1、おとぎ話『紅い霧の街』
「ねぇ、春花はおとぎ話とか信じる?」
「え…?おとぎ話…?信じてるよ!でも紅い霧の街は少し怖いお話だよね。でもそんなことあるわけ無いよね…。シンデレラみたいに王子様と結婚するなんて。」
「…!うん、そうだね。」
現在中学一年生。中学生よりも、小学生よりも前のお話。少し大人っぽい事を言ってよく脅かされるのが日課みたいになってた頃。小さいとき幼馴染の春花と話したときの記憶だ。春花は正直でまっすぐで嘘をつくのが下手で隠し事のあまりない子だ。だからこそ色々な意味で傷ついてしまう。
『紅い霧の街』この辺では有名なおとぎ話。十年に一度、この辺り一帯の街や村が夜、空高くに登っている月に照らされる。金色の月ではなく、真っ紅な月。その光が白い霧を照らして紅い霧の完成。初めのうちは、何も気にせずに子供たちは外で遊び、母親たちは買い物や洗濯をしていた。…そんな中、その紅い霧の中に一つの人影あり。その人影はゆらゆらと外にいる子供達に近づき、一人と残さずに子供の命を喰らったそうだ。それだけの話なのだ。お話の中では子供を喰らった人影の正体なんて当然書いてあるわけでもない。信じる者は少ないのだ。何せ、詳しくなんて書いていないからだ。詳しく書いたりなんかしたらそれこそおとぎ話なんかではなくなってしまう。桃太郎だって、なぜ桃の中に人間が入っているの?何て考えたらどんなお話でもきりがない。おとぎ話も所詮おとぎ話。空想上の存在の人物が空想上の世界で物語を作る、それだけの物。その霧の中から出てきた人影は、後々霧の中から出てくる霧おばけと呼ばれるようになった。霧おばけに出会った子供は命を喰われる。いのちとりおばけとも呼ばれるそうだ。そんなおばけさんに出会えば命を取られて死ぬ。身体から強引に魂を引き抜くという事は激痛が走るより辛い痛みがあるそうだ。二つ、そうならない方法がある。
一つは撃退する。おばけを撃退するのだ。無理だ。尋常では無いくらい無理だ。二つ目は、おばけと約束をかわすこと。今、命を取らない代わりに私の右目を奪っていいよ。そんな約束をした子供がいたそうだ。なんて勇敢な子供。しかも女の子。女の子は約束を大人になるにつれて忘れてしまった。そのあとの事は何も書かれていない。そんなお話、信じているのは私とあの子とあいつくらいしかいないのだろう。