血が出るまで。結局、眠れたのは朝の 3 時 から 4 時の間のみ。頭の中はぐちゃぐちゃで、わたしは、背後に任せようと決心した。

45:カミサマくん◆jw:2021/01/25(月) 01:16

禍々ール ( マガマガール )


さんっ




「 マイちゃん…!! 」

お母さんの声。

「 マイ!!! 」

お父さんの声。

「 ……… 」

お兄ちゃん。

午前11時35分。
「わたし」の、目が覚めた。気づけば、手にしていたのは縄とナイフ。そして、目の前には、椅子にグルグルにくくり付けられたお母さんとお父さん。と、床に伏せている 赤々しい お兄ちゃん。わたしにとっての大好きな時間は いま 。
ーーナメクジが描かれたノートを閉じた。

「 マイちゃん…!! 」

お母さんの必死な声。大好きだよ、お母さん。だからこそ、もう我慢できないの。本当のわたしは、わたしの中のわたしの背後にいたの。多分、本当のわたしは止められないの。
ーーナイフをつよく握る。お母さんを見つめる。何か言ってるけど分からない。ハァハァ、自分の荒い呼吸で視界が曇りそう。大量の酸素で頭がイッちゃいそう。

ドンドンドンドン!!ァケロ !!

扉の音だ。続いて「 ウォンウォン 」と警報音も鳴った。そのあとはうるさいアナウンスが。

『 マイ!これは更生プログラムだ! 』

「はーー?なに言ってんの?」

『 マイ!
そこにいる人たちを解放してあげなさい!!』

「は?は?は?
ぜんぜん意味わかんないんですけど」

ドンッッ!!
扉が歪んだと思えば、車でも突っ込んできたのかと錯覚するぐらいの勢いで、扉そのものが木屑としてバキバキバラバラ散った。そこから、背丈の高いスーツを着た男が姿を見せた。男は大きな剣を持っていて、その剣含め、わたしはそいつをよく知っていた。記憶が生き返る。

「久しぶりだな、ナメクジの化物」

ヤバ!と思ったのは、わたしと背後、両方。
ーー男は、わたしの全てを語り出しそうだ。
そうなれば、今までの二人の努力が台無しになる!今まで、箱を開けないよう必死に演じてきたのに。わたしの性を殺してがんばってきたのに。

「 オマエは何ら更生しちゃいねぇ。
覚えてんだろ?13 歳 のときのことを。」

だめ。だめ。だめ。
開けたら、もう二度と戻れなくなっちゃう。

「 ××中学校事件」

あーーーー。

「オマエは、数名ものクラスメイトを襲い、ナイフで刺した。のみならず…」

あーーぁ。開けちゃった。パンドラパンドラ。
男は続けて、言う。

「一名の男子生徒は皮膚を剥がされ、
二名の女子生徒には生かしたままの状態でひでぇ拷問を行った。それで、他の生徒のすべての死体を弄んだのちに…」

「 弄んだのちに、
クラスメイトの生首を警察署の前に遊び半分で置いた。しっかり覚えてる。楽しかったのも覚えてる。生首の目をくり抜いたのも覚えてる。それで興奮したのも覚えてる。生首の口元に、いたずら手紙を挟んでおいたのも覚えている。そして、わたしはアンタたち、化物狩りに捕まって、こんなクソみたいなプログラム受けさせられていたのも覚えてる。ここの人たちと家族ごっこしていたのも覚えている。お母さんはお母さんじゃないのも覚えている。お父さんがお父さんじゃないのも、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないのも。ぜんぶ覚えている。そもそもわたしが、人間じゃないことも、何もかも…すべて覚えてる。」

目の前の長身の男は、「それなら」と言って大剣を振り上げ、剣先をわたしに向けた。

「オマエたちはなぜだ。なぜ、快楽に負け続けるんだ?人間と同じように暮らすチャンスはあったのに」

箱からぶぁぁぁぁー記憶が泡のように生き返る。その記憶たちが息を吹き返して、わたしにイイことをたくさん教えてくれる。あぁ、もう、ぜったいに戻れないな。

「決まってるじゃん。
それが、すんごくきもちいいから。」

46:◆rDg:2021/01/26(火) 23:59

>>42

[ 赤の魔物達 その2 ]

魔物達は次第に“魔物の姿から人の姿”へとなっていきました。そして精神は魔物に似つかわしくない 小さな光を持ち ....“魔王五位” と呼ばれた事もあったそうな...。

赤手は百足の様に手が無数に生えた魔物でしたが (魔物の姿については諸説有り)次第に“魔人” と呼ばれる様になり 物を持ち運びしたり 書物を纏めたり と魔王に一番近い側近でした。後の「ザレッド・イニール」である。

赤面は黒い球体に濁った色の面が多数張り付いた魔物でしたが ある仮面にその身体を取り憑かせ “付喪神”と言う存在になり 人々を喜ばせたり 何か不祥事が起きてないかと街中の監視などをしていました。後の「面皮赤仮」である。

赤霊は耳が蝙蝠の様に大きく長身で全身が白肌と恐怖の魔物で幽霊でしたが その存在が認められてからは逆に 子供達が夜更かししない様にと 少々行為が認められたり 真面目に魔人や魔王の手伝いをしたり 魔族の治療をしました。後の「ブレシュール・ルージュ」である。

赤猫は火炎が身を包みその炎の形相から百獣の王と勘違いされる程気高く そして強い魔物でしたが 実際は心が温まり癒される程可愛らしく 飯を上げれば一緒に遊んでくれる 優しい魔物であり また番犬としての役割も果たしました。後の「メラー・レギオン」である。

赤鬼は刺々しい氷の羽衣を纏い その氷は透明では無く血で濡れており とても怖いと噂されていましたが 実際には酒と強い奴が好きな鬼で 弱いもの虐めはせず 基本誰にでも均等に接しました。次第に血の氷も溶け 現在は幼い姿で 青の色にも通じる様になり 魔物達から頼られる存在になりました。後の「ヴェルメリオ」である。

 

そんなある日、一匹の魔物が言いました。


「 魔王って本当は何もしていない 俺達の上でただふんぞり返る “ 最低の偽物 ” なんじゃないか? 」


その噂は次々に広がり 魔王の側近にも嫌な噂は聞こえました。 そして魔人はこれに激怒し その噂を広めた張本人で有る魔物を 半殺しにしました。

しかし此れが魔王の耳に入ると、全ての魔物 そして敵対している人間達にも とある集会を開きました。


自分の弱さと言うモノを、嘘偽りなく ハッキリと伝えました そして最後に一言


「 人間達よ、我々と共存する道を歩まないか? さすれば未来は明るく そして平和な世へとなる 」



そのスピーチに 大ブーイングが巻き起こり ....その偽善者の様な発言に 魔王の思惑通り 人間と魔物は手を組みました。



_____________無能な魔王と 哀れな側近達の殺害を目的に。

47:◆rDg:2021/01/27(水) 00:34

>>46

[ 赤の魔物達 その3 ]


その後 直ぐに反乱が起きました。側近達は必死に弁解をしましたが聞く耳を持ちません。
魔王は 自身の罪だと受け入れて抵抗していませんでした。


( ...因みに魔王が居なくなると魔物達は統率を失うと言われていたり、人間への被害は少なくなると言われていましたが 魔物と人間が手を組んだ時は...何故か魔王が居た時よりも統率は取れていたり 被害が大きかったそうです )

そして遂に 彼等は捕らえられてしまい その鬱憤を晴らしたり 試作品の試しだったりと 魔物や人間達に 恨みを放たれて 傷付けられていきました。

魔王は例え炙られても 串刺しにされても 拷問を受けても ....耐えました。此れが自身の罰なのだと。仕方が無い事だと。

しかし側近達が衰弱し 今にも死にそうになった所で ...赤子を殺したりも出来なかった魔王は 彼等の為だけに


その場に居た魔物と人間を全員“沈めて” “溶かして” 殺しました。


皆殺しにして再び自由を手にした後 弱りきった彼等の前で魔王は土下座し一言。


「 すまなかった 」

この一言に 彼等は不思議な気持ちになりました。この謝罪は 恐らく魔王の色んな気持ちが詰まったモノだと 彼は.... 王としての器だが “魔王の器” では無いと。
そして 魔王としてこれから始まるのだと 彼の身体が黒く染まり その黒かった目が眼全体に広がり中心に深紅の瞳孔が開かれた その時から
_______彼は魔王として 生きた。


それから数年後


___________魔王は死にかけていました。

勿論襲って来た者は全員返り討ちにしましたが。

正義の者達から不意打ちを喰らい そして拷問で受けた古傷が開いた事により ...瀕死の状態になっていました。

側近の彼等は何とか魔王を救う方法を探しました。其々の持ってる治療術を試してみましたが 結果は変わらず。 側近達も ...家族 と思える様な心が芽生えていました。

魔王は死ぬ寸前まで彼等に謝罪を続けました。綺麗事と言ったらそれで終わりかもしれませんが ...彼等にとっては とても悔しく 自分達は無力だと思い知らされました。

しかし魔王は最期 ...死ぬ前に 彼等にとっての

ノロイノユイゴン
【 救いの言葉 】を放ちました。



今は無力でも仕方ない 逆に考えればまだまだ成長出来るのだよ 皆も、我も。
数百年も経てば 恐らく我も ...生き返れるかもしれない。だが決して無理はせず 自分達の出来る やれる事をするのだ。


_____________なぁ、皆よ。 約束は最後まで守り通そうじゃあ無いか。 其れはヒトらしく そしてとても 賢い者の選択なんだ。 だから約束、してくれるか?


 我 を 復 活 さ せ て く れ


最期まで魔王は笑いを絶やさず 側近達の頭を撫で 1つのおまじないを掛けてから 死亡、しました。

48:◆rDg:2021/01/27(水) 00:52

>>47

[ 赤の魔物達 その4( 最終章 ) ]


魔王の死亡が伝われば 魔族や人間は安心して 魔族はまた次の魔王はどうするのか という話題で魔界は一杯になりました。

そこで代理として魔人が魔王を務める事になり、他の魔族達も納得をしました。

魔族達はまた城に仕える様になり 人間との共存も変わらず続けましたが ... 魔人が魔王らしい事(悪戯)をする様になった結果 人間との共存はまた難しい形になりました。

その後はそれぞれ 自由に暮らす事となり 城には魔人ただ一人。約束のその時まで ただ一人。


....偶にくる友人達を持て成しつつ 他の赤の魔物達の帰りを待ちながら 彼はただ過ごしました。



そして魔人は リストを作りました。魔王復活の為の その必要な生贄を。そして当然それは全て集め終わり ....魔人も魔王も その立場を戻りました、とさ。

これは“本史” 魔王は魔王と呼ばれる程では無い しかし 王で有る。優しく儚く ....そして家族に優しい最高の親である。


〜〜〜〜〜〜〜F I N ...?〜〜〜〜〜〜〜







[ 復活の リスト ]

・ 魂の欠片 1g

・ 魔人の指 50本

・ 感情の色 12色

・ 霊体 5体

・ 灼熱 約500℃

・ 鬼の髪 3束

・ 家臣の血 それぞれ50ML

・ 純白の鳥と純黒の鳥 1羽ずつ

・ 泥 100kg










・ 神に近い者の力 小さじ一杯分

49:ヤマダ◆o6:2021/02/15(月) 00:28


――小さな貧民街が世界の全てだった。

誰から生まれたのか、自分の名前はなんなのか、それさえ知らずに生きてきた。
『10』までしか数えられない頭で、指折り数えたのが10回。
おれはどうやら10歳というやつだった。

それでも生活は何一つ変わらない。
埃と砂まみれの汚い市場へ行って、人から物や金を盗る毎日。
ここではそれが生きる為の正攻法で、少なくともおれはそれで生き延びていた。
単に運がよかっただけじゃない。おれには『足』がある。
どんな屈強で強靭な大人でも追い付けない、天から授かった両足が。
だからいつも追っ手から逃げ切れた。

これからもそうやって生きていく。
今日、明日と、遠い未来を生きるために小さな街で。
あの頃は世界なんて知らなかった。
そんなある日のこと。

「おい、またあのガキだ! 追え!」

背後で響く怒号が遠ざかり、耳の横で風が鳴る。懐には紙袋に包まれた肉。

「へへっ…やったぜ」

今日も生き延びられる。
おれは一目散に寝床へ走った。
煉瓦の床を裸足で。
幽霊屋敷みたいな建物を抜け、路地裏を通り――

「っ!?」

ふいに視界が揺れた。
瞬間、走る痛み。視界に広がるのは灰色の地面。
転んだ。その事実が脳に行き渡る前に、誰かがおれの頭を踏みつけた。

「おい、クソガキ」
「!」
「…捕まえてくれましたか、ボス」
「ああ。おめーの言った通りだ」

必死に目ん玉を上に向ける。
視界の端に映る煙草の煙と、黒いスーツ。
誰だか分からない。が、捕まったということは無事ですまされない。
心臓が耳の裏でバクバクと鳴った。

「クソガキよぉ、お前もよく知ってんだろ。この街で生きていくにゃあ弱肉強食が必要だってな」
「…」
「その足は確かにすげェもんだ。神からの贈り物だと言ってもいい。だが…神なんていない。この街で生きるってのはそういうことだ。どんな罪でも強さの前にゃあ正義なんだよ」
「ボス」
「ああ」

スッ、と何かが男に手渡される。

「…言ったろ、弱肉強食って。運が悪かったんだよ、クソガキ。だが誤解するな。これは『正義』だ」
「――っ」

手渡された何かを降り下ろした瞬間、おれの足には衝撃が走った。

「ぐ……ぅ、うあああああ!!!」

それはやがて激痛に変わり、脳を支配する。
膝から下の感覚がない。
流れる血の温もりも冷たさも感じない。

切られた。足を切られた!!

痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――

「そういうこった。これも運命なんだよ」

去っていく男の姿を目で捉えることはできなかった。
瞼が落ちる。痛みで頭がどうにかなりそうだ。
おれは、おれはただ…生きたいと願っただけだ。
これが運命だっていうんなら、おれはそんなものを信じない。
……でも、もうダメだ。
意識が――


「――君を救けてあげましょう」
「…?」
「ただし、契約を交わしてもらいますが」

消え入りそうな意識の中で男の声が微かに耳朶を叩く。
幻聴か…?
なんでもいい。
これも、これも運命なら、助けてみろよ。
…神とやら。

差し伸べられた手を掴み取ったその日から、おれは半神になった。

50:カミサマくん◆CQ:2021/02/20(土) 04:39

闇の中で光るヒーロー




薄汚れた駅を降りると、そこにはツノの生えた男がいた。顔はそこそこで、今流行りの黒髪マッシュで決め込んでいる。

「  前髪伸ばした?前よりかわいさが増した気がする。それじゃ、行こっか  」

男はさわやかな笑顔の表情を作った。

私は愛されていないと自覚している。愛を僅かに感じることすらできず、ただただ生きている。でも人には承認欲求がある。半端な孤独の中、満たされていないから、こうやって知らない大人の男の人に体を売る。お金はもちろん欲しい。けれどお金は二の次なんだ。私は愛が欲しい。もしも私がこの人生にテーマを与えていいなら、愛の売買と名付けたい。いや、愛の賃借でもいいかな。

ギシギシ。ベットの軋む音。つんざくような男の匂い。微かに確認できた男の必死なかお。ツノから垂れる汗。意識が遠のく四畳半。玄関から入るとすぐにキッチンがある。差し掛かったその場所で、今この瞬間愛を売る。あぁ、この人生もまた、どうせこんなクソみたいな一日だろう。

男は相変わらずと言ったところだった。いつも通り。別に私を欲しているわけではない。この男は「女子高生とセックス」したいのだ。
    誰も私なんて求めていない

私のために用意したのか。一応ピルがテーブル上に置かれている。生でヤル気かよ、ド畜生が。

    行為は終わった。
けれど、愛というものの終着点は分からない。SNSではこうやって男に買われて、ぞんざいに扱われることが愛だと捉える人もそこそこいる。けれど、私はそうは思わない。真っ当に、至極純粋に愛されたい。その愛は、この暗闇の世界の中でもきっと輝いて見えるだろう。

埃の着いたカーテンから夕の光が刺してきた。もうこんな時間だ。
「  帰りますね  」そう言った。男は笑顔の顔を作って、手を振った。私の全身にある痣には見向きもせず。

「  待って  」

家まで送ってくれるみたいだ。律儀だなあ、と感心する。
でも、やっぱり心残りしかない。痣に気づいてくれなかった。あえて伸ばした前髪で隠していた額の痣。膝の痣。手首を切った痕。その全部を、行為の最中、事細かに見ていたはずなのに、ぜんぶ無視された。
やっぱり私は救われない。愛が欲しい。光り輝く愛が欲しい。なのに援交している。闇に染まっている。それは事実だ。事実だけど、ただそれだけで身体を売る真似はしていない。
気づいて欲しかったんだ。助けて欲しかった。怖い。怖い。怖い。傷がどんどん増えて深まっていく。ねぇ、助けてよ。お願いだから。あぁ、もう着いてしまう。あと200メートルで着いてしまう。

あと150メートル。あと100メートル。50メートル。10メートル。0メートル。
私は今日も帰ってしまうのか。これからも、何も変わらずに痣を隠して学校に行くのか。みんなの前でお道化したフリして演じるのか。痣が増えて、殴られて、お金だけを搾取される家に私は帰るのか。真っ暗闇な世界だ。腐ったりんごみたいな人生だ。私の傷はもう修復不可能なのかもしれない。
あるいは、私を見てくれない人たちが死んでくれれば修復できるのかも。あーーもう分からない。

「  それじゃあ、また  」

車は去り、とっとと行ってしまった。
わたしは家の方へと振り向いた。
いつも通りの風景。じゃない。
目の前に立っていたのは大きな棘、針、刃。
世間でまことしやかに囁かれる「 傷の代理者 」

『  手首、腕。額に痣。
膝にも痣。足首にも耳裏にも  』

「  どうして。それを?  』

『  ド畜生が。真っ暗闇な世界。
私を見てくれない人なんて死んでしまえば修復できるかも。つらい。怖い。助けて欲しかった  』

その硬くて刺々しい存在は理解してくれていた。気づいていてくれていた。なんで?
自然と、私は内側から涙がこぼれてきた。そして私の心を理解しているからこそなのか、ガバッと、その存在は強く抱きしめてくれた。刃の一つ一つはまるで、ぬいぐるみのように柔らかく折れ曲がり、私の体をやさしく包み込む。

『  これは痛い。痛くて吐きそうだ  』

「  でしょ。だから早く助けて。
それかーー全部ぶっ壊して  」

その存在は、大きく頷いた。
私はこの時、彼が闇の中で光る天使みたいに感じた。あぁ、わたしの傷口はこれからどうなるんだろう。

51:名を捨てし者:2021/03/04(木) 21:39

羊未練


………………羊 メェメェ

こんばんは。今日こそ死にます。
なんで死にたいのかと言うと、コンプレックスが多くて死にたいからです。特にこの頭のツノがキモいので大嫌いです。このグリングリンの髪の毛も嫌いです。
なので死にます。さて今宵は、この包丁を使います。
両手でしっかり持って、自分の貧相な胸に向けて刃を構えます。貧相な胸…。死にたいです。でも痛いのは怖いです。でもがんばります。

  いち

  にの

  さん っ

目覚めるとそこは病室でした。今回も死ぬことができませんでした。ちゃんと死にたいのに、運命が干渉してきて、ちゃんと死ぬことができません。なので、

退院した今、死にます。
今日は縄とはしごを使います。
木に縄を括りつけて、輪っかに首を通します。最後に、はしごを蹴り倒して、全身の力を抜いて。あとは死を待つだけです。
あーーーくるじ。でもこれで

  羊がいっぴき…

  羊がにひき…

  羊が…さ

目覚めると、私は地面に倒れていました。枝が折れ、今回も死ぬことができませんでした。私はちゃんと死にたいのです。運命なんかに負けていられません。

今日という今日は死にます。
なので、部屋に油をばら撒きます。ライターをつけて、落とします。当然ぼわっと燃えます。あっという間に黒い煙に包まれ、息が苦しくなってきます。でもこれで

  いっぷん

  にふん

  さ

私は倒れてしまいました。酸素が欠乏して、死んでいくのでしょう。ああ、短い人生だった。ああ、シンプルな人生だった…



…羊 メェメェ

「 先輩、好きです…私と付き合ってください 」

「 むり 」

「 …え…即答…
……その、どうしてですか 」

「 ごめん。俺、お前のこと女以前に人間として見れないんだよね。その悪魔みたいなツノ。そのオタクみたいなぐりんぐりんの髪質。その骨みたいな体つき。胸もないし。あとちょっと粘着質な性格とか含めてむりだわ」

雨の中。少女は決心する。

「 よし、死の 」

…………………………………羊 メェ~~~



誰ですか、窓を叩くのは。
やっと眠りかけていたのに。
もう、窓を割るのは器物損壊罪ですよ。
もう、家に入るのは住居侵入罪で……

目覚めるとそこは病室でした。
私は死ぬことができなかったようです。
おい運命、こら運命よ…

それでも私は死にますからね。
必ず死にます。私は運命に逆らいます。
だから、歩いて歩いて!
あの太宰治が自殺した場所に来ました。
今日はすごい雪です。川もすごく荒れています。
これならすぐに死ぬことができそうです。
期待を胸に、飛び込みましょう。

わあーーーーー 期待通りです。
まず、私の体は滝みたいな川の流れで泡泡の水中に押し込まれます。それで呼吸ができなくて。静かな世界の中で、納得した私は目を閉じました。

「 けほっ 」

唇に生々しい違和感。
気づかない間に息が吹き返してる。目を開けると。

「 …またですか。また貴方だ。前の自殺も妨害しましたね。……どうして私の妨害をするんですか?」

「 僕は貴方が好きだからです。
一緒に生きたいなって思ってたからです 」

52:Piero*◆RI:2021/03/05(金) 21:54

『溢れさせた愛を包む』


「好きだよ、しおちゃん」
「……………………………………え」

出会い頭の告白

理解不能、理解できない、なんで?どうして?分からない

「……ら、らいく、……そ、その、……聞きまちがえちゃった、ごめんね、……え、えと……その……」
「あぁ、ごめんね、声が小さかったかな、好きだよしおちゃん、好きだ」

2回言われた

ってことは言い間違えじゃない

間違えてない

らいくんは、わたしの、ことが








「っ〜〜!!?」
「あ、初めて見たそんな顔」
「な、な、な」

なんで、なんでなんで、わかんない、わからない

だって、だってだって、だって


「ら、頼光様、が」
「しおちゃんを好きなのは『僕』の感情だよ、頼光様……『私』の感情じゃない」
「い、許嫁だから……」
「許嫁じゃなくても好きだよ、幼馴染だからでもない、しおちゃんだから好きだよ」

ひとつの躊躇いもなく、投げた言葉に答えが返される

どうして目の前の彼はこんなにも冷静なんだろう、いつもは自分に振り回されてばかりなのに

今は彼が主導権を握ってしまっている

だから、だから、わたし、わたしが、れいせいじゃ

「好きだよ、しおちゃん」





あ、あああ、あ





「わぁあぁああぁっっ!!!」
「えっちょ、しおちゃん!?どこいくの!!」

対面で、冷静でいられるわけが無い、無意識にも遠くへ逃げたくて、かけ出す足は止まらない

冷静じゃない冷静じゃない冷静じゃない、おかしい、こんな感情、おかしいに決まってる

好きなわけない、だって、


「絶対に嘘っ、嘘だもんっ!」
「うそじゃないってば!」

信用しない、信用出来ない

だってだってだって、らいくんはもう知らない人で

昔のらいくんなんかじゃない、昔の私じゃない

「わかんないもんっ……!」

ただの『役目』として、『巫』として嫁ぐだけだった
子を孕み産んでしまえば、それだけで関係は切れる、それだけの『役目』のはずだった
いい血筋の子孫を残すためだけのただの儀式のひとつだった、歴代の誰も、恋愛感情なんてもって結婚した許嫁はいなかった

なのに、なのになのに!

「しおちゃん!ちょっ……まって!!」
「やだ!やだやだやだっ!」

しらない、わからない、どうしてらいくんは私が好きなの?
わからない、わからない、わからない


私はなんで、逃げてるの

53:Piero*◆RI:2021/03/05(金) 21:56

断ればいいだけ、どうせ、感情がなくたって役目はまともに進む
むしろ、感情がある方が歯車が狂ってしまうかもしれない
断ればいい、だけなのに

「しおちゃん!!」

『断りたくない』
『これ以上』
『でも』

信用出来ない
嘘かもしれない
裏切られるかもしれない

わたし

わたし

わたし

頼くんに裏切られるのは
頼くんに裏切られるの「だけ」は

「っだーかーらっ!!」
「!わっ」

うでが、ひっぱられる、あ、あぁ、おいつかれ

「は、はなし、っ」
「はなしません!離したらまた逃げるでしょ、しおちゃん」

あたりまえ、あたりまえだ、だって

「しんよ、できないん、だもん…!」
「信用しなくていい」

え、

「信用しなくていいよ、最初からそんなこと分かってる、だから、信用しなくていい」

「でも、断るなら別の理由じゃないといやだ」

「信用出来ないのは仕方ないよ、それはしおちゃんの本質だ、でも、『それ断られるのだけは嫌だ』、有象無象と同じ理由で、僕のことまで拒絶するのはやめて欲しい、在り来りでもなんでもいい、僕の気持ちが嫌なら嫌って言って欲しい」

手首を掴む力が強まる、もう痛いくらいだ、でも

「でも、有象無象と同じ理由で、君に突き放されるのは、嫌だ」
「君にとって、だれでもいいやつなんかになりさがりたくない」

───なんで、そんなに、つらそうなかおを、するの

「しおちゃん」
だって
「僕は、」
だって

・・・・・・
わたしだって

「しおちゃ「すき」、え」

壊れた

「すき」

あふれる

「すき」

こぼれる

「すき」

もう、感情を留めていた仕切りは、壊れた


「すき、わたしだって、わたしだって」
「…しお、ちゃ」

なみだが、ことばが、あふれる、こぼれる、とまらない

「わたしだって、すき、だいすき、らいくん、らいくんが」

めをこすっても、こすっても、とまらない

「らいくんがだいすき…っ」

わたしだって、あなたにとって、だれでもいいひとになんて、なりたくない

「………」
「…っ、ふ、…ぇ、え…っ」
「…………、しおちゃん」
「…、っ!」

手を引かれる、不意のことでよろけた体は、地面に倒れることはなく
暖かいものに抱きしめられた

「好き、大好き、僕も、大好きだよ、しおちゃん」

愛を、綴る

「許嫁だからじゃない、他の誰かの感情じゃない、『僕』が『しおちゃん』を愛してる」

溢れる愛を、彼は告げる

「っ、わたし、わたしもっ、わたしも、だいすき、っ、らいくんがすき、おねがい、おねがいっ」

たとえ信用出来なくても

あなたなら

「あいしてる、うらぎらないでね」
「あいしてる、あたりまえでしょ」

ずっと昔に途切れた赤い糸が、結び直される音がした

54:マリン:2021/03/13(土) 10:39

〈失礼します!〉

遥か昔、パエスト家17代目当主『ヘスカルト・ユカミ・パエスト』が侵した禁忌から始まった二つの族...
それは人型の人形と動物の人形に自我を与えてしまった事に至る...
人型の人形は他の生物や人間に似ていて人工的に出来た魔法や武器や戦闘スタイルを素早くこなし
動物型の人形は生命エネルギーを感じとり、特殊な魔法を扱う事や予感を感じれるようになった。

だが...

ある小さな喧嘩から始まり、大きな戦へと変わった。
それは人型と動物型の食料合戦であった。
ある者は奪い奪われ、ある者は焼き払う...まさに地獄絵図であった...

そんな時に!

ヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』と
アニマル人形族の長の娘、『ウサラミア・ライド・パーク』が
慈悲と精神を民や戦士に安堵を与え、二つの族は友好条約を結んだ。
二つの族の英雄となった長同士の娘達は人々から慕われ、尊敬された。

また...

この戦が終わった5年後に二人の娘達を里巫女として毎年5月に必ず行えるようになった。
そして必ず女の子二人と慈悲と精神にとっても着いた親友二人を毎年出していた。
戦が終わった英雄の二人は何時までも仲の良い親友でありました。

55:マリン:2021/03/13(土) 10:45

...50年後の誘拐事件の事。
謎の仮面男にヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』を誘拐し行方不明となってしまった!
だが勇敢であり、戦いに優れているテオドールは針で仮面男の左腕を刺して何とか逃げ切れた。
仮面男がまだ近くにおり、光る穴を見つけ直ぐに入ってしまった。

....それから以降、『テオドール・セリマフ・トロイド』は行方知れずとなり現在も詳細は分からない。
だが、ある情報で唯一手がかりだったのが...


《夜の王の城で『テオドール・セリマフ・トロイド』に似た姿をしたメリケンと杖で戦う勇敢な少女がいた》...
というくらいであり、それ以上も以下もなかった。

56:◆RI:2021/03/13(土) 22:12

『お前の顔なんて、もう覚えていないよ』
https://i.imgur.com/dDXTFqS.jpg
https://i.imgur.com/FRY0ySV.jpg


(小説じゃないけど残しておきたかったので投下しておく)

57:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 01:04

嘘とは、糸だ。

小さなほつれで始まり、そこから幾線にも絡まり、連なり、やがて一つの「縷縷」と化す。それは、やがてどこかへ引っかかり、何里もずるずると気負うようなもの。俺はそんな嘘の縁の切り方を知っている。それは文字通り、断つことだ。

始まりは小さな嘘だった。それが嘘の終わりだとも気付いた。
家無しの俺が毎夜こっそり牛舎に忍び込んでいることは、誰も知らない。そのはずだったが、ある日。別の家無しが乳牛を求めて忍び込んだ。俺は息を潜め、どうにか気配を悟られないよう牛の影に隠れ、いないふりをした。おれはいない、おれはいない、どこにもいない。そう願う内に深い眠りに落ちてしまった。そして明くる日、おれの頭に飛び込んだのは牛舎の主の一言。「おまえ誰だ」と。初めは大層驚いた。なぜなら、俺は村の厄介者だからだ。この牛舎だって、その前は鶏小屋だった。だから寝床を奪われるわけにいかなかった。牛舎の主の言葉にしばらく瞬きを繰り返していると、ふいに気付く。それはおれ自信が願ったからだと。おれは牛舎の主に「なんでもありません」と言い、牛舎を去った。その夜。再び牛舎に忍び込むと、今度は牛の影に隠れず、干し草の中で身を縮こめることもせず、牛を殺した。首は思ったより分厚く、切るのに苦労したから、途中でやめて、内蔵にした。まずありったけの肉片を懐に詰めて、血と臓物で満たし外へ逃げた。一目散に走り、転がるように坂をかけ、原っぱの感触を裸足で踏みしめ、知らない街へ行った。やがて太陽が昇りかけた時、いちばんに窓を開けたおばさんに言った。「遠くで人が殺された」と。そして、おれは騎士を引き連れ村に戻る。そこで目にした光景は忘れられない。村の人間は一人残らず死んでいた。臓物を引きずり出され、うつ伏せのままで。

58:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 02:56

信じることは、幸せだ!いつも通りの朝です。私という個体は名を持ち生命を遂行します。電波時計が6時になると肉体が目覚め、私は朝という行為を繰り返します。そのまま、生きるために栄養を摂り、やがて電子箱の時計が7時になると、私は外へ出ます。学校という、分子の管理所に行くためです。そこで私は私というものを遂行します。まず初めに、「おはよう」と言います、そして、「今日も前髪決まってんじゃん、てかさ、昨日の見た?」と言います。相手もそれに応えます。私が「マジかっこいいよね」というと、「それな」と言われます。そして、授業という、知識の授与が始まるのです。私はこの時間とても退屈に思います。しかし、私は常に最善を考える。私にとって、生命にとって、個体にとって、社会にとってなにがよいか。それは、曖昧です。半分ほどの知識を保ち、もう半分は蛇足であるのです。「まじ眠かった」と言わなければならないから。このように、私は、毎日同じ行為を反芻します。それは何故か。それは、私が社会的存在であるからです。社会で生きる我々にとって、逃げることは恥であり、愚かな兎に与えられる人匙の慈悲すらありません。だから、私は、人間を遂行するのです。理由はもう一つあります。それは、私が信じているからです。およそ3人に1人存在する人間という名の生命を遂行することには意義があり、また、その行為が生き抜くため正しいと信じています。これが、生命の連続性です。大抵の人はこの話を聞くと、おかしいと首を傾げます。そう、いわゆる、機械のようだと。私はそれでも構いません。機械でいることで真っ当な権利が与えられるなら、私は生命の終了まで連続するでしょう。しかし、時に故障もあります。

「あなたが悪いです!」
「✕✕✕✕、あんたがいなけりゃあよかった!」
「死んじまえ、死んじまえ、あなたが生きていれば私は認められない!邪魔者!」

機械やプログラムにもバグは存在するのですね。そこに意志が存在しないことは唯一の利点ですが、完全に治すのには一苦労します。なぜなら、誰も気づかないから。修復プログラムは完結し、古びていくから。つまり、どんなに些細な傷でも、積もり積もっていくのです。だから私達は、どうしようもないバグが発生した時、生命を停止するのです。私にもその終わりが近づいているかもしれません。

59:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 03:16

──精神病棟。
この場所の匂いがとても嫌いだ。
鬱憤や慢性を孕み、増長し、行き場なく漂うだけの、甘ったるい匂いだから。全ては欺瞞に溢れている。

「次の方」

爪をカチカチと鳴らす癖をやめなければ。そう思って、私は。おそらくくすんでいるであろう、己の瞳を声の方へ向ける。いつも見慣れたようで見慣れていない、けれどぼんやりと思い出す、看護師の人。すぐに忘れてしまうのは、きちんと顔を見ないから。私は鞄を肘の裏側にかけて、診察室へ向かう。一番、鬱憤が溜まる場所だ。

「薬は飲みましたか?」
「飲んでません」
「なぜですか」
「飲んだら会えないと思って」
「ちゃんと飲んでくださいね」

先生は、すぐに私から目を逸らして、書類にさらさら記載する。ああ、きっとこの人も、私の顔を覚えていないんだろなって、ふいに思って、悲しくなった。

「髪を切りましたか?」
「いいえ」
「腕は?」

YES、YES、YES!
心が、心臓が、心拍を増す。熱い血液が何度も流れて、耳の裏側まで満たし、頬へ向かう。どうかこのまま見ないでほしいと思うくらい、顔が熱い。私の口からはたった一言「はい」すら出ずに、躊躇った。

「回復は順調ですね」
「そうですね」

先生、本当の薬を知ってますか。それは愛。愛があれば人は救われる、でしょ。あのね本当は、みんな認めてもらいたい。でも、心ばかりがお喋りじゃ、乾いてしまうから。そうなるとどうなるか、私を見れば分かるはず。自分に歪な愛を供給すればいい。誰も認めてくれないなら、自分が認めてしまえばいいはずだ。それが間違った方法だと悟ってもやめられないのは、先生、あなたの方が詳しいですよね。苦しいことに常に酔って、自分を慰めていないと形を保っていられないのだから。ふとした時に、✕のうかなって思うから。ていうか、眠いな?バイバイ👋
でもね本当はなんにも眠くなくて、むしろ目ばかりが冴えていて、嘘ばかり。終わりです。

60:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 11:15

『心買い』

いつも通り、ホーム画面のネットショッピングアプリを開いて、特に興味もない商品にただ無作為に目を泳がせる。それは服や、植物、あるいはコンロでも、なんでもよかった。俺の欠点でありながら、俺という人間を形作っているのは、紛れもなく散財癖だろう。自覚してなお画面の上を滑らせる指が止まらないのは、自分でも分かっている。心の隙間を満たすには、あらゆることから現実逃避するには、散財が最も適しているからだ。そう思って、更に商品を探す。すると、見たこともないものが、画像と文字で現れた。

「私の心売ります」

歪で、赤黒く、禍々しい色をしたそれは、誰が見てもハートの形。俺は危ういそれに興味を惹かれ、まるで操られたように商品をタップした。少しの読み込みのあとに、説明が表示される。機械的な文字の羅列が連なっていた。

「私の心は、とても飽き性で、一人を愛することができません。なので、心を売りますから、どなたか買ってください。永遠の愛を手に入れましょう。」

思わず鼻で笑ってしまう。やはり、ただの悪戯だ。どこかの中年親父が暇つぶしに出品しただけの、くだらないもの。だが、その認識とは裏腹に、俺の中には非現実的な考えがあった。少なくとも、このわけの分からないハートに惹かれている。理由は分からない。愛という文字のせいか、こんなものに縋ろうなんて自分が恥ずかしい。欺瞞はある。理性もある。しかし、今だけは好奇心を裏返した意地が顔を出す。「お遊びで買ってやるか」と、己を持ち上げて購入をタップした。

数日後。俺が仕事から帰ると、古いアパートの1階、俺の部屋の前に小さな箱が置かれていた。数日の間でふざけた商品のことなんて頭から消えていたから、開いて中身を見るまでは「それ」だと気付かなかった。半分惰性で箱を開ける。すると、中にあったのは、あの日確かに見た「心」だった。思わず驚いて箱ごと地面に落としてしまう。正常な脈動を放つ心とともに、俺の心臓も拍動を増す。歪なのは、それがハートであること。心臓でも作り物でもなければ、説明に及ぶ代物でもない。その時やっと自覚した。「俺はとんでもないことをしてしまった」と。

61:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 12:00

『心買い2』

とりあえず、「心」を箱に入れたままにして、俺は眠ることにした。疲れているかもしれないからだ。そうでなければ、とても現実を受け止められそうにない。「舟を編む」のような無精ひもは、床と僅かな距離を残して垂れている。俺は布団の上に寝っ転がると、垂れた無精ひもを片手で軽く引っ張り明かりを消した。瞼を閉じて眠ろうとすればするほど、強い違和感が襲う。その内に何度も心が瞼の裏にちらついて、気付けば俺の額に汗が流れていた。やがて耐えられなくなり、布団の横にある無精ひもを引っ張ると、俺は狭い居間へ直行した。薄型で、やや古いタイプのテレビ。これもネットで購入したものだ。すっかり埃を被ってしまったリモコンを手に、電源を入れる。鮮やかな色彩が現れるまでの時間が、やけに長く感じた。心の脈動、時計の針、俺の心臓。様々な音をかき消すように、やがてテレビは映像を映し出した。それを見て、俺はいくらか安堵し、再び布団の上へ戻る。電気もつけたままで布団を頭まで被る。お笑いタレントの癖のある声だけが耳に流れ込んだ。そうして瞼を閉ざす内に、いつの間にか声から遠ざかり、俺の意識は深い眠りに落ちていった。

──翌朝、俺は時計のアラームで目を覚ます。これまたネットで購入した電波時計はしっかり6時を指している。いつもと変わらない朝の始まりだ。……一つの不安因子、心を除けば。太陽が昇りかけた暗がりの中、嫌でも視界に飛び込む心はいまだ脈動を放っている。気味が悪い。

「……ったく、なんなんだよ。マジきもいな」

俺が意図なくぽつりと呟く。すると、途端に心の脈動は激しさを増した。俺は驚いて、思わず箱に駆け寄った。溢れる俺の心拍に共鳴するかのように、心は一層強く脈打つ。ふいに、震える声が口から絞り出た。

「お、お前、生きてるのか?」

恐る恐る問うた言葉は、脈動に消える。文字通り心が跳ね上がるようだ。目の前の心は嬉しそうに跳ねる。どうやら、言葉には反応するのだと、寝起きの頭で理解した。俺はまるで子供のように食い気味になり、もっと話しかけてみる。

「お、おはよう」
「──」
「えっと……今日は、晴れだって」
「──」
「……はは」

心は脈動を返すだけ。次第に馬鹿らしくなってきて、「いつも通りの朝」を今度こそ始めるために洗面所へ向かう。顔を荒い、歯を磨き、安売りのパンを焼き、服を着替え、その中でも常に心が頭を通り過ぎていく。いつも通りの朝なんてものは、もう訪れることがないのかもしれないと悟った。

62:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 14:09

『心買い3』

いつも通り、人混みの中を規則正しく出勤する。ビルの広告塔や、揃った足並みだけが靴音を鳴らすこの時間は、早朝であることも相まって張り詰めている。俺も常に気を引き締め、今日も会社へ脚を運ぶのだ。そうして5分ほど歩くと、やがて大きな建物が姿を現す。やけに綺麗な玄関は見慣れすぎてなんとも思わない。ここが俺の会社だ。

「ねえ」
「はい?」

背まで伸びた黒髪をひっつめにしたこの女は、俺の上司だ。神経質で器が小さく、何かあればすぐ部下に当たる。だから俺はこの上司が嫌いで仕方がない。それでも社会に生きているから、胸中など吐き捨てて笑顔で答えなければいけない。

「部所、またコピー数ミスしてたけど」
「あっ、すみません……ですが、あれは新人に任せたはずで」
「それは君の監督不行届でしょ。新人のせいにしたらだめ」
「すみません……」

まただ。この女のせいで、心の奥底に黒いモヤが溜まっていく。今日もどうせネットショッピングで次の散財対象を探すのだろう。そう思ったが、ふと心を思い出して、考え直す。……しばらくは、あれのせいで散財する余裕もないかもしれない。

数時間、俺は仕事を終えて帰路につく。上京したてで借りたボロアパート。古ぼけた街灯の明かりに照らされた自分の住処を見るたび、情けなくなる。あんな狭い場所で、毎日毎日、散財でストレスを発散するだけ。虚しくて胸の奥から酸っぱいものが込み上げた。たくさんだ、もうこんな場所から抜け出して、堂々と生きてみたい。だから、助けてほしいと願うのは、間違いだろうか。ガチャリ。鍵を開けて中へ入る。街灯の明かりが扉の隙間を通り抜けて、居間まで吹き抜けると、「心」が目に飛び込んだ。つきたくなる溜息を抑えて、さっさと扉を閉めてしまう。

「……」

心は相変わらずドクドクと脈打っている。その様子をしばらく見つめていた。「言葉は通じる」、その法則を思い出して、暗闇の中で俺は床に座り込む。時計の針と、心の脈動。昨日と同じようで違う。俺はやけに落ち着いていた。

「……嫌なことがあったんだ」
「──」
「クソ上司がさ、新人のミス俺に押し付けてきた。まただよ、指示ばっかするくせに自分はなんもしねーし。そのくせ人使い荒いのがムカつく」
「──」

独り言のように告げて、小さな変化に気付いた。心が、萎縮し身を縮こめ、か細く脈打っている。まるで俺を案じるかのように。その瞬間、信じられない話だが、俺は微かに救われた気がした。誰も俺を認めない。周りに言えず封じ込めるだけの思いが、こいつによって放たれた。思っているほど、気味が悪い存在ではないのかもしれない。

63:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 15:05

『心買い4』

翌朝も電波時計で目が覚めた。体を起こし、洗面所へ向かう前に、俺の目線は「心」へ向かう。

「おはよう」

俺の挨拶に、心が脈動で返した。それを見て口角が上がる。愛おしさや、親しみのようなものを持ち始めているのは間違いない。それに、一様に不気味な存在ではないのだ。俺のためにか悲しみ、俺のために喜んでくれる。そんな存在が身近にいたことは生涯で一度だってない。だからこそ受け入れることに躊躇を持たない。

「何回同じこと言ったら分かるの?」
「すみません……」

そして今日も、くれなずむボロアパートへ帰る。クソ上司のせいで溜まった鬱憤を抱えて。

「今日もさ──」
「──」

ひたすらに話す。心は俺の一語一句に反応を示し、縮んだり跳ねたり、その様子に愛おしさすら覚えた。そうして日々を重ねる内に、俺の心拍も間隔を狭めていく。灰色の帰路ががらりと色を変えた。心に会えるのが嬉しい。俺はこの感情を知っている。
──それは、恋だ。俺は心に……彼女に恋をしている。

「心、今日は休みだ、遊園地に行こう!」
「──!」

心は跳ねた。俺は心を箱ごと手にし、遊園地へ向かう。

「あはははは! 楽しいなあ!」
「──!」

周りの奴らは俺たちを奇怪な目で見たが、そんな視線が気にならないほど、俺は心に夢中になっている。誰も俺たちの愛を分からない。だが、それでいい。寧ろ誰にも理解してほしくないのだ。

……その日から、ボロアパートのポストに手紙が投函されるようになった。

64:ヤマダ◆o6 hoge:2021/04/01(木) 16:01

『心買い5』

『あなたを愛しています』

手紙の内容はこうだ。同じようなものが、一度に何通も投函される。時間は分からないが、俺は手紙の送り主に少し見当がついた。あのネットショッピングアプリに「心」を売った、言わば心の持ち主。それが、なぜだか分からないが、今更手紙を送り付けてきたとしたら。前なら嬉しいはずだが、俺は内心で困惑を隠せないでいる。この愛は心のために捧げ、俺に与えられるのも心の愛。そこに他人が入り込む隙はないはず。他人という言い方はずいぶんおかしいように感じるが、俺にとってはその形容が正しい。なぜなら、俺が愛しているのは肉体ではなく「心」なのだから。
何通も届く手紙、その全てを押し入れの奥にしまい込んだ。

それでも、日に日に手紙は増えていく。もう押し入れにしまい切れないほど。俺はいよいよ身の危険を覚え始めた。一種の狂気すら感じてしまう。

「もう、いらないんだ。俺には心さえいればいい」
「──」
「だから……」

深夜、玄関。靴は一足だけ。ドアアイに張り付き、手紙の送り主を確認する。誰にも気付かれずに手紙を投函するなら、深夜が最も適しているはずだ。ドキドキと逸る心拍を抑え込み、息をころす。まず相手がやって来たら扉を開け、手首を捕まえて拘束だ。それから──考えている内に、冷たいコンクリートの床を鳴らすヒールの音が響いた。来た……一瞬の躊躇を振り払い、扉を開ける。

「!」

コートを目深に被った女は驚き、踵を返す。「待て!」そう掠れかけた声で叫んで、手首に手を伸ばす。やっと捕まった。そう思った寸前、女は手を振り払い体勢を崩した。背後はコンクリートの柱。女の体は重力に従い、柱へと落ちていく。スローモーションのようなその瞬間を、俺はどうすることもできなかった。──ゴン!! 鈍い音がして、女は倒れる。心拍が耳の裏まで拍動を伝えた。

「やばい──」

ふいに、女の足元に手紙が落ちていることに気付く。俺は無意識に手紙を広い、焦る心を落ち着かせるように、震える指先で手紙を紐解いた。中の紙には達筆な字でこう書かれている。

『✕✕✕くん、今までごめんなさい。そろそろ自分の正体を明かしたいと思います。いつも自分に自信が持てなくて、こういう方法でしか伝えられませんでした。そして、いつもあなたを理不尽に叱ってごめんなさい。本当はあなたが好きだったけれど、あなたは私のことを嫌いだと思うから。だけど、これから謝りたいです。そしたら今度、二人で会いたいです。 ──***より』

「……、…………」

……
…………ゆっくり、ゆっくり目線を下に向ける。
流れる血、頭のフードが落ちて、それは顔を現した。
黒いひっつめの──

俺はそのままずっと何も言わず、手紙を握りしめていた。
箱の中の心は、もう脈動を放たなかった。

65:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 16:55

『超魔神性』

その昔、神々がいた。
神々は世に恵みを与え、悪を罰した。
やがて、その役目は各聖地の人間へと継承されることになり──
人はそれを、『超魔神性』と呼んだ。

「──はい、治ったよ」
「やった〜ありがとでゲス〜!」

手をかざせば、たちまち傷が塞がっていく。お礼を告げた「河童の子」は、健康な皿が乗った頭を下げて走り去った。その姿を最後まで見届ける、聖女のような、いわば『超魔神性』。

「……」

そして、傍観している私もまた超魔神性。……天音円と天音環、私たちは姉妹のはずだった。

まず超魔神性とはなにか。
第一に『神眼』、その者を見通す力。
第二に『神然』、恵を与え潤す力。
そして、第三に『神性』、継承の存。
妹、円は……全てにおいて秀でていた。

「姉さん!」
「……なに?」
「次の稽古、一緒にしない?」
「ごめん、無理」
「どうして?」
「嫌だから。それ以外に理由でもあんの?」
「姉さん──」
「──環!!」

ふいに、物陰から女が怒号とともに現れた。母親だ。継承で神性を失ったくせに、今でもこうして出張ってくる。

「あんた、なんてこと言うの!?」
「なにが?」
「ずっと見ていたら、河童の子も助けないで、挙句の果てに円にそんな風に言うなんて。あんたには優しさの欠片もないわね」
「母様、それは言いすぎでは……」
「円は優しいわね。でも、今日という今日は限界よ。大体……そんなだから、いつまでたっても比べられるのよ」

左耳から右耳へ、聞き飽きた言葉が通り抜けていく。ああ、本当に、苛苛する。円の偽善も、才能も、母親の冷えた扱いも、私になんの期待もしてないことも。生まれてこなければよかった。私は生まれつき『神性』が使えないから、何もかも不十分で、円に遠く及ばない。言ってしまえば残りカス。

「ごめんなさい」

言いたくもない謝罪を口にする。頭がどうにかなりそうだった。

──円さえいなければ。
私は否定されないのに。

66:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 17:10

『超魔神性2』

腕を切った。台所からくすねた果物ナイフで。刃をしっかり皮膚につけ、人差し指を添えて、ゆっくりゆっくり引けば、やがて綺麗な赤い線が現れる。この一連の動作は嫌いじゃないし、上手く切れると自分を褒めたくなる。そうすることで自分を肯定する。

「──」
「!」

ふいに、物音が聞こえた。驚いて背後を振り返ると、そこにいたのは母親だった。慌てて腕を隠す。

「あんたなにしてるの?」
「なにもしてないよ」
「腕を見せてみなさい」
「え、なんで……」
「見せなさいって言ってるの」
「嫌だって──」

嫌がる私の腕を、母親は掴んでその目でしっかり見た。あ、終わった……弁明しようと開いた口が言葉を紡ぐ前に、パチン!私の頬は勢いよく張られた。

「なに馬鹿なことしてんの!!」
「……」
「大体、こんなことして喜ぶなんて精神が弱いのよあんた!!」

頬が、ジンジンと、熱いのか痛いのか分からなくなる。その時私の中で、『何か』が切れた。

「ふざけんなよクソババア」
「!?」

無防備な母親の体に掴みかかる。

「私がこんなことしなきゃいけないの、お前と円のせいなんだよ。だったら最初から産んでんじゃねえ、私なんか恥なだけだろ。汚点だつてそう思うなら、神性が使えない子が嫌なら、今ここで殺しちまえよ!!」

涙がぽろぽろ出てくる。くそ、出てくるな、お願いだから。生まれてから17年、一度も涙なんて見せたことなかったのに。それが唯一の強さだと信じていたのに。母親は呆然としたまま、だんまり。

「円が、円さえいなければ──」

そう口にした瞬間、私の体は投げ飛ばされた。衝撃は肉体よりも精神を襲う。

「いい加減にしなさいよ!」

……殺さなければ。

67:◆o6:2021/04/15(木) 20:03

少女失踪事件

13年前に起こった小さな町の小さな事件。
ある夏の日、川辺で遊んでいた✕✕✕ちゃん(当時5歳)が、見知らぬ男に声をかけられそのまま誘拐された。

この事件に関しては目撃者が一人もいない。
そのため、真実を知るのは当事者2人だけだろう。


──ピコン、ピコン

また通知が鳴る。
見慣れた青い画面と大量の通知。半ば無意識、癖のように通知を開くと表示されるのはたくさんの「いいね」。もう見飽きてしまった。

ため息をつきかけた時、ふいに扉がコンコンと叩かれた。

「✕✕✕」

「はい」

生返事。

「次はこれな」
「はい」

トビラがガチャリと開いて、外から男が現れる。太って脂ぎった顔にヒゲを生やした醜悪な姿。その手には真新しい服。サテンの派手なドレスだ。

私はそれを黙って受け取ると、男は何も言わずに扉を閉める。そして、また私の活動が始まるのだ。

『フォロワーさんが買ってくれた服着てみた!かわい〜〜😍😍 みんなほんとにありがと〜❤*.(๓´͈꒳`͈๓).*❤』

──ピコン、ピコン。

68:◆o6:2021/04/15(木) 20:13


……一体いつまでこんなことを?

『✕✕✕』
『愛してる』

『こっちにおいで』
『危なくないよ』

……いつから?


──鳴りやまない通知の音を耳に、ベッドに体を埋める。短いサテンのドレスを着ているせいで足がすーすーする。

「……」

ふいに手を足に伸ばした。ふくらはぎが線に引っかかるみたいに、ザラザラした。赤い傷跡。ここでも、あの世界でも、誰も気付かない。気づいても、なにも言わない。私の商品価値は顔だから。

そんな生活を10年くらい続けてきた。フォロワーから貢がれた金はあいつへ。一度送られた服は投稿だけして売りつける。愛もなにもない。

……
…………


「お母さん……」

今どこで何をしてるの。

帰りたい。帰りたいの。もう一度ぎゅっと抱きしめて、「愛してる」って、ただ一言。それだけでいいのに──

──ピコン

またいつもの通知。でも違った。

『DM』

69:芽殖 命:2021/04/16(金) 06:49

>>68

70:◆o6:2021/04/17(土) 14:00

『幸福伝道会』

DMの送り主はそう記されていた。絵の具で塗りつぶしたような黄色の上に、刺々しい真っ赤なバラ。これがいかにも『幸福』とでも言いたげなアイコンだ。

「……」

幸福なんて曖昧な言葉の意味がよく分からない。そんなものは幼い頃、あの場所に落としてなくしてしまった。

『迷える皆様のために、幸福伝道会は幸福を授けます。お代は一切不要です。その代わり、不幸を頂きます。』

DMのやりとり欄に表示されるのは無機質な言葉の羅列。胡散臭い。そう思って、もう一度頭をベッドに伏せようとした時。新しいメッセージが更新された。

『✕✕✕さん、あなたは13年前に失踪された少女ですね。』

「──」

ほのかに薄暗い部屋の中、スマホの画面に驚く私の顔が映った。まるで覗かれているようだ。身が硬直する。

『我々、幸福伝道会はあなたのような不幸な人間をお救いいたします。』

救い、

『返事を一ついただければ、私どもは必ずあなたに幸福を授けましょう。』

幸福、

……


《愛してる》

…………


空返事。

『はい』

71:◆.s hoge:2021/06/27(日) 04:16


『( …今に始まった事ではありません
 昔話をしてあげます、…ずっと昔にあった本当の話です 』)

___

AGE 19XX… "それはもう、忘れ去られた時代"


『__人は何時でも争う事を止められなかった』

(空を舞う鉄の人影__{かつての破壊音}__永く散る火花)

『例え自分たちの争いが世界を破滅させようとしても…』

『争う相手が 人から、そうでないものに変わっても』

_____人は変わろうとしなかった


___AGE 20XX

『( 実験は失敗でした )』

『( 貴方たちは、あの荒れ果てた大地に眠る
  幾多の者たちと同じ )』

『( 自らを滅ぼすと知りながら
 それでも争う事を止められない )』

『( 卑小で 愚かな存在 )』

72:◆cE hoge:2021/06/28(月) 19:58



『箱庭の夢』

 温度も湿度も変わらない何もない真っ白部屋で眠る「元」少女。人体実験を繰り返し、遺伝子を弄られ、少女でも少年でもないあの子はどんな夢を見ているのか。そんなことを思いながら手元のタブレットに視線を移す。彼女が普段右手に着けている指輪とリンクしたデータをみて今後どうするべきかを考える。




 元孤児。
 元いた実験室が破壊され、ここの施設に移る。
 実験には協力的で特に反抗的な素振りは見せない。リジェネを前いた施設で中途半端な形で付与される。
 体温調節が難しく、主な活動時間は夜。以前昼間に活動させたが体温が上昇。そのまま熱中症のような症状ができ、回復力も下がった。
 朝から夕方まで眠る。実験の副作用かは分からないが、ロングスリーパーである。回復に体力を使うのかかなりの量の食事をする。
 感情の起伏が読み取りにくくいつも笑顔。
 過去のことを覚えていない。軽い記憶喪失の症状あり。





 タブレットから真っ白な何もない部屋に視線を向ければ、群青の瞳と目が合う。相変わらず何を考えているのか分からない表情でこちらを見つめる彼女からそっと目をそらす。

「 実験の時間だ。外へ 」

「 はぁい、了解〜 」

 人間としての情はもちろん残っている。自分がしていることが間違ってることも分かってる。けど、人類の進化のためきっとこの研究は辞めることができない。

 立ち去る研究者の背中を見つめながらため息を一つ落とす。

 懐かしい夢を見た。まだ人間だった頃の。まぁその頃から性別がうまく判別できなくなったんだけど。怪我をしたら普通の人と同じ速度で治っていったし、まだ痛みとか感情もあった気がする。

「 まぁ、よく覚えてないけど… 」

 なら今のボクは?
 何回か死のうとしてもしねない。普通の人間なら死んでる傷もすぐ治る。こんなの化け物じゃないか。自分がなに考えてるかすらもよく分からない。これはもう人間の形をした何か。

 「 人間、失格 」

『  もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。 』

 なんてね、あーあ。退屈、だなぁ…。

 今日もいつもと変わらない日々を過ごすのだろう。そんな独り言が聞こえたのか前を歩いていた研究者はまゆをよせ怪訝そうな顔でこちらを見る。

「 何か言ったか…? 」

「 んーん、なぁんにも 」


 馬鹿みたい。そんな言葉は喉につっかかり、笑顔のなかに消えていった。

73:◆RI:2021/07/01(木) 22:35

〈来世まで、愛を込めて〉

「……っ、ぅ、……」

めが、さめた
めがさめた…?わたしはねむっていた…?
…あたたかい、からだがゆれている、これは、…かかえられて…

「………おぼろ、く」
「喋るんじゃねぇ」
「…そ、ぅ、…やっ、ぱり」

かえってきたこえは、そうぞうしたとおり

「………ね、ぇ、…おぼ、ろ、くん」
「喋るんじゃねぇっつってんだよ」
「…いい、じゃな、い、…しゃべ、らせて」
「……チッ」

舌打ちが聞こえた、かなり、怒らせてしまっているらしい

「…せん、きょうは」
「………もう、何もせずとも勝てるぐらいだ、あんたが無茶したおかげでな」
「ふ、ふ、…そ、う…、それは」

無茶した甲斐があったわ、と、言葉を零せば、私を支える腕に力が入った、ぎしりと、彼の口から、歯を食いしばる音が聞こえる

「………おぼろ、くん、…」
「…うるせぇ、」
「…おぼろくん、…」
「黙れ、それ以上言うんじゃねぇ」
「…………おぼろくん、」

置いていきなさい

「…………」
「あなた、も、重症、でしょう」

ようやく、記憶が整理されてきた、そうだ、私達は戦場にいたのだ
全てを守るために、自分の正義を全うするために
大多数を相手に、我儘を通すために、刃を抜いたのだ
そして


──『ぁ゛、』
─────『──綴さんっ!!!』

私は、彼を守ったのだ、身を呈して

そこまで思い出して、ようやく、己の体が冷たくなってきている事に気がついた

74:◆RI:2021/07/01(木) 22:36

「……なんで、庇ったりしやがった」
「…じょうし、だもの、ぶかはまもらない、と」
「…ふざけんじゃねぇよ」

ぐっと、また、腕に力が入る、感覚が薄れてきた体でも、痛みがわかるくらいに

「─おぼ、ろ」
「っづ!俺は!!あんたを…っ!」


『綴さん!』


「っあんたを守るために!おれは!」

『人間兵器と呼ばれているんです、私強いですよ?』
『…怪我の心配なんて初めてされました、…ありがとう』
『あなたなら出来るでしょう?私について来れるのだから』
『……やっぱり、君は凄いね』

『──朧くん』

「……あんたは、ずっと、独りで、でも、なんでも出来て、周りからなんて呼ばれようと、ずっと戦って」
「…、…」
「だから、おれは、俺だけは、あんたを守りたかった、庇ってでも、死んででも、じゃないと」

「あんたは、ずっと、報われない」

「……おぼろくん」
「なのに、なのに、っ、よりによって、『あんた』が『俺』を庇って、守ってっ!」

『───だいじょうぶよ、おぼろくん』

「っあんな風に、笑ってっ!!平気だって痩せ我慢して!!そのまま、無茶して戦って!!」

「おれは、あんたを、守りたかったんだ、それなのに、俺の前で、死なないで、…」

あめがふる、いや、これは
目が霞んで、よく見えない、でも

「……ふ、ふふ」
「……つづり、さ」
「なん、だ、いっしょ、だったの、ね、わたし、たち」
「…は…」

己の腕に力を入れる、まるで自分のものだと思えないような、弱々しく動くその手を、流れる雨の元へ伸ばす

「…、わたし、も、わたしも、まもりたかった、の」

「はじめて、だいじに、たいせつ、に、したいと、おもったの」

『…はぁ?人間兵器って…あんたただの人間だろ』
『っおい!怪我してんじゃねーか!何でまだ前線に出ようとしてんだ!』
『はぁ…やってやるよ、あんたがそういうならな』

『─綴さん』

「…、つづ、り」
「……わたし、こわしたり、たおしたり、しか、できなかったから」

『人間兵器とかいう名前どうにか何ねーの?もっとなんかさぁ』

『そういっても…私が名乗っているものじゃあないから…』

『それにしたって、ほら、もっとさぁ……あ!』


『夜桜、とかどうよ』


「あんな、きれいなよびかた、はじめてだった」

頬を撫でる、もう、思うように動かないけど、残った力を振り絞って

「すごく、うれしかったの」

笑えているだろうか、わらえているといいな、だって、本当に、心の底から嬉しいかったの、あなたがそうよんでくれたから、わたしはやっと

「…きみが、ずっといっしょにいてくれたから、わたし、やっとにんげんになれたの」
「つづり、さん」
「………でも、ごめんね、わたし、わたしだけだと、おもってた、きみも、わたしを、まもりたかったなんて、おもいもしなかった」
「っ!しゃ、べ、んな!」

あぁ、もう、ほとんど目も見えない、朧くんは、いつもこんな世界を見ていたのだろうか

ちからが、ぬける、頬に添えた手が滑り降ちる、それを逃さないように、暖かい手が掴み取る

「綴さん!!」
「………」

ごめんね、わたしばっかり、しあわせになってしまって、守るという願いを、叶えてしまって、でも、お願い

「お、ぼろ、く」
「っ!つづりさっ」

さいごの、さいご、全ての力を振り絞って、言葉をこぼす

「──ゆるして、ほしいなぁ…」

さいごの、我儘

「─────」

喉が引くつく音が聞こえる、死ぬ時に1番長く残るものは聴覚だと言うが、どうやら本当らしい、最後の力を使い果たして、もう、なにも

「────ゆるさ、ねぇ」

「ゆるさねぇ、許さねぇ、絶対に、絶対にっ、これからも、死んでもずっと、俺はあんたを…!」

許さない

「…………………」

あぁ、…



よかった

75:◆.s hoge:2021/07/01(木) 23:11

>>71

『 俺はそうは思わん 』

__________________





『____何時かは必ず奴らは現れる』

『どれほど喪おうと 絶えることは無い』


『__あの街に再び 人間が甦り
またこの戦いが始まるのなら__』


       『 証明してみせよう 』

__________


『 …お前達になら… それが出来る筈だ 』


____AGE 20XX___

『(___人類は 再生する)』

『(___繰り返す事以外を 知らぬと言うのに)』

76:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 00:48

__________診断書


○ 今日、私は死んだ。そして生き返った。....生き返った理由は良く分からない。死んだ事に関しては分かっている ... ...事故だ。霊となって自分の肉体を見た時は吐き気を催したが吐く物が無かった。不思議な気分だ。
...取り敢えず自分の肉体を治す事に集中してみる。奇妙な事に、外傷は何も見えず心臓もハッキリと動いている様だ... ....私が今確かに生きて存在をしているからだろうか?


   _____これなら、あの時挫折した夢を叶えられるかもしれない。



○ 夢を叶えるのに数十年も経った。肝試しにと夜中子供達が来るのは良いが....本当に危ない奴等も居る。だから私は心を鬼にして追いかけ回した ...決して楽しんでいない、決して。
....建てたのは、子供達の為の病院。...人間以外にも有りとあらゆる生命への治療を行える病院 ...医者は私1人だが ...大丈夫、死ぬ事も倒れる事も無い ...やれるだけやるとしよう。




○ ...偶に人が来る程度の繁盛、現実は厳しいと言う事を知る。だが悪くない、子供の笑顔を見ると忘れていた生気と言う物を感じられる。....身体を透けて見る時はやはり諸々 意識をしてしまうが。煩悩を減らさなくては___



さて、次の患者は_____________________________



○ その子には名前が無かった。世にも珍しい、身体から金を産む事が出来るゴーレムの子供だった。...まだまだ成功する確率は低く石になる事の方が多いらしいが。...報酬はいらないと言うものの頑張って金を作ろうとするのを見ては此方の胸が痛くなる ...。
....怪我の治療だけじゃ無く体内に残っていた毒も抽出しなければならない ...がこの毒、下手をすれば他の患者に感染へと導いてしまうかもしれない。他の患者達の治療を即座に行い ...暫くこの子の貸切となった。...“ルージュ”と呼ばれるのも悪くない。今までブレシュール先生と呼ばれる事が多かったから。



○どうにも、悪い大人や親に何度も虐げられたらしい ...元々孤児だった、と言うのも聞いた。...悲惨な過去、だから私は ...退院するまでこの子に良い思い出を作ってあげようと ...努力した。この子には色んな事を教えてやらないといけないと思い...先生としても頑張った。プレゼントも送ったし おままごともしたし ...流石に変な事をやらされた時には緊張したけれど ..同時に悪く無いと思う自分がいて 悔しい。...でも、楽しい時間ばかりだ。




○...朝から元気が無い。一体何故かと聞いても答えてくれない ...メンタリズムの勉強はしていなかった、どうしようか。....使っても居なかった霊術をバルーンアートの様に扱ってみた ...怖がってまともに口を開いてくれない。失敗した。
...でも何故か、急に ...欠片をくれた。金の、欠片。 ...要らないと言ったのに無理して作ったからだろうか?顔面が蒼白に ......なので少し無理矢理にだが寝かせた。...しかし本当に綺麗だ ...宝物にしようと、考えた。 ......可能ならばこの子は未来私の助手として ... .....いいや、それよりもっと幸せに生きていけるだろう。
...そろそろあの子が来て1年になる。此処は7日間も無睡眠で頑張った ...アレを見せるべきだろう。...でもその前に先ずは睡眠を______。





○窓ガラスの割れる音で目が覚めた。

77:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:13

○....今思い出しても自分の非力さに腹が立つ。何とかあの子を守る事には成功したが、其れでも痛い。....塩や聖なるものが私に弱い事に判明した。無敵と思われる霊体にもやはり弱点はあった。
狙いはやはりあの子だった____聞けば、あの子の親に雇われたと言う傭兵達...命を奪う事はしなかったが私も腹が立ったので何本かの骨を折る程度に収めておいた。
あの子が心配してくれている。早くこの身体を治さなくては。







○あの子が居なくなった。







○探しても探しても見つからない、何処にいった?何故、なんで?....がむしゃらに探していた所、私はあの子が描いたらしい手紙を見つけた。

『たから、だいじにしてね。ルージュ。がんばって
すこしだけれど、がんばってつくってみたから。
けれど、むりはだめだよ?いつもむちゃばっかりし
ているようにみえたから。


わたし は、すこしここからはなれてそとをみようとおもうから。ルージュがしんぱいするひつようはないよ。みっか で、もどらないとおもうから。わたしのことはわすれて。とってもたくさんあそんでくれておしえてくれてありがとう。こころ をおしえてくれてありがとう。おせわをたくさん され たから、おんがえししたいな。またどこかでであえ る はずだから。またね。          ペット・ティラミー 』



_________時間が無い。早く助けないと。

78:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:24








○間に合わなかった。あの子の、亡骸が。私の、腕の中に今ある。心臓の鼓動を感じない。肌の温度を感じない。
死んだ、という事を理解したく無い。でも、でも____助けられ無かったと言う事実が重く心に響く。
...犯人は分かっていた、でも、私にはもう、その ...気力が無かった。



○生きる目的を失って数年。あの後、私は禁忌を犯した。罪を犯した。...あの子を、生き返らせた。不完全な状態で。体は不完全に大きくなり、精神も濁りが混ざった。
....何処かへ行ったらしいが、もう追う気は無い。私が何をしたいのかさえも理解が出来ない。....いっそ、自分から教会へ行き二度目の死を送ろうか。あの子の魂は ...若しかしたら私の知らない未知の地獄にあるのかもしれないから。
...そう言えば、あの子の親や傭兵達が不審死を遂げたらしい。何でも彼等の家族とその家ごと、地中へと沈んでいたらしい ...物騒だ。犯人の目的は何だろうか?




○久しぶりに来客が来た。泥に塗れた____________


○_______________


○_______________






○______今日から私は ....再び魔物として生きよう。この病院にもサヨナラだ。
....生きる目的を見付けた、それだけで私は____幸せだと思える。でも、少し ...我儘を言い 願いを叶えられるのなら。



    またあの子に会いたい。.....そうじゃなくとも、私はあの子の様な子供達を救いたい。


  __________子供に罪は無いのだから。



        ________ブレシュール・ルージュ

79:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

『イレギュラー』



「………」

ふと下を見れば、死体が転がっていた

「─あ、フェイトじゃん」
「…おう、なに、邪魔した?」
「んや!暇潰してただけだし、気にすんなって!」

その死体は人間のものであり、その血の先に居たそれは、自分と同じヴィランで、そのヴィランは自分の知り合いでもあった

撒き散らされる肉塊、内臓、血

それは日常風景であり、なんの違和感も無い光景だ

「うわ、拭けよそれ」
「えー、こまねぇんだよお前、いーじゃんこのくらい」

その日常を表すように、目の前のそいつは己に絡みついているぐちゅりとした赤いような白いような塊を払おうともせず、こちらに笑いかけなんでもないように会話をしてくる

平凡、平穏、何の変哲もない『ヴィラン(俺たち)』の日常














それを異常だと、そう感じる自分は、きっとどこかがおかしかったのだ

80:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

人間の作るものや、文化が好きだった

初めて食事をした時は感動した、好んで人間の食事をとるようになった

意味もないのに

初めて芸術を真似た時は驚いた、苦戦しながらも楽しむようになった

意味もないのに

初めてスポーツをした時は爽快だった、人間の姿になって混ざり込むようになった

意味もないのに



どれもこれも『ヴィラン(俺たち)』には必要のない行為だった

やったって意味もない、真似ているだけ、わかったつもり


それでも人間の『平凡』は楽しかったのだ


血みどろの平凡など要らなかった、死臭に塗れた平穏など要らなかった

ヴィランとして、それは異常なのだということはわかっていた


──でも、だけど

81:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

「───フェイト?」
「__あれ、わかった?結構自信あったのに、擬態」
「…い、や、…近ずいてお前の匂いするまで、わからんかった…殺しそーになった」
「あ、そう、ならよかった、いやーバレバレかと思ってちょっとヒヤッとしたー」
「…いや、いやいやいや、なに、なにしてんの、


──なんで人間の格好してんだよ」

こちらに指をさしてそう告げるそいつは、動揺しているらしい、なんだ、いつも笑ってるくせに、珍しい

「あー、どうよ、似合ってんでしょ、気に入ってんだ」
「お、まっ…!気に入ってるとかじゃねーだろ!!なんでっ」
「なぁに興奮してんだよ、擬態だつってんじゃん、スパイだよスパイ」
「は…?」
「いやーなんか人間に擬態したら思った以上に上出来でな、お上に直接スパイとして人間に混じって来いって言われた、人間が使ってる…あー、なんだっけ、あびりてぃーぶれーど?とか言うのも渡されてさー、くっそだるいわけ」

ほんの少し違うけれど、嘘を言っている訳では無い
嘘は真実を絡めるのが一番いいと言うのも、確か人間の言葉だった気がする

「…す、ぱい」
「そ、だから間違えて殺したりしねーでな、ちゃんと顔覚えろよ?」
「……おれ、それきらい」
「は?」

全く想像していなかった言葉にアホみたいな声を出してしまった、嫌いってなんだよ嫌いって


「……おれ、前のカッコのお前のがすきだった」
「───そ、悪いな」



おれは大嫌いだよ、あの姿も、あの力も
『ヴィラン』という、日常も、なにもかも


「そんじゃ、また会う時は一応敵同士な、建前だけだけど、顔覚えた?」
「……たぶん」
「うわ、信用出来ね、…あー、じゃー…」

じゃらりと、金具の擦れる音がなる

「!」
「これ、つけてたら俺な、わかった?」

舌に付けたピアス、チェーンが長くぶら下がり、その先には十字架が飾られているそれを見せて、もう一度問掛ける


「……趣味悪」
「ハハッ、お前も大概だろ」

あまりいい顔をしていないそいつに、笑って答えてやれば、そいつはようやく諦めたように下を向く


「殺したらごめん」
「いーよ、わし強いし、殺そうとしたらこっちがぶっ殺してやる」
「……うん」

82:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:34


『いやだ、いやだいやだったすけてだれかたすけてたすっ』
『殺さないで殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!』
『いたいよぉ!たすけてよぉ!!おかあさん!!おとぉさん!!!』




「……………」


殺したらごめん、なんて




「(…なんで、人間を殺した時にも、そう思わないんだろうな)」










「───やっぱ、俺っておかしーんだろーなぁ」

83:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:34



___待てぇぇぇ!!


___待つかよーっ! ばばぁっ!


( 何時の時代でも馬鹿げた悪さは起きるもの。
鞄を引ったくった男と、中年の女性の鬼ごっこ )

「 はぁっ! はぁっ… ドロボーっ! 」


__平坦な道路沿い 時代錯誤の光景…道行く人も呆気に取られ

「 へへっ ざまぁみやがれってんだっ! 」



( 余所見はご法度 …此処は道路 )

[タッタッタッタッタッ…]____横道から飛び出す誰かに…


「うぅおあっ!?」「: おっ!? 」___[BAAAN!!!]



( ___もんどり打って転がる男 )

「 ってて … おいっ バカ野郎!
前見て歩きやがれってんだっ 」



___:えっ


( __倒れた男に叫ばれ、… その青年は こう答える )




「: な、なんでオレのこと知ってんだっ!? 」

      「は!?」

84:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:46


____はぁっ お、追い付いたよっ!

「 げっ やべぇっ! 」 [ダッ]

「: いぃっ!? お、おい!お前ぇっ… 」


( 突然、また走り出す男。___慌てるだけの青年 )

____えっ …炎神くんっ!

「: あ…? お、大屋さんじゃねぇかっ やべっ… 」


「 あいつ泥棒だよっ 捕まえてーっ! 」

「:え 」
_________



「 へぇっ… へぇ… へ、へへ…手こずらせやがって… 」

( 桟橋の下に駆け込む男… 誰も、追ってきてないか
… 見渡し、ゆっくりと鞄を開く… )


「 チッ… しけてやがら… …それにしても…
なんだったんだ? あの … バ … カ 」

: ……………


やろぉぉぉぉぉぉぉいっ!?!?!?!


「: お、おぉいうるっせーぞ?
 いちいちオレ見て叫ぶんじゃねぇ 」

85:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:59


「 な ななっ なテメッ テメッ… てて ててて 」

「: …なに言ってっかわかんねぇぞ? 」


______あゝここでひと呼吸


「 な、なんで此処が分かりやがってんでぇ!
お おれぁ走って来たんだぞっ! 」

「: おっ 奇遇だなーっ オレも走って来たんだ 」

「 あ そりゃ奇遇でハハハ… バカにすんなっ!? 」


( …呑気な笑い声が 少しだけ橋のしたで鳴る )


「: ま とにかく悪いコトは言わねぇからよ
 おとなしく… えっと、なに盗んだんだ?お前ぇ 」

「 っ… (こ、コイツ馬鹿だがちょっと怖えな…)
(… 勿体ねぇが、捕まるよりゃ…マシだぜっ!) 」


( … 鞄を、泥棒が差し出す )

「: おー それだなっ! 確かに大屋さんの… 」

「 …ひっひひ、そうだ …こ〜い〜つー だっ! 」


[ブゥンッ!]____ :あぁっ!?


( 鞄が 河に投げ飛ばされる__ )

86:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:10


「 (いまだっ 取って来やがれバカやろ〜っ!) 」




_______[しーん]



「 ……… あり? 」


( 暫く、走った後 … 違和感を覚えて泥棒は振り向く
…馬鹿が川に飛び込む音どころか …投げた鞄の音すらない )



_____だって川の向かい側に…



「: ひ〜 あぁっっぶねぇ〜なーもー… 」


___ その 馬鹿が その鞄を抱えて立ってたからだ




「 ……… え ? 」

( … 自分がさっきまで居たところを見る …
… … 誰も …居ない。… そして向かい側に… )


「( お おれぁ悪い夢でもみてんのかっ!?)」


「: おいっ お前ぇ! 」 「!な"?」



また 自分の目の前に現れた青年

( … 泥棒は目をぱちくりさせて青年を凝視する )



「: ……そぉいや大屋さん お前ぇも捕まえろって
 言ってたんだ … お前ぇ もう謝ったって許さねぇぞ! 」

87:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:31



____て、てめぇ…


「 なんなんだよぉ〜っ!? 」

( 破れかぶれの勢いに任せた拳が青年へと
向かっていく! … しかし、青年 …さらりと躱し )


(__握られる反撃の握り拳)


_____オレは…ジョー


「: 炎・神 ジョー だ! 」 

______________[DOKAAAAAAAN!!!]

88:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:06

 ――もう諦めてもいいでしょう?
 ――もう終わりにしてもいいでしょう?

 だって、私は一人で大切な人はもう居ない、帰る場所も無くなった、守りたいものは全て失った。
 大切なものを一つ失う度に、戦う理由は磨耗していく。

 もう充分足掻いたんだ、私は充分頑張った、だからここで終わっても誰も文句は言うまい。

 さぁ殺せ、と私は『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員達に視線を向けた。
 私の身体は傷だらけ、立っているのがやっとの有り様だ、さぁ早くこの苦しみを終わらせてくれ。
 
 そんな私の願いが届いたのか戦闘員の一人が光の矢を放った。光の矢は夜闇を裂いて、立ち尽くす私の足を貫いた、私はそのまま地面に頽れた。

 けれどまだ息はあった。
 
 戦闘員が私に止めを刺そうと殺到する足音が響く。


 ――これで全てが終わるはずだった。

89:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:07

「そいつから離れやがれっっっ!」


 そう、終わるはずだった、彼が現れるまでは。

 叫びながら私と戦闘員の間に割り込んだ青年は有無を言わさず戦闘員を殴り倒した、彼が私を助けようとしていることは判った、けれどもういいんだ、あなたまで死ぬ必要はない。

「私のことは良いから、あなたは逃げて、もうじき増援がくる、一人じゃ……!」

「……判った、終わるまで生きてろよ?」

「……? それはどういう……」

 その言葉の意味を問う間もなく、それは訪れた、何処からともなく大挙して押し寄せる『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員、その数は数百を優に超えているだろう。
 けれど青年は臆することなくむしろ「……燃えてきたッ!! 」と闘志を燃やす。

「私のために、あなたが傷つく必要はない……!」

「女の子を見殺しにして逃げろってか? それならここであんたと討ち死にするさ、その方がカッコいいしな!」

 そう言い放って、青年は再びチェルノボーグの戦闘員に殴り掛かった。
 青年は烈火のごとき勢いで戦闘員達に拳を叩き込んでいく、ただの人間の動きではないことは明らかだった。
 私と同じ異能者だ、だが数百の敵を相手にたった一人で何が出来る? 現に彼は無数の光の矢を受けてボロボロではないか。
 
「……もういいの、もう充分頑張ったの、お願い…だから逃げて」

「悪いがオレはまだ諦めちゃいねぇよ、諦めるのは死んでからでいい!」

「もう止めて」と絞り出した私の声など聞く耳持たんと言わんばかりに彼は戦い続けた。
 青年は何度傷付いて倒れても、不敵に笑みを浮かべて立ち上がる。
 どうして、私のためにそこまでするのか、理解不能の文字が頭の中を駆け巡る。
 けれど、そんな彼の姿が、私にはどうしようもなく眩しく見えたのだ。

90:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:08

 ――そして、長い戦いは終わった。



 青年はたった一人で全ての戦闘員を倒してしまったのだ。
 彼が決して諦めなかったから私は今生きていて、また悪夢のような日々が続くのだ。
 けれど彼ならば、彼とならば、この悪夢のような日々も乗り越えられる気がしたから。

「オレは炎神ジョー、よろしくな」

 私は差し伸べられた彼の手を取り、そして誓った、私の命はこの人のために使おうと。

91:◆.s:2021/10/18(月) 20:46



  _____ジョ… … …目覚めるのだ ジョ ……


( ……暗い 暗い闇の中で )

( 呼び声が響く …オレの名前を呼ぶ声が )


  ____おまえは … おまえは…!



( … 暗い 暗い …それだけが わかる
 けど … 声は響いてくる … 何処から だろう )



_____炎神 … ジョ…………!



   (___)



_____目覚めるんだ …炎神くん


(___?)(…頭を打たれたような 強い感覚に…)



"___誰かの …見えない、顔が雨垂れの中に映った"



____キミは行くんだ 行かなくちゃいけない



____ 行くんだ …炎神 __ジョー… 君____







______おい、起きろ〜!


______起きろって! えんがみっ!

92:◆.s:2021/10/18(月) 20:55


「  う わ あ っ っ っ ❗❗❓️  」


___飛び起きて辺りを見回す


  前に黒板

 周りに友達、下にはノート

 …芯が折れた鉛筆片手に

___あちゃー __あいつ、まただぁ ___ホンっト…


(___上を見上げれば…)



「 💢… え、ん、が、み くぅ〜〜〜んっっ 」

( ___南せんせー )



「 あ。 … っへ えへへ…  」



   廊下に立ってなさぁぁぁぁーーーーいっ


      ((((バカだなぁ…))))




___これは …1人の少年が…


「 はは… またやっちまっ …たぁ… 」




_________"強くなっていく" …おはなし。

93:◆.s:2021/10/18(月) 21:06




_______3年B組、放課後




   今度授業中に寝てたら承知しませんからねっ!



( …学校のチャイムに見送られて
とぼとぼ歩く、路地の真ん中 )


「 … はぁ〜っ …まぁたやっちまったなぁ… 」


_____少年の名前は 炎神、ジョー。 …そう、ジョー



小学三年、好きなものは運動で嫌いなものは勉強

___授業中睡眠常習犯、…いつでも誰かが世話を焼く



「 これじゃあおばちゃんにまた怒られっぞ…?
はぁ〜あ … __……んー 」



(「…公園にでも寄って帰ろ」)





_____人は彼をバカと呼んでいる

94:◆.s:2021/10/18(月) 21:18



___彼、ジョーは遊具の中でもジャングルジムが好きだ



[ト、ト、ト]____「 …っへへー! 」

( ランドセルを下ろして、足を踏み締めて…! )


[タンッ]「 とぉーっ! 」

( 掴んで、足を入れて… 昇る
掴んで、足を入れて… 昇る、昇る!
無邪気な心はそれだけの事が楽しいのだ… )


[グン]__「 よっ、と!… 」 

( …けれど、彼は少しだけ )


…少しだけ、早くなったかな…



___少しだけ、"違う"ところが、あった



( ___てっぺんに登って 高い所をを座って眺める )


「 ……… 」


( _____彼は… )



____おぉーい! …えんがみーっ


「 …っお? 」

95:◆.s:2021/10/18(月) 21:26


_____公園の入口から… 少年を呼ぶ声



「 やっぱここに居たなーっ おーい 」



____炎神と …同じほどの子供



「 …テントじゃんかぁ 」


( 彼を呼ぶ友達、…名前は"典都"
炎神少年とは仲が良く、色んな事で
よく、彼を呼びにくる …そんな子だ )


「 原っぱの方で鬼ごっこやるんだよーっ
あんまり集まってねーからさーっ お前もこいよーっ 」


____大きな声は 耳を塞いでても聞こえるほど



「 っぇ〜っ、オレ これから帰るトコだぞぉっ!
遅れたらおばちゃんに怒られちまうよぉっ! 」



「 ウソつけよ〜っ 公園に居るじゃねーかーっ 」


「ぎっ…」

96:◆.s:2021/10/18(月) 21:49



「 …わかった、行ってやっから
おばちゃんにはヒミツだぞ! 」

「 やり〜っ! 」


_______駆けていく二人





________変わることのない日常

______穏やかな平和の風景。……



( _____夕暮れ時 )


「 ーったく… もう暗いじゃんか… テントのやろ〜…!」



_______転機、そして



「 … ん? 」


_____影は … 同時に訪れる

97:◆.s:2021/10/18(月) 22:09



( …暗い筈の公園が妙に明るい
人の騒ぐような音も聞こえる )


「 …? 」


( …いつも、自分が使ってる公園でもある
その場所に 何時もはない事が起こっている
…怪しげに思った少年は、静かに公園へと近寄った )



__木が組まれて焚き火の明かりが公園を照らす
…少年よりも大きい青年が集まり、焚き火を囲って
やたらと、大きな声で騒ぎあっている


「 …(…なんだ、あれ) 」



( 妙で、異様にしか感じないその光景は、夜という
暗闇もあり 少年の心の中で小さく、恐怖に変わった

__今も 青年たちは囲う焚き火に木を投げ入れて… )



「( …あんなに…木、どっから… )」


「 おい 」

_____わ"っ⁉️

98:◆cE hoge:2021/10/19(火) 22:06


「箱庭の幸せ」

 凛と美しくそれでいて冷たく。慈悲の心も必要だが上に立つにはそれ以上に冷酷にならなければいけない。それは小さい頃からずっと言い聞かせられてきた事だ。
芸事に帝王学に武術、そして毒殺されることがないように日頃から接種する致死量ぎりぎりの毒。外で能天気に遊んでる子達をみると羨ましかった。だけどそんな弱音を吐いてる暇などない。もっともっと頑張らなければいけない。お爺様や周りの期待に答えるために。「辛い」「逃げ出したい」そんな言葉を胸にしまい笑顔を作り過ごしていた。

今日は月に一度の家族での食事会。さっさと終わればいいのに。そんなことを考えながらナイフを動かし食べ物を口に含むと土のような苦い味が広がる。最初は毒でも盛られたのかと思いそっと周りを見渡すがそんな様子もない。それに毒だとしたら痺れもなにもないのはおかしい。ただ泥のような味が口いっぱいに広がるだけ。無論周りの家族は美味しそうに食べてる。最初はその日の調子が悪かったのかと考えていたがそれが1ヶ月も続くとなるとそういうわけでもない。後日、 医師から告げられた病名は味覚障害。原因はストレスらしい。治るのは難しいとも言われた。それでもその頃にはそれを周りに隠し通せるだけの笑顔が作れた。味の感想を求められたら、匂いで察すればいい。

生活も味も、ただただ灰色な日々。そんな中一人の少女と出会った。名を初鹿 柚希。お父様が多額の出資をしている実験体。たしか自己再生能力を人為的に植え付けられ、自我を保ったまま副作用は特にない珍しい個体だと食事会で言っていた。
自分の置かれた状況も分かってるなかそっと声をかけてきた彼女はこちらに手を差し出す。その手には一つのサイコロキャラメルがあった。

「これ。あなたにあげる…、そんな顔だとしあわせもにげてくよ」
「甘いのたべるときがらくになるでしょ。ほんとはダメだけど優しい先生が頑張ったからごほうびにってくれるの。ないしょだよ」

 そういってにっと微笑む彼女は年相応の笑みを浮かべてわたしの手の中にあるキャラメルをじっとみる。どうせまずいあの味が広がるだけ。そう考えながらキャラメルを口に含む。
 
「………、あ、まい」
「でしょ、ふふっ、あんま他の子にはあげないからあなただけは特別ね」

なんで。味が。そんなことが頭の中でぐるぐる回るが目の前の少女はお構い無しに目を輝かせて私の手をとりニコニコと微笑む。まぶしすぎるその笑みにそっと目を細める。

「なんで、わたしとなかよくしようとするの?」
「おともだちになりたいから、かな…あなたは嫌?」

「そんなことない」
「…!ほんと!わたしはね、はつかゆずき、あなたのお名前は?」
「……、りょうしゅうめい」
「じゃ、しゅーめいだね!わたしのことは」

「ゆず、…ゆずきならゆず呼びでもいいでしょ」

 うん!と頷いた彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら頷く。灰色の日常に色が戻ったあの日、わたしはたった一人の友だちを守ろうと決めた。たとえどんな手を使っても。それがわたしができるこの子への贖罪だから。

 

 

99:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

( 渾身の力を込めた拳が道化師の眉間にぶち当たるっ )

    ギ!ぃ!! やぁアァあィァァィァーッ!!!


「 やっ た__! 」

耳にぞわりと響いて背筋を凍らせるかのように
重く …不協の連なるような悲鳴… 歌姫は"油断"する。


「 (あ 当たった…?) 」

___疑問 …しかし、炎神も "止まる"。




ァー  んンンン______________


   なワケなァいですよねェァッッハ!ハー!


[ひしっ]「 い"っ 」

『 ジ ョ ー カ ー ☆ マ!ジィッッックのお時間でェす!! 』


( 突然五体満足大サービスに炎神に抱き付く道化師は__ )



[ (ピ☆エ☆ロ だァ〜い爆発音!!) !!!!!! ]

______自爆!! !!

100:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

___ぇ …

「 えん…がみ…っ __! 」



絶望を焚き付けるように …彼を巻いて起こった
愉快なおかしな大爆発 …残る煙に 歌姫は放心する…が



____ぁ … ちィ…っ!




( 煙の中からあの、…元気な声が聞こえる
…何ともないような声が 安心を呼ぶ、あの声が )


「 ! …えんがみっ! だい…じょうぶ っ? 」


____そして …煙の中から出てくる


「 おぅっ… あんっ…のヤロー…っ
とんでもねぇヤツだ… … あぁ、オレは… 」

( …満面の笑みを 炎神は返す )


「 大じょ……



______…!!ウウウ夫でなァによりィィぃ〜〜〜ッッ!!! 』



    ____ "ジョーカー"の醜悪な笑い声


「 あ__っ? 」  ____ピィェぇ!ロ。"キィッック"!!


(__背後からの全力ドロップキックに吹っ飛ばされる炎神!!)

101:◆.s:2021/10/22(金) 01:58


「 …ぁ、が___っ 」

( …手足は 自由、だから "もがく" 歌姫。
__けれど、それは 鎖 …硬くて、首に巻かれて… )


____それを引き千切れる炎神も…


『 さァてェー、時にィ …エーット,ダレダッケ?
セィラフサン? あァなたナ!メちャいけませェんよ 』


『 ヒー、ロー。であァる以前に此処って何処でェすか?』


八百屋? (大根と人参両手に看板背負って)

空港? (旅行姿)

学校? (学生風)

それとも憩いの場ッッ!? (女装。)



       違ァう!!


『 "せェぇェんじょォう"でェすよ!"戦場!!" 』


_____背後に燃える炎が道化師の顔に影を作る

102:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

『 "ルール!? 安全!? モラル!? ウマイ飯!?"
 そォんなモノだァれが保証してくれるんでェすかッッ!? 』

ぱっ。

____道化師が鎖から足を退け…



[がぎゃりぃっ!] 「ぅあ"…___っ」


____地に足がつく少し前で鎖を掴んで止める

…ついでに歌姫の目の前___



『 後ィろでピーヒャラ歌ァってりゃワテシが見逃ァしてくれる…
と!でも思ォいまァしたかァ!? 残念ッッ 』

『 敵は平等なァンですよ!! …そ。
 あなたがたが好ゥきなねェアハ!ハ!ハ!ハ! 』



___っや … やめろっ…!


『 !!! !!! …ァ、"!"付けるの疲ァれる。
 ま 置いといて ォォやおや。 』

103:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

____…脚を引き摺り …地べた這ってでも…


( 近くまで …戻って来ていた炎神が必死で声を出す )

「__っ…(ぇん… がみ…!)」



「 お… オレ… と …たたかえっ…! 」

『 まァだ起きてたんですねェ、少ゥ年クン。
… ま いィでしょ。… ネ?ネ?セィラフサン? 』


[ぎりぃっ]___鎖にナイフを刺し …固定する


『 あァなたこォんなコト …言ィってませんでした?? 』


____酸欠で視界の揺らぐ歌姫など尻目に
 軽い足取りで炎神へと道化師は脚を運ぶ


「…っぐ…!」
『 ト・モ・ダ・チ だァいじ。…なんて!
なァんて綺麗な言葉ですかねェェ… …それで 』


____っ…!


[きんっ]


『 ペチャクチャ綺麗事言ってればこの少年は救えましたか?? 』


_____炎神の真横に座り… ___ナイフを背中に向ける

104:◆.s:2021/10/22(金) 01:59

「 っ…!…ぅ…__! 」

( 精一杯に、もがく もがく…けど
鎖は固く …冷たい、現実を突き付けるように )


『 言ィっときまァすが。ワテシは正しい事ォしか
しちゃいないィんでェすよ!!ワテシは__


___っだ …だまれぇっ!  『あ?』

「 … ぉ、…オレぁまだ生きてんだぁっ
勝ったみてぇに… 言うんじゃねぇーっ!!!」




_____言葉を …炎神が遮る



『 … まァ、こォーゆー事ですねェ … あァなたは結局。
他人に頼らなァいとなァんにも出来やしないィンです 』


______…ぎりっ

(___…歌姫は強く、鎖を握る)



『 だァから教えてあァげますよ …

 こ☆の ジ ョ ー カ ー 。が 』



(__…地べたで歯を食い縛る炎神)

「 (っだ…駄目だっ…!チカラが入らねぇ…っ!) 」


『 "チカラない"…"にんげェん"の … 』


『 げェぇんじつ を _____ ねぇェッッ!!! 』






_____(セラフ 覚醒に続く)

105:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

      Canticum, haec vox in aeternum
「─────『歌よ、この声をどこまでも』」

それは声であった

鎖に繋がれ、縛り上げられていたはずの喉を無理やりに開いたその声は、ただひとつ、なんの抑揚も感情もなく、その場に落ちる雫のように響き渡った

「─ァ?」
「…せ、ら…?」

その言葉に、その場にいた2人が反応を示す、ありえない、と、違う意味を持った同じ言葉を考えながら



『──始まる、destroy、終わりの音が鳴り響いた─』


ぶわりと、空気が揺れる

歌、それは歌だった、歌のはずだった


「っぐ!?」


轟音、爆音、歌と呼ぶには、歌姫の、あの美しい歌とよぶには、それはあまりに暴力的なそれは、振動とともに地面を揺らす

カランッと、その振動によって鎖を固定していたナイフがおち、ガクンと彼女の体が崩れ落ちる

──ことはなく、ゆらりと、彼女は傾いたからだをおこし、顔を上げる

『─邪魔をしないで』

目を見開いていた、目線は1点に、うたっていた、

『異常』

それこそが、現状の彼女にあう、唯一の言葉である

106:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

『──like an Angel─細胞の奥から、叫ぶように歌う破滅を─!』


焦点が揺らぐ、その顔に感情はなく、その瞳に色はない
ステージ上の『歌姫』とはまるで違う、ただ歌うのみの機構

『─Evil,Evil─あなたも─Evil,Evil─本当はきっと願っているんでしょ』


自身の
身体強化
状態異常回復
欠損部修復
防御力強化
攻撃力強化
リジェネ付与

対象の
身体能力低下
状態異常付与
防御力低下
攻撃力低下



「っっ──!!セラフ!!!」

ぞっと、その言葉の羅列に、あまり覚えない恐怖を感じた

たしか、セラフ入っていたはずだ、異能を発動する時のデメリットを



【わたしのいのう、うたうえばうたうほど、せいしんりょくが、なくなる、ちゅうい】


いっていた、そうだ、セラフはいっていた!
あの歌に異能が含まれているのなら、彼女の精神力は今も削られ続けている
なのに


『でも、いや、いや、嘘つきまだ、まだ』



彼女は、歌い続ける、永遠に


ガンッと、鈍い音が鳴る、それは彼女が壁にアビリティブレードを突き刺した音である、


神の純潔、そう名付けられた彼女の武器、その本質は重力操作


『足りないや─ねぇ、痛みが』






『─滅びは快感』


それを突き刺した壁が、振動によってくだけ、

─浮く

そこでようやく、彼女の人形のような無表情に口角が上がった『笑み』が見える



一瞬の隙もなく、乱れもなく、無数の瓦礫が、道化に襲いかかる


「─あ、は」


暴走
セラフ・パライバトルマリン

正常調整────────────不可

107:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

『パライバトルマリンの煌めき』




「セラフは本当に歌が上手だね」

いつだったか、──に言われた言葉だった

優しく頭を撫でながらそう告げられて、とても幸せだったことを覚えている

歌うことが好きだった、──が褒めてくれるから、いや、ほかのことだってもちろん褒めてくれるのだけれど、

でも、自分の好きな事を褒めてくれるのはほかの何を褒められることよりも嬉しかった







アイドルになれたのは、本当にただの幸運だった

街でたまたま、話しかけられて、そういう事務所のスカウトをうけた

そこでたまたま、私の歌が絶賛されて、たまたま流れにのっただけ




はじめてヴィランに遭遇したのは、少し私が人気になってきたときの、ライブだった

大勢の人、私のファン、みんながヴィランに襲われる、それは私も例外ではなく、その時の私は、まだ逃げるしかできない群衆のひとりだった

結果としては、死人が出る前に、駆けつけたヒーローによって、事件は集結した


私は何も出来なかった

みているだけ


誰も私を責めやしなかった

むしろ、この事件がトラウマになっていないかとすら心配され、精神的治療として休みをいいわたされた

あたりまえだ、相手はヴィランで、私はただの一般人なのだから

108:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

正直に言うと、気に食わなかった

いやだって、だって、おかしいじゃないか

私のライブに乱入して、私のファンを傷つけて、あれは笑っていたのだ

ヒーローがくるまで、その状況を、今後許しておかなければならないだなんて、絶対に嫌だ



ならば、どうしたらいいかなんて、ひとつしかないのである





「っげほっ、げほ、」

初めは酷いものだった、私の異能は戦うのにはあまり向いていないから、対応できるようにするには歌い続けるしか無かったけど、そうすれば精神力を永遠と削られる

「…っ、…」
だから、はやく、なれないと

109:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「あの!私と!ヒーロー活動をしていただけませんか!」
「!」
ヒーローの真似事をし始めて、だいぶたったころの握手会で、それは起きた
いつも来てくれていた人が、私の手を撮った瞬間に、そう叫ぶように告げた言葉は、私にとっては驚愕の一言だった
一応、アイドルをしていたから、ヒーローの真似事のことは公表していなかったし、そもそも私を誘ってメリットがあるのか、なんて考えていたのだけれど

「っ…!」
「───、ふふ」


その後、オフの日に握手会で告げられた場所を覗いてみれば、私を見た途端にその人はひっくりかえっていたから久しぶりに笑ってしまった



灯莉と出会って、アビリティブレードを手に入れてからは、灯莉に教わりながらも、ヒーロー活動をするようになった
まぁさすがに大きく動くことになるから、アイドルと兼任する、と言った時には色々とあったのだけど、ファンたちもお世話になった人達も、最後には応援してくれた


「やはり、あなたの歌は素晴らしいですね、セラフさん」
「…、んふ、ともり、またほめる」
「あたりまえです、すごいものはすごいと言います、それは、ファンとしてもですが、ヒーローとしてだって、あなたの歌は本当に素晴らしい」
「………」

素晴らしい、らしい、私の歌は、あまりにまっすぐ言われるから、少し目を逸らしてしまった

歌は私にとって、生きる意味で、生きる手段

わたしの、そんざいいぎ

110:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「駄目だよ、セラフ」
「え」

ヒーロー活動を始めて、アイドルとしても有名になって
久しぶりに、──のところに行ってみれば、一言目にそう言われた

「…なに、が?」
「むちゃしてるでしょ?」

驚愕、なんで分かったんだろう、あかりにも、しずきにもばれてなかったのに

「聞いてるよ?ヒーロー活動してるんだってね、でも無理だけはだめ」
「…うん」

──の言葉に、素直に頷くしか無かった、頭が上がらないほどお世話になったから
しゅんとしているわたしをみて、──は少しして笑って、私の頭を撫でた

「セラフは頑張り屋さんだからね、でも大丈夫、セラフならできるから、むちゃしなくても、きっと大丈夫」

──ほんとかなぁ、できるかなぁ

「できるできる、僕が保証する、セラフはすごい子だもん」

──そうかなぁ、わたし、すごくないよ

「すごいよ、セラフは、だって今まで、ずっと頑張ってきたでしょ?それはすごい事なんだよ、なかなか真似出来ないことなんだから」


「だから、がんばって、でもむりはしないで」



「お兄ちゃんのかわりに、幸せになるんだよ、セラフ」




───うん、分かった

「まかせて、おにぃ」

111:◆RI:2021/10/28(木) 20:09


おにぃは、昔から体が弱かった
いつも病室のベッドから動けなくて、それでもいつも優しくて、いつだって、だれよりも強かった



「おうえん、してる、から、ね…せらふ」



それだけ告げて冷たくなったおにぃの手をずっと握っていた



「────うん、まかせて」






「セラフさん!あたらしい仲間ですよ!」

「セラフさん、…その、技の訓練に、お付き合いしていただきたいんですが」

「こーねこちゃん、今日も元気だなぁ」

「せらふ、今宵も良き歌であったぞ」


「セラフ!お前の歌やっぱすげえな!」

112:◆RI:2021/10/28(木) 20:10

─────────歌

それは私の存在意義、私という存在の全て



「『─いま、いま、いま、誰かの声が聞こえる─』」


歓声、喝采、それが私の証、私が生きているという証明


スピーカーから流れる音、熱い照明の光、暗闇に光るサイリウム、ファンの私を呼ぶ声、それら全てに私は目を向ける

生きている、私は生きている

身体中に認識させられる『生』という感覚

その感覚に体が、心が、声が興奮に震える



─あぁ、わたし、いま、いきてる




『おうえんしてるからね、セラフ』



どこまでもどこまでも、歌え


遠い場所にいるあなたに、届くように


「おまたせ、あんこーる!」

113:鷹嶺さん◆XA:2021/10/31(日) 11:03

『BITTER END』

 
 諸悪の根源ベテリゲイーゼとの最後の戦いから半年の時が過ぎ、世界は平穏を取り戻しつつあった。 





 今日は久しぶりの雲一つない快晴、こんな日はあの頃のように外でお弁当を食べたくなる。 
 お弁当箱におにぎりと卵焼きとジョーの好きなミートボールと他にも色々詰め込んで、新調したばかりのパーカーに袖を通し、冴月は玄関の扉を開けた。 

 外は少し風が冷たいけれど穏やかな日射しが心地良い。自然と足取りも軽くなる。 

 向かう場所はそう遠くない霊園。花と木がたくさんあって何より静か、冴月のお気に入りの場所だ、もちろんお気に入りの理由はそれだけではない。 

 30分ほど歩いて霊園に着いてみれば、緑の髪の少女が一人、陽だまりのベンチで寝息を立てている。どうやら彼女も考えることは同じらしい。 
 無防備に陽光を浴びる少女の頬、アイドルなだけあって綺麗な肌だと感心しながら指でつつく、いつかの仕返しだ。 

「ん〜……あ、さつき、おはよう〜」 

「おはよう、セラフちゃん。あなたも此処に来ていたのね」 

 横たえていた体を起こし、猫のように伸びをするセラフの隣に腰を下ろす、前から思っていたことだけどこういう仕草が本当に猫みたいだ。 

「うん、いいてんきだから。さつきは?」 

「お弁当を食べに、あなたも食べる?」 

 セラフはその問いに当然とばかりに首を縦に振る、冴月はミートボールを一つ箸で掴みセラフの口へ運んだ。 

「みためどおり、おいしい」 

 それから冴月とセラフはお弁当を食べながら、世間話に花を咲かせた。 
 横目でおにぎりを頬張るセラフを見ているともう会えないジョーのことを思い出してしまう、あぁ、あれからもう半年か。 
 こうして二人並んでお弁当を食べて、セラフが乱入して灯莉に呼び出されてスコーピオンに遅いぞと怒られて、『黒き神仙』と戦って……。 
 とても辛かったけど、それと同じくらい幸せだったあの日々はもう戻っては来ない。 

「ありがとう、セラフちゃん、ジョーのためにこんな素敵な場所を見つけてくれて」 

「じょーはせかいをすくったひーろー、これくらいとうぜん」 

 セラフは胸を張って言う、実際にあれこれしてくれたのは灯莉さんだけど、お金はほとんどセラフが出したと聞いている。 

「それに、ここならだれにもじゃまされずにひなたぼっこができる」

「そうだね」

 それだけ言って冴月は立ち上がり歩き出す、色とりどりの草花に囲まれた墓碑が立ち並ぶこの霊園は、彼には似つかわしくないくらい綺麗な場所だ。
 本当に似合わないなぁ、そんなことを思いながら、冴月は一つの墓碑の前で足を止める。


「ひどいよ、ジョー。こんな世界に私を置いていくなんて」

 冴月は墓碑の前に膝をつき、冷たい墓碑に手を当てて囁く。

「ずっと一緒だ、って言ってくれたのに」

 頬を涙が伝う。

 「私の幸せはあなたにしか守れないのに――!!」

 零れ落ちる滂沱の涙を止めることはもう誰にもできなかった。


冴月ルート完

114:◆cE:2021/11/01(月) 21:56

「箱庭の友愛」

ここは、どこ…わたしは、わたし…

「…ず、ゆず!…ゆずっ!」

そんな顔しないで、泣かないで、悲しまないで。わたしは雪梅じゃないから笑顔にすることも守ることもできないの。

「なか…ない、で……しゅ…めい」

「……っ!泣いて、ませんっ!あなたがっ、ゆずが勝手にどっか行ったりするから!怒ってるんです!」

うん。分かってるよ。ずっとずっとわたしのこと、ボクじゃない「ゆず」のこと待っていてくれてたんだもんね。

「あなた意識も不明な重体だったんですよ。また、あなたを今度こそ命がなくなるかもって……わたしの唯一の友だちをまた、なくしてしまう、かもって、」

ごめんね。そうだよね。わたしたちは小さい頃からずっとお互いを守ってきた…。わたしがわたしじゃなくなってるときだって。

「あり、が…と 」

「無理して喋らなくていいんです!今はゆっくりっ」

だめ、今じゃなきゃ駄目なんだ。ずっと待たせてきたんだから。

「 しゅう、めい…ボクとわたしと……もういちど、朋友に、なって……くれる? 」

「そんな、馬鹿げた質問もう一度したら今度はぶん殴りますからね、そんな、そんな言われなくたって当たりまえじゃない!」
「今も昔も変わらずわたしはあなたのゆずの朋友…ですよ」


もういちど、最初から

115:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:17



[____ Modifying ]



  ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハシメイヲマモル ワタシハセカイヲマモル



[____ Modifying ]



  チカラヲモチスギタオマエタチハイズレホロビル

 ダカラワタシハオマエタチヲハイジョスル ハイジョスル


   コノセカイニオマエタチハフヨウダ


[____ Modifying ]



  コノセカイカラキエロ キエロ! イレギュラー!


      キエロ ___"エンガミジョー"。


[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

116:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:23


 ハイジョスル ハイジョスル ハイジョスル__


[____ Modifying ]


 ハイジョ__ セヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ

     ハイジョセヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ!




_______歌よ




[____ Modify... ]

[____ …error ]


 __ …ジリツハンノウプログラムニイジョウヲカクニン


 "フメイナオンセイ"。__イジョウノゲンインヲトクテイ



[____…error]

117:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:30


 __サイケイサン __イジョウノゲンインハ

   アノウタゴエ アノいれぎゅらーノモノ__カ


[____…error]


[____…error]


[____…error]





 __アリえナイ タカがニんゲンノコエガ




_____この声を … 


[Error[!]]


_____ニンゲンノ … コエガ



  …ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハマモルタメニウミダサレタ

  ___…ソウダ … ワタしハまモるタメニうミダされタ



[___[!][!] __feed error[!] ]


[ systems checks[!]error[!]
 Modifying [!]program[!] ]

118:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:36



____…マもる __タめに うみだサれた


[____… error[!]]
[___原因を解析中]







____… そうだ まもるためにうみだされた

___…まもるためにうみだされた




__… まもるために …うみだされた


_… マチ、 … シゼン、… ニン、ゲン … ヒトビト



____ワタしハしメいヲマモル ワタシハセカイヲマモる




_____「どこまで… ___も」





…うた __ごえを



 [___[!]feed error[!]] 


[___原因を解析中 ___一時停止]





… マもり ____た… かっ__た

119:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:44



__… いつまで ___いつまでくりかえす


[___…自立反応プログラム[!]__]



_…もういい __ヒトはくりカえす ヒトはマなバナイ…!



_…だが __ それで … それをくりかえして


… __まもれなかった



__________






… いまでもワスれたこトは …なイ



… __わたしは 


____ … セラフ …


____…あなたの … ___



______… … 街並みで __…笑うあなたの…



___… かぜのおとを ___… … あなたの こえを



… … あなたのうた … もういちど ____






___ … ききたい



 … ___わたしの …てに あわせて


___ … わたしの ___はくしゅ …に __わらって




… __ … …みんなと ____いっ …しょ ___に





[ __________[ 再起動 ] ]

120:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:50


[______[ 再構築… ]]


___… …あなたの手も …随分冷たくなった


___… … みんな …みんな … 


___… … … … だから … もう


___… … … … 眠りなさい … 目を閉じろ




___… … … … …あの声がまた …聞きたい





___… … … … … あのうたが …聴きたい




________[ 再構築完了 ___起動 ]




____……荒廃した世界を 人類を再生する


____……お前たちは … 力を持ちすぎたものは




         不要だ。

121:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:52

[____ Modifying ]


___修正プログラム 最終レベル



[____ Modifying ]


____全システム チェック終了



[____ Modifying… "START" ]




       戦闘モード …起動

122:◆Qc:2021/11/13(土) 00:06

『新月』[シンゲツ]
────一度『死んだ』月族が所属する。
────彼らは元よりも強大な戦闘力を身につけている······が、再び現世に舞い戻った時、自我を擁しているかも怪しい。
────今確認されている『新月』は······ソウゲツ族の3人か······葬、想、碧······ふむ。
────心苦しい者もいるかも知れないが、他の月族にも通達する。


彼らを見つけ次第、捕縛すること。その際抵抗があれば、もう一度殺しても構わない。


──────────────────


とある街に双月はいた。······で、その彼女の目の前には、どう見ても······想月がいる。
「「······で、想月。こんな事が『カグヤ』の会議で決定されたんだけど。どうするの?」」
「······それって、議長······つまり命月さんの独断ですよね?」
「「わたしにはそう聞こえた。だから捕縛はしないよ。······それより、他の二人は?」」
「わかりません。あそこから出てきた時······いつの間にか居なくなってました」
「「そっか。······困ったな······」」
ほとんど同じタイミングで眉を寄せる双月。相変わらず不思議だな、と想月はぼんやりと考えていた。
「「······とりあえず、わたしはしばらくこの街にいる予定だから······そうだね、ここにいるといいよ。ちょっと今厄介な依頼を受けてるんだけど」」
「依頼······?」
「「雑兵を蹴散らしたり強い敵と戦う依頼······だね。もしかしたら想月にも協力してもらうかもしれないよ」」
そこで想月は自分に備わった能力を思い返した。······祈れば災害が訪れる。確かに雑魚を蹴散らすには最適かもしれない。······だが、『魂の消耗』は未だ日常を苛んでいる。ましてや戦いなどどうだろうか?······その思考を知ってか知らずか、双月は四つの目で想月を見つめる。
「「······なるべく早めに他の二人も見つける。それまで······待ってて」」
二人同時に微笑むといっそ不気味に見えた。······が、意思は伝わった。

······どれほどかかるのか想像もつかない······が、それまで。精一杯生きていこうと想月は誓うのだった。

123:◆RI:2021/11/17(水) 23:21

『いい子の秘訣』



「夢は本当にいい子だなぁ」

そう言って頭を撫でられる、その暖かい手が好きだった

「夢はいい子ね、じゃぁ今日は夢の好きな物作っちゃおうかしら」

そういって髪を梳かれる、その優しい手つきが好きだった




まま!ゆめおさらあらった!

「あら、ありがとうゆめ」

ぱぱ!ゆめテストで100点とったよ!

「お、ほんとうかい?さすが私の娘だ」





ママ、この間のコンクール、金賞だったの

「あら、そうなのねぇ」

パパ、この間の大会、優勝したんだよ

「そうかい、それで夢、今度の集まりなんだが…」




─褒められたかった、ただそれだけ

小さい頃、パパとママに褒められて、認めて貰えたことが嬉しかった


もっと頑張れば、もっと褒めてもらえるんだって思って、色んなことに目を向けた


でも、こんなのじゃだめ


パパとママ、…いや、春夏秋冬の家の人は、みんなすごい人ばっかりだった

オリンピック選手に世界的に有名なデザイナー、ハリウッドにも出る女優俳優や、政治家、社長

パパとママも、その1人

でも、私は違う

知ってる、私には、そんな才能はないって、それでも、頑張れば、努力すれば、きっと

死にものぐるいで取り組んで、死にものぐるいで努力して

そうすれば


「───え?」
「だからね?夢、私たち海外出張に行くことになったから、1人でおうちを任せたいの」

なに?それ

「本当は夢にもきて欲しいんだけど、お仕事が忙しくてね…あっちでも家に帰れそうにないの、それに海外で1人にさせるよりかは、日本にいてもらう方がまだ安全でしょう?ほら、生活だってこっちの方が慣れているし」

「一人暮らしってことになるな、安心しなさい、もちろん仕送りはするよ、たくさんね、好きなものを買うといい」

まって、まって、だってわたし、まだ

「ゆめはしっかりした子だから、きっと大丈夫よね、お料理だってお洗濯だってできるし、私の手伝いをしてくれるから、ゴミ出しなんかも分かるでしょう?」

「夢なら安心だよ、なんたって私たちの娘だからな」





「…うん、わかった、ゆめできるよ」


そう、いい子、私は2人の子供だから、できるよ


1人でご飯食べるのも寂しくないよ

1人で帰るのも寂しくないよ

1人でいるのも寂しくないよ




だから、かえってきたら、いっぱい────

124:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

『運命になった日』

「っは゛、ぁ…っ」

口から血が溢れるのを無視して、迫る攻撃をギリギリのところでよける

「っ、げほっ」

だがそれのお陰でさらに体が重くなる、まずい、まずい

雛も凛も、俺と同様自分のところに必死で他を助ける余裕はない

夢は結界のなかに閉じ込めておいたから、外から干渉されることがないのが唯一の救いか、戦闘に集中できるのはたすかる、けど

「(っこれ…絶体絶命じゃないですかね…!)」

怪我は重症、これ以上動き回れば致命傷にだってなりうる
そもそも出血の量が不安だ、致死量に到達していないことを願うしかない

敵の数は減るどころか増援によって増える一方、もう詰みだろうとしか言えない状況に、もはや笑みさえこぼれてくる

「っにぃ!/兄様っ!」
「!」

一瞬にも満たないであろう、思考の停止
その隙を、戦場が見逃すはずがなく、目の前には既に妖魔の首魁が立っていた

「(かいひ、ふか、うけながし?むり)」

絶対的な死の感覚、脳を埋め尽くす言葉、それでも、この攻撃を免れる策は浮かんでこない

必死に体を動かそうとする俺を嘲笑うかのように、そいつは俺に向かい、刃をむける





あ、し ぬ






「っ……!!」


次の瞬間、俺を襲ったのは、敵が繰り出した一陣ではなく、暖かい、水のような


「っは」


霞んだ視界をみひらく


ももいろのかみ

くろいふく


・・・・・・・・・・・
わきばらをつらぬくそれ

あか

あか

あか


「っゆめっっっ!!!!」

うしろから、ひめいのような、こえがきこえた

それが、いもうとのどちらのほうなのか、はたまたりょうほうのこえだったのかは、わからない




ずるりと、わきばらから、てきのぶきが、ひきぬかれる

あふれるあか、あか、あか


「…ぁ……ゅ……、ゆ、……め…」

りかいできない、したくない、どうして、どうして


「……す、ぃ……れ…さ…」
「っ!!」

かぼそいこえが、あのこのこえが




「……ょ、か…、た」

べしゃりと、その言の葉を吐いた瞬間、彼女の体は、自分が作り出した血溜まりへと落ちた
なおも広がる赤色は、どうみたって、もう



ぎぎぎぎぎ、と、音が鳴る
今にも事切れてしまいそうな彼女に、トドメをさそうとする、悪意


ぶちんと、奥底の、なにかが切れる音がした

125:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

「……、」

目が覚めると、知らない天井だった


なんて、よくありがちな導入を使うことになるとは思わなかった、なんてことを考えながら、薬品の匂いと白いカーテンから、ここが病院か、それに近いどこかなのだと理解する

なにがあったんだっけ、目覚めたばかりのぼやけたあたまは、それ以上の思考をうまくまわしてくれない


どうにか思い出そうとして考えていたら、ガラリと音がしたような気がした

「おはようゆめ〜、今日は天気がいいから、カーテン、を…」

ベッドの周りに掛けられているカーテンを開けて話しかけてきたのは、わたしのともだちだった
そちらを見やる私を見て言葉をとぎらせ目をみひらくひなたんは、色んなところに包帯を巻いていて腕なんかは折れているのか、首から支え布で吊り下げられていた

「……」
名前を呼ぼうと、口を開くも、そこから出たのはかすれた空気だけで、その時ようやく自分が人工呼吸器をつけていることに気がついた

「ゆ、──っ!ゆめ!起きたのか!?意識は!!どこか変なところはっ!?」

そんな私をみて我に返ったように駆け寄り、まくし立てるように声をかける
声が出ないからがんばって首を振って応答すれば、ほっとしたように肩を下ろすのが見えた

「っ、…あと少しで、死ぬかもしれない所だったんだ、駆けつけてくれた甘音さんが、治療できる子を手配してくれたからどうにかなったけど…ほんとに、しんでたかも、しれないんだぞ…」

どんどん語尾が小さくなっていく言葉を紡ぐ彼女と、死にかけていた、というそれでようやく、自分がなにをしたのか、何があったのかを思い出した



睡蓮さんが、危なくて、気づいたら、結界から抜け出して

そう思って、自分のお腹の方を見る、服は患者服らしいものになっていて、傷は見えない

「…傷は、残らないよ、治療してくれた子が頑張ってくれた、でもほんとに致命傷くらいの傷だったから、当分は絶対安静だぞ」

私が考えたことに気づいたのか、ひなたんは安心させるように頭を撫でてくれる、暖かいその手に、さっきまで寝ていたのに、瞼が落ちそうになる

「…いいよ、ゆめ、寝よう、大丈夫、また明日も来るよ、凛にも甘音さんにも声掛けておく」

あれ、?、すいれんさんは─?









「───ごめんな、夢、今のにぃを、夢に合わせるわけにはいかないんだ」

沈んでいく意識の中、その言葉が響いた

126:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

それから、毎日色んな人が私の病室にきてくれた
ひなたんはもちろん、りんたんも、甘音さんも、私を治療してくれたらしいしおりちゃんも、

でも、睡蓮さんだけは、いつまで経っても、私の前に現れなかった



かたん、と、なにかおとがきこえた

その音に目を覚ませば、まだ夜中なのか、部屋はくらい、音の主を探そうと目線を動かす


「…ぁ、…」

そうしてみつけたのは、私の手を握りしめて、顔を伏せている彼の姿

「…………」

すいれんさん、と声を出そうとするが、寝起きだからか上手く出てこない
久しぶりに会えた彼は、暗闇のおかげで顔が見えない

「………なんで」

この無言をどうにか出来ないものかと思考していると、声が聞こえた

「…なんで、おれをかばったんですか」
「──」

その声は、今まで聞いたことがない声色だった、初めてであった時ですら、こんな声は聞かなかった

「……たのむから、もう、おれのまえで、けが、しないでください」

ぐ、と彼の震える感覚が手を伝ってわかる
ようやく暗闇に目が慣れてきて、彼の顔が見える

「い、やなん、ですよ、もう、あたまが、ぐちゃぐちゃ…に、なって」

声が、体が、震えている


「…あなた、が、うごかなくて、かたをゆらしても、よびかけて、も、…うごか、なくて、しぬかも、しれないって、そう、そうおもうと、…っなんだか、ずっと、じぶんじゃなくなるみたいで…!」

「……」

怯えているんだろうと、思った
こんなにも、こんなにも取り乱す彼は見たことがない、こんなにも弱々しい彼は、見たことがなかった

─そして、わかった

「…すぃ、れ…さ」

「っ」

ひゅ、と息を飲む音、びくりと揺れる肩が見える

「………こわ、ぃ、ん…で、すか」

「──は」



「…わた、し、が、しぬ、の、…こわい、ん…で、すか…?」

127:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

声は聞こえない、でも、影の合間から見える瞳が、見開かれるのが見える

「…わた、し、が、……ゆめ、が…こわいん、です、ね」

握りしめられている手が強くなる

「…ゆめ、いきて、ます、よ、すいれん、さん」
「……ゆ、め」

漏れ出たような声が聞こえる

「…しんぱ、させ、て…ごめ、な、さ……でも、…だいじょ、ぶ、…だいじょうぶ、です」

固く握りしめられている手を、力が入らないながらも、それでもと必死に力を入れて、握り返す

「あなたの、ため、なら、…ゆめは、ずっと、ずっと、そばにいます…ずっと、ずっといきつづけ、ます」


「だから、あんしんして、ほしい、な

───すーたん」

ぽたぽたと、てがぬれるかんかくがする


はじめてみたなぁ、なんておもいながら、腕を動かして、あめがふるその顔に、手を伸ばした

128:◆cE:2021/11/18(木) 23:57


「……っ!」
 そのまま顔のわきすれすれに刀を突き立てる。やっと見つけた、わたしの憎い人。すべての元凶。何十年もころそうと考えてきた。でも、できなかった。だって、だって、彼は憎いけど、でも……もうあの計画を企てた人じゃない。その子孫になる。

「あなたには、罪はないものね…でもゆるせないの、ごめんなさいね」

 なにも知らずに箱庭で育てられたかわいい男の子。震えてなにも言えない彼の脇に刺さった刀を抜き、その場を去ろうとしたらそっと震える手で裾を引っ張られた。

「……先代が、あなたになにを、やったかしりません…!で、ですが、僕にできることなら、なんでもやります!ので、許してとはいいません、ですが、」

 先代とは違って根はいい子だとは、聞いていた。かわいいそうなこ、でも、でも、そんな同情なんかはいらない。父さんもわたしも、お父さんもお母さんも、弟だって、たかがこんなもんで浮かばれるはずがない。

「いらない、今日のことは忘れて平和にくらして。それだけでかまわない」

 そのままその場を後にし、月が照らす夜道を歩く。小さい頃から今までずっと生きる糧でどんな辛い訓練も乗り越えられたのは復讐をずっと考えてたから。

「これで、よかった…ん、だよね、ねぇ、」

 その声に答えてくれる家族はもう誰もいない。神様を嫌った日以来に流した涙は色々な感情が混ざっていた。やっぱりわたしは運ってものにも、神様ってものにもどうにも嫌われてるらしい。

「どうしたら、よかったんだろうねぇ……あーあ」

 その声は誰にも聞こえず夜の街に消えていった。

129:◆Qc:2021/11/23(火) 23:30

『新月』




月族にとって、死は終わりではない。······むしろ、新たな始まりとなる場合の方が多い。······十五月族の中でも人数は最大であるソウゲツ族、その長たる双月はそのように考えている。
人数が多いこと、それ即ち新月となる者も多いということである。双月が確認できている中でも、既に5人······その中には、五位だった壮月も含まれている。
······新月になった者は、強大な戦闘力を手に入れる代わりに自我を失う、という。だが、双月はそれも信じていない。想月と話してわかった────元通りの彼女だ。
何処から自我を失う云々の話が出たのかはわからないが、この際それは関係ない。
重要なのは、十五月族のトップがそれを信じており、······捕縛、拘禁を命じたということだ。
あぁ、嘆かわしくは当代の『月の巫女』がまだ見つかっていないことだ。あと1年早ければ────


いや、やるしかない。見つけ出して護るしかない。他の月族でも、新月となった者は誰でも。
トップと敵対したら双月でも瞬殺されるのは請け合いである。······しかし『天人』の協力は見込めない、『兎』も気まぐれな彼らが力を貸してくれるかはわからない。
······ただ、他に······協力してくれそうな者は······?




【Prologue─1】

130:鷹嶺さん◆XA:2021/11/27(土) 22:45

冴月の過去part1



 ある休日の昼下がり、鐡 冴月は翌日に迫った彼氏との初めてのデートに胸を踊らせていた。どこに行こう、何を食べよう、何を話そう、もしかしてキスとかされちゃたりして、そんなことばかり考えて勉強にも手がつかない。
 ついさっきも妹にたかがデートぐらいで浮かれすぎだと言われたばかりだ、彼氏すら居ない美月に何が分かると言いたいが、浮かれているのは冴月自身も自覚していた。
 ふと窓から空を見上げると、清々しいほどに青い空。

「気分転換か」

 そう思い立つと、冴月はカーディガンに袖を通し、ポケットに財布とスマホを突っ込むと階段を降りて暖かい日射しに吸い寄せられるように玄関扉を開けて外へ出た。
 ただの気分転換、何かをするわけではない、日向ぼっこをしている野良猫に出会えればラッキー程度の外出、行くあてもなく冴月は歩き出した。


 「こんな所まで来ちゃった」

 歩き始めて十分ほど、冴月はスーパーマーケットの前に辿り着いた、普段なら自転車で行く距離だ。
 ここまで来たのだから何か飲み物でも買って帰ろうか、そう思った時だった。
 突然の身体を押されるような感覚に思わずよろけてしまう、そして何かが身体の中に浸透していく気味の悪い感覚、なんだこれは?
 見れば周りの人達も一様に首をかしげていた、どうやら冴月に限ったことではないようだった。

 「空が、空が紅いっ!!」

 その感覚の正体を考察する間もなく何処からか誰かの声が響いた、冴月も周りの人達も先程の異常を忘れて空を見上げた、空が紅い。
 夕焼けにはまだ早すぎる、それになんだか気分が悪い、イライラしているような感じだ。
 さっきの気味の悪い感覚はこれのせい? でも紅い空とどんな因果関係が……

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 それは何の前触れもなく起こった、冴月の前方で空を見上げていた男が叫び声を上げた、男は振り返り冴月に異形に変化した右腕を振りかざした。
 冴月は呆然と見ていることしか出来なかった、男の異形の右腕によって冴月の身体は地面に叩き付けられた、理解不能、なんだこれは? わからない。

 「シネェェェ!」

 男の右腕が冴月の首を絞める、苦しい、やめて、どうして私がこんな目に会わなきゃいけないんだ!
 冴月の中にあった恐怖と混乱は理不尽への怒りへと変わりそれは憎悪へと変わった。

 「……死ぬのはお前の方だろ」

 身体の奥底から沸き上がる何か、それは凪いだ水面に落ちた小石が波紋を生むように、冴月の身体の隅々にまで駆け抜けた。
 全身が作り替えられていく、男は目を見開いていた、そう異形に変わったのは彼だけではなかったのだ。
 男が手を離そうとした刹那、冴月の身体から飛び出した金属質の棘は男の腕を貫いた。
 
 「――■■■■■■!!!!」

 声にならない悲鳴、男は地面にのたうつ。
 冴月は男のことなど最早どうでもいいと、重たい身体で立ち上がり歩き出した。

「――帰らなきゃ、美月が危ない」

131:◆Qc:2021/11/27(土) 23:52

『唯一の失敗』




震える手に、乾いた音が響いた。······決定打にしてはあまりにも味気ない音だった。
しかし、彼は喜べない。
水滴に塗れたスコープを覗けば、まるで触手のような手足を持つヴィランと、黒髪の女性が折り重なって倒れる様子が見えた。


「······························あぁ」

────杭のような雨が降っている。
痛い。酷く痛い。全身が痛い。心も身体も精神も自尊心も、何もかもが抉られてゆく。
それ程······敵ごと恋人を撃ち殺したという事実は、彼の全てを奈落へと叩き落とした。
土砂降りだった。空を見上げれば、一片の青空の気配すら感じられない、極限の灰色だった。黒でないだけまだマシだった。もし空まで黒かったら、彼は二度と上を向くことはできなかったであろう。

「■■■■■······」

一歩、二歩と踏み出す。······その時何を呟いたかは忘れてしまった。······忘れるくらいである。どうせ大した事ではあるまい。
無人のビルの屋上から飛び降りた。無傷で着地する。······そして、程なく現場にたどり着いた。
吐き気を催す程の血の泥濘、確かに恋人は死んでいた。
遠すぎた。最後の言葉すら聞けなかった。どんな表情をしていたのかもわからなかった。······ただ、一つ確かなことは、

「······おい、■■······」

普段の気障ったい振りをかなぐり捨てて、その顔に言葉を降らせる。
それほど······

「······なんで、そんな顔してるんだよ」

······死体となった彼女は、心底安心したような表情を浮かべていた。





あれから10年余りの年月が過ぎた。
その間、弟子を取ったことと、ヴィランと戦う『ヒーロー』の存在を知り、その集まりにしれっと交ざった事以外、彼はずっと孤独だった。······いや、孤独を望んでいるようにも思えた。
また修行を重ねるにつれ、彼の狙撃能力も向上した────それこそ10年前の状況を余裕で回避できる程まで。
······しかし。
それで、時を巻き戻せる筈がないのだ────




「······ようヒーロー。いや、王子様と言った方が良いか?まあいいか。······なぁ、大切な人との時間は宝だぞ。何があっても守り通せ」

10年後の自分に全てを託す。
誰かを護る誰かに、一人でも多く届ける為に。
弱すぎた自分と、もう向き合わないように────

132:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

『化け物と呼ばれた紛い物』

『お前は霜星、神代霜星、これから、そう名乗りなさい』

俺には、はじめ、名前が無かった

父には捨てられ母は死に、天涯孤独となっていた俺を見兼ねたように、父の姉……俺から見れば叔母となるあの人が、俺に名前を与えた

幾星霜の時を越え、生まれ落ちた神の依代

それが俺の名前の意味らしい、難しいことはよく分からないので、他にもなにか言われていたような気もするが、正直なところ覚えていない

結局のところ、どれだけ叔母が俺に目をかけてくれようと、結局は俺は一人孤独なわけで、神だの、妖だのといわれても、周りから見れば化け物には違いがなかった
まぁ間違ってはいないのだろう、確かに俺には、人の血など一滴たりとも交じってはいないのだ
それなのに、この見た目だけは妙に人間らしく、そしてその赤髪が、周りの人間には奇妙に思えたらしく、どこまでも中途半端な俺はどこまでいってもこどくなままだった

133:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

まぁ、そんなことは1ミリたりとも気にしたことがないのだが


呑気に飯を食いながら適当に過去を振り返る
正直散々な目にあったとは思う
村八分なぞ当たり前だし、汚れ仕事はこちらのほうへ、顔がいいからと慰め者にされたこともあった気がする、流石にその時はぶん殴ったが
今食べている飯だって、燃費が悪くて仕方がないというのに、「死なないから」という理由で何日も削られたことさえある、いや、削られたというかそもそもないにひとしかった

年月が流れて村が亡び、また次の村に行けば、前の村と同じようなことをする、なんとも愚かなものだと思ったが、まぁいつか死ぬという結末が決まっている奴らだと思えば、むしろ哀れみさえ覚え、抵抗も、文句の一つもつかなかった


まぁ、それから何とか生き延びてやったわけだ
俺を捨てた父には、どうだと胸を張ってやりたいし、俺を残して死んだ母には、立派だろうと自慢したい
正直、どちらの顔ももう覚えていないから、そんなことは叶わないのだけれど

134:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

ある日のこと、おれはとある村から外れた場所で、座り込んでいた老婦人を助けた
なんでも怪我をしたらしく、背負って彼女の家へと向かえば、心配した様子で家の外をうろついていた老人…彼女の夫がこちらを見て駆け寄ってきた

老婦人を下ろしその場を去ろうとすれば、その老夫婦はなにかお礼がしたいと、そちらも貧しいくらしであろうに、俺を家へと招き入れた

初めて、ただの人からの優しさに触れた
奇妙だろう赤髪もきにすることなく、老夫婦は俺に対して感謝のみの感情を抱いていて、それがあまりにも心地よくて、



つい、そこに何日も長居をしてしまった

135:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

目を疑った

そこに生はひとつたりとも存在しなかった

かわりにそこにあったのは、変わり果てたふたつの肉塊と、血溜まり





当たり前、だった

なぜこの夫婦はこんなに遠く、村に外れた場所にいたのか、俺がいちばんわかるはずだった

村から、除け者にされていたのだ、優しいが故に、老いているが故に

それに加えて、俺という化け物が入り浸っているという事実を、村のものたちはどう見ただろう







"きっとやつらは除け者にした俺たちにあの化け物を仕向けるつもりだ"

"殺される、殺される"

"そんなのはいやだ、どうすれば、どうすれば"



"………そうだ"



"殺される前に、殺してしまおう"

136:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

「ひ、ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「たすけて、たすけてぇ!」
「ころさないで!おねがい!!ころさないでぇ!!」

うるさい、雑音が多くて、みみがいたい
うごきまわって斬りづらい、四肢をまず落とそう、その方が楽だ
こどもは……いいだろう、この村の悪意は大人たちだけだ
血がついた、汚い、醜い、あぁ、やっぱり

嫌な色だ

血の雨が降る
血の海に浸る
あれだけ白かった服が、真っ赤に染ってしまった
……もったいない、せっかく老夫婦が洗ってくれたのに



ようやく、うるさい音がやんだ
………そうだ、忘れていた、帰らなければ

137:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

山を登り、2人が眠っている家へとはいる
眠る2人を、零さないように外へ運び、優しく土で埋めてやる

すまなかった

俺が山などに行かなければ

俺がこの家に来なければ

きっと2人で、細々と、けれど幸せに───


そこまで思って、思考を辞めた、
もう戻らないことを思ったって、意味が無いのだ
2人の墓に手を合わせる、人間の真似事だが、きっと意味はあるのだろう




それからずっと、孤独に生きた

悪を斬り、善を救う、それだけの為に生きてきた

そのためだけに俺は生き、そのためだけに、俺は死ぬのだろう

何度血を被ったかわからない
俺の髪は、人を着る度に赤く染ってゆく

神になどなれない、妖になどなれない、
ましてや、人間になど、絶対に─

138:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

幾星霜の時が流れた
時代は変わり、建物などは神秘を失った鉄の塊とかしてゆく

紛い物とはいえ、神性を少なからず持つ俺としては、なんとも生きづらい世の中へと変わっていった

まぁ死ぬことは無いのだけれど、それでも神秘が足りないのを飯で補っていたというのに、食料は底を尽き、補う物が取れない現代ではこれはかなり厄介な事柄だった

ふらりと揺れるからだをどうにか引きずりながら、少しでも神秘がある場所へと歩を進め、ふと、視界に鳥居が目に入った
長い階段にはどうにも苦戦したが、ようやく境内に踏み入れたところで─俺の体は力尽きたように地面に倒れた


ここに居る神には申し訳ないが、もう動けない、仕方がない、このまま少し神秘を受けて、動けるようになったら────








「…………………人が、倒れてる」

139:鷹嶺さん◆XA:2021/12/03(金) 23:36

冴月の過去part2

 紅い空の下、冴月は走った。
 幸運なことに一歩進むごとに重い身体にも慣れてきた、どんなに人間離れしていても自分の身体であることに変わりはない、ということだろうか。
 どうしてこんなことに、いくら考えても何も分からない、だから今は前に進むことだけを考えよう、冴月は地面を蹴った。

 街が燃えている。

 人が死んでいる。

 怪物が暴れている。

 この街に平和と呼べるものはどこにもなかった。
 それでも、自分の家族は、家族だけは助かるかも知れない。そんな淡い期待はいとも容易く打ち砕かれた。
 
「――美月、あなたもなの?」

 紅い空を見上げ立ち尽くす妹の姿。

「お姉ちゃん、助けて……」

 けれど、その姿はもはや人では無く。

「なんでこんな姿になっちゃったの……助けてよお姉ちゃん」

 背中から樹木を生やし、全身を蔦で覆われた異形であった。

「…………」

 冴月は言葉を失った、脳が凍り付いたみたいだ、こんな姿になってしまった妹に掛ける言葉など思い付くはずもなく、ただただ美月を見つめることしか出来ない。
 こんなときお父さんとお母さんなら何て声をかけるだろう、とそんなことを思った。そして冴月は気付く、両親は何処へ行った?
 最悪の事態を想像し、妹に問い掛ける。

「ねぇ美月、お父さんとお母さんは?」
 
「死んだよ」

 あぁ、想定していた返答だ、自分の家族だけは無事なんてそんな都合の良いことあるはずないか。

「そう、あなたが殺したの?」

「違うっ! わたしじゃない! わたしじゃない! わたしじゃない!」
 
 美月は狂ったように叫んだ、いや美月は狂っていた、止まらない絶叫、それに呼応するように背中に生えた樹木は枝を伸ばし、鋭く尖った槍となって吹き抜ける風のような速度で襲いかかる。人間の身体など容易く貫くだろう。
 しかし、それは相手が生身の人間ならばの話だ、身体の金属化という異能を得た冴月には掠り傷すら与えられない。

「くっ、美月やめて……」

 冴月の声は異形と化した美月には届いていない、こうなってしまえば実の姉だろうと関係ないのか。

「どうして止めてくれなかったの! お姉ちゃん! どうして!」

「お姉ちゃんのせいだ、お父さんとお母さんが死んだのは、お姉ちゃんが家に居なかったから、全部お姉ちゃんが悪いんだ」

 美月は叫ぶ、大粒の涙が頬を伝い地面を濡らす。
 冴月の元へ無数の蔦が殺到する。

「私に押し付けないでよ」

 冴月は静かに激昂していた、四肢を刃に変化させ美月の繰り出す蔦を切り裂いていく。

 もはや、美月に冴月を止める手段はなかった。
 そして怒りに身を任せ二人は激突した、金属の刃と樹木の槍が火花を散らす。

 美月の繰り出す樹木の槍は冴月の身体を貫けない、蔦の縛鎖は容易く切り裂かれる。
 けれど、冴月もまた美月を貫けない。
 冴月と美月、姉妹同士の剣戟は日が傾くまで続いた。
 しかし、その均衡は突然崩れ去った、美月の胸から鮮血が迸る、冴月は目の前にいるのが妹ということさえ理解していなかった、この時冴月はまさしく怪物であった。
 血に染まった右腕を引き抜く、美月は力無く頽れた。その姿に冴月はようやく我に帰る、けれど全てが遅かった。

「美月?」

「ごめんね、お姉ちゃん……許してくれる?」

「謝るのは私の方だよ、美月は何も悪くないんだから」

「……よかった」

 美月は微笑んでゆっくりと目を閉じた。
 
「おやすみ、美月、ごめんねダメなお姉ちゃんであなたのこと助けられなくて」

 動かなくなった美月の身体を抱き締めて、語りかける。
 

 そして、冴月は誓った、こんな私にもし次があるなら、その時は絶対に大切な人を守り抜くと。

140:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:55

ふしぎなせかい
すべてがひっくりかえり
すべてがもとどおりに
とうめいだったりにじいろだったり
あるいはきんいろだったり
なんにもみえなかったり
それでも
おかしくはない
そんなせかい
ふしぎなせかい


「──楽、決着をつけに来た」

「······へえ。また来たのか······今度こそ折れるかと思っていたのに」

「······折れない身体にしたのはそっち。今度の私は、これまでの私じゃない」

「それ······ライバルとしてまた負ける奴のセリフだぞ、お前──でも」

神はいった
なにかにきづいた

「でも、その脇差は······駄目だなぁ?」

女性におそいかかる壁
ふしぎないろをした壁
でも、それは
女性からとびでた弾によって
ひっくりかえり、もどってゆく
神はめをみひらいた
たのしそうだった


女性は脇差をぬく
下からのかべをとびこえて
女性はあの銃もマジックハンドももっていなかった
もはやひつようなかった

「これだから面白い······あぁ本当に!」

神はわらう

「人間の可能性は······やはり面白い!!」

あおい剣がうかぶ
それにたいするはしろい脇差
げきとつした

脇差がかった
一瞬あと
脇差は神のどうたいを両断した
──そう、神殺し。




麗花が脇差に付着した不思議な色の血液を払うと、途端にその空間が消えていくのを感じる。
······それと同時に、彼女の身体もゆっくりと消えていく。

「······やりやがったな」
······両断したはずの楽が、いつの間にか現れていた。
「······これでいいんだろ?」
彼は挑発的な笑みを浮かべていた。まるで麗花を誘うように。······その笑みで逆上した者は数知れない。
しかし、麗花はそれでいい。これでいいのだ。


彼女は何も言わずに消えていく。······後には真っ白な脇差が遺されていた。

「······っはー······面倒だな。まったく」
もはや残滓となった麗花に、楽は触れる。そして、神たる所以の力を行使し──
地獄に落とした。

脇差は月に投げられた。




 

141:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:57

『神は死なない。』
『ただ、赦し、認めるのみである。』

142:◆Qc:2021/12/20(月) 01:50

『聖王』と『月の巫女』








今からおよそ16年前。




18代目『聖王』ベルハルト・ハーツクライン······彼は無窮の空間の中にいた。······音もなく、空気もなく、場所によっては重力もない空間······そう、宇宙である。
だが彼は生きていた。······いや、むしろ健在だった。

「驚きましたね」

その摩訶不思議な人間に相対するのは、こちらも人間に見える女性であった。彼女は『月の巫女』······月の住人達をまとめあげる存在である。

「まさか単身月に乗り込んで来るとは······本当に人間は······いや、『教会』とは不思議なものです」
「······」
「蒼月、想月、葬月······時空を歪ませ、あの子たちを葬ったのも貴方達でしょう。流石の私でも怒りますよ」
「············」

二人は静寂の原野で、互いに得物を持ちながら相対している。······月。それがこのフィールドの名称である。
ベルハルトの後ろには何も無い。······対する月の巫女の後ろには、遠く遠く、うっすらと人らしき影が見える。それだけで分かるだろう。方や庇護、方や侵略。······もしくは、献身と使命。
まるで対照的であった。

「さて、流石に予想外でしたが······貴方は我々の敵です。ここで死んで貰いましょう」
「······それは此方の台詞だ。······お前達は我が名に誓って駆逐する。悪魔に滅ぼされる筋合いなど······皆無だ」




戦いは数日の間続いた。空気が無いのにも関わらず、互いに人の域を超越した攻撃を繰り出し、相手にかすり傷程度のダメージを与える。それだけ、双方共に手練ということである。
そして決着がついた。
相討ちだった。

最後には多大なエネルギーが戦場から溢れ出し──その光は地球でも観測された。
指揮者を失った月の組織はしばらく混乱することとなる。······だが、『教会』も聖王を失ったことで月と同じように弱体化した。

あれから年月が過ぎた。月は未だに次代の巫女を見出していない。······さあ、内乱など起こしている場合ではない。
更なる災厄が迫っている。

143:◆.s hoge:2021/12/23(木) 16:23



 : 裏手より火の手が …殿!


 「 敵は最早目と鼻の先に! 」

(__戦況は、もとより総崩れ 本陣へ差し迫る
 井守門左衛門の長槍を眼にすると 欣之は遂に
 床几より腰を上げた…が)

 

 「: 今更、逃れられん …手遅れよ 」



 けたたましい蹄の音はごうごうと本陣との距離を狭め
 今にも幔幕が破られ、我が身に槍が突き入れられんと
 している中で 不思議と欣之の心は落ち着いていた

 
 

144:◆.s:2021/12/24(金) 03:34



 怒号が迫ってくる、残された時は少なく
 しかし 策を打てる余力など無かった
 …命はあるまい、余裕とも取れる落ち着きは
 欣之にとっては静観から来るものだったが
 立ち上がり しかし無様に慌てず敵の方角を
 見据える欣之の姿を、家臣たちは一歩を退かず
 守る覚悟に追いやった。___誰もが、死ぬ覚悟だ


( …欣之は今、昔の記憶に思いを馳せていた

世の広さに憧れ 村を飛び出したあの日
定盛に拾われ 死に物狂いで上を目指した城の日々
戦場以上に打ちひしがれては 何度も拳を叩いた
…それでも諦められずに労を重ねた苦難の馬回り集…)


( __不意に 巳冶姫の顔が眼に浮かんだ
  最後まで、戦場へと向かう自分を引き留め
  あまつさえ定盛に懇願さえしてみせた巳冶姫を
  …ただ、残して死ぬことになる …だというのに
  おれは 巳冶姫の愛に応えてやる事も出来なかった )


( …そこまで思うと、今更巳冶姫へ詫びたいと
切に願う気持ちが心に現れた …自分は 今日、死ぬのだ
そう理解している筈だったが …自分の気持に嘘は出来ぬ)


_______思考を遮るように轟音が響く



 破れた幔幕を越え …足軽の一隊が姿を現す
 …僅かに遅れ、欣之の前に躍り出ると
 馬を降りた一騎の武者は名乗りを上げた


「:鹿沢家家臣、井守門左衛門!
 欣之義虎殿!お覚悟召されよ! 」



_____鬼の井守が欣之を見据えていた

145:◆cE hoge:2021/12/24(金) 22:46

「それはきっとはじめての色」

 昔から、目にうつるものが嫌いだった。
 お父さんもお母さんも顔がもやがかかって見えない。その色からはお姉みたいなあったかい色は見えない。くろくて、しってるこの色は嫌いって色。ぶきみ、いらない。いらないこ、なんだね、らん…。

 三歳になった日、お姉と二人きりになった。お父さんとお母さんは遠いところにいったんだって。お姉はすき。お姉もわたしのことがすき。でもらんはらんがきらい。だから、約束した。その人はらんと同じだけど違う。守ってもらわなくてもいい。嫌いならんが消えるかもって思えるから。ほら、今日だって、黒くてもやがかかって
「……らんのかお、みえないなぁ」


 「……人が倒れてる」
 その一言というか、お姉の気まぐれで住むことになる人…なのかな。嫌な色ない。これは確か後悔の色。お姉はせらふさんとか学校で忙しくて居ないことがおおい。そういう時はそうせいらんの相手をしてくれる。色んな遊びを教えてくれるし、話さなくても気が楽。表情にはでないけど、色んな色が浮かぶから、ふふ、たのし、いな。顔を洗って鏡を見つめる。相変わらず黒くてみえないけど、きっと無表情のまま、それが気味悪がれたんだっけ…あ、なに、このあっかいいろ
「……色が、増えた?」

 そうせいが、三日ぐらい帰ってこない。お姉は仕事で帰ってこれるか怪しいって言ってた。やっぱらんの相手するの疲れちゃったのかな、そんなことを思いながら縁側にお茶をもってく。
「……あ、」
 無意識に用意した二つの湯呑みを見つめる。はやく、帰ってこないかな…。そんなふと思い浮かんだ考えを振り払うように頭をふる。そうせいはここに住んでるわけでも、家族って訳じゃないのに。波打つ水面にうつる自分の顔。相変わらずはっきりは見えないけど…。そっと浮かぶ水色。
「……らん、そうせいがいなくて、さみ、しいの?」

 最近、自分がよくわからない。寂しくもなんともなかった、はずなのに。ぐるぐるもやもや。よくわからなくなって、お姉のとこにいこうとし彼の服ををぎゅっと掴む。
「行っちゃ…いや」
 
 え、なに、これ……彼の目に移るらんは、この色は、なに

146:◆Qc:2021/12/29(水) 05:32

「······悪い、駄目だった」

彼はそう言った。······その時、何を思っていたのだろうか。······いや、彼だけではない。真っ先にそれを伝えた二人──アーミチェスとシヴァ。
二人はしばらく無言だった。
雨に濡れたスコーピオンを、放心とも失望とも希望とも歓喜とも絶望とも知れない表情で見つめていた。

「······そうか」
やがて、アーミチェスが首を振りながら言った声が聞こえる。
「タランテラの白衣は毒の繊維を用いている······それでもか」
「······初耳なんだが」
「彼女と何年の付き合いだと思っている。確かにお前は恋人だろうが······こっちは18年だぞ。おい、死体はどこだ」

スコーピオンは無言で首を振った。なぜなら、
「······教えてください」
「······」
「教えてくださいよぉ、先ぱぁい!」
「死体損壊は重罪だぞ」
「軍隊来ない限りは罪じゃないですよ。さっさと教えてください。殺しますよ?」
これである。要するに、シヴァが爆発する可能性を考慮して······信頼出来る『葬儀屋』に恋人の死体を預けたのだった。

「ちぇー」
「不貞腐れるなよ。······あいつも覚悟はできていたんだろ。やってた事がやってる事だったからな」
「······覚悟か。お前が言えることか、スコーピオン?」
「正直キツいな。······あぁ」
「だろうな。しばらく休業するといい。幸い彼女は緊急時マニュアルを遺していた。しかも更新日は4日前だ」
アーミチェスは何処からか小さなノートを取り出した。······彼の言った通り、その表紙には4日前の日付が記されている。
そしてそれを躊躇なく開いて読んでいく。遠慮も何もあったものでは無い。

「随分用意がいいんですねぇ。ひょっとして分かってたのかも?」
「それはないだろう。スコーピオンが居る以上自分が殺されるなど想定外だった筈だ······いや、責めている訳じゃない。私達も油断していた。多分何度やっても同じだろうさ」
「············」
どうやら目的のページになかなかたどり着けないらしく、ほぼサイボーグの友人は紙を捲りながら口を動かす。
口調からは分かりにくいが、恋人を喪ったスコーピオンを気遣っているのは明白であった。

「そうですか。······ところでどうします?弔い合戦でもします?」
「どうやって?我々の戦力で?流石に分が悪いだろう。············いや、待て。確かに合戦になりそうだな······」
アーミチェスが丁度開いたページ、そこになんらかの情報があったらしい。······感情は違えど、······一人の人間を慕って集まった三人を繋ぎ止めるかのように、それは存在していた。

147:◆Qc:2022/01/18(火) 20:40

「人ってどうしてすぐ死にたいとか言うんだろうね。本当に死ぬ人もいるしさ」
「別にいいのでは。私は仕事になるので歓迎したいのですが」
「こっちは過労になるんだよ。······はぁ、そのメンタル羨ましいよ」
「結構簡単に身に付きますよ。一日体験でもしてみます?」
「やだよ」
「でしょうね。······」
「······うん、ところで何の用かな?『神の手』だって暇じゃないんだよ?」
「依頼が入ってまして。貴女の協力も必要なんですがね」
「はぁ」
「そんな顔しないでくださいよ。折角同じ世界に転生した縁じゃないですか」
「それとこれとは話が別だよ。そもそもただの医者に何ができるって?」
「つれないですねぇ。私は知ってるんですよ、あの能力を持ってることくらい」
「そっか。で?」
「名前はタランテラ」
「············!?」
「数日前······まぁ伏せますが、死亡」
「なんで?」
「なんでも触手のヴィランにやられたそうな」
「······」
「機械と破壊神······それと十中八九蠍も。その依頼で、死体を預かってます」
「えー······嫌だなぁ。そもそも結構失敗確率高いんだよ?」
「時間は幸いかなりあります。また二、三か月したら来ますね」
「あ、ちょっ······」

148:◆RI:2022/01/27(木) 00:29

『愛の存在証明』

「愛とは、なんなのでしょう」

少女から零された疑問、それを生涯、彼女は理解するはずは無い、そういう機能は与えられず、そういう意図は生み出されない、そうして生まれたのが、リィン・レイ・フォーティアである

少女は生まれながらにして死を待つのみの生命体だった

鉱石人形
個体名称:紅結晶

それが彼女の名前であり、リィン、という名はあとから加えられた過剰情報だ、彼女は観賞用のドール、見られる以外に価値をもたらすことはなく、与えられた愛に答える必要も無い

そういう生態のはずだった、そういう性質のはずだった
誰より、その事は少女がいちばんわかっていた

だからこそ



「リィンっっ!」

その行為は、信じられないものだったのだ

149:◆RI:2022/01/27(木) 00:30

「─────」

彼女は微笑む、命を捨てて
彼女は微笑む、寿命を捨てて


『これ、ずっとつけておいてね』
『...?雲雕様、これは...?』
『君の寿命を多少なりとも伸ばしてくれるもの、改良の余地はあるけどね』
『、──』


手渡したはずの、肌に離さず持っておけと伝えたはずの贈り物は、彼女の手がら空に投げ出されている

『ちなみに、それつけてる間、俺と君の感覚リンクされるから、君が死ぬと俺は死ぬし、俺が死んでも君は死ぬよ』
『!?!?!?』

そうだ、そういったはずだ、『浮気』がなんだと理由をつけて、唯一の繋がりを手放さないよう、雁字搦めにするように、彼女の願いを糸に紡いだ呪いに限りなく近いそれ

でも、それでも


『────あ、ありがとうございます...!』

残り10年もない命の灯火を消させないように、なんて、建前だけのそれでも、彼女は素直に受け取った、嬉しそうに頬を緩ませ、生が育まれることに歓喜した



・・・・・・・・・・・・・・
君はそれを喜んでいただろうが



なのにどうして

150:◆RI:2022/01/27(木) 00:30

「りぃーさん!!」
「りぃちゃん!!!!」

彼女はどうして自分の目の前にたっている?
彼女はどうしてそれを外している?


─彼女はどうして、血に濡れている


『感覚リンク』『寿命』『俺が死んだら』『君が死ぬならば─』


情報の海が勢いよく脳に流れ込んでくる
こんなもの、いつもなら直ぐに処理しきれるというのに、目の前の光景は、まるでスローモーションのように脳の回転速度を低下させる

理解できない
わからない
でも、だけど、それでも、そんな自分でも分かった



「───、─」

口から血を流す彼女の微笑みは、安堵からくるものだということ

その安堵は、自分に対して向けられたものだということ

そして、彼女は、自分を殺させないためだけに、喉から手が出るほど欲した寿命を投げ捨てたということ



彼女は俺の盾となった

151:◆RI:2022/01/27(木) 00:31

「く、れない、けっしょう」
「─はい、うんちょうさま」

返事はいつも通り丁寧に、だけど待とう白い服は、脇腹を中心に、じわじわと赤い花を咲かせていく
美しい、本能的にそう思う、そして同時に、感じたことの無い感情が理性を蝕む

脇腹を抑えながらも少女は微笑む、痛覚などはない、痛みなどは存在しない、ただ、儚く壊れていく

真っ白な彼女を赤く染める、パパラチア、俺のパパラチア


「ごめんなさい、うんちょうさま」

鈴のような声で彼女は紡ぐ

「─あなたさま、いがいに、こわされてしまって、ごめんなさい」

赤い花弁は散らぬことを知らず、白い真珠は塗りつぶされていく

「ごめんなさい、ごめんなさい、どうか、どうか、あぁ」

それ以上は言わないで欲しい、伝えないで欲しい、知らないフリをして欲しい

伝えてしまえば、もう終わる、この関係はもう終わる、それは、それは、君の灯火が消えることと同義で───


「いとしいあなた、ともにいきられぬことを、どうかおゆるしください」

152:◆RI:2022/01/27(木) 00:31

微笑みは絶えず、目の前に残るのは無機物たる宝石のみ

最後に伝えられたのは愛だった、自分たちがどこまで行っても理解できなかった愛だった

知らないものだ、知りえないものだ、彼女には、自分には

なのに、なのに、どうして


彼女は理解した、そのために必要な機能も性質も持たぬまま、彼女は理解し、最大限にそれを伝えた

そして自分も理解した、愛などというまやかしを、証明された、されてしまった

             ・・・
「───ずるいじゃないか、リィン」

ずるい、ずるい、ずるい

理解した、理解したのに、彼女はいない、彼女は目覚めない

愛を与える場所も、愛を告げられる相手も、愛を通じ合う事ももう、もう、もう



「、ぁァ」

声が滲む、視界がぼやける、おかしい、おかしい、こんな感覚は初めてだ、なんて疎ましい、なんて憎らしい、なんて─

─なんて、愛おしい

「っ、りぃん...!」

置いていくなんて酷いじゃないか、勝ち逃げだなんてずるいじゃないか



あいしてる、あいしている、どうか、どうか


「だれのものにもならないでくれ、──!!」


君の愛がどうか、俺だけのものでありますように

153:◆rzo.:2022/01/28(金) 08:09

ちょっとどうしてもなにか感想を伝えたくなってしまって、、

RIさんの話なんですけど、、ただたまたま読んだだけなんですが凄く感動しました。素敵なお話読ませていただきありがとうございました。

154:◆rzo.:2022/01/28(金) 08:09

もし乱入など禁止だったらすみません…

155:◆RI:2022/01/28(金) 18:37

わざわざ感想をありがとうございます〜!!!モチベに繋がりますので大変嬉しいです、乱入等は荒らし以外に規制などありませんので、よろしければまた、私、もしくはほかの皆の話を楽しんで下さいませ!

156:◆RI:2022/01/30(日) 00:46

『どこかの誰か』

https://i.imgur.com/oYeVcsi.jpg
https://i.imgur.com/Frhh7Gy.jpg

157:名を捨てし者 hoge:2022/01/30(日) 22:10

>>156
これは画像が葉っぱでは見れないようにしてあるのかな?

158:◆RI:2022/02/06(日) 02:30

「君はきっと、僕を呑み込みたいんだろうね」

「─は?」

目の前の男に告げられたそれは、微笑みながら告げるなどありえないはずの、自分の目的だった

「俗に言う『ヴィラン』というものなのかな、いや、悪と決めつける訳では無いけれど、正義だというにはいささか問題があるんじゃないかな、どうだい?ベテリー」

「─なぜ、知っている」

「なぜというと、やはり目的は間違っていないのかな?それは残念、僕はまだこの体を捨てるつもりは無いんだけどなぁ」

「っー!何故知っていると聞いている!!応えろディユ!!」

問いかけてもはぐらかすように微笑むそれに、苛立ちを覚え、叫ぶように問う

「─怒らないでおくれ、ベテリー、綺麗な顔が歪んでしまっているよ」

それでもなお、目の前のこいつは私に微笑む

「…そうだね、なぜしっているのか、というと…

なんとなく、だとしか言えないね」

「は─」

息を飲む、なにを、なにをいっている?目の前のこいつはなにをいっている

「だってきみ、僕にはじめて声をかけてきた時、すごい顔をしていたじゃないか」

そんなはずは無い、ポーカーフェイスは完璧だった、バレる要素などひとつも

「瞳、捕食者の瞳だった、笑っていた、僕を見て

次の獲物を見て、わらっていたんだろう?」


恐怖を覚えた、
目的がバレたことに?違う


その事実を知っていて、私と過ごす日々に一切のそれを悟らせなかった、そしてなおも、微笑み、その事実を世間話のように告げるこの男の異常性に、だ

生かしておくべきではないと、本能でそう思った

気がついた時にはそいつに向けて手を向け、異能を放っていた

伸ばしていない方の手で頭を抑える、息が荒い、動揺するな、と下を向きながら己に命令する

どうしようも無いこの感情は、やはり己が三次元の人間だと悟らされる

それに歯を食いしばり、やはり壊さねばと己の意思を再確認する

「─べテリー?」

ひゅ、と息を飲む

「どうしたんだい、ベテリー、気分が悪いのかな」

─なぜ

なぜ、この男は平然としている

なぜこの男は負の波動に呑まれていない

なぜ、なぜ、なぜ

「ベテリー?」

男がわたしにてをのばす

なんでもない、脅威などなにもないはずのそれが、あまりにも恐ろしく、力強く払いのける

「っ─化け物め─!」

吐き捨てるように告、気に食わないが、逃げるようにその場から立ち去る


『初めまして、ディユ・パライバトルマリン、─ベテリゲーイゼという、仲良くして貰えるかな?』
『─あぁ、もちろんだよ、よろしくベテリゲーイゼ、…ベテリーとよんでも?』


───ディユ・パライバトルマリン

私に笑みを向けたもの、私に優しさを向けたもの


私に恐怖を与えた、五次元の人間

「っ─!」

あいつの微笑みが、脳裏に焼き付いて、離れない


「げほっ…」

咳き込む、じわりと体の中で何かが蠢くような感覚がある

「…………」

赤く染まった手のひらを見つめながら、考える

『っ─化け物め─!』

「……これは、長い戦いになりそうだね」

血に汚れた手を気にすることも無く、両手を交差して握りこむ
祈る、祈る

どうか、妹が巻き込まれませんように
どうか、親友が巻き込まれませんように

「───」

どうか、『友』が、これ以上道を踏み外しませんように

「ベテリゲーイゼ、君に、光があらんことを」
どうか、君が、闇に消えてしまいませんように

159:名を捨てし者 hoge:2022/02/06(日) 03:12



『 ──────人は死んで、全てが完成する。


 今迄に積み上げて来た物...例外無く全て破滅に終わる。
   財産も名誉も権力も美貌も友情も恋愛も

    死んだら全て手放さなければいけない
      あの世には何も持っていけない 

     だからこそ最期まで役に立て 
       全ては未来への為に

          _____英雄譚より一部抜粋 』



いつまでアンタの事を覚えてるんだろうな、もしかすると私しか覚えてないかもしれない。…少なくとも、あっちにいる奴等は全員 ...アンタの声は忘れてちったみたいだね ...顔も朧気にしか思い出せてないみたいだ。
……あぁそう泣くな、私がついてんだろ?



    本当、アンタは哀れだったよな。
味方からの流れ弾に当たって死んだ…そこまでなら、憐れて死を悼まれる筈だった。…そう、"だった"よな

──────“....でも、でも ...現実ってのは、残酷だよ“


 …あぁ、そうだな。滅茶苦茶残酷だな?
 アンタが死んだのは何も悪くないってのに…
...アンタを撃った流れ弾のせいで戦闘に敗北した…
原因は誰になるかって言う責任のなすり付け合いで、出たのが...."邪魔な奴が一人いた"って結論。



理不尽な死亡だった、なのに責められるのはアンタだけ....で、最終的に親にまで責任はいって、批判の嵐。.....両親共に残念だが ...もう、アンタよりも先に獄の世界行きだ。



   同調圧力と、袋叩き。
  ………アンタが死んでも、今なお続いてるこの負の連鎖。



...さて、そんな前置きは置いといて、まだ魂だけが残ってるアンタに聞きたいんだよ
 ..良く復習は何も生まないって言うけれど、一つ生むもんがある .... ....【 爽快感 】 ...と、私は思う。


  どぉだ? ...私と一緒に、色んな奴に復讐をして
    ...悔いなく、一緒に獄へ行かね?
...ま、もしかしたらそれが世直しにもなって、半ば軽くなるかもしんないし...。



───────"...やる、やり切ってみせる、絶対にあいつ等の苦痛に歪む顔を見て ...パパやママを安心させる...そして、もう二度と私みたいな残念な人が生まれないように、思い知らせてやるんだよ... ...悪い事をすれば必ず自分に返ってくる、って!"

お〜〜、その意気その意気 ....んじゃ、宜しく頼もうか? ......大事な大事な契約主様?


    それはとあるだらけ切った悪魔と
    "正義"を誓った死者の .....物語。

                (続かないよ!)

160:◆cE hoge:2022/02/07(月) 02:17


 変わったと思う。家族から見ても他人から見ても。そんなことを告げたとしても彼は何を言ってるんだいとその考えを馬鹿げたものと一蹴するのだろう。そんなことを考えながら工夫茶を入れる。飲んでくれる彼は今日も美味しいと笑ってくれるだろうか。そんなことを考えおもわず笑みをこぼしながら、先程まで考えてた人物が現れ思わず目を見張る。

「やぁ雪、お茶も入れてくれるとは俺のこと大好きだな」
「お兄様のためじゃないことを分かってての発言ですわよね…ちょ、なに勝手にのんで!」

 自由奔放で無邪気子どもみたいといえば聞こえがいいがその中身は最悪だ。そんな彼が何か一つに執着を見せてるのだから…。ため息をつきながらお茶を一口に含む。香りは最高だが舌に広がる泥の味に少しだけ落胆を覚える。春蕾様はほめてくれるけど本当に美味しいのか…そんなことをもんもんと考えていると彼は声をかける。

「春は俺と同い年だよね…」
「あら、お兄様が世間話が出きるなんて、はじめて知りましたわ」
「最近…覚えてみるのも悪くはないかなって思ってね、ほら実験体の緊張を和らげるにも」
「嘘」
「ほんとなんだけどなぁ、次期当主候補様」
「白々しいですわね…ほんと、それで結局何を言いたいのです?」

 兄の思っていることはよく分からないが考え方は一緒なのだ。思わず舌打ちをしてしまうほどに。そんなところに血の繋がりを感じ嫌になる。ただ唯一彼と違うことは人の心があるか否かだったのだから。

「今まで人とちゃんと『会話』をするということがなかったからね、練習さ」

 そういいながら実験データを楽しそうに眺める兄を見て思う。変わったのは愛ゆえなのにそれをいったところで彼はそれを理解できない。

「こんなところで油を売ってる暇がありましたら、リーさんのところへ行っては?」
「……?なんで、紅結晶の名前がいまここで出るんだい?」
  

「失くなってから後悔してもしりませんわよ」
「馬鹿だなぁ、雪は」
「俺が紅結晶に執着してるのは壊れるまでと決まってるのに、後悔もなにもするわけないじゃないか」

 ケラケラと笑い頭を撫でてくる彼はおそらく本気でそう思っているのだろう。冷めた紅茶は泥のように苦い風味が広がる。味覚を失った理由も彼がこうなった理由も一緒だから憎むに憎めない。だから私はこの兄が嫌いなのだ。


「それでも、後悔することがないように行動はしてくださいませ、お兄様」



『最愛の憎らしい同類の君へ』

161:◆Qc:2022/02/14(月) 00:34

『――御伽先生』


少女が、手紙を書いている。
一行目、相手の名前だけを書いた、もはや紙切れのような手紙であった。
「貴女に贈ります」という声と共に、虚空へとそれを放る。


返信は早かった。彼女の能力のお陰で、相手からも即座に手紙が届く。
『どうしたの?石鎚さん···いや。篝ちゃん。
この形で連絡を取ってくるなんて、久々だね』
それを読んですぐ、二枚目に筆を走らせる。


『また兄がメール見てたらいけないので···すいません。
先生、少し質問があるんですが、時間は大丈夫でしょうか?』

『···いつもながらプライバシーも何もないね、帳くんは。
まあそれはいいかな。
時間ならたっぷりあるよ。···仕事就いてないからね。···いつも思うんだけど、どうしてまだ先生なんて呼んでくれるのか、不思議だよ』

『···だって、私にとって、御伽先生はいつまでも先生なんです。
えっと、質問なんですが···私の父について、何か知っていることはありますか?』

『···照れるよ、それ。私以外にはその論法使わないでほしいかな···
して、篝ちゃんのお父さんのこと?なんで私に···前言ってた商人さんに頼めばいいと思うんだけど』

『えっ?
いや、駄目です···最近あの人怖いんですよ···もう先生にしか頼めないんですよ』

『······篝ちゃん。明後日私の家来てね?
それはともかく、ちょっと調べたんだけど、篝ちゃんの家ってその筋では超有名な諜報組織みたいだね』

『えっ?
えっ???
初耳なんですが』

『···あー、これは···あんまり他人と関わらないが故に気付かれなかったパターンかな?一応ヒーロー組織にも有能な情報屋いたはずだけど···それとも篝ちゃんがポンコツ過ぎてその一族だと認識されなかったかな···?』

『あの、要点だけお願いします。明後日用事入れますよ?』

『はいはい。それで、その中にえげつない人がいたみたい。二つ名は「血煙」』

『煙···お父さん···?』

『お、ビンゴかな。良かった。
すぐに知れたのはこのくらいだね。これでいいかな?』

『···はい、ありがとうございます。
でも、妙なんですよね······うち、家庭崩壊してるんですよ』

『前にも言ってたね。···確かに妙だね。それほどの組織が内部崩壊するなんて···ましてや身内。なんかそういう徴候はなったんだよね?』

『···はい。』

『うーん···まあ、また何かあったら連絡してきてね。先生、頑張るから』

『はい···ありがとうございます!明後日、待っててくださいね』

『えっ?もう一回手紙送ってよ』

162:◆Qc:2022/02/14(月) 02:52

バレンタインデー チョコ貰った時の反応一覧(男性陣少ない問題)


スコーピオン
相手がタランテラ:「···毎年、ありがとな。いつもながら変な物は入ってないよな?」
それ以外:「お、ありがとうな子猫ちゃん達。ゆっくり明日以降の糧にするさ」

葬月:「チョコってマジか?···まあ貰うけどさ。ありがとな」

帳:「······あれ、チョコ?···親とか、妹以外から貰ったのは久しぶりだな。感謝しとくな」

163:◆Qc:2022/02/14(月) 02:55

>>162追記
アーミチェス:「ふむ。チョコレートか···機械の体でも消化できるか見物であるな」

164:◆RI:2022/02/14(月) 22:20

バレンタイン反応集

叢雲
対他人「え?あ、オレ嫁いるんで、無理」
対雪「…………ありがとうございます、雪さん、…………………ところで今回はどこ壊しました?」

嫁以外に貰うことは天変地異がおこっても無い、頑張る嫁は可愛いので例え度を超えたメシマズでも死ぬ気で食べるし壊れたキッチンは直す



対他人「わぁい義理チョコあざーっす、え、ほんとに義理なんで?えぇ…」
対綴「綴さんこれ焦げてますよ、え、いやいや食いますけど、いやですー、もう俺のッスよこれ」

意外と貰っているが全部義理、相棒から手作りの焦げたチョコを貰ってわざとダメ出ししつつ絶対に渡さない



対他人「うん、みんなありがとう、でも貰うのは1人だけって決めてるから…ごめんね」
対栞「しおちゃ〜ん?お呼びの頼で〜……!チョコ!俺宛?…ふふふ、だよね、…ありがとうしおちゃん、」

断りつつも丁寧さで人気を下げない徹底ぶり、彼女からのチョコは貰える前提で考えているしもちろん貰える


ジン
対シキ「お前これ何入れたん????」

何を入れたかわかったもんじゃないので毎回聞く、今年は目の色が変わる薬だった、ちなみに聞くだけ聞いて毎回普通に食べる


霜星
対他人「……ちょこれぇと、あぁ、西洋の菓子か、あぁ、ありがたく受け取ろう」
対藍「らん、らん、今日はちょこれぇととはこんなにも美味いのだな」

洋菓子に馴染みがないため楽しげ、最初の年は誰からも受け取るが、運命が嫌がれば彼女からしか受け取らないようになる



陰「……」『ありがたく受け取ろう、感謝する』
陽「は?チョコ?へーああバレンタインとかいう…!!!おれまだおひいさんにチョコもらってねーじゃん!!!ありがとな教えてくれて!!!!じゃ!!!!」

陰は丁寧に受け取り食べてくれる、陽はあの子しか眼中に無いため受け取ってくれない、ちなみにあの子もべつにチョコは用意してない



表「え、僕にチョコ?嬉しいなぁ、ありがとう、大事に貰うね」
裏「きも」

受け取る時は有象無象に見せている表なのでしっかりと受け取るし丁寧に対応するが、人が居なくなる、家に帰ると裏に切り替わりさっさと捨てる、他人のもんなんか食えるか、安全なものは親友に押し付ける、親友と並んで学園ツートップのチョコ獲得数



「まじ!?チョコもらえんの!?やった〜!めちゃくちゃ嬉しい!ありがとな!…あ!ホワイトデーまじ期待しといて!3倍にするから3倍!」

まさに模範解答、正しい反応、甘いものも好きなのも合わさってこのイベント時は機嫌がめちゃくちゃいい、親友と並んで学園ツートップのチョコ獲得数

165:◆cE:2022/02/14(月) 23:23


『箱庭の純愛』

「…様?、婚約者様、風邪引いてしまいますわ」

 肩を優しく揺すられる感覚でうっすら目を覚ます。彼女の少し困った顔がみたくて狸寝入りを続ける。能力を使って彼女みたまんま…だが。少しして諦めたようにため息をついたあと肩にふわりとブランケットがかけられる。しばらく悩んだように俺の前に置いてあった椅子を隣に持ってきて座り、俺のほほをつついたり髪の毛をいじったりして楽しそうに微笑む。俺のいるところでやってくれないかなぁ、なんて。

「ふふ、こうして触れられるのも私だけの特権ですものね」

「好きだといってくれて、一緒にいられて私とても幸せなんですよ、春蕾様」

 ______あぁ、寝てるふりなんてやっぱもったいない、能力じゃなくて実際に彼女の顔を見ないとそうおもって目を開けると顔を真っ赤にしてこちらを困ったようにみる姿がうつる。

「そういうの、起きてるときに言ってくれないかなぁ?お姫さん?」
「……っ!、え、あ、いつからおきてて?」
「起きてくださいって肩揺らしたあたりから?」
「最初からじゃないですか!もう…」
「ねぇ、お姫さん」
「……なんです?婚約者様」
「今日は名前で呼んで二人でいたいな?俺」
「……春、様」
「チュンじゃなくて、ほら雪梅?」
「…はい、春蕾様」

166:◆.s:2022/02/22(火) 13:12



 PM11:20 某海域…

この日 ヴェコネロ率いる無法の船団は依頼を受け、
蜂蜜酒を運ぶ大規模な輸送船団を襲撃する事となる


__詳しい説明を受けるべく甲板に集まり
  雁首を揃えた無法者共へ頭領はまずこう言った

 〖コイツが仕事ッて事ァ忘れんな〗
_______

 〖…大砲に鉄砲を積んだ船は4隻、
 燻るよォな甘い酒を積んだ船はァ2隻ある
一隻は酒船を沈めて構わねぇが…〗

(話はまだ続くが …その前に頭領は手下を見回す、
…運の悪い事に余所見をしていた1人が拳を受けて
失神する羽目となった、皆は震えて話に集中する
…慎重な頭領は話を聞かない手下を許すことはない)


 〖 よォく聞け… 絶対にお守りの船を二ィ隻沈めろ。
  …それも二隻以上は沈めねェ "二隻だけ"だ 〗


  __________

167:◆.s:2022/02/22(火) 13:33


 AM 5:00 __輸送船団への強襲が始まる



 __それにしても… あの、お頭?

 
 「 なんで酒船も、護衛もその… 」

( 開戦からずっと前線を張る大型船を眺める頭領
…その隣で冷や汗を流す側近は、恐る恐る口を開く )

 〖 中ゥ途半端にしか沈めねェのか知りてェか? 〗

「[ギクッ]よ よ よ よくお分かりで… 」

_____

 あの後、誰も頭領には疑問を投げられなかったが…
内心では殆ど全員が不満を抱いているのは明確だった
頭領の怒りを買うと脅したり透かしたりして、手下達を
纏めるのもかなり苦労するが、文句は言えない

だがそうしなければならない理由は聞きたい
_____


 〖…依頼は護衛専門の傭兵集団からのモンだ〗

 __聞き、側近は首をかしげる


 「 なんでそんな所から… 」


 (__一隻の護衛船が炎上している )

〖 おォかた今 不幸な海の日を迎ェてらッしャる
 警備会社のお偉方とシノギ削ってんだろォさ
 大ァ事な船に荷物を、護衛ごと沈められちゃァ
 面目も丸潰れ。…早い話"生き証人"を残せッつーコト。〗

168:◆.s:2022/02/22(火) 16:36


 (__満身創痍の獲物を前にして
  無法者どもは黙ってなどいられない
  乗り込み、手当たり次第に奪い始めた)

 「 やれやれひでぇ話だ、やつら
  そんなんでカタギだってんですか 」

〖 だァから稼げんェの。お偉方で足引っ張り合ってくれりャ
 上手いこと戦争も広がる、仕事も舞い込む。お徳って奴よ!
 ___俺サン火祭り大歓迎!ハッハーッ! 〗

  ____ …で


 〖 アレ3隻目? 〗

 「はい?」


___3隻目の護衛船に手下が乗り込んでいる
 慌てる船員に向け、やにわに銃をぶっぱなしていた

   「!!」

  〖3隻目だな〗

169:◆.s:2022/02/22(火) 17:59


(念を押された事を破る手下達の姿に
側近は青ざめ、卒倒しそうになった
なんたること。この人を怒らせるつもりか)

「 すぐに止めさせますっ 」

〖 いやァ良いよ 〗


___えっ?


( 振り返った側近は 既に手遅れであったと気付く )


    [(砲撃音)]が響いた。

170:◆.s:2022/02/22(火) 18:19


( 二隻、残った護衛船と一隻の輸送船が離れていく
…護衛船のうち一隻は煙を上げていたが、まだまだ
簡単には沈みそうにない __だが獲物は残っていた )

 機動力を失った残る二隻の船に無法者の視線が集まる

 __だが、全員凍り付いたように動かない


 ( 側近も同じに、…たった今 違反を犯した手下を
  自ら吹き飛ばした頭領を前に… 思わず自分の首が
  繋がっているかどうかを確かめずにはいられない )


 〖 …不幸な事故だったな あァ、そうだろォ〜? 〗

 [ __目の前に砲口が見せ付けられている…!! ]


  ___っは
  
 「ハイハイ❗ははいはぁ〜っ!じっじじじじこじこッ
 (う 撃たれるゥ〜〜っ)」


(不幸な側近はこの世の終わりを垣間見てしまったように…)


   __さァ〜て


〖 野郎共ォっ! 弔い合戦と行くぞォッ!!
  纏めて切り刻んだれやァァッ! 〗


 (__怒号を上げて出ていく頭領を見送る側近は)

「(あだ …あ、あんたが殺っちゃったんだけどな〜っ)」


   ___言葉にならない声を叫ぶだけ

171:◆cE hoge:2022/03/06(日) 20:56


「あは、随分と熱烈に歓迎してくれるね、俺そんなキミに恨まれるようなことしたっけ?」

 その声にも答えてくれない相手は目に憎悪を浮かばせてこちらを睨む。あぁ昔こんな表情浮かべたらうちのジジイに死ぬほど怒られたな。大人しく手を上げながら銃口を頭に突きつけてくる相手を改めてまじまじとみてふっと笑みがこぼれる。あぁ、お前にはなんも思わないな。それなのに、命がかかっているというのに、こんなときになっても考えることがキミのことなんて。

 パァンと弾丸が俺の頭を撃ち抜く。

 あぁ、俺はキミに何かして上げられただろうか。一時的な延命措置しかしてあげられなかったな。それなのにキミは自分から死んでしまって。あの時どれくらい俺が焦ったか分かっているのだろうか。いや、分かるわけないか、分かられてたまるか。こんなになるなら全世界から俺たちの記憶も消せるなんかを作っとけばよかった。

 想像より早くそっちにいくけど、キミは相変わらず笑ってくれるのだろうか。それとも怒るだろうか…。正面から怒られたのはキミが初めてだったから。でも笑って迎えてほしいな。自分の血とだんだんと歪んでいく視界の中最後の力を振り絞って声を出す。

「…かはっ、はは」
「りぃ…ん、…おれは…キミだけをずっと、あいして…る」

 やっと、言えた。あぁもう怒らないでよ、リィン。俺はキミの笑った顔が一番好きなんだから。

172:◆RI:2022/03/07(月) 02:36

たった1人の大事な人、私の親友が、目の前で、酷いことをされていた
だから、だから、私は、ゆるせなくて、そのかはいんじにんんがにくくって、ちかくにあった、包丁で、なんどもそいつが動かなくなるまで刺したんだ
赤いものがかかるのも、生ぬるいそれが冷えていくのも気にしないで、なんども、なんどもなんども

『·····は、つ』

はっとなってたまきちゃんに包丁をすててかけよった、私の馬鹿、こんなやつほってたまきちゃんをたすけなくちゃいけないのに
泣いて泣いて焦る私を見て、ほとんどめもかすんだたまきちゃんが、うすくわらった


『─は、は、·····はつ、は、ひーろー、だ、にゃあ』



「ひーろー」「ひーろー」「ひーろー」
耳を塞いで、なんども言葉を繰り返す
あの日呼ばれた言葉、たまきちゃんが望んだ言葉


「──行ってきます、たまきちゃん」

私は今日も、あの子のためにヒーローになる

173:◆RI:2022/03/14(月) 03:46


彼はマフィアのボスの愛人の子供として生まれた、
彼は愛人の顔によく似ていた
彼はボスに愛された

愛された

愛された

愛された

愛された愛された愛された愛された愛された愛された愛された

愛人のように、恋人のように、ペットのように、奴隷のように

家族でもなく、子供でもなく、そう、まるで、自分の母親のように、愛された

何故か、その美しい顔が、愛人に似ていたから

何故か、その細い体が、女のようだったから

笑えと命じられたら笑った、泣けと命じられたら泣いた

そうしなければ叱られるから、殴られるから、仕置をされるから

逃げられないから、愛から逃げられないから

だから

20歳になった日、母親が死んだ日、ほんとうに、ぼくは、絶望しました

母親に向けられていた分の愛が、愛が、愛が、





かおが、うごかなく、なりました

わらえない、わらえなくて、ひどく、ひどく、しつけられました

いたくて、こわくて、だから、だから、ひっしに、ひっしに、かおを、うごかそうと

おとうさんは、とめてくれませんでした、だから、だから、だから


「おとうさんはしにました」


だから、「彼」は「語った」のです


物語の語り部として、父親の物語を紡いだのです


死にました

おとうさんはしにました

終わりました

そうすれば、おとうさんのぶかたちが、ぼくをころそうとしてきます

「〇〇さんはしにました」

語りました

「〇〇さんもしにました」

「〇〇さんも」

「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」「〇〇さんも」


「みなさんはしにました」


みんな居なくなりました、何も感じませんでした、顔は動きません、なにもわかりません

わかりません

─────わからなく、なりました








「何度能力をつかっても、この記憶だけは、消えてはくれず、「彼」のなかに、ずっと残り続けています。

おしまい。ご清聴ありがとうございました」

174:◆rDg:2022/03/14(月) 23:10

      白い祝福 [とある姉弟]
___________________



「 ...お姉ちゃん、ちょっと今、平気? 」

   ___仕事の合間の休憩中、大好きな弟からの呼び掛け ... ...一気に日常へのモードへ。


   「 勿論平気っ!どうかした? 」

  剣の手入れなんか後回しにして ..何だか少し恥ずかしそうな弟へ視線を向ける ....頬の火照り具合が少しえっ


   [ ずいっ ]


  「 こ、これっ!いつもお世話になってる、から! 」


   ( ...ハートや剣、盾の形に切り取られた白のマシュマロ ...チョコソースやカラメル付き )


 「 .......っっ!は〜もう!良い子!滅茶苦茶良い子!
  ほらこっち来て良いよ頭撫でてあげるからっ! 」


( ...一瞬止まった後に、喜んで、笑って、手招きして
  ......ちょっと傷ついた手で、頭を撫でる )


    ___知ってるのかな、マシュマロの意味

       あなたがきらいだって


  ....いや、アーテルの事だから分かって無さそう!
 単に好きな物を込めたんだよねっ! ...それに


    ...弟からどう思われようと 「 ...私は



  [ はむっ ...んっ ]

  ( 盾型のマシュマロのみ食べた後 ....__くちうつし )



    この世で一番、アーテルが大好きだから!!」


  [ __バタンッ ...シュゥウウウウ ]


 「 ..へぁ!?あ、アーテル!?なんで!?熱!?ちょっ、ちょっと〜〜〜〜ッッ!!? 」



  ( 姉も気付かない ...途中から、声に出てた事なんて )

175:◆.s:2022/03/20(日) 00:15


 : 川が広く見渡せる、ランチ向けのスポット
____________________________________


  …チュン チュン


 ___ん


 ( 冬の気候を 僅かに含んだ、肌に冷たさの残る空の下
  彼は気まぐれに目を開けて …明るくなる雲の合間を見た
  __春を告げる鳥が陽光に照らされながらやって来る )


  「 あー、寝そびれた …まったく
   なんだってわしの近くで鳴いてくれてんの 」


 ( …何処かへ飛んで行くいたずらな鳥を意味なく咎めて
  眠るきも失せた土手から体を起こし、彼は川を見渡す )


     ___今は午前過ぎを経たばかり
     昼食スポットとして人気のこの場所に…
   __今日は珍しく誰も居ない、…彼好みの空気

       「 …ふぁ 」

176:◆.s:2022/03/20(日) 00:29


 ___静かな場所 …見渡せる川に、…遠くを飛ぶ鳥達
  さっき、起こされた眠気が心地好さに戻るのを感じ

  「 …… … 今度は起こすなー … 」


 ( 雀に、…ひとつ挨拶をして また土手に寝転がる… )


    ____________ぉーぃ


   ___ぉーーいっ


( …眠れない… 一回目で、…僅かに聞き間違いを期待して
 続いて、近付いてくる二回目で __心地のよい眠気を諦め
 … 三回目が聞こえる前に、まぶたを擦って体を上げる…
  ____本っ当に大きな声だ …馬鹿らしくすら思う )


    「 おーーいっ! …ふぇーとだろーっ! 」

    「 あーうっさ… …聞こえてるって 」


   ___生きた目覚まし時計みたいなヤツが来た



    「 よっ、また寝てたんか? 」

  「 …分かるんだったら起こすな ジョー …だる 」

177:◆.s:2022/03/20(日) 00:44


( どかどかと土手の静けさを破りながら、…現れたのは
 炎神、…炎神 ジョー。良い意味でも、悪い意味でも、
 とにかく声が大きいんで、眠い時は会いたくなかった )

  ___今も「わりぃ」と軽口に笑いながら
    手に下げた籠から、包み紙を取り出した…


 「 しっかし、おめぇいっつもここに居るよな 」

 「 …うるさ、… そんなのわしの勝手じゃん なんか悪い?」

  「 いやー、よく飽きねえっなって! 」

 ( …話の途中で、包み紙の下から現れた
  黄色いシェルに肉や野菜やチーズを挟んだ
  サンドイッチ?…を齧り、ぱりぱり音を立てる… )


 「 おめーこそいっつもわしに声掛けてるだろ
  …おかげで最近はぜんっぜん眠れね、ばか 」

     ____で


  「 それ、なに?… じゃんくふーど? 」

178:◆.s:2022/03/20(日) 00:53


 (ぱり …小気味のいい音を鳴らして、…口についた
  ソースを拭い 炎神はにかっと笑ってそれを見せる)


 「 "タコス"ってんだ!うめーぞこれ。
  …あと、ふぁすとふーどっつーらしい 」

 (「冴月から聞いた」と、…取り出す二つ目の包み紙 )

  [じー]

 「 へー… ワシにもちょっとくれ 」

  「 んぁ いーよ?ほれ 」


 ( …その "タコス" は大部分が欠けた状態。
  シェルも、ミートも… 満足する量は無いもの
  ___たべかけ。 )


   「 …ぶっとばすぞ 」

  「 ははっ わりぃ。」

179:◆.s:2022/03/20(日) 01:05


( 剥いた包み紙の下からは、…玉蜀黍色で素焼きのシェル
 シーズニングが効いた香りの濃いミートに、トマトと
 レタス、…からい匂いのソースと ぱら撒かれたチーズ )

 「 …なんっか、… はんばーがーみたい 」

  _____ばりっ …


 ( …珍しく、炎神は黙ってフェイトの反応を待っていた
 自分のシェルを残さず食べきり、…感想を待つその表情は
 味に対するレスポンスを確信したような様子がある … )

 ( …けれど、あんまり反応が良さそうにないフェイトの
  …表情に不思議な顔をした、…何処か辛そうな表情 )


「 …たべづら、… ハンバーガーのほうがいーな。これ 」

180:◆.s:2022/03/20(日) 01:26


 「 …ぇー、… 味はどーだ?」

( 取り繕うようにティッシュを渡そうとする炎神、…
 だが、フェイトは受け取りつつもまだ嫌そうな顔 )

「 …からい、あとチーズも味薄い
 肉もなんだこれ 歯ごたえわっる… 」


 「 ……… 」

( __炎神は考えるヒトの仕草… )


 「 …なに、… 気にしてんの? 」

 「 あぁ… これな 」


 「 オレが作ったんだ 」

181:名を捨てし者:2022/03/29(火) 03:51

妖怪変劇

時は明治。源 芹生 (ミナモト セリフ)といふ、とある演劇少女が、演技の臺詞創りをきつかけに、創作活動に魅せられた。
ちょうど少女には敬愛する物書きがいた。一つ年上の幼馴染Aである。Aは顏も頭も惡く、ぶっきらばうで、友も戀人もおらず、醜い人閧ニして嘲け避けられた。
しかし、救いやうがないわけではない。Aには、ただひとつ創作の才だけはあつた。Aは世閧ェ需要する物語を數多く産み出し、おかげで人竝みより幸bノ生きていた。
不思議なことに、演劇少女は、Aと對照に、顏はよく、學もあり、友もおり、戀人もいるといふのにも関わらず、Aの作品に嫉妬していた。この少女には、ただ一つ、創作における文才だけが、無かつたのである。演劇少女は、自分のステイタスなんかよりも、創作だけがしたかつた。
そんな演劇少女は、ある日、Aが最高傑作だと言う作品を見せてもらうことになった。作品を拜見すると、少女は瞳を煌びやかせて、嘆息する。

「はあ… Aくん、超すごい……」

その作品は、極めて創造性に富み、多くの創作者が目指すであらう頂きに、見事辿り着いていたのだ。誰もが書きたいものをAは軽々、書いているように見えた。

「なんでうちには、才能無いんやろか…」

しかし、それ故に、少女は嘆いた。かようなものが一たび野に放たれたのならば、己を含む多くの創作者が居場所を失つてしまうと。創作大恐慌が起こつてしまうと。
その日、演劇少女はAの傑作を盜み出でて、十日閧ルど讀んだ後、焚書した。

Aは、最高傑作の紛失に即座に気づいた。しかし、いつも自室を掃除させている母のせいだと憎んだ。まさか幼馴染の可憐な少女が、しかも毎晩お世話になつている、あの少女が傑作を盜んだとは、Aの童貞拐~が思はせなかつたからである。
しかし、一月經っても傑作を再現できないAは、我武沙羅に筆を振るふ。憎い母には拳を振るふ。かく日々を過ごし、一年が經つ。結局Aは傑作を書けず、生氣を失つていた。
そんなAの心情と對照的に、世閧ナは一つの小説が大流行していた。Aは半ば無關心で、試み程度に小説を拜見すると、見覺えある文體、見覺えあるシナリヲ、見覚えあるセリフ。恐る恐る著書名を確認する。

_____源 芹生

そういうことか。そういうことだつたのか。つひにつひに、あの演劇少女が傑作を盜作したのだと最悪の理解に及ぶ。
理解の次にやつてきたのは少女への憎惡。
世閧ェAを忘れるうちに、Aにはその憎しみが殺意とゐふ名前である事を自覺し始める。
Aは一本の斧で殺意を実行することにした。ある日の夜が更ける頃、まずは、少女の家族を慘殺。Aは、次に、部屋の隅で怯える演劇少女を犯した。さて殺そう。Aが手に取つた斧。演劇少女は、流石本職が演劇なだけあつて、Aに渾身の涙に、渾身の台詞で持つて、渾身の懇願をして、許しを乞う。しかし、Aは許さない。
かくして、殺意を完遂させたA。立ち上がると鏡に映つたのは、醜惡を極めた化物、俗に言ふ立派な妖怪だつた。

182:通行人B:2022/03/29(火) 04:15

>>181
うーんおもろい 天才やね

183:◆Qc:2022/04/13(水) 23:43

『輪廻族』のコミュニティ。
この世界に転生してきた輪廻族に対して、円滑な順応を行いやすくする為の集まり。······と言っても、その人数は3人。
どのような世界でも輪廻族の捜索が難しい中、よくこんなに集まったなとニルは思った。
「······で、リナちゃんは······相変わらず酒場開くのかな?」
「はい!せっかくまた人間に転生できましたし!」
「······ちなみに前世は?」
「珍しく人だったんですよ!でもその前はー······犬でしたね。その前はたんぽぽで······」
「その特性まだ消えてなかったんだ······はぁ。まあ過労死しない程度にね······と言ってもこの世界じゃそれも無理な相談かぁ······」
ここは寂れた廃屋の中。ニル、エルの二人はもう一人の輪廻族と集まって色々と話をしていた。
どうやらそのもう一人の話によると、ここをどうにかリフォームして酒場にする、という。この少女にして珍しいことではなかった。

「あ、でも今回は前世で出会った人とまた会えましたから······」
「······なんで?」
「なんでも次元の隙間に落っこちた、らしいです。今寝てますけど······起こしてきますか?」
「いや、いいかな······ところで前の世界っていうのは?」
「凄い剣豪達がいる世界でしたね······あの人もその一人だったんですよ。向こうでも変わらず寝てましたけど······」
「······相変わらずリナの経験談は飽きないなぁ。植物とか動物とかに転生することがあっても······それで釣り合いが取れてるんだから」
ニルの呟きに、相手は苦笑しただけで何も言わなかった。

「······じゃあ、そろそろ私は行くね。これからオペが三つ入ってるんだよね」
「エルさんの方が過労死しませんか······?」
「自信ないかも······」
とだけ言って、エルはさっさと出ていった。
事実彼女は恐ろしく有能で、多忙だった。適当に散歩に出たり面会時間を確保できるのも、彼女の能力と切り詰めた睡眠時間の賜物だった。
「(······どうもこの世界はきな臭いなぁ······他の輪廻族と出会える日は······来るのかな······?)」




しかし。その数時間後、彼女は思いがけない対面をすることになる。
勿論それは、『四人目』の輪廻族であった。

184:◆Qc:2022/04/18(月) 01:34

>>183
病院に戻ったエルは、救急車からの電話が入ってきたのを見ると即座に受け取った。······しかしその内容が地獄であった。
というのも、

「······穿通性······頭部外傷······だって······?」
『それだけではありません、心臓付近の胸部にも銃創が······』
「······嘘でしょ························患者の名前は」
『夜村夢花。何やらアイドルっぽい女性みたいですが······流石の先生でも、これは······』
「じゃあなんで搬送してるのさ?」
『············低音処理は施してあります。爆速でかっ飛ばしていますので······あと5分で到着します。準備を』

その声を残して電話は切れた。近くの窓を開けて耳を澄ませば、風に乗って救急車のサイレンの音が聞こえる気がする。
──エルは振り向き、ただならぬ雰囲気に怯える他の医者に向けて高らかに呼びかけた。




「最近暇だったでしょ?」






「どうして生きてるんだこの患者······」
「トラウマになりそうです」
「揺らすな!中央オペ室に運ぶ時間はない!緊急オペ室に運べ!」
「CT室には!?」
「そんな時間あると思うか!?ゴッドハンドが何とかしてくれる!急げ!」
一階が急激に騒がしくなった。と思えば超高速で通り過ぎていく真っ赤なストレッチャー。
珍しく静かな時間帯に、この病院始まって以来の危篤患者が運ばれてきたのは幸いだったろう。

「前口上とかいいからさっさと始めちゃおうか。私は脳の方の処理するからみんなは胸部の方お願い······」
『わかりました』
「あ、この子救急隊員さんによると身寄り居ないみたいだから、皆が最善と思った施術をマッハでやって」
そう言いながらも高速で手を動かしていくエルに対し、何かを言おうと思った壮年の医者が口を開く。
「······見捨てる、というのは?どう考えても患者の体力保ちませんよ······」
「あなたは······うん、もう医者やめていいよ。体力尽きる前に、全部終わらせれば、良いんだよ······!」

カラン、と音がした。······脳内に入り込んだ銃弾が取り除かれ、器に落とされた音である。
それを聞いては他の医者も一言もなかった。ただ眼前の作業に集中するだけである。

「心停止しました······!」
「こっちは大丈夫直接マッサージして!人工血管の移植は!?」
「既に縫合も済ませてあります!」
「よし!拍動安定したら教えて」
頭部は既におおよその処置を終えているようだった。エルは患者の頭部を見ながら、どこからか持ってきたメモ帳に何かを書いている。
「損傷部位は······こことここかぁ······深くなくて良かった。これならリハビリさえすれば多分日常生活に支障は出ないはず······後は脳ヘルニア起きても良いように薬はこんな感じで······感染症誘発したらこうすればよし······と」
「拍動再開しました!」
「おっけー······耐えてくれたね。輸血絶やさないように。あと人工呼吸器も持ってこよう。あとは──」

と、言いかけたときだった。
今まで整っていたエルの姿勢が、大きく揺らいだ。
そのまま彼女の身体は、何の抵抗もなく横に倒れていく。

185:◆Qc:2022/04/18(月) 23:02

>>184
まるで泥に沈んだかのような眠りだった。
言おうとしていた、叫ぼうとしていた言葉は言えずに、逆に喉に何か空気とは違うものが挟まるのを感じた。


言おうとしていた言葉。何だったっけ?
ああ、そうだ。

あとは、
あとは、あとは──
「······状態に、······っ!ゴホっ······!」

······休憩室の最奥。まるで戦場のような病院の中、一番上等なベッドや布団があるというのは専らの噂である。
そこにエルは横たわっていた。······どうやら倒れた時にここまで運ばれたらしい。
患者はどうなっただろうか。······丁度メモ帳を手に持っている時に倒れた為、気の利いた医者が居れば何とかなるだろう。
それよりも問題なのはあの後に控えていた3件のオペだが······と、そこまで思考を回した時、研修医が入ってきた。

「あ。ちょっといい?」
先程の手術の時には当然居なかった顔である。
「は······はい、なんでしょうか」
少々怯える彼の様子を無視して、エルは質問を始めた。
「私がここに運ばれてきたのは何時くらい?」
「分かりませんが······19時に僕が来た時······休憩室に沢山の先生が詰めかけていたのは覚えてます」
エルは時計を見た。······現在時刻は4時。つまりざっと9時間くらいは寝た、というより気絶していたことになる。
「そっか······オペはどうなったかわかる?」
「えっと······先生含めて院内総出で行った緊急オペのことですか?」
「そうそれ。穿通性頭部外傷の方」
「先生が倒れた後、シマダ先生が他の方々をまとめて無事に完了させたそうです。いつ容態が急変してもおかしくないので今はICUに入れてるみたいです」
その報告を聞くと、エルはほっとしたような表情を浮かべた。ただそれも一瞬のことで、次には不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、シマダ先生がねぇ······他のオペは?」
「移植手術でもないですし······どれも緊急性はないので保留にしてありますが」
「患者に説明は?」
「しました。エル先生が過労で倒れたと言ったらどなたも口を揃えて『待ちます』と······」
「······結局私がやるんだね。まあいいけど······」
布団を整えながらエルは呟く。······9時間も眠ったおかげか、目の奥に油汚れのようにこびりついていた疲労が多少消えた気がする。
「報告ありがとね。オペは明日中に全部やるから······今はあの患者に集中するよ」
「わかりました。伝えておきますね」
そう言って研修医は駆け出していく。
その後ろ姿を見送りながら、エルは『輪廻族』としての記憶を少しずつ紐解いていく。
······彼女が今まで出会ったことのある輪廻族は10人を優に越している。······が、同じ世界に、同じタイミングで転生した人数はこの世界の3人より多かったことはない。
勿論一つの人生で出会える人の数から言って、そんなものはほとんど参考にならないことは承知している。
だが──どうしても信じられなかった。

あの重症を負った患者──夜村夢花といった──が、輪廻族であるらしいということが。

186:鷹嶺さん◆lIlJ.:2022/05/02(月) 00:11

『プリクエル/流れる水の魔法少女』
 
【プロローグ】
 
 三日月邸の門扉が夏の日射しに焼かれている、金属製かつ黒い重厚な門扉は迂闊に触れれば火傷しかねない。
 七月の頭だが気温はすでに三十度を超えていた、私は麦わら帽子に白いワンピース、それにサンダルという出で立ちだが、暑いことには変わらない、もはや服装で調節出来る範疇を超えている。
 私は垂れる汗を拭い三日月と書かれた表札の下にあるインターホンのボタンを押した、すぐにインターホンのスピーカーから少年の声が響いた。
 
「雨流様ですね、どうぞお入りください、姉がお待ちしております」
 
 声の主は三日月獅王(みかづき れお)、私を招待した三日月織姫の弟だ。
 獅王が言い終えると門がゆっくりと開いた、私は言われるまま玄関扉へと進む、門から玄関扉までの距離は天櫻路家と比べて十歩ほど遠い、さすがは天下の三日月だ。
 
 私がこんな金持ちの豪邸に呼ばれる理由は一つしかない、先日の一件についてだろう、あの時三日月織姫は改めてお礼がしたいと言っていた。
 
「雨流様、暑い中お越しくださりありがとうございます」
 
 扉を開けると獅王が深々と頭を下げて出迎えてくれた。
 
「私に頭は下げなくて良いよ、あと様付けも無し、私の事はアイナって呼んでくれ、君のお姉さんもそう呼んでいるよ」
 
「は、はい分かりました」
 
 三日月邸に入ると玄関にまで冷房が効いていた、汗が一気に引いていく。月々の電気代が気になるのは私が庶民だからだろう。
 
「あ、それからこれ二人で食べて」
 
  私は獅王に紙袋を渡す、中身は五百円分の駄菓子の詰め合わせ。
 
「これは……!」
 
 中身を一瞥するなり少年の目がキラリと輝く、頬も僅かに緩んでいる、嬉しさを隠しきれていないようだ。やっぱりかわいいなぁ獅王は。
 
 そんなかわいい獅王に案内され私は応接室に通された、高級そうなカーペットが敷かれ、これまた高級そうなソファーとテーブル、窓際には花瓶台が一つ置かれその上には向日葵の生けられた花瓶が乗っている、いかにも金持ちの屋敷の応接室と言った部屋だ、この部屋の物だけでちょっとした車くらい買えてしまいそうだ。
 私はソファーに腰を降ろし三日月織姫の登場を待った、真実の魔法少女三日月織姫が応接室に姿を見せたのはそれから一分ほど経ってからだった。

187:鷹嶺さん◆lIlJ.:2022/05/06(金) 01:03

「待たせてすまない、アイナ先輩」
 
「いや、私も今来たところだよ」
 
 織姫は私の向かいに腰を降ろし、話したくてうずうずしていたのかすぐさま口を開いた。
 
「それじゃあ早速だが先日の」
 
「あの時お礼は要らないって言ったんだけど」
 
 人を襲う怪物であるナイトメアと戦う魔法少女の世界で助け助けられはよくあることだ、毎回お礼なんてもらっていられない。
 
「まぁ、最後まで話を聞いてくれたまえ、先輩。今日アイナ先輩を招待した理由はお礼がしたいからだけではないんだ、情報共有がしたくてね」
 
 織姫の言葉が真剣味を帯びる、情報共有、魔法少女(わたしたち)の間で共有するような情報なんてそう多くはない。
 
「クラウン?」
 
「あぁ」
 
「そう、詳しく聞かせて」
 
 織姫の肯定に私は身を乗り出していた、クラウン・ナイトメア、大勢の人間を食らい成長した上位個体、クラウンの出現は魔法少女にとって死活問題に他ならない。
 
「あの夜、あの場所には二体ナイトメアが居たんだ」
 
 織姫はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
 
「一つは先輩も知ってる奴、もう一つは蛸みたいな触手のある奴だ、そうだな順を追って話そうか。あの夜、私は触手のナイトメアと戦っていた、その時はまだクラウンではなかった、例えるなら羽化寸前のサナギかな、で、触手のナイトメアなんだが奴は確実に一人は魔法少女を食ってる、クラウンに進化するのも時間の問題だよ」
 
「決戦の刻は近いってことね」
 
 私の呟いた言葉に織姫は静かに頷く、真実の魔法少女である彼女の言葉なら信用に値する。
 
「間違っても一人で、なんて考えるなよ、先輩?」
 
「分かってる、紅姫と撫子も連れていくさ」
 
「……あぁ、そうしてくれ、クラウンとの戦いに戦力の出し惜しみなんて不要だからね」
 
 私は首肯し、前回のクラウン戦を回想する、あの時は私と織姫を含む四人掛かりでなんとか撃破することが出来た、辛勝だった。
 今回はどうだろう、紅姫と撫子は魔法少女一年目、当人は強くなったと思っているようだが、私から見ればまだまだ未熟だ、不安は残る。
 
「織姫、今の私達でクラウンに勝てると思う?」
 
「勝つ、それに紅姫も撫子も先輩が思っているより強い」
 
 織姫は自信たっぷりに即答した、満面の笑みを浮かべている、どうやら負けるとは微塵も思っていないようだ。
 私も強気に行きたいけれど、どうしても脳裏に最悪の情景が浮かび上がる、それだけ後輩達を失うのが怖いということなのだろう。
 
「……ねぇ織姫。もし私に何かあった時は、後輩達のこと任せていいかな?」
 
「どうした、最強の魔法少女らしくないよ、アイナ先輩?」
 
「もしもの話、こういうのって予め決めておいた方が良いだろ」
 
「わかった、もしそうなった時は私が責任を持って面倒を見ようじゃないか」
 
「ありがとう」
 
 三日月家に支えてもらえるなら何も心配は要らないはず、頼りにしているよ織姫。
 
「ところで、せっかく来たんだしプールで泳いでいかないか?」
 
 織姫は突然立ち上がり言った、水着なんて持って来ている訳ないし、何より。
 
「私、泳げない」
 
「大丈夫、足の着く深さだし、それに水着も二人分ある」
 
 どうやら向こうは準備万端のようだ、ここまでされたら断る理由もない。
 
「わかった、どこで着替えれば良い?」
 
 それから私達は夕暮れまでプールで遊んだのだった。

【プロローグ完】

188:◆RI:2022/05/10(火) 00:15

『黄泉比良坂を上るまで』


「ヘーイ!!」
「えっ!?あっうそ!!!」
「え〜この勝負、命の勝利〜」
「くっっそ…!!!あともうちょいだったのに…!」
「あい変わらず雑魚w」
「は?殺そ」

夕方、生暖かい風が窓を通してカーテンを揺らす、自分たち以外にはもう誰もいない教室の中、笑い声とカードを切る音が聞こえる

「次何やるよ、ババ抜きは景雑魚いし」
「は〜〜〜????潰しますけど、俺ハンデしてただけだし、ボコしてやるよ」
「やってみろ〜〜!!!上等迎え撃ってやるぞ!!!」
「カードもまともに切れない雑魚どもがなんかゆーとりますわ」
「「は??????」」

喧嘩腰に言い合いながらも、所々に笑い声が零れでる
とうの昔に下校チャイムはなり終わり、静まり返った校舎に響く自分たちの声はどこか寂しさを覚える
こんな時間まで教室にいるのは久しぶりだ、なんたっていつもはみんな部活でさっさと放課後は教室を出ていく、そういえば、こんな風に3人集まって遊ぶのも久しぶりなのかもしれない、気にしたこともなかったから、忘れていたけれど

「(でも)」

でも、今日集まれてよかったと思う、だって、もう終わるのだから

また明日、そう言って別れて、明日会う日はもう終わる


明日は、俺たちの、卒業式なのだから

189:◆RI:2022/05/10(火) 00:15

ガラガラッ

「おい!長谷川!夕彩月!春夏秋冬!まだいたのか!」
「うおっ!やっべみっちゃんじゃん!」
「やべーみっかった」
「みっちゃんいうな!先生だつってんだろ!、…、まぁ、帰りたくない気持ちもわかるが、下校時間もすぎてるんだ、暗くなる前に帰れ、ほら」
「うえ〜い…」
「みっちゃんタイミングさぁ…」
「みっちゃんいうな!ほらほら、帰れ!」
「けち〜!」

担任が声をかけてきたことによって、ようやく時計が18時を回っていたことに気がついた、怒る担任をからかいながらもトランプを片付ける
くっつけていた机を離し、背もたれにひっかけていた上着を着て、気だるげに荷物を背負う

「あーやだやだ、かえりたくね〜、最後だしとめてよみっちゃん」
「何言うとるか、さっさと帰れ、明日はしゃんとしろよまじで」
「てぃーぴーおーはわきまえてますぅ〜〜」
「嘘じゃん」
「は?嘘じゃないし」

その場の流れで教室を出て、職員室に戻る担任も一緒に軽口を叩きながら廊下を歩く、夕焼けは橙色に世界を染め、自分たちの影は奥へと伸びる

「…にしても、お前らも卒業か」

担任が呟く

「…、え、なにみっちゃん」
「感傷にひたってんの?ようやく俺たちの大切さわかった?」
「可愛くねぇなお前らは、問題児共」
「ひっでぇ」
「そりゃねぇよ」

日差しが眩しくて、担任の顔は見えない

「でも、お前らの騒がしさが無くなるのは、たしかに寂しくなるかもな」

──────、

190:◆RI:2022/05/10(火) 00:15

「なんかみっちゃん、しんみりしてたな」
手を振って校門を出る俺たちを見送る担任を後ろ目に、景が告げる

「……明日、卒業式かぁ…」

足元を見下ろし、そのへんにある小石を蹴り飛ばす、それは思っていたよりも強くはね、あらぬ方向へ飛んで、ポチャンと音を立てて溝に落ちてしまった

「……」

少しの沈黙が冷たい、騒がしい自分たちが、こんなにも静かになったことはあまり無い、と思う

今歩いている夕暮れの帰り道を、もう3人で歩くことはないのだろう
懐かしさを覚える景色が、本当に「思い出」になってしまう

「なぁんか」

頭の後ろに両手を回し、命が口を開く


「─────ずっと高校生だったらいいのにな!」



「…、命?」
「…ずっとそうだったら、みっちゃんまたからかえるし、……お前らとも、また、帰れるし」
「………」

口元を書きながら目を泳がせる命は、照れたようにむぐむぐとくちをうごかしている

「……デレ期?」
「ちっげぇ」
「デレ期遅くない?もう高校生活終わんのに」
「うるさいなおまえら!!!今のナシ!!前言撤回!!」
「大体さ」

「また3人で集まればいいじゃん」

詩弦の言葉に、ぎゃーっと荒ぶっていた命が固まり、目を見開く
そんな様子を見ても詩弦は素知らぬ顔でそのまま言葉を続ける

「二度と会えないわけじゃないんだから、また適当に集まってここにまた来ようよ」

「…詩弦」
「それはそうだな、大学みんなバラバラだけど、どーせ集まってるだろうし、いつものおばちゃんのコロッケ食いながら散歩しよ」
「…景」
「それともなに?お前はもう合わないつもりだったの?命」
「─────」

わざと言わせようとしているのだろう、ニヤニヤとした2人の目線が命にへと集中する

「……ん、なわけないだろ、っ全員無理やり連れてきてやるからな!!!時間無視していくからな!!!」
「それはちょっと」
「プライベートとかあるし」
「はぁあーー????お前らなぁ??????」
「んはははっ」
「んふふふっ、はーっ、ほんと笑う」
「この野郎ども……!……っふふ、っははは!」

人通りもある帰り道に笑い声が響く、微笑ましそうに自分たちを見る周りの目にも気が付かず、つつきあいながらも足を進める

「また明日」と言えなくなっても、「また今度」に変わるだけ

191:◆RI:2022/05/10(火) 00:16

「あ、そうだ、明日の卒業式!誰が1番でかい声で返事できるか競お!!」
「お、サッカー部なめんなよ命!声出しとかよゆーだからまじ」
「運動部全体声出ししてるから俺らにも全然分があるんで、舐めてかかると負けるぞ景」
「そうだぞけーい!さっきもババ抜き負けたんだから絶対次も負ける」
「はあ〜ん?殴り合いか??いいぜやってやんよ!!」

どれだけたっても、自分たちは変わらず、馬鹿をする

「じゃ!最下位は明日、卒業式の後にコロッケ奢りな!!」
「上等!」
「絶対負けないからな!!」

また明日、そしてその後も、また

「あー!」

きっと3人で

「明日が楽しみだな〜っ!!」

きっと















キキーーッッッ!!!


ガゴンッッッッ!!!!






「──は?」

きっと

俺たちは、ずっと、一緒なのだから

192:◆RI:2022/05/10(火) 00:16

「─────、─」

あかい、まばたきをする

橙色しか映さなかった視界に、異質な赤が流れている

「──、は、…?」

あかい、まばたきをする

鉄の匂いがむせ返る、誰かの悲鳴が聞こえる

「な、…、は……、?」

あかい、まばたきをする

何度も瞬きをしているはずの瞳が霞む、目の前の景色が何も見えない



あかい、まばたきをする
そこに命はいない

あるのは、命だったはずのそれをつぶすトラックと、そこから流れる赤、赤、赤


「みこ、」
「み、こ、…と…?」

脳が理解を拒む
言葉にしようが、自分たちは信じられない、信じたくない

でも、でも、むせ返る血の匂いが、叫び続ける有象無象が、朱くてらす夕暮れが、それを、その光景を、現実だと知らしめる

193:◆RI:2022/05/10(火) 00:16

すべて、見えていた

「え」という驚愕の顔を浮かべた命の体が、ぐしゃりと嫌な音を立てて吹き飛ぶ様を

飛沫を上げる血、折れた四肢、見るに堪えない潰れた体、飛び散るガラス、血、血、血、血、──即死であるのは、明らかだった

そう、正しく認識した瞬間、日常の情景が、一瞬にして地獄に変わる

ついさっきまで生きていたものが、友人だったものが、また明日と、声をかけあったものが、あまりにも無惨な姿で目の前に転がる

周りの声も、ざわめきも、もう耳には届かない
届くものは唯一、動かなくなった命を嗤うかのように早まる、己の鼓動だけ


先程まで話をしていた友人が、無慈悲にも、世界に潰された

ひゅっ、と、喉の奥から、隙間風のような歪な呼吸音がきこえる
どんどんと高鳴る胸の鼓動と連動するように呼吸もどんどんと荒くなり、正しい呼吸の仕方をもう思い出せない
その代わりにというように混み上がってくる気持ち悪さに、頭がクラクラとする、酸欠のせいもあるのだろうが、そんな事を考えるほどの脳は、もう残ってはいない

「み、こと、みこと、みことっ」
となりで、みことの名前を呼ぶ声が聞こえる

「みこと、なんで、しんだ?みことが、なんで、なんで、しんだ?しんだしんだしんだ、みことが、みことがしんだ?なんで、なんでなんでなんで、またあしたってなんでみことなんでしんで、しんだ、しんだ、みことが、─みことがしんだ」

もはや文章とは言い難い言葉の羅列は、狂気のように彼の声をうわずらせる、片手で目を押え、見えるもうひとつの瞳は目を見開いたまま、友だった肉塊に釘付けにされ、ぼろぼろと雫を流している

194:◆RI:2022/05/10(火) 00:17

「──────、」

あぁ、と思う

なぜ自分は今、ここにいるのだろうと、そう思う

数分前には同じ道を歩いていたのに、どうして、どうして命だけ?

どうして命だけがしんだ?どうして命だけが死ななければならない?どうして?


『明日が楽しみだな』

「─────────」

あぁ、と思う

そうだな、命

明日は、卒業式、だったものな

ひとりだけ、先に行ってしまうのは、さびしいものな

かちゃりと、赤い海にひたった鋭い硝子の破片を手に取る

「それならおれが、あいにいってやろうな、…ずっといっしょと、やくそく、したものなぁ、?」

尖った部分を喉に突きつけ、ガラスをにぎりしめる、持つ手が斬れ血がでようとも、一欠片も痛みなど感じない

自然と、そして歪に口角が上がることが分かる、だんだんとぼやける視界と流れる暖かいものが、酷い現実を隠してゆく

「まっていろ、みこと、すぐにそちらにいくからな」

そういって、もう、何も見ないように瞳を閉じて、硝子を喉に─────

195:◆RI:2022/05/10(火) 00:17

目を覚ました

「───────」

    ・・・・・・・・・・
────目を覚ましてしまった

結局、自分は死ぬ事は出来なかった

周りの大人たちに取り押さえられて、残った友人と共に、命とは別で呼ばれた救急車にのせられた
何かを叫んだような、酷く暴れてしまったのだろうと、痛む喉と関節で察する
そして2人して気絶してしまったのだろう、薬品の匂いと白いカーテンの先に友人が、同じように、そしてぼうっとしながら、起き上がっていた

「…………し、づる」
「………うん」
「…、み、……っ、…」

声が出ない、あいつの名前を呼べなかった

「…、…まだ、」
「……?」
「……………まだ、日付、変わってないって」
「……え、」
「………明日、そつぎょう、しき」

卒業式
あいつがいない卒業式

『誰が1番デカい声で返事できるか競お!』

「っ…!!」

唇を噛む、歯を食いしばる、何が競うだ、何が卒業式だ、どうして、どうして、どうして!


「なんで、命だけっ!!」

怒りを向ける矛先は自分しかいない、勢いのままに自身の足を殴っても、なにが晴れる訳では無い、ギリギリと軋む歯がかけてしまったとしても、気にする気にも慣れそうにない

ただあるのは失意と、後悔と、怒りと、悲しみだけ


「…………おれ、」

隣からくぐもった声が聞こえる、ハッとそちらを見やれば、ベッドの上で、足を引き寄せ、三角座りのようにして顔を膝に疼くめる友

「おれ、もう、いやだ…」
「……し、づ」
「……そつぎょうしきも、だいがくも、このさきのぜんぶ、もう、いやだ」

「────おれは、ずっと、さんにんで、ずっと、いっしょにいられればよかったのに」

顔は見えない、でも、声色で、その言葉が本心なのだと、はっきりとわかる、なにより、なにより、そんなことは自分だって一緒だった

「…………あした、そつぎょうしき、けいはいく?」
「……………」
「……おれ、でかいこえで、へんじ、できそうにないや…」
「……、…おれ、いきたくない」
「……おれも」


『は?なにいってんのお前ら』

196:◆RI:2022/05/10(火) 00:18

「「─は?」」
なん

こえ、

こえ、こえ

しってるこえ、ききたいこえ、いま、いま、いま、
ききたかったこえ


『お前らがやんなかったら僕1人で虚空に叫ぶことになっちゃうだろ!!!行けよ卒業式!!叫べ!!』

「な、ん」
「は、?」


ふわふわ、ふわふわ
りかいふのう、りかいできない
ふわふわ、ふわふわ、浮いている

『……、よ、なんか…幽霊になったっぽい、僕』

いつもの声、命の声、聞きたかった声、取り戻せないはずの声
見た目はいつも通り、ちょっとふわふわ浮いていて、ちょっと体が透けている

でも

『!?おい!?おいちょっ!!!』

考える時間など惜しいほどに、体は真っ先に、愛おしい友に手を伸ばしていた



『……いやいやいや、幽霊なんだから透けるに決まってんじゃん、馬鹿なの?そりゃあベッドから落ちるよ』

「「…………」」

ほんとうに、せめて、抱きしめさせてくれ

197:エンジュ◆6E:2022/05/11(水) 21:53

「さぁ……終わらせよう、僕達の滅びを。始めよう、僕達の裁きを」
「了解、祝福者の接続の許可をマザー」

「アーカイブより返答……『ようやく終わるのですね』接続権限を付与、対象範囲―全ての滅亡因子―」

「パニッシュメント・イブ……いいえ、『ミライ』接続開始」

「―語られる幻想の有象無象
   騒がしい都会の喧騒
 影に潜み爪を研ぎ、今宵も命を喰らう―」
「……接続『狂う夜の獣の王(ルナティック・クラウン)』

「―嘆きの音色を奏でて、破滅の言葉を唱えて
 放たれた鉄矢をその身に受けても、歌姫はなお謡う
  憎しみさえもあなたが教えてくれた心だから―」
「……接続『ただ一人に捧げる子守唄(ディープナイトメア)』」

「―飛び交う鉛の殺意
 汚される命、空、光
 失い、奪い、そして枯渇する
  絶望した生者が死神を気取る―」
「……接続『鉄の鴉は骸をつつかない(アームドクラウズ)』」

「―如何なる者も彼を理解せず
 如何なる神も彼を救済せず
 如何なる時も彼を罰さず
 乾いた土に咲く花に、降り注ぐのはそれらの血
 己が虚無でないと教えておくれ―」
「……接続『妖刀―現(うつつ)』」

「世界の滅びを望む意思(テツクズ)よ、継承者はここにいる!!
 無限の火種よ喜べ、僕らはおまえが望むよりずっと愚かだぞ!!」
「さぁ、叫んで。終わりゆく世界とこれから始まる世界の神の名を……!!」

『機械仕掛けの継承者―デウス・ネクス・マキナ』

198:マリン:2022/05/11(水) 22:28

「うぅ.....」

また俺は魘される。
一番見たくないあの光景が何万年経っても
頭から永遠に離れない

「幸せだったわ...ありがとう、マリn」

ザシュ(斬られた音)

「ラ...ラナ....ラナイザ!!!!」

一番人生でショックだった過去の記憶
妻が目の前から、産まれる筈だった子供達が
目の前から消された事

「ラナイザっ!!!!はぁ!はぁ!....はぁ...はぁ...」

見たくないのに強制的に見される悪夢
どうして俺だけが大切な人ほど、目の前から
消え去れるのだろう。
何故、俺だけ....愛を与えてくれないんだ
そしてまた俺は眠りに堕ちる、抵抗出来ない過去の
記憶に縋りながら

199:◆RI:2022/06/26(日) 02:52

「あ、あであ、アデアの、へや、片付けようと思ったら、ベッドの下に隠し扉があって…」

そこからこれが、と、アルクが出してきたのは

「…はこ…?しかも鍵ついとるやん」

桃色の、小さな鍵穴が着いた箱、こんなものは見た事がなかった

「鍵は見つかんなかったんだけど…ユースなら開けられるかなと思って…」
「…あー、うん、ちょおまって」

そう言うとユースは服の中からピッキング用の針金を取りだし、カチャカチャと鍵穴に差し込む、数分後、かちゃんという音が小さく鳴り響いた

「─あいた」

そういうと、皆がゴクリと喉を鳴らし、その様子を見たユースが、恐る恐る蓋を開く、中身は


「────────え」

中身は、

「…こ、れ」

中に入っていたものは、

「……これ、俺があげた、栞…」
「これ…俺があいつに渡したペンやん…」

箱の中に、綺麗に整頓され、丁寧にしまい込まれていたのは、どれもこれも、俺たちが彼に贈ったものばかりだった

大切に保管されているそれは、まるで宝物のようで
手に取る度にその時の情景を思い出す

「──あ」
皆が思い思いの物を手に取る中、俺もまた、1つ目を引かれるものを見つけた

黒い手帳

「これは…」

そうだ、これは、俺が、アデアの幹部就任時に渡した手帳だった

渡してから1度も持っているところを見た事がなかったから、とっくに捨てているものだと思ったが…

「……」

ぱら…とページをめくれば、そこには日付と、お世辞にも上手いとは言えない字の羅列が刻まれていた

その日付は、俺が、アデアに、この手帳を渡した日のものだった

200:◆RI:2022/06/26(日) 02:52

7/6
あるでぃあからてちょうをもろうた
なにかけばいいかわからんっていうたら、にっきでもかけっていわれたから、かいてみる
じのれんしゅうにもなるやろやって
つづけれるようにがんばる

「────」

日記、それは日記だった
それは、今までのあであの全てが描かれていた

7/7
きょうはたなばたなんやって、あるくがいうてた
おねがいをかみにかいてささにつるすんやって
そんなんでかなうんやろか
おりひめとひこぼし?とかいうんはよくわからんかったけど、またしりたくなったらきいていいって
やさしいなぁ

7/8
きょうはなるとめれるがたたかっとった
ふたりともけがしとるくせにやめへんからいしすがとめにはいってた
めっちゃおこられとる、おもろ

7/9
きょうはサイドとじのべんきょうした
じかくのむずかしいねん、でもとりあえずみんなのなまえはちゃんとかけるようになった
おれえらすぎ、サイドにもほめられた、やったー


そういえばアデアはここに来た当初は、話すことや読むことは出来るが、文字を書くことが得意ではなかった、手帳を渡したのだって、練習にちょうどいいだろうと考えたからだ

最近ではこの頃の拙い文など感じさせないほどに上達し、彼の報告書にはほとんどミスがなかったことを思い出す

パラパラとページをめくって行けば、その成長過程がはっきりとわかり、彼の努力をひしひしと感じさせた

ある日には新しく就任した仲間の話を
ある日にはいつものような喧嘩の話を
ある日には己が参加した戦争の話を
ある日には、他愛もない、日常の話を

この手帳には、アデアが在ったという痕跡が、これでもかと詰め込まれていた、


そして

201:◆RI:2022/06/26(日) 02:52

XX/XX

くにがおれたちをうらぎろうとしている

じかんがない、どうにかしなければ

せんそうをはじめるにはあいてがみがるすぎる

アルディアをころすなんざぜったいさせへん

あいつらをつぶすなんざぜったいさせへん

ぜったいに、おれが、あいつらを


前日までの、綺麗になった字に比べ、殴り書きのような荒々しい文字
怒りの籠ったそれは、あいつがこの日、全てを決意したであろうことを物語っていた


XX/XX

今日
これが、俺があいつらの仲間でいられる最後
ぜったいにやりとげる、ぜったいに、ぜったいに

ちょっとくるしいけど、でも、それでも








「なん、やねん、これ」

誰がそういったのだろうか、その声は、あまりにも悲痛で

読み進めていけば行くほど、この手帳には愛が溢れていて

全てが俺たちのために仕組まれて、
奴は己を裏切り者として犠牲にして、俺達を救ったのだと、理解せざるを得なかった




04/01

そういえば、そろそろ建国記念日やったっけ?
ホンマにあのクソども、アルディアの嫌がることばっかしおってからに、よりによって処刑日と重ねんなやボケ

まぁ、俺は死ぬ、日記もここまでや思うとしみじみ感じるなぁ

正直、貫徹して裏切り者として死ぬのはいやだけど、まぁ、しゃあない

最後にわざわざ嘘まで大声で叫ぶ予定やし、ちゃんと殺してくれるといいんやけど

ユースには悪い事したなぁ、まさか処刑人なんかでてくるとはおもわんかったし、あいつは優しいから、ホントのことを知ってしまったら、泣いてしまうだろう、絶対にバレないようにしなければ

まぁ、俺が完璧に演じればいい話やし、そのためにもがんばらんとなぁ

















建国記念日おめでとう、俺は、お前達を、ずっと、ずっと愛してる

202:◆RI:2022/06/26(日) 02:53

そう、最後にそう締めくくられ、この日記は終わっていた
まだ白紙が余っているというのに、もうそれ以上先を、彼が刻むことは二度と無い


全てを知った瞬間に、気づけば涙が溢れていた
泣くのなんていつぶりだろう、止まらないそれに引き摺られ、ひくりと小さく喉がなる

周りを見れば、みな同様に泣いていた

イシスは己のマフラーを握りしめ、唇を噛んでいた

サイドはただ目を見張り、呆然と涙を零していた

アルクは、しゃがみこんで、悔しそうに顔をゆがめていた、拳を握りしめ、そこから血が滴っていた

メレルは、しゃがんで蹲り、アデアの服を抱き込んで泣き叫んでいた

ユースは絶望した顔持ちで、持っていた顔布を震える手で握りしめていた

ルティアは、ただ泣いていた、何も音は発することはなく、ただ静かに声を押しころすように泣いていた

ショートは、もう既に治っていた殴られた頬に、呆然とした顔で触れ、ひとつおいて顔を歪めた、ずっと、嘘だと呟いて、そんなわけが無いと、すがりついていた


あいつは、何を考えていたのだろう

俺たちが罵倒したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが拷問したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが処刑したとき、何を考えていたのだろう

なぜ、死に際に、あいつは、幸せそうに、笑っていたのだろう

そう、ずっと疑問だったことが、すべて、すべて、まるでパズルのピースが埋まるように、理解出来てしまって


その日、俺たちの涙腺は枯れ果てた

203:月見里:2022/06/26(日) 08:31

『受け継がれるお面の呪い』

僕はこの赤般若(お面)を手にしたあの日から変わった。
両親を早く亡くして、親戚には引き取っては貰えずに
亡き父方の祖父の家で住んだ。
廃墟化していたその家で生き残り続けていた。


僕は月見里 双一。
学校は行ってない、自力で食べ物を探しているからそんな暇はない。
僕は、この赤般若と一緒に生きている。
話せられないけど...時より勝手に僕の身体を使って、お金を集めてくれる。木の壁に彫られた文字で赤般若のことを理解した。

『俺は、五百頭旗 牙竜だ。お前の爺さんから見てきた
武士であり霊だがな....ここでのたばり4ぬなよ? 』

『銭が少なくなってきたから知り合いから借りてきた。
安心しろ、お前の爺さんの仲間だからな。』

『そろそろ、体力つかないとな.....お前の親父みたいに強くなれよな。小僧、俺は弱者が一番嫌いだからな』

とこの赤般若は口はとても悪いが優しい霊
僕のお爺ちゃんやお父さんを知ってる事には驚いた。
何でも、僕の家系は陰陽師でよく般若の面で戦った人らしい。その赤般若をいつも見てきたのが、この霊だった。

僕にはさっぱりだけど、お爺ちゃんとお父さんもこのお面を着けて戦った強い人だと言った。
それを聞いた僕は初めて『強くなりたい』と思った。
その時だけ、赤般若から一瞬だけ...


誰も知らないだろう、とても優しい顔をした
綺麗な牙竜の表情が見えた気がした。

204:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

ユース視点

任務が終わったあと、気まぐれで、ふと、街を出歩いた
別に何が欲しいわけでも、何が見たいわけでもなかったけれど、久しぶりにしっかりと見る街並みは、前世と同じように賑わっていて、懐かしさを感じた
ぼーっとそのまま歩いていけば、いつの間にか、大きく拡がった広場に出ていて
人が多く歩いているそこは、前世では、あいつの最後の場所だった

ふっと蘇ってくる記憶に唇をかみしめ、頭をガシガシとかく、気づかないうちに、嫌なところに来てしまった

ただの気まぐれだったし、用もない、さっさと帰ろうと足をかえそうと、した、とき


「─────」


広場の真ん中、あいつの処刑場があった場所
そこに、ポツンとたっていた奴がいて、
なぜか、目が引かれてしまって

よく見てみれば、そいつは、あの日見た相棒と同じ背丈で、

「────あであ」

そう、こえをもらしてしまった

そんなはずがない、と思っていても言葉がこぼれるのがとめられなかった

でも

そいつは、それに答えるように、こちらに振り向いて


「─────え」
風が吹いて、そいつが被っているフードがとれて

「─ゆ、す」

そいつは俺を見て、あいつと同じ桃色の目を見開いて、あいつと同じ声で、俺の名前を呼んだ

205:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

「……っ──!!!」
ぶわりと身体中におかしな感覚が襲う

アデアだ

間違いなかった、あのひ、あのひ、俺が殺してしまった相棒が、目の前にたっていた

「───」

何かを言おうとしても、喉がひきつって、掠れた呼吸音しか出てこない、
ききたいことも言いたいことも、沢山あるのに

「……っ!!」
俺がそうやって固まっていると、呆然と俺を見ていたアデアは、思い出したかのように息を飲んで

───────逆方向を向いて走り出した

「は、…っ!!?まっ、あであっ!!」

いきなりのことに反応が遅れるが、前世で彼が俺たちの前から消える光景が、走りさろうとするアデアとかさなり、ゾッとして急いで後を追う
もう二度と、あいつを、逃がしてはダメだと思った

人混みに紛れながら走る分には、小さな体の彼は俺なんかよりも動きやすいのだろう、見失いかけることがあって必死でそれを見つけて

ひたすらに逃げていくあいつは、多分捕まる気は無い、でも、もう手放したくなくて
おれはインカムの電源を入れた


ピピッと、インカムが起動する音が鳴る
ユースからの通知であったから、任務の報告かと思って、いつものように話しかける

「はぁいこちらルティアですぅ、ユースさんどないし『あ、ああああであっ、あであがっアデアがおった!!!!!』──は?」

流れてきた声はあまりに慌てていて、かすかに聞こえる音から走っているような振動を感じる
いや、それより今なんといった?

『アデアっ、アデアが街におった!!俺の名前呼んでたから多分あいつも『覚えとる』!!!やけど俺見た瞬間に逃げて…っ、今追いかけとるからっ先生サポートしてくれ!!』

「は、はぁ!?」

まてまてまて、頭が混乱している
アデアが?この街に?というか今世に?

『っ、ルティア!!』
「っ〜〜!!!あーもう!!分かった!!何がなんでも追跡したるわ!!!」

考えても考えても思考はまとまらないから、もう放り投げてしまう、
考えるのは、あいつが帰ってきてからでいい

206:◆RI:2022/07/03(日) 04:35

「あるちゃん!!あるちゃんきこえとる!?」
ユースのGPSを伝って居場所を割り出しながら、我らが総統にインカムを繋ぐ

『なんやルティア、うるさいぞ』
冷静な低い声に窘められるが、それどころでは無いと叫ぶ

「ユースさんから連絡がきて…っっおった!!」

繋がったインカムに報告をしながらユースの周辺をモニターで探せば、何度も見たあいつの姿を見つける

『は?なんやねん、なにがおったんや』
「っアデア!!!!アデアがおった!!!」
『は』

息を飲む音がインカムから聞こえてくる

『……本気で言っとるのか』
「まじもまじ大まじやボケ!こないな嘘つかへんわ!!いまユースが追いかけとるしおれもモニターで捕捉しとる!!!」

珍しく震えている声に大声で答える、縦横無尽に逃げるあいつを必死に追いかければ追いかけるほど、懐かしい姿に目がかすみそうになる

『…ルティアとユースはそのまま追跡を!それ以外を会議室に至急集めろ!!全員のインカムを繋げ!!』
「っつ、了解っ!!」

1つ沈黙を置いた後、いつものように命令を下してきたアルディアに答えて、急いで仲間たちのインカムに手を出して、俺は声を上げた

207:◆RI:2022/07/03(日) 04:36

「っ…!」

まずい、まずい、まずい!!
ユースがおった!!うわぁまじで、まじで!?
街になんか来るんじゃなかった!
いや転生したのは知っていた、軍の噂であいつらっぽい奴らがいるということはわかっていた!でもまさかこの街にいるなんて知らなかった!!
しかもなんかルティアとか聞こえてきたし!!まさか全員おんの!?!?全員!?

必死で人混みを利用して逃げ出しながら、ぐるぐると思考を巡らせる

今世では、のんびりと1人で過ごして、平和に死んでやろうと思っていた矢先にこれだ、そう言う星の元に生まれているのか?と思うほどに、俺の運命はどうかしていると思う

アイツらにとって、俺は裏切り者である、殺したくなるのもわかるが、こちらはもう関わる気は無いし、そもそも前世で処刑されているのだ!許して欲しい!無理?ですよね!!

広場から抜け出して路地裏へ逃げる、壁をけって行き止まりを登り、錯乱させるように必死に逃げるが、相手はユースだ、寄りにもよってあいつらの中で1番動ける奴だ、しかも恐らくルティアも俺の捕捉にかんでいる、あれ、これ逃げるの不可能では????

余裕なんかないくせに無駄に回る頭に少し嫌気がさしながらも駆け出すあしを早める


遠くで、俺の名を呼ぶ声が聞こえた


「っアデア!!!!」


それはあまりに、あまりに悲痛な叫びのようで、懇願するような、縋るような声で、裏切り者に向けるべきでは無い声で

「っ、え」

想像もしていなかったその声に、つい、後ろを振り向いてしまった

「───」

そこにいたのは、さっきも見た、俺の元相棒であった、あったのだが、

その顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた

───なんで?

なんで、なんで?なんでユース泣きそうなん?追いかけてくるものだから、殺意にまみれているか怒りにまみれているか、そんな顔をしているものだと、怖いから後ろを振り向かないでおこうと思っていたのに

「あ、で、あであ、あであっ」

何度も名前を呼ばれる、その声色に、俺の喉がひくりとなったきがする

「アデア、アデア、やんな、ま、まちがってないよな…?」

いつの間にか、俺の足も、ユースの足も止まっていて、俺はその問いかけに、どう答えていいかわからなかった

「いきて、い、いきてるん、よな、おまえも、おまえも、おぼえてるん、っやんな」

必死に走っておってきたのだろう、彼は息が上がっていて、荒く呼吸をしながら、話を続けている

俺は走っていたせいであがっていた息とは別に、どんどん大きくなっていく鼓動に、は、と息を漏らす

「おっ、おれ、!……お、れ…っ…」

必死に言葉を紡いでいたユースは、何かを話出そうとして、言葉を詰まらせた、はくはくと口を動かしているが、言葉がそこから出ることはなく、酷くつらそうに顔をゆがめていた

そしてようやく、どうしてユースがそんな顔を、そんな声をしているのかを理解した

バレたのだ、俺がやったこと、その真実全て

208:◆RI:2022/07/03(日) 04:36

正直ゾッとした、何がきっかけで気づいたのかはわからなかった、いやでもこいつらの事だ、何かしら俺が見落としたものでも見つけたのだろう、あぁ、ルティアをバカにできない、己のガバガバさに嫌気がさす

そして、あのとき、俺を殺したのは、ユースであったことも思い出して

ひゅ、と喉がなった

酷く残酷なことをしたのだと、忘れていた訳では無いのだけれど、どうせバレることは無いとたかをくくって、わざと目を逸らしたその事実が、いま、目の前のユースを苦しめているのだと、わかってしまった

ずっと、真実に気づいた時からずっと、きっと彼は、苦しんだのだろう、己を責めたのだろう、今言葉が詰まっている理由だって、優しい彼は謝ろうとして、そして、謝る資格があるのか、などと考えているのだろうということも、なにもかも、手に取るようにわかってしまった


いや、彼だけではない

かつての仲間たち、俺が裏切った仲間たち

みんな、みんな






だとしたら

・・・・・
だとしても


────────────────────────

209:◆RI:2022/07/03(日) 04:37

「ユース」
あいつの声が、俺の名前を呼ぶ

「…ぁ…」
その、懐かしい声に、愛おしい声に、もう呼んでもらえるはずのなかった声に、言葉を紡げなかった俺は、顔を上げて─目を見開いた

「───」
アデアは、困ったような、でも、幸せそうな、愛おしそうに、眉をひそめながら、目を顰め、それでもくちは歪にも、歪んでいながらも、微笑んでいて

「………あで、あ」
俺は名前を呼んだ、それしか出来なかった、それしか言えなかった

「──ごめんな」


「は…?」

そう、目の前の彼は、謝った

意味がわからなかった
なんで、なんでお前が謝んねん
謝らあかんのは俺やろが、俺たちやろうが

おまえは、なんもわるくないやん


「…ばれちゃったんやんな、おれがやったこと」

そう、告げられた言葉の意味を理解するのには、少し時間がかかってしまって
それが、あの時、俺達を守るために裏切った事、その真実についてだと、やっと理解した

「あで」
「ごめんなぁ、お前優しいから、絶対にバレへんようにしたのに、俺の詰めが甘いから、そないに苦しめてもうて」

ちがう、ちがうよ、そんなの、おまえをしんじられなかったおれのせいだ
あいぼうだなんてのたまったくせに、おまえをしんじてやれなかった、おれの、

それに、くるしんだのは、おまえのほうじゃないか

おれたちにばとうされて、ごうもんされて、じんもんされて、そんげんをこわされて、ころされて

おまえのほうが、ずっとずっと、くるしかったはずだろう

「─いやー、でもほんましくじってもうたわ!なんでわかったん?バレへんように証拠隠滅頑張ってんけどなぁ」

がしがしとあたまをかきながら、問いかけてくる
さっきまでの歪んでいた顔はどこへ行ったのか、昔見た、へらへらとわらって、ただ世間話をするように

「俺嘘つくん得意やったんにさぁ、ほんまがばがばやわ、無能やなぁ」

ほんの少し下を向いて、自虐をする、口は笑っているが、その綺麗な目は、髪に隠れてわからない

「でもなぁ?ゆーす」

なまえを、よばれる
嫌な予感がした
ひどくいやなよかんがした
やめろと、こえがでた
やめてくれ
それいじょういうな、それだけは、

それだけは





「おれのことなんか、わすれてええんやで」




・・・・・
そんなことにしばられなくていい

と、そう、そうやって、

アデアは、死に際にみせた、あの顔と、そっくりな表情で、わらった

210:◆RI:2022/07/03(日) 04:37

そのことばに、おれは、あたま、あたまが、まっしろになって


気づけば、アデアを押し倒していて、逃がさないように両の手首を、己の両手で地面に縫い付けていて

「ふ、ざ、けんな、や…っ、っ!ふざけんなや!!」

驚いた顔をするアデアにむかって、ボロボロと泣きながら、叫んでいた

「ゆ、…ゆーす…?」

「ふ、ざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!」

ただ叫んだ、感情任せに捲し立てる
驚いた顔をする彼に、酷く腹が立った

「なに、な、なにが、なにがっわすれろや!!なんでそんなこというんやボケ!!!忘れられるわけないやろが!!!」

わすれられるわけがない
すてられるわけがない

「おれはっ、おれは、お前が裏切ったと思った!!俺らのことなんか捨てて、ずっと俺らのことを騙したんやと思った!!最後まで信じたかったなんて口先だけの綺麗事吐いて、最後、お前の最後の嘘も見抜けんで!!怒りに任せて!!お前の首を斬った!!俺が!!お前を殺した!!」

さけぶ、さけぶ、忘れられるわけがなかった、すべて、あの時の全て、ひとつだって忘れることは無かった、忘れていいわけがなかった

「俺はお前をころすとき!苦しんでしねばええと思った!!わざと下手に首を切って…!!苦しんで苦しんで苦しんでっ俺達を裏切ったことを後悔すればええと思った!!」

そうだ、俺はそう思ってこいつを殺した
信じていたいだなんて口走ったくせに、最後は憎しみだけで、こいつを殺した

「で、でも、でもっ、おまえ、おまえがっ!裏切ったんちゃうって知って、ぜんぶ、全部俺らの為にしたことやってわかって…っ!お前がっ俺たちを守ってくれてたって知って!おれは、お、おれはっ」

己を、殺したくて、たまらなかった

喉がきゅうとしまる、泣いているせいで、しゃくり上げるおとが、酷く忌々しくて、止まらない涙が、アデアをかすれさせるのが、はらただしくて


「ゆ…す…」
「──なんで、なんで、あのとき、わらったん、あであ」
「え…っ…」


彼の最後、俺が、剣を振り下ろした瞬間
彼は心底満足そうに、わらっていた

「……なん、で」
「…………」

アデアは答えない、沈黙が流れて、答えてくれる気がないのだろうとおもった

だけど、

211:◆RI:2022/07/03(日) 04:38

「……お前らを」

口が開かれて、愛おしそうに告げられた言葉に、息を飲んだ

「おまえらを、まもれて、よかったとおもったから」

アデアの表情は、さっきの苦しそうなほほ笑みではなく、ただ、俺を見て、穏やかに笑っていた

ほんのすこし、俺が押さえつけている手をはなさせようとしていた軽い抵抗も、まるでなかったように力を抜いて
もう逃げ出す気は無いように思えた、だけれど、なぜだか、力を抜いてはいけない気がして

今手を緩めれば、すべて、消えてしまう気がして

そしてアデアは、俺と違って、止まることなく言葉を紡ぐ

「おまえらに、ばとうされたときは、まぁ、しゃあないなっておもった、うらぎったんやったらそんくらいはあたりまえやって、というかちょっとでもしんじてくれるとおもわへんかったから、しんじたいっておまえらがいうたとき、ちょっとあせった」

しんじられたら作戦失敗してまうからな、と、わらった

「ごうもんは…ちょっといたかった、いや、ちょっとやないな、めっちゃいたかった、あたりまえやんなぁみんなおこっとったし、おれもなーんもしゃべらへんし、じんもんもこわかった、うっかりほんとのことしゃべりそうになってまった」

あぶなかったわぁ、サイドもイシスもおっかないねん、と、わらった

「しょけいのときは、──うれしかった、お前らを守り通せて、だましぬけて、さいごにアルディアが言い残すこととか聞いてくるから、一瞬、全部言いそうになった、けど、そこで言うたら全部台無しやから、徹底してやろうと思って、嘘をひたすら叫んだ、あと」


「ゆーす、ゆーすに、首切らせるん、ほんまにゆるせへんかった」

「おまえはやさしいから、そんな役割押し付けやがった国の奴ら、ぶち殺してやりたいと思って、まぁ、お前らがおるからそんなん無理なんやけど、やから、絶対バレへんように、おまえらが、おまえが、それに気づいて苦しまんように、叫んだ」

「それで、みんな怒ってくれたから、あー上手くいったってまんぞくして、───ゆだんして、くちからほんねがでたのにきづかへんかった」

「口を止める暇はなかった、しくじったと思ったけど、まぁ、それ以外は完璧なつもりやったし、もうどうにもならへんから、あきらめて、そんでしんだ」


「やから、やから、お前らは悪くないねん、ぜぇんぶ俺に操られとっただけ、俺の自殺につかわれただけ」

「ぜぇんぶ俺の、ただの、エゴやん」


歌うように、懐かしむように、それでいて諦めるように告げる
お前たちは悪くないよと、まるで子供に言い聞かせるように

「お、ま、…!まだそんなことっ」
「だってほんまやん」

微笑みながら俺の否定をかき消す

「…ほんまのことや」

俺の目を見て、はっきりと、その顔は優しく、窘めるように

「やから、お前が泣く必要はないねんて、ユース、お前は正しかった、お前は間違ってない、お前は…お前らは裏切り者を断罪しただけや、なぁんも間違ってへんよ」

「…ふざけんな、や、…間違っとるに決まっとるやろ!!!なんで、…なんでおまえはそこまでっ…!」


アデアは笑って、微笑んで、俺を、俺たちを突き放そうとする、どうして、どうして

「おれは、うらぎりものでええねん、もうおまえらに、かかわるつもりもない」

「……は…?」

いま、なんて

「…おれはもう、おまえらのところにはもどらん、おまえらがどれだけおれをゆるしても、ぜったいに」

笑っていたその顔は、その笑みをかき消し、決意を埋め込んだような顔をして

おれはその言葉に、その拒絶に、気を取られてしまって

「……おやすみ、ばいばい、ゆーす」

「あで」

アデアが持っていたそれに気が付かないまま、俺の意識は暗転した

212:◆RI:2022/07/03(日) 04:40

「………」
気を失ったユースの体を、自分の体を起こすのと同時に持ち上げ、側の壁にもたれかからせる

両手を掴まれていたから、仕掛けはあったとはいえ取り出すのに苦労したけど、護身用に持っていた仕込みの睡眠薬が役に立った、ユースが動揺していなければ気づかれていただろう、


『もうおまえらに、かかわるつもりはない』

「……」

『おまえらがおれをどれだけゆるしても、ぜったいに』

「……」

『ふざけんなや…っ!』

「………ごめん」

その場にゆっくりとしゃがんで、ユースの頬に両手を伸ばし、呟く

「ごめん、ごめん、ごめん、なぁ」

頬を撫でる、さっきまで泣いていた彼の目元は赤くなってしまっている、

おれのせいで

「っ……」

唇を噛む、少しすると、口の中に血の味が広がる、

苦しませたく、なかった、なかったからおれは、頑張ったのに、なのに、結局

「……」


「……あ、で……」
「!……」

ビクリと、聞こえてきた声に肩を揺らす、急いで顔を上げて彼の方を見る

「っ………」
「……」

ほ、と安堵の息を零す、起きた訳では無い様だ、だけど、相手はユースだ、こんな薬なんて耐性がない訳が無い、いつ目覚めるか分からない

「……」
はやく、ここから立ち去ろう、ユースの場所は、多分ルティアが見ているはずだから大丈夫、それで、それで

「………」

もっと、とおくに

────────────────────────

213:◆RI:2022/07/03(日) 04:41

─!──す!─ゆ─!

「ユース!!!」
「……っ」

聞こえてきた自分の名前を叫ぶ声に、意識が段々と覚醒してくる
あれ、自分は今まで何をしていたんだっけ、なんで眠って─!

「っあであっ!!!」
「うぉ!?」

全てを思い出してがばりと体を起き上がらせれば、近くから驚いたような声が聞こえてくる、そちらに目線を向ければ、メレルが尻餅をつくように地面に座り込んで驚いた顔でこちらを見ていた

でも、でも、それどころでは無い、急いでメレルの肩を掴み、問いただす

「め、れる、…っ!あ、あであっ!!アデアは!!!」
「い、や、まだみつかってへん、でもそんな遠くに行ってないやろうからルティアとショートがいま調べて」

見つかっていない、そう告げられた言葉に頭が真っ白になる

「っあか、あかんっ、あであっ、あであは、だめや、いま、います、いますぐおいかけっ、おいかけなっ」
「っユースちょっと落ち着け!焦りすぎや!呼吸出来てへんやろ!!」
「っ…」

そうやってメレルに肩を掴み返され叫ばれてようやく、己が過呼吸気味になっていることに気がついて、ようやく酸素を吸う、やっと回ってきた酸素のおかげで、真っ白だった脳は思考をまた開始する

「っ、は…、はっ…」
「…っなぁ、なにがあったんやユース、アデアとなにをはなしてん」
「っ…え」

そしてそう問いかけられて、疑問が浮かぶ、インカムは繋げていたはずだ、繋げていたルティアから聞いていないのか?
そう考えながらインカムに触れればその感触に違和感を覚えた

「っ…!?」
「…その様子やと気づいてへんかったんやな…俺らもインカムの通信は聞いとったんやけど、途中からなんも聞こえんなって…」

急いで取り外したインカムは、いつの間にかヒビが入っていた、どうして、いつのまに

そういえば追いかける途中でアデアが逃げるために路地裏の物を倒したり投げてよけたりしたものがたまにこちらに飛んできていた

「あんときか…!」

もう使い物にならないインカムを持った手を力強く握りしめる、バキャリと手の中で音がなり、破片が刺さったのだろう、少量の血が流れてくる

「お、おい、ユース…「もう俺たちと関わる気がないって」───は?」

ぶるぶると、握りしめた手を額にちかづけ、歯を食いしばりながら告げる

「もう、俺らのところには戻らんって、ユースが、言うた」

「……、な、ん、や、…それ」
 

214:◆rDg hoge:2022/07/03(日) 04:56

辺り一面が火に包まれて、絶叫や悲鳴や嗚咽が嫌でもこの耳に入って来る。目の前に広がる光景は死屍累々。正に地獄と呼ぶに相応しかった。
...認めたくない、あいつらの死は無駄じゃなかったって。だって、認めてしまったら。

     ゼッタイアク
目の前の全ての元凶がもっと笑ってしまうだろうから。
ふと、剣を握る手が震えている事に気付く。俺は、アイツに恐怖をしてる?怒りよりも、先に?


「 そう、君は弱い。僕は知っているよ。君は色んな人を助けて、助けられて、そんな風に生きて来た。仲間にも九死に一生を救われたりしたね。でも、逆に言えば………君は、一人では生きて行けないんだ。だから、その為に!僕がいるんだ!はは!綺麗さっぱり!ねぇねぇ、知っているかい?君ってさ、自分を強いって思ってたろ?

 ____黙れ

現実を見なよ、君は何一つ守れやしないんだ!…あぁ、そんな所が本当に可愛いね! 」


____黙れよ


「 大丈夫!僕は君の一番の理解者で!親友で!そひて倒すべき悪役なんだ!さぁ、ホップステップで踊ろうよ!!この終末感を楽しんでいこう! 」


_____絶対に、殺してやる



「 ふふふ、あぁ ...本当に君は ...一体何処まで僕の性癖に刺さるんだろうね!その髪型!その目!その口元!そのカリスマ!その服装!本当僕が夢見た英雄だ!!!さぁ!!!楽しもう! 」


______メアズ・アルマァッ!!!!


「 主人公君! ...いいや、ヒーロー!! 」

215:◆RI:2022/07/14(木) 21:46

愛しい君に、美しい恋を捧げよう

https://note.com/joyous_holly145/n/n76238f46ab9d

216:◆RI:2022/07/14(木) 21:47

この後友成に抱き抱えられながら外に出た白菊が見たものは、半壊した西園寺の屋敷とこちらを見て駆け寄ってくる友の姿
幼なじみの兄弟は自分の腕と顔を見てそれぞれ近くの物を破壊してそのまま屋敷を半壊から全壊させに行こうとし、源ノがそれを死んだ目で止めに行き
土御門や安倍はそれぞれ安否や傷を気にかけてくれた

あたたかい空間、いつもの私が知っている空間、私が居てもいいと許してくれた、私を望んでくれた場所

「おかえり、白菊」
「─ただいま、皆」

その時、なんの不安も遺憾もなく、私ははじめて笑えたのだと思う

217:◆RI:2022/07/21(木) 23:57

『お前と僕は』

1 https://i.imgur.com/lqCZQnN.jpg

2 https://i.imgur.com/KvIZ7VK.jpg

3 https://i.imgur.com/brAEgnp.jpg

4 https://i.imgur.com/wAVXKQy.jpg

5 https://i.imgur.com/bJwWH1G.jpg

6 https://i.imgur.com/eBUo8p9.jpg

7 https://i.imgur.com/RytCUG4.jpg

8 https://i.imgur.com/ay6EPCK.jpg

218:◆Qc:2022/08/03(水) 00:19

『とある場所』




「······いやぁ、なかなか面白い狂言だね······あそこの連中は絶対ここの存在に気付くことはない······か。我ながら良く出来てると思うよ······そう思わない?」
「思いませんが。······悪趣味ですよ。ヴラデク監視長の方が無干渉なだけもっとマシかも知れません」
「手厳しいなぁ。······でも、こうするしかなかったんだよね。わかるでしょ?」
「······納得はいきませんが」
「だよね。······私もそう思うよ。······まあ、あそこのお陰で『月の王』が成り立ってるから存在意義はあるでしょ」
「本当に大丈夫なんですかね······?」
「大丈夫大丈夫。何度も言うけど内部からは絶対干渉できないようにしてる。······問題なのは外世界から乗り込んでくる規格外だけ」
「規格外というと······」
「確か片方はタナトスとか言ったかな······?そいつは多分内部には干渉してこないとは思うけど······『月の王』に守られてる場所が怖いかな」
「あぁ······確か魂を布に変えるとか何とかいう存在でしたっけ······?」
「······そうだっけ?······まあともかく、まだそっちはマシなんだよ。······もう一つある。こっちは本当に何やってくるか分からない」
「タナトスと相打つ可能性はありますか?」
「相打つ可能性というか現在進行形で何かやってるみたいだよ。それでもどうにもならないみたい」
「ふむ······難儀なものですね。······まるで異民族から攻められる漢帝国みたいです」
「漢?」
「······え、ご存知でない?」
「············あぁいやわかるよわかる。とりあえず言いたいことは分かった。でもこればっかりはどうにも出来ないから······内側を中心にセキュリティ強化しようかな」
「了解しました。ではそのように伝えておきますね。······あ、『月の王』への影響はどのくらいになりそうですか?」
「え?えーっと······とりあえず大丈夫。通常通りでいいって上に言っておいて」

219:◆Qc:2022/08/04(木) 01:56

『妖幻の月族-1』


────月。
4代目の月の巫女が死んでから、時は経っていない。そう、丁度斬月が行動を起こす前の時である。
「······来客?」
『月族』の族長の一人である徊月は、『兎』による報告に首を傾げた。
「そうです。何でも『自分のことを覚えている奴が居るはず』とか言って······それ以外の事は何も喋りません」
「敵意は······ない?」
「少なくとも、表面上は」
「······そうか。ありがとう。とりあえず会ってみよう」
忙しいのにも関わらず、不思議な来客と会うという徊月。······これには、この月という場所にも関係している。
当然ながら空気もない、その上ここにある月族の建物には外部からは視認を含めた一切の干渉が出来ないようになっているのだ。どの道、それらを突破してここに来るというのは尋常ではない。
『月面大結界』維持の応援に行っている者や、地球に降りて次代の『月の巫女』を探し回っている者が粗方出払っている今、月族の地区はほとんど無人と言っても良かった。
今ここに残っている者は、待機することを命月から強制された者────徊月とその他数名しかいない。

やがて徊月は簡素な建物に足を踏み入れた。そこは、普段は『天人』や『兎』の有力者が会議前に待機をする場所として使われているのである。
たが今────ここは異質な女性の為に占領されていた。
「······」
灰色の髪をした彼女は目を閉じている。瞑想でもしているのかと思い、少しだけ動くのを躊躇われた徊月。
······しかし、ふと彼の脳裏に電流が走った。この女性の存在を、記憶の大海から拾い上げたからである。
「······張月。久しぶりだな」
女性はそこで初めて目を開いた。暗い、くすんだ目であったが······目許が少しだけ笑っていた。
「ほら、やっぱり覚えてたか······と言ってもお前だけだろうな。······徊月」
女性の名前は張月といった。そこから分かる通り、月族の一員である。
「何年ぶりだ······?月族が体系化された時に一回顔を出して以来だよな。思えばその時も······それまでの話を聞きそびれてた」
「はは······何せその時代は中国より日本が面白そうだったから」
張月は他の月族とは違い中国に行っていたらしいのである。そう言われてみれば、その格好も道家的な趣がある。
「······古参の特権だよな」
「そうだな。徊月······流石にお前には劣るが。······あぁ、折角だし土産話をしてやろう。······三国志は好きか?」

220:◆Qc:2022/08/04(木) 02:34

>>219
『妖幻の月族-2』


「······三国志?······まあ一般教養の範疇なら」
「なら流石に黄巾は知ってるか。······さて、なぞなぞだ。私は『張月』。何か気付くことは?」
張、という字を机になぞってまで強調する彼女であった。向かい合う徊月はしばらく悩んでいたようだったが、改めて張月の格好を眺めてようやく思い至る。
「張······って、黄巾の首謀者の苗字も同じ······何かやっただろ」
「ご明察。······って程でもないがまあいいさ。つまりだな······まあ何というか······儒家思想を道教思想、というか単純な欲望で破壊するのは楽しかったよ」
「··················うわぁ」
ようやく察した徊月である。
「それにしても弟達も凄かったが張角は凄い奴だったな。本当に幻術とか妖術使いこなしてるし······率いた物にもう少し頭があれば天下狙えただろうに」
「会ったのか······頭、というと?」
そう言われると色々と聞いてみたい徊月。しかし相手を優先し、最低限の相槌に留めていた。
「やっぱり賊だからか頭脳は弱いな。首領は悪くないが下が悪すぎる······お陰で簡単に取り入ることが出来た。父親の忘れ形見とか何とか言ってな」
「······で、そこで何を······?」
「幻術とか妖術とかを習った」
「は?え、陰謀とかは?」
「期待してたのか?」
純粋な興味だけで動いている人間とは恐ろしいものである。張月は確かに時代の証人にはなったようだが······時代は動かさなかったようである。

「······で、結局は?」
「どうもこうも。本拠地陥落したから雷雨に乗じて逃げてやった」
「その雷雨は······ってそれはともかく。······それだけじゃなさそうだな」
「ああ。五斗米道は知ってるか?」
「何となく。今でも続いているらしいから嫌でも耳に入る······ってまさかここでも何かやったのか······?」
一、二回で慣れる、ということはない。暫くはこのままの驚きが続くであろう。
「いや。ある役人に賄賂を払って取り入った辺りで漢中が落ちた。······まあ別にその後もついて行っても良かったんだが」
徊月は頭を抱えるのと同時に、畏怖に似た感情を覚えた。
幻や妖の術に精通するとなると、時間が無限に近い月族の身でも苦労は多い。ましてやそのような異能を持っていないのであれば。
ともかく、彼はその後の話は聞き飛ばした。道教発展に一枚噛んだとか、一時期日本に渡って陰陽道を学んだとか、その辺の話は脳が受け付けなかったのである。
「······とりあえずこれからはしばらく月でのんびりしようと思うよ。この時代でも今まで学んできた術が機能するか試してみたいんだ」
「······まぁ、気取られないようにな」
結局徊月はそれしか言えなかった。ただ、唯一彼が冷静だったのは、起こった事を命月に報告することを忘れなかった事である。
このお陰で、張月の特異性は、月中に有名となるのであった。

221:◆Qc hoge:2022/09/29(木) 01:03

『無題』



今日も今日とて怠惰な生活を送っている女性、御伽華。教職をすごい早さで解雇されたのが原因ではあるが、何故解雇されたかについてはわからない。
手元には数年は遊んで暮らせる程の退職金だけが残っている。そして生憎、華は遊んで暮らすような性格をしていない。
···そこにあるのは、虚無。色も形も何もない虚無である。

「···先生?」
そんな彼女にも、辛うじて交流はあった。
「···石鎚さ······篝ちゃん。ノックくらいしてよ」
「事前に手紙送っておいた方が良かったですかね······?」
「いや···寝かけてたからむしろよかった。おかげで目が覚めたよ」
虚空から前触れなく現れた少女が、華の意識を急速に鮮明にさせていく。冗談が通じなかった所はご愛嬌である。
······彼女の名前は石鎚篝。未だに華を『先生』と呼んでいることからも、その親愛······尊敬の情がわかる。
「······で、今日は何しに?」
「···特に用事はないですが······家に一人になったので······」
躊躇はするものの、ここに来た理由を包み隠さず言う篝。特に何もないのに来るというあたり、完全に慣れている。
「そっか。···最近どう?」
「ぼちぼち······ですね。あ、そういえばこれ······この問題分からないんですけど······」
「ぼちぼちかぁ······それで質問?嬉しいなぁ。······これはこうやってこうすれば······」
座りながらテーブルにノートを置く篝と、そのノートを見て解答例を赤ペンで書いていく華。······何となく距離が近い感じがする。
「この式が共通してるでしょ?これを文字に置き換えてコンパクトにして、因数分解した後に文字を元の式に戻せば簡単で確実だよ。時間はかかるかもしれないけどね」
「なるほど······こんな感じに······ありがとうございます」
篝はそう言った後も、そのままその場所を動かない。会話はなかった。

「······そういえば、最近冴月ちゃん達はどうしてる?」
先に空気に耐えきれなくなったのは華の方だった。大人の威厳などあったものではない。
「どうって······最近来てないんですか?」
「来てないね。······まあ、こんなになってる私に会いに来てくれる人なんて······よっぽどの物好きだよ」
「······」
華が教鞭を取っていたのは1年程度である。しかも、転任ならともかく······謎の解雇によって教員生命が中断されたのだ。ただでさえそのような文化が薄いのに、生徒が会いに来よう筈もない。
······篝と、先程話題に上った冴月を除いては。
「······篝ちゃん、無理に会いに来なくてもいいからね······?」
華はのんびりと言った。そこまで軽い調子で言える事柄ではないのは重々承知している。しかし彼女はこの生活でかなりネガティブになっていた。······少なくとも篝にとっては、今にも消えてしまいそうに見えたに違いない。
「······いえ。私は来たいから来てるんです。話をしたいから手紙を送ったり会いに来てるんです。一緒にいたいから······」
「······」
そこまで言って口を噤んだ篝に対して、華の反応はというと······赤面していた。
「······そこまで言われると、嬉しいを通り越して······恥ずかしくなってくるんだけど」
「······っ」

直後、華に負けず劣らず顔を赤くした篝は、すぐに手紙に自分を添付させ帰っていった。
······後には、僅かにかき混ぜられた空気と、珍しく頭を抱える華が残されていた。

222:◆cE hoge:2023/07/14(金) 21:40


「魔女」

 おとなは、みんな嘘ばっか。うそつき、みんな嘘つき、だからもう
 「だれも、しんじない。あおい、いがい、もうだれも」
 頭から血を流す妹を抱きしめながら、そっと頬を寄せる。誰も助けが来ない業火の中、片割れを背中に抱え割れた硝子の破片に映った自分を踏みつけた。

 訓練終わり、汗を拭い湯浴みを済ませたあとお茶を啜りながらにこにこと周りを見渡す。ここも随分と人が増えたものだ。子どもから大人まで、昔は二人だけだった訓練も今では大勢ですることも多くなった。随分と日が長くなった。そんなことを考えて目を瞑る。今日は朝から嫌にあの日のことを思い出す。

 昔から、私たちは一族に疎まれていた。一つは、双子で産まれたからという理由。二つは、二人が揃うといつも妖達が寄ってくるから。三つは、二人とも女であったから。
 父は私たちに目を向けず義務だけ果たすようにといい姿を現さない。母は、忌み子達を産んだから、そんな理由で安倍の権威を失墜しようとする者たちに私刑を下された。
 そんな中、味方となってくれる大人が一人だけいた。棗、彼はそう名乗り、なにか困ったことがあれば私たちに手を貸し、その変わりに私たちが妖達を退治した。人見知りで気が弱い葵も彼には心を許していた、それは私も同じだった。
 夏の暑い日だった。今日は朝から家が騒がしく、陽炎が燃えていた。二人で手を繋いで書物庫に籠っていると、突然父が現れ私たちの両手を力強く引っ張り外へと連れ出した。それを私たちをようやく見てくれた、必要としてくれたと勘違いし、二人ではしゃいでいると突然頬を叩かれる。
「なにを浮かれている。同じ顔で気味が悪い。この騒動を片付けろ。命を落としても」
 そういい、父は去っていった。なにを彼に期待していたのだろう。涙を堪えながら、二人で現れた敵を倒して、倒して、倒して、倒して、どれくらいたっただろうか。お互い体力も、霊力も限界を尽きた。六歳の二人が闘ったところで、鷹が知れている。そんな余計な考えが頭によぎった時だった。
 今までよりも大きい妖が現れた。
 幼い私たちはそれが今回の騒動の原因だなんて気付きもしなかった。葵の方をみて油断をしていた、その時だった。

「おねえちゃん!!!」

「…っ、あお、い?、あお…っ!」

 敵の攻撃を庇った妹が頭から大量の血を流し倒れていた。う、そ…うそ、死んじゃいや、嫌だ。

「あれ、まだ生きてたの?てっきり死んだかと」
「なつめさん、あおい、あおいが!」
「分かってるよ、死にそうなんでしょ。でもね、こっちも精一杯なんだ、強く生きなよ、じゃないとこの世界では生き残れないんだからさ、利用されて終わりだよ」
「…え、あ…いっ、いや、いやいやいやいやいやいやぁぁぁぁ!」
 そこからのことは覚えていない、気付いたらあの妖はこの手で潰していたらしい。周りには大量の瓦礫とボロボロになった刀があった。周りは業火に焼かれており、妹の息も弱まっていた。

 強くなければ、意味がない。
 弱いものは、淘汰される。

 その考えは良くも悪くも私たちを変えた。
 後から確認したが、棗はそもそも私たちをよく思っていなかったらしい。そして彼はあの騒動で命を落とした。笑える話だ。もしかしたら私が手にかけたのしれないが、記憶にないのだからなんとも言えない。
 妖達が寄り付く体質も、あの後術式と性格ごと入れ換えたあの日以来収まった。
 

223:◆cE hoge:2023/07/14(金) 21:41

「そんなことも、つい最近のことのように思えましたのに…。それにしてもなにも言わずに背後に立つなんて、御前でなければ許されませんわ」
 思い出した苦い感情にぐっと蓋をして、いつものように優しく笑顔を携える。これもあの後身に付いた生き残りの術だ。
「なにもせずとも、流れるものなのだから許しておくれ」
 思考を覗かれるのは慣れないが、そういうものだから仕方ない。どうせその他の情報に流される。
「ふふ、今師範や御前に向けている信頼は本当です。ですから心配せずとも…これで、裏切られたら、それこそ半狂乱の魔女にでもなるやもしれませんけれど」
「そんなことは起こり得ないはずだ、そのように目を配ってるのだから」
「私も、そうならないことを強く望みますわ」
 そっと視線を下げた先の湯呑みに映った自分の顔はあの日は違い、少しの笑みを携えていた。
 

224:名を捨てし者 hoge :2024/08/03(土) 05:15

とある狂信者の独白

 嗚呼、私はなんと罪深いのか。この世でもっとも高貴でやんごとないお方に恋をしてしまった。貴女に近づく、いいえ、側にいるためにはなんだっていたしましょう。この想いが決して報われなくとも。

 初めてあったとき、貴女はたしか10歳に近いお年頃でした。その完成されたお姿と言ったらなんと筆をしたためるのが正解か。すらりと伸びた手足にまだ肩くらいの髪、そして全てを見透かすかのような黄金色の瞳。鈴をならすような声。そしてまだ幼い妹君を思いやるお心。その全てに心を奪われ、私はこのお方に出会うために生まれてきたに違いないそう思っていました。ある出来事があるまでは、このお方も私に出会うために生まれてきたに違いないと烏滸がましい勘違いをしていたのです。

 貴女と出会い春が7回回ったとき、冬になっても決して枯れることなく咲き続ける神櫻の下、貴女は初めて友達と呼べる存在に出会われました。名はセラフ、アイドル兼ヒーローだそうです。争い事が嫌いな貴女はヒーローと呼べる方々との交流を持ち始めました。その頃からでしょうか。妹君の交流や初恋が始まり、貴女は安堵を浮かべる表情、そうして死ぬ時に備えた動きをし始めたのは。その時、私は恥も知らず貴女を救うため医者になろうと決心したのです。貴女のためなら何も辛くはありませんでした。

 そうしてまた6回春が巡ったある日、親友の膝の上で貴女は息を引き取りました。その後の瞳孔確認は私がしたのですから間違いありません。悲しみよりも先にこれからどすればという不安にかられました。妹君はまだ12歳、私が彼女を…あわよくば貴女の変わりをなどと思っていたのです。

「茜、先ほど言った通りもう姉はいない、それでも私についてきて欲しい」

 貴女の妹君は私の目をまっすぐ見ながらそう伝えました。あぁ、この小さい女の子に私のこの濁った感情は全てばれていたのか。私は何て烏滸がましい生き物なのか。そうして貴女に似てる彼女に強く引かれてしまうのも。頷きつつ心の中にはどす黒い感情が渦巻いてしました。貴女も、貴女も…私の手の届かない所にいて、一番になれぬのならせめて二番手にそう努力しました。妹君の番様には気付かれ、手を出さないのならと見逃していただけました。

 そうして私は、夫と出会い子どもをこさえ幸せな生涯を送ってきました。あぁ、最後に…

「しづ、きさま、らんさま…どうかこの私をその目でみとどけて…くださいまし」

 その黄金色の目に移ることが何よりも私の幸せだったのです。


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