一章
放課後の教室。
窓からは夕日が差し込み、反射し、室内をオレンジ色に染める。
そんな中響くのはカリカリ、とシャーペンで文字を綴る音。
と、外から聞こえる部活動の掛け声。
私、芹沢明希(せりざわ あき)はオレンジの校庭を眺める。
そこにはサッカー部や陸上部、野球部などが汗を流している姿。
そんな彼らを眺めながらふと思う。
好きな人が出来たら、どんな感じなんだろう、と。
中学二年生の私には、今まで好きな人ができたことがない。
彼氏がいたことは何回かあるけど
別に好きだったわけじゃなくて、告白されて断りづらかったから付き合っただけで
結局半年も持たずに別れた。
そんな恋愛と呼べないような恋愛をしてきた私だから、
多分これから先も同じように。
のらりくらりとした訳のわからない恋愛をしていくんだろう。
……コイツと同じように。
「…ふわぁぁ、週番めんどくせー。ねみー。部活行きてぇ」
目の前で豪快に大あくびを決めながら、
私と同じように校庭を見やる男の名前は浦田蓮(うらた れん)。
中学一年生になった瞬間に仲良くなって、
今じゃすっかり大親友な男。
コイツも自称初恋がまだな人種。
「浦田、私だってそうだよ。
でも毎週誰かがやってるんだよ?
今週が自分の番なだけじゃん」
週番の反省欄を書き終わった浦田は、
日誌を私の方に向けてだらーっと机に突っ伏す。
こんなのがモテるんだから、不思議な世の中だ。
週番は日誌を二人共が書き終わるまで原則として帰れない。
だから浦田は私が書き終わるまで待っていなければいけない。
そう思うと申し訳なくて、
ペンを進めるスピードが嫌でも早くなる。
そんな私を見て、浦田がふっと笑う。
その音、声に反応して顔を上げると、そこには笑顔の浦田がいた。
「そんな急がなくていいから。字、汚くなってるぞ」
「一言多いわ、馬鹿」
優しいんだか、意地悪なんだか。
わからない男だ。