いい加減にしろ ォ !!!
( チゼルの怒りが乗った蹴りが金を散らす)
最初、お前になんとなく、境遇の近さを感じていたが、ガッカリだな。
全然違う。……俺は諦めないバカで、お前は諦めかけているただの臆病者だ。
俺はな、元の世界に帰るつもりだ。俺にも弟ではないが、世界一可愛い天使みたいな最愛の妹がいる。それも彼女は、俺がいなくちゃいけない。俺がいなきゃ、かなりヤバいんだよ、命に関わるレベルで。だから帰るんだ。
だけどな………
元の世界に帰るには?って専門家に尋ねると、どの専門家も異口同音として、一番初めにこう言う。「無理だ、ほぼ不可能だろう」ってね。………… それで、その次に魔物関連に携われば何かヒントがあるかもしれない程度だと付け加えて言う。
だから、俺がやってることは、限りない不可能への挑戦なんだよ。
だが、お前の弟だって、同じだ。もしかしたら生き返らせる方法はあるかもしれない。これだけ魔法が発達して、訳の分からない異能があって、訳の分からない奴らが跋扈してる世界なんだから。この世界は常に、魅力的な可能性に満ち満ちてる。
なのに、お前は諦めるだけ。そのまま復讐を言い訳に生き続けるだけ。あるいは………
諦めたらな、僅かなその可能性すら消滅させてしまう。
つまりだ ! 弟が生き返るかもしれないその僅かな未来を、可能性を、お前自身で殺しているんだ。いや、弟を完全殺人しているのはお前だ !復讐と称して、お前が ! お前こそが ッ! 弟に完膚なきまでのトドメを刺しているんだよ!!
俺にはお前が、弟を救うための過程で味わう苦痛と恐怖が怖いだけにしか見えないな。そりゃ、死にたくなるぐらい辛いだろう。何度も何度も絶望に衝突するだろう。朝起きても何も変わらない現実に、吐きそうになるだろう。
だが俺は、自分よりも妹の方が大事だ。
だから、不可能を可能に変えるんだ。
元の世界に絶対帰るんだ。
もっとも、お前は違うらしいがな。残念だよ。
そのままクソの集まりの「特典教」にでも入っちまえ。
…俺の欲しいもん、みんな…
この指の間をすり抜けていっちまう。
水みてぇに。
(痩せ細った自身の両手を広げ、指の間、その下の金に目線を落とす。)
もうたくさんだ。
お前の賭け事は愚かだよ。
見返りを求めてそのたびに裏切られてみろ。
希望なんかじゃない、絶望しかやってこないんだ。
妹を救いたいなら勝手にすればいい。
それがどんなに細い糸の先にあるものでもな。
おれはごめんさ。より確実なのは魔女を根絶やしにすること。
これは復讐でもない…正義なんだよ。
宗教なんて微塵も興味ない。
言っただろ? 「混乱の使者」だって。
おれは必ずこの腐った世界に革命をもたらすぜ。
最後に賭けをしよう。
お前とおれの、だ。
(黄金の上、諦念以外の感情すべてを燃やすチゼルと相対する。)
おれはもちろん全ての魔女をぶっ潰す。
そしてお前は魔女の権能に頼るために邂逅する。
妹を救いたきゃおれを止めてみろ。
そして最後に、この首を取れ。
(手で銃を形作りこめかみに当てる。
ほどけた指の間で力なく笑った。)
……名前はないと言ったな。
生まれてきた意味がないなんて可哀想だろ?
だからおれはたった今、この世に証を残す。
始まりさ。
おれはカオスだ。
…初めましてだなぁ、チゼルの旦那。