「よくぞいらっしゃいました、勇者様」
まるで物語にでも出て来そうな、甲冑を身に纏った青年が恭しく腰を折る。
齢24、5と言ったところだろうか。顔立ちも、まあまあ整っている。____私達の見知った、アジア系のものではないけれど。
頭を上げた青年の右手が差し出された先にいるのは、私_____
「ふ、ふぇえ?なんで僕なのぉ?」
ではなく、やはり澤崎玲奈。
いや、なんとなく予想は付いていたがここまで世界が彼女に味方していると……辛い。流石に辛い。
さながら彼女は運命に愛された女神の子、私は憎悪と嫌悪に彩られた魔物の醜子と言うところか。うん。自分で言いながらなんか悲しくなってきた。
……なんて現実逃避している場合じゃないんだ。なんせ、状況が状況なのだから。
「ええ、勇者様。貴方様こそこの世界に光と栄光をもたらす真の先導者。運命に愛された女神の子。_____その御顔を一目見て分かった。きっと貴方様である、と。」
「ふぇえ……よく分かんないよ……」
澤崎さんが困った様に眉を下げれば、それこそゴキブリの様に男どもがワラワラと集る。
あ、ていうか甲冑男、私が考えたのと同じこと言ってる!やっぱり彼女の強運は神様の小細工だったのか。うむ、納得納得。
……って、現実逃避してる場合じゃ(二回目)
↓以下、ゴッキーズの台詞。
「玲奈、怖がることはないよ。僕たちがついてるから。」
「そうだよ玲奈ちゃん。君は一人じゃない。」
「一人で抱え込もうとするのはお前の悪い癖だ。少しは俺達を頼れ」
「君の苦しんでいる顔なんか見たくない……側にいるから、せめて笑っていてくれ」
「……ふえっ……みんな、ありがとぉ……」
………甘ぇ甘ぇ!!砂糖ゲロリそうなぐらい甘ぇわ!!
現在進行形で繰り広げられる愛の(笑)告白シーンを苦笑しつつ鑑賞していると、ふと一人の目線がギロリとこちらに向いた。
「何を笑っている。玲奈を陥れたこの悪女が。」
げ、なんで気付くんだ。
そこで一生激甘してろよ、と思ったがそうもいかず。一人の目線が二人、三人と増え、とうとう全員の目線がこちらを向いた。それはまるで蜘蛛に見つめられているような、薄気味の悪い悪寒だ。痛い。非常に痛い。
「うわー……こんな状況でよく笑っていられるね。玲奈を傷つけといてなに?今更嫉妬?」
「女狐っぷりもそこまでにしとけ」
「マジいい加減にして」
……これで分かったと思うけど、私、なんか冤罪かけられてみんなの嫌われ者になっちゃったみたいなの★
簡単に言うと、『クラスの美少女に嫉妬して彼女をいじめる大して可愛くもない性悪女と、嫌がらせに耐えながらも健気に前を向くその美少女』みたいな。ちなみに美少女が澤崎さんで大して可愛くもない性悪女が私ね。
そして、尚も続けられる数々の罵倒の言葉に、私の心は……ボロボロどころか擦り傷ひとつなく艶やかに輝いておりますがなにか?
まず現実味もクソもねえような出鱈目話を証拠として突きつけられて、ハイそうですそれ私ですって認めるアホが何処にいるんだよ。
あんなど田舎のビルの一つもない様な場所でどうやったら地上500メートルより高い場所から人を突き落とせるんだよ。そして澤崎さんはなんで生きてるんだよ。どうやったら全治2週間で済むんだよ。怖いよ。
てかなんで17歳で一億円近くの大金を所持してんの澤崎さん。それこそ犯罪級だよ。
「先生、少しいいですか?」
かれこれ一時間前、帰りの会がちょうど始まろうとしていた時、断罪劇は始まった。
啖呵を切ったのは生徒会長兼学級委員長のイケメン・雨蛹 亮太。黒ぶちの眼鏡を中指でクイっと上げる仕草をしながら、ゆっくりと教壇の前に出た。
彼の話によると、どうやらこのクラスでいじめが起きていたらしく、加害者は被害者である澤崎さんに執拗な嫌がらせを繰り返していたらしい。誰そいつ、と思ったら私だった。急に名前呼ばれてめっちゃびびったわ。