朝、いつもより早く出たはずなのに駅はいつものように混雑していた。起きたときは少しばかりウキウキしていた気持ちも今はなく、ただただ帰りたいと心の中で連呼している。
今日は入学式だ。今年度私が入学する『アメバナ学園』の。
周りを確認すれば、自分と同じ制服を来た生徒がちらほら見られる。はたしてそれらが新入生か、それとも先輩となる者か、見当もつかない。そもそもつかなくてもいいと思っている。私は。
人混みは苦手ではない。かといって得意といったところでもない。実に微妙なところだ。人混みにいてもどうと言うことはないが、自ら好き好んで人混みに混ざりにいったりはしない。というところか。そもそも好き好んで人混みに混ざっていく変人などいるのか…。ホームに目的の電車が到着し、お馴染みのアナウンスが流れる。贅沢を言いたい訳ではないが、できれば座りたい。昔、満員電車で痴漢にあい、つい一本技を決めてしまい、警察に誉められたり注意されたり、色々言われたのは1つの黒歴史だ。痴漢なんて起きたらまた自分は同じ事を繰り返すのは目に見えている。入学式当日に痴漢犯に一本決め遅刻するなんて悪い意味で注目を浴びるだろう。それは避けたい。
ーーしかし、なんでこう、ここの国は変態が多いのだろう?変態なんて、腐れ縁のアイツだけで充分だ。下半身に、ぞわりとした感覚が襲う。祈りはむなしく、“痴漢”は起きた。慣れか何かだろうか。嫌な慣れではあるが、そのおかげでまだ理性を保ててはいる。…が、その手つきが以前のより変態くさい。手馴れてる感が凄い。怖い。ある意味怖い。ああ、自分でもこめかみに力が入っているのがわかる。ダメだ。我慢の限界だ。相手の手首を掴…もうとしたときだった。
横からすっと伸びた手が、その痴漢魔だろうと思う男の手首を掴んだ。その手の主を見た瞬間、私は稲妻でも落ちたような衝撃に襲われた。なんだそれは!?少女漫画か!?ここから恋がはじまるのか!?いやいやいや、、、、落ち着け……。もう一度その手の主を見ると、痴漢魔の男の手を掴んだまま笑顔で変な方向にねじっていた。しかし、視線を感じたのか、私が見ていることに気づくとこちらを心配するような、困ったわんこのような表情でこちらを見てきた。……………なんのラブコメだこのやろー!!!