1 噂話
人が入ってくる気配でアメリは目を覚ました。
夜も開けた時刻で、小鳥のさえずる声が朝が来たという事を告げている。
宿の若女将が入って来て、正座をしているのがはっきりと見えた。
音がしないように正座をしたままこちらに寄って来た若女将からは、おいしそうな匂いが漂って来た。
幼い頃には嗅ぐ事の無かった異国の地の匂いだった。
「……どうかされましたか?」
アメリは、寝具から身を起こしてそう言った。
「ちょっと……噂を聞いたの……」
「それをなぜ私に……?」
そう言いながら、アメリは若女将と同じように正座をした。
「貴方なら……救えると思ったからよ」
若女将は、躊躇気味にもをう答えた。
「よく、聞いてて頂戴?
この国、第二皇子が居るじゃない?その第二皇子が帝に暗殺を仕掛けられているらしいのよ」
「え……?」
アメリは、よく分からないというような表情で若女将を見つめた。
若女将もそれを察したのか詳しく語り始めた。
「この国の第二皇子のコラン様が、帝に暗殺を仕掛けられているらしいのよ。理由はさっぱりなんだけどね。」
アメリは、若女将の話を一度も目を離さず聞いていた。
「そうなんですか……」
アメリは、真剣に思考を巡らせていた。
それに気付いた若女将は、あくまでも噂だからと言って、部屋を出て行ってしまった。
真剣に思考を巡らせていたアメリも考えるのをやめ、着替えて荷物を持つと、宿の階段を下へと下りていった。