「ジャージ、持ってきたよ!遅くなってごめんね」
そう言って香澄は、美彩に袋を手渡す。
「大丈夫だよ。むしろ速かったじゃん?」
そういって美彩は、笑いながらジャージを受け取る。
そして、袋から取り出し、たたんであったジャージが、ぐしゃぐしゃに突っ込まれていることに気づく。
その瞬間、美彩の顔が強張った。
「どうしたの?」
香澄が美彩の顔をのぞきこむ。
「あっ、う、ううん、なんでもない。先、行っといて。待たせちゃって、悪いから。」
美彩は必死に笑顔を作ってそういった。
「そう?じゃあ、先に講堂行っとくね。遅れないように気をつけなよ?」
香澄は不審がることもなく、心配そうにそう言い残して去って行った。
それをみて、美彩はため息を一つ。
広げたジャージ。
そこに書かれた「斎藤」の文字は、塗りつぶされていた。