窓辺の席でついた溜息は、吹きこんでくる柔らかい風がさらって行ってしまった。
私は騒がしい教室の空気から逃れたくて、ふらりと席から立ち上がった。うるさいのは嫌いだ。
私はうるさい、非日常、非現実が大嫌い。平凡が一番だ。なのに、どうしてこうも騒がしいんだろう。
と、イライラを募らせていると、肩に誰かの手が置かれたと同時に、明るい声がした。
「おぉ、今日の不機嫌さは絶好調だな、波乃!」
「……うるさい。つか、離して」
朝からキラッキラな爽やかオーラを放ちながら、私をそうからかってくるのは巳守 陽。
よく言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁のイケメン野郎。無自覚なところがより一層腹立つけど。
まぁ、苛立ちなんて無駄な事を考えるのはやめにしよう。それより、気になったことを聞いてみることにする。
「巳守、キーは?」
「今日も置いてきた! あいつ準備遅いんだよ。毎回言ってるだろ?」
「ふーん……」
まぁ、私には関係ない。余計な事を考えるのは面倒なだけだ。
そのまま図書室に向かおうと巳守を押しのけると、巳守は不満そうにこっちを見た。
「なんだよー、愛想悪い奴―」
「それを一番理解してるのは巳守でしょ」
「まぁ、そうだけー……」
「お、おはよう波乃、陽!」
会話に割り込んできたのは、さきほど言っていた「キー」だ。
キーこと三島希音は、よほど急いできたのだろう、息切れをしている。
「おはよう」
「おー、希音おつー」
「おつーじゃないよ! なんで置いていくの!」
「希音が遅いからだろ〜?」
「うっ……。ごめんなさい」
何度見ただろう、キーが巳守に謝っているところ。今思えば、毎朝繰り返されているような気がする。
……まぁ、これも私の平凡な日常の中の一つなんだけどね。