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2:  薺。 ◆Neko Neko:2015/03/02(月) 12:47 ID:RPc

   古い屋敷にでもありそうな薄茶色の重厚な扉を押し開く。
 「失礼します。」
  ギィ、と木が軋む音がし、次に男性の声が聞こえてくる。
 「よくこれたなぁ壱岐緋音。」
  からかうようなその台詞を無視し、その声の主、前方の椅子に腰かける男の前に歩み寄る。
 それを一瞥してから男はゆっくり口を開いた。
 「俺は知っての通り、我が校の理事長、中浜仙杞だ」
 「それくらい知らないわけないだろう、私をからかうな」
 不機嫌な様子で呟くと、中浜はニヤッと黒い笑みを浮かべた。この男は私を弄ることを楽しんでいるようで、そう思うと腹が立つ。
 「はやく要件を言え豚」
  中浜とはあまり話したくないので口早にそう言う。だが、中浜は暢気そうに欠伸をして「まぁ待て」と私を制した。その態度も腹が立つ。なぜこいつは私を苛立たせるのか。
  長い欠伸を終えた中浜は、座り心地が悪かったのか椅子に座り直して私の顔を見た。
 「なんだよ気持ち悪い」と私が言おうとする刹那、中浜は口を開いた。
 「今回は実際に暗殺を行ってもらおうと思う」
  中浜はそう告げると固まった私を見て笑いを堪えていた。
 私が漸く正気を取り戻すと中浜はニヤニヤしながら再び口を開いた。
 「無論久留米先生に教わったろうが、目標は標的の暗殺だ。他の参加者以外に知られれば恐らく命はない」
  分かるな、と付け足す中浜の顔からは気持ち悪さと少々の真剣味が感じられ、恐らく今回は本当だろうと私は悟った。
 はい、と私が返事をすると、中浜は表情を変えずに話を続けた。
 「今回の標的は___聖王学園2年の『花蕗美和』だ」
  聖王学園といえば女子校として有名な大学附属高校だ。至って普通な学校のはずだが、と私が考えていると、それを察したのか中浜は言った。
 「お前は余計なことは考えなくていい、ただ任務を実行するだけ」
  常識だから覚えとけよ、と呟く中浜だったが、急に「そういえば」と言えば先程とは一転、真剣な面持ちで此方をじっと見つめた。
 「今回は参加者のなかに『ジャック』も紛れ込んでいるらしいから、気を付けろ」
  ジャックというのは、ベテラン中のベテランを指す言葉で、ジャックと呼ばれる者たちは標的は絶対逃がさないと有名だ。
 はい、と返事をしつつも、私はジャックとの邂逅を楽しみにしていた。ジャックを暗殺すれば自分も相当な実力者だと思えるからだ。
  初の暗殺任務に緊張と興奮を覚えた私だったが、それがどれほど安易で愚かだったか思い知るのはまだ先の話。


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