[第二和。 地域密着型天狗]
視界良好、風も心地好く、やっぱり空を飛ぶのは爽快ですねー。
「まあ、それはいいんですけど……うーん」
あいつはどこですかねー。
どうせこの辺りの人里なんでしょうけど……
ほら! ほら居た! やっぱり居ましたよ。
人間のおっさんにまじった白い狼の頭が。
あーあー、畑仕事なんかして……
* * * * *
私は下等な天狗だ。
いや、天狗と呼べるかどうかも危ういのだ。
人間相手に働いて、上の方々の使うお金を稼ぐ、そんな存在なんだ。
ああ、額を拭っても、どこをどう拭っても泥が付く。
こんな姿を見られたら、あのお方に嘲笑われることだろうな……
しかし。
「いやぁ、ありがとなあ柳田さん!」
「下手な若い衆より助かるわあ」
この方々は同じ、泥だらけの顔で笑ってくれる。
「いや、皆さんに比べたらまだまだであります。」
「いやーいい筋してるよ? なんなら今の仕事がクビになったら、ウチに養子に来るといい!」
でも笑えない冗談を言うのだけは止めてほしいのであります。
「あっ、今日の分のお駄賃ねこれ」
「おお、ありがとうございます!」
「ほんじゃ、ちょっと休んで行くといいべ」
「いんやダメだろー、ほら……」
「?」
彼がクックッと笑って指す空には、あの方がいらっしゃった。
髪をいじりながら、不満げに。
いやいや何故不満げなんだ、貴方がとっとと飛んで行ってしまうから、私を置いて行ってしまったんじゃないか。
探してみたは良いものの、みつからないんじゃあ意味がない!
そうこうしている内に仕事の時間になって仕事場に急いで行って働いて泥だらけになって……
……と、よっぽど言いたくとも、彼女は年下でも目上なのであります。
例え理不尽でも、のたれ死にたくなければ謝罪が第一であります。
* * * * *
「私を探してたんじゃなくて、畑仕事ですか? 柳田」
「ハッ。 ……申し訳も御座いません」
民家の屋根に腰掛けて見下ろす先には、私よりも下の位の白狼天狗。
人間さんは木の葉天狗とも名付けてましたね。
しっかし本当、態度良く伏せてますよねぇ。
位の割に品はある分、土汚れが残念です。
「白」狼天狗とはなんだったのか。
「まあ……だいたい想像は付きますけどねえ
置いてったのは悪かったですけど、速く飛べる努力とかしてないんですかぁー」
「は、はあ」
我ながらむちゃくちゃですかな。
柳田は狼の頭で体格も大きいけど、翼は並の大きさ。
重い体で私程の速さで飛べる筈もない。
それを知ってて言うんですけどね、やっぱ面白いもんで。
この、歯を噛み締めて耳を垂れてる様が。
「ま、良いでしょう。 私も楽しかったですしね
帰りましょう」
「ハッ。 り、了解であります」
私が屋根から地に降りると、柳田は少し後方になるように横を歩く。
うんうん、それで宜しい。
「しっかしー、仮にも山を統べる天狗ともあろうものが、そんなに泥やら土やら付けちゃって……」
「わ、私が山を統べる妖怪だなんてとんでもない!
それは神格化され、崇め奉られる北山紅葉坊の頭領……貴方様のご両親のような方々に与えられし称号です
私のような者には、とても」
「……」
謙虚なのか裏があるのか、よくわからないんですから、もう。
「そんなしょんぼりすんじゃないですよ
人間にとって最も身近で親しみやすいのは、柳田みたいな妖怪なんですから
お前はきっと飛ぶよりも、腕っぷしの方が有るんでしょうね」
「それは端くれとはいえ、天狗としては複雑なのですが……私、誉めて頂いてるのでしょうか?」
「さあ? とりあえず、照れるか怯えるか戸惑うかどれかにしなさい」
「申し訳ございません」
「うん、素直で宜しい。」
父もいい拾い物をしましたねー、お出掛けには悪くない護衛です。
目が良いし、鼻も良いし……笛で来るしな。
こうやって頭を撫でてやるとモフモフしてますし、なんか嬉しそうですし。
「そういえば……恐れながら、ひとつお聞きして宜しいでしょうか?」
「許可します」
「では、お聞きします
私が置いてかれ………いや、居ない事にお気づきでなかったのですか?」
「何馬鹿いってんですか、気付いてましたっての。」
「ですよね……」
『まあいっか、と思われたんだろうなあ……』
って思ってるんでしょうねー、この顔は。