_____ああ、世界とは何故にこうも酷なのか。
ーーー
「……っ!
す、すすっき、好きです!
好きですから、えー、あーっと、付き合って下さい!わ、私と!」
廊下に響き渡るのは、高くて、鈴のなるような声。
騒がしかったはずの廊下が一瞬にして静まり返り………日常ではなかなか耳にできない四文字に、皆が一斉に、慌てて振り返る。
見るとそこには色白・二重・サラサラの髪のまるで野に咲ける白百合をそのまま人にしたような、愛らしく美しい少女が。頬をほんのり薄ピンク色に染めて立っている。
そしてその丁度手前には黒髪の……勿論こんな美少女に告白されるのだから、それ相応の美青年。一瞬でマダムの餌食になりそうだ。
……この様子を見ていた者共は口を揃えてこういうだろう
「これは普通にOKだろう」
と。……あ、いやこんな空気だから言うのは心の中で、だが。
なんせ、美女に美男だ。
これは……とても絵になるな、と。
緊迫した表情で彼女達を見つめる彼等________は置いといて、さて、この告白した少女に視点を変えてみようか。
彼女は今注目されていることも気付かないくらい、緊張していた。
ずっとずっと好きだった……憧れの人に、漸く思いを告げることができたのだから。
とは言っても、当の相手の返答がまだこない。
告白しても、相手の気持ちを知ることができなければ意味はない。
____フられてもいい。でもどうか、 羽白君が私の事をどう思ってるかを知るぐらいは……
キュッと目を瞑り、また開ける。これを繰り返す。
これをすれば、きっと恋は叶う_____訳ではないが、今の彼女には少しでも気休めになるものであればなんでも良かった。
___落ち着いて、落ち着いて私。大丈夫。きっと大丈夫…
………上手くいけば、羽白君と付き合えるんだよね……
手をつないだり、デートしたり………きき、き、キスとかも……する、かな。
真っ赤になっていく顔を抑えつつも、妄想を続ける彼女。
ふと、羽白少年の返答があまりにも遅すぎる事に気が付いた。
___もう、1分、2分……くらいは経ってる?よね?
恐る、恐る、と。
彼女の、長い睫毛に縁取られた大きな瞳が上に向かう。
それに合わせて顔も上へ……
少女が、しっかりと羽白少年の顔を見据えた時。
ちらりと彼の目線が右側の……丁度、四組の教室の中にいるものを捉えた。
それはほんの、一瞬。
でも、すぐ彼女を見つめ直すと、こう言った。
「…ごめん、無理だ。」