「花音ちゃん、今日もかわいいわねぇ」
そんな母親の声に、あたしは少し顔をしかめた。
別に、褒めていることが不快なわけじゃない。
母親が子供をほめるのは当たり前の事だろうし。
あたしが不快に感じているのは、朝っぱらから目の前で妹の髪をいじる母親と、それにデレデレの妹の表情。
あたしは無言で朝ご飯を食べ終わると、鞄をつかんで学校へと向かった。
「行ってきます……」
すると、それに気付いた妹、花音が慌てて追いかけてくる。
「あっ……待って!」
聞こえないふりをして速足で通学路を歩くあたし。
「待って、早いよ!」
もうちょっとで駅に着くところだったのに……!
そう思いながら腕にすがりつく花音を見る。
双子の妹、花音はとってもかわいい女の子。
でも、成績は悪く、運動もできないし忘れ物は多い。
それなのになぜか男子にはモテる。
「はぁ、はぁ……。もう、何で置いていくの!?」
まぁ、一卵性の双子だから、顔は同じなんだけれど……。
あたしはここらではかなりレベルの高い私立の進学校に通っていて、その中でも成績上位組だけがはいれる特進化クラスだし。
「ねぇ、聞いてる?」
でも、やっぱり人間見た目なのかな?
あたしは花音と違って男運無いからなぁ……。
「ねぇってば!」
「あー、もう、さっきからうるさいな!何?」
たったそれだけで潤む花音の瞳。
「酷い……。花音は、一緒に居たいだけなのにぃ……」
ヤバイ、ヤバイです。
はい、こんな時は……。
逃げるに限るよね!!
後ろから聞こえる鳴き声に耳をふさぎながらあたしは駅まで全力疾走で駆け抜ける。
改札を乱暴にとおり、電車に乗る。
ガタンガタンと心地よい揺れに包まれながら、あたしは窓の外を眺めた。
あたしの名前は、小笠原蓮。
現在高校2年生。
あたしの最近の悩みは、『妹』。
さっきのやり取りからわかるように、母親は花音を溺愛していて、花音は容量が良い。
それとは対照的に、あたしは成績は良いが、要領が悪く、友達も少ない。
ちなみに、父さんは学校の先生をしていて、出張がすごく多い。
だから、年に2,3回くらいしか家に帰らない。
あたしは、どちらかと言えば父さんになのかな?
まぁ、だとしたら……嬉しいかな?