別視点書きます
「もしもし___。ああ、どうした?......成る程。勝手に処理しとけよ」
そう短く言い放ち、受話器を定位置に戻す少年。その周囲には明らかに少年より年上と思われる女性二人が、文字通りまとわりついている。だが、その様子は極めて異常で、少年に何かを乞うように必死で口を開閉させている。
麻薬_。
そんな非合法な薬物がある。或いは毒か。
少年_葉月京平は、高校三年生でありながらそんな商売を生業としていた。生業という言い方が正しいのかは不明だが、私生活の足しにしているであろうことは確かだ。
彼の周囲を取り巻く女性たちは、恐らく彼によって毒されたのだろう。先程から開閉する口からは、微かに「ください」と、何かを懇願する言葉が聞き取れる。
ふと、葉月の部屋の扉がノックされる。彼が苛立たしげに「なんだ」と尋ねると、扉越しに返ってきたのは事務的な「紅茶をお持ちしました」という声だ。
「入れ」
「失礼致します」
畏まった様子で室内に入ったメイド姿の女性は、既に見慣れているのか周囲の女性たちには目も向けず、葉月の机に持ってきた紅茶と幾つか角砂糖の入った小瓶を置いた。そして、となりにあった空の小瓶を盆に乗せると、「失礼致しました」と言って部屋をあとにしていった。
一連の行動中、ずっと無言だった葉月は女性が去ったのを確認すると、部屋の端に視線を向けて口を開いた。
「なんだ今の女。メイド服かよ。ジジイも趣味悪いよなぁ。」
その呟きを聞いてか、部屋の端からは「はぁ..」と呆れるような溜め息が発された。
「どうかしたか、空木」
「貴方も十分趣味悪いですよ。薬漬けなんて....」
部屋の端にいた、比較的体の大きい男は呟く。
空木康助____。葉月が直接雇っているガードマンで、数少ない葉月の商売を知る一人だ。元々は何処かの王手企業で働いていたが、賃金が高いという理由だけでその地位を捨て今に至る。
「趣味じゃねぇよ、商売」
「ああ、これはうっかりした」
「相変わらずだな」
はははっ、と一人愉快に笑う葉月。そして、周囲の女性たちを一瞥したのち「そうだ」と口を開いた。
「なあ空木、クロアードに『柊悠哉』って奴の依頼だしといてくれ」
「了解。それにしてもクロアードとは....。其ほどの相手なので?」
あくまで業務的な口調で訪ねる。
「まぁな。俺らに探りいれるぐらいだ、確実に消した方がいいだろ」
「成る程。分かりました」
空木はそう言い残すと、部屋をあとにした。
残った葉月は気怠そうに欠伸をすると、脳内に惨劇の未来図を描きながら、呟いた。
「ジジイを殺したら、京平って名前も捨てるかね」