春はどこか憂鬱だ。
私は高校の部活動掲示板の前でそう思いながら
部活動勧誘のチラシを眺めていた。
外に設置されているからか春風でチラシがめくれていて、
中には風で飛んだ部活動のチラシも地面にあった。
部活動が多すぎるのか、もしくは掲示板が小さいのか、
それとも用紙が大き過ぎるのか分からないくらいに
部活動掲示板は部活動勧誘のチラシで埋まっていた。
ぼんやりと眺めていると一つの部活動のチラシが目に止まった。
特に目立つという訳でもなく、他の部活と違う点は
剥がれかけているぐらいだ。
ただ紙に大きく丁寧に書いてあるその文字に目を引いた。
「『天文学部。新入部員大歓迎』
……いかにも人がいなさそう」
そう吐き捨て、私は校舎へ踵を返そうとした。
星になんて全く興味もないし湧く気もない。
すると後ろからやけに暗い声が聞こえた。
「……だってそれ、僕しかいないしね。部員」
ゆっくり私が振り向くと、後ろにいた彼は指を掲示板に向ける。
「これは、どうも……」
私がそういうと彼はどうも、とだけ返し
剥がれかけのチラシを貼り直していた。
鬱陶しそうな長い前髪に黒縁の眼鏡、
色白の肌に長い睫毛と高い鼻。
きっと彼は“勿体ない人”だ。
そう思うだけで私は口にせず、掲示板をあとにした。