彼女は公園

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3:佐那間◆qs:2016/04/04(月) 21:17 ID:2Mw

暗闇が彼女を覆う。

彼女はいつの間にか暑さを忘れただ足を動かすだけの意識になっていた。しばらく街灯のない木々の道が続く。
不意に彼女の足はコンクリートを踏んだ。
顔を上げると、彼女の目は茶色い壁に支配された。煉瓦の塀。彼女は眼球をギョロと右に動かす。煉瓦の塀。
彼女は左に体を翻す。街灯を連れた舗装道路。果ては無さそうに見える。
彼女は微かに頬を緩めながら前に進んだ。ちゃぽんちゃぽんとひっきりなしに缶が鳴る。
いつの間にか右手にあった煉瓦が途切れている。振り替えると煉瓦の壁は随分遠くにある。そのまま上に首を振るとそこには仰々しい館があった。彼女にとってそれは恐ろしいものにも思えたしとてもコミカルなものにも思えた。
彼女が首をゆっくり戻すと視界にちらつく緑に気づいた。芝生。野原。街灯の灯り。公園。
ゆっくり、その中央に目をやる。何もない。暗い緑。さほど広くはない緑。
駆け出して一人遊ぼうかとも考えた。しかし実際に彼女の足が動かされることはなかった。
何かが少しずつ、彼女の目の中央に描かれ出した。徐々に出現する。複数が蠢きながらガリガリと。

彼女の全ては動くことを許されなかった。


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