2年生の教室の場所は2階。
階段をダダダッとかけ上がり、2-5のプレートがかかるドアの前で深呼吸。
そのまま、静かにドアを開けてコツコツと教室へと入っていく。
窓際の後ろから2番目の席に腰をかけると、私はため息を1つ溢しながら頬杖をつく。
「…白浜、どうして遅刻した?」
クラスメートに向けられる視線の中、そう担任に問いかけられた。
「…いえ、別に…。」
特に深くは理由を言わない。
それでも私が許されてしまうのは、
『クールで物静か』だから。
実際に、私がそんなキャラを求めていたわけじゃない。
ただ、奏君が大好きで現実の人間なんて興味がわかないから、塩対応で毎日を過ごしてた…それだけなの。
でも、案外このキャラは良い事ばかり。
奏君の事で頭がいっぱいになっている時、受け答えをしなくても『クールだから』と済まされる。
そんな事がいくつもある。
どんな時でも重宝するこのキャラを貫けば、高校生活なんてあっという間に終われるんだろうな。
ぼー、っと空を眺めていると、周りの騒がしさが途端に静かになる。
あー…、1時間目が始まったのかな。
私は何も言わずにガタッと机を立つと、ふらっと教室を出ていく。
そんな私の様子を見ても、誰も注意すらしない。
成績さえ良ければ、注意はされない。
いつでも奏君に浸れるように、成績はいつも上位。
少しずつ暑くなってるのを感じる6月の今、テストは来月。
奏君のためなら絶対頑張れるや、と思いながら屋上のドアをギィ…と押して開ける。
今日も眩しい太陽が照りつける屋上の唯一の日陰である物陰に隠れ、ゲーム機をそっと取り出す。
『バーカ、こっち見んなよ。は、恥ずかしいだろ…?』
うん、やっぱり。
「やっぱり、奏君は最高だなぁ…」
普段学校では口に出せない事だけど、この場所には誰も来る事がないし、今は授業中。
絶対に、大丈夫な場所。
…そう余裕でいた私は、背後で微笑む彼に気づいていなかった。
「かっこいい〜、何でこんなにかっこいいんだろう!」
「…その人、僕とよく似てるね。」
背後から甘く呟かれたその言葉に、私はただ固まることしかできなかった。
ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り向いてそこにいたのは…
「な、んで…、奏君が…?」
奏君にそっくりな、いわゆるイケメンな男子が微笑んでいた。
「僕は奏君じゃないよ、美都ちゃん。」
私の名前を呼ばれ、心臓がどくんと波打つ。
彼は妖しげに口角をあげ、私の耳元へと唇を寄せて言う。
「真鍋 新。覚えてね、美都ちゃん。
…奏君を大好きな、美都ちゃん。」
甘く、少し掠れた声で言われると、背筋がぞくっとする。
それと同時に、とてつもない不安に襲われる。
どうしよう、どうしよう。
…他人にバレてしまった。
私は勢い良く振り向くと、彼を見つめながら真剣に、
「お願い、何でもするから。
これだけは、皆に言わないで…!」
必死に、必死に投げ掛ける。
こんな変な趣味、他の人にバレたら…!
彼は目を丸くしてから、ゆっくりと…、ふわり、微笑んでこう言った。
「良いよ。言わないであげるね。
その代わり…、 」
彼に言われた言葉は、1週間パシリな。…とか、そんな言葉じゃない。
”奏君に飽きるくらい、僕と一緒にいてよ”
ろくに人間と接してこなかった私には分からない。
…彼が、何を考えているのか…。