朝の教室___私とあの人以外、誰もいない、静かな教室。
早い時間に教室に来ると、『好きな人と二人っきり』という素晴らしい時間ができる。だから私はこう思う。
「早起きは3文の得と言うけれど、正しくは30両の得だよね」って。
私は、離れた席に座って読書をしている、あの人のところに向かった。
猫背になっているのが、小動物みたいで本当に可愛い。
「おはよう、春乃。今日読んでる本は何?」
本から私に目を移す。
大きな目に、ニヤニヤ笑う私が映る。
今、この人___春乃は私を見てる。
友達として見ている。
けど、私は違う。彼女がホルマリン漬けになっている想像を見ている。
目の前で、緑の液体に包まれている春乃は、私だけのもの。
ホルマリン漬けになった春乃には、私しかいない。
皆気持ち悪がって春乃に近づかない。けど私は違う。本当に愛しているから、ずっとそばにいる。
朝はおはようって言って、夜はおやすみって言う。
彼女のそばで寝起きする。
朝日を浴びて光る彼女はどれだけ綺麗な姿で、ホルマリンの中に浮かんでいるんだろう……。
「この本?この本は前読んでたやつだよ」
「読み直してるの?」
「うん、そうなの!だってね、これ伏線が凄い張り巡らされていて……面白いんだよ、これ!」
本を片手に、それがどれだけ面白いか語っている。
ホルマリン漬けにしたら、この楽しそうな表情は見れないけど、永遠の美しさを手に入れられるんだったら、いいよね。
「ねぇ、弥生、この本読んでみない?」
私は春乃から本を受け取った。
厚い本だけど、彼女が「好き」というのなら読んであげよう。
「うん、読んでみるよ。じゃ、ちょっと読んでくる」
「うん!感想ちょうだいねっ!」