T章
人影が疎らな夕方の図書室の一角。
オレンジ色の暑い光がカーテンを透して差し込む。
「レライエ……ソロモン72柱の1柱……地獄の辞典に載っていないのね」
ギリシャ神話などの本が並んだ棚の机で一人静かに読書をしていた。
机には本が重ねられ、山積みになっている。
古く汚れて黄ばんだそのページを食い入る様に見つめた。
何故そのページに執着したのか、自分でも分からない。
「おい、帰るぞ」
背後から低い男性の声がしたかと思うと、見覚えのある姿だった。
「あ……或斗君!」
或斗はポケットに手を突っ込み、気だるそうに言った。
「今度は何調べてんだ?お前いっつも部活終わったらここに来るよなぁ」
「だって……或斗君こそ、部活終わったら先生に説教されてるじゃん」
或斗は成績は良いが、授業中良くふざけるので説教も日常茶飯事だ。
「俺が説教終わるの待ってた?」
或斗は申し訳なさそうに甘楽から顔を背けながら言った。
「別に……」
甘楽はしれっとして答えた。
これは本当のことだ。ただ図書館で本を読みたかっただけである。
「まぁいいや、さっさと帰ろうぜー、俺腹減ったぁー」
或斗はサッカー部所属で結構外周とかもするから当然だろう。
甘楽は美術部所属なので大して疲れたりはしない。
「もう購買閉まってるし……帰りにコンビニ寄って行く?」
「あぁそうするー」
2人はいつも通り帰路についた。