序章
村が、燃えている。
少年と、男がその場に立っていた。
少年は明るい茶色の髪を、頭の上で一つにしばっている。日本人には見えない。武士の子が着るような服装だ。歳は九歳くらい。じっとその様子を見ていた。
男の方は、こちらも武士の服装をしている。歳は三十後半ほど。静かに目を閉じていた。
炎がうなり声をあげた。
「父様。この村は、何故燃えているのですか?」
やがて、少年が口を開いた。
「この村の人達は、キリシタンだった。年貢を、納められなくなったので、このような仕打ちを受けたのだ。…可哀想に…」
男は目を閉じたまま、悲しそうに答えてやった。
「キリシタンは、いけない事なのですか、父様。」
少年は男の顔を見上げてたずねた。
男は目をゆっくり開いて言った。
「…何が悪いというのだ。勝家よ…。
時貞。お前は、正しい人間になれよ。デウス様は、いつでも我らを見ていらっしゃる…。」
男は、少年の頭をくしゃっとなでてやった。
「はい!父様。」
二人は、首から銀の十字架をさげていた。