行こうよ、あやかし商店街!

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3:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/24(日) 10:45 ID:3uI

留美子は店の隅の、三畳ある畳の上に座る。
その畳の上にあるテーブルに、人数分のお茶と数種類のお菓子が置かれる。

「自己紹介をしようか。僕は店番さん。店番さんって言うのはあだ名だね。本名は個人情報のため伏せておくよ」

最近、世間は個人情報個人情報とうるさいからね、と留美子は思った。
留美子よ、どうして君はそこまで頭が足りないのだ。

「俺は旦那な。どこの誰の旦那でもないけどな。これもあだ名だな。個人情報だから、本名はコイツと同じく伏せとく」

旦那ってどこからきたんだろうか。
留美子はチョコを頬張りながら思った。

店番さんがクッキーに手を伸ばし、それをパクリと一口。
旦那はお茶をすすった。

このような和やかな空気は、留美子にとっては実に久しぶりだった。
だから、留美子はこの時を忘れないだろう。__どれだけ年をとったとしても、この時のことは。

「で、お前は?」

旦那がお茶を置いて、留美子に顔を向ける。
留美子は個人情報なんてものを、早くもすっかり忘れ、普通に本名で名乗った。

「佐藤 留美子です」

店番さんが、あれぇっと一言漏らした。

「どうした店番さん」
「あ、いやねぇ?佐藤 留美子って、聞いたことあるんだよね。どこでだろう?」

首をかしげながら、次々とたくさんのお菓子を口の中に入れていく店番さんが取ろうとしたお菓子を、留美子が店番さんよりも早く取った。

留美子は、店番さんが固まっているのを見て申し訳なくなった。
固まるほどこのお菓子が欲しかったのかな……手にあるお菓子と店番さんを交互に見てから、留美子はハイ、とお菓子を店番さんに渡した。

「え、いいのかい?」

そう言う前にお菓子を取って、口の中に放り込む。言動が逆である。

「いいよ、別に」

いじめられ過ぎて、コミュニケーション能力が低下していた留美子が、ここまで喋るのは珍しいことであるのだが……それを知らない二人には、さぞ無愛想な子供に見えただろう。

いや、違ったらしい。
二人はニヤニヤと笑った。

「おうおう、最近の小学生はませてんなぁ?」
「そうだねぇ、おませちゃんだねぇ?」

ただし、留美子が驚いたのは、ませてる、とかそういう言葉ではなく、小学生となぜ分かったかについてだった。
赤いランドセルを背負っていることからして小学生にしか見えないのだが、どれだけ頭が足りぬのか……留美子はそんなところに驚いていた。

が、少したって、ランドセルのことを思い出してからようやく、その驚きが身を潜めた。
ランドセルに気づいたときにはもう、お菓子もお茶も無くなっていたのだが……。

「どうだ?少しは元気出たか?」

旦那が留美子に話しかけた。
留美子はこくりと頷いた。

「元気出ました」
「それならいいんだ。留美子を最初見たとき、元気が無かったからな。だから、子供が好きなお菓子がたっくさんあるここに連れて来たんだ」

ああ、なるほど。だからここに……。

店番さんはあっれぇとまた一言漏らした。

「旦那の好きな子に似てたから連れてきたんじゃないんだ!」

ゴツンっという鈍い音が店にこだます。
さて、この音は一体どこから?
留美子は目の前で頭を押さえる店番さんを見て、今のことは忘れようと決めた。

「痛いよ……痛いんだけど……?」

震える店番さんに、心の中で軽く手を合わせる。
どうか、無事成仏できるように、と。
留美子はバカというより、阿呆なのかもしれない。

「店番野郎、覚えてろよ……っ!」
「僕は悪く……悪いですね、すみません旦那」

ははぁーと土下座する店番さんを見て、旦那が頭を上げぇい、と言った。
何の劇場だろうか。

その光景をボッーと見ていた留美子に、すぐさま元気を取り戻した店番さんが話しかける。
留美子は少しビクッと驚いたが、それは反射的なもので、すぐにおさまった。

「で、君、一人で帰れる?」

ああ、そうだ。私は迷子なんだっけ。留美子はここに来た原因さえも忘れていたらしい。


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