2.〈今日という最悪の日を〉
「お前はなんでいつもいつも無表情なんだ!俺が何か言わなけりゃ動かねェし何なんだよ!なんでカヲリは死んじまったんだよ…。」
「…?」
何故そんなに怒るの?…お父さん。痛いよその私に叩きつけてくる手を止めて。止めて、痛いよ、部屋の中で響く肌と肌が激しくぶつけられる音。パチン、バチンと音が響くたびに肌がほんのりと赤みを増していく。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。口をぱくぱくと動かす。声が出ない。なんで声が出ない…?…あ、そうか。今、喉を潰されたのか、あの強く握りしめられた拳で。お父さん、大好きだよ。アイシテイルヨ。だから叩かないで、殴らないで、蹴らないで。私にそんな顔をしないで。
「…泣きもしないし、こんなに殴ったら泣くのが子供じゃねぇのかよ!…クソガキがっ!」
ごめんなさい、心の中で言う。今の私に言葉をお父さんに伝えるすべはなかった。父は母が亡くなってから私に対して厳しくなった。表情と心を必死に消そうとする私を止める事はしないくせに、自分の気分にそぐわない事があればすぐに私のせい。
「花、お前なんかが生まれていなければ良かっただけの話なんだよ。お前がいなければカヲリが死ぬ事は無かった!」
母はがんで死んだのに私のせい。父は私を恨んだ。そして私は私を恨んだ。父が嫌いなわけでもないし暴力を振るうのはいけない事だけれども私の心に傷を負わせる事はなかった。
「花、お前家から出るなよ。クソガキなんだからそれくらいしろよ。お前なんか死ねばいいのに。」
玄関の扉が雑に閉められる。父はパチンコに行くのだろう。そのせいで私が嘘をついてアルバイトをしなければならない。学校には行かせてもらえない。人との無駄な時間を減らすために。私の心にはもう誰も入ってこれない。
今日という最悪の日を最高に変える魔法があるなら知りたい。