★☆第1話★☆
遡ること、1時間前……
「菊花、高校生活にはもう馴れたか」
「うん」
「お友達はちゃんと出来たの?」
「まぁ」
私はお母さんとお父さんと、リビングで食事をしていた。
……そう、ここまでは普通。
ごくごく普通の食事だったんだけど……
「ういしょっと……」
食卓に並べられた料理を口に運びながら、テレビのリモコンに手を伸ばした私。
……この行動がマズかった。
電源が入ると同時に画面に映し出されたのは、イギリスの宮殿。
宝石をちりばめた光り輝く外観は、まるでどこかのお城のよう。
テレビ越しでも伝わるその魅力に、私を含め、家族全員が浸っていた。
と、その時。
「……行こう」
お父さんの呟きが耳に届いた。
テレビから視線を外し、お父さんを見ると、拳を握り締め、何やら下を向いて震えている。
……父よ、どうした。
尋ねる前に、お父さんはパッと顔を上げ、真剣な顔つきでお母さんを見据えた。
そして一言。
「母さん、イギリスへ行こう」
……で、現在に至ると。
「……」
うん。
とりあえず、目の前にいるこの馬鹿を海の底に沈めようか。
それなら、物理的に頭も冷やせるし。
うん、最高じゃん。最高。
事も丸く収まるし。
海最高!フゥー!
……なんて、完全な現実逃避をしていると、
「そうね、行きましょうか」
「…………は?」
まさかの、まさかの母が。
首を縦に振った。
女だって言うのに、口をポカンと開ける私。
そんな私なんかお構いなしに、2人はあれやこれや決めていく。
えーと……
この状況は一体……?
理解するのに頭をフル回転させていると、話し終えた母がこちらに笑顔で口を開いた。
「菊花は、1人でお留守番じゃ危ないから、私達がイギリスに行っている間、広瀬くんの家に同居させてもらいなさい」
……What?
今、この人、同居とか言わなかった?
しかも、広瀬って……
聞き間違い?
聞き間違いだよね?ね?ね?
「おぉ、それがいい!広瀬さん家なら安心して頼めるしな」
ぐほぉっ!
聞き間違いじゃなかった……!
聞き間違いであってほしかったのに……!
てか、可愛い可愛い1人娘を置いて行くのか、コイツらは。
薄情者め。
って、その前に。
「2人がイギリス行こうが南極行こうがどこでもいいけど……」
絶対に……
絶っっっっ対にっ!!
「広瀬幸(ひろせみゆき)の家は嫌だっ!!」
……それには、1つの理由があった。