序章・1話
渡り鳥――。
それを聞いて連想させるのは、食料、環境、繁殖などに応じ、定期的に移動する鳥だ。
けれど、この言葉にはもう一つの意味がある。
――放浪し、定住地を持たぬ人々。――
俗では放浪者や流れ者、渡り者というのだろう。
中には《ホームレス》と呼ぶ者も、いるかもしれないが。
けれどそれは違う。
彼らは翼を持っている。
籠の外に放たれたとき、大きく翔(かけ)るための翼を。
彼らは生まれながらの、気高き渡り鳥。
いつもの街並み。
足早な人の影。追い抜き追い抜かれ、不規則に歩いていく。
その中に異様な影が二つあった。
誰もが一目見ると振り返る。二目見れば戸惑い、三目見れば顔を伏せた。
汚い、変わってる、《ホームレス》、恐い。
そんな声が、どこからかか細く聞こえてくる。
果たして本人は気付いているのか、気付いていないのか。
ぼんやりと少女はそれを遠目から高みの見物をしていた。
特に用事もなく、ただ家に帰りたくなかったので丁度通りがかった見世物をみていた。
もともと想像力が豊かな所為か、もしかしたら彼らは異次元から来たのではないか。
どこかの剣士で戦の最中に…なんて空想を膨らませる。
――そのとき彼女は、その考えが実は良い線をいったもので、
彼らにもっと空想めいたことを聞かされるとは思っても見なかった。
ましてや、彼らと強いつながりを持つなど思ってもみないことだった。
「おい、お前。ちょいといいか?」
少女が適当に携帯に指を打ち付け、画面に囚われていると頭上から声がした。
ナンパならもう少し上手く出来ないものであろうかと視線を上げると、
「・・・・・・っ!?」
声にならぬ悲鳴を上げた。
その訳というのも、先程の見世物の主役が目の前にいたからだ。
何色と呼ぶのが相応しいのだろうか。
色素の薄い髪。金髪と呼ぶにはあまりにくすんでいて、黄土色と呼ぶにはあまりに光沢があった。
それに加え、こめかみから頬にかけた目の下辺りには緑で鳥のような刺青まである。
極めつけは瞳(め)だ。
何もかもを飲み込んでしまいそうな漆黒。
けれど、どこか何もかもを見透かしてしまうような清澄さがあった。
「聞いとるんだかなぁ。」
「・・・何?」
変わった方言だと思いながら少女は返した。
もしかしたら大荷物も抱えているし、どこか田舎のほうから上京してきているのかもしれない。
「実はこの辺りで宿を探していてな。どこか知らんか」
「・・・宿?」
夕方、予約もなしに。
とは思ったものの、帰り道に売れてないホテルがあったのを思い出す。
「遠くても良いんだったら」
すると彼らは構わないと答え、少女はその者らを連れ歩き出す。
――――そんな些細なことが、彼らの出逢いだった。