社長室を出ると、写真と一緒に添えられていた資料に目を通した。
電気一つ無い廊下で、窓からの月明かりだけが頼りだ。
確かに、新聞には強盗のことが書かれてあるが、新聞には『少女』としか表記されていない。
多分、心鈴の事を配慮して名前は伏せてあるのだろう。
新聞ともう一枚あったのが、美澄心鈴のプロフィールをまとめた資料だった。
「美澄心鈴……ふーん……叶咲高校1年サバイバルゲーム部所属か。まぁ、でもサバイバルゲーム部と言っても、所詮拳銃遊び。実弾は扱えねーだろ」
レクトは廊下で独り言を呟いていた。
「はぁーっ……きょーも疲れたぁ」
一方その頃、心鈴はベッドにダイブし、愛用のイルカ抱き枕にアタックしていた。
特に可愛いわけでもなく、冴えない面をしているのに何故か愛着が沸いて、かれこれ3年も大事にしているぬいぐるみだ。
「なによぅ……朝比奈先輩、あんなに怒らなくったっていいのにぃ」
今日、朝比奈に叱責されてからというものの、気分が落ち込んでいた。
自分も決して練習をサボったりしている訳でもないし、寧ろ家で自主練もしているのに上達しない。
ちゃんと狙っているのに、弾が思い通りに動いてくれない。
相棒銃のコンバットマグナムを見つめながら、ため息をつく。
5年前、両親が一番最初にプレゼントしてくれたエアガンだ。
「ま、いーや……明日も明後日も練習頑張ればきっと……うまく……」
段々目を開けていられなくなり、そのまま意識を手放した。
ーー翌日。
「わっ、もしかして昨日寝落ちしちゃったぁっ!?てか、もー7時20分ッ!?」
時計の針は7と4を指していて、心鈴は焦った。
「やばいやばい、ち、遅刻しちゃうーっ!あの先生怖いんだよおぉー!おかーさん、送ってぇ!」
「今日は仕事なのー。ちゃんと起こしたわよ?あ、朝食は食べなさいよー」
階段下でお母さんが呆れながら言っている。
超速で着替えると、パンを無理矢理喉に詰め込んで水で流し込み、急いで家を出た。