その夏、親友が死んだ
「中村桜さんが、亡くなりました」
担任の教師の言葉を、俺は呆然と聞いていた。
教師は確かに桜が亡くなったと言った。
亡くなったということは、死んだということなのだろうか。
俺はいまだに信じられなかった。
桜とは中学の頃から一緒で、とても仲が良かった。
傍から見れば、付き合っているように見えるほどだ。
でも、俺たちは付き合っていない。
なぜなら、俺たちの間には「好き」という感情はなく、お互いただの親友だと思っていたからだ。
それに、今は俺には彼女がいる。
彼女の名前は佐々木玲奈。
玲奈とは、高校に入ってから知り合った。
お互い一目惚れで、それに気付いた桜が2人をサポートしてくれた。
そのおかげで俺と玲奈は徐々に距離を縮め、付き合うことができたのだ。
今思うと最高の親友だった。
だが、その親友はもうこの世にはいない。
桜の友人たちは、両手で顔を覆って咽び、嗚咽の声が漏れていた。
悲しい。最高の親友を失い、たぶん、誰よりも一番近くで桜とともに楽しい時間を過ごした。
心は悲しい気持ちでいっぱいなのに、俺の身体はそれには応じてはくれなかった。
俺の目からは、涙が一滴もでなかった。